説明

クッションパッドの製造方法、及びこれに用いる金型

【課題】 耐力フレームを、上型の内壁に沿ってインサートとして配置する工程を含むクッションパッドの製造方法、及びこのための金型において、耐力フレームの寸法のバラツキによる該フレームの廃棄や不良品の発生を防止することができるものを提供する。
【解決手段】上型13の内壁の主面14に、耐力フレーム22の矩形状枠部23の配置個所に沿って、多数の磁石15を配列する。また、ところどころに、該主面14に沿った耐力フレーム22の位置ズレを規制するフレームずれ規制ガイド16を設ける。フレームずれ規制ガイド16は凹字状であり、その谷底部17の幅寸法には、耐力フレーム22の寸法のバラツキを吸収するだけのマージンが設定される。また、谷底部17を挟むように、突出側に向かって開いていくテーパー面18が設けられ、耐力フレーム22の装着を容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用シートその他に用いるシート用クッションパッドの製造方法、及びこれに用いる金型に関する。特には、裏面側に耐力フレームが埋め込まれたクッションパッドの製造方法、及びこれに用いる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
車両走行時に振動を受ける車両用シートには、乗員への振動の伝達を軽減し、乗り心地を良好に保つべく、ウレタン樹脂発泡体等の弾性樹脂発泡体からなるクッションパッドが座部及び背もたれ部に配されている。
【0003】
このような車両シート用クッションパッドは、車両のシートのフレームに取り付けられて固定されるのが一般的である。しかし、最近の車両用シートには、車体のコンパクト化や軽量化、または製造コストや部品を削減する観点から、耐力フレームが一体に埋め込まれたものがある(例えば特開2002−347493)。すなわち、クッションパッドの裏面側に、クッションパッドの過度の変形を規制する耐力構造をなすフレームが埋め込まれたものがある。耐力フレームを埋め込んだクッションパッドは、裏面が車体内面に沿った、比較的平らな(起伏の少ない)形状をなしており、該耐力フレームと一体に設けられる留め具を用いて車体に取り付けられる。
【0004】
このような耐力フレームは、一般に、断面円形の鋼の線材等を、クッションパッドの四周の輪郭に沿った形に曲げ、両端部を互いに溶接することで得られる。この耐力フレームは、複数の所定個所にて、裏面側に露出させておくならば、クッションパッドの表皮を係止するための各係止部材を形成する(例えば特開平9−276091)。
【特許文献1】特開2002−347493
【特許文献2】特開平9−276091
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように耐力フレームをクッションパッドの裏面側に埋め込むためには、通常、上型中に該耐力フレームをインサートとして配置する必要がある。すなわち、上型の内壁面から、位置決めして吊り下げておく必要がある。
【0006】
そのため、上型の内壁面に、鉤(かぎ)状の係止部を有する突起構造を多数設けておき、これにより、耐力フレームを固定するといった方法を採用する必要があった。この際、樹脂の発泡による押圧力を受けても所定位置に確実に保持するためには、かなり締め付けられた状態で固定する必要がある。一方、耐力フレームを製造する際に、線材の折り曲げ加工やスポット溶接の際の加工精度を高くすることは、通常困難であり、得られる耐力フレームに、寸法や形状のバラツキは避けられない。
【0007】
ところが、耐力フレームを、鉤(かぎ)状の係止部により上型の内壁面に装着しようとした際、耐力フレームの寸法や形状のバラツキに起因して、所定位置に装着できない場合があった。すなわち、一旦嵌め込もうとした耐力フレームを不良品として廃棄する必要があり、その分だけ部品コスト及び作業コストを増加させる要因となっていた。また、装着ができたとしても、過度に応力を受けることから、耐力フレームに不所望の歪みが生じたまま発泡成形がおこなわれたり、発泡成形中に所定位置から外れて不良品を生成するといったおそれもあった。
【0008】
本件発明者は、上記問題点に鑑み鋭意検討する中で、耐力フレームを磁石により固定するという全く常識外れのことを試みた。意外なことに、充分に強力な磁石を充分な数だけ上型の内壁に取り付けておくならば、吊り下げ保持が可能であることを見出すに至った。また、さらに鋭意検討を行う中で、鉤状構造を有しない複数の突起構造によって、ある程度の位置ズレマージンをもって耐力フレームの位置決めを行えば良いことを見出した。すなわち、許容される範囲内の位置ズレマージンを持った形で、上型の内壁に沿った方向での位置ズレを規制するように−するならば、耐力フレームの寸法等のバラツキを容易に吸収し、歪みや残留応力の残らない形での発泡成形を確実に行うことができた。
【0009】
以上のように、本発明は、耐力フレームを、上型の内壁に沿ってインサートとして配置する工程を含むクッションパッドの製造方法、及びこのための金型において、耐力フレームの寸法のバラツキによる該フレームの廃棄や不良品の発生を防止することができるものを提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のクッションパッドの製造方法はクッションパッド全体の変形を規制するために、クッションパッドの四周の輪郭に沿って延びる枠状部分を少なくとも有する耐力フレームを、上型の内壁に沿ってインサートとして配置する工程を含むクッションパッドの製造方法において、前記耐力フレームについて、上型の内壁から突き出す複数の位置決め部材によって該内壁に沿った方向での位置ズレを規制しつつ、該上型の内壁に配置した複数の磁石により、落下不能に保持し、この状態で、金型を閉じて発泡成形を行うことを特徴とする。
【0011】
好ましい態様においては、前記各位置決め部材は、前記磁石の突出寸法に相当する突出位置にある谷底部と、この谷底部から突出方向に向かって開いた一対のテーパー面とからなる。このようであると、耐力フレームの配置を容易かつ確実に行うことができ、取り付け作業のエラーを防止することができる。
【0012】
本発明のクッションパッド製造用の金型は、内壁がクッションパッドの座面に対応した下型と、内壁がクッションパッドの裏面に対応した上型と、上型を動かして金型を開くための駆動部または把持部と、耐力フレームを前記上型の内壁から位置決めしつつ吊り下げるフレーム保持部とを備えた金型において、前記フレーム保持部が、前記耐力フレームを吊り下げて保持すべく前記上型の内面に取り付けられた複数の磁石と、前記上型の内壁から突き出して該内壁に沿った方向での前記耐力フレームの位置ズレを規制する複数の位置決め部材とからなる。
【発明の効果】
【0013】
耐力フレームの寸法等のバラツキを容易に吸収し、歪みや残留応力の残らない形での発泡成形を確実に行うことができ、耐力フレームの寸法のバラツキによる該フレームの廃棄や不良品の発生を防止することができる。また、上型への耐力フレームの装着をより容易かつ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例について、図1〜3を用いて説明する。図1の斜視図には、実施例の金型1を模式的に示す。ここでは、金型1を開いた状態にて、上型13に耐力フレーム22が装着され、下型11に表皮係止用ワイヤー27が装着された様子を示す。図2は、金型1を用いて得られたクッションパッド2の模式的な断面斜視図である。
【0015】
図1に示すように、上型13の内壁は、クッションパッド2の裏面に対応した、比較的平坦なほぼ一続きの面(主面)14と、四周の側壁とからなる。この主面14は、金型1のキャビティーの天井をなす面である。上型13内壁の主面14には、耐力フレーム22の配置個所に沿って、複数の磁石15と、複数のフレームずれ防止ガイド16が配列されている。フレームずれ防止ガイド16は、ある程度の遊びをもって、上型内壁の主面14に沿った耐力フレーム22の位置ずれを規制するものである。
【0016】
図示の例では、耐力フレーム22が、クッションパッド2の四周の輪郭に沿って配置されることとなる矩形状の枠部23と、中間に掛け渡された1本の梁部24とからなる。また、車体への取り付け用の留め具25が枠部23に四隅に設けられている。一方、磁石15及びフレームずれ防止ガイド16は、耐力フレーム22の枠部23に沿って配列されている。詳しくは、磁石15が全部で20個配列されており、各短辺にそれぞれ4個、各長辺にそれぞれ6個配されている。また、フレームずれ防止ガイド16が全部で6個配列されており、各短辺にそれぞれ1個、各長辺にそれぞれ2個、向かい合う辺同士で位置が互い違いとなるように配されている。
【0017】
図3には、フレームずれ防止ガイド16の形状について、拡大斜視図により示す。図示の例で、フレームずれ防止ガイド16は、凹字形の板状突起であり、谷底部17における上型内壁からの突出高さが、隣接する磁石15の先端面における突出高さに等しいか、わずかに小さい。また、谷底部17を挟むように、突出側に向かって開くテーパー面18をなしている。すなわち、耐力フレーム22を磁石15の吸引力により取り付ける際に、容易に所定の位置に配置されるようになっている。谷底部17の幅は、耐力フレーム22の枠部23における径よりも大きく、このマージンは、耐力フレーム22の寸法や形状についての所定範囲のバラツキを吸収するように設計される。例えば、耐力フレーム22の径と同程度の幅のマージンが設けられる。
【0018】
具体例において、金型1はアルミダイカストからなり、上型13には、ネオジム系(ネオジム−鉄−ボロン)の強力な磁石15が埋め込まれ、各フレームずれ防止ガイド16が一体に成形されている。耐力フレーム22は、例えば径3mmの炭素鋼の線材が、折り曲げられるとともに、所定個所でスポット溶接され、適宜、錆止め塗装を施されたものである。
【0019】
一方、下型11には、クッションパッド2の表皮3を表側から係止するためのワイヤー27が、ワイヤー係止用の複数の鉤状突起12により固定されている。なお、図には示さないが、上型13を持ち上げて型開きを行うためには、機械的な駆動装置が設けられるか、または作業員が持ち上げるための把持部等が設けられる。
【0020】
上記のような状態の金型1を閉じて、ウレタン原液の注入及び発泡成形が行われた後、得られた樹脂発泡体21に、布地(編地、織布または不織布)、人工皮革、レザー等からなる表皮3が被せられる。
【0021】
表皮3には、クッションパッド2の座面の溝に対応する個所に、数本のワイヤー31が、縫い込み等により予め固定されている。樹脂発泡体21に表皮3を被せる際、まず、表皮中のワイヤー31は、C字状のリング(ホグリング)33により、樹脂発泡体21中のワイヤー27が樹脂発泡体21の表面に露出した個所28に係止される。一方、表皮3の四周の縁部には、複数の吊り込み用フック32が配列されており、また、樹脂発泡体21の裏面には、耐力フレーム22が、所定個所にて露出して、表皮吊り込み用係止部26を形成している。すなわち、表皮3の縁部の吊り込み用フック32が、それぞれ、耐力フレーム22の係止部26に係止される。このようにして、図2に示すような、表皮3を取り付けたクッションパッド2が完成する。
【0022】
次ぎに変形例について図4の要部斜視図を用いて説明する。変形例においては、各フレームずれ防止ガイド16’が、2本の円柱状突起により形成されている。比較例のフレームずれ防止ガイドであると、耐力フレーム22を上型13に装着する際に、最適位置へと案内されることはない。しかし、形状が単純であり、破損のおそれが少なくなる。
【0023】
最後に、比較例について図5の要部斜視図を用いて説明する。比較例においては、上記の磁石15及びフレームずれ防止ガイド16に代えて、キノコ状の係止突起19が設けられる。耐力フレーム22は、この係止突起19の配列個所に押し込まれると、係止突起19により鉤(かぎ)状に係止されることとなる。しかし、このような保持構造では、耐力フレーム22の寸法や形状のバラツキに対処することができない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例の金型について、開いた状態にて示す、模式的な斜視図である。耐力フレームが上型に保持され、表皮係止用ワイヤーが下型に保持されている。
【図2】実施例の製造方法により得られるクッションパッドを示す模式的な断面斜視図である。
【図3】上型に設けられるフレームずれ防止ガイドの具体的な形状を示す要部拡大斜視図である。
【図4】変形例のフレームずれ防止ガイドを示すための、図3に対応する要部拡大斜視図である。
【図5】比較例の金型におけるフレーム保持部材を示す、図3に対応する要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 金型 11 下型
12 ワイヤー係止用突起 13 上型
14 上型の内壁の主面(キャビティーの天井面)
15 磁石 16 フレームずれ防止ガイド
17 フレームずれ防止ガイドの谷底部
18 フレームずれ防止ガイドのテーパー面
2 クッションパッド 21 樹脂発泡体
22 耐力フレーム 23 耐力フレームの枠部
24 耐力フレームの梁部 25 留め具
26 表皮吊り込み用係止部(耐力フレームの露出部)
27 表皮係止用のワイヤー 28 ワイヤー27の露出個所
3 表皮 31 表皮中のワイヤー
32 吊り込み用フック 33 C字状リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッションパッド全体の変形を規制するために、クッションパッドの四周の輪郭に沿って延びる枠状部分を少なくとも有する耐力フレームを、上型の内壁に沿ってインサートとして配置する工程を含むクッションパッドの製造方法において、
前記耐力フレームについて、上型の内壁から突き出す複数の位置決め部材によって該内壁に沿った方向での位置ズレを規制しつつ、該上型の内壁に配置した複数の磁石により、落下不能に保持し、この状態で、金型を閉じて発泡成形を行うことを特徴とするクッションパッドの製造方法。
【請求項2】
前記各位置決め部材は、前記磁石の突出寸法に相当する突出位置にある谷底部と、この谷底部から突出方向に向かって開いた一対のテーパー面とを備えることを特徴とする請求項1記載のクッションパッドの製造方法。
【請求項3】
内壁がクッションパッドの座面に対応した下型と、内壁がクッションパッドの裏面に対応した上型と、上型を動かして金型を開くための駆動部または把持部と、耐力フレームを前記上型の内壁から位置決めしつつ吊り下げるフレーム保持部とを備えた金型において、
前記フレーム保持部が、
前記耐力フレームを吊り下げて保持すべく前記上型の内面に取り付けられた複数の磁石と、
前記上型の内壁から突き出して該内壁に沿った方向での前記耐力フレームの位置ズレを規制する複数の位置決め部材とからなることを特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−20735(P2006−20735A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199890(P2004−199890)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】