説明

クラスター生成方法

【課題】コア・シェル構造のクラスターを生成する。
【解決手段】同一パルス周期の第1レーザ51および第2レーザ52を用いる。第1レーザ51を第1ターゲット材料21に照射して第1プルームP1を発生させる。第1レーザ51の照射時から遅延時間Tdの経過後に、第2レーザ52を第2ターゲット材料22に照射して第2プルームP2を発生させる。遅延時間Tdの経過中に、第1プルームP1中にクラスターCを生成して、これに第2プルームP2を衝突させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、任意の固体物質から介在物を必要としないで、直接、ナノサイズのコア・シェル構造のクラスターを生成するためのクラスター生成方法に関する。
【0002】
例えば、燃料電池の電解質膜、触媒の高機能化、金属とセラミックスなど異種材料の複合化、その他、界面制御による新機能の発現 などに用いられる。
【背景技術】
【0003】
この種のクラスター生成方法としては、図4に示すように、同一パルス周期の第1レーザ61および第2レーザ62を用いて、第1レーザ61を第1ターゲット材料71に、第2レーザ62を第2ターゲット材料72にそれぞれ同時に照射し(図4a)、第1レーザ61の照射によって、第1ターゲット材料71から第1プルームP1を、第2レーザ62の照射によって、第2ターゲット材料72から第2プルームP2をそれぞれ発生させて、発生した第1プルームP1および第2プルームP2を衝突させ(図4b)、衝突させた第1プルームP1および第2プルームP2中に、第1ターゲット材料71および第2ターゲット材料72を混合したクラスターCを生成し(図4c)、これを基板81に堆積させるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記により生成したクラスターCの表面エネルギーの差が小さいため、生成されたクラスターCは合金構造をなすものとなる。
【0005】
生成するクラスターの構造としては、上記の合金構造ではなく、コア・シェル構造をもつものが好ましい場合がある。例えば、燃料電池の電極では、不安定なコアを安定なシェルで被覆し、コアの特性を利用する場合である。また、コアに安価な金属を使い、シェルに高価な金属を使い、価格当たりの表面積を大きくとることが好ましい場合もある。さらに、コアおよびシェルに生じる界面の物性変化、例えば、非金属なのに電気伝導性を付与させる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−263245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の目的は、コア・シェル構造のクラスターを生成することのできるクラスター生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるクラスター生成方法は、同一パルス周期の第1レーザおよび第2レーザを用いて、第1レーザを第1ターゲット材料に照射して第1プルームを発生させ、第1レーザの照射時から遅延時間の経過後に、第2レーザを第2ターゲット材料に照射して第2プルームを発生させ、遅延時間の経過中に、第1プルーム中にクラスターを生成して、これに第2プルームを衝突させるものである。
【0009】
この発明によるクラスター生成方法では、先行の第1プルーム中に生成したクラスターの周囲に、後続の第2プルームによるシェルが形成される。したがって、コア・シェル構造のクラスターを生成することができる。
【0010】
さらに、クラスター生成空間を、圧力1×10+1〜10×10+3(Pa)の不活性ガス雰囲気に保持することが好ましい。
【0011】
クラスター生成空間の圧力を、高真空ではなく、上記圧力範囲に保持することにより、その圧力で、プルームが膨張(拡散)しようすることを抑制することができる。すなわち、第1レーザを第1ターゲット材料に照射後に発生した第1プルームの膨張(拡散)を遅らせて(一時的に滞留させ)、次いで、第2プルームが衝突させることで、コア・シェル構造のクラスターが生成される。
【0012】
不活性ガス雰囲気の圧力は、1×10+1(Pa)未満では、第1プルームが拡散して、第1プルーム中にクラスターが生成され難くなり、10×10+3(Pa)を超えると、生成したクラスターの周囲に第2プルームを衝突させることが困難となる。
【0013】
また、遅延時間を、0.5〜2(mS)に設定することが好ましい。
【0014】
遅延時間は、0.5(mS)未満では、第1プルームおよび第2プルームがほぼ同時に衝突して、第ターゲット材料および第2ターゲット材料を混合したクラスターが生成されてしまい、遅延時間が2(mS)を超えると、先行の第1プルームに生成されたクラスターが拡散してしまい、これの周囲に第2プルームを付着させることが困難となる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、コア・シェル構造のクラスターを生成することのできるクラスター生成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明によるクラスター生成方法に用いる装置の構成図である。
【図2】同クラスター生成方法に用いるレーザの照射タイミング説明図である。
【図3】同クラスター生成方法によるクラスター生成過程説明図である。
【図4】従来例によるクラスター生成方法によるクラスター生成過程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照すると、クラスター生成装置は、中空密閉状装置ボデイ11を有している。装置ボデイ11は、クラスター生成空間12およびこれを前後に横切る水平基準線13を有している。装置ボデイ11の頂壁には不活性ガス手段14が接続されている。装置ボデイ11の前側壁には真空手段15が接続されている。不活性ガス手段14からクラスター生成空間12に不活性ガスを供給し、真空手段15によってクラスター生成空間12内を吸引することにより、クラスター生成空間12内は、不活性ガスにより陽圧に保持されかつ基準線13上を前向きに流れるキャリヤガス流れが生じるようになっている。
【0018】
装置ボデイ11内の基準線13を挟んでその上下には第1ターゲット材料21および第2ターゲット材料22が固定状に保持されている。第1ターゲット材料21は、前斜め下向きの第1蒸発面31を有している。第2ターゲット材料22は、前斜め上向きの第2蒸発面32を有している。第1および第2蒸発面31、32の法線は、基準線13上において交差させられている。第1および第2蒸発面31、32の前方には、一定距離をおいて垂直状基板41が配置されている。第1蒸発面31には第1レーザ51が、第2蒸発面32には第1レーザ52がそれぞれ照射される。
【0019】
図2に示すように、第1レーザ51の周期T1および第1レーザ52の周期T2は、同一である。第1レーザ51の照射時から遅延時間Tdだけ経過した後に、第2レーザ52が照射される。
【0020】
図3を参照しながら、クラスターの生成プロセスを説明する。
【0021】
まず、第1ターゲット材料21の第1蒸発面31に第1レーザ51が照射される(図3a)。第1蒸発面31は瞬時に蒸発して第1プルームP1が発生する(図3b)。第1プルームP1は、第1ターゲット材料21の風船状蒸気原子塊である。発生した第1プルームP1は、その蒸発エネルギーを運動エネルギーに変換することによって前向きに移動させられるが、不活性ガスの圧力によって、飛散させられることなく閉じ込められ、第1プルームP1中に第1クラスターC1が生成される(図3c)。第1クラスターC1は、第1ターゲット材料21の原子塊が葡萄房状に結合された集合体である。第1クラスターC1が生成されると、ここで、第2ターゲット材料22の第2蒸発面32に第2レーザ52が照射される(図3d)。そうすると、第2ターゲット材料22の第2蒸発面32から第2プルームP2が蒸発させられる(図3e)。蒸発した第2プルームP2は、第1クラスターC1に衝突して、これを取り囲む。この状態で、第1プルームP1および第2プルームP2の占有体積は、体積比で、50%以上、好ましくは、80%以上、重なることが好ましい。第1プルームP1および第2プルームP2の重なった部分において、第1クラスターC1を取り囲んだ第2プルームP2は、第1クラスターC1の周囲に付着させられる。これにより、第1ターゲット材料21の原子塊をコアとし、第2ターゲット材料22の原子塊をシェルとするコア・シェル構造の第2クラスターC2が生成される。生成されたコア・シェル構造の第2クラスターC2は、次回のレーザ照射までに、キャリヤガス流れによって基板41まで運ばれ、これに、堆積される。
【0022】
つぎに、具体例を以下に説明する。
【0023】
<材料>
第1ターゲット材料21:Si
第2ターゲット材料22:Al
<環境条件>
クラスター生成空間:アルゴンガス雰囲気
圧力:4±2 ×10+2 [Pa]
ターゲット・オブジェクト間距離:25mm
<第1レーザ51>
Nd:YAG 第2高調波(波長532[nm])、レーザパワー:160(±10)[mW]
<第2レーザ52>
Nd:YAG 第2高調波(波長532[nm])、レーザパワー:200(±10)[mW]
<第1レーザ51および第2レーザ52共通>
レーザ照射面:8mm円形
パルス周波数:10Hz
パルス幅:6nS
第1レーザ51および第2レーザ52の遅延時間Td:1mS
上記条件の元に、100shotのパルス照射の結果、基板41上には、直径80nmのコア・シェル構造のクラスターの堆積物が捕集された。
【0024】
上記において、第1ターゲット材料21/第2ターゲット材料22としては、上記のSi/Co以外に、例えば、Pt/Pd、Pt/Ag、Pt/Au、Pt/Cu、チタン酸ランタン/チタン酸ストロンチウム、安定ジルコニア/不安定ジルコニア等が適宜選択される。
【0025】
クラスター生成条件、すなわち、雰囲気ガスの圧力および種類、レーザ光のエネルギー密度を変えて、クラスターを生成したところ、以下のことが判明した。
【0026】
雰囲気ガス圧力は、ターゲット材料、レーザ光のエネルギー密度によって、1×10+1〜10×10+3(Pa) の範囲で設定可能である。
【0027】
遅延時間は、0.3〜5(mS)、好ましくは、0.5〜2(mS)の範囲が選択可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明によるクラスター生成方法は、ナノサイズのコア・シェル構造のクラスターを生成することを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0029】
21 第1ターゲット材料
22 第2ターゲット材料
51 第1レーザ
52 第2レーザ
P1 第1プルーム
P2 第2プルーム
C クラスター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一パルス周期の第1レーザおよび第2レーザを用いて、第1レーザを第1ターゲット材料に照射して第1プルームを発生させ、第1レーザの照射時から遅延時間の経過後に、第2レーザを第2ターゲット材料に照射して第2プルームを発生させ、遅延時間の経過中に、第1プルーム中にクラスターを生成して、これに第2プルームを衝突させるクラスター生成方法。
【請求項2】
クラスター生成空間を、圧力1×10+1〜10×10+3(Pa)の不活性ガス雰囲気に保持する請求項1に記載のクラスター生成方法。
【請求項3】
遅延時間を、0.5〜2(mS)に設定する請求項1または2に記載のクラスター生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49911(P2013−49911A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189463(P2011−189463)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(596132721)一般財団法人近畿高エネルギー加工技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】