説明

クラスレート化合物の製造方法

【課題】クラスレート化合物をその構成成分の溶融物から製造するための方法を提供する。
【解決手段】目的の元素を目的の比率で含有する均質な溶融物を急速冷却、すなわちクエンチすることによって前記溶融物を固化させてクラスレート化合物を得ることで製造される。好ましいマトリクスまたはケージ成分は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、Inおよび遷移元素から選択された1以上の元素であり、好ましい包接成分は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド元素およびアクチノイド元素を含む遷移元素から、より好ましくは、アルカリ土類金属、ランタノイド元素および時おりまたアクチノイド元素から、選択された1以上の元素である。これらの元素は、熱電気および半導体用途のクラスレートの製造に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスレート化合物をその構成成分の溶融物から製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラスレートまたはケージ包接化合物は約200年前から知られ、それらの計画的な生産が約60年間行われている。発見された最初の例は、クラスレート水和物、すなわち氷格子中の気体分子(例Cl)の包接物である。今日、1960年代から知られる特に金属間クラスレートが、他にも用途がある中で、熱電モジュールに使用されているために、広範囲に研究されている。例えば、US5,800,794A1、US6,188,011B1およびUS6,525,260B2を参照。金属間クラスレートは、9つの異なる構造タイプに分類され、そのうちのタイプ1が最も広範囲に研究されており、このことが多数のタイプ1についての典型が知られた理由である。図1はそのようなクラスレート化合物の構造の略図であり、該図の右半分における、より大きな球体は、ケージに封入された原子を表す。
【0003】
前記用語「クラスレート」に関し、「クラスレート」の定義は、時々、特に英語において、あらゆる種類の包接化合物を包含するが、ここでは、主に、ケージ形成原子が空間充填網目組織を提供する化合物を含むことに注意すべきである。
【0004】
金属間クラスレートに使用される成分は、元素の様々な組み合わせであり得る。例えば、EP1,074,512A1は、大部分がUS6,461,581B1に対応し、4A族からの1以上の元素、特にCまたはSiが、マトリクス、すなわち「ケージ」を、水素、テクネチウム、希ガス、および超ウラン元素を除く、周期表のほとんど全ての他の元素から選択され得る、いわゆる「置換原子」とともに形成するケージ包接化合物を開示する。前記文献において、封入しうる原子は、広範囲で選択されてもよく:1A〜3A族からの原子および遷移元素−7B族(Mn、Tc、Re)および超ウラン元素を除く−が前記マトリクス中に封入され得る。一般に、現時点では、包接成分として1A族および2A族の原子を、そしてケージ成分として例えばGa、GeおよびSiを使用することが好ましい。
【0005】
そのようなクラスレートの製造は、通常、前記元素を溶融することにより達成され、これにより、溶融範囲以下まで混合物を冷却後に、通常、いまだ目的とするクラスレート化合物を全く含有しないか、または望まない阻害異質相との組み合わせで目的とする固体クラスレート化合物を非常にわずかな割合で含有するのみの、多様な相が生じる。したがって、相が純粋なクラスレート化合物を得るために、通常、数日または何週間さえもの期間、目的とするクラスレートの十分に純粋な固相が得られるまで、摂氏数100度の温度で次の熱処理が必要である。
【0006】
これらの方法の1つの変形は、約700℃で出発物質の粉体の熱間圧縮成形または放電プラズマ焼結を含み、前記製造方法を短縮し得る(例えばUS6,525,260B2を参照)。
【0007】
それにも関わらず、とても時間が掛かるという欠点に加えて、全ての既知の方法はまた、熱処理の間の摂氏数百度の前記必要な温度に達しその温度を維持するための大量のエネルギーを要する。
【0008】
さらに、このようにして得られるクラスレート化合物は、通常、塊(ブロック)または圧縮塊の形態であり、後の使用のために面倒な方法で機械的に処理される必要がある。実際に、クラスレート化合物の薄層もまた製造されている。しかしながら、これは面倒なパルスレーザーアブレーションやヘリコンマグネトロンスパッタリング法を要し、得られる層の厚みはほんの数ナノメートルである。
【0009】
それゆえに、a)短期間および比較的低いエネルギー需要でマイクロメーター範囲の層厚のクラスレート化合物を製造すること、b)クラスレートで被覆されるべきワークピースまたは物品上にクラスレートを直接製造すること(それによって、そのような物品を早く安価で製造することができる)、およびc)高純度で改善された特性のクラスレートを製造すること、を可能にする方法が望まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の方法により得られるクラスレートの構造を示す概略図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたBaPdGe42のX線粉末回析図形である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の開示
第1の態様において、本発明は、目的の元素を目的の比率で含有する均質な溶融物を製造すること、および、続いて、前記溶融物を急速冷却、すなわちクエンチすることによって前記溶融物を固化してクラスレート化合物を得ることを含む、クラスレート化合物の製造方法を提供することによって、これらの目的を達成するものである。
【0012】
従来技術とは全く正反対に、前記固化した溶融物を長時間加熱(「アニール」)して目的とするケージ包接化合物の相の形成を可能にしなければならないことに従い、本発明者らは、目的とするクラスレート化合物が、そのような溶融物がクエンチされたときにも形成し、これは多くの時間およびエネルギーを節約し、結果としてコストも削減することを発見した。
【0013】
どんな特定の理論にも拘束されることを望まずに、本発明者らは、本発明による方法におけるクラスレートの形成のメカニズムが、そのような急速冷却の間、マトリクスの、すなわち「ケージ」の固体の結晶相が、未だ結晶化していない包接成分の相分離よりも早く形成され、その結果、後者の原子が固体マトリクスに捕捉され封入されるという事実に基づくと仮定する。これはまた、とても高い相純度で、すなわちX線粉末回析や走査電子顕微鏡法のような従来の方法ではほとんど検出できない異質相の割合で、クラスレートの製造を可能とする。透過型電子顕微鏡で検出され得る異質相は、通常、サブミクロン構造を有し、すなわちそれらは、目的とするクラスレート相の粒子や結晶の間に、0.05〜0.1μmの厚みを有する粒界相として存在し、一方で従来技術によれば、不純物は、通常、10〜100μmの径を有する同寸法の粒子の形態で存在する。これは、目的とする原子比率のコンプライアンスだけでなく、本発明の方法に従って製造される物質の熱電力といったような特性も改善する。
【0014】
もし、希望すれば、異質相のそのような微量の不純物は、従来のようにクラスレートを熱処理、すなわちアニールすることによって取り除くことができ、そこで、しかしながら、前記不純物の微量の割合およびサブミクロ構造により、熱処理の持続時間は、ずっと短かく、アニーリングは、従来技術によるのと比較してかなり低い温度で達成し得る。
【0015】
非化学量論の、すなわち非整数の割合の元素のクラスレートで、時おり、特によい結果が得られるため、前記「目的の比率」は、厳密な化学量論の比率を必ずしも意味するものではない。
【0016】
基本的に、本発明の方法は、実質的に全ての既知のクラスレート化合物、すなわち、金属間クラスレートのような無機化合物と同様に有機化合物に基づくクラスレートに使用し得る。有機化合物の場合において、前記溶融物を製造するための「元素」は、格子または包接成分を形成するための各「分子」をいう。これに関し、「金属間」は、文脈および言語にもよるが、古典的な金属元素を含むだけでなく、半金属および時おり炭素さえも含むことに注意すべきである。本明細書中では、この用語は、最も広い意味で理解されるべきである。好ましくは、そのような金属間クラスレートは、本明細書中では時間とコストの要因が特に重要であるため、本発明の方法に従って製造される。
【0017】
前記マトリクスおよび包接成分の選択は、特に制限されない。しかしながら、好ましいマトリクスまたはケージ成分は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、Inおよび遷移元素から選択された1以上の元素であり、好ましい包接成分は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド元素およびアクチノイド元素を含む遷移元素から、より好ましくは、アルカリ土類金属、ランタノイド元素および時おりまたアクチノイド元素から、選択された1以上の元素である。これらの元素は、現在、熱電気および半導体用途のクラスレートの製造に好ましいからである。
【0018】
前記成分が適切に選択されるとき、本発明の方法は、他の利点、すなわち、従来技術では、未だ、満足に解決されていない、高い話題の問題の比較的簡単な解決法:「f−元素」、すなわちランタノイド元素または(ランタノイド元素よりは好ましくない)アクチノイド元素をクラスレート構造のケージに導入することによるクラスレートの熱電力の改善を提供する利点、を提供する。
【0019】
前記クラスレート相の形成の間、従来技術に従うと、クラスレート相に加えて、f−元素を含む他の熱力学的により安定な相が形成し得るために、ケージに取り込まれるf−元素の原子は、「セグレゲーション(分離)」と呼ばれるプロセスでクラスレート構造から追い出される。本発明の方法に従えば、急速なクエンチングが、包接原子としてf−元素を有する準安定結晶相の形成を可能にする。これらは、ケージに閉じ込められ、したがってクラスレート相中に実質的に「凍結」されているので、それらは分離が防げられている。
【0020】
本発明の方法に従って製造される多数のクラスレートの熱伝導性は、純金属のそれよりもかなり低いので、本発明の方法は、それらの冷却速度を上げるために、300μmよりも小さい、好ましくは100μmよりも小さい厚みまたは径をそれぞれ有する、前記溶融物の薄層または液滴をクエンチすることを好ましく含む。その上、急速冷却によって形成される固体のクラスレート化合物は、薄膜または粒状の形態で直接得られるため、いくつかのその後の処理工程−通常クラスレートの塊(ブロック)が得られる従来技術に従えば無条件に必要となる−を省略し得る。もちろん、本発明の方法に従って得られる層や液滴は、希望すれば、公知の方法(例えば、ホットプレスまたはスパークプラズマ焼結)によって塊(ブロック)に圧縮することもできる。
【0021】
クラスレート形成のメカニズムに関して上記で説明した通り、本発明の中核は、前記溶融物を急速に冷却すなわちクエンチすることである。要求される冷却速度は、各クラスレート化合物の成分によって異なり、目的のクラスレートが得られる限り特に制限されない。しかしながら、本発明者らは、相純度に関する特に良い結果が、少なくとも10K/s、好ましくは少なくとも10K/sの冷却速度で得られることを発見した。
【0022】
前記溶融物を急速に冷却する方法は特に制限されず、好適な実施形態において、冷却剤に前記溶融物を導入することを含み得る。前記溶融物は、例えばキャリアとして不活性ガスを使用することによって、例えば、ノズルを通して冷却ガスや冷却液に注入され、同時に微細液滴に霧化され得る。あるいは、前記溶融物は、随意に加熱された鋳型に充填され得るか、または出発成分の粉体から鋳型の中に直接製造され得、続いて、例えば浸漬により前記冷却剤中に前記鋳型を導入する。使用される冷却剤は、製造条件下でクラスレート成分とどんな反応もできない、例えば窒素、希ガスまたは他のガスもしくは液体、例えば液化した不活性ガスであり得る。
【0023】
特に、大量の冷却剤が冷却のために使用できるときに、より良い熱分配のために前記冷却プロセスの間、前記冷却剤を混合することを随意に含み、前記冷却剤は室温で存在し得る。しかしながら、冷却速度を上げるために、前記冷却剤は、<5℃の温度まで好ましくは(事前に)冷却される。
【0024】
好適な実施形態において、前記溶融物の急速冷却は、表面上への分配によって達成され、該表面は、従って、固体冷却剤としての役目をし、該表面上で前記溶融物は目的とするクラスレート化合物に固化する。前記表面は、好ましくは、銅や銀のような高い熱伝導性を有する物質からなるが、それらに制限されない。液体またはガス状の冷却剤中での冷却と同様に、前記表面は、その上での前記溶融物の分配の前に及び/またはその間に、この場合も先と同様に特に好ましくは<5℃の温度に冷却される。前記表面の冷却は、例えば、補助冷却剤(例えば、随意に液化した不活性ガス)をその上に吹き付けまたは噴射することにより、または、前記表面との熱伝導接続部を有する冷却装置(冷却ジャケットなど)の手段により、所望のどんな方法ででも達成し得る。
【0025】
好適な実施形態において、前記溶融物は、ノズルから前記表面上に噴射され、その上に細かく分配され、この場合も先と同様に冷却速度が上がる。細かい分配と同一の目的で、前記溶融物の付与の間、前記表面および前記ノズルを互いに関連して運動させてもよく、該運動は、それらの一方のみの運動、ならびにそれらの両方の同時の運動を含む。
【0026】
運動の種類は特に制限されない。しかしながら、特に好ましい実施形態では、前記ノズルから所定の距離を置いて前記表面が回転し、それによって本発明は、溶融紡糸方法および装置の使用により実行され得る。この方法は、通常、高分子繊維と同様に非晶質およびナノ結晶の金属間もしくはセラミック材料の製造に使用されており、それゆえによく知られ、ほんの軽微な適応で本発明の方法の要件に調整できる。溶融紡糸は、この方法によって達成できる本発明の方法の上記および下記で説明した好ましい特徴(10〜10K/sの冷却速度など)のいくつかと組み合わされる。
【0027】
前記表面の回転は、少なくとも1,300rpmの回転速度で好ましく達成される。該回転速度は、一方で、回転する表面上での前記溶融物の特に良い分配を保証し、そして他方で、既存の装置が設計されている溶融紡糸における従来の回転速度に一致する。
【0028】
前記表面の回転運動の代わりに、あるいはそれに加えて、前記ノズルを、前記溶融物の噴射の間、例えば、原動力により前記表面を横切って運動させてもよく、これはまた、短期間内での冷却のためのより大きい表面を提供する。
【0029】
本発明の代替の実施形態において、前記溶融物は、冷却の前に電磁浮遊の状態に保たれ、そして、前記浮遊の状態を中断することによって冷却剤中にもしくは表面上に投入され、後者の場合は、先と同様に前記表面に分配され、それ故冷却される。この場合において、前記溶融物は、例えば既知の浮遊溶融方法、例えば誘導加熱による、に従って製造することもできる。分配ひいては冷却のさらなる改善のために、前記溶融物は、2つの表面の間で好ましくは平坦化され、この場合も先と同様に、前記浮遊の状態の中断後、随意に冷却される。
【0030】
上記議論から理解され得るように、前記クラスレート前駆溶融物の特に急速な冷却、すなわちクエンチングの目的は、冷却剤中または冷却剤上に該溶融物を可能な限り微細に分配することにより、主に達成される。上記の通り、これは異なった方法でも達成でき、これら方法が組み合わされてもよい。上記の通り、表面上に前記溶融物を分配するとき、該表面は、冷却ガスで包囲されてもよく、および/または冷却液中に完全にもしくは部分的に浸漬されてもよく、該表面上に前記溶融物を噴射するためのノズルに関連して同時に運動させてもよい。
【0031】
特に好ましい実施態様において、前記溶融物は、前記クラスレート化合物で被覆される基材もしくは物品の表面上に、直接分配され、好ましくは噴射され、これは、そのような物品の製造において生産効率を強力に改善する。クラスレート化合物でそのように直接被覆するための前記物品もしくは「基材」は、特に制限されない。特に前記クラスレート前駆溶融物が好ましく噴射される物品は、実質的にどんな形状も有し得るので、例えば、半導体ウエハまたは廃熱を電気エネルギーに変換するための熱電発電装置といった熱電部品もしくは電熱部品(例、排気管または煙突ライニングのためのシートメタル)、および能動冷却のためのペルチェ素子は、これまで可能であった方法よりも本発明の方法に従って、はるかにより経済的に製造できる。
【0032】
クラスレート化合物でこのように被覆される物品の表面は、クラスレート層の接着性を向上させるために前処理され得、これは、表面パターン形成(例、粗化等)、および接着剤層または下塗りの付与を含む。後者は、また、良い熱伝導を有する物質から好ましくなり、例えば、低融点金属(GaまたはSnなど、これは、ホットメルトと接触したときに前記表面で初期の溶融を示す)の薄層(例、10〜200μm)からなり得、その結果、前記接着剤層および前記クラスレート層が互いにしっかりと結合する。
【0033】
第2態様において、本発明は、本発明の方法により製造されたクラスレート化合物の被覆を有する物品に関し、該被覆は、この場合も先と同様に、10〜300μm、好ましくは10〜100μmの層厚を好ましく有し、その下に上記の接着剤層または下塗り層を有し得る。そのような物品の例は上述した通りである。
【0034】
さらに、本発明の最後の態様は、上述の溶融紡糸法および装置の使用による、クラスレート化合物の特に好ましい製造に関する。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例により記載し、これら実施例は、例示であり限定するものではないことが意図される。
【0036】
実施例1
基本手順
以下に記載された金属間クラスレート化合物のいくつかは、溶融紡糸装置を用いて次の通り製造した。第1に、それぞれ総重量が少なくとも1gである、目的の元素の目的の比率の粉体混合物を、高周波加熱を用いて水冷式の銅チャネル中で溶融し、炭素被覆した石英バイアルに移し、均質化のために数時間液状を保ち、そして固化させた。
【0037】
続いて、前記材料を、垂直円錐石英チューブ中で誘導溶融に供した。該石英チューブは、ノズルとしての役目をする0.3−0.5mm x 2−5mmの寸法の下部開口スリットおよび10〜20mmの径の上部仕込み開口を有し、前記溶融物が毛管力によって前記石英チューブ中に残っている。前記石英チューブを、30cmの径および8cmの幅を有する銅ホイールの表面から上方0.3mmの距離にある溶融紡糸装置に設置し、該ホイールを、1,300rpmの速度で回転させた。前記チューブの上部開口を、アルゴンボトルに接続し、該溶融物を、アルゴン超加圧力を用いて、回転する銅ホイール上にノズルを通して噴射した。前記ホイール上に固化した物質を、20〜50μmの厚みおよび4 x 20mmまでの表面積を有する薄膜の形態で得た。前記銅ホイールは、前記溶融物をその上に噴射する前に、室温を有しており、前記ホイールと前記溶融物との間の大きな質量の違いのため、前記噴射手順の間、前記ホイールの温度はほとんど変化しなかった。ものすごい冷却速度に関わらず、製造されたサンプルの全ては、識別可能な割合の非晶質相を有しない、明確な結晶構造を有していた。
【0038】
以下の金属間クラスレート化合物は、上記の溶融紡糸技術を用いて製造し、ここで、下線が引かれた元素は、他の元素からなる結晶格子内に封入された原子を形成する:
EuGa16Ge30SrGa16Ge30BaGa16Ge30BaPdGe42BaNiGe42BaAuSi40BaAuGe40BaCuSi40BaGa16Sn30EuBaGa16Ge30およびEuSrGa16Ge30
【0039】
得られた目的のクラスレート化合物の薄層の相純度は、X線粉末回折法により測定し、全ての測定データとして、検出可能な異質相を示さない結果は、位置および強度に関してシミュレートした回折図形と完全に一致した。これは、不純物の割合が、もし存在しても、常に、前記検出方法の検出限界(3%)未満であったことを意味する。図2は、実施例1で得られたBaPdGe42のX線粉末回折図形の例を示すものである。
【0040】
実施例2
5cmの幅を有する薄銅シートを前記ホイールの周囲に取り付けたこと、および前記溶融物の噴射と同時に、約−180〜−170℃の温度を有する窒素ガスを第2ノズルを通して前記シートに吹き付けたことを除いて、実施例1を繰り返した。前記シートに対するクラスレート層の接着性を向上させるために、前記シートを、溶融紡糸により、約50μmの厚さを有するSnの薄接着剤層でプレコートした。
【0041】
続いて、前記ホイールを実施例1と同様に1,300rpmで回転させ、そして溶融物を前記シート上に噴射して急速に冷却し、結果として、前記銅シート上にSrGa16Ge30の層が形成された。この場合も先と同様に、クラスレート層のサンプルは、X線粉末回折図形において異質相を示さなかった。
【0042】
このようにして得られたクラスレート化合物で被覆された前記銅シートを、前記ホイールから取り外し、そして平らに圧延した。これは、さまざまな種類の熱電モジュールの製造に非常に適している。
【0043】
上記実施例は、前駆溶融物をクエンチすることによって、本発明の方法が初めて、優れた相純度を有し、そしてマイクロメーター範囲の厚みを有する薄層の形態で、もし希望すれば、それで被覆される基材上に直接得られるクラスレート化合物を提供することを明確に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の元素を目的の比率で含有する均質な溶融物を製造すること、および続いて前記溶融物を急速に冷却することによって前記溶融物を固化させてクラスレート化合物を得ることを含む、クラスレート化合物の製造方法。
【請求項2】
金属間クラスレートが製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マトリクスまたはケージ成分として、Si、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、Inおよび遷移元素から選択された1以上の元素が使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
包接成分として、アルカリ土類金属およびランタノイド元素から選択された1以上の元素が使用される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
厚みまたは径がそれぞれ300μmよりも小さい、好ましくは100μmよりも小さい、前記溶融物の薄層または液滴が急速に冷却される、前請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記冷却が、少なくとも10K/s、好ましくは少なくとも10K/sの速度で達成される、前請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶融物の急速な冷却が、冷却剤に該溶融物を導入することにより達成される、前請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
<5℃の温度を有する冷却剤が使用される、前請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶融物の急速な冷却が、表面上に該溶融物を広げることにより達成される、前請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記表面が前記溶融物を広げる前に、および/もしくは広げる間に冷却される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記表面が<5℃の温度まで冷却される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶融物がノズルを通して前記表面上に噴射される、請求項9から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記表面および/またはノズルが前記溶融物の付与の間に運動する、請求項9から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記表面が回転する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記表面が少なくとも1,300rpmの回転速度で回転する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶融物が、冷却前に電磁浮遊の状態に保たれ、浮遊の状態を中断することにより、冷却剤中または表面上に投入される、請求項7から11および13から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記溶融物が、前記浮遊の状態を中断するときに2つの表面の間で平坦化される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
急速な冷却により得られる前記クラスレート化合物の薄層または液滴が、その後、塊に圧縮される、クレーム5から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記溶融物が、前記クラスレート化合物で被覆される基材または物品の表面上に広げられる、請求項9から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記物品の表面が、クラスレート層の接着性を向上させるために下塗りで事前にプレコートされる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から18のいずれか1項に記載の方法で製造されたクラスレート化合物の被覆を含む物品。
【請求項22】
前記被覆が、10から300μm、好ましくは10から100μmの層厚を有する、請求項21に記載の物品。
【請求項23】
前記物品の表面と前記クラスレート化合物の被覆との間に、接着性を向上させるための下塗りが設けられる、請求項21または22に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280877(P2009−280877A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−135994(P2008−135994)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(507000729)テヒニーシェ ウニヴェルジテート ウィーン (6)
【Fターム(参考)】