説明

クラッチ装置

【課題】 クラッチ断続のための操作量の僅かな変化により、唐突なクラッチの断続が生じないクラッチ装置を提供する。
【解決手段】回転部と、該回転部に圧接されることで該回転部と共に回転する摩擦ディスクと、クラッチスプリングと、該クラッチスプリングによって付勢されることで該摩擦ディスクを該回転部に圧接するプレッシャープレートと、該クラッチスプリングから該プレッシャープレートへ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段と、を備えてなり、該クラッチスプリングが該プレッシャープレートに当接する位置が、回転軸からの距離が異なる第1位置及び第2位置の少なくとも2個所存し、該圧接力調節手段により動力伝達を断続するよう該付勢力を増減する過程において第1位置への第1の付勢力と第2位置への第2の付勢力との比率が変化する、クラッチ装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動側から被動側への動力伝達を断続する摩擦クラッチ(クラッチ装置)に関し、より詳細には、四輪自動車や二輪車(オートバイや原動機付自転車等)等の動力発生源を有する乗物等に好適に用いられる摩擦クラッチ(クラッチ装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチは、自動車のエンジンのような動力発生源からの動力を機械的接触により断続するものとして多用されてきた。摩擦クラッチは、2面間の摩擦力によって動力を伝達するものであり、該2面間を接触させることで動力を伝達し、該2面間を切り離すことで動力の伝達を断絶する。この摩擦クラッチは、動力の断続を円滑に行うことができること等から自動車(四輪自動車や二輪車を含む。)等に多用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
特許文献1には、特許文献1中の図1を参照した説明部分(段落番号0021〜0024)として「摩擦クラッチ201は、クラッチカバー107と、エンジンの出力軸(クランクシャフト)に取りつけられるフライホイール103と、クラッチディスク13と、プレッシャープレート215と、ダイヤフラムスプリング117(クラッチスプリング)と、を備えてなる。そして、クラッチディスク13は、センターハブ15と摩擦ディスク11とを有している。ここでは摩擦ディスク11は、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cの3枚によって構成されているが、この摩擦ディスクの枚数は何枚であってもよく何ら制限されるものではない(例えば、1枚、2枚、4枚以上であってもよい。)。また、センターハブ15の中空円筒形状をした筒状部分15aには、トランスミッションのメインシャフト(いずれも図示せず)が内挿固定される。・・・・・ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍はプレッシャープレート215(当接部216)に当接しており、それによってプレッシャープレート215をフライホイール103の方向へ付勢している。そして、この付勢力によりプレッシャープレート215とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとフライホイール当接部材12cが挟持されることで、フライホイール103からセンターハブ15へ動力が伝達される。即ち、この状態がクラッチがつながった状態である。・・・・・一方、ダイヤフラムスプリング117の他端117b近傍は、図示しないレリーズベアリングに当接しており、同じく図示しないレリーズアームによって該レリーズベアリングがフライホイール103の方向へ移動されることでダイヤフラムスプリング117の他端117bも該方向へ押され、それによってダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍がプレッシャープレート215(当接部216)から離れ(前述のように、ダイヤフラムスプリング117は図1中、矢印A方向に回動可能である。)、プレッシャープレート215が摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a)をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなる。これによって、プレッシャープレート215とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとフライホイール当接部材12cが挟持されなくなり、フライホイール103からセンターハブ15へと動力が伝達されなくなる。即ち、この状態がクラッチが切れた状態である。」というものが開示されている。
このように摩擦クラッチ201の外部から見たときに、ダイヤフラムスプリング117の他端117bを押すこと(摩擦クラッチ201の内部方向に押し込むこと)によりクラッチを切る方式のものを「プッシュ式クラッチ」という。
【0004】
また、摩擦クラッチの外部から見たときに、ダイヤフラムスプリングの他端を引くこと(摩擦クラッチの外部方向に引っ張ること)によりクラッチを切る方式のもの(以下、「プル式クラッチ」という。)も知られている。図12は、プル式クラッチの一例を示す断面図である。図12を参照して、従来のプル式クラッチについて説明する。
摩擦クラッチ301(プル式クラッチ)は、クラッチカバー107と、エンジンの出力軸(クランクシャフト)に取りつけられるフライホイール103と、クラッチディスク13と、プレッシャープレート215と、ダイヤフラムスプリング317(クラッチスプリング)と、を備えてなる。そして、クラッチディスク13は、センターハブ15と摩擦ディスク11とを有している。ここでは摩擦ディスク11は、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cの3枚によって構成されているが、この摩擦ディスクの枚数は何枚であってもよく何ら制限されるものではない(例えば、1枚、2枚、4枚以上であってもよい。)。また、センターハブ15の中空円筒形状をした筒状部分15aには、トランスミッションのメインシャフト(いずれも図示せず)が内挿固定される。
ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍はクラッチカバー107に固定されると共に、ダイヤフラムスプリング317がプレッシャープレート215(当接部216)に当接しており、それによってプレッシャープレート215をフライホイール103の方向へ付勢している。そして、この付勢力によりプレッシャープレート215とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103からセンターハブ15へ動力が伝達される。即ち、この状態がクラッチがつながった状態である。
一方、ダイヤフラムスプリング317の他端317b近傍は、レリーズベアリング342に係合しており、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342がフライホイール103とは反対方向(図12中、矢印A方向)へ移動されることでダイヤフラムスプリング317の他端317bも該方向(図12中、矢印A方向)へ移動される。それによってダイヤフラムスプリング317がプレッシャープレート215(当接部216)から離れ、プレッシャープレート215が摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a)をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなる。これによって、プレッシャープレート215とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されなくなり、フライホイール103からセンターハブ15へと動力が伝達されなくなる。即ち、この状態がクラッチが切れた状態である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−155734号公報(例えば、発明の詳細な説明中、段落番号0020〜0025、第1図等)
【特許文献2】特開2002−181072号公報(例えば、発明の詳細な説明中、段落番号0001〜0005、第15図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなプッシュ式クラッチ及びプル式クラッチのいずれにおいても、クラッチ断続(即ち、クラッチがつながった状態とクラッチが切れた状態との両状態間の変更)のための操作量の僅かな変化により、クラッチの断続が唐突に生じることがあった。例えば、通常の四輪自動車のようにクラッチの断続を足踏式のペダルにて操作する場合であれば、ペダルの踏み込み量の僅かな変化によってクラッチの断続状態が変化することで、該四輪自動車がぎくしゃくした動きをするようなことがあった。
このようなペダルの踏み込み量の僅かな変化による唐突なクラッチの断続変化は、摩擦ディスクをCCコンポジットによって形成した場合(摩擦ディスクをCCコンポジットによって形成すると、小型軽量で伝達可能な動力が大きな(高温域や高回転域において高い伝達動力を有する)摩擦クラッチとすることができるので過酷な条件下にて使用される摩擦クラッチとして既に多用されている。)にとりわけ顕著に現れ問題となる。
【0007】
そこで、本発明においては、このようなクラッチ断続のための操作量の僅かな変化により、唐突なクラッチの断続が生じないクラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のクラッチ装置(以下、「本クラッチ」という。)は、回転する回転部と、該回転部に圧接されることで該回転部と共に回転する摩擦ディスクと、クラッチスプリングと、該クラッチスプリングによって付勢されることで該摩擦ディスクを該回転部に圧接するプレッシャープレートと、該クラッチスプリングから該プレッシャープレートへ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段と、を備えてなるクラッチ装置であって、該クラッチスプリングが該プレッシャープレートに当接する位置が、回転軸からの距離が異なる第1位置及び第2位置の少なくとも2個所存し、該圧接力調節手段により動力伝達を断続するよう該付勢力を増減する過程において第1位置への第1の付勢力と第2位置への第2の付勢力との比率が変化するものである、クラッチ装置である。
【0009】
本クラッチは、回転する回転部と、該回転部に圧接されることで該回転部と共に回転する摩擦ディスクと、クラッチスプリングと、該クラッチスプリングによって付勢されることで該摩擦ディスクを該回転部に圧接するプレッシャープレートと、該クラッチスプリングから該プレッシャープレートへ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段と、を備えてなるクラッチ装置である。このようなクラッチ装置は、特許文献1及び特許文献2に開示されたプッシュ式クラッチや、図12を用いて上で説明したプル式クラッチ等として、従来から摩擦クラッチとして知られている。なお、摩擦クラッチは、摩擦ディスクの枚数によって、単板クラッチや多板クラッチ(2枚や3枚等のものが多い。)と分類されるが、本クラッチは摩擦ディスクの枚数に関わりなく摩擦クラッチを構成することができる。
そして、「回転する回転部」とは、回転部から摩擦ディスクへ動力が伝達されていない状態(即ち、クラッチが切れた状態)において、摩擦ディスクに対して相対的に回転部が回転することをいう。
また、クラッチスプリングからプレッシャープレートへ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段とは、回転部に圧接されることで回転部と共に回転する摩擦ディスクを回転部に圧接するための力を、クラッチスプリングからプレッシャープレートへ加わる付勢力を調節することにより調整し、動力伝達を断続(クラッチの断続をいう。即ち、クラッチがつながった状態とクラッチが切れた状態との両状態間の変化)させるものをいい、例えば、前述した従来のプッシュ式クラッチやプル式クラッチにおけるレリーズベアリング等が該当する。
【0010】
そして、本クラッチにおいては、該クラッチスプリングが該プレッシャープレートに当接する位置が、回転軸(回転部が回転する軸をいう。)からの距離が異なる第1位置(P1)及び第2位置(P2)の少なくとも2個所存する。なお、クラッチスプリングがプレッシャープレートに当接する位置は、回転部が回転する回転軸からの距離がd1の第1位置(P1)と、回転軸からの距離がd2(但し、d1とd2とは異なる。)の第2位置(P2)と、が少なくとも存在していれば足り、それ以外の位置が存在するか否かは問わない。
さらに、圧接力調節手段により動力伝達を断続(即ち、クラッチの断続)するよう該付勢力(クラッチスプリングからプレッシャープレートへ加わる付勢力)を増減する過程において第1位置(P1)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)が変化する。このようにクラッチを断続させるため該付勢力を増減する過程で比率(F1/F2)が変化するようにすることで、クラッチ断続のための操作量(例えば、クラッチペダルの踏み込み量)の僅かな変化ではこの比率(F1/F2)を変化させても、クラッチスプリングからプレッシャープレートへ加わる付勢力を急激に変化させないので(回転部に圧接されることで回転部と共に回転する摩擦ディスクを回転部に圧接するための力も急激に変化しないので)、唐突なクラッチの断続を防止又は減少させることができる。なお、ここではクラッチの1回の断続過程(即ち、クラッチがつながった状態から切れた状態に変化させること、又はクラッチが切れた状態からつながった状態に変化させること)内において、第1位置(P1)においてクラッチスプリングとプレッシャープレートとが当接する状態(このとき第2位置(P2)においてクラッチスプリングとプレッシャープレートとが当接しているか否かは問わない。)と、第2位置(P2)においてクラッチスプリングとプレッシャープレートとが当接する状態(このとき第1位置(P1)においてクラッチスプリングとプレッシャープレートとが当接しているか否かは問わない。)と、の両方の状態が実現されていることを要する。
なお、本クラッチは、摩擦ディスクをCCコンポジットによって形成したクラッチ装置においても、唐突なクラッチの断続を防止又は減少させることができるので、摩擦ディスクをCCコンポジットによって形成したクラッチ装置においてとりわけ有用なものである。
【0011】
前記クラッチスプリングから前記プレッシャープレートへ加わる前記付勢力を前記圧接力調節手段が減じることなく動力伝達を許容する伝達状態と、前記付勢力を前記圧接力調節手段が減じて動力伝達を断つ遮断状態と、を有しており、伝達状態においては第1の付勢力が少なくとも加わっており、伝達状態から遮断状態への移行に際しては第1の付勢力が加わらず第2の付勢力のみが加わる状態を経るものであってもよい。
このように本クラッチが伝達状態(クラッチがつながった状態)と遮断状態(クラッチが切れた状態)とを有しており、伝達状態においては第1の付勢力(第1位置(P1)への第1の付勢力(F1))が少なくとも加わっており(伝達状態においては第1の付勢力(F1)が加わっていれば足り、第2の付勢力(F2)が加わっているか否かは問わない。)、伝達状態から遮断状態への移行に際しては第1の付勢力(第1の付勢力(F1))が加わらず第2の付勢力(第2位置(P2)への第2の付勢力(F2))のみが加わる状態を経るものであってもよい。このように伝達状態では第1の付勢力(F1)が加わり、伝達状態から遮断状態への移行に際しては第2の付勢力(F2)のみが加わる状態を経ることで、比率(F1/F2)を広い範囲で変化させることができ、クラッチ断続のための操作量(例えば、クラッチペダルの踏み込み量)の変化をこの比率(F1/F2)の変化により十分吸収し、クラッチスプリングからプレッシャープレートへ加わる付勢力を急激に変化させないので(回転部に圧接されることで回転部と共に回転する摩擦ディスクを回転部に圧接するための力も急激に変化しないので)、唐突なクラッチの断続を効果的に防止又は減少させることができる。
【0012】
本クラッチにおいては、前記プレッシャープレートが、前記回転軸から第1半径を中心とした第1円に沿って設けられる第1の凸部と、前記回転軸から第2半径を中心とした第2円に沿って設けられる第2の凸部と、を有しており、該第1の凸部の表面に前記第1位置が存し、かつ該第2の凸部の表面に前記第2位置が存するもの(以下、「プレッシャープレート凸部クラッチ」という。)であってもよい。
このように回転軸(回転部が回転する軸をいう。)から第1半径を中心とした第1円に沿って設けられる第1の凸部と、該回転軸から第2半径を中心とした第2円に沿って設けられる第2の凸部と、をプレッシャープレートが有することで、クラッチスプリングがプレッシャープレートに当接する位置である回転軸からの距離d1の第1位置(P1)が第1の凸部の表面に位置し、該回転軸からの距離d2(但し、d1とd2とは異なる。)の第2位置(P2)が第2の凸部の表面に位置するようにすれば、該回転軸からの距離が異なる第1位置(P1)及び第2位置(P2)において比較的容易にクラッチスプリングがプレッシャープレートに当接するようにすることができる(クラッチスプリングとプレッシャープレートとを当接させるためには、これらのうち一方を他方側に突出させる等を要する場合が生じうるが、このような場合には、クラッチスプリングをプレッシャープレート側に突出等させるよりも、所定の形状部分を比較的構成しやすいプレッシャープレートをクラッチスプリング側に突出等させる方が容易に行い得ることが多い。)。
【0013】
プレッシャープレート凸部クラッチの場合、前記第1の凸部及び前記第2の凸部の少なくともいずれかが、前記回転軸から所定の半径を中心とした円に沿って連続して設けられる凸条であってもよい。
このように前記回転軸(回転部が回転する軸をいう。)から所定の半径(第1の凸部の場合はほぼ第1半径であり、第2の凸部の場合はほぼ第2半径である。)を中心とした円(この円は、前記回転軸に対して垂直な平面内に略存在する。第1の凸部の場合は第1円であり、第2の凸部の場合は第2円である。)に沿って連続して設けられる凸条として第1の凸部及び/又は前記第2の凸部が設けられれば、プレッシャープレートが該回転軸の周りのどの位置に回転しても、第1位置(P1)及び/又は第2位置(P2)において確実にクラッチスプリングがプレッシャープレートに当接するようにできる。
【0014】
プレッシャープレート凸部クラッチの場合、前記第1の凸部及び前記第2の凸部の少なくともいずれかが、前記回転軸から所定の半径を中心とした円に沿って断続して設けられる複数の突起であってもよい(以下、「複数突起プレッシャープレートクラッチ」という。)。
このように前記回転軸(回転部が回転する軸をいう。)から所定の半径(第1の凸部の場合はほぼ第1半径であり、第2の凸部の場合はほぼ第2半径である。)を中心とした円(この円は、前記回転軸に対して垂直な平面内に略存在する。第1の凸部の場合は第1円であり、第2の凸部の場合は第2円である。)に沿って断続して設けられる複数の突起として第1の凸部及び/又は前記第2の凸部が設けられれば、第1の凸部及び/又は前記第2の凸部を設けるための材料(通常、高硬度の高価な材料が用いられることが多い。)を少なくすることができたり、プレッシャープレート本体に対して第1の凸部及び/又は前記第2の凸部を別体として容易に設けることができる。
【0015】
複数突起プレッシャープレートクラッチの場合、前記複数の突起が、前記円に沿って埋設された複数の棒状部材の一端により構成されるものであってもよい。
こうすることで複数の棒状部材が、プレッシャープレート(本体)に前記円(この円は、前記回転軸に対して垂直な平面内に略存在する。第1の凸部の場合は第1円であり、第2の凸部の場合は第2円である。)に沿って埋設され、その埋設された複数の棒状部材の一端により前記複数の突起が構成されるので、プレッシャープレート本体に対して第1の凸部及び/又は前記第2の凸部を別体として堅牢かつ容易に設けることができる。
【0016】
プレッシャープレート凸部クラッチを構成するプレッシャープレートは、本クラッチを構成するのに好適に用いられることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。しかしながら、これらによって本発明は何ら制限されるものではない。
【0018】
図1は、本発明のクラッチ装置(本クラッチ)14の一例を示す断面図であり、図2は図1に示した本クラッチ14が有するプレッシャープレートの図(図2(a)は平面図であり、図2(b)は図2(a)のE−E断面図である。)である。図1及び図2を参照して、本クラッチ14について説明する。本クラッチ14は、プッシュ式クラッチ(四輪自動車に用いられる摩擦クラッチ)の例を示している。図1は、前述の図12や特許文献1中の図1等と同様に、センターハブ15の中心軸(回転部が回転する回転軸と一致する。)を含む一平面によって切断したところを示している。また、図示及び理解を容易にするために、レリーズベアリング521を動作させるためのレリーズアーム等については図示を省略しており、さらに断面を示すハッチングはプレッシャープレート21、摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11c)、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12bには付しているが、その他のものは省略している(基本的構造は、特許文献1に開示された摩擦クラッチ201に比し、プレッシャープレート21が異なるのみでそれ以外の構成は同様である。)。
【0019】
本クラッチ14は、クラッチカバー107と、エンジンの出力軸(クランクシャフト)に取りつけられるフライホイール103と、クラッチディスク13と、プレッシャープレート21と、ダイヤフラムスプリング117(クラッチスプリング)と、を備えてなる。そして、クラッチディスク13は、センターハブ15と摩擦ディスク11とを有している。ここでは摩擦ディスク11は、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cの3枚によって構成されているが、この摩擦ディスクの枚数は何枚であってもよく何ら制限されるものではない(例えば、1枚、2枚、4枚以上であってもよい。)。また、センターハブ15の中空円筒形状をした筒状部分15aには、トランスミッションのメインシャフト(いずれも図示せず)が内挿固定される。
【0020】
クラッチカバー107は、無底有蓋(下面は全て開放されており、上面は開口107hを除き蓋をされた状態である。なお、図中、上方向を矢印B方向にて、下方向を矢印C方向にて、それぞれ示した。)の円筒形の容器を構成しており、上面には該円筒形の中心軸を中心とした円形の開口107hが設けられている。円形の開口107hの周囲に沿って短冊状の板ばねを構成するダイヤフラムスプリング117(クラッチスプリング)が複数取りつけられている(短冊状のダイヤフラムスプリング117それぞれは、ねじ部材118によってねじ部材118の中心軸を含む平面内において所定範囲内において回動可能(回動方向を図1中、矢印Aにて示した。)に取りつけられている。)。ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍はプレッシャープレート21に当接しており、それによってプレッシャープレート21をフライホイール103の方向へ付勢している。そして、この付勢力によりプレッシャープレート21とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103からセンターハブ15へ動力が伝達される。即ち、この状態がクラッチがつながった状態である。
【0021】
一方、ダイヤフラムスプリング117の他端117b近傍は、レリーズベアリング521に当接しており、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング521がフライホイール103の方向(即ち、図中、矢印C方向)へ移動されることでダイヤフラムスプリング117の他端117bも該方向(矢印C方向)へ押され、それによってダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍がプレッシャープレート21から離れ(前述のように、ダイヤフラムスプリング117は図1中、矢印A方向に回動可能である。)、プレッシャープレート21が摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a)をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなる。これによって、プレッシャープレート21とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されなくなり、フライホイール103からセンターハブ15へと動力が伝達されなくなる。即ち、この状態がクラッチが切れた状態である。
【0022】
なお、センターハブ15は、トランスミッションのメインシャフト(いずれも図示せず)が内挿固定される中空円筒形状をした筒状部分15aと、筒状部分15aの軸15r(センターハブ15の軸と回転軸とに一致する。)に対して略垂直な面に沿って筒状部分15aの外周面からのびるように形成された円盤部分15bと、を有している。筒状部分15aと円盤部分15bとは、炭素鋼によって一体的に形成されている。
なお、ここでは図示していないが、筒状部分15aの内周面には、トランスミッションのメインシャフト(いずれも図示せず)の外周面のうち筒状部分15aに内挿される部分に形成されたスプライン軸の凸条に嵌合する凹溝が形成されている。そして、円盤部分15bは、筒状部分15aの軸15rから所定半径の円盤形状を有しており、該円盤の外周面はスプライン軸にされている。該スプライン軸は、センターハブ15の軸(筒状部分15aの軸15rと一致する。)方向に沿って形成された凸条によって形成されている。そして、円盤部分15bの外周面に形成されたスプライン軸を構成する凸条は、摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11c)の内周面に形成された凹溝と嵌合するように形成されている。
このようにしてセンターハブ15に対して摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11c)がセンターハブ15の軸(筒状部分15aの軸15rと一致する。)の周りに回動(回転)不可能に取り付けられている。なお、このようなセンターハブ15に対する摩擦ディスク11の固定方法は従来から知られているものである。
また、ここでは第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11cのいずれもCCコンポジットによって一体に形成されている。
【0023】
そして、プレッシャープレート21、第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bは、いずれもフライホイール103の回転に伴って一緒に回転するように固定されている(プレッシャープレート21、第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bのいずれも、フライホイール103に対して回転軸(軸15rと一致する。)の周りに回動(回転)不可能に取り付けられている。)。このようなプレッシャープレート21、第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bの取付方法等については、既知のクラッチ装置(多板クラッチ装置)におけるものと同様(具体的には、プレッシャープレート21、第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bの外周面には、センターハブ15の軸(筒状部分15aの軸15rと一致する。)方向に沿ってスプライン軸の凸条が形成され、フライホイール103に固定されたクラッチカバー107の内周面には該凸条に嵌合する凹溝が形成されている。)であるので、ここでは詳しい説明を省略する。
なお、ここでは第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bのいずれもCCコンポジットによって一体に形成されている。また、プレッシャープレート21については、CCコンポジットによって一体に形成されているが、その構造については後で詳述する。なお、これら第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12b及びプレッシャープレート21は、従来からこれらを形成するのに用いられてきた金属材料によって形成してよいことは言うまでもない。
【0024】
プレッシャープレート21は、摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a)に下面22aが接する円盤ドーナツ状のプレッシャープレート本体21aと、プレッシャープレート本体21aの上面22b(下面22aと略平行。なお、上面22b及び下面22aのいずれも、回転軸(軸15rと一致する。)に対して垂直な平面に略属する。)から上方に向かって突出するように形成された第1環状凸条21bと、プレッシャープレート本体21aの上面22bから上方に向かって突出するように形成された第2環状凸条21cと、を有しており、CCコンポジットによって一体的に形成されている(なお、プレッシャープレート21は、従来からこれを形成するのに用いられてきた金属材料によって形成してよいことは言うまでもない。)。なお、第1環状凸条21bは回転軸(軸15rと一致する。)から第1の半径r1を中心とした第1円に沿って連続的に設けられており、第2環状凸条21cは回転軸(軸15rと一致する。)から第2の半径r2を中心とした第2円に沿って連続的に設けられている(第1円と第2円とのいずれも、回転軸(軸15rと一致する。)に対して垂直な平面に略属する。)。また、回転軸は、上述のようにセンターハブ15の軸(筒状部分15aの軸15r)に一致すると共に、プレッシャープレート本体21aが形成するドーナツ形状の中心を略通過する。
第1環状凸条21bと第2環状凸条21cとは、プレッシャープレート21が本クラッチ14に組み込まれた際(図1)、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍にうまく接するような位置に形成されている。また、第1環状凸条21bの高さ(下面22aからの(軸15r方向に平行な)高さ。図2(b)中では高さz1にて示した。)と、第2環状凸条21cの高さ(下面22aからの(軸15r方向に平行な)高さ。図2(b)中では高さz2にて示した。)と、はここではz2がz1以上(即ち、z2>z1か、又はz2=z1)になるようにされる。
【0025】
上述のように、ここではプレッシャープレート21、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12b、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cのいずれもCCコンポジットにより形成されているが、これらはCCコンポジットを用いた成形物を製造する方法を適宜用いて製造することができ、特に限定されるものではないが、一例を挙げるとすると、次のごときである。即ち、フェノール樹脂のような熱硬化性樹脂を含浸した炭素繊維の織布を300mm×300mmに切断し、これらを25枚程度積層し、金型内に導入する。その金型内において、温度150〜200℃、圧力10kg/cmの条件でホットプレス成形した後、200〜250℃でキュアリングする。次いで炭化炉を用いて窒素ガス気流中、1000℃で焼成する。このときの昇温速度は20℃/時間とする。この焼成物は密度が1.2g/cmと低いため、ピッチ含浸と焼成とを繰り返して所定の密度の材料を作成する。その後、2000℃の黒鉛化処理、次いで機械加工を施すことにより、プレッシャープレート21、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12b、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cを製造することができる。
また、上記方法とは別の方法としては、特許第1822657号に記載されているプリフォームドヤーン(炭素繊維:34体積%、バインダーピッチとコークスとの混合物:58体積%、スリーブ:8体積%)を15〜20mmに切断し、金型内に導入する。その金型内において、温度400〜600℃、圧力100kg/cmで成型した後、800℃で炭化処理、次いで2000℃で黒鉛化処理する。得られたCCコンポジットを機械加工を施すことにより、これらプレッシャープレート21、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12b、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cを製造することもできる。
【0026】
以上説明した本クラッチ14の動作について説明する。
図1に示した状態は、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍が、プレッシャープレート21の第2環状凸条21cに主として当接しており、それによってプレッシャープレート21をフライホイール103の方向へ付勢している(ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍は第1環状凸条21bへも僅かな力で当接しているが、第2環状凸条21cへの当接力に比べれば遙かに小さい。このためダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍がプレッシャープレート21を付勢する付勢力は大部分が第2環状凸条21cへの当接により生じている。)。この付勢力によりプレッシャープレート21とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達される。即ち、図1の状態がクラッチがつながった状態(以下、「完全伝達状態」という。)である。
【0027】
図1のクラッチがつながった状態から、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング521をフライホイール103の方向(即ち、図中、矢印C方向)へ移動することでダイヤフラムスプリング117の他端117bを該方向(図中、矢印C方向)へ押す。それによりダイヤフラムスプリング117は、ねじ部材118の中心軸を含む平面内において回動(回動方向を図1中、矢印Aにて示した。)し、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍がプレッシャープレート21の第2環状凸条21cから離れるが、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍が第1環状凸条21bへ当接した状態は維持されるため、この場合もプレッシャープレート21をフライホイール103の方向へある程度の付勢力(完全伝達状態のときの付勢力よりは小さい)により付勢している。このある程度の付勢力によりプレッシャープレート21とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達される。しかしながら、プレッシャープレート21がフライホイール103方向へ付勢されるこのときの付勢力は、完全伝達状態のときの付勢力よりも小さいので、フライホイール103の回転力をセンターハブ15へ伝達する能力も完全伝達状態のときよりは小さい(即ち、半クラッチ状態になりやすい。)。この状態を「遷移状態」という。
【0028】
遷移状態からさらに、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング521をフライホイール103の方向(即ち、図中、矢印C方向)へ移動することでダイヤフラムスプリング117の他端117bを該方向(図中、矢印C方向)へ押す。それによりダイヤフラムスプリング117は、ねじ部材118の中心軸を含む平面内においてさらに回動(回動方向を図1中、矢印Aにて示した。)し、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍がプレッシャープレート21の第1環状凸条21bからも離れる(無論、第2環状凸条21cからも離れているので、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍はプレッシャープレート21から完全に離れる。このためプレッシャープレート21をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなり、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達されなくなる。この状態が、クラッチが完全に切れた「遮断状態」である。
【0029】
図3は、この遮断状態を示す断面図(図1と同じ断面を示している。)であり、図4は図3の一部拡大図(図3中に矢印Fにより拡大位置を概略示した。)である。図1と比べると、上述のように、レリーズベアリング521がフライホイール103の方向(即ち、図中、矢印C方向)へ移動することでダイヤフラムスプリング117の他端117bも該方向(フライホイール103の方向。図中、矢印C方向)へ押されている。それによりダイヤフラムスプリング117は、ねじ部材118の中心軸を含む平面内において回動(図1中、矢印A方向。なお、回動の中心はねじ部材118)し、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍がプレッシャープレート21から離れている(プレッシャープレート21の第1環状凸条21bと第2環状凸条21cとのいずれからも離れる。)。このためプレッシャープレート21をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなり、プレッシャープレート21とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが互いに圧接されなくなるので、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達されなくなっている(遮断状態)。
なお、図3に示した遮断状態から、レリーズベアリング521をフライホイール103の方向(即ち、図中、矢印C方向)へ移動させる力(図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング521に加えられている。)を弱めれば、ダイヤフラムスプリング117の付勢力によりレリーズベアリング521はフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)に戻り、遷移状態(ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍が第1環状凸条21bへ当接しかつ第2環状凸条21cに当接していない状態)を経て、図1の完全伝達状態に戻る。このように本クラッチ14が装着された四輪自動車のクラッチペダル等を操作することで、図示しないレリーズアームを介してレリーズベアリング521を移動(フライホイール103の方向(矢印C方向)又はフライホイール103とは反対方向(矢印B方向))させ、本クラッチ14をつながった状態(完全伝達状態)と切れた状態(遮断状態)とに自由にすることができる。本クラッチ14においては、つながった状態(完全伝達状態)と切れた状態(遮断状態)との間に遷移状態が存在することで唐突なクラッチの断続を防止又は減少させることができる。
【0030】
以上のように、本クラッチ14は、回転する回転部(ここではフライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12bとを有して構成される。)と、該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)に圧接されることで該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)と共に回転する摩擦ディスク11(ここでは第1摩擦ディスク11aと第2摩擦ディスク11bと第3摩擦ディスク11cとを有して構成される。)と、クラッチスプリングたるダイヤフラムスプリング117と、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング117)によって付勢されることで該摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11aと第2摩擦ディスク11bと第3摩擦ディスク11c)を該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)に圧接するプレッシャープレート21と、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング117)から該プレッシャープレート21へ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段(ここではレリーズベアリング521と、レリーズベアリング521を移動させる図示しないレリーズアームと、を有して構成される。)と、を備えてなるクラッチ装置であって、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング117)が該プレッシャープレート21に当接する位置が、回転軸(ここでは軸15rと一致する回転軸)からの距離が異なる第1位置(P1。ここでは第2環状凸条21cの表面。なお、回転軸からの距離d1は、ここでは第2の半径r2。)及び第2位置(P2。ここでは第1環状凸条21bの表面。なお、回転軸からの距離d2は、ここでは第1の半径r1)の少なくとも2個所存し、該圧接力調節手段(レリーズベアリング521と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)により動力伝達を断続するよう該付勢力(クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング117)からプレッシャープレート21へ加わる付勢力)を増減する過程において第1位置(P1)(第2環状凸条21cの表面)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)(第1環状凸条21bの表面)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)が変化するものである、クラッチ装置である。
比率(F1/F2)変化について以下説明しておく。完全伝達状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍が第1環状凸条21bへ当接する付勢力F2は、第2環状凸条21cへ当接する付勢力F1に比べれば遙かに小さい(即ち、完全伝達状態では、F1>>F2)。そして、遷移状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍が第2環状凸条21cから離れ、第1環状凸条21bへ当接した状態になるため、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍が第1環状凸条21bへ当接する付勢力F2が大きくなる反面、第2環状凸条21cへ当接する付勢力F1は0になる(即ち、遷移状態では、F2>>F1=0)。さらに、遮断状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍がプレッシャープレート21から離れるので(プレッシャープレート21の第1環状凸条21bと第2環状凸条21cとのいずれからも離れる。)、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍が第1環状凸条21bへ当接する付勢力F2と第2環状凸条21cへ当接する付勢力F1とのいずれも0になる(即ち、遮断状態では、F2=F1=0)。このため遷移状態を経由して遮断状態と完全伝達状態との両状態間で状態変化(即ち、クラッチを断続させる。)させる場合、第1位置(P1)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)が変化する。なお、遷移状態を経由して遮断状態と完全伝達状態との両状態間で状態変化(即ち、クラッチを断続させる。)させる場合に、第1位置(P1)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)がこのように変化するようにするには、軸15rと一致する回転軸を含む平面による断面(例えば、図1や図3)において、ダイヤフラムスプリング117の一端117a近傍の勾配(軸15rと一致する回転軸を含む直線と、一端117a近傍のうち第1環状凸条21及び第2環状凸条21cに当接する部分と、がなす角度)と、第1環状凸条21bの位置(軸15rと一致する回転軸を含む直線に下ろした垂線の足の位置。この凸状の高さ。)と、第2環状凸条21cの位置(軸15rと一致する回転軸を含む直線に下ろした垂線の足の位置。この凸状の高さ。)と、を調節することで実現することができる。
【0031】
また、本クラッチ14においては、前記クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング117)から前記プレッシャープレート21へ加わる前記付勢力を前記圧接力調節手段(レリーズベアリング521と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)が減じることなく動力伝達を許容する伝達状態(ここでは完全伝達状態)と、前記付勢力を前記圧接力調節手段(レリーズベアリング521と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)が減じて動力伝達を断つ遮断状態(上記したF2=F1=0の遮断状態に同じ。)と、を有しており、伝達状態(完全伝達状態)においては第1の付勢力(F1)が少なくとも加わっており、伝達状態(完全伝達状態)から遮断状態(遮断状態)への移行に際しては第1の付勢力(F1)が加わらず第2の付勢力(F2)のみが加わる状態(F2>>F1=0となる遷移状態)を経るものである。
さらに、前記プレッシャープレート21が、前記回転軸(ここでは軸15rと一致する回転軸)から第1半径(ここではr2)を中心とした第1円に沿って設けられる第1の凸部たる第2環状凸条21cと、前記回転軸から第2半径(ここではr1)を中心とした第2円に沿って設けられる第2の凸部たる第1環状凸条21bと、を有しており、該第1の凸部(第2環状凸条21c)の表面に前記第1位置(P1)が存し、かつ該第2の凸部(第1環状凸条21b)の表面に前記第2位置(P2)が存する。
加えて、前記第1の凸部(第2環状凸条21c)及び前記第2の凸部(第1環状凸条21b)の少なくともいずれか(ここではいずれも)が、前記回転軸から所定の半径(それぞれr2とr1)を中心とした円に沿って連続して設けられる凸条である。
【0032】
図5は、本発明のクラッチ装置(本クラッチ)の別の例を示す断面図であり、図6は図5に示した本クラッチ41が有するプレッシャープレートの図(図6(a)は平面図であり、図6(b)は図6(a)のK−K断面図である。)である。図5及び図6を参照して、本クラッチ41について説明する。本クラッチ41は、図12と同様のプル式クラッチ(四輪自動車に用いられる摩擦クラッチ)の例を示している。図5は、前述の図12や特許文献1中の図1等と同様に、センターハブ15の中心軸(回転部が回転する回転軸と一致する。)を含む一平面によって切断したところを示している。また、図示及び理解を容易にするために、レリーズベアリング342を動作させるためのレリーズアーム等については図示を省略しており、さらに断面を示すハッチングはプレッシャープレート51、摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11c)、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12bには付しているが、その他のものは省略している。また、本クラッチ41の基本的な構造は、図12に示した摩擦クラッチ301に比し、プレッシャープレート51が異なるのみでそれ以外の構成は同様である。このため本クラッチ41において、図12に示した摩擦クラッチ301と同様の要素には同じ参照番号を付しているので、必要に応じて図12に示した摩擦クラッチ301の説明を参照されたい。
【0033】
本クラッチ41(プル式クラッチ)は、クラッチカバー107と、エンジンの出力軸(クランクシャフト)に取りつけられるフライホイール103と、クラッチディスク13と、プレッシャープレート51と、ダイヤフラムスプリング317(クラッチスプリング)と、を備えてなる。そして、クラッチディスク13は、センターハブ15と摩擦ディスク11とを有し、ここでは摩擦ディスク11は、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cの3枚によって構成されているが、この摩擦ディスクの枚数は何枚であってもよく何ら制限されるものではない(例えば、1枚、2枚、4枚以上であってもよい。)。また、センターハブ15の中空円筒形状をした筒状部分15aには、トランスミッションのメインシャフト(いずれも図示せず)が内挿固定される。
ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍はクラッチカバー107に固定されると共に、ダイヤフラムスプリング317がプレッシャープレート51に当接しており、それによってプレッシャープレート51をフライホイール103の方向へ付勢している。そして、この付勢力によりプレッシャープレート51とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103からセンターハブ15へ動力が伝達される。即ち、この状態がクラッチがつながった状態である。
一方、ダイヤフラムスプリング317の他端317b近傍は、レリーズベアリング342に係合しており、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342がフライホイール103とは反対方向(図5中、矢印B方向)へ移動されることでダイヤフラムスプリング317の他端317bも該方向(図5中、矢印B方向)へ移動される。それによってダイヤフラムスプリング317がプレッシャープレート51から離れ、プレッシャープレート51が摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a)をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなる。これによって、プレッシャープレート51とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されなくなり、フライホイール103からセンターハブ15へと動力が伝達されなくなる。即ち、この状態がクラッチが切れた状態である。
【0034】
クラッチカバー107は、無底有蓋(下面は全て開放されており、上面は開口107hを除き蓋をされた状態である。なお、図中、上方向を矢印B方向にて、下方向を矢印C方向にて、それぞれ示した。)の円筒形の容器を構成しており、上面には該円筒形の中心軸を中心とした円形の開口107hが設けられている。円形の開口107hの周囲に沿って短冊状の板ばねを構成するダイヤフラムスプリング317(クラッチスプリング)が複数取りつけられている(ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がクラッチカバー107に固定されている。)。ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍はプレッシャープレート51に当接しており、それによってプレッシャープレート51をフライホイール103の方向へ付勢している。
【0035】
なお、センターハブ15や摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11c)は、本クラッチ14のものと同様であるのでここでは説明を省略する。
また、プレッシャープレート51、第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bは、いずれもフライホイール103の回転に伴って一緒に回転するように固定されている(プレッシャープレート51、第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bのいずれも、フライホイール103に対して回転軸(軸15rと一致する。)の周りに回動(回転)不可能に取り付けられている。)。このようなプレッシャープレート51、第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bの取付方法等については、既知のクラッチ装置(多板クラッチ装置)におけるものや本クラッチ14のものと同様であるのでここでは説明を省略する。なお、ここでは第1ミッドプレート12a及び第2ミッドプレート12bのいずれもCCコンポジットによって一体に形成されている。また、プレッシャープレート51については、CCコンポジットによって一体に形成されているが、その構造については後で詳述する。なお、これら第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12b及びプレッシャープレート51は、従来からこれらを形成するのに用いられてきた金属材料によって形成してよいことは言うまでもない。
【0036】
プレッシャープレート51は、摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a)に下面52aが接する円盤ドーナツ状のプレッシャープレート本体51aと、プレッシャープレート本体51aの上面52b(下面52aと略平行。なお、上面52b及び下面52aのいずれも、回転軸(軸15rと一致する。)に対して垂直な平面に略属する。)から上方に向かって突出するように形成された第1環状凸条51bと、プレッシャープレート本体51aの上面52bから上方に向かって突出するように形成された第2環状凸条51cと、を有しており、CCコンポジットによって一体的に形成されている(なお、プレッシャープレート51は、従来からこれを形成するのに用いられてきた金属材料によって形成してよいことは言うまでもない。)。なお、第1環状凸条51bは回転軸(軸15rと一致する。)から第1の半径r1を中心とした第1円に沿って連続的に設けられており、第2環状凸条51cは回転軸(軸15rと一致する。)から第2の半径r2を中心とした第2円に沿って連続的に設けられている(第1円と第2円とのいずれも、回転軸(軸15rと一致する。)に対して垂直な平面に略属する。)。また、回転軸は、上述のようにセンターハブ15の軸(筒状部分15aの軸15r)に一致すると共に、プレッシャープレート本体51aが形成するドーナツ形状の中心を略通過する。
第1環状凸条51bと第2環状凸条51cとは、プレッシャープレート51が本クラッチ41に組み込まれた際(図5)、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍にうまく接するような位置に形成されている。また、第1環状凸条51bの高さ(下面52aからの(軸15r方向に平行な)高さ。図6(b)中では高さz1にて示した。)と、第2環状凸条51cの高さ(下面52aからの(軸15r方向に平行な)高さ。図6(b)中では高さz2にて示した。)と、はここではz1がz2以上(即ち、z1>z2か、又はz1=z2)になるようにされる。
【0037】
上述のように、ここではプレッシャープレート51、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12b、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b及び第3摩擦ディスク11cのいずれもCCコンポジットにより形成されているが、これらは本クラッチ14のものと同様にCCコンポジットを用いた成形物を製造する方法を適宜用いて製造することができるので、ここでは説明を省略する。
【0038】
以上説明した本クラッチ41の動作について説明する。
図5に示した状態は、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が、プレッシャープレート51の第1環状凸条51bに主として当接しており、それによってプレッシャープレート51をフライホイール103の方向へ付勢している(ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍は第2環状凸条51cへも僅かな力で当接しているが、第1環状凸条51bへの当接力に比べれば遙かに小さい。このためダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート51を付勢する付勢力は大部分が第1環状凸条51bへの当接により生じている。)。この付勢力によりプレッシャープレート51とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達される。即ち、図5の状態がクラッチがつながった状態(以下、「完全伝達状態」という。)である。
【0039】
図5のクラッチがつながった状態から、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342をフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動することでダイヤフラムスプリング317の他端317bを該方向(図中、矢印B方向)へ引っ張る。それによりダイヤフラムスプリング317は、他端317bがフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)に移動するよう湾曲(ダイヤフラムスプリング317の一端317aを中心とする。)し、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート51の第1環状凸条51bから離れるが、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が第2環状凸条51cへ当接した状態は維持されるため、この場合もプレッシャープレート51をフライホイール103の方向へある程度の付勢力(完全伝達状態のときの付勢力よりは小さい)により付勢している。このある程度の付勢力によりプレッシャープレート51とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達される。しかしながら、プレッシャープレート51がフライホイール103方向へ付勢されるこのときの付勢力は、完全伝達状態のときの付勢力よりも小さいので、フライホイール103の回転力をセンターハブ15へ伝達する能力も完全伝達状態のときよりは小さい(即ち、半クラッチ状態になりやすい。)。この状態を「遷移状態」という。
【0040】
遷移状態からさらに、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342をフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動することでダイヤフラムスプリング317の他端317bを該方向(図中、矢印B方向)へ引っ張る。それによりさらにダイヤフラムスプリング317は、他端317bがフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)に移動するよう湾曲(ダイヤフラムスプリング317の一端317aを中心とする。)し、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート51の第2環状凸条51cからも離れる(無論、第1環状凸条51bからも離れているので、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍はプレッシャープレート51から完全に離れる。このためプレッシャープレート51をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなり、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達されなくなる。この状態が、クラッチが完全に切れた「遮断状態」である。
【0041】
図7は、この遮断状態を示す断面図(図5と同じ断面を示している。)であり、図8は図7の一部拡大図(図7中に矢印Fにより拡大位置を概略示した。)である。図5と比べると、上述のように、レリーズベアリング342がフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動することでダイヤフラムスプリング317の他端317bも該方向(図中、矢印B方向)へ引っ張られている。それによりダイヤフラムスプリング317は、他端317bがフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)に移動するよう湾曲(ダイヤフラムスプリング317の一端317aを中心とする。)し、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート51から離れている(プレッシャープレート51の第1環状凸条51bと第2環状凸条51cとのいずれからも離れる。)。このためプレッシャープレート51をフライホイール103の方向(図中、矢印C方向)へ付勢する付勢力がなくなり、プレッシャープレート51とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが互いに圧接されなくなるので、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達されなくなっている(遮断状態)。
なお、図7に示した遮断状態から、レリーズベアリング342をフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動させる力(図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342に加えられている。)を弱めれば、ダイヤフラムスプリング317の付勢力によりレリーズベアリング342はフライホイール103の方向(図中、矢印C方向)に戻り、遷移状態(ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が第2環状凸条51cへ当接しかつ第1環状凸条51bから離れ当接していない状態)を経て、図5の完全伝達状態に戻る。このように本クラッチ41が装着された四輪自動車のクラッチペダル等を操作することで、図示しないレリーズアームを介してレリーズベアリング342を移動(フライホイール103の方向(矢印C方向)又はフライホイール103とは反対方向(矢印B方向))させ、本クラッチ41をつながった状態(完全伝達状態)と切れた状態(遮断状態)とに自由にすることができる。本クラッチ41においては、つながった状態(完全伝達状態)と切れた状態(遮断状態)との間に遷移状態が存在することで唐突なクラッチの断続を防止又は減少させることができる。
【0042】
以上のように、本クラッチ41は、回転する回転部(ここではフライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12bとを有して構成される。)と、該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)に圧接されることで該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)と共に回転する摩擦ディスク11(ここでは第1摩擦ディスク11aと第2摩擦ディスク11bと第3摩擦ディスク11cとを有して構成される。)と、クラッチスプリングたるダイヤフラムスプリング317と、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)によって付勢されることで該摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11aと第2摩擦ディスク11bと第3摩擦ディスク11c)を該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)に圧接するプレッシャープレート51と、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)から該プレッシャープレート51へ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段(ここではレリーズベアリング342と、レリーズベアリング342を移動させる図示しないレリーズアームと、を有して構成される。)と、を備えてなるクラッチ装置であって、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)が該プレッシャープレート51に当接する位置が、回転軸(ここでは軸15rと一致する回転軸)からの距離が異なる第1位置(P1。ここでは第1環状凸条51bの表面。なお、回転軸からの距離d1は、ここでは第1の半径r1。)及び第2位置(P2。ここでは第2環状凸条51cの表面。なお、回転軸からの距離d2は、ここでは第2の半径r2)の少なくとも2個所存し、該圧接力調節手段(レリーズベアリング342と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)により動力伝達を断続するよう該付勢力(クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)からプレッシャープレート51へ加わる付勢力)を増減する過程において第1位置(P1)(第1環状凸条51bの表面)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)(第2環状凸条51cの表面)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)が変化するものである、クラッチ装置である。
比率(F1/F2)変化について以下説明しておく。完全伝達状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が第2環状凸条51cへ当接する付勢力F2は、第1環状凸条51bへ当接する付勢力F1に比べれば遙かに小さい(即ち、完全伝達状態では、F1>>F2)。そして、遷移状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート51の第1環状凸条51bから離れ、第2環状凸条51cへ当接した状態になるため、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が第2環状凸条51cへ当接する付勢力F2が大きくなる反面、第1環状凸条51bへ当接する付勢力F1は0になる(即ち、遷移状態では、F2>>F1=0)。さらに、遮断状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート51から離れるので(プレッシャープレート51の第1環状凸条51bと第2環状凸条51cとのいずれからも離れる。)、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が第1環状凸条51bへ当接する付勢力F1と第2環状凸条51cへ当接する付勢力F2とのいずれも0になる(即ち、遮断状態では、F2=F1=0)。このため遷移状態を経由して遮断状態と完全伝達状態との両状態間で状態変化(即ち、クラッチを断続させる。)させる場合、第1位置(P1)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)が変化する。なお、遷移状態を経由して遮断状態と完全伝達状態との両状態間で状態変化(即ち、クラッチを断続させる。)させる場合、第1位置(P1)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)がこのように変化するようにするには、軸15rと一致する回転軸を含む平面による断面(例えば、図5や図7)において、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍の勾配(軸15rと一致する回転軸を含む直線と、一端317a近傍のうち第1環状凸条51b及び第2環状凸条51cに当接する部分と、がなす角度)と、第1環状凸条51bの位置(軸15rと一致する回転軸を含む直線に下ろした垂線の足の位置。この凸状の高さ。)と、第2環状凸条51cの位置(軸15rと一致する回転軸を含む直線に下ろした垂線の足の位置。この凸状の高さ。)と、を調節することで実現することができる。
【0043】
また、本クラッチ41においては、前記クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)から前記プレッシャープレート51へ加わる前記付勢力を前記圧接力調節手段(レリーズベアリング342と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)が減じることなく動力伝達を許容する伝達状態(ここでは完全伝達状態)と、前記付勢力を前記圧接力調節手段(レリーズベアリング342と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)が減じて動力伝達を断つ遮断状態(上記したF2=F1=0の遮断状態に同じ。)と、を有しており、伝達状態(完全伝達状態)においては第1の付勢力(F1)が少なくとも加わっており、伝達状態(完全伝達状態)から遮断状態(遮断状態)への移行に際しては第1の付勢力(F1)が加わらず第2の付勢力(F2)のみが加わる状態(F2>>F1=0となる遷移状態)を経るものである。
さらに、前記プレッシャープレート51が、前記回転軸(ここでは軸15rと一致する回転軸)から第1半径(ここではr1)を中心とした第1円に沿って設けられる第1の凸部たる第1環状凸条51bと、前記回転軸から第2半径(ここではr2)を中心とした第2円に沿って設けられる第2の凸部たる第2環状凸条51cと、を有しており、該第1の凸部(第1環状凸条51b)の表面に前記第1位置(P1)が存し、かつ該第2の凸部(第2環状凸条51c)の表面に前記第2位置(P2)が存する。
加えて、前記第1の凸部(第1環状凸条51b)及び前記第2の凸部(第2環状凸条51c)の少なくともいずれか(ここではいずれも)が、前記回転軸から所定の半径(それぞれr1とr2)を中心とした円に沿って連続して設けられる凸条である。
【0044】
図9は、本発明のクラッチ装置(本クラッチ)61の他の例を示す断面図(クラッチが完全に切れた「遮断状態」を示している)であり、図10は図9に示した本クラッチ61が有するプレッシャープレート71の平面図である。図9及び図10を参照して、本クラッチ61について説明する。本クラッチ61は、プル式クラッチ(四輪自動車に用いられる摩擦クラッチ)の例を示している。図9は、前述の図12や特許文献1中の図1等と同様に、センターハブ15の中心軸(回転部が回転する回転軸と一致する。)を含む一平面によって切断したところを示している。また、図示及び理解を容易にするために、レリーズベアリング342を動作させるためのレリーズアーム等については図示を省略しており、さらに断面を示すハッチングはプレッシャープレート71、摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11c)、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12bには付しているが、その他のものは省略している。また、本クラッチ61の基本的な構造は、前述の本クラッチ41と同様であり、プレッシャープレート71が異なるのみである。このため本クラッチ61において、本クラッチ41と同様の要素には同じ参照番号を付している。そして、本クラッチ41と同様の説明はここでは省略し、本クラッチ41と本クラッチ61との差異であるプレッシャープレート71に関し主に説明するので、必要に応じ本クラッチ41の説明を参照されたい。
【0045】
プレッシャープレート71は、摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11a)に下面72aが接する円盤ドーナツ状のプレッシャープレート本体71aと、プレッシャープレート本体71aの上面72b(下面72aと略平行。なお、上面72b及び下面72aのいずれも、回転軸(軸15rと一致する。)に対して垂直な平面に略属する。)から上方に向かって突出するように形成された環状凸条71bと、プレッシャープレート本体71aの上面72bから上方に向かって一端側が突出するようプレッシャープレート本体71aに埋設された複数のピン71c(金属製、棒状部材)と、を有している。プレッシャープレート本体71aと環状凸条71bとはCCコンポジットによって一体的に形成されている(なお、プレッシャープレート本体71aと環状凸条71bとは、従来からプレッシャープレートを形成するのに用いられてきた金属材料によって形成してよいことは言うまでもない。)。金属によって形成された複数のピン71c全て同じ形状及び大きさをしており、それぞれのピン71cは、平行ピンの一端と他端との間に側方(一端と他端とを通過する軸に対して垂直方向)に向けて突出するようフランジ部が形成されると共に一端が丸められている。複数のピン71cのいずれも、該丸められた一端がプレッシャープレート本体71aの上面72bから上方に向かって突出(該一端と該他端とを通過する該軸が軸15rに略平行になっている。)するようかつフランジ部がプレッシャープレート本体71aの上面72bに当接するように該他端側がプレッシャープレート本体71aに埋設されている。また、複数のピン71cの該丸められた一端の全ては(ここでは12個の該丸められた一端のどれもが)、回転軸(軸15rと一致する。)に対して垂直な一平面に略属するようにされている(下面72aからの(軸15r方向に平行な)高さが、該丸められた一端のいずれについても略同じである。)。環状凸条71bは回転軸(軸15rと一致する。)から第1の半径r1を中心とした第1円に沿って連続的に設けられており、複数のピン71cは回転軸(軸15rと一致する。)からから第2の半径r2を中心とした円(図10中、仮想線Mにより示した。以下、「仮想円」という。)に沿って等間隔に設けられている(第1円と仮想円とのいずれも、回転軸(軸15rと一致する。)に対して垂直な平面に略属する。)。また、回転軸は、上述のようにセンターハブ15の軸(筒状部分15aの軸15r)に一致すると共に、プレッシャープレート本体71aが形成するドーナツ形状の中心を略通過する。
環状凸条71bと複数のピン71c(複数のピン71cの前記一端)とは、プレッシャープレート71が本クラッチ61に組み込まれた際(図9)、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍にうまく接するような位置に形成されている。また、環状凸条71bの高さ(下面72aからの(軸15r方向に平行な)高さ)は、前述の第1環状凸条51bの高さ(下面52aからの(軸15r方向に平行な)高さ。図6(b)中では高さz1にて示した。)と同様にされ、複数のピン71c(複数のピン71cの前記一端)の高さ(下面72aからの(軸15r方向に平行な)高さ)は、前述の第2環状凸条51cの高さ(下面52aからの(軸15r方向に平行な)高さ。図6(b)中では高さz2にて示した。)と同様にされている。
【0046】
ここではプレッシャープレート71のうちプレッシャープレート本体71a及び環状凸条71b、第1ミッドプレート12a、第2ミッドプレート12b、第1摩擦ディスク11a、第2摩擦ディスク11b、第3摩擦ディスク11cのいずれもCCコンポジットにより形成されているが、これらは本クラッチ14のものと同様にCCコンポジットを用いた成形物を製造する方法を適宜用いて製造することができるので、ここでは説明を省略する。
そして、CCコンポジットにより一体に形成されたプレッシャープレート本体71a及び環状凸条71bに、用意した複数のピン71c(金属製、棒状部材)を埋設してプレッシャープレート71を形成すればよい。
【0047】
以上説明した本クラッチ61の動作について説明する。
プレッシャープレート71が有する複数のピン71cは、プレッシャープレート51の第2環状凸条51cと同様に機能しうるので、本クラッチ61は本クラッチ41と同様に動作することができる。図9に示した状態は、クラッチが完全に切れた「遮断状態」を示している(図9中では認識しにくいが、複数のピン71cの前記一端はダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍から僅かに離れている。)。具体的には、図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342がフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動することでダイヤフラムスプリング317の他端317bを該方向(図中、矢印B方向)へ引っ張っている。それによりダイヤフラムスプリング317は、他端317bがフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)に移動するよう湾曲(ダイヤフラムスプリング317の一端317aを中心とする。)し、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート71のピン71cの前記一端と環状凸条71bとから離れている。このためダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍はプレッシャープレート71から完全に離れ、プレッシャープレート71をフライホイール103の方向へ付勢する付勢力がなくなり、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達されなくなっている(クラッチが完全に切れた「遮断状態」)。
【0048】
図9に示したクラッチが完全に切れた遮断状態から、レリーズベアリング342をフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動させている力(図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342に加えられている。)を弱めれば、ダイヤフラムスプリング317の付勢力によりレリーズベアリング342はフライホイール103の方向(図中、矢印C方向)に戻る。それによりダイヤフラムスプリング317は、他端317bがフライホイール103の方向(図中、矢印C方向)に移動し、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がピン71cの前記一端へ当接するようになる(このときダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍は環状凸条71bには当接しない。)。これによりプレッシャープレート71をフライホイール103の方向へある程度の付勢力(後述する完全伝達状態のときの付勢力よりは小さい)により付勢することができる。このある程度の付勢力によりプレッシャープレート71とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達されるようになる。しかしながら、プレッシャープレート71がフライホイール103方向へ付勢されるこのときの付勢力は、後述の完全伝達状態のときの付勢力よりも小さいので、フライホイール103の回転力をセンターハブ15へ伝達する能力も後述の完全伝達状態のときよりは小さい(即ち、半クラッチ状態になりやすい。)。この状態を「遷移状態」という。
【0049】
遷移状態からさらに、レリーズベアリング342をフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動させている力(図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342に加えられている。)を弱め、レリーズベアリング342をフライホイール103の方向(図中、矢印C方向)に移動させることでダイヤフラムスプリング317の他端317bを該方向(図中、矢印C方向)へ移動させる。それによりダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がピン71cの前記一端と環状凸条71bとの両方に当接するようになる。そしてレリーズベアリング342をフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動させている力(図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342に加えられている。)を完全に取り除くと、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が、プレッシャープレート71の環状凸条71bに主として当接するようになり、それによってプレッシャープレート71をフライホイール103の方向へ十分な力で付勢するようになる(このときダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍はピン71cの前記一端へも僅かな力で当接しているが、環状凸条71bへの当接力に比べれば遙かに小さい。このためダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート71を付勢する付勢力は大部分が環状凸条71bへの当接により生じている。)。この付勢力によりプレッシャープレート71とフライホイール103との間に、第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとが挟持されることで、フライホイール103の回転力(軸15rと一致する回転軸の周りの回転)がセンターハブ15へ伝達される。即ち、この状態がクラッチがつながった完全伝達状態である。
【0050】
なお、完全伝達状態から、レリーズベアリング342をフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動させる力(図示しないレリーズアームによってレリーズベアリング342に加えられる。)を加えれば、レリーズベアリング342はフライホイール103とは反対方向(即ち、図中、矢印B方向)へ移動し、遷移状態(ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がピン71cの前記一端へ当接しかつ環状凸条71bから離れ当接していない状態)を経て、図9の遮断状態に戻る。このように本クラッチ61が装着された四輪自動車のクラッチペダル等を操作することで、図示しないレリーズアームを介してレリーズベアリング342を移動(フライホイール103の方向(矢印C方向)又はフライホイール103とは反対方向(矢印B方向))させ、本クラッチ61をつながった状態(完全伝達状態)と切れた状態(遮断状態)とに自由にすることができる。本クラッチ61においては、つながった状態(完全伝達状態)と切れた状態(遮断状態)との間に遷移状態が存在することで唐突なクラッチの断続を防止又は減少させることができる。
また、以上のように、プレッシャープレート71が有する複数のピン71cは、ここではプレッシャープレート51の第2環状凸条51cと同様に機能しているが、同様に環状凸条71bとしても機能しうるので環状凸条71bに替えて複数のピン71cを用いることもできる(即ち、プレッシャープレート51の第1環状凸条51b及び第2環状凸条51cの両凸条51b、51cのうちいずれか一方又は両方を複数のピン71cに置換することができる。)。
【0051】
以上のように、本クラッチ61は、回転する回転部(ここではフライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12bとを有して構成される。)と、該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)に圧接されることで該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)と共に回転する摩擦ディスク11(ここでは第1摩擦ディスク11aと第2摩擦ディスク11bと第3摩擦ディスク11cとを有して構成される。)と、クラッチスプリングたるダイヤフラムスプリング317と、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)によって付勢されることで該摩擦ディスク11(第1摩擦ディスク11aと第2摩擦ディスク11bと第3摩擦ディスク11c)を該回転部(フライホイール103と第1ミッドプレート12aと第2ミッドプレート12b)に圧接するプレッシャープレート71と、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)から該プレッシャープレート71へ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段(ここではレリーズベアリング342と、レリーズベアリング342を移動させる図示しないレリーズアームと、を有して構成される。)と、を備えてなるクラッチ装置であって、該クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)が該プレッシャープレート71に当接する位置が、回転軸(ここでは軸15rと一致する回転軸)からの距離が異なる第1位置(P1。ここでは環状凸条71bの表面。なお、回転軸からの距離d1は、ここでは第1の半径r1。)及び第2位置(P2。ここではピン71cの前記一端。なお、回転軸からの距離d2は、ここでは第2の半径r2)の少なくとも2個所存し、該圧接力調節手段(レリーズベアリング342と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)により動力伝達を断続するよう該付勢力(クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)からプレッシャープレート71へ加わる付勢力)を増減する過程において第1位置(P1)(環状凸条71bの表面)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)(ピン71cの前記一端)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)が変化するものである、クラッチ装置である。
比率(F1/F2)変化について以下説明しておく。
完全伝達状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がピン71cの前記一端へ当接する付勢力F2は、環状凸条71bへ当接する付勢力F1に比べれば遙かに小さい(即ち、完全伝達状態では、F1>>F2)。そして、遷移状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート71の環状凸条71bから離れ、ピン71cの前記一端へ当接した状態になるため、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がピン71cの前記一端へ当接する付勢力F2が大きくなる反面、環状凸条71bへ当接する付勢力F1は0になる(即ち、遷移状態では、F2>>F1=0)。さらに、遮断状態においては、上述のように、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍がプレッシャープレート71から離れるので(プレッシャープレート51の環状凸条71bとピン71cの前記一端とのいずれからも離れる。)、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍が環状凸条71bへ当接する付勢力F1とピン71cの前記一端へ当接する付勢力F2とのいずれも0になる(即ち、遮断状態では、F2=F1=0)。このため遷移状態を経由して遮断状態と完全伝達状態との両状態間で状態変化(即ち、クラッチを断続させる。)させる場合、第1位置(P1)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)が変化する。
なお、遷移状態を経由して遮断状態と完全伝達状態との両状態間で状態変化(即ち、クラッチを断続させる。)させる場合、第1位置(P1)への第1の付勢力(F1)と第2位置(P2)への第2の付勢力(F2)との比率(F1/F2)がこのように変化するようにするには、軸15rと一致する回転軸を含む平面による断面(例えば、図9)において、ダイヤフラムスプリング317の一端317a近傍の勾配(軸15rと一致する回転軸を含む直線と、一端317a近傍のうち環状凸条71b及びピン71cの前記一端に当接する部分と、がなす角度)と、環状凸条71bの位置(軸15rと一致する回転軸を含む直線に下ろした垂線の足の位置。この凸状の高さ。)と、ピン71cの前記一端の位置(軸15rと一致する回転軸を含む直線に下ろした垂線の足の位置。この前記一端の高さ。)と、を調節することで実現することができる。
【0052】
また、本クラッチ61においては、前記クラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング317)から前記プレッシャープレート71へ加わる前記付勢力を前記圧接力調節手段(レリーズベアリング342と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)が減じることなく動力伝達を許容する伝達状態(ここでは完全伝達状態)と、前記付勢力を前記圧接力調節手段(レリーズベアリング342と、それを移動させる図示しないレリーズアーム)が減じて動力伝達を断つ遮断状態(上記したF2=F1=0の遮断状態に同じ。)と、を有しており、伝達状態(完全伝達状態)においては第1の付勢力(F1)が少なくとも加わっており、伝達状態(完全伝達状態)から遮断状態(遮断状態)への移行に際しては第1の付勢力(F1)が加わらず第2の付勢力(F2)のみが加わる状態(F2>>F1=0となる遷移状態)を経るものである。
さらに、前記プレッシャープレート71が、前記回転軸(ここでは軸15rと一致する回転軸)から第1半径(ここではr1)を中心とした第1円に沿って設けられる第1の凸部たる環状凸条71bと、前記回転軸から第2半径(ここではr2)を中心とした第2円(仮想円M)に沿って設けられる第2の凸部たる複数のピン71cの前記一端と、を有しており、該第1の凸部(環状凸条71b)の表面に前記第1位置(P1)が存し、かつ該第2の凸部(複数のピン71cの前記一端)の表面に前記第2位置(P2)が存する。
加えて、前記第1の凸部(環状凸条71b)及び前記第2の凸部(複数のピン71cの前記一端)の少なくともいずれか(ここでは前記第1の凸部(環状凸条71b))が、前記回転軸から所定の半径r1を中心とした円に沿って連続して設けられる凸条である。
さらに、前記第1の凸部(環状凸条71b)及び前記第2の凸部(複数のピン71cの前記一端)の少なくともいずれか(ここでは前記第2の凸部(複数のピン71cの前記一端))が、前記回転軸から所定の半径r2を中心とした円(仮想円M)に沿って断続して設けられる複数の突起である。また、前記複数の突起が、前記円(仮想円M)に沿って埋設された複数の棒状部材たるピン71cの一端により構成されるものである。
【0053】
以上説明した本クラッチ14、本クラッチ41及び本クラッチ61のいずれも、クラッチスプリングがプレッシャープレートに当接する位置として第1位置P1(第2環状凸条21cの表面、第1環状凸条51bの表面、環状凸条71bの表面)と第2位置P2(第1環状凸条21bの表面、第2環状凸条51cの表面、ピン71cの前記一端)とを有しており、伝達状態(完全伝達状態)におけるプレッシャープレートとフライホイールとの間に第1摩擦ディスク11aと第1ミッドプレート12aと第2摩擦ディスク11bと第2ミッドプレート12bと第3摩擦ディスク11cとを挟持する力(該力を圧接力という。圧接力は、フライホイールの回転力をセンターハブへ伝達する伝達力に大きな影響を与える。)をこの第1位置にてほぼ決定すると共に、クラッチの断続位置(即ち、クラッチが遮断状態から遷移状態に移行する位置、又は遷移状態から遮断状態に移行する位置)をこの第2位置にて決定している。従って、本クラッチ14、41、61においては、第1位置と第2位置とを独立して変更することで圧接力とクラッチの断続位置とを自由に設定することができる。
【0054】
この圧接力とクラッチ断続位置とを自由に設定できることは、カーボンクラッチ(例えば、摩擦ディスク11がCCコンポジットにより形成されたクラッチ)を使用する際に操作性を向上させることができる。
カーボンクラッチは、通常のクラッチに比して断続の状態が極めて良好であり(いわゆるクラッチの切れやつながりが急激である。)、クラッチの断続操作に違和感を生じる場合があった。この違和感は、一般的なクラッチ(カーボンクラッチではない。)が装着された自動車のクラッチをカーボンクラッチに置換する場合に多く見られるものである。図11は、クラッチペダルによるクラッチの断続位置を示す概略図である。図11を参照して、一般市販車(市販される状態では、カーボンクラッチが装着されていない。)におけるカーボンクラッチ置換の際に生じうる問題について説明する。まず、クラッチペダル601は、一端側603が図示しない車体に回動自在に固定されており、他端側605にペダル部605pが取り付けられている。通常は、クラッチスプリングの付勢力等によって、ペダル部605pは位置S1に存しており、この状態ではクラッチは完全につながった状態になっている。また、ペダル部605pを最も下方まで踏み込んだ位置S3では、クラッチは完全に切れている。図示しない運転者が位置S1のペダル部605pを下方に踏んでいくと、カーボンクラッチ未装着車の場合は位置S2にてクラッチの断続が生じるのに対し、カーボンクラッチ装着車の場合は位置S4にてクラッチの断続が生じることがあり、この位置S2と位置S4との違いにより、図示しない運転者が違和感を感じる。
この違和感をなくすため、カーボンクラッチ装着車のクラッチ断続位置がほぼ位置S2となるような調整をする必要があり、調整に伴う費用、時間及び手間がかかるという問題があった。なお、車種によっては、クラッチ断続位置の調整ができないものもあり、そのような車種においてカーボンクラッチを装着するとクラッチ断続位置が位置S4のまま操作性が悪い状態で運転を強いられるという問題もあった。
これに対し、本クラッチでは、上述のように、圧接力とクラッチ断続位置とを自由に設定できるので、必要な圧接力を確保しつつ、操作性の良いクラッチ断続位置に設定することができるので、上述のような問題を解決又は減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のクラッチ装置(本クラッチ)の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示した本クラッチが有するプレッシャープレートの図である。
【図3】図1に示した本クラッチの遮断状態を示す断面図である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】本発明のクラッチ装置(本クラッチ)の別の例を示す断面図である。
【図6】図5に示した本クラッチが有するプレッシャープレートの図である。
【図7】図5に示した本クラッチの遮断状態を示す断面図である。
【図8】図7の一部拡大図である。
【図9】本発明のクラッチ装置(本クラッチ)の他の例を示す断面図である。
【図10】図9に示した本クラッチが有するプレッシャープレートの平面図である。
【図11】カーボンクラッチ未装着の一般市販車においてクラッチをカーボンクラッチに置換した際に生じうる問題について説明する図である。
【図12】従来のプル式クラッチの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
11 摩擦ディスク
11a 第1摩擦ディスク
11b 第2摩擦ディスク
11c 第3摩擦ディスク
12a 第1ミッドプレート
12b 第2ミッドプレート
13 クラッチディスク
14 本クラッチ
15 センターハブ
15a 筒状部分
15b 円盤部分
15r 軸
21 プレッシャープレート
21a プレッシャープレート本体
21b 第1環状凸条
21c 第2環状凸条
22a 下面
22b 上面
41 本クラッチ
51 プレッシャープレート
51b 第1環状凸条
51c 第2環状凸条
51a プレッシャープレート本体
52a 下面
52b 上面
61 本クラッチ
71 プレッシャープレート
71a プレッシャープレート本体
71b 環状凸条
71c ピン
72a 下面
72b 上面
103 フライホイール
107 クラッチカバー
107h 開口
117 ダイヤフラムスプリング
117a 一端
117b 他端
118 ねじ部材
201 摩擦クラッチ
215 プレッシャープレート
216 当接部
301 摩擦クラッチ
317 ダイヤフラムスプリング
317a 一端
317b 他端
342 レリーズベアリング
521 レリーズベアリング
601 クラッチペダル
603 一端側
605 他端側
605p ペダル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する回転部と、該回転部に圧接されることで該回転部と共に回転する摩擦ディスクと、クラッチスプリングと、該クラッチスプリングによって付勢されることで該摩擦ディスクを該回転部に圧接するプレッシャープレートと、該クラッチスプリングから該プレッシャープレートへ加わる付勢力を調節することで動力伝達を断続する圧接力調節手段と、を備えてなるクラッチ装置であって、
該クラッチスプリングが該プレッシャープレートに当接する位置が、回転軸からの距離が異なる第1位置及び第2位置の少なくとも2個所存し、該圧接力調節手段により動力伝達を断続するよう該付勢力を増減する過程において第1位置への第1の付勢力と第2位置への第2の付勢力との比率が変化するものである、
クラッチ装置。
【請求項2】
前記クラッチスプリングから前記プレッシャープレートへ加わる前記付勢力を前記圧接力調節手段が減じることなく動力伝達を許容する伝達状態と、前記付勢力を前記圧接力調節手段が減じて動力伝達を断つ遮断状態と、を有しており、
伝達状態においては第1の付勢力が少なくとも加わっており、伝達状態から遮断状態への移行に際しては第1の付勢力が加わらず第2の付勢力のみが加わる状態を経るものである、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記プレッシャープレートが、前記回転軸から第1半径を中心とした第1円に沿って設けられる第1の凸部と、前記回転軸から第2半径を中心とした第2円に沿って設けられる第2の凸部と、を有しており、
該第1の凸部の表面に前記第1位置が存し、かつ該第2の凸部の表面に前記第2位置が存するものである、請求項1又は2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記第1の凸部及び前記第2の凸部の少なくともいずれかが、前記回転軸から所定の半径を中心とした円に沿って連続して設けられる凸条である、請求項3に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記第1の凸部及び前記第2の凸部の少なくともいずれかが、前記回転軸から所定の半径を中心とした円に沿って断続して設けられる複数の突起である、請求項3又は4に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記複数の突起が、前記円に沿って埋設された複数の棒状部材の一端により構成されるものである、請求項5に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか1に記載のクラッチ装置の前記プレッシャープレート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−225083(P2007−225083A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49913(P2006−49913)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(500567209)エイティーエス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】