説明

クロム系硬質被膜、クロム系硬質被膜が表面に形成された金型、及びクロム系硬質被膜の製造方法

【課題】離型性の低下が抑制されたクロム系硬質被膜をPVD法で製造する。
【解決手段】真空チャンバ10a内の被成膜物21,22にバイアス電圧を印加しつつクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク放電を発生させることにより被成膜物21,22の表面にクロム層を形成する。真空チャンバ10a内に窒素を供給しつつクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク放電を発生させることによりクロム層の上に窒化クロム層を形成する。真空チャンバ10a内に窒素及び炭素を供給しつつクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク放電を発生させることにより窒化クロム層の上に炭窒化クロム層を形成する。真空チャンバ10a内に炭素を供給しつつクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク放電を発生させることにより炭窒化クロム層の上に非晶質の炭化クロム層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム系硬質被膜、そのクロム系硬質被膜が表面に形成された金型、及びそのクロム系硬質被膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属部材を塑性加工するための金型や、押出成形機のスクリュー、あるいは自動車に搭載されるエンジンの各種構成部品等、過酷な環境で使用される金属製品は、耐摩耗性、耐食性、耐熱性等の向上のために、硬質被膜で表面処理されることがある。そのような硬質被膜の一つとして、従来、窒化クロム(CrN)や炭化クロム(CrC)等のクロム系硬質被膜が知られている。特に、樹脂成形用金型やゴム成形用金型には、得られる成形品の品質及び生産性の向上を図るため、離型性、耐食性に優れる炭化クロム系の硬質被膜がより好ましく用いられる。
【0003】
炭化クロム系硬質被膜の形成方法として、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法が知られている(非特許文献1)。しかし、CVD法は、処理温度が1000℃程度と高いため、金型母材の熱変形や熱変寸が大きく、被膜の形成後に金型の形状や寸法を修正する必要があるという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1,2に記載されるように、炭化クロム系硬質被膜をスパッタリング法やホロカソード法等のPVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着)法で形成することが考えられる。PVD法は、処理温度が500℃程度と低いため、金型母材の熱変形や熱変寸が小さく、被膜の形成後に金型の形状や寸法を修正する必要がないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−161352号公報
【特許文献2】特開2004−204311号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】トーヨーエイテック株式会社カタログ「ハードコーティング」(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のPVD法で形成された炭化クロム系硬質被膜は、金型母材の熱変形や熱変寸が小さくて済むものの、離型性が低下するという問題があった(例えば、後述する実施例では、従来のPVD法で形成された炭化クロム系硬質被膜(比較例)は、CVD法で形成された炭化クロム系硬質被膜(参考例1)よりも離型性が低下している。)。
【0008】
そこで、本発明は、PVD法で形成されたクロム系硬質被膜でありながら、離型性の低下が抑制されたクロム系硬質被膜の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面は、被成膜物の表面にPVD法で形成されたクロム系硬質被膜であって、最外層に非晶質の炭化クロム(CrC)層を有することを特徴とするクロム系硬質被膜である。
【0010】
この本発明に係るクロム系硬質被膜は、被成膜物の表面にPVD法で形成されているから、被成膜物の熱変形や熱変寸が小さくて済み、被膜の形成後に製品の形状や寸法を修正する必要がない。
【0011】
そのうえで、この本発明に係るクロム系硬質被膜は、最外層の炭化クロム層が非晶質であるから、滑り性(摺動性)が向上し、摩擦係数が低下して、樹脂やゴム等の離型性が向上する。その結果、PVD法で形成されたクロム系硬質被膜でありながら、離型性の低下が抑制される(例えば、後述する実施例では、本発明に係るクロム系硬質被膜(実施例)は、CVD法で形成された炭化クロム系硬質被膜(参考例1)よりも離型性が向上している。)。
【0012】
最外層の炭化クロム層が非晶質であると滑り性が向上する理由の一つとしては、結晶構造の場合は、整然と並んだ原子間に生じる窪みが比較的大きい(深い)のに対し、非晶質では、アトランダムに分散した原子間に生じる窪みが比較的小さい(浅い)からと推察される。また、非晶質では、結晶粒界が存在しないため、表面粗さが極めて小さくなり、表面平滑性が著しく高くなるからと推察される。
【0013】
本発明に係るクロム系硬質被膜においては、被成膜物の表面と炭化クロム層との間に、窒化クロム(CrN)層と、炭窒化クロム(CrCxNy)層(ただし、x+y=1、x<1、窒化クロム層から遠ざかるにつれてxは1に近づくように徐々に増大する。)とをさらに有することが好ましい。被成膜物に対して密着性の良い窒化クロム層と、炭化クロム層側に向けて窒素の含有量が徐々に減少し炭素の含有量が徐々に増大する炭窒化クロム層(この炭窒化クロム層は、傾斜組成であるため、応力緩和効果を有する。)とを被成膜物と炭化クロム層との間に介在させることにより、炭化クロム層を被成膜物に直接形成する場合に比べて、炭化クロム層の被成膜物に対する密着性が向上する。
【0014】
本発明に係るクロム系硬質被膜においては、被成膜物の表面と窒化クロム層との間に、クロム(Cr)層をさらに有することがより好ましい。被成膜物と窒化クロム層との両方に対して密着性の良いクロム層を被成膜物と窒化クロム層との間に介在させることにより、炭化クロム層の被成膜物に対する密着性がさらに向上する。
【0015】
本発明の他の一局面は、クロム系硬質被膜がPVD法で表面に形成された金型であって、クロム系硬質被膜が、金型母材の表面に形成されたクロム(Cr)層と、このクロム層の上に形成された窒化クロム(CrN)層と、この窒化クロム層の上に形成された炭窒化クロム(CrCxNy)層(ただし、x+y=1、x<1、窒化クロム層から遠ざかるにつれてxは1に近づくように徐々に増大する。)と、この炭窒化クロム層の上に形成された非晶質の炭化クロム(CrC)層とを有することを特徴とする金型である。
【0016】
この本発明に係る金型は、クロム系硬質被膜がPVD法で表面に形成されているから、金型母材の熱変形や熱変寸が小さくて済み、被膜の形成後に金型の形状や寸法を修正する必要がない。また、金型母材と最外層の炭化クロム層との間に、クロム層と、窒化クロム層と、炭化クロム層側に向けて窒素の含有量が徐々に減少し炭素の含有量が徐々に増大する炭窒化クロム層とを介在させているから、炭化クロム層を金型母材に直接形成する場合に比べて、炭化クロム層の金型母材に対する密着性が著しく向上する。
【0017】
そのうえで、この本発明に係る金型は、最外層の炭化クロム層が非晶質であるから、滑り性が向上し、摩擦係数が低下して、樹脂やゴム等の離型性が向上する。その結果、表面に形成されたクロム系硬質被膜がPVD法で形成されていながら、離型性の低下が抑制される。したがって、本発明に係る金型は、樹脂成形用金型やゴム成形用金型として好適なものである。
【0018】
本発明のさらに他の一局面は、クロム系硬質被膜をPVD法で被成膜物の表面に製造する方法であって、真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、被成膜物の表面にクロム(Cr)層を形成するクロム層形成工程と、真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内に窒素を供給し、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、クロム層の上に窒化クロム(CrN)層を形成する窒化クロム層形成工程と、真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内に窒素及び炭素を供給し、窒素の供給量を徐々に減少させると共に炭素の供給量を徐々に増大させ、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、窒化クロム層の上に炭窒化クロム(CrCxNy)層(ただし、x+y=1、x<1、窒化クロム層から遠ざかるにつれてxは1に近づくように徐々に増大する。)を形成する炭窒化クロム層形成工程と、真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内に炭素を供給し、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、炭窒化クロム層の上に非晶質の炭化クロム(CrC)層を形成する炭化クロム層形成工程とを有することを特徴とするクロム系硬質被膜の製造方法である。
【0019】
この本発明に係るクロム系硬質被膜の製造方法は、クロム系硬質被膜をPVD法で被成膜物の表面に形成するから、被成膜物の熱変形や熱変寸が小さくて済み、被膜の形成後に製品の形状や寸法を修正する必要がない。また、被成膜物と最外層の炭化クロム層との間に、クロム層と、窒化クロム層と、炭化クロム層側に向けて窒素の含有量が徐々に減少し炭素の含有量が徐々に増大する炭窒化クロム層とを介在させているから、炭化クロム層を被成膜物に直接形成する場合に比べて、炭化クロム層の被成膜物に対する密着性が著しく向上する。
【0020】
そのうえで、この本発明に係るクロム系硬質被膜の製造方法は、PVD法のうちでも、スパッタリング法やホロカソード法とは異なる、アークイオンプレーティング(AIP)法でクロム系硬質被膜を形成するから、最外層の炭化クロム層が非晶質となり、クロム系硬質被膜の滑り性が向上し、摩擦係数が低下して、樹脂やゴム等の離型性が向上する。その結果、クロム系硬質被膜をPVD法で形成しながら、クロム系硬質被膜の離型性の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PVD法で形成されたクロム系硬質被膜でありながら、離型性の低下が抑制されたクロム系硬質被膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係るクロム系硬質被膜の構成を示す部分拡大断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るアークイオンプレーティング法を実施するためのアーク式真空成膜装置の構成図である。
【図3】実施例で得られた本発明に係るクロム系硬質被膜のX線回折分析結果を示すチャート図である。
【図4】実施例で得られた本発明に係るクロム系硬質被膜のグロー放電分光分析結果を示すチャート図である。
【図5】ホロカソード法で得られたクロム系硬質被膜(比較例)のX線回折分析結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を説述することにより、本発明を詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施形態により何ら限定的に解釈されるものではない。
【0024】
本発明者等は、被成膜物の熱変形や熱変寸が小さくて済むPVD法を用いて、従来にない離型性に優れる炭化クロム系硬質被膜を製造することに鋭意研究検討を重ねたところ、PVD法のうちでも、アークイオンプレーティング(AIP)法を用いて、炭化クロム系硬質被膜を形成すれば、非晶質の炭化クロム層が得られて、被膜の滑り性が向上することを見出し、本発明を完成したものである。
【0025】
図1は、本実施形態に係るクロム系硬質被膜2の構成を示す部分拡大断面図である。このクロム系硬質被膜2は、被成膜物1の表面にPVD法、特にアークイオンプレーティング法を用いて形成されている。
【0026】
被成膜物1としては、例えば、SKD 11、SKD 61等のダイス鋼;SKH 51等の高速度鋼;SK 5、SKS 3等の工具鋼;SUS 440C、SUS 420J2、SUS304等のステンレス鋼;超硬材;等の金属材料が好ましく用いられ得る。これらのうち、SKD 11、SKH 51がより好ましい。
【0027】
被成膜物1の表面粗さ(Ra)としては、0.1μm以下が好ましく、0.05μm以下がより好ましい。被成膜物1の表面粗さ(Ra)がこのような範囲にある場合には、特に滑り性に優れる被膜が得られる。その理由は、PVD法により被膜を形成した場合には、緻密で平滑性の高い被膜が得られるため、被成膜物1の表面状態が被膜に反映され易くなるからである。
【0028】
クロム系硬質被膜2は、被成膜物1の表面に形成されたクロム(Cr)層2aと、このクロム層2aの上に形成された窒化クロム(CrN)層2bと、この窒化クロム層2bの上に形成された炭窒化クロム(CrCxNy)層2c(ただし、x+y=1、x<1、窒化クロム層から遠ざかるにつれてxは1に近づくように徐々に増大する。)と、この炭窒化クロム層2cの上に形成された炭化クロム(CrC)層2dとを有している。そして、最外層の炭化クロム層2dは、非晶質である。
【0029】
本実施形態に係るクロム系硬質被膜2は、被成膜物1の表面にPVD法で形成されているから、被成膜物1の熱変形や熱変寸が小さくて済み、被膜2の形成後に製品の形状や寸法を修正する必要がない。
【0030】
本実施形態に係るクロム系硬質被膜2は、被成膜物1と炭化クロム層2dとの間に、被成膜物1と窒化クロム層2bとの両方に対して密着性の良いクロム層2aと、窒化クロム層2bと、炭化クロム層2d側に向けて窒素の含有量が徐々に減少し炭素の含有量が徐々に増大する炭窒化クロム層2c(この炭窒化クロム層2cは、傾斜組成であるため、応力緩和効果を有する。)とを介在させているから、炭化クロム層2dを被成膜物1に直接形成する場合に比べて、炭化クロム層2dの被成膜物1に対する密着性が著しく向上している。
【0031】
本実施形態に係るクロム系硬質被膜2は、最外層の炭化クロム層2dが非晶質であるから、滑り性が向上し、摩擦係数が低下して、樹脂やゴム等の離型性が向上している。その結果、PVD法で形成されたクロム系硬質被膜2でありながら、離型性の低下が抑制されている。
【0032】
クロム系硬質被膜2の厚み(膜厚)は、特に限定されないが、被膜2の内部応力バランスを維持してより高い密着力を確保できる観点から、例えば、4〜9μm程度の範囲が好ましく、6〜7μm程度の範囲がより好ましい。また、各層2a〜2dの厚みも、特に限定されないが、前記と同様の観点から、例えば、クロム層2aは、0.1〜0.5μm程度の範囲が好ましく、窒化クロム層2bは、1.5〜3.0μm程度の範囲が好ましく、炭窒化クロム層2cは、1.5〜3.0μm程度の範囲が好ましく、炭化クロム層2dは、1.0〜2.5μm程度の範囲が好ましい。なお、各層の境界は、クロム系硬質被膜2の膜厚や製造条件等により、明確に特定できない場合がある。
【0033】
クロム系硬質被膜2の硬度(ビッカース硬度)は、十分な耐摩耗性を確保できる観点から、例えば、2,500〜2,700Hv程度の範囲が好ましい。
【0034】
図1において、被成膜物1が金型母材である場合は、クロム系硬質被膜2がPVD法で表面に形成された金型の実施形態が提供されることになる。そして、この金型において、クロム系硬質被膜2が、金型母材1の表面に形成されたクロム層2aと、このクロム層2aの上に形成された窒化クロム層2bと、この窒化クロム層2bの上に形成された傾斜組成の炭窒化クロム層2cと、この炭窒化クロム層2cの上に形成された非晶質の炭化クロム層2dとを有することになる。
【0035】
その結果、本実施形態に係る金型は、クロム系硬質被膜2がPVD法で表面に形成されているから、金型母材1の熱変形や熱変寸が小さくて済み、被膜2の形成後に金型の形状や寸法を修正する必要がない。また、金型母材1と最外層の炭化クロム層2dとの間に、金型母材1と窒化クロム層2bとの両方に対して密着性の良いクロム層2aと、窒化クロム層2bと、炭化クロム層2d側に向けて窒素の含有量が徐々に減少し炭素の含有量が徐々に増大する炭窒化クロム層2cとを介在させているから、炭化クロム層2dを金型母材1に直接形成する場合に比べて、炭化クロム層2dの金型母材1に対する密着性が著しく向上している。
【0036】
本実施形態に係る金型は、最外層の炭化クロム層2dが非晶質であるから、滑り性が向上し、摩擦係数が低下して、樹脂やゴム等の離型性が向上している。その結果、表面に形成されたクロム系硬質被膜2がPVD法で形成されていながら、離型性の低下が抑制されている。したがって、本実施形態に係る金型は、樹脂成形用金型やゴム成形用金型として好適なものである。
【0037】
次に、本実施形態に係るクロム系硬質被膜2の製造方法の一例として、PVD法の一つであるアークイオンプレーティング法を例に挙げて説明する。
【0038】
図2は、本実施形態に係るアークイオンプレーティング法を実施するためのアーク式真空成膜装置10の構成図である。この成膜装置10は、真空チャンバ10aを有し、この真空チャンバ10aの内部に、被成膜物(図例は、一組の樹脂成形用オス側金型母材21及びメス側金型母材22である。)を載置するための回転テーブル11と、アーク電源13,14のマイナス端子に接続されたカソードであるクロム蒸発源13a,14aと、アーク電源13,14のプラス端子に接続されたアノードである陽極13b,14bとを備えている。回転テーブル11は、バイアス電源15のマイナス端子に接続され、バイアス電源15のプラス端子は接地されている。
【0039】
なお、図例では、アーク電源、カソード、アノードのセットが2つ設けられているが、このセットの数は、例えば被成膜物の形状や被成膜物における成膜部位の位置等に応じて適宜変更してよいものである。さらに、真空チャンバ10aには、真空チャンバ10aの内部にガスを供給するためのガス供給口12aと、真空チャンバ10aの内部からガスを排出するためのガス排出口12bとが設けられている。また、この成膜装置10は、図示しないが、真空チャンバ10aの内部の温度を制御するための内部温度制御装置、真空チャンバ10aの内部の圧力を制御するための内部圧力制御装置、回転テーブル11に載置された被成膜物21,22を加熱するための加熱装置等を具備している。
【0040】
まず、回転テーブル11に被成膜物21,22を載置する。なお、図例では、被成膜物が2つ載置されているが、この被成膜物の数は、状況に応じて適宜変更してよいものである。そして、真空チャンバ10aの内部の温度を例えば200〜500℃程度に昇温する。また、真空チャンバ10aの内部の圧力を例えば10−3〜10−4Pa程度に減圧する。さらに、クロム系硬質被膜2の被成膜物21,22に対する密着力の向上を図るために、被成膜物21,22を例えば400〜500℃程度に加熱する。
【0041】
この状態で、アルゴン(Ar)ガスをガス供給口12aから真空チャンバ10aの内部に供給し、ガス排出口12bから真空チャンバ10aの外部に排出する。このアルゴンガスの供給量と排出量とを制御することにより、真空チャンバ10aの内部の圧力を例えば1〜5Pa程度に維持する。そして、回転テーブル11を回転させながら、被成膜物21,22にバイアス電源15によりバイアス電圧を印加する。これにより、被成膜物21,22の表面にアルゴンイオンが衝突して、被成膜物21,22の表面が活性化する(表面活性化工程)。この表面活性化工程におけるバイアス電圧は例えば300〜500V程度、アルゴンガスの供給量は例えば100〜300mL/分程度、供給時間は例えば30〜90分程度である。
【0042】
そして、アーク電源13,14によりクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク電流を印加する。これにより、クロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク放電が発生して、クロム蒸発源13a,14aからクロム(Cr)が蒸発する。クロム蒸発源13a,14aから蒸発したクロムは、アーク放電により発生したプラズマ中で電離(イオン化)した後、被成膜物21,22に印加されたバイアス電圧により加速されて、被成膜物21,22の表面に衝突し、堆積する。これにより、被成膜物21,22の表面にクロム(Cr)層2aが形成される(クロム層形成工程)。このクロム層形成工程におけるアーク電流は例えば80〜150A程度、印加時間は例えば1〜5分程度である。これにより、厚みが例えば0.1〜0.5μm程度のクロム層2aが得られる。
【0043】
次に、アルゴンガスに代えて、窒素源としての窒素ガスを真空チャンバ10aの内部に供給する。このときも、窒素ガスの供給量と排出量とを制御することにより、真空チャンバ10aの内部の圧力を例えば1〜5Pa程度に維持する。そして、アーク電源13,14によりクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク電流を印加する。これにより、クロム蒸発源13a,14aから蒸発したクロムと同様、窒素ガスの窒素(N)が、アーク放電により発生したプラズマ中で電離(イオン化)した後、被成膜物21,22に印加されたバイアス電圧により加速されて、クロムと共に被成膜物21,22の表面に衝突し、堆積する。これにより、クロム層2aの上に窒化クロム(CrN)層2bが形成される(窒化クロム層形成工程)。この窒化クロム層形成工程における窒素ガスの供給量は例えば500〜1500mL/分程度、アーク電流は例えば80〜150A程度、印加時間は例えば20〜60分程度である。これにより、厚みが例えば1.5〜3.0μm程度の窒化クロム層2bが得られる。
【0044】
次に、窒素ガスに加えて、炭素源としての炭化水素ガス(例えばメタンガス等)を真空チャンバ10aの内部に供給する。このときも、窒素ガス及び炭化水素ガスの供給量と排出量とを制御することにより、真空チャンバ10aの内部の圧力を例えば1〜5Pa程度に維持する。そして、アーク電源13,14によりクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク電流を印加する。これにより、クロム蒸発源13a,14aから蒸発したクロム及び窒素ガスの窒素と同様、炭化水素ガスの炭素(C)が、アーク放電により発生したプラズマ中で電離(イオン化)した後、被成膜物21,22に印加されたバイアス電圧により加速されて、クロム及び窒素と共に被成膜物21,22の表面に衝突し、堆積する。これにより、窒化クロム層2bの上に炭窒化クロム(CrCN)層2cが形成される(炭窒化クロム層形成工程)。
【0045】
その場合、この炭窒化クロム層形成工程において、窒素ガスの供給量を徐々に減少させ、炭化水素ガスの供給量を徐々に増大させる。これにより、炭窒化クロム層2cは、窒化クロム層2bから遠ざかるにつれて窒素の含有量が徐々に減少し、炭素の含有量が徐々に増大する傾斜組成となる。この炭窒化クロム層形成工程における初期の窒素ガスの供給量は例えば500〜1500mL/分程度、終期の窒素ガスの供給量は例えば10〜50mL/分程度、初期の炭化水素ガスの供給量は例えば10〜50mL/分程度、終期の炭化水素ガスの供給量は例えば300〜600mL/分程度、アーク電流は例えば80〜150A程度、印加時間は例えば60〜150分程度である。これにより、厚みが例えば1.5〜3.0μm程度の炭窒化クロム層2cが得られる。
【0046】
最後に、窒素ガスの供給を停止し、炭化水素ガスのみを真空チャンバ10aの内部に供給する。このときも、炭化水素ガスの供給量と排出量とを制御することにより、真空チャンバ10aの内部の圧力を例えば1〜5Pa程度に維持する。そして、アーク電源13,14によりクロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間にアーク電流を印加する。これにより、クロム蒸発源13a,14aから蒸発したクロムと同様、炭化水素ガスの炭素(C)が、アーク放電により発生したプラズマ中で電離(イオン化)した後、被成膜物21,22に印加されたバイアス電圧により加速されて、クロムと共に被成膜物21,22の表面に衝突し、堆積する。これにより、炭窒化クロム層2cの上に非晶質の炭化クロム(CrC)層2dが形成される(炭化クロム層形成工程)。この炭化クロム層形成工程における炭化水素ガスの供給量は例えば300〜600mL/分程度、アーク電流は例えば80〜150A程度、印加時間は例えば20〜50分程度である。これにより、厚みが例えば1.0〜2.5μm程度の炭化クロム層2dが得られる。
【0047】
本実施形態に係るクロム系硬質被膜2の製造方法は、クロム系硬質被膜2をPVD法で被成膜物21,22の表面に形成するから、被成膜物21,22の熱変形や熱変寸が小さくて済み、被膜2の形成後に製品の形状や寸法を修正する必要がない。また、被成膜物21,22と最外層の炭化クロム層2dとの間に、被成膜物21,22と窒化クロム層2bとの両方に対して密着性の良いクロム層2aと、窒化クロム層2bと、炭化クロム層2d側に向けて窒素の含有量が徐々に減少し炭素の含有量が徐々に増大する炭窒化クロム層2cとを介在させているから、炭化クロム層2dを被成膜物21,22に直接形成する場合に比べて、炭化クロム層2dの被成膜物21,22に対する密着性が著しく向上する。
【0048】
本実施形態に係るクロム系硬質被膜2の製造方法は、PVD法のうちでも、スパッタリング法やホロカソード法とは異なる、アークイオンプレーティング法でクロム系硬質被膜2を形成するから、最外層の炭化クロム層2dが非晶質となり、クロム系硬質被膜2の滑り性が向上し、摩擦係数が低下して、樹脂やゴム等の離型性が向上する。その結果、クロム系硬質被膜2をPVD法で形成しながら、クロム系硬質被膜2の離型性の低下が抑制される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を説述することにより、本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施例により何ら限定的に解釈されるものではない。
【0050】
<クロム系硬質被膜の製造>
はじめに、表面がブラスト研磨されて表面粗さ(Ra)が約0.05μmに鏡面仕上げされた一組のSKD 11製の樹脂成形用オス側金型母材及びメス側金型母材を準備した。そして、この一組の金型母材の表面に、図2に示したようなアーク式真空成膜装置10を用いて、アークイオンプレーティング(AIP)法により、以下の手順でクロム系硬質被膜2を形成した。
【0051】
まず、回転テーブル11にオス側金型母材21及びメス側金型母材22を載置し、回転テーブル11を回転させた。真空チャンバ10の内部の温度を400℃に昇温し、内部の圧力を3×10−3Paに減圧し、金型母材21,22を450℃に加熱した。真空チャンバ10の内部の圧力を2.7Paに維持しながら、アルゴンガスを150mL/分で60分供給し、その間、金型母材21,22に400Vのバイアス電圧を印加し、金型母材21,22の表面を活性化させた。
【0052】
この状態で、クロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間に100Aのアーク電流を3分印加し、金型母材21,22の表面にクロム層2aを形成させた。
【0053】
次に、真空チャンバ10の内部の圧力を2.7Paに維持しながら、アルゴンガスに代えて、窒素ガスを900mL/分で供給した。この状態で、クロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間に100Aのアーク電流を30分印加し、クロム層2aの上に窒化クロム層2bを形成させた。
【0054】
次に、真空チャンバ10の内部の圧力を2.7Paに維持しながら、窒素ガスに加えて、メタンガスを供給した。この状態で、クロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間に100Aのアーク電流を90分印加し、窒化クロム層2bの上に傾斜組成の炭窒化クロム層2cを形成させた。その場合、初期の窒素ガスの供給量を900mL/分とし、終期の窒素ガスの供給量を20mL/分とした。一方、初期のメタンガスの供給量を20mL/分とし、終期のメタンガスの供給量を400mL/分とした。
【0055】
最後に、真空チャンバ10の内部の圧力を2.7Paに維持しながら、窒素ガスの供給を停止し、メタンガスのみを400mL/分で供給した。この状態で、クロム蒸発源13a,14aと陽極13b,14bとの間に100Aのアーク電流を30分印加し、炭窒化クロム層2cの上に非晶質の炭化クロム層2dを形成させた。
【0056】
以上により、金型母材21,22の表面に、膜厚が約7μmのクロム系硬質被膜2が形成された。クロム系硬質被膜2のうち、クロム層2aの厚みは約0.3μm、窒化クロム層2bの厚みは約2.2μm、炭窒化クロム層2cの厚みは約2.5μm、炭化クロム層2dの厚みは約2.0μmであった。
【0057】
<クロム系硬質被膜の評価>
得られたクロム系硬質被膜2について、膜硬度(マイクロビッカース硬度:Hv)、離型性、密着性(ロックウェル圧痕テスト)、耐食性、耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
[離型性]
得られたクロム系硬質被膜2の上にポリカーボネート樹脂のペレットを載置し、320℃に加熱して溶融させた後、室温に冷却して固化させた。固化したポリカーボネート樹脂の離型性評価を、接合強度を評価するダイシェアテストに準じて行なった。すなわち、固化したポリカーボネート樹脂を荷重センサに接続したシェアツールで横から水平方向に押圧し、ポリカーボネート樹脂が被膜2から外れた時点の押圧荷重を測定した。なお、ポリカーボネート樹脂を用いて離型性を評価した理由は、ポリカーボネート樹脂が最も汎用性のある樹脂の一つであるからである。
【0059】
[密着性]
得られたクロム系硬質被膜2に対してロックウェル圧痕試験(圧子:ロックウェルCスケール、押し付け荷重:1470N)を行い、圧痕周辺部の被膜2の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
【0060】
◎:圧痕周辺部に剥離等の欠陥が認められなかった
○:圧痕周辺部に剥離等の欠陥が1箇所認められた
△:圧痕周辺部に剥離等の欠陥が2箇所以上認められた
[耐食性]
得られたクロム系硬質被膜2を20%塩化水素水溶液に室温で24時間浸漬した後の被膜2の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0061】
◎:被膜の荒れが認められなかった
○:被膜の荒れは認められたが母材の露出は認められなかった
△:被膜の荒れ及び母材の露出が認められた
[耐熱性]
得られたクロム系硬質被膜2の耐熱性を以下の基準で評価した。
【0062】
◎:耐熱温度が700℃以上
○:耐熱温度が600℃以上、700℃未満
△:耐熱温度が600℃未満
【0063】
【表1】

【0064】
比較例として、ホロカソード(HCD)法により、実施例と同様の膜構成のクロム系硬質被膜をSKD 11製の金型母材の表面に形成した。得られたクロム系硬質被膜の膜厚は約8μm、クロム層の厚みは約0.5μm、窒化クロム層の厚みは約1.5μm、炭窒化クロム層(傾斜組成)の厚みは約2.0μm、炭化クロム層(結晶性)の厚みは約4.0μmであった。この比較例についても、膜硬度、離型性、密着性、耐食性、耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
参考例1として、CVD法により、炭化クロムの単層膜をSKD 11製の金型母材の表面に形成した。得られたクロム系硬質被膜の膜厚は約8μmであった。また、参考例2として、PVD法により、窒化クロムの単層膜をSKD 11製の金型母材の表面に形成した。得られたクロム系硬質被膜の膜厚は約4μmであった。これらの参考例1,2についても、膜硬度、離型性、密着性、耐食性、耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
<評価結果考察>
表1から明らかなように、実施例のクロム系硬質被膜2は、膜硬度が2,700Hvあり、十分な耐摩耗性が確保されていた。また、密着性、耐食性、耐熱性にも優れる結果を示した。そして、離型性は62Nと4種類の膜のうち最も低い数値であった。このことは、冷却固化した樹脂が軽い力でクロム系硬質被膜2から外れることを意味し、離型性に優れることを示している。参考例1と比較すると、実施例のクロム系硬質被膜2は、CVD法で形成された炭化クロムの単層膜よりも離型性が向上していた。
【0067】
これに対し、比較例のクロム系硬質被膜は、膜硬度が2,400Hvと実施例よりもやや劣っていた。そして、離型性は78Nと参考例2と同程度に高い数値であった。参考例1と比較すると、比較例のクロム系硬質被膜は、CVD法で形成された炭化クロムの単層膜よりも離型性が低下していた。
【0068】
以上により、実施例のクロム系硬質被膜2は、PVD法で形成されたクロム系硬質被膜でありながら、離型性の低下が抑制されていることがわかる。
【0069】
このような離型性に関する実施例と比較例との結果の相違は、最外層の炭化クロム層の構造によるものと考察される。図3は、アークイオンプレーティング法で得られた実施例のクロム系硬質被膜2のX線回折分析結果を示すチャート図である。図中、鎖線で示すように、被膜2の内層部(母材側)では結晶構造の存在を示すピークが観測されるが、図中、実線で示すように、被膜2の外層部(外表面側)では結晶構造の存在を示すピークが観測されない。このことは、実施例のクロム系硬質被膜2では、最外層の炭化クロム層2dが非晶質であることを意味している。そして、最外層の炭化クロム層2dが非晶質であると、滑り性が向上して、樹脂やゴム等の離型性が向上するものと考察される。
【0070】
なお、図4は、実施例のクロム系硬質被膜2のグロー放電分光分析結果を示すチャート図である。このように、実施例のクロム系硬質被膜2は、最外層に炭素とクロムとを含有する炭化クロム層2dが確かに形成されていることが確認されている。
【0071】
一方、図5は、ホロカソード法で得られた比較例のクロム系硬質被膜のX線回折分析結果を示すチャート図である。図中、鎖線で示すように、被膜の内層部(母材側)においても、また、図中、実線で示すように、被膜の外層部(外表面側)においても、結晶構造の存在を示すピークが観測される。このことは、比較例のクロム系硬質被膜では、最外層の炭化クロム層が結晶性であることを意味している。そして、最外層の炭化クロム層が結晶性であると、滑り性が低下して、樹脂やゴム等の離型性が低下するものと考察される。
【符号の説明】
【0072】
1 被成膜物
2 クロム系硬質被膜
2a クロム層
2b 窒化クロム層
2c 炭窒化クロム層
2d 炭化クロム層
10 アーク式真空成膜装置
10a 真空チャンバ
11 回転テーブル
12a ガス供給口
12b ガス排出口
13,14 アーク電源
13a,14a クロム蒸発源
13b,14b 陽極
15 バイアス電源
21,22 金型母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被成膜物の表面にPVD法で形成されたクロム系硬質被膜であって、
最外層に非晶質の炭化クロム(CrC)層を有することを特徴とするクロム系硬質被膜。
【請求項2】
被成膜物の表面と炭化クロム層との間に、
窒化クロム(CrN)層と、
炭窒化クロム(CrCxNy)層(ただし、x+y=1、x<1、窒化クロム層から遠ざかるにつれてxは1に近づくように徐々に増大する。)とをさらに有することを特徴とする請求項1に記載のクロム系硬質被膜。
【請求項3】
被成膜物の表面と窒化クロム層との間に、
クロム(Cr)層をさらに有することを特徴とする請求項2に記載のクロム系硬質被膜。
【請求項4】
クロム系硬質被膜がPVD法で表面に形成された金型であって、
クロム系硬質被膜が、金型母材の表面に形成されたクロム(Cr)層と、
このクロム層の上に形成された窒化クロム(CrN)層と、
この窒化クロム層の上に形成された炭窒化クロム(CrCxNy)層(ただし、x+y=1、x<1、窒化クロム層から遠ざかるにつれてxは1に近づくように徐々に増大する。)と、
この炭窒化クロム層の上に形成された非晶質の炭化クロム(CrC)層とを有することを特徴とする金型。
【請求項5】
クロム系硬質被膜をPVD法で被成膜物の表面に製造する方法であって、
真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、被成膜物の表面にクロム(Cr)層を形成するクロム層形成工程と、
真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内に窒素を供給し、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、クロム層の上に窒化クロム(CrN)層を形成する窒化クロム層形成工程と、
真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内に窒素及び炭素を供給し、窒素の供給量を徐々に減少させると共に炭素の供給量を徐々に増大させ、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、窒化クロム層の上に炭窒化クロム(CrCxNy)層(ただし、x+y=1、x<1、窒化クロム層から遠ざかるにつれてxは1に近づくように徐々に増大する。)を形成する炭窒化クロム層形成工程と、
真空チャンバ内の被成膜物にバイアス電圧を印加しつつ、真空チャンバ内に炭素を供給し、真空チャンバ内のクロム蒸発源と陽極との間にアーク電流を印加してアーク放電を発生させることにより、炭窒化クロム層の上に非晶質の炭化クロム(CrC)層を形成する炭化クロム層形成工程とを有することを特徴とするクロム系硬質被膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−1801(P2012−1801A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140667(P2010−140667)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】