説明

クロリンの製造方法、及びその医薬としての使用

本発明は、光力学的療法(PDT)に反応する過剰増殖性組織、例えば、腫瘍、過剰増殖性血管及び他の疾病又は異常に対するPDTのために設計されたスルホン化クロリン及びスルホン化バクテリオクロリンの製造方法、特性、医薬組成物、及び治療における使用方法を提供する。特に、安定なクロリン及びバクテリオクロリンの大規模で効率的な合成について説明する。その特性は、PDTのための理想的な光増感剤の特性と一致するように調整されている。他の実施形態において、全身投与による治療の医薬組成物及び方法を提供する。更なる実施形態において、局所投与による治療の医薬組成物及び方法を提供する。さらに、標的組織を標識する方法を提供すると共に、MRIの蛍光によって、前記組織の画像を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光力学的療法(PDT)に反応する過剰増殖性組織、例えば、腫瘍、過剰増殖性血管及び他の疾病又は異常に対するPDTのために設計されたスルホン化クロリン及びスルホン化バクテリオクロリンの製造方法、特性、医薬組成物、及び治療における使用方法に関する。本発明は、特に、安定なクロリン及びバクテリオクロリンを、大規模に化学的に合成することができる新規な方法に関し、無溶媒、無基剤(base)であることを特徴とする。他の実施形態として、医薬組成物、及び全身投与による治療に該医薬組成物を使用する方法が提供される。更なる実施形態において、医薬組成物、及び局所投与による治療に該医薬組成物を使用する方法が提供される。また、過剰増殖性組織、例えば、腫瘍を、光力学的方法又はMRIを用いて検出する方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
[I.背景]
[I.A.最新技術]
種々のテトラピロール大員環、例えば、プルプリン、クロリン、バクテリオクロリン、フタロシアニン及びベンゾクロリン等は、生体に投与された際に、過剰増殖性組織に優先的に蓄積する能力、及び光を吸収し、光に反応して活性化状態を形成する能力を示す。これらの大員環は、適切な波長の光を照射されるときに、それらが局在化されている細胞又は他の組織に細胞傷害効果を呈する。さらに、これらの化合物はまた、前記組織から、その位置の検出に用いることができるエネルギー放射を引き起こす。
【0003】
PDTにおいて、患者は、腫瘍組織に対していくつかの選択性光傷害を示す光増感剤を投与され(通常、約0.1〜10mg/kg体重の範囲)、所定時間後、前記腫瘍領域に可視光線又は近赤外線が照射される(約50〜200J/cm)。前記光増感剤は、光を吸収し蛍光を発するか、又は前記組織において電子若しくは水素転移反応によって基質分子と反応する(I型工程)か、又は前記組織を攻撃する一重項酸素O (D)を生成する基底状態の酸素分子にそのエネルギーを移動する(II型工程)。I型工程における主な寄与因子は、電子的に励起された増感剤からの電子転移によって形成されたスーパーオキシド(O)である。細胞にとってI型工程よりもII型光酸素化工程の方が好都合であることが明らかである(非特許文献1,2参照)。しかし、スーパーオキシドが生成される場合におけるPDT反応の増幅もまた主張されている(非特許文献3参照)。検出の場合には、蛍光発光は、所望の波長の光に暴露されることにより測定される。低いエネルギーは、治療のためにも必要とされる。効果的な治療には、通常、前記組織に一重項酸素を高い生成量で形成する必要があり、これはスーパーオキシド又は他の活性酸素種(reactive oxygen species)の同時形成による相乗効果を有するかもしれない。
【0004】
PDT処理のための最適な増感剤の特性としては、(i)簡易で、効率的で、かつ経済的な合成、(ii)安定で、純度が高く、長い保存可能期間、(iii)生体適用性のある溶媒又は賦形剤への可溶性、(iv)「光治療域」(600〜900nm)の高い吸収係数、(v)一重項酸素分子の増感、又は高量子収率でのスーパーオキシド生成、(vi)暗所毒性が低いか、全く無いこと、(vii)腫瘍組織における選択的集積及び長期的な滞留、(viii)全身投与下での低い皮膚光増感、(ix)制御された光退色、(x)治療後の代謝又は排出の容易さ、を含む。前記増感剤は、細胞毒性種、特に、一重項酸素及び他の活性酸素種、例えば、スーパーオキシドイオンの前駆体にすぎない。一重項酸素及びよくあるようにスーパーオキシドの直接の前駆体は、三重項状態の増感剤である。従って、高い一重項酸素量子収率は、(i)ほぼ一貫した量子収率、(ii)一重項酸素の電子エネルギー(94kJ/mol)より少なくとも20kJ/mol超過した電子エネルギー、(iii)長い寿命(数百μ秒)という、少なくとも3つの増感剤三重項状態特性を必要とする。腫瘍組織内への蓄積及び滞留は、特定のベクターの添加により強化されるが、これらを達成するための前記増感剤に関連する固有特性は、増感剤の親水性/親油性であり、所望の標的に到達するような特性に調整する能力が最も望まれる特性である。
【0005】
前記光治療域の下限値は、組織中で可視領域の光を吸収する最大の原因であるヘムタンパク質の存在によって決定される。組織内での光の透過率は、550nm以下で急激に低下する。しかしながら、透過率は550〜630nmで、顕著に増加し、そして透過率は、700nmで再び倍になる。これは、その後に波長が800nmに向けて変化するに従って、組織透過性が10%増加する。前記光治療域の上限値は、水による赤外線放射の吸収、及び酸素への効率的なエネルギー移動のために必要とされるエネルギーによって決定される。実際には、前記増感剤から酸素分子へ移動する拡散律速三重項エネルギーは、前記増感剤の三重項エネルギーである少なくとも115kJ/molを必要とする。また、テトラピロール大員環に分裂する一重項−三重項エネルギーは、約40kJ/molであり(非特許文献4参照)、これは、増感剤が150kJ/molより大きい一重項エネルギーを有さなければならないことを必要とする。これらの増感剤は、ストークスシフトが通常小さいことを考慮すると、800nm直下(just below)の光を吸収するであろう。結論として、理想的な増感剤は、約750nmの波長の光を強く吸収する必要がある。バクテリオクロリンにおけるこの波長の強い吸収は、該バクテリオクロリンをPDT増感剤に対する理想的な候補とする。光透過性が重要でないときに適用するとすれば、クロリンもまたPDTのための適切な候補である。
【0006】
ヘマトポルフィリン誘導体であるPhotofrin(登録商標)(非特許文献5参照)は、最も広く用いられている光増感剤であり、種々の固形腫瘍の治療に対して認可されている(非特許文献6参照)。ヘマトポルフィリン誘導体(HpD)は、ヘマトポルフィリンを氷酢酸及び硫酸と混合し、次に酸性条件下で、加水分解及び沈殿を行うことにより製造される。この方法は、Lipsonらによって、部分的に記述されている(非特許文献7参照)。このようにして製造されたHpDは、ポルフィリンの複合混合物からなる。HpDはSephadex LH−20を用いたゲルろ過によって、2つの主画分に分割した場合、Photofrin(登録商標)と呼ばれるより分子量の大きな部分は、より効率的なPDT剤となる(非特許文献8参照)。推奨されるPhotofrin(登録商標)のヒトに対する用量は、1〜2mg/kg体重である。Photofrin(登録商標)の主成分は、エーテル、エステル及び可能な炭素−炭素結合と結合した二量体及び高次のオリゴマーである(非特許文献9参照)。
【0007】
Photofrin(登録商標)は、優れた有効性、水溶性、一重項酸素の妥当な収率及び生産の容易さといった、いくつかの好ましい特性を有している。しかしながら、Photofrin(登録商標)は、(i)エーテル、エステル又は炭素−炭素結合により結合されたポルフィリンの二量体及び高次のオリゴマーの複合混合物であること、(ii)投与後、4〜6週間の間、患者に皮膚光毒性を示すこと、(iii)赤色領域(630nm)における吸光度が相対的に弱いことに起因して、組織を透過する光の透過の欠如が、PPDでのPhotofrin(登録商標)の現在の臨床的応用を、治療に用いられる光源から4mm未満の距離に位置する癌組織の破壊に限定すること、といういくつかの不都合な特性もまた有している。従って、より効率的であり、化学的に純粋であり、低毒性であり、光をより劇的に吸収し、かつ赤外線を吸収する増感剤をより局在化する必要性がある。
【0008】
従来、ポルフィリンのクロリンへの転換に対応するテトラピロール環の一つの化学的還元は、その吸収係数の増加に伴い、赤色よりさらに遠くまで最も長い波長吸収帯を転移させることが知られている。このような特性はPDT光増感剤の第二世代において研究されており、Foscan(登録商標)という名称で商品化された5,10,15,20−テトラキス(3−ヒドロキシフェニル)クロリン(m−THPC)は、この第二世代光増感剤の最も有効なものの一つであることが明らかにされた(非特許文献10参照)。クロリンのバクテリオクロリンへの転換に対応する、対向するピロール環のさらなる還元は、吸収帯の赤外線領域への転移と、吸収係数の付加的な増加とを導く。しかしながら、バクテリオクロリンは、非常に不安定な化合物であり(非特許文献10参照)、PDT増感剤の研究努力は、クロリンに焦点が置かれている(非特許文献11参照)ということが、現在まで広く共有されて信じられている。その後、安定なバクテリオクロリンは、実際には合成可能であることが示されている(非特許文献12参照)。これは、本方法による安定なバクテリオクロリンの合成は不活性な機能性を有するバクテリオクロリンの製造に制限されると主張される論文中で、十分に評価がされていない(非特許文献13参照)。しかしながら、さらなる機能性を有するバクテリオクロリンが製造されている(特許文献1,2参照)。
【0009】
PDT増感剤としてのバクテリオクロリンの明確な利点、並びにいくつかの自然発生したバクテリオクロリンがインビトロ及びインビボの両方において有効な光増感剤であるという報告(非特許文献14,15参照)は、バクテリオクロリンを合成する多くの試みの動機付けとなった。合成バクテリオクロリンは、四酸化オスミウムの隣接ジヒドロキシル化(非特許文献16参照)、分子内環化(非特許文献17参照)、ジエノフィルとしてポルフィリンを用いるディールス・アルダー反応(非特許文献18参照)又はポルフィリンがジエンであるビニルポルフィリンを用いるディールス・アルダー反応(非特許文献19参照)、1,3−双極性環状付加(非特許文献20参照)、また、デヒドロジピリンアセタール誘導体の自己縮合によって(非特許文献21参照)、対応するポルフィリンを誘導体化することで製造される。さらに、バクテリオクロリンを製造するために、Whitlockによって数十年前に開発された、7,8−17,18−ピロリックポルフィリン位置をジイミドで還元することによる古典的な方法がある(非特許文献22参照)。これは、Bonnetにより用いられた方法であり、Foscan及び5,10,15,20−テトラキス(3−ヒドロフェニル)バクテリオクロリンを合成する(非特許文献23)。一方、非常に短期間の集中した研究は、上述した方法に基づく多くの特許を導くバクテリオクロリン誘導体の合成方法を完成した(例えば、特許文献3〜14参照)。
【0010】
いくつかの新たに合成されたバクテリオクロリンは、無視できる暗所毒性及び高い腫瘍選択性とを備え、部分的に水溶性であり、700〜800nmの範囲における顕著な吸収帯を有している。しかしながら、いくつかの不都合がまだある。即ち、(i)労力を有する精製を含み、複雑で費用のかかる合成方法であること、(ii)全身投与の場合、結果として有機溶剤に溶解することになり、生体に付加的な化学的負担をかけ、又は賦形剤に結合させることにより処置における費用が高くなるような限られた水溶性であること、(iii)特に、光の存在時に化学的に不安定であること、(iv)一重項酸素量子収率が低いか又は未知であることである。この第三世代の光増感剤の興味深い典型としては、現在、Tookad(登録商標)として知られているパラジウムバクテリオフェオホルビドがあり、これは第III相臨床研究に承認されている。Tookad(登録商標)は、バクテリオクロロフィルから誘導されたものであり、自然発生したバクテリオクロリンの多くは、非常に酸素に敏感であり、結果として、迅速に酸化されて、660nmか又はそれ以下で吸収極大を持つクロリンの状態となる。さらに、インビボにおいてバクテリオクロリンを励起するためにレーザが用いられる場合、酸化により、光増感効果を低下させるレーザ光線領域外の光を吸収する新規の発色団を生成するかもしれない。この化合物ファミリーの光化学分解は、TX−100/PBS中における778nm(13mW)の照明で測定され、前記化合物の90%が、660nmでクロリンバンド(chlorin band)の成長に伴い、5分(4J)で不可逆的に破壊されることが明らかにされた(非特許文献3参照)。
【0011】
PDTは、また、皮膚疾患、即ち、光線角化症、細胞癌、ボーエン病(上皮内における扁平上皮細胞癌)、基底細胞癌の治療に対して広範に試験されたが、悪性メラノーマに適用可能な情報はない(非特許文献24参照)。メラニンは700nm以下の波長の組織中への光浸透性を低下させるため、可視光線を用いる場合、メラノーマ組織の高い色素沈着は、PDTの効率を制限する。また、非腫瘍疾患、例えば、乾癬等に、局所的PDTを用いることが報告されている。初期の研究では、経皮浸透促進剤を含む液剤中に、ヘマトポルフィリン誘導体(非特許文献25参照)、及びメソ−テトラフェニルポルフィンスルホン酸四ナトリウム塩(非特許文献26参照)が用いられた。しかしながら、概して、HpD又は他のポルフィリンが、組織を介する拡散を促進することを目的とする賦形剤を含む製剤(例えば、液体、ゲル、クリーム、エマルジョン等)により局所使用される場合、ポルフィリンは、正常な組織液が生じることによって、浸透促進剤の希釈物として維持される傾向がある。このような状況において、ポルフィリンは、もはや組織を介して拡散することができない(又は、たとえ溶液中に残存していても)。それ故、ポルフィリンの局所使用は、しばしば悪性組織に対する特異性の低下に関連し、該使用部位に隣接する正常組織は、ポルフィリンの局所的な集中の結果として、光増感の持続性を発達させる可能性がある。
【0012】
これらの問題を克服するためには、ポルフィリンを局所使用するよりはむしろ、ポルフィリン自体を光増感剤として使用するのではなく、インビボにおける内因性ポルフィリン、即ちプロトポルフィリンIX(PpIX)の合成を増加させる作用因子として使用することに利点があることが示唆されている(非特許文献27参照)。5−アミノ−4−オキソペンタン酸、さもなければ5−アミノレブリン酸(又はALA)として知られているものは、プロトポルフィリンIXの生物学的前駆体であることが知られている。過剰なALAは、PpIXの生物学的な蓄積を引き起こす。前記PpIXは、実在の光増感剤である。従って、皮膚腫瘍に局所的にALAを用いることによって、それから数時間後に該腫瘍を光に暴露し、有益な光治療効果を得ることができるかもしれない(例えば、特許文献3参照)。バシローマ及び扁平上皮細胞癌を覆っている皮膚は、健康な皮膚よりもALAをより容易に浸透し、かつ、PpIXの生合成が皮膚腫瘍に対してより効果的であるので、ALAの局所使用は、腫瘍中においてPpIXの産生の選択的促進を引き起こすことが判明した。これは、ALA又はその誘導体の皮膚学的な処方の多くに対する根拠となっている。ALA又はその誘導体、特に、Levulan(登録商標)及びMetvix(登録商標)は、認可されており、かつ臨床用途に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2005012212号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/053707号
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/7166719号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/6624187号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/6569846号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2002/6376483号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第1999/5864035号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第1998/5831088号明細書
【特許文献9】国際公開第90/12573号
【特許文献10】国際公開第94/00118号
【特許文献11】国際公開第95/32206号
【特許文献12】国際公開第96/13504号
【特許文献13】国際公開第97/32885号
【特許文献14】米国特許出願公開第2006/194960号明細書
【特許文献15】米国特許第4562075号明細書
【特許文献16】米国特許第4405616号明細書
【特許文献17】米国特許第3989816号明細書
【非特許文献】
【0014】
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【非特許文献29】E.G. Azenha, A.C. Serra, M. Pineiro, M.M. Pereira, J. Seixas de Melo, L.G. Arnaut, S.J. Formosinho, A.M.d.A.R. Gonsalves, Chem. Phys 280 (2002) 177.
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【非特許文献37】J.M. Dabrowski, M.M. Pereira, L.G. Arnaut, C.J.P. Monteiro, A.F. Peixoto, A. Karocki, K. Urbanska, G. Stochel, Photochem. Photobiol. 83 (2007) 897.
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【非特許文献39】M.H. Qvist, U. Hoeck, B. Kreilgaard, F. Madsen, S. Frokjaer, Eur. J. Pharm. Sc. 11 (2000) 59.
【非特許文献40】J. O'Brien, I. Wilson, T. Orton, F. Pognan, Eur. J. Biochem. 267 (2000) 5421.
【非特許文献41】M. Niedre, M.S. Patterson, B.C. Wilson, Photochem. Photobiol. 75 (2002) 382-91.
【非特許文献42】C. Tanielian, C. Schweitzer, R. Mechin, C. Wolff, Free Radic. Biol. Med. 30 (2001) 208-12.
【非特許文献43】C. Hadjur, N. Lange, J. Rebstein, P. Monnier, H. van der Bergh, G. Wagnieres, J. Photochem. Photobiol. B: Biol. 45 (1998) 170-78.
【非特許文献44】R. Bonnett, B.D. Djelal, A. Nguyen, J. Porphyrins Phthalocyanines 5 (2001) 652.
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【非特許文献50】H. Rezzoug, L. Bezdetnaya, O. A'amar, J.L. Merlin, F. Guillemin, Lasers Med. Sci. 13 (1998) 119.
【非特許文献51】C.A. Lipinski, F. Lombardo, B.W. Dominy, P.J. Feeney, Adv. Drug Del. Rev. 46 (2001) 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、ALAの使用が技術の顕著な進歩を表す一方、ALAを用いる光力学的療法は、全く満足のいくものではない。患者は、ALA−PDTにおいて痛みを経験したと繰り返し報告している(非特許文献28参照)。ALAは、プロドラッグであり、前記薬物の製造の効率は、対象における生合成によって変化する。非常に限られた量のPpIXのみを細胞によって生合成することができる。PpIXは、製剤処方として不安定となる傾向がある。PpIXは、腫瘍又は他の疾患といった、広い範囲の治療を可能にするために、満足のいく効率で全ての腫瘍及び他の組織に浸透することができない。光活性化するための好ましい波長は、約635nmであり、1cm厚のヒト組織のスラブを通過できる入射赤色光(600〜700nm)は、たったの1〜10%の範囲の間である。そのため、局所使用のために光力学治療薬を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[I.B.発明の要約]
第1の特徴によれば、本発明は、下記式(I)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体の製造方法を提供する。

【0017】
前記製造方法は、(i)無溶媒、かつ選択的に無基材で、対応する置換ポルフィリンを、ヒドラジドを用いてクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体に固相還元する工程を備える。前記対応する置換ポルフィリンは、下記式(II)で表される。

【0018】
従って、式(I)で表される化合物は、下記式(V)で表されるクロリン誘導体であってもよい。

【0019】
あるいは、式(I)で表される化合物は、下記式(VI)で表されるバクテリオクロリン誘導体であってもよい。

【0020】
好ましくは、X, X, X, Xは、ハロゲン(F,Cl,Br)からそれぞれ独立に選択される。
【0021】
好ましくは、R, R, R, Rは、Hである。
【0022】
好ましくは、YはHである。
【0023】
好ましくは、R, R, R, Rは、−SORであり、Rは、−Cl,−OH,−アミノ酸,−OR,−NHR及び−NRからそれぞれ独立に選択され、Rは、炭素原子の数が1〜12のアルキル基である。
【0024】
さらなる特徴によれば、X, X, X, Xは、ハロゲン(F,Cl,Br)からそれぞれ独立に選択され、
, R, R, Rは水素であり、
YはHであり、及び
, R, R, Rは、−SORであり、Rは、−Cl,−OH,−アミノ酸,−OR,−NHR及び−NRからそれぞれ独立に選択され、Rは、炭素原子の数が1〜12のアルキル基である。
【0025】
さらなる特徴によれば、本発明は、下記式(III)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体の製造方法を提供する。

【0026】
前記製造方法は、(i)無溶媒、かつ選択的に無基材で、対応する置換ポルフィリンをヒドラジドを用いて、クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体に固相還元する工程を備える。前記対応する置換ポルフィリンは、下記式(IV)で表される。

【0027】
従って、式(III)で表される化合物は、下記式(VII)で表されるクロリン誘導体であってもよい。

【0028】
あるいは、式(III)で表される化合物は、下記式(VIII)で表されるバクテリオクロリン誘導体であってもよい。

【0029】
さらなる特徴によれば、式(IV)で表される前記対応する置換ポルフィリンに対して、R’は−SORであり、Rは−Clであり、前記製造方法は、さらなる工程を備える。
【0030】
(ii)前記クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体に、アミン(H−NHR若しくはH−NR)、アミノ酸、又はアルコール(H−OR)(Rが炭素原子の数が1〜12のアルキル基である)を結合し、
クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体(R’は−SORであり、Rはアミノ酸,−OR,−NHR又は−NRであり、Rは炭素原子の数が1〜12のアルキル基である)を提供する。
【0031】
さらなる特徴によれば、本発明は、
(a)下記式(III)で表されるクロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体又は、その医薬として許容可能な組成物の誘導体と、

【0032】
(b)表面浸透促進剤とを備えることを特徴とする医薬組成物を提供する。
【0033】
さらなる特徴によれば、本発明は、過剰増殖性組織の検出における下記式(III)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体、またはそれらの医薬として許容可能な組成物の誘導体の使用方法を提供する。

【0034】
さらなる特徴によれば、本発明は、(i)下記の式(III)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な組成物の誘導体であって、標的に優先的に結合する誘導体を診断上十分な量で対象に投与する工程と、(ii)前記クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体が前記標的に結合する十分な時間を与え、前記標的組織と優先的に結合していないクロリン誘導体及びバクテリオクロリン誘導体を非標的組織から洗浄する工程と、(iii)患者体内の式(III)の化合物を視覚化する工程とを備える、対象における過剰増殖性組織の存在を検出するための方法を提供する。

【0035】
前記視覚化する工程は、患者の身体の少なくとも一部についてMRI画像を生成することによって達成されてもよい。
【0036】
または、前記視覚化する工程は、前記化合物が蛍光を発するために十分なエネルギーの光に該化合物を暴露することによって達成されてもよい。
【0037】
さらなる特徴によれば、本発明は、皮膚癌、又は光線角化症、扁平上皮細胞癌、ボーエン病、基底細胞癌、乾癬、尋常性座瘡及び酒さから選択される皮膚疾患の治療に用いるための医薬として許容可能な組成物を提供する。前記組成物は、(i)下記式(III)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体と、(ii)かかる式(III)の化合物の皮内到達又は経皮到達のための医薬として許容可能な担体であって、皮膚に一時的に浸透し、各種の皮膚層を通して該化合物の浸透を促進する皮膚表面浸透促進剤からなる前記担体とを備える。

【0038】
ここで、
(a)前記組成物は、対象に投与される。
(b)クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体が、皮膚科的治療の標的の近辺に優先的に位置するのに十分な時間を与えられる。
(c)前記標的は、照射され、前記皮膚癌又は前記皮膚疾患に所望の反応が得られる。
【0039】
[前記誘導体の製造方法]
好ましくは、前記ヒドラジドは、p−トルエンスルホニルヒドラジド、4−クロロベンゾスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニル)ヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、4−メトキシベンゼンスルホニルヒドラジド、又は安息香酸ヒドラジドである。
【0040】
固相反応は、反応物の一つの融点以上の温度を必要とし、それにより他の反応物は、一部が溶解し、又は前記溶解した反応物中に分散する。ヒドラジドとポルフィリン誘導体との間の固相反応のため、該固相反応は、前記ヒドラジドの融点以上の温度で好適に行われる。
【0041】
好ましくは、前記還元工程は、少なくとも70℃の温度で行われる。好ましくは、前記還元工程は、少なくとも100℃の温度で行われる。さらなる特徴によれば、前記還元工程は、70〜200℃の範囲の間の温度で行われる。好ましくは、前記還元工程は、少なくとも5分間行われる。
【0042】
好ましくは、前記還元工程は、真空下又は不活性雰囲気下で行われる。
【0043】
[医薬組成物]
好ましくは、前記医薬組成物は、前記クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩を、該組成物の全重量に対し、少なくとも0.01重量%含む。好ましくは、前記医薬組成物は、前記クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩を、該組成物の全重量に対し、0.01〜30重量%含む。好ましくは、前記医薬組成物は、前記クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩を、該組成物の全重量に対し、0.01〜10重量%含む。好ましくは、前記医薬組成物は、前記クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩を、該組成物の全重量に対し、0.1〜1重量%含む。
【0044】
表面浸透促進剤が医薬組成物中に存在する場合、好ましくは、前記組成物は、該表面浸透促進剤を、該組成物の全重量に対し、0.05〜10重量%含む。好ましくは、前記組成物は、前記表面浸透促進剤を0.1〜10重量%含む。好ましくは、このような表面浸透促進剤は、ジメチルスルホキシド及び他のジアルキルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、グリコール、種々のピロリドン誘導体、並びに種々の1−置換アザシクロアルカン−2−オンから選択されてもよい。
【0045】
好ましくは、グリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール425、トリメチレングリコール及びプロピレングリコールモノラウレートから選択されてもよい。
【0046】
好ましくは、ピロリドン誘導体は、N−ドデシルピロリジン−3,5−ジオン、N−ドデシルピロリジン−2−チオン、N−ドデシル−2−ピロリドン、N−(2,ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−ブチル−3−ドデシル−2−ピロリドン、1,5ジメチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、1−ヘキシル−4−メチルオキシカルボニル−2−ピロリドン、1−ヘキシル−2−ピロリドン、1−(2ヒドロキシエチル)ピロリジノン、3−ヒドロキシ−N−メチル−2−ピロリジノン、1−ラウリル−4−メチルオキシカルボニル−2−ピロリドン及びN−メチル−2−ピロリドンから選択されてもよい。
【0047】
好ましくは、1−置換アザシクロアルカン−2−オンは、特許文献15〜17に開示されたAzone(登録商標)について言及される1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オンを含む。
【0048】
[過剰増殖性組織の検出]
クロリン誘導体及びバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩が、過剰増殖性組織の検出に用いられるときに、好ましい例は、前記過剰増殖性組織は、血管内皮組織、新生血管系組織(新生血管系組織は、目に存在する)、腫瘍の異常血管壁、固形腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、眼腫瘍、消化管腫瘍、肝臓腫瘍、乳房腫瘍、前立腺腫瘍、肺腫瘍、非固形腫瘍、造血組織及びリンパ系組織の一つの悪性細胞、血管系における病変、罹患骨髄、及び自己免疫性疾患及び炎症性疾患の一つの病気における異常細胞から選択されてもよい。
【0049】
[過剰増殖性疾患の治療]
さらなる特徴によれば、本発明は、過剰増殖性疾患の治療に用いる薬剤の製造において、後述するクロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩を使用する方法を提供する。
【0050】
クロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩が過剰増殖性疾患の治療に用いられるとき、好ましくは、該過剰増殖性疾患は、癌、骨髄腫、乾癬、黄斑変性から選択される。好ましくは、例として、胃癌、腸癌、肺癌、乳癌、子宮癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、咽頭癌、非上皮性悪性腫瘍、肝臓癌、膀胱癌、上顎癌、胆管癌、頭頸部癌、舌癌、脳腫瘍、皮膚癌、悪性甲状腺腫、前立腺癌、結腸直腸癌、耳下腺癌、ホジキン病、多発性骨髄腫、腎臓癌、白血病及び悪性リンパ細胞腫である。
【0051】
このような治療は、好ましくは、クロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩に、クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体の吸収帯と一致する波長の光を照射する工程を含む。好ましくは、前記光は、600〜800nmの範囲の波長を有する。クロリンが用いられる場合、前記光は、好ましくは、630〜690nmの範囲の波長を有する。バクテリオクロリンが用いられる場合、前記光は、好ましくは、720〜780nmの範囲の波長を有する。
【0052】
好ましい前記光線量は、1〜250J/cmの範囲である。いくつかの特徴において、好ましい前記光線量は、50J/cm未満であり、20J/cm未満であり、10J/cm未満である。
【0053】
クロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩の好ましい用量は、一日あたり0.01〜200mg/kg体重である。クロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な塩の好ましい用量は、一日あたり0.01〜100mg/kg体重である。
【0054】
本発明は、上述の先行技術の観点からなされたものである。特許文献2(特許文献1)に記載された合成方法は、3つのほぼ定量的な工程を備える。(i)フェニル環のクロロスルホン化を経るハロゲン化テトラキスポルフィリンの官能化工程と、(ii)クロロスルホン酸基と、求核試薬、水、即ちアミン又はアルコールとの反応を経由しての両親媒性化合物を合成する工程と、(iii)無機又は有機の非求核塩基の存在下におけるテトラピロール大員環のヒドラジド誘導体による還元工程とである。しかしながら、特許文献2の図2に示されているように、前記方法によるハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンの合成は、類似クロリンの混入と、面倒な分離を必要とする精製とを伴う。本発明の目的は、効率的な、環境に優しく、純粋な大規模合成ができ、安定的、かつ官能基としてフェニル環のオルト位に電子吸引基を持つテトラキスフェニルクロリン及びテトラフェニルバクテリオクロリンを提供することにある。本発明の目的は、また前記クロリン及びバクテリオクロリンの化学的特性、治療特性、これらの分子を用いる治療方法及び医薬組成物、並びにPDTにおけるこれらの有効性の証拠を提供することにある。
【0055】
ハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンは、それをPDTに対する望ましい光増感剤とする上で顕著な特徴を有する。
【0056】
1)前記フェニル基のオルト位におけるハロゲン原子の存在が、3つの機能を奏する。第1に、制御された「重原子効果」を生じさせることにより、三重項の寿命を犠牲にすることなく増感剤三重項状態の収率を増加させ、そして電子エネルギーを酸素分子に効率的に移動させる能力を有する(非特許文献29参照)。第2に、電子的効果及び立体効果の両方によって、テトラピロール大員環の還元状態を安定させる。第3に、電荷移動相互作用を通じて酸素分子へのエネルギー移動の速度定数を加速し、一重項酸素、スーパーオキシド及び他の活性酸素種の大きな収量を導く。
【0057】
2)前記フェニル基のメタ位におけるスルホン酸基の存在は、2つの機能を奏する。第1に、前記増感剤の親水性/親油性を調整する調整手段を提供する。なぜならば、強い疎水性増感剤は、おそらく溶解性の低さ及び細胞膜から他の細胞内区画への移動能力の低さに起因して、低い光毒性を有すると思われる。一方、強い親水性染色剤(dyes)は、腫瘍間質に大部分が局所的に集中し、PDT効率を低減するかもしれない(非特許文献30参照)。第2に、前記スルホン酸基、特に、大きく長い置換基が結合されているスルホン酸基は、前記染色剤のバクテリオクロリン主要部の酸化に対する付加的な立体保護を提供する。
【0058】
3)前記フェニル基のオルト位のハロゲン原子と、メタ位のスルホン酸基の同時存在は、付加的な機能を奏する。分子モデリング及び実験データは、非対称のフェニル環を有する5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリンのメソ位の単結合の束縛回転が存在するとき、幾何異性体(アトロプ異性体として知られている)は、ポルフィリン平面に関してオルト位又はメタ位の置換基の位置が異なることに起因する(非特許文献31参照)。前記アトロプ異性体は、顕著に異なる極性、及び最も長い波長吸収帯の吸収係数を有し、該吸収係数は、一桁近く異なる。特に、4つのスルファモイル置換基を前記ポルフィリン平面の同一側面に有するα異性体は、最も高い吸収係数を有すると共に、前記アトロプ異性体の最も大きい両親媒性をもつ。
【0059】
PDTにおいて、スルホン化クロリン及びスルホン化バクテリオクロリンの幅広い使用は、経済的で、かつ環境に優しい合成方法を必要とし、それは、工業的規模で実施することができる。ポルフィリン前駆体及びヒドラジドのみに基づいて、このような化合物を製造する新規な方法を提供することが、本発明の主要な目的である。ヒドラジドは固相状態で添加され、酸素又は塩基の欠如下に、密閉反応器中で溶融温度以上に加熱される。所望の生成物は、しばらく後に得られる。
【0060】
また、適切な賦形剤を有する前記スルホン化クロリン又はスルホン化バクテリオクロリンの局所投与に用いるPDTの方法を提供することが、本発明の一つの目的である。光増感剤の局所投与のための賦形剤は、溶液、ゲル、クリーム、エマルジョン、軟膏等を含む、異なる形態をとってもよい。典型的には、このような賦形剤の製剤は、少なくとも一つの表面浸透促進剤を含む。500ドルトンを超える分子量を有する薬剤は、皮膚に十分に浸透しない(非特許文献32参照)という、この分野における通念(conventional wisdom)に対して、本発明は、皮膚疾患に対して、前記スルホン化クロリン又はスルホン化バクテリオクロリンの効率的な皮内到達(intradermal delivery)のための製剤を提供する。前記スルホン化クロリン又はスルホン化バクテリオクロリン分子は1kDをわずかに超過する分子量に到達する。
【0061】
本発明は、例えば、腫瘍のような過剰増殖性組織の治療及び検出のための化合物に関し、光力学的方法を用いる。本発明の化合物はまた、次の疾患の治療に有益である。例えば、乾癬、尋常性座瘡及び酒さ等の皮膚疾患、例えば、機能不全性子宮出血等の婦人科疾患、例えば、コンジロームウイルス等の泌尿器系障害、例えば、再狭窄及び動脈硬化性プラーク等の循環器疾患、細菌又はウイルスの光力学的破壊、体毛除去及び化粧、臓器又は組織の移植後の免疫反応の抑制。
【0062】
最後に、ハロゲン化スルホン化クロリン又はハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンを用いる過剰増殖性組織の診断方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。これらの化合物は前記組織に優先的に蓄積し、ごく微量の化合物を確実に検出するという診断のために必要な付加的な特性を提供する。これらの化合物は、前記組織が大部分を透過させる赤色光領域及び赤外線領域に、非常に明確な吸収帯を有する。これらの化合物の選択励起は、生体分子が発しない波長で明確な蛍光発光を導く。蛍光発光の検出は、非常に鋭敏な装置によって行うことができ、ナノモル以下の量のハロゲン化スルホン化クロリン又はハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンを生体媒質中において測定することができる。光診断及び光治療のための照射源は、制限されないが、所望の波長領域における集約された光線を選択的に適用することができるので、レーザービームであることが好ましい。前記光線は、診断のために前記化合物を蛍光発光させるため、及び治療のために殺細胞効果を発揮させるために、十分な強さを有している必要がある。さらに、フッ素化スルホン化クロリン又はフッ素化スルホン化バクテリオクロリンが用いられるとき、フッ素MRI(磁気共鳴画像)は、身体の小さい領域におけるこれらの化合物の蓄積を検出することができ、そして、身体を形成する間隙に形成される代謝産物を追跡することができる。
【0063】
本発明は、ここで、図面を参照して、限定されない実施例についてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】600nm遮断フィルタを有する500Wハロゲンランプのスペクトル密度、及びクロリン(ドットライン)及びバクテリオクロリン(ダッシュライン)の赤外線吸収スペクトル。
【図2】完全に無溶媒及び無基材であることを特徴とする合成経路において、対応するポルフィリンの還元により得られるLuzitin−FMetの吸収スペクトル。
【図3】完全に無溶媒及び無基材であることを特徴とする合成経路において、対応するポルフィリンの還元により得られるLuzitin−ClEtの吸収スペクトル。
【図4】Luzitin−ClEtのアトロプ異性体の極性のより大きい画分(βα+α)の吸収スペクトルであり、赤外領域の吸光度の増加を示す。前記スペクトルから、748nmでεmax=150,000M−1cm−1に到達すると推定された。
【図5】中性水溶液中(実線)、pH1とした2時間後(ドットライン)、及び中和後(ダッシュライン)におけるLuzitin−Clの吸収スペクトル。前記スペクトルは、HCl水溶液及びNaOH水溶液を滴下して添加することにより生じた希釈効果についての補正が行われた。
【図6】28.8mW(110J)での、748nmリンクスダイオードレーザによる65分間の照射前(左図)及び照射後(右図)における、PBS:メタノール(3:2)中のLuzitin−FMetの吸収スペクトルであり、制御された光退色について説明する。
【図7】空気飽和エタノール中のLuzitin−ClHep又はフェナレノンの355nmでの励起に続いて、1270nmで得た一重項酸素蛍光強度。リン光強度対レーザ強度の強度依存性の傾きにより、増感剤の一重項酸素量子収率を決定した。
【図8】照射下、80μMのLuzitin−Cl存在下に得られるEPRスペクトル。上図:PBS中における40mMのBMPOを有するスペクトルは、ヒドロキシルラジカルを有するBMPOのスピン付加物のスペクトルに対応する。下図:DMSO中における40mMのDMPOを有するスペクトルは、スーパーオキシドを有するDMPOのスピン付加物のスペクトルに対応する。
【図9】[Luzitin−Cl−c]=20μMの存在下、様々な光線量に対するS91細胞の生存率(%)。細胞内に取り込まれていない光増感剤は、照射前に取り除かれていない。差し込み図:異なる濃度の増感剤におけるS91細胞の細胞株に関するLuzitin−Cl−cの暗所における細胞毒性。
【図10】12時間の培養後、[Luzitin−Cl]=5μMの存在下、各種の光線量に対するMCF7細胞の生存率(%)。細胞内に取り込まれていない光増感剤は、照射前に取り除かれた。差し込み図:異なる濃度の増感剤におけるMCF細胞の細胞株に関するLuzitin−Clの暗所での細胞毒性。効果的な光出力は、0.53mW/cmであった。
【図11】投薬から24時間後に照射したときの、前立腺癌細胞株PC−3中のLuzitin−Clの光毒性効果。培地中の細胞は、748nmのレーザ光を30秒又は60秒の間照射され、対応する光線量は、それぞれ3J/cm及び6J/cmとされた。
【図12】投薬から18時間後に照射したときの、マウス大腸癌細胞株中の各種のLuzitin−ClEt濃度に関して対照群と比較した細胞生存率。細胞内に取り込まれていない光増感剤は照射前に取り除かれた。培地中の細胞は、748nmのレーザ光で、60秒間照射され、対応する光線量は、6J/cmとされた。
【図13】18時間の培養後、ヒト腺癌細胞株における各種のLuzitin−FMet濃度に関して対照群と比較した細胞生存率。細胞内に取り込まれていない光増感剤は照射前に取り除かれた。培地中の細胞は、748nmのレーザ光で、60秒間照射され、対応する光線量は、6J/cmとされた。
【図14】18時間の培養後、ヒト非小肺癌細胞株における各種のLuzitin−FMet濃度に関して対照群と比較した細胞生存率。細胞内に取り込まれていない光増感剤は照射前に取り除かれた。培地中の細胞は、748nmのレーザ光で、60秒間照射され、対応する光線量は、6J/cmとされた。
【図15】3.26nM(実線)及び0.26nM(ダッシュライン)のヒト血清濃度におけるLuzitin−ClEtの蛍光発光であり、これらは検出限界を決定するために用いた。また、基線(ダッシュ−ドットライン)及びガウス曲線(ドットライン)については、低い蛍光強度のより正確な決定をするための最も低い濃度をシミュレートするために用いた。
【図16】DBA/2マウスに対する10mg/kgのIP投与後の、肝臓、血液及び脳の各質量で除したLuzitin−Cl−cの蛍光発光。
【図17】DBA/2マウスに対する10mg/kgのIP投与後の、Luzitin−Clの薬物動態及び生体内分布。種々の組織(血液、腫瘍、心臓、肺、脾臓、肝臓、腎臓、筋肉、皮膚)における蛍光強度は、それらの各質量により正規化された。
【図18】DBA/2マウスに対する10mg/kgのIP投与後の、腫瘍及び血液の各質量で除したLuzitin−ClEtの蛍光発光。
【図19】CT26腫瘍が埋めこまれ、かつLuzitin−FMetで処理されたBalb/Cマウス中の腫瘍の体積。太線は、4匹の対照マウスにおける平均的な腫瘍の大きさを示す。これらはLuzitin−FMetが投与されているものの、照射がなされていない。エラーバーは、標準偏差である。細線は、Luzitin−FMet及び748nmにおける132J/cmのレーザ光で処理された個々の動物を表す。
【図20】Luzitin−ClEtで処理されたDBA/2マウスに埋め込まれたS91腫瘍の大きさ。748nmで2種のレーザ光線量を用いた。
【図21】ミニブタの背中に局所的に適用した後3時間におけるLuzitin−FMetの共焦点蛍光。744nmでの多光子励起、全てのノイズ除去、6枚の写真によって構成された蛍光平面画像、800V@検出器、ピンホール=379μm。前記光増感剤は、角質層及び上皮の50μmを通過して拡散した。
【図22】共焦点顕微鏡法により得られるミニブタの背中において局所的に適用した後3時間でのLuzitin−FMetの吸収スペクトル。各種の線は、異なる部位の試料における測定に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0065】
[II.詳細な説明]
[II.A.定義]
ここで用いられる「過剰増殖性疾患」は、それらの状態の疾患が、基礎病理として、無秩序又は異常細胞増殖によって引き起こされる過剰な細胞増殖を共有することを意味し、制御されていない血管新生を含む。過剰増殖性疾患の例としては、これに限るものではないが、癌、骨髄腫、乾癬、黄斑変性症を含む疾患である。
【0066】
ここで用いられる「過剰増殖性組織」は、制御不能に増殖する組織を意味し、腫瘍、及び、抑制することができない血管の増殖、例えば、加齢に関連する黄斑変性症において発見される血管の増殖等を含む。
【0067】
ここで用いられる「腫瘍」は、新生物を意味し、良性腫瘍及び悪性腫瘍の両方を含む。この用語は特に、固形、又は非固形(例えば、白血病等)のいずれか一方となりうる悪性腫瘍を含む。腫瘍の例としては、胃癌、腸癌、肺癌、乳癌、子宮癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、咽頭癌、非上皮性悪性腫瘍、肝臓癌、膀胱癌、上顎癌、胆管癌、頭頸部癌、舌癌、脳腫瘍、皮膚癌、悪性甲状腺腫、前立腺癌、結腸直腸癌、耳下腺癌、ホジキン病、多発性骨髄腫、腎臓癌、白血病及び悪性リンパ細胞腫である。
【0068】
ここで用いられる「伝染性病原体」は、侵入してくる微生物又は寄生生物を意味する。ここで用いられる「微生物」は、ウイルス、細菌、リケッチア、マイコプラズマ、原生動物、菌類及び類似する微生物を意味し、「寄生生物」は、感染性の、一般的に微細な若しくは非常に小さい多細胞性の無脊椎動物、又は抗体誘導性のクリアランス(clearance)若しくは溶解又は食作用による破壊の影響を受け易い卵又はその幼形を意味する。
【0069】
ここで用いられる「医薬品」又は「薬物」は、対象に適切に投与することにより、所望の治療上の効果又は予防効果を誘導することができる化学物質又は化学組成物を意味する。このような化学物質又は化学組成物は、光を吸収して、薬物として作用するためか、又は後で薬物として作用する他の化学物質を活性化するためかのいずれか一方に、それを用いる光増感剤を含むが、それに限定するものではない。
【0070】
ここで用いられる「医薬として許容可能な組成物誘導体」は、生物学的活性基に結合される光増感剤である組成物を意味し、該活性基は、特定の生物環境において結合、蓄積又は排出を選択的に促進する基である。当技術分野で公知な例は、糖、アミノ酸誘導体、オリゴヌクレオチド、又は受容体(ステロイドホルモン、成長因子、神経伝達物質又は抗体)に固有の配位子から誘導された置換基を含む。前記置換基はまた、前記光増感剤の塩を含む。
【0071】
ここで用いられる「医薬として許容可能な担体」は、タブレット、ピル、カプセル、クリーム、溶液、懸濁液、又はエマルジョンを形成する任意の溶媒、分散剤、添加剤を含む。これらの医薬組成物の成形方法は、当該技術分野で周知である。
【0072】
ここで用いられる「表面浸透促進剤」は、例えば、皮膚及び他の組織のような障壁を通過する薬物の運搬を増加又は加速することができる化学物質又は組成物を意味し、ジメチルスルホキシド及び他のジアルキルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、グリコール、種々のピロリドン誘導体、Azone(登録商標)、又は、文献に記載されている他の任意の皮膚浸透補助剤、或いはそれらの混合物を含む。
【0073】
ここで用いられる「照射」は、電磁スペクトルの全ての周波数に、対象を暴露することを意味する。好ましくは、照射波長は、前記薬物が吸収する光線の波長に一致するように選択される。
【0074】
ここで用いられる「Luzitin」は、そのフェニル基におけるオルト位に電子吸引性を有するスルホン化テトラキスフェニルクロリン又はスルホン化テトラキスフェニルバクテリオクロリンを意味する。そして、以下に示す頭字語は、特定の化学物質を意味するが、この分子の一覧(portfolio)の例に限定するものではない。
−Luzitin−CL−cは、5,10,15,20−テトラキス(2−クロロ−5−スルホニルフェニル)クロリンであり、
−Luzitin−FMet−cは、5,10,15,20−テトラキス(2−フルオロ−5−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリンであり、
−Luzitin−Fは、5,10,15,20−テトラキス(2−フルオロ−5−スルホニルフェニル)バクテリオクロリンであり、
−Luzitin−Clは、5,10,15,20−テトラキス(2−クロロ−5−スルホニルフェニル)バクテリオクロリンであり、
−Luzitin−Clは、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジクロロ−3−スルホニルフェニル)バクテリオクロリンであり、
−Luzitin−FMetは、5,10,15,20−テトラキス(2−フルオロ−5−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンであり、
−Luzitin−FMetは、5,10,15,20−テトラキス(2,6−フルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンであり、
−Luzitin−ClEtは、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジクロロ−3−N−エチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンであり、
−Luzitin−ClHepは、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジクロロ−3−N−ヘプチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンであり、
−Luzitin−FMetは、5,10,15,20−テトラキス(2−フルオロ−5−N,N−ジメチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンである。
【0075】
また、ここで用いられる頭字語は、
「−ClPhB」は、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジクロロフェニル)バクテリオクロリンであり、
「−BMPO」は、5−tert−ブトキシカルボニル−5−メチル−1−ピロリン−N−オキシドであり、
「−DMPO」は、5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシドであり、
「−DMSO」は、ジメチルスルホキシドである。
【0076】
[II.B.前駆体化合物]
5,10,15,20−テトラキス(ハロゲン化フェニル)ポルフィリン及び5,10,15,20−テトラキス(2−シアノフェニル)ポルフィリン、5,10,15,20−テトラキス(2−トリフルオロメチルフェニル)ポルフィリン、5,10,15,20−テトラキス(2−ニトロフェニル)ポルフィリン、並びに5,10,15,20−テトラキス(2−カルボキシメチルフェニル)ポルフィリンは、120℃の酢酸/ニトロベンゼンの混合物中において、ピロールを、所望のハロゲン化フェニルアルデヒドと混合するというニトロベンゼン法によって合成された(非特許文献33参照)。冷却後、純ポルフィリンは、反応媒体から直接晶出する。全ての特性データ(NMR,FAB及び微量分析)は、従来のポルフィリンと十分に一致した。
【0077】
前記ポルフィリンのクロロスルホン化は、以前に開発された方法(非特許文献34,35参照)に従って行われた。所要のポルフィリン(200mg)及びクロロスルホン酸(10ml、150mmol)を、50〜250℃の温度で1〜3時間撹拌した。この時間の後、ジクロロメタン(200ml)をこの溶液に添加した。撹拌しつつ中和されるまで水抽出を継続的に行った。前記ジクロロメタン溶液を、炭酸水素ナトリウムで洗浄した後、無水NaSOを用いて乾燥させた。溶離剤としてジクロロメタンを用い、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーにより精製し、続いて、溶媒を蒸発させて、紫色の結晶として所望のクロロスルホン化ポルフィリンを得た。
【0078】
上述したクロロスルホン化ポルフィリンの加水分解は、100mgの所望の化合物を、蒸留水(120ml)で懸濁し、12時間還流することにより行われた。得られた溶液を、回転蒸発器によって濃縮し、得られた固体を120℃で乾燥した。前記スルホン酸ポルフィリン誘導体が定量的収率で得られた。NMR,FAB及び微量分析によるその特性は、従来のデータ(非特許文献34,35参照)と十分に一致した。
【0079】
[II.C.装置]
吸光スペクトルは、シマヅ社製UV−2100分光光度計又は、これとCarry 50 バイオ分光光度計(バリアン社製、マルグレーヴ、米国)を用いて測定した。蛍光スペクトルは、スペックスフルオロログ3分光光度計、波長依存システム(RCA C31034光電子増倍管)のための補正、又はパーキンエルマー社製LS 50蛍光光度計を用いて測定された。過渡吸収スペクトルは、アプライドフォトフィジックス社製LKS 60ナノ秒レーザーフラッシュ光分解動力学スペクトロメータにより、励起用のスペクトラ・フィジックス社製Quanta Ray GCR 130−01 Nd/YAGレーザの第三高調波、ハママツ社製1P28光電子増倍管、及びヒューレット・パッカード社製Infiniumオシロスコープ(1GS/s)を用いて測定した。閃光光分解測定は、空気存在下、アルゴン飽和溶液中で行った。光音響熱量測定は、前記Nd/YAGレーザと同一のものと、2.25MHz Panametrics変換器(5676型)を有する自家製の正面光聴覚細胞と、テクトロニクス社製DSA601過渡現象記録装置とを用いた(非特許文献36参照)。室温一重項酸素リン光は、液体窒素室(プロダクツ・フォー・リサーチ社製、PC176TSCE005型)で193Kまで冷却され、用いられたアプライドフォトフィジックス社製スペクトロメータを用い、355nmで曝気溶液のレーザ励起を行った後に、ハママツ社製R5509−42光電子増倍管を用いて1270nmで測定された(非特許文献37参照)。1270nmでの一重項酸素の放出はまた、QスイッチNd:YAGレーザ(コンティナム社製、商品名:SureliteII)によって生成された第三高調波(355nm)の5ナノ秒レーザパルスにより試料の励起に続いて、テクトロニクス社製デジタイジングスコープ(TDS 520B)に連結された液体窒素によって冷却されたゲルマニウム検出器(ノースコースト社製)を用いて監視された。
【0080】
元素分析は、フィソン・インスツルメント社製EA1108 CHNS−O元素分析計により行った。融点は、電熱キャピラリー融点測定器により測定された。H−NMR,19F−NMR及び13C−NMRスペクトルは、300MHzのBrucker−Amxにより記録された。H帰属は、2D COSY及びNOESY実験を用いて行われ、一方、13C帰属は、2D HSQC及びHMBC実験により行われた。MALDI−TOFMSデータは、窒素レーザ(λ=337nm)を備えるアプライドバイオシステムズVoyager DE−STR装置(フラミンガム社製、マサチューセッツ州、米国)を用いて獲得された。
【0081】
少なくとも一つの不対電子を有する種の電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルは、ブルカーESP300スペクトロメータ(IBM Instruments社製)を用いて行われた。標準的な装置の設定は、マイクロ波出力10mW、振幅変調0.8G、掃引幅60.0Gである。前記EPRスペクトルは、ハママツ社製ダイオードレーザによるその場照射の下で記録された。その後の設定は、登録されたスペクトルに対して用いられ、高出力(4mW)、低振幅変調(0.2G)及び狭走査範囲(60G)、かつ、各スペクトルに対して20走査が記録された。
【0082】
インビトロ実験における照射は、ハロゲンランプ又はレーザ光源のいずれか一方を用いて行われた。第1の場合、500Wのハロゲンランプが、照射される台から50cmの距離に配置され、均一な照射を保証した。冷却水フィルタ(d=35mm)及び600nm遮断フィルタが、前記ランプと試料との間に配置された。サンプルに届くフルエンス率は、3mW/cmであった。前記ハロゲンランプの発光スペクトルは、分光放射計IL2000(商品名:Spectorocube)を用いて記録した(図1)。第2の場合、パイロットPC500レーザ制御装置(Sacher Lasertechnik社製、マールブルク、ドイツ国)で作動する3つのリンクス外部空洞ダイオードレーザTEC500が用いられた。レーザエネルギーは、748nmレーザに対して40mWで安定であり、649nmレーザに対して10mWで安定であり、そして633nmレーザに対して10mWで安定であった。前記レーザエネルギーは、コヒーレント社製LaserCheckにより定期的に測定された。いくつかのインビトロ実験では、レーザ光は、マイクロベンチにおけるコリメータを介して光ファイバーに集中され、細胞へともたらされる。このシステムは、前記748nmレーザ光を30mWに低下させた。
【0083】
光退色実験におけるバクテリオクロリンの照射には、748nmリンクスダイオードレーザを用いた。動物実験のために、748nmで140mW出力の特注のハママツ社製ダイオードレーザ(LA0873,S/N M070301型)が用いられた。このダイオードレーザは、ソーラボ社の500mA ACC/APCレーザダイオード制御装置及び社内製の電子装置により制御された。本実験に用いられたこのレーザエネルギー及び他の高エネルギーレーザは、オフィール社製AN/2E型レーザ出力計により定期的に検査された。
【0084】
前記光増感剤の時間依存性の細胞取り込み及び細胞の生存能力は、ニコン社製ECLIPSE TS−100F装置を用いる蛍光顕微鏡検査法によって確認された。
【0085】
皮膚試料の蛍光は、U−MSWG2蛍光ミラーユニット(励起フィルタ480−550nm,発光フィルタ590nm,二色性フィルタ570nm)を用いるオリンパス社製蛍光マイクロスコピー(BM51M型)により分析された。共焦点顕微鏡法は、63´水(1.2開口数)アポクロマート対物レンズを備えるレイカTCS SP5(レイカマイクロシステムズCMS GmbH製、マンハイム、ドイツ国)倒立顕微鏡(DMI6000)により行われた。共焦点モードに移る前に、GUV懸濁液は、光源としてナトリウムランプとRhod−DOPE蛍光を選択するフィルタとを用いて直接観察され、GUV形成の収率を評価した。共焦点顕微鏡法における励振源は、Arレーザからの514nm線又はTi−Saレーザからの745nm線のいずれか一方である。前記発光は、550〜800nmに集中された。聴覚−光学調整可能な繊維、及びレイカTCS SPC5システムのビーム分割器の利点を活用した。逆光は「スマートオフセット」と一致するように最小限にされる。これは常に0.5%以下で残存する(通常−0.1%〜0.1%の範囲の間)。ごく僅かな光子が脂質構造の外側で計測される。0.5nm以下の厚さの共焦点切片は、検流モータステージを用いて得られる。三次元投影は、レイカアプリケーションスート−高度蛍光ソフトウェアを用いて得られる。
【0086】
[II.D.方法]
[II.D.1.分散係数]
n−オクタノール:水分散係数(CP)は、従来の文献により記述されているフラスコ振盪法をわずかに修正したものを用いて測定された(非特許文献35参照)。前記修正は、約500nmの吸収帯の励起及び赤色/赤外領域における蛍光の集中に関する。
【0087】
[II.D.2.光化学及び光物理]
光退色実験は、PBS、PBS:メタノール(50:50)及びメタノール溶液中で行われた。この溶液は、キュベット中で、1cmの光路でかつ前記リンクスダイオードレーザを用いて照射される。前記溶液の初期吸収は、約0.8であった。光退色の機構は、前記ハママツ社製ダイオードレーザを80mWで用い、前記増感剤の照射によって評価した。前記増感剤は、アスコルビン酸又はアジドの存在するPBS中において照射された。
【0088】
エタノール中で決定された蛍光量子収率(ΦF)は、トルエン中のClPhBの蛍光量子収率を基準として得られたものである(非特許文献4参照)。基準及び試料溶液の両方の吸収は、515.5nmの励起波長では約0.2で一致している。これらの溶液は、蛍光得る前に、10倍に希釈した。前記蛍光量子収率は、試料対基準の蛍光帯の比率に、前記基準の蛍光量子収率(非特許文献12によれば、0.012)を乗じ、その後、エタノール及びトルエンの屈折率の違いを補正して得られる。
【0089】
光増感剤の三重項−三重項吸収スペクトル及び三重項寿命(τT)は、上述の一時吸収スペクトル装置において355nmで励起されて測定された。ここで、前記溶液は、0.25〜0.30の範囲の吸光度を備えていた。
【0090】
時間分解された光音響熱量測定(PAC)は、上述のように設定され、非特許文献4に記載されている方法を用いてなされた。すべての測定は、エタノール中において、光音響の基準としてマンガン5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリンを用いて行われた。
【0091】
エタノール中における一重項量子収率は、非特許文献37によって記載された方法を用い、基準としてフェナレノンを用いて得た。エタノール中においてフェナレノンにより得られた一重項酸素量子収率の文献値は、ΦΔ=0.95であった(非特許文献38参照)。
【0092】
[II.D.3.電子常磁性共鳴(EPR)]
PBS中で光増感剤が照射されることによって生成される活性酸素種、即ち、スーパーオキシドイオン及びヒドロキシラジカルは、種々のスピントラップの付加物を形成する。このような付加物は、EPRによって同定することができる。これらの測定に用いられる前記PBS緩衝液は、過酸化物の分解を触媒する混入物である金属イオンを除去するため、キレート樹脂(Chelex100)により前処理された。2つのスピントラップは、BMPO及びDMPOを用いた。DMPOは、先ず、活性炭/ベンゼンで精製され、その後、ε226=7200M-1cm−1を用いる分光光度法により、1.0M保存濃度が決定された。EPR測定は、ハママツ社製ダイオードレーザを用いるその場照射により、上述のブルカーのスペクトロメータを用い、室温で行った。
【0093】
[II.D.4.皮膚浸透試験]
皮膚浸透試験を行うための最も優れた動物モデルは、ミニブタである。これは、ミニブタとヒトとの間の皮膚特性の類似の観点からである(非特許文献39参照)。クリーム、軟膏、ゲル及び溶液という製剤の違いは、ミニブタの皮膚サンプルを通る前記光増感剤の浸透を促進するために用いられる。製剤は、0.1〜10%の範囲で変量した前記光増感剤、例えば、Azone(登録商標)及びDMSOのような浸透促進剤、及び種々の賦形剤等を含有する。インビボ試験は、ミニブタの背中に対して行われた。各試験において、前記製剤は、皮膚の約1cm領域に、所望の期間、閉鎖包帯下で適用された。一旦前記期間が経過したら、前記製剤は薬さじで取り除かれ、そしてエタノールが浸漬された医療用綿で、該医療用綿中に前記増感剤が全くみられなくなるまで洗浄された。インビボ試験において、前記皮膚試料は外科的に取り除かれ、前記ミニブタはその後殺処分された。
【0094】
前記皮膚試料の組織固定のための手順の第1工程は、パラホルムアルデヒド(4%水溶液)への少なくとも24時間の浸漬である。次に、前記試料を、25%ショ糖液に移動し、少なくとも48時間浸漬した。この処理の後、前記皮膚サンプルは、前記ショ糖液よりも密度が高くなる。部分試料は、生検パンチを用いて採取され、ドライアイスで冷凍され、その後、組織Tek O.C.T.化合物(Sakura Fintek Europe B.V.社製、ズーテルワウデ、オランダ国)と共に、ホルダーに取り付けられ、そして、低温槽(cryostate)中で、25〜100mmの範囲の間で選択された厚さに制御されてスライスされた。前記皮膚スライスは、顕微鏡スライドガラス上に集められ、蛍光顕微鏡検査法及び共焦点顕微鏡法により分析されるまで冷凍保存された。他の方法として、前記皮膚試料は、固定剤としてパラホルムアルデヒドを用いるよりも、ドライアイス中に直接冷凍されてもよい。
【0095】
[II.D.5. インビトロ実験]
ここで記述される薬物は、インビトロ研究において評価されている。あるインビトロ研究では、いくつかのフィルタを備えるハロゲンランプによる照射が用いられた。他の場合では、各細胞培養に光を届けるダイオードレーザ照射が用いられた。
【0096】
[II.D.5.i)ハロゲンランプ照射を用いたインビトロ実験]
ハロゲンランプ照射に用いられた細胞株は、MCF7(ヒト乳癌由来)、SKMEL188(ヒトメラノーマ由来)、及びS91/I3(マウスメラノーマ由来)細胞であった。これらは、細胞毒性実験及び光細胞毒性実験の両方に用いられた。MCF7細胞は、10%のウシ胎児血清(FBS)、25unit/mlのペニシリン、及び25μg/mlのストレプトマイシンで補充されて増殖された。ヒトメラノーマ細胞SKMEL−188は、10%のウシ胎児血清(FCS)、100unit/mlのペニシリン、及び100μg/mlのストレプトマイシンで補充されたF10培地で増殖された。クラウドマンS91メラノーマ細胞のI3分株は、100unit/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、及び5%のウシ胎児血清(FCS)(Gibco BRL社製)で補充されたRPMI 1640培地に培養された。全ての細胞株は、60mm直径のペトリ皿において単層に培養され、5%COを含む湿雰囲気中、37℃で保温された。
【0097】
細胞毒性:細胞代謝効率及び生存能力は、生体吸収(uptake)と、細胞のシクロソーム酵素による臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム(MTT)の不溶性のホルマザン染料への還元とにより決定される。前記細胞株は、10%のウシ胎児血清、ペニシリン及びストレプトマイシンを備えるRPMI培地で増殖された。細胞は、5%のCO、95%の空気及び100%の湿度に維持された。細胞毒性を決定するために、これらの細胞は、96ウェルプレートにおいて、完全培地中に、1×10細胞/ウェルの密度で接種された。24時間後、前記細胞は、異なる濃度(0.25から最大50μM)の光増感剤と共に、18時間、37℃で保温された。前記細胞は、その後PBSで2回洗浄され、成長培地中で、37℃の温度で24時間保温された。次に、前記培地は、100μlの新鮮な培地及び20μlのMTTで置き換えられ、前記細胞は、0.5mg/mlの終濃度のMTTと共に3時間保温された。その後、前記培地は、DMSO−メタノール溶液(1:1)に置き換えられ、ブルーホルマザン結晶が溶解された。前記96ウェル培養プレートは、0.5分間、室温で振盪され、その後直ちにELISAリーダ(GENios Plus、Tecan Trading AG社製、スイス国)を用いて560nmで光学密度が読み取られた。生存している前記細胞は、前記ホルマザン塩の吸光度変化によって表され、生存率は、生存処理細胞数対生存無処理細胞数のパーセント比として与えられる。細胞の数は、検量線の直線回帰から決定された。
【0098】
時間依存性の細胞生体吸収:SKMEL−188、S91、及びMCF7細胞は、96ウェルプレートに1×10細胞/ウェルとなるように接種され、PBS中の20μM濃度のクロリン光増感剤及びバクテリオクロリン光増感剤に、各種の時間間隔(10分から180分まで)で暴露され、時間依存性の薬物蓄積が精査された。保温期間の終わりに、前記細胞は、PBSで3回洗浄され、PBS中において0.25%のトリトンX−100の100μlで再懸濁された。細胞に随伴された光増感剤の保持は、ELISAリーダを用い、蓄積された光増感剤を蛍光測定することによって検出された。また、前記光増感剤の生体吸収及び前記細胞の生存能力は、蛍光顕微鏡検査法によって確認された。これらの実験により、SKMEL−199,S91及びMCF7細胞は、20μMの光増感剤とともに2時間保温され、続いて、前記細胞はPBSで3回洗浄され、PBSに再懸濁され、蛍光顕微鏡検査法によって試験された。
【0099】
細胞光増感:SKMEL−188、S91及びMCF7細胞は、上述のように製造された。細胞毒性試験に基づいて、5μMの濃度の光増感剤が、光増感試験のために選択された。前記細胞は、37℃で12時間保温され、その後、0.53mW/cmのフルエンス率と、0.1〜0.64Jcmの線量とで照射された。発明者は、光増感剤が、前記フィルタ処理されたハロゲンランプの利用可能なフルエンス率の約1/5のみを用いることを思い出した。前記MTT試験は、24時間照射を行った。その値は、3回の独立した実験から得て、対照細胞を基準とした生存する細胞の百分率として表した。対照細胞は、光増感剤と共に保温せず、照明を行わないことを除いて、同一の手順により操作した。
【0100】
[II.D.5.ii)レーザ照射によるインビトロ実験]
レーザ照射を行う細胞株は、HT−29(ヒト大腸癌由来)、PC−3(ヒト前立腺癌由来)、SW2(ヒト小細胞肺癌由来)、A−549(ヒト非小細胞肺癌由来)、S91/I3(マウスメラノーマ)及びCT26(マウス大腸癌由来)であった。これらは、細胞毒性実験及び光細胞毒性実験の両方に用いられた。PC−3,SW2及びS91/I3細胞は、RPMI−1640培地(シグマアルドリッチ社製、シュテインハイム、ドイツ国)中で培養され、HT−29,A−549及びCT26細胞は、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ケンブレックスバイオシステムズ社製、ベルビエ、ベルギー国)で培養された。両方の細胞培養培地には、10%の熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)及び100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン(ケンプレックスバイオシステムズ社製、ベルビエ、ベルギー国)が補充された。CT26細胞に用いられる前記DMEM培地はまた、10mMのHEPESが補充されている。細胞株は75cmフラスコ(オレンジサイエンティフィック社製、ブレン・ラルー、ベルギー国)において、5%COを含む湿雰囲気中、37℃で維持された。インビトロ研究のため、細胞は85〜90%のコンフルエンスで、トリプシン−ヴェルセン−EDTA溶液と分離され、計数され、所望の密度で、平底96ウェルプレートに接種された。
【0101】
細胞生存能力試験:前記実験の最後に、細胞生存能力は、レザズリン還元試験によって評価された(非特許文献40参照)。簡単に言えば、レザズリン(シグマアルドリッチ社製、シュテインハイム、ドイツ国)保存溶液(pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に0.1mg/ml)は、FBS又は抗体を含まない培地で10%に希釈され、200μlが前記ウェル中の細胞に添加された。プレートは、3〜4時間、37℃で保温された。各ウェルの吸光度値は、マイクロプレートリーダMultiskan Ex(サーモエレクトロンコーポレーション製、ヴァンター、フィンランド国)を用いて540nm及び630nmで測定した。
【0102】
細胞毒性:細胞は、平底96ウェルプレート(オレンジサイエンティフィック社製、ブレン・ラルー、ベルギー国)中の100μlの培地に接種され、一晩の間付着された。前記光増感剤は0.01〜1mMの終濃度となるように(100μlの培地に希釈し)細胞に添加された。各濃度のものを、4組作製して試験を行った。暗所中、37℃の保温期間は、試験される細胞株に対する倍増時間を2回とした。保温後、前記細胞生存能力を評価した。並列制御実験において、細胞は、前記薬剤なしで保温された。細胞毒性は、非処理細胞に対する相対的な細胞死を表すことにより定量した(対照細胞の%)。その結果は、用量反応曲線(前記薬物の濃度の関数としての細胞死の%)としてプロットされ、細胞増殖の50%が抑制される濃度(IC50)の決定がなされた。
【0103】
細胞光増感:細胞は、100μlの培地を有する透明な平底を備えるDBファルコンブラック96ウェルプレート(DBバイオサイエンス−ラボウェア社製、ニュージャージー州、米国)に接種され、一晩の間付着された。前記薬物は、所望の濃度を得るために、細胞(100μl培地に希釈)に添加された。細胞は、前記薬物とともに、暗所に37℃で所定の期間保温された。この保温期間は、通常、投薬から照射までの間隔(drug-to-light interval)として言及される。保温後、細胞は200μlのPBSで1回洗浄され、細胞内に取り込まれていない薬物を除去し、100μlの新鮮な培地が添加された。細胞は、上述した前記リンクスダイオードレーザの748nmの光を、100.7mW/cmの出力で照射された(各ウェルに個別に)。前記照射時間は所望の光線量を得るために選択された。2つの平行対象条件が試験された。即ち、細胞は最も高い用量の薬物と共に暗所で保温し照射を行わないことと、細胞は最も高い光線量となるように照射され薬物を用いないことと、である。前記照射後、100μlの新鮮な培地が添加された。細胞生存能力は、前記照射後、約24時間で評価された。
【0104】
[II.D.6.インビボ実験]
本研究において用いられたマウスは、2種類である。暗所毒性、生体内分布及び薬物動態研究には、クラクフのヤギェウォ大学の生化学、生物理学及びバイオテクノロジー学部における動物繁殖生産施設からの体重が20〜30gの体重のDBA/2マウスが用いられた。前記マウスは、標準実験用食の自由摂食及び摂水が維持された。実験目的のためのこのような動物の使用は、ヤギェウォ大学実験動物倫理委員会による承認を受けている(決定番号384/99)。このようなマウスはまた、PDTに用いられた。
【0105】
他のマウスは、チャールズリバー研究所(バルセロナ)の動物繁殖生産施設からの20〜25gの重さのBalb/Cである。前記マウスは、標準実験用食の自由摂食及び摂水が維持された。実験目的のためのこのような動物の使用は、神経科学及び細胞生物学センター(コインブラ)の委員による承認を受けている。
【0106】
本研究において用いられる4種のミニブタは、IMIDRA(Instituto Madrileno de Investigacion y Desarrollo Rural, Agrario y Alimentario)−アランフエス(マドリード)から得た。これらのミニブタは全て雌であり、6〜8ヶ月齢で、茶斑を有する白色のものであり、平均体重が56.8kg(66.2kg,57.1kg,43.5kg,60.6kg)であった。これらのミニブタは、ベールデサンタレンの国立動物学駅で受け取り、1.5mの個別の箱に収容され、豚用の標準的な餌及び水を自由摂食させ、3週間の順応期間を設けた。本研究では、総局の動物の保護と健康(参照番号:0420/000/000/2007)によって得られる許可におけるポルトガル倫理指針に従って行った。食餌は、処置前24時間は停止した。前記ミニブタの背中を、製剤を適用する24時間前に剃毛した。光増感剤の局所投与は麻酔下で行った。30分前に行われた前治療は、アザペロン(Stresnil(登録商標)、Veterinaria ESTEVE社製、スペイン国)2mg/kgの筋中投与+アトロピン硫酸塩50mgの皮下投与を行った。ケタミン(Clorketam(登録商標)、ベトキノール社、仏国)を20ml/kg筋中投与することにより、誘導を行った。前記麻酔は、酸素+3%イソフルレン(Isoflo(登録商標)、Veterinaria ESTEVE社製、スペイン国)を2〜3L/分で自然換気することを用いて、気管挿管することにより維持された。試料は、上述した麻酔下で3匹のミニブタから回収された。20×20×10(長さ、幅、深さ)の大きさの皮膚の部分試料が外科的切開により得られた。前記皮膚試料の回収後、前記ミニブタは、過剰量のチオペンタールナトリウム(25mg/kg)+20mlの7.5%塩化カリウムを用いて殺処分された。4匹目のミニブタは、続いて、3週間の間、ミニブタ用の標準的な餌及び水を自由摂食させた。3週間後、前記光増感剤の局所投与を麻酔下で再び行った。前記ミニブタは、電気ショックにより意識を失わせ、頸部静脈切開により殺処分された。
【0107】
[II.E.化合物の特性]
[II.E.1.物理的特性]
背景の項で言及したように、PDTに関連する薬物の最も重要な物理的かつ化学的特性は、600〜800nm領域における強い吸収、一重項酸素生成の高い効率、化学的安定性、制御された光退色、及び−2〜5の範囲のオクタノール:水の分散係数である。これらの特性は、光治療ウインドウ(window)における所望の光吸収度、細胞毒性種の効率的な光生成、長期的な皮膚光線過敏のような副作用の低減、及び全身又は経皮性投与経路の容易化を満たす。
【0108】
化合物の吸光係数を、1〜20μMの範囲でいくつかの濃度で測定し、全ての場合において、ランベルト・ベールの法則に従って観察した。また、赤外光における最大吸収(λmax)波長は、研究した濃度範囲では変化しない。これは、分子間で凝集が生じず、前記分子は、研究された溶媒において、これらの濃度ではほとんどが単量体として存在していることを示す。表1は、典型的な赤色光及び赤外線に対するモル吸収係数(εmax)及び最大波長を示す。同表はまた、代表的なLuzitinの蛍光量子収率(Φ)を示す。前記蛍光量子収率は、塩素置換基の存在下で減少するこれらの分子を低減する。これは、このような分子に対して予期される重原子効果の特徴である。
【0109】
本実験において測定された前記Luzitinの三重項−三重項吸収スペクトルは、クロリン及びバクテリオクロリンに対する従来のデータと十分に一致した。全ての三重項減衰は、明らかに単一指数関数的である。少なくとも30分間窒素をフラッシングすることで製造される脱気溶液中、前記三重項寿命(τT)は、ミリ秒の範囲であり、酸素の非存在下において、光化学的に非効率的であることを示す。代表値を表1に示す。空気飽和エタノールにおける前記三重項寿命は、200〜300ナノ秒に落ち込み、対応するポルフィリンの寿命より顕著に短くなる。このような値は、電荷移動相互作用を介する前記増感剤の三重項状態から酸素分子への拡散律速エネルギー移動と一致する。
【0110】
曝気エタノール溶液中において測定された全ての一重項酸素発光は、典型的な一重項酸素寿命(τΔ)を有する単一指数関数的減衰によって非常によく表現される。表1の前記ΦΔ値は、上述した工程により得られ、これらの光増感剤を代表する。
【0111】
【表1】

【0112】
典型的に、Luzitinの蛍光量子収率と一重項酸素量子収率との総和は、0.6〜0.8であり、他の工程のために用いられる吸収される光の20〜40%である。これらの工程は、時間依存性の光音響熱量測定(PAC)及び電子常磁性共鳴(EPR)により研究された。PACは、電子励起状態の減衰における無放射工程(内部転換、項間交差、化学反応)により放出されるエネルギー量を測定する。EPRは、前記試料中に存在し、不対電子(フリーラジカル)を有する種の量を測定するものであり、該PACは、直接レーザ照射下において、光誘起によりスーパーオキシドイオン及び他の活性酸素種(ROS)の生成を測定するために行われた。PACによって測定された前記エネルギー放出は、ほぼ単位量子収率であるバクテリオクロリン三重項状態の形成と一致し、105〜125kJ/molの三重項エネルギーであり、これはハロゲン化バクテリオクロリンにおける文献値と一致する(非特許文献12参照)。DMPO及びBMPOの存在下におけるPBS中のLuzitinに対する照射により得られるEPRスペクトルは、スーパーオキシドイオンの存在と、ヒドロキシルラジカルの存在を示す。これと共に、前記EPR及びPACデータは、748nmでのこれら光増感剤の照射によるスーパーオキシドイオンの形成、及びこれに続くLuzitinの光毒性に寄与するヒドロキシルラジカルの形成をもたらし、Luzitinの光毒性に寄与することを明確に示している。従って、前記増感剤の光毒性は、それらの一重項酸素量子収率から予想される光毒性よりも高く、Photofrin(登録商標)の光毒性より既に5倍高くなっている。
【0113】
前記化合物の化学的安定性は、光、空気及びpH変化に該化合物を曝すことにより調べられた。最も顕著な前記化学的安定性の低下は、適切な波長の光を曝気溶液に照射することにより生じた。このような状況の中で、前記化合物の光退色は、一次速度に従い、そして入射するレーザ光のエネルギーに比例する。一般に、光退色率はまた、溶液中に存在する水の量により増加することが知られている。PBS:メタノール(50:50)中のFoscan(登録商標)(m−THPC)の光交換、及び類似バクテリオクロリン(m−THPB)の光変換が、Bonnettにより報告されている(非特許文献46参照)。アセトン及びトリトン−X:PBS中のTookad(登録商標)の光変換が、Scherzにより報告されている(非特許文献3参照)。Luzitinの光安定性と、Foscan(登録商標)及びTookad(登録商標)の光安定性とを比較するため、表2に、上述した代表的な薬物の半減期(t1/2)を、100mWのレーザ出力で正規化したFoscan(登録商標)及びTookad(登録商標)の光安定性と共に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
本実施形態におけるバクテリオクロリンの光退色と、m−THPB又はTookad(登録商標)の光変換とは区別される。この区別は、長期に亘るレーザ照射後、本実施形態におけるバクテリオクロリンのほとんどは、検出可能な可視吸収を有さない生成物に変換されることに基づくものであり、これは、適切には光退色として表現することができる。一方、m−THPB又はTookad(登録商標)へのレーザ照射は、同一のレーザ光を吸収しない、対応するクロリンを大量に生成し、これは、より適切には他の染料への光変換と表現することができる。他の染料への光変換とは対照的に、本実施形態におけるバクテリオクロリンの光退色は、皮膚光線過敏をほとんど誘導しないという理由で、利点を有している。
【0116】
[II.E.1.生物学的特性]
Photofrin(登録商標)は、インビトロにおける暗所毒性及びPDT有効性に対する重要なベンチマークである。非小細胞肺癌細胞株H1299に関する暗所におけるPhotofrin(登録商標)の毒性は、いくつかのPhotofrin(登録商標)濃度に対して評価され、ICdark50=8.0μg/mlに対する細胞生存能力は、50%に低下した(非特許文献47参照)。マウスの大腸癌細胞株であるColo−26に関するPhotofrin(登録商標)の暗所毒性についての類似の研究によれば、ICdark50≒20μg/ml(単量体と仮定すれば30μM)であった(非特許文献48参照)。ヒト腺癌細胞株(HT29)は、PDTにおいて最も広く研究された細胞株の一つである。HT29細胞におけるPhotofrin(登録商標)の濃度依存性の研究によれば、5J/cmのフィルタ処理されたハロゲン光下における50%致死濃度、IC50=7.5μg/mlであった。90%致死濃度は、IC90=40μg/mlに上昇した(非特許文献49参照)。650nmの色素レーザが10J/cmのエネルギーを与えるために用いられる場合、同一の細胞株に対し、Foscan(登録商標)は、より強い細胞毒性IC50=0.8μg/mlを示す。しかしながら、この光線量は、IC90>10μg/mlであるのに対し、暗所毒性に限れば、ICdark50=13μg/mlに落ち込む(非特許文献50参照)。Photofrin(登録商標)とは対照的に、Foscan(登録商標)の分子構成は周知であり、モル単位におけるICを表すのに都合がいい。これらの単位において、Foscan(登録商標)の暗所細胞毒性は、ICdark50=19μMであり、10J/cmの光線量に対する毒性は、IC50=1.2μMである。最後に、Tookad(登録商標)は、25J/cmの照射の下、48μMの用量で、HT29細胞に50%死亡率を導くことを言及している点で興味深い(特許文献5)。IC50及びIC90の値は、実験の投与形態、保温時間、光フルエンス及び他の条件に依存するが、上述された値は、当業界における最良実施例の指標となる。
【0117】
表3は、Photofrin(登録商標)及びFoscan(登録商標)の暗所毒性と、Luzitinの暗所毒性との比較を示す。上述した方法を用い、以下の実施例において、更に詳細に説明する。ハロゲン化スルホン化クロリンの存在下、フィルタ処理されたハロゲン光下における、ある細胞株の50%致死及び90%致死に必要とされる光線量を、表4に示す。また、ハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンについて対応する光線量を、表5に示す。表6は、6J/cmのレーザ光線量の下、細胞の90%致死に必要な各種のLuzitinの濃度に関する光毒性を示す。
【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
【表5】

【0121】
【表6】

【0122】
表4〜6は、Luzitinの低い暗所毒性及びLuzitinの非常に高い光毒性を示す。表6には、各種の細胞株の細胞の90%致死に必要なLuzitin濃度は、Photofrin(登録商標)で必要とされる濃度より最大100倍低く、Foscan(登録商標)で必要とされる濃度より最大20倍低い。6J/cmのレーザ光線量(本実験条件では、60秒間照射した)とすることで、暗所においてはごくわずかな細胞毒性しか示さないLuzitin濃度で研究されたあらゆる細胞株の細胞の100%を死滅させることができた。
【0123】
[II.F.前記化合物及び組成物の使用方法]
Luzitinは、臨床状況に応じて、局所的に、経口、静脈内、皮下、腹腔内、直腸、舌下、鼻、目、耳又は吸入用製剤として投与してもよい。前記製剤処方は、選択された投与経路に適するように構成される。前記製剤は、Luzitinの他に(個々に、又は互いに組み合わせて)、医薬として許容可能な担体からなる。Luzitinは、対応する塩、エステル、エノールエーテル若しくはエステル、アセタール、ケタール、オルトエステル、ヘミアセタール、酸、塩基、溶媒、水和物、又は製剤に先立つプロドラッグとして誘導体化されてもよい。
【0124】
局所投与又は全身投与、またはその両方に続いて、治療領域は、適切な波長の光に暴露される。前記波長は、好ましくは、クロリンに対しては630〜690nmの範囲、バクテリオクロリンに対しては720〜780nmの範囲である。最も好ましくは、レーザを用いて暴露させる。身体の様々な領域に照射するための方法は、当技術分野において周知である。投薬から照射までの間隔は、投与の形態に依存し、数分から数日の間としてもよい。光線量は、投与経路、光源及び治療標的に依存する。連続的なレーザ照射の間、2〜200mW/cmの範囲のレーザ出力で、前記光線量は10〜250J/cmの範囲とすべきである。0.001〜10mJ/cmの範囲のパルス当たりのエネルギーであるパルスレーザ照射を用いてもよい。前記光線量は、単回又は複数回のセッションに適用してもよい。診断を目的とする場合には、前記光線量は少なくしてもよい。広帯域光源を前記照射に用いる場合、前記光線量は、前記Luzitinが吸収するスペクトル領域における光源のエネルギーを維持するために、レーザ照射に関して規定された水準に増加される。
【0125】
前記Luzitinは、単回投与されてもよく、又は時間間隔毎に、より少量の用量を、複数回に分割して投与してもよい。Luzitinは、相乗効果を得るために、他の薬剤と同時に投与されてもよい。前記投薬から照射までの間隔の後に照射される光線量は、単回線量に対して、上述した範囲に入る。治療は、様々な時間間隔で複数回繰り返してもよい。治療の正確な用量及び持続時間は、治療される疾患に依存し、当業界において周知の手順を用いて実験的に決定されてもよいと理解される。
【0126】
[II.F.1.全身投与(経口、注射、エアロゾル、経腸)]
経口投与に関連する共通の制限は、胃の中で見られる酸性条件下における前記薬剤の推定消化力である。以下の実施例において示すように、Luzitinは、pH1で3時間の間、比較的安定である。低pHで観察されるスペクトル変化は、ピロール環のプロトン化に起因するが、酸性度が中和されるときに元の状態に回復する。経口投与において頻発に遭遇する他の問題点は、生体利用効率についてである。腸内吸収では、Luzitinを、リピンスキーのルールオブファイブを満たすように近づけることができる(非特許文献51参照)。Luzitinは、logKOW<5であり、4個の水素結合供与体と、12個の水素結合受容体と、1kDの分子量とを有する。この最後のパラメータのみ、前記ルールの制限を著しく超えている。
【0127】
Luzitinの物理的化学的特性を考慮すると、固体、半固体及び液体のいずれの投薬形態も考えられる。この点について、種々の薬の剤形及び投与形態における製剤補助剤の観点から最新技術を考慮すべきである。
【0128】
全身投与における投薬から照射までの間隔は、投与形態により、好ましくは、数分間から3日間の範囲である。医薬組成物は、一日あたりの用量を、0.01〜100mg/kg体重の範囲のLuzitin(又はLuzitinの組み合わせ)とすべきある。好ましくは、Luzitinの一日あたりの用量は、0.1〜10mg/kg体重の範囲である。
【0129】
[II.F.2.局所投与]
局所投与は、液体、ゲル、ヒドロゲル、クリーム軟膏、スプレー又は他の許容可能な皮膚製剤の形態で、一つ又は様々な表面浸透促進剤及び他の添加剤を含む適切な製剤により達成することができる。背景技術で述べたように、Photofrin(登録商標)又は他の大分子量光増感剤において達成された皮膚浸透は、皮膚疾患の効果的なPDTに対しては不十分である。また、Luzitinは、優れた皮内到達させるための基準のほとんどを満たすことができない(非特許文献32参照)。しかしながら、両親媒性及び水素結合能力と、所定の範囲の分子量とを調整する本実施例の化合物の能力は、該化合物の真皮への受動拡散を促進する製剤を得るための作業を容易にする。実施例21において示されるゲル形態は、製造早さ、及び皮膚への効率的な局所的運搬を示す。
【0130】
局所投与における投薬から照射までの好ましい間隔は、15分から3時間である。前記製剤は、0.01〜10%のLuzitinを含むべきである。好ましい実施形態では、前記製剤中の増感剤の割合は、0.1〜1%である。
【0131】
局所投与は、目への適用もまた考慮される。目への使用を意図する適用には、0.01〜10%の等張液であって、pH5〜7であって、適切な塩を有するものとして製剤されてもよい。
【実施例】
【0132】
[実施例1]電子吸引性置換基を有するバクテリオクロリンの固体状態合成法
本実施例は、無溶媒、かつ無基剤であって、従って、ポルフィリン及びヒドラジド(ともに固体)のみを出発物質として用いて合成することができる広範なバクテリオクロリンについて説明する。
【0133】
一つの製造方法として、60mg(6.8×10−5mol)の5,10,15,20−テトラキス(2−トリフルオロメチルフェニル)ポルフィリンと、500mg(2.7×10−3mol)のp−トルエンスルホニルヒドラジドとを、両方とも細かい粉末状のものを混合した。これを反応器に添加した。前記反応器を真空にし、N雰囲気下密封し、100℃以上の温度で数分間加熱した。冷却後(室温)、固体を除去し、p−トルエンスルホニルヒドラジドの一部の250mg(1.4×10−3mol)を、ポルフィリンソーレー帯が完全に消失するまで添加した。バクテリオクロリンを、少量の有機溶媒により抽出した。過剰なヒドラジドを、溶離液としてジクロロメタン/n−ヘキサンを用いて、シリカゲルを用い短いろ過器(カラム長8cm、カラム内径2.5cm)により除去した。溶媒蒸発し、ジエチルエーテル/ペンタンからの再結晶の後に、クロリンの混入が5%未満の90%CFPhBを得た。
【0134】
単離精製物のNMRデータは、以下の通りである。
1H NMR: (400,13 MHz, CDCl3) δ, ppm: 7.47-7.45 (m, 4H); 7.26- 7.20 (m, 8H); 7.15-7.12 (m, 4H); 2.42 (s, 4H); 2.37 (s, 4H); -1.27 (s, 2H)。
【0135】
[実施例2]ハロゲン化クロリンの固体状態合成法
5,10,15,20−テトラキス(2−フルオロフェニル−5−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリン、Luzitin−FMet−cの一製造方法として、50mg(4.72×10−5mol)の5,10,15,20−テトラキス(2−フルオロフェニル−5−N−メチルスルファモイルフェニル)ポルフィリンと、18mg(9.44×10−5mol)のp−トルエンスルホニルヒドラジドとを混合した。反応器を真空にし、N雰囲気下で密封し、100℃以上の温度で数分間加熱した。冷却後(室温)、少量の有機溶媒を用いて固体を除去し、過剰なヒドラジドを、酢酸エチル/ヘキサンを溶離液とするシリカゲルを用いる短いろ過器により除去した。約10%のバクテリオクロリンが混入したクロリンの混合物を得た。前記クロリン及びバクテリオクロリンの混合物を、ジクロロメタンで溶解し、空気の存在下、50℃の温度で加熱することにより、対応するクロリンに酸化した。
【0136】
ジエチルエーテル/ペンタンからの再結晶により、バクテリオクロリンの混入が1%未満である90%Luzitin−FMet−cを得た。図2に、最終生成物の吸収スペクトルを示す。
【0137】
[実施例3]ハロゲン化バクテリオクロリンの固体状態合成法
本実施例は、ハロゲン化両親媒性バクテリオクロリンの無溶媒、ワンポット合成を含む、汚染が無く、簡易で、経済的で、環境に優しい合成方法である。
【0138】
適切なポルフィリン(固体)及びp−トルエンスルホニルヒドラジド(固体)を、摩砕し、微細な粉末とし、十分に混合する。次に、前記混合物を反応器に導入し、高真空にする。反応器は、その後密封し、真空下を維持し、又は不活性ガスで繰り返し洗浄する。最後に、反応器を密封した状態で、1〜340分の範囲の時間、加熱(70〜200℃の範囲の温度)する。いったん反応が完了し、反応器が室温になると、対応するバクテリオクロリンが90%の収率で得られる。シリカゲルカラムを用いる短いろ過器でろ過した後に、対応するクロリンの混入が5%未満であるバクテリオクロリンを得ることができる。
【0139】
本方法を用い、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジクロロ−3−N−エチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリン、Luzitin−ClEtの一製造方法として、50mg(3.8×10−5mol)の5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジクロロ−3−スルホエチルフェニル)ポルフィリンと、188mg(10−3mol)のp−トルエンスルホニルヒドラジドとを混合し、エドワードポンプを用いて反応器を真空にして、密封し、その後、反応器を70℃以上の温度で数分間加熱した。冷却後(室温)、少量のジエチルエーテルを用いて固体を除去し、過剰なヒドラジドを、酢酸エチル/ジエチルエーテルを溶離液とするシリカゲルを用いる短いろ過器(カラム長4cm、カラム内径2.5cm)により除去した。溶媒蒸発後、ジエチルエーテル/ペンタンからの再結晶により、結果として固体を得ることができ、90%の収率でLuzitin−ClEtを得た。図3の吸収スペクトルによれば、対応するクロリンの存在が5%未満であることが明らかである。試料中にときどき現れるクロリンの量を補正した前記クロリン及び他のバクテリオクロリンのモル吸収係数を、表1に示す。図3以下のスペクトルと、特許文献1のスペクトル、またコインブラ大学のスペクトルとを比較すると、クロリン混入物が、今般の新合成法によれば、少なくとも10の因子において減少しており、より効率的で、労力が少なく、環境に優しい方法であることが明らかである。単離精製物のNMR及びMSデータを以下に示す。
1H NMR: (300 MHz, CDCl3) δ, ppm: 8,42 (d, J = 8,55 Hz , 4H, p-H); 7,88 (d, J = 8,55 Hz, 4H, m-H); 7,84- 7,82 (m, 4H, β-H);5,01(m, 4H, N-H); 3,91(s, 8H, β-H); 3,22 (m, 8H, CH2 ); 1,24 (t, 12H, J = 6,73 Hz, CH3 ); -1,29 (s, 2H, NH).
MS: (MALDI-TOF), m/z: 1322,0 [M]+
【0140】
[実施例4]ハロゲン化バクテリオクロリンにおけるアトロプ異性体
本実施例は、ハロゲン化され、かつスルホン化されたバクテリオクロリン中に存在し、容易に分離することができる安定なアトロプ異性体について示す。また、赤外領域で、より高い減衰係数を有する極性のより高いアトロプ異性体についても示す。
【0141】
第1溶離液として酢酸エチル/n−ヘキサン(1:1)を用い、最終の溶離液として酢酸エチル/n−ヘキサン(3:1)を用いると共に、長いカラム(カラム長8cm、カラム内径2.5cm)を用いることを除いて、実施例3に記載の方法を用い、2つの画分中の5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジクロロ−3−N−エチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリン,Luzitin−ClEtの分離を観察した。各画分は、TCLにおいて2つのスポットを示し、これは、極性のより小さいアトロプ異性体αβαβ+αβの混合物又は極性のより高いアトロプ異性体βα+αの混合物として同定された。図4は、より高い極性を有するアトロプ異性体の混合物の吸収スペクトルを示す。この画分は、750nm帯で、εの強度が50%増して150,000M−1cm−1に到達することを示す。
【0142】
[実施例5]ハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンのpH安定性
本実施例は、ハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンの、胃の中でみられる酸性条件であるpH1及び37℃における安定性を示す。
【0143】
Luzitin−Clを、中性水溶液に溶解し、37℃で平衡化したところ、図5に示す吸収スペクトルを得た。水溶液中にHClを滴下し、pHを1より小さくし、2時間後、pH1におけるLuzitin-Clの吸収スペクトルを記録した。その後、NaOHの水溶液を添加して該溶液を中和し、新たな吸収スペクトルを3時間後に記録した。図5は、HCl及びNaOHの水溶液の添加によりなされた希釈に対して補正された吸収スペクトルを示す。低いpHで観察されたスペクトル変化は、ピロール環のプロトン化によるものであるが、酸性度が中和されると回復する。これらの条件下において、Luzitin−Clの半分近くは、回復し、他の半分は、対応するクロリンへと変換された。
【0144】
[実施例6]ハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンの光安定性
本実施例は、赤外光照射に対するハロゲン化スルホン化バクテリオクロリンの増加された安定性を示す。それは、他のバクテリオクロリン、例えば、5,10,15,20−テトラキス(3−ヒドロキシフェニル)バクテリオクロリン等の合成バクテリオクロリン又は、例えば、Tookad(登録商標)等の自然発生生成物から誘導されたバクテリオクロリンにおいて見られる不安定性の問題を解決する。
【0145】
Luzitin−FMetを、PBS:メタノール(2:3)に溶解し、1cm石英セルに移動し、その吸収スペクトルを記録した(図6)。前記石英セルを、その後、該石英セルのウインドウと一致するビーム直径を有するように予め非集束させたリンクスダイオードレーザによる748nmのビーム中に配置した。これらの条件下において測定されたレーザ出力は、28.8mWであった。5分ごとに、照射を中断し、新たな吸収スペクトルを記録した。この手順は、65分間続けられた。光退色は、実験のタイムウインドウ(time window)における一次反応の反応速度論に従う。図6は、照射後の吸収スペクトルもまた示す。743nmにおけるバクテリオクロリンピークは、吸光度が1.128から0.337に低下した一方、クロリンの吸光度は、0.114から0.151にわずかながら上昇した。これらの波長における化合物のモル吸収係数を考慮すると、前記バクテリオクロリンの70%は前記照射の間に破壊されている。一方、数%ながらクロリンの形成がなされていることが明らかである。残りの生成物は、可視光線/赤外線領域中においてよく分解されるスペクトルはないが、主要な光崩壊過程は、光退色として説明できる。
【0146】
光退色の半減期は、異なるレーザ強度に対して測定され、レーザ出力に比例することが示された。748nmにおける100mWレーザ照射で正規化された他のバクテリオクロリンの半減期を、同一の光強度で正規化されたFoscan(登録商標)及びTookad(登録商標)の光崩壊の文献値と共に、表1に示す。光増感剤のPBS溶液が、アルゴンで飽和され、溶液中の酸素濃度が低下している場合、30の因子によってLuzitin−Cの半減期が増加することが観察された。これは、光退色にROSが関与していることを示す。
【0147】
[実施例7]
一重項酸素の効率的な光生成
本実施例は、Luzitin、適切な波長の光、及び溶液中の溶存酸素分子の存在下における一重項酸素の効率的な生成について説明する。
【0148】
355nmにおいて約0.2の吸光度を有するエタノール中におけるLuzitin−ClHepの空気飽和溶液は、1cm石英キュベット中において、Nd:YAGレーザパルスによって励起され、一重項酸素発光が、上述した装置及び方法を用い、1270nmで続いて起きる。前記一重項酸素リン光の強度を、レーザ強度の関数として観察した。同様の観察を、エタノール中のフェナレンオンに対し、355nmにおけるLuzitin−ClHepの吸光度に対応する濃度にして行った。図7は、空気飽和エタノール中において、355nmにおけるLuzitin−ClHep又はフェナレンオン励起の後、1270nmで測定した一重項酸素リン光強度のレーザエネルギー依存性を示す。種々のレーザエネルギーを用い、一重項酸素発光のエネルギー依存性の傾き及び前記エタノール中のフェナレンオンに対するΦΔ=0.95の値から、Luzitin−ClHepに対するΦΔ=0.78を得た。他のバクテリオクロリンに対する値を、表1に示す。
【0149】
一重項酸素生成の量子収率が約70%であることに関連するバクテリオクロリンの光安定性は、連続照射下におけるバクテリオクロリンの分子が、光退色の前に、大量の電子的に励起された酸素分子を局所的に生成することを示唆する。増感剤によって吸収されるエネルギーの約30%は、他の工程において失われる。前記他の工程のいくつかは、以下の実施例において同定された。
【0150】
[実施例8]
本実施例は、増感剤としてLuzitin−Clを用いる、活性酸素種、即ち、スーパーオキシドイオン及びヒドロキシルラジカルの生成について記載する。
【0151】
Luzitin−Clによるスーパーオキシドイオン及びヒドロキシルラジカルの光生成を評価するため、30〜80μMのLuzitin−Cl及び40mMのBMPOの存在下におけるEPRスペクトルを、以下の条件において測定した。
a)暗所中における空気飽和水溶液。
b)ハママツ社製ダイオードレーザにより8分間照射された窒素飽和水溶液。
c)ハママツ社製ダイオードレーザにより4分間照射された空気飽和水溶液。
d)ハママツ社製ダイオードレーザにより8分間照射された空気飽和水溶液。
e)ハママツ社製ダイオードレーザにより16分間照射された空気飽和水溶液。
f)スーパーオキシドジスムターゼ(50μg/ml)の存在下、ハママツ社製ダイオードレーザにより16分間照射された空気飽和水溶液。
g)カタラーゼ(30μg/ml)の存在下、ハママツ社製ダイオードレーザにより16分間照射された空気飽和水溶液。
【0152】
実験条件(a)及び(b)下では、ROS−BMPO付加物は、検出されなかった。しかしながら、実験条件(c)、(d)及び(e)下では、BMPO及びヒドロキシラジカルの間で形成されたBMPO付加物が検出された(図8)。光の存在は、このような付加物の形成に必要不可欠である。実験条件(f)は、スーパーオキシドイオンの捕捉剤として知られるスーパーオキシドジスムターゼがBMPO−ヒドロキシルラジカル付加物の形成を抑制することを意味する兆候(signal)がなかった。また、実験条件(g)もまた前記兆候がなく、過酸化水素を破壊し、水と酸素分子にするカタラーゼもまたBMPO−ヒドロキシラジカル付加物の形成を抑制することが明らかである。これらの結果は、ヒドロキシラジカルは、光増感剤及び酸素分子から直接形成されるのではなく、むしろ二次生成物であることを意味する。スーパーオキシドジスムターゼによって観察された抑制は、スーパーオキシドイオンの形成に対する有力な証拠である。カタラーゼによって観察された抑制は、過酸化水素もまたヒドロキシラジカルの前駆体であることを示唆する。
【0153】
同様の実験を、DMSO中におけるDMPOに対して行った。空気及び光の存在下、DMPO−スーパーオキシド付加物が検出された(図8)。しかしながら、空気若しくは光がない場合、又はスーパーオキシドジスムターゼの存在下では、前記付加物は観察されなかった。
【0154】
総合すれば、これらのデータは、スーパーオキシドイオンの形成、後述の過酸化水素の形成、及びその後に続くヒドロキシラジカルの形成を示唆している。これらの全ては、細胞に傷害を与える能力を有する活性酸素種であることを十分に裏付けしている。これらのROSは、バクテリオクロリンの一重項酸素形成効率の約70%を補完しており、そして、増感剤によって吸収されたエネルギーの残りの30%は、失われるのではなく、むしろ一重項酸素に加えて他の細胞毒性種の形成に用いられることを示している。
【0155】
[実施例9]標準的なランプ照射下におけるマウスメラノーマ細胞株に関するLuzitin−Cl−cのインビトロ光毒性
本実施例は、Luzitinが、フィルタ処理されたハロゲン光照射下での、マウスメラノーマ細胞に非常に強い毒性を有する濃度において、暗所毒性はごくわずかであることを示す。
【0156】
照射前に、培養後の細胞に対し細胞内に取り込まれていない光増感剤を取り除くための洗浄を行わなかったことを除き、上述した物質及び方法によって、S91(マウスメラノーマ)細胞株中におけるLuzitin−Cl−cの暗所における細胞毒性、及び光増感活性を測定した。図9における差し込み図は、培養時間120分におけるLuzitin−Cl−cの異なる濃度の暗所における細胞毒性を示す。図9は、細胞が[Luzitin−Cl−c]=20μMの存在下において照射されたときの、異なる光線量(light dose)に対するS91細胞の生存率を示す。培養中の細胞の90%を死滅させるために必要とされる光線量(LD90)、又は培養中の細胞の50%を死滅させるために必要とされる光線量(LD50)を、表3に示す。
【0157】
[実施例10]標準的なランプ照射下におけるマウスメラノーマ細胞株に関するLuzitin−Clのインビトロ光毒性
本実施例は、Luzitinが、フィルタ処理されたハロゲン光照射下での、ヒト乳癌細胞に非常に強い毒性を有する濃度において、暗所毒性はごくわずかであることを示す。
【0158】
上述した物質及び方法によって、MCF7(ヒト乳癌)細胞株中のLuzitin−Clの暗所における細胞毒性及び光増感活性を測定した。図10における差し込み図は、培養時間12時間におけるLuzitin−Clの異なる濃度の暗所における細胞毒性を示す。図10は、[Luzitin−Cl]=5μM及び各種の光線量に対するMCF7細胞の生存率を示す。培養中の細胞の90%を死滅させるために必要とされる光線量(LD90)、又は培養中の細胞の50%を死滅させるために必要とされる光線量(LD50)を、表4に示す。
【0159】
[実施例11]レーザ照射下におけるヒト前立腺癌細胞株に関するLuzitin−Clのインビトロ光毒性
本実施例は、Luzitinが、レーザ照射下においてヒト前立腺癌細胞に対して非常に強い毒性を示す濃度において、暗所毒性はごくわずかであることを示す。
【0160】
上述した物質及び方法によって、PC−3(ヒト前立腺癌)細胞株中のLuzitin−Clの暗所における細胞毒性を測定した。これらの実験によれば、0.05mMがLuzitin−Clの最も高い濃度である。前記濃度は暗所における試験中の細胞株の生存能力に関して、相対的に全く影響を与えない。これを、以下の光毒性研究における基準濃度とする。
【0161】
PC−3細胞株中のLuzitin−Clの光増感活性を、上述した物質及び方法を用いて測定した。図11は、この光増感剤の各種の濃度に対する、3J/cm及び6J/cmの光線量及び24時間の培養時間における生存率を示す。図11によれば、[Luzitin−Cl]=20μMは、6J/cmのレーザ光線量に暴露させることにより100%の細胞を死滅させることが明らかである。
【0162】
[実施例12]レーザ照射下におけるマウス大腸癌細胞株に関するLuzitin−ClEtのインビトロ光毒性
本実施例は、Luzitinが、レーザ照射下での、マウス大腸癌細胞に対して非常に強い毒性を有する濃度において、その暗所毒性はごくわずかであることを示す。
【0163】
CT26(マウス大腸癌)細胞株中のLuzitin−ClEtの暗所における細胞毒性は、細胞毒性がIC50の水準に到達する前に、培地中においてこの化合物が沈殿してしまうので、IC50に関して測定できなかった。50μMの濃度がLuzitin−ClEtの最も高い濃度である。前記濃度は暗所における試験中の細胞株の生存能力に関して相対的に全く影響を与えない。
【0164】
CT26細胞株中のLuzitin−ClEtの光増感活性を、上述した物質及び方法を用いて測定した。図12は、この光増感剤の各種の濃度に対する、6J/cmの光線量及び18時間の培養時間における生存率を示す。図12は、Luzitin−ClEtが5μMの濃度のときに、6J/cmのレーザ光線量に暴露させることで90%の細胞を死滅させる(LD90=5μM)ことを示している。図12によれば、[Luzitin−Cl]=10μMは、6J/cmのレーザ光線量に暴露させることにより100%の細胞を死滅させることが明らかである。表6は、28.5mWでの6J/cmのレーザ照射下、様々な他の細胞株においてLD90に到達するのに必要とされるLuzitin−ClEt濃度を示す。
【0165】
[実施例13]レーザ照射下におけるヒト大腸癌細胞株に関するLuzitin−FMetのインビトロ光毒性
本実施例は、Luzitinが、レーザ照射下での、ヒト大腸癌細胞に対して非常に強い毒性を有する濃度において、その暗所毒性はごくわずかであることを示す。
【0166】
HT−29(ヒト結腸線癌)細胞株中のLuzitin−FMetの暗所における細胞毒性は、細胞毒性がIC50の水準に到達する前に、培地中においてこの化合物が沈殿してしまうので、IC50に関して測定できなかった。50μMの濃度がLuzitin−FMetの最も高い濃度である。前記濃度は暗所における試験中の細胞株の生存能力に関して相対的に全く影響を与えない。
【0167】
HT−29細胞株中のLuzitin−FMetの光増感活性を、上述した物質及び方法を用いて測定した。図13は、この光増感剤の各種の濃度に対する、6J/cmの光線量及び18時間の培養時間における生存率を示す。図13は、Luzitin−FMetが0.5μMの濃度であるときに、6J/cmのレーザ光線量に暴露させることで90%の細胞を死滅させる(LD90=1μM)ことを示している。図13によれば、[Luzitin−FMet]=1μMは、6J/cmのレーザ光線量に暴露させることにより100%の細胞を死滅させることが明らかである。表6は、28.5mWでの6J/cmのレーザ照射下、様々な他の細胞株においてLD90に到達するのに必要とされるLuzitin−FMet濃度を示す。
【0168】
[実施例14]レーザ照射下におけるヒト非小細胞肺癌細胞株に関するLuzitin−FMetのインビトロ光毒性
本実施例は、Luzitinが、レーザ照射下での、ヒト非小細胞肺癌細胞に非常に強い毒性を有する濃度において、暗所毒性はごくわずかであることを示す。
【0169】
Luzitin−FMetのA−549(ヒト非小細胞肺癌)細胞株に対する暗所における細胞毒性は、細胞毒性がIC50の水準に到達する前に、培地中においてこの化合物が沈殿してしまうので、IC50に関して、測定することができなかった。50μMの濃度がLuzitin−FMetの最も高い濃度である。前記濃度は暗所における試験中の細胞株の生存能力に関して相対的に全く影響を与えない。
【0170】
図14は、この光増感剤の各種の濃度に対する、6J/cmの光線量及び18時間の培養時間における生存率を示す。図14は、Luzitin−FMetが0.5μMの濃度であるときに、6J/cmのレーザ光線量に暴露させることで90%の細胞を死滅させる(LD90=0.5μM)ことを示している。図14によれば、[Luzitin−FMet]=0.5μMは、6J/cmのレーザ光線量に暴露させることにより100%の細胞を死滅させることが明らかである。表6は、28.5mWでの6J/cmのレーザ照射下、様々な他の細胞株においてLD90に到達するのに必要とされるLuzitin−FMet濃度を示す。
【0171】
[実施例15]蛍光検出限界
本実施例は、生物学的試料における極限感度及びLuzitinの検出の選択性を示す。
【0172】
エタノールに溶解されたLuzitin−ClEt1%原液のヒト血清への希釈によって製造された異なる濃度の溶液。前記濃度の範囲は、0.2nM〜10nMである。前記試料を、励起及び発光のためのスリット4:5:3を用い、上述した蛍光光度計により514nmで励起した。図15に示すように、前記発光は赤外領域において得られた。
【0173】
前記検出限界は、以下の式を用いて決定された。

【0174】
(式中、Sy/xは、検量線の標準偏差であり、bはその傾きである。検出限界は、0.17nM(又は0.2ng/g)であった。
【0175】
[実施例16]暗所におけるインビボ毒性
本実施例は、Luzitinが、市販の光増感剤を用いるPDT用に認可された濃度よりも高い濃度であっても、マウスに対して毒性を有さないことを示す。
【0176】
前記マウスを、以下の実験群に分割した。
a)2mg/kgのLuzitin−Clを投与されたマウス10匹。
b)5mg/kgのLuzitin−Clを投与されたマウス10匹。
c)10mg/kgのLuzitin−Clを投与されたマウス10匹。
d)15mg/kgのLuzitin−Clを投与されたマウス10匹。
e)20mg/kgのLuzitin−Clを投与されたマウス10匹。
f)何も投与されていないマウス10匹、そして、これらのマウスを対照群とした。
【0177】
Luzitin−Clの溶液(0.5ml)を皮下投与し、該投与されたマウスを30日間よく観察した。投与後、最初の6日間は、群(e)のマウスは、光に対して過敏であることが明らかであり、群(d)のうち何匹かのマウスは、軽度の過敏であることが明らかであった。動物は、直接に指向される光源から遠ざかることにより過敏性を示す。これらのマウスは、定期的に体重測定されたが、いずれのマウスにも有意な体重変化はみられなかった。30日後、前記マウスを、モルビタール(Morbital)(バイオウェット社製、ポーランド国)を用いて麻酔をかけ、それらの臓器及び組織試料を摘出し、選択された臓器について、血液形態学的試験と同様に組織学的試験を行った。血液及び組織において、変化は観察されなかった。
【0178】
これらの暗所毒性分析において用いた用量は、Photofrin(登録商標)の使用において推奨される用量より10倍高く、Foscan(登録商標)を用いた場合の用量より100倍高かった。それにもかかわらず、マウスにおいて測定され得る暗所毒性の閾値に、到達しなかった。これにより、PDTで用いることができるLuzitinの用量は、Photofrin(登録商標)又はFoscan(登録商標)の用量よりも多いことが明らかである。
【0179】
[実施例17]IP投与に続くクロリン生体内分布
本実施例は、Luzitinが、IP投与後2時間で、血液脳関門を通過することができることを示す。
【0180】
Luzitin−Cl−cを、腹腔内投与によりDBA/2マウスにつき10mg/kgの用量となるように投与した。組織におけるクロリン分散を、投与後2時間分析した。前記マウスをモルビタール(バイオウェット社製、ポーランド国)を用いて麻酔し、脳を含む臓器のいくつかを摘出し、重さを量り、その後分析まで−30℃で保存した。前記組織試料中の色素含有量を、蛍光分光計により分析した。前記色素を抽出するため、組織試料を、組織ホモジナイザーMPW−120(メディカルインスツルメンツ社製、ポーランド国)を用い、10000rpmの速度で、7mlの氷冷した90%含水アセトン中において1分間均質化処理した。得られたホモジネートを、2000×Gで10分間、4℃の温度で遠心分離し、上澄みを回収し、そして沈殿物を90%含水アセトンで再抽出し、前記色素を完全に回収した。得られた抽出物をプール(pool)し、色素含有量を分析した。前記試料を、413nmで励起し、蛍光スペクトルを600〜800nmの範囲で記録した。図16は、各質量により正規化した脳、血液及び肝臓由来試料の蛍光強度を示す。
【0181】
DBA/2マウスにおける前記増感剤の血液から脳への分散は、IP投与後2時間で、4:1であった。これは、適切なLuzitinは、顕著な量が血液脳関門を通過可能であるため、脳中における活性光増感剤となり得ることの原理証明である。以下の実施例では、この類の増感剤が腫瘍に蓄積される傾向があり、さらに光増感剤の量を増加して、脳腫瘍の治療に利用することができることを示す。
【0182】
[実施例18]IP投与に続くバクテリオクロリンの薬物動態
本実施例は、LuzitinのIP投与後、先ず腫瘍内に蓄積して、その後ゆっくりとした速度で消失することを示す。
【0183】
腫瘍モデルは、S91クラウドマンメラノーマ細胞であり、前記細胞は、5%ウシ胎児血清及び抗生物質が補充されたRPMI培地中で単層培養した。前記細胞を、37℃の温度で5%COを含む湿潤環境において増殖させた。前記メラノーマ細胞(〜1×10)を、0.1mlリン酸緩衝液塩(PBS)中に回収し、マウスの右脇腹の皮下に埋め込んだ。前記腫瘍は成長し、前記埋め込み後10日で視認可能となった。前記マウスを、前記投与後3週間に治療した。
【0184】
Luzitin−Clを、腹腔内投与によりDBA/2マウスに10mg/kgの用量で投与した。バクテリオクロリンの組織への分散を、腹腔内投与後、2時間、6時間、12時間、24時間、及び48時間の間隔で分析した。前記マウスを、ケタミン及びキシラジンを用いて麻酔し、該マウスの臓器及び組織試料を摘出し、重さを量り、その後さらに、分析まで−30℃で保存した。組織試料中の色素含有量を、蛍光分光計により分析した。前記色素を抽出するため、組織試料を、組織ホモジナイザーMPW−120(メディカルインスツルメンツ社製、ポーランド国)を用い、10000rpmの速度で、7mlの氷冷したエタノール/DMSO(75:25)溶液中において1分間均質化処理した。得られたホモジネートを、2000×gで10分間、4℃の温度で遠心分離し、上澄みを回収し、そして沈殿物を前記エタノール/DMSO溶液で再抽出し、前記色素を完全に回収した。得られた抽出物をプールし、色素含有量を分析した。前記試料を、517nmで励起し、蛍光スペクトルを600〜850nmの範囲で記録した。図17は、各質量により正規化した腫瘍及びいくつかの臓器由来の試料の蛍光強度を示す。
【0185】
前記腫瘍中の光増感剤の顕著な蓄積は、前記腹腔内投与後一日で生じ、筋中より3倍高い濃度に到達する。また、前記皮膚中への蓄積はごくわずかであり、これは暗所毒性研究におけるマウスの光線過敏の欠如を説明するものである。最後に、前記光増感剤は、ほとんどの組織から24時間以内に消失する。これらの薬物動態はPDT治療のためのタイムウインドウの選択のために非常に好ましく、そのため副作用が軽減され、治療の効果が最大化される。
【0186】
同様の研究を、他のLuzitinについて行った。そして、Luzitin−ClEtによれば、腫瘍対筋肉の非常に強い選択性が示された(図18)。
【0187】
[実施例19]Luzitin−FMetを用いたBalb/Cマウス中のマウス大腸癌のPDT
本実施例は、適切な波長の光を暴露した際に、Luzitinが引き起こす腫瘍退縮/壊死について示す。
【0188】
腫瘍モデルは、CT26マウス大腸癌細胞であり、前記細胞は5%ウシ胎児血清及び抗生物質が補充されたRPMI培地中で単層培養した。前記細胞を、37℃の温度で5%COを含む湿潤環境において増殖させた。前記メラノーマ細胞(〜1×10)を、0.1mlリン酸緩衝液塩(PBS)中に溶解し、前記Balb/Cマウスの右脇腹の皮下に埋め込んだ。前記腫瘍は成長し、前記埋め込み後約1週間で直径が5mmに到達した。自然壊死は観察されなかった。治療は、前記腫瘍が各マウスにおいて直径5mmに到達したときを開始とした。前記腫瘍が前記治療を開始する大きさに到達した日に、前記マウスに、10mg/kgのPEG400中のLuzitin−FMetの用量で腹腔内投与した。投与後24時間の時点において、4匹のマウスをケタミン及びキシラジンを用いて麻酔し、100mW/cmのフルエンス率で22分間(合計フルエンスは132J/cm)、上述したハママツ社製748nmダイオードレーザにより処置した。他の4匹のマウスは、処置を行わず、対照としての役割とした。マウスを毎日検査し、腫瘍を2直交測定L及びW(垂直方向がL)を用いて測定すると共に、その大きさを、式 V=L×W/2を用いて算出し、記録した。
【0189】
図19は、レーザ照射後、異なる日に測定された相対的な腫瘍体積を示す。前記処置されたマウスにおける腫瘍の大きさは、対照マウスの平均的な腫瘍の大きさより小さく、一例においては腫瘍が完全に消失していた。
【0190】
[実施例20]Luzitin−ClEtを用いるDBA/2マウスにおけるメラノーマ細胞のPDT
本実施例は、適切な波長の光を暴露した際に、Luzitinが引き起こす腫瘍退縮/壊死について示す。
【0191】
腫瘍モデルは、S91クラウドマンメラノーマ細胞であり、5%ウシ胎児血清及び抗生物質が補充されたRPMI培地中で単層培養した。前記細胞を、37℃の温度で5%COを含む湿潤環境において増殖させた。前記メラノーマ細胞(〜1×10)を、0.1mlリン酸緩衝液塩(PBS)中に溶解し、前記DBA/2マウスの右脇腹の皮下に埋め込んだ。前記腫瘍は成長し、前記埋め込み後約1週間で直径が5mmに到達した。自然壊死は観察されなかった。治療は、前記腫瘍が各マウスにおいて直径5mmに到達したときを開始とした。前記腫瘍が前記治療を開始する大きさに到達した日に、前記マウスに、PEG400中のLuzitin−ClEtを10mg/kgの用量で腹腔内投与した。投与後24時間で、マウスをケタミン及びキシラジンを用いて麻酔し、プラスチックホルダー中に拘束し、その後、上述したハママツ社製748nmダイオードレーザにより異なる光線量で処置した。照射の数分間の間、腫瘍領域は、壊死の明らかな信号を示し、数時間の間に照射された領域の全てに拡大した。マウスを毎日検査し、前記腫瘍の大きさを測定し、記録した。図20は、レーザ照射後、異なる日に測定された腫瘍体積を示す。ある一回の処置セッションが、長期間に亘って腫瘍退縮を生じさせることが明らかである。
【0192】
[実施例21]局所投与のための製剤
本実施例は、適切な経皮製剤として適用する際に、皮膚を介してLuzitinを素早く拡散することができることを示す。4匹のミニブタを、光増感剤であるLuzitin−FMetの皮膚への拡散を試験するために用いて、局所投与に対するこの組成物の副作用を評価した。
【0193】
前記光増感剤を、先ず、無水エタノール(0.556ml中、5mg)に溶解し、次に、1.737mlのプロピレングリコールを添加し、続いて0.22mlのAzone(登録商標)及び0.3mlの水を添加した。得られた混合物をボルテックスにより十分に混合し、超音波処理することにより可溶化を促進し、その後、水(76.65%)、96%エタノール(15%)、グリセリン(6%)、トリエタノールアミン(1.35%)、カーボポール940(1%)からなるゲル基剤に添加した。前記混合物をよく混合し、十分に均一化した。この製剤において、光増感剤の終濃度が0.1%であって、かつ、Azone(登録商標)の終濃度が4%となるようにした。
【0194】
前記ミニブタは、上述したように取り扱った。麻酔により沈静化している間、予め設定しておいた領域に、外科手袋を装着した手により前記製剤を塗布した。各塗布は、直径3cmの略円形領域を、前記ゲルの厚みが数ミリメートルとなるように行った。前記塗布した領域を、密閉パッチにより覆った。いくつかのミニブタについて、背中の異なる領域に対して、3時間後に同様の手順を繰り返した。前記ミニブタのうちの1匹において、前記製剤を塗布後6時間で取り除き、該ミニブタの背中をきれいにした後、次の評価を行うために、10日間生存させた。皮膚試料を上述したように回収した。各試料は、1辺が2cmの略長方形であり、厚さを1cmとした。前記ミニブタ、特に生存しているミニブタは、他の増感剤を含まずに本実施形態の増感剤のみを含む製剤によって引き起こされる副作用の証拠を示さなかった。
【0195】
固定化処理後、蛍光顕微鏡検査法によって、及び共焦点顕微鏡法によって評価するために、各試料を切断し、薄片化した。前記試料から得られた画像の代表的な例を図21に示す。前記ゲルの塗布後3時間以内の画像によれば、Luzitin−FMetは全ての上皮を通過して拡散していることが明らかである。Luzitin−FMetの蛍光発光は、図22に示す吸収スペクトルによりさらに確認された。従って、角質層及び上皮を数時間で通過して拡散するLuzitinの局所使用のための組成物を製剤することができ、該組成物は、皮膚疾患のPDTのために非常に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体の製造方法であって、


前記製造方法は、
(i)無溶媒、かつ選択的に無基材で、対応する置換ポルフィリンをヒドラジドを用いて、クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体に固相還元する工程を備え、
前記対応する置換ポルフィリンは、下記式(II)で表されることを特徴とするクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体の製造方法。

【請求項2】
下記式(III)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体の製造方法であって、


前記製造方法は、
(i)無溶媒、かつ選択的に無基材で、対応する置換ポルフィリンをヒドラジドを用いて、クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体に固相還元する工程を備え、
前記対応する置換ポルフィリンは、下記式(IV)で表されることを特徴とするクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体の製造方法。

【請求項3】
(a)下記式(III)で表されるクロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な組成物の誘導体と、



(b)表面浸透促進剤とを備えることを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
請求項3記載の医薬組成物において、前記表面浸透促進剤は、ジアルキルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、グリコール、ピロリドン誘導体、及び1−置換アザシクロアルカン−2−オンから選択されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
過剰増殖性組織の検出における、下記式(III)で表されるクロリン誘導体若しくはバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な組成物誘導体の使用方法。

【請求項6】
(i)下記の式(III)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体、又はそれらの医薬として許容可能な組成物の誘導体であって、標的に優先的に結合する誘導体の診断上十分な量を対象に投与する工程と、
(ii)前記クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体が前記標的に結合する十分な時間を与え、前記標的組織と優先的に結合していないクロリン誘導体及びバクテリオクロリン誘導体を非標的組織から洗浄する工程と、
(iii)患者中の式(III)の化合物を視覚化する工程とを備えることを特徴とする対象における過剰増殖性組織の存在を検出するための方法。

【請求項7】
請求項6記載の対象における過剰増殖性組織の存在を検出するための方法において、
前記視覚化する工程は、患者の身体の少なくとも一部についてMRI画像を生成することによって達成されることを特徴とする対象における過剰増殖性組織の存在を検出するための方法。
【請求項8】
請求項6記載の対象における過剰増殖性組織の存在を検出するための方法において、
前記視覚化する工程は、前記化合物が蛍光を発するために十分なエネルギーの光に該化合物を暴露することによって達成されることを特徴とする対象における過剰増殖性組織の存在を検出するための方法。
【請求項9】
皮膚癌、又は光線角化症、扁平上皮細胞癌、ボーエン病、基底細胞癌、乾癬、尋常性座瘡及び酒さから選択される皮膚疾患の治療に用いるための医薬として許容可能な組成物であって、
前記組成物は、
(i)下記式(III)で表されるクロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体と、
(ii)かかる式(III)の化合物の皮内到達又は経皮到達のための医薬として許容可能な担体であって、前記皮膚に一時的に浸透し、各種の皮膚層を通して該化合物の浸透を促進する皮膚表面浸透促進剤からなる前記担体とを備えるものにおいて、
(a)前記組成物は、対象に投与され、
(b)クロリン誘導体又はバクテリオクロリン誘導体が、皮膚科的治療の標的の近辺に優先的に位置するのに十分な時間を与えられ、
(c)前記標的は、照射され、前記皮膚癌又は前記皮膚疾患に所望の反応が得られることを特徴とする医薬として許容可能な組成物。

【請求項10】
請求項9記載の医薬組成物において、前記表面浸透促進剤は、ジアルキルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、グリコール、ピロリドン誘導体、及び1−置換アザシクロアルカン−2−オンから選択されることを特徴とする医薬組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2012−506425(P2012−506425A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533133(P2011−533133)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際出願番号】PCT/PT2009/000057
【国際公開番号】WO2010/047611
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(511102309)ウニベルシダージ デ コインブラ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DE COIMBRA
【出願人】(511102310)ブルーファーマ−インダストリア ファルマセウティカ ソシエダッド アノニマ (1)
【氏名又は名称原語表記】BLUEPHARMA−INDUSTRIA FARMACEUTICA,S.A.
【Fターム(参考)】