説明

グラビア印刷版および積層電子部品の製造方法

【課題】ドクターブレードの摩耗や損傷を防止するとともに、良好な均一性を有する塗工膜を得られるグラビア印刷版等を提供する。
【解決手段】頂部(32)と、当該頂部に対して高さ方向に所定の距離を隔てて配置される底部(34)と、前記頂部と前記底部を接続する傾斜部(36)と、が形成された版面(26a)を有し、前記傾斜部は、一方の端部が前記頂部に接続しており、第1の傾斜角度を有する第1斜面(38)と、前記第1斜面の他方の端部に接続しており、前記第1の傾斜角度より大きい第2の傾斜角度を有する第2斜面(40)と、を有し、前記第1斜面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であり、前記一方の端部が接続する前記頂部の延長線(L1)と、前記他方の端部が接続する前記第2斜面の延長線(L2)とが交わる点から、前記第1斜面までの距離(H)が5μm以下であるグラビア印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷に用いられるグラビア印刷版およびこれを用いる積層電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷版を用いるグラビア印刷法は、エレクトロニクス分野をはじめ、様々な分野で応用されている。たとえば、積層電子部品の製造方法等においては、内部電極等を印刷するための印刷法として、グラビア印刷法を用いることが提案されている(例えば特許文献1等参照)。
【0003】
従来技術に係るグラビア印刷版の版面には、主として版面に塗工液を保持させることを目的とする彫刻加工が施されている。また、グラビア印刷では、版面を塗工液に浸す工程を行い、次に版面にドクターブレードを押し当て余分な塗工液を掻き取る工程を行ったのち、版面を印刷対象である支持体等に押し当てることによって塗工液を転写し、印刷を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−291546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術に係るグラビア印刷では、ドクターブレードが、使用に伴って摩耗するという問題を有している。ドクターブレードの摩耗は、塗工膜の厚さを変化させるため、従来技術に係るグラビア印刷では、塗工膜の厚さを均一に保つことが難しいという問題がある。また、ドクターブレードが、グラビア印刷版の版面に施された彫刻加工のエッジによって過度の力を受け、局所的に摩耗するという問題もある。さらに、上述のようなドクターブレードの異常摩耗は、塗工ムラを引き起こす場合がある。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、ドクターブレードの摩耗や損傷を防止するとともに、良好な均一性を有する塗工膜を得られるグラビア印刷版及びこのようなグラビア印刷版を用いる積層電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るグラビア印刷版は、
頂部と、当該頂部に対して高さ方向に所定の距離を隔てて配置される底部と、前記頂部と前記底部を接続する傾斜部と、が形成された版面を有し、
前記傾斜部は、
一方の端部が前記頂部に接続しており、第1の傾斜角度を有する第1斜面と、
前記第1斜面の他方の端部に接続しており、前記第1の傾斜角度より大きい第2の傾斜角度を有する第2斜面と、を有し、
前記第1斜面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であり、
前記一方の端部が接続する前記頂部の延長線と、前記他方の端部が接続する前記第2斜面の延長線とが交わる点から、前記第1斜面までの距離が5μm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るグラビア印刷版は、版面の傾斜部が、第1斜面と第2斜面を有しており、第1斜面の傾斜角度は、第2斜面の傾斜角度より小さい。このように、本発明に係るグラビア印刷版では、頂部に接続する第1斜面の傾斜角度が小さいため、塗工液を掻き取るドクターブレードの摩耗を抑制することができる。また、第2斜面と頂部の間に、前記頂部の延長線と第2斜面の延長線との交点からの距離が5μm以下となる比較的小さな第1斜面を形成することによって、頂部と傾斜部の境界に、傾斜部や底部を形成した際に発生したバリが残ることを防止できる。
【0009】
また、本発明に係るグラビア印刷版は、版面の第1斜面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であるため、使用に伴うドクターブレードの摩耗を効果的に防止し、ドクターブレードの耐久寿命を向上させることができる。
【0010】
本発明に係る積層電子部品の製造方法は、
上記のグラビア印刷版を用いて誘電体ペースト又は導電ペーストを転写してシートを形成する工程と、
前記シートを含む積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含む。
【0011】
本発明に係る積層電子部品の製造方法によれば、ドクターブレードの摩耗や損傷を防止できるグラビア印刷版を用いて良好な均一性を有するシートを形成することが可能である。したがって、本発明に係る積層電子部品の製造方法は、このようなシートを用いて積層電子部品を製造することにより、製造された積層電子部品におけるショート・耐電圧不良品の発生率を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るグラビア印刷版を備えるグラビア印刷装置の概略を説明した概念図である。
【図2】図2は、図1に示すグラビア印刷装置のグラビアロールの斜視図である。
【図3】図3(A)は、グラビア印刷版の版面を拡大した拡大平面図であり、図3(B)は、図3(A)に示すグラビア印刷版による印刷された塗工膜の拡大平面図である。
【図4】図4は、グラビア印刷版の版面に形成される彫刻加工の一例を表す平面図である。
【図5】図5は、図4に示す彫刻加工の断面形状を表す拡大断面図である。
【図6】図6は、図5の一部をさらに拡大した拡大断面図である。
【図7】図7は、参考例に係るグラビア印刷版に形成された彫刻における断面の一部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
グラビア印刷装置
図1は、本発明の一実施形態に係るグラビア印刷版26を有するグラビア印刷装置10の概略を表す概念図である。本実施形態では、積層電子部品の製造方法において、電極パターン18をグリーンシート22に印刷する際に使用するグラビア印刷版26を例に挙げて説明するが、本発明に係るグラビア印刷版の用途は特に限定されない。また、実施形態では、ダイレクトグラビアを例に説明を行うが、本発明に係るグラビア印刷版は、リバースダイレクトグラビアや、オフセットグラビア、キッスリバースグラビア等、ダイレクトグラビア以外のグラビア印刷にも使用できる。
【0014】
グラビア印刷装置10は、導電ペースト16で満たされているペースト槽15、グラビアロール12、ドクターブレード20及びバックアップロール14等を有する。グラビアロール12は、図2に示すように円筒状の形状を有しており、外周面にグラビア印刷版26が形成されている。
【0015】
グラビアロール12の外周面は、グラビア印刷版26の版面26aであり、版面26aには、複数の版面パターン28が形成されている。本実施形態に係るグラビア印刷版26においては、版面パターン28は矩形形状を有している。版面パターン28の外形状および配置は、図1に示すグリーンシート22の表面に印刷される電極パターン18の外形状および配置に対応している。
【0016】
図1に示すように、グラビアロール12の一部は、塗工液である導電ペースト16に浸されている。グラビア印刷を実施する際、グラビアロール12は矢印94で示す方向に回転し、グラビアロール12の外周に形成されているグラビア印刷版26は、導電ペースト16の中を通過する。また、導電ペースト16の中を通過する際に、グラビア印刷版26の版面26a(図2参照)に、導電ペースト16が付着する。
【0017】
ドクターブレード20の先端は、導電ペースト16が付着した版面26aに対して、所定の圧力で接触している。ドクターブレード20は、版面26aに付着した導電ペースト16のうち、版面26aにおける版面パターン28以外の部分に付着したものや、版面パターン28内部に形成された彫刻30の頂部32に付着したもの等を掻き落とす。
【0018】
図1に示すように、グラビアロール12とバックアップロール14の間を、キャリアフィルム24の上に形成されたグリーンシート22が通過する。ドクターブレード20を通過した版面26aは、バックアップロール14に対向する位置でグリーンシート22に接触し、版面26aに保持された導電ペースト16が、グリーンシート22の表面に転写される。すなわち、グラビアロール12の版面26aは、導電ペースト16、ドクターブレード20、グリーンシート22の順に接触し、これによって、グリーンシート22に電極パターン18が印刷される。
【0019】
図3(A)は、グラビア印刷版26の版面26aの一部を拡大した拡大平面図であり、図3(B)は、図3(A)に示すグラビア印刷版26によって電極パターン18が印刷されたグリーンシート22(内部電極印刷済み誘電体シート)の拡大平面図である。図3(A)に示すように、版面26aには複数の版面パターン28が形成されており、各版面パターン28は略矩形の外形状を有している。図3(A)および図3(B)に示すように、版面パターン28の外形状は、グリーンシート22の表面に印刷される電極パターン18の形状に対応している。電極パターン18は、版面パターン28から転写された導電ペースト16が、グリーンシート22表面でレベリングすることによって形成される。
【0020】
図3(A)に示す版面パターン28の内部には、彫刻30が形成されている。図4は、図3(A)に示す彫刻30の一部を拡大した拡大平面図である。彫刻30は、グラビアロール12の頂部32、底部34及び傾斜部36によって構成される。頂部32、底部34及び傾斜部36は、カップ状に形成されている。
【0021】
図5は、図4に示す断面線V−Vに沿って彫刻30を観察した断面図である。頂部32は、彫刻30の中で最も高い位置に配置されており、頂部32の高さは、図2に示す版面26aにおける版面パターン28が形成されていない部分の高さ(グラビア印刷版26の最外周面)と、略同一である。
【0022】
図5に示すように、底部34は、頂部32に対して高さ方向に所定の距離を隔てて配置される。底部34は、頂部32に対して、図2に示すグラビア印刷版26の中心側に位置しており、彫刻30の中で最も低い位置に配置されている。底部34は、近接する傾斜部36の間に形成されている。
【0023】
傾斜部36は、頂部32と底部34とを接続している。傾斜部36は、第1斜面38、第2斜面40及び第3斜面42を有する。第1斜面38は、図5の部分拡大図である図6に示すように、一方の端部38aが頂部32に接続しており、他方の端部38bが第2斜面40に接続している。第1斜面38の傾斜角度である第1の傾斜角度αは、第2斜面40の傾斜角度である第2の傾斜角度βより小さい。ここで、第1の傾斜角度αは、頂部32を構成する面と平行な面に対する第1斜面38の勾配と同じであり、第2の傾斜角度βは、頂部32を構成する面と平行な面に対する第2斜面40の勾配と同じである。
【0024】
第2斜面40は、第1斜面38の他方の端部38bに接続しており、第1斜面38と第3斜面42(図5参照)を接続している。第2斜面40の傾斜角度である第2の傾斜角度βは、第1の傾斜角度αより大きい。
【0025】
図5に示すように、第3斜面42は、第2斜面40と底部34を接続している。第3斜面42は曲面であるが、平面であっても良い。また、第1斜面38および第2斜面40も曲面であってもよく、その場合、第1の傾斜角度α及び第2の傾斜角度βは、各面の平均傾斜角度に相当し、面の曲率が変化する位置などが、頂部32、第1斜面38及び第2斜面40の境界に相当する。
【0026】
図6に示すように、第1斜面38の一方の端部38aが接続する頂部32の延長線L1と、他方の端部38bが接続する第2斜面40の延長線L2の交点Pから、第1斜面38までの距離Hは、5μm以下であることが好ましい。距離Hを5μm以下とすることにより、第1斜面38は、エッジの面取り形状としての機能を好適に果たすことができる。また、第1斜面38を5μm以下とすることにより、第1斜面38の形状が導電ペースト16の転写量に与える影響を抑制し、転写量の制御が複雑化するのを防止できる。
【0027】
また、距離Hの下限は、第1斜面38をサブミクロンオーダーの計測で認識できる程度であれば特に限定されないが、1.0μm以上であることがさらに好ましい。距離Hを1.0μm以上とすることによって、ドクターブレード20の摩耗を効果的に防止することができる。
【0028】
また、第1斜面38の算術平均粗さRa(JIS B 0601:2001)は、導電ペーストの版離れを良くするために、0.1μm以下とすることが好ましく、0.05μm以下とすることが更に好ましい。第1斜面38の算術平均粗さRaの下限値は特に限定されないが、研磨時間等を考慮して、0.01μm程度以上とすることが好ましい。また、第2斜面40の算術平均粗さRaについても、第1斜面38と同様に、0.1μm以下とすることが好ましい。
【0029】
グラビア印刷版26の製造方法は特に限定されないが、例えば、本実施形態に係るグラビア印刷版26は、彫刻30が形成されていない版面に、第2斜面40、第3斜面及び底部34を形成する工程と、第2斜面40、第3斜面42及び底部34が形成された版面を研磨し、第1斜面38を形成する工程を経て作製される。
【0030】
彫刻が形成されていない版面に第2斜面40、第3斜面42及び底部34を形成する方法としては、特に限定されないが、機械的な鍛造法、ケミカルエッチング法、レーザ加工法等が挙げられる。
【0031】
例えばケミカルエッチング法によって第2斜面40、第3斜面42及び底部34を形成する場合、まずグラビアロール12の表面に銅メッキを施して、彫刻30の形成されていない版面を形成する。その後、版面にUV感光樹脂を塗布し、UV照射することによって、図4に示すような彫刻30に対応する印刷パターンを、版面に焼き付ける。次に、版面のうち、第2斜面40や底部34等に相当する部分の樹脂を洗い流した後、塩化第二鉄溶液等のエッチング液をスプレー等により版面に吹き付け、第2斜面40、第3斜面42及び底部34を形成する。さらに、必要に応じて、表面にCrメッキ等を施す。
【0032】
第2斜面40、第3斜面42及び底部34が形成された版面を得た後、所定の大きさの第1斜面38が形成され、第1斜面38の算術平均粗さRaが所定の値になるまで版面を研磨し、グラビア印刷版26を得る。第2斜面40が形成された版面を研磨する研磨方法としては、特に限定されないが、流体研磨法又は電解研磨法を用いることが好ましい。流体研磨法又は電解研磨法を用いることによって、図6に示す距離Hが5μm以下である微少な第1斜面38を比較的容易に形成することができるため、グラビア印刷版26を効率的に製造できる。
【0033】
また、第2斜面40を作製した後に、版面を研磨しつつ第1斜面38を形成することによって、新たなバリの発生を抑制しつつ、第2斜面40等を形成する工程で発生したバリを除去することができる。このように作製されたグラビア印刷版は、ドクターブレード20の局所的な摩耗を、より効果的に抑制することができる。
【0034】
本実施形態に係るグラビア印刷版26は、版面26aの傾斜部36が、第1斜面38と第2斜面40を有しており、第1斜面38の傾斜角度αは、第2斜面40の傾斜角度βより小さい。また、図6に示すように、頂部32の延長線L1と第2斜面40の延長線L2の交点Pから第1斜面38までの距離が5μm以下である。したがって、第1斜面38は、頂部32と第2斜面40のエッジを面取りした面取り面、又はこれと同様の形状を有しており、頂部32と傾斜部36の境界部とドクターブレード20との当たりの強さを緩和し、ドクターブレード20の摩耗を防止することができる。また、傾斜角度αおよび面積が比較的小さい第1斜面38を形成することによって、頂部32と傾斜部36の境界に、彫刻30を形成する際に発生したバリが残ることを防止できる。したがって、本実施形態に係るグラビア印刷版26は、ドクターブレード20の局所的な摩耗を抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態に係るグラビア印刷版26は、版面26aの第1斜面38の算術平均粗さRaが0.1μm以下であるため、使用に伴うドクターブレード20の摩耗を効果的に防止し、ドクターブレード20の耐久寿命を向上させることができる。
【0036】
なお、版面26aに形成される彫刻30は、図4に示すものに限られず、頂部32、第1斜面38と第2斜面40を有する傾斜部36、底部34を有するものであれば、どのような形状であってもよい。
【0037】
積層電子部品の製造方法
グラビア印刷版26を用いる積層電子部品の製造方法として、セラミックコンデンサの製造方法を例に挙げて説明する。本実施形態に係る製造方法では、まず、図1に示すように、グラビア印刷版26を用いて、グリーンシート22に導電ペースト16を転写して内部電極印刷済み誘電体シート23を作製する。なお、セラミックコンデンサの製造に用いるグラビア印刷版26の各寸法は、製造するセラミックコンデンサの寸法に応じて適宜設定される。例えば、図5に示す頂部32が配置される面と底部34が配置される面との距離(底部34の深さ)は、10μm〜40μm程度、頂部32のピッチは、50μm〜200μm程度とすることができるが、特に限定されない。
【0038】
グリーンシート22は、チタン酸バリウムなどに代表されるセラミック粉末、バインダ、分散剤及び可塑剤等をボールミルなどで混練した誘電体ペーストを用いて、ドクターブレード法により、支持体としてのキャリアフィルム24の上に形成する。導電ペースト16は、導電性粉末、溶剤、バインダ及びセラミック粉末等を、三本ロールなどで混練することによって作製する。セラミック粉末の組成、誘電体ペースト又は導電ペースト16における各成分の配合比等は特に限定されず、セラミックコンデンサの仕様等に応じて適宜調整することができる。
【0039】
次に、内部電極印刷済み誘電体シート23を、キャリアフィルム24から剥離し、これを積層機によって積層し、熱圧着した後、切断することによって、グリーンチップ積層体を得る。
【0040】
さらに、グリーンチップ積層体を所定温度で脱バインダ処理及び焼成し、端子電極を焼き付けることによって、セラミックコンデンサを得る。脱バインダ処理時及び焼成時の温度についても、特に限定されず、グリーンシート22の組成その他の条件に応じて適宜調整される。
【0041】
本実施形態に係る製造方法によれば、グラビア印刷版26を用いて良好な均一性を有する内部電極印刷済み誘電体シート23を形成し、このようなシートを用いてセラミックコンデンサを製造することにより、製造されたセラミック電子部品におけるショート・耐電圧不良品の発生率を低減できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0043】
実施例1
<グラビア印刷版の作製>
グラビアロール12の外周面に、図3(A)、図4、図5及び図6等に示す彫刻30から成る版面パターン28を形成し、版面26aを有するグラビア印刷版26を作製した。グラビア印刷版26の作製においては、まず、ケミカルエッチング法によって第2斜面40、第3斜面42及び底部34を形成した。その後、第2斜面40、第3斜面42及び底部34が形成された版面を、所定の大きさの第1斜面38が形成され、算術平均粗さRaが所定の値になるまで流体研磨し、グラビア印刷版26を得た。
【0044】
図3(A)に示す版面パターン28の平面形状の寸法は1.6mm×0.8mmとした。また、図5に示す底部34の深さは、25μm、頂部32のピッチは125μmとした。さらに、図6に示す第1の傾斜角度αは45度、第2の傾斜角度βは80度、距離Hは5μmとした。また、第1斜面38の算術平均粗さRaは、0.05μmとした。
【0045】
<グリーンシートの準備>
誘電体ペーストを、キャリアフィルム24上に、ドクターブレード法により塗布し、厚さ1.6μmのグリーンシート22を形成した。誘電体ペーストは、誘電体原料100重量部に、ブチラール樹脂10重量部、エタノール40重量部、n−プロパノール50重量部、トルエン35重量部を配合し、φ2mmジルコニアビーズを用い、ボールミルにより24時間混合して作製した。誘電体原料は、粒径0.1〜1.0μmのチタン酸バリウム、酸化クロム、酸化イットリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化珪素の各粉末を、仮焼きしたのち、ボールミルにより24時間混合し、その後乾燥することによって作製した。誘電体原料の混合比は、BaTiOを100モル%として、Crに換算して0.3モル%、MgOに換算して1.0モル%、BaOに換算して2.4モル%、CaOに換算して0.3モル%、SiOに換算して0.7モル%、Yに換算して1.5モル%とした。
【0046】
<導電ペーストの準備>
平均粒径0.1μmのNi粒子100重量部、有機ビヒクル溶液(エチルセルロース樹脂15重量部をターピネオール85重量部に溶解したもの)27重量部及びターピネオール73重量部を混合分散し、ペースト化することによって、導電ペースト16を作製した。
【0047】
<内部電極印刷済み誘電体シートの作製>
上記のように作製されたグラビア印刷版26を備えるグラビアロール12を用いて、図1に示すように、グリーンシート22に、導電ペースト16を転写して、内部電極印刷済み誘電体シート23を作製した。
【0048】
<グリーンチップ積層体の作製>
上記のように作製された内部電極印刷済み誘電体シート23を、キャリアフィルム24から剥離して、積層機により積層数380層の積層体を作製し、これを熱圧着したのち切断し、内部電極層の積層数が380層のグリーンチップ積層体を得た。なお、グリーンチップ積層体における積層方向の両方の最外部には、厚さ10μmの誘電体グリーンシートを5枚積層し、保護層を形成した。
【0049】
<グリーンチップ積層体の焼成>
上記のように作製されたグリーンチップ積層体を脱バインダ処理した後、焼成し、更に端子電極を焼き付け等により形成することによって、実施例1に係るセラミックコンデンサを得た。脱バインダ処理の条件は、450℃、12時間とし、焼成条件は、還元雰囲気中において1300℃、2時間とした。なお、端子電極をつけた後に、表面にメッキ層を形成した。得られたセラミックコンデンサのサイズは、1.6mm×0.8mm×0.8mmであり、1層あたりの誘電体層の厚み(層間厚み)は1.4μm、内部電極層の厚みは0.9μmであった。
【0050】
<特性評価1:スジ故障発生までの時間>
実施例1において作製されたグラビア印刷版26を用いて、図1に示すように、グリーンシート22に対する導電ペースト16の転写を連続して行い、印刷開始から、スジ故障発生までの時間を測定した。スジ故障の発生は、電極印刷乾燥後の表面を目視にて確認した。
【0051】
<特性評価2:ショート・耐電圧不良率の測定>
ショート・耐電圧不良率の測定は、10,000個のサンプルについて行った。ショート・耐電圧不良率の測定では、端子電極間に電圧を100V印加した後、抵抗値を測定し、抵抗値が1MΩ以下のものを不良とした。また、測定された全サンプルにおける不良となったサンプルの割合を、ショート・耐電圧不良率とした。ショート・耐電圧不良検査では、絶縁抵抗計(HEWLETT PACKARD社製E2377Aマルチメーター)を使用して、抵抗値を測定した。
【0052】
実施例2
実施例2では、グラビア印刷版26の作製において、流体研磨の時間を変更し、図6に示す距離Hを1μm、第1斜面38の算術平均粗さRaを0.10μmとした他は、実施例1と同様にして、グラビア印刷版26及びセラミックコンデンサを作製した。また、実施例2に係るグラビア印刷版26及びセラミックコンデンサについても、実施例1と同様に、特性評価1及び特性評価2を実施した。
【0053】
参考例
参考例では、グラビア印刷版の作製において、流体研磨の代わりにバーチカル研磨を行い、第1斜面を作製しなかった点等を除き、実施例1と同様にして、グラビア印刷版及びセラミックコンデンサを作製した。すなわち、比較例では、グラビア印刷版の作製において、実施例1と同様にして、ケミカルエッチング法によって第2斜面、第3斜面及び底部を形成した。その後、比較例では、流体研磨を行わず、グラビア印刷版の外周面(版面における版面パターンが形成されていない部分及び版面パターンの頂部)をバーチカル研磨した。
【0054】
図7に示すように、参考例に係るグラビア印刷版の彫刻は、傾斜部96が第1斜面を有しておらず、第2斜面98と第3斜面のみを有している点で実施例1に係るグラビア印刷版26とは異なるが、その他の点は、実施例1に係るグラビア印刷版26と同様である。
【0055】
実施例1、実施例2及び参考例のサンプル作製条件の相違点および評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、実施例1及び実施例2に係るグラビア印刷版26は、参考例に係るグラビア印刷版と比較して、スジ故障発生までの時間が47倍又は32倍であり、非常に長かった。スジ故障は、ドクターブレード20の全体が摩耗するか、又は一部が局所的に摩耗して発生するものと考えられるため、スジ故障についての評価結果から、実施例1及び実施例2に係るグラビア印刷版26は、ドクターブレード20の摩耗を効果的に防止できることが確認された。
【0058】
表1に示すように、実施例1及び実施例2に係るセラミックコンデンサのショート・耐電圧不良率は、参考例に係るセラミックコンデンサと比較して、4割程度であり、大幅に低かった。ショート・耐電圧不良率は、ドクターブレード20の摩耗や、グラビア印刷版26の彫刻30に残存するバリ等の存在等に起因して、グリーンシート22に印刷される電極パターン18の形状等が不均一となることによって、上昇すると考えられる。実施例1及び実施例2に係るグラビア印刷版26を用いたセラミック電子部品の製造方法によれば、良好な均一性を有する内部電極パターン18の印刷を実現し、製造されたセラミックコンデンサにおけるショート・耐電圧不良品の発生率を低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
10…グラビア印刷装置
12…グラビアロール
16…導電ペースト
20…ドクターブレード
26…グラビア印刷版
26a…版面
28…版面パターン
30…彫刻
32…頂部
34…底部
36…傾斜部
38…第1斜面
40…第2斜面
L1,L2…延長線
P…交点
H…距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部と、当該頂部に対して高さ方向に所定の距離を隔てて配置される底部と、前記頂部と前記底部を接続する傾斜部と、が形成された版面を有し、
前記傾斜部は、
一方の端部が前記頂部に接続しており、第1の傾斜角度を有する第1斜面と、
前記第1斜面の他方の端部に接続しており、前記第1の傾斜角度より大きい第2の傾斜角度を有する第2斜面と、を有し、
前記第1斜面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であり、
前記一方の端部が接続する前記頂部の延長線と、前記他方の端部が接続する前記第2斜面の延長線とが交わる点から、前記第1斜面までの距離が5μm以下であるグラビア印刷版。
【請求項2】
請求項1に記載のグラビア印刷版を用いて誘電体ペースト又は導電ペーストを転写してシートを形成する工程と、
前記シートを含む積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含む積層電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−66559(P2012−66559A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215757(P2010−215757)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】