説明

グラビア塗工装置

【課題】グラビアロールに付着した空気と、密閉チャンバー内の塗工液とを適正に置換してグラビアロールに対する塗工液の塗布性を効果的に向上させることができる。
【解決手段】基材に塗工液を転写するグラビアロール2と、該グラビアロール2に塗工液を塗布する密閉チャンバー7を有する塗工ユニット3と、密閉チャンバー7の塗工液溜まり6内に塗工液を供給する塗工液供給手段4,5とを備えたグラビア塗工装置であって、上記密閉チャンバー7には、塗工液溜まり6のグラビアロール回転方向下流側部をシールするとともに、上記グラビアロール2に付着した余分な塗工液を除去するドクターブレード8と、上記塗工液溜まり7のグラビアロール回転方向上流側部をシールするシールプレート9と、該シールプレート9と上記ドクターブレード8との間において先端部が上記グラビアロール2の周面に常時当接するように設置されたインナー部材10とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に塗工液を転写するグラビアロールと、該グラビアロールに塗工液を塗布する密閉チャンバーを有する塗工ユニットと、密閉チャンバーに形成された塗工液溜まり内に塗工液を供給する塗工液供給手段とを備えたグラビア塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、塗工液が転写される基材(被塗布体)をバックアップロールによってグラビアロールに圧着させながら、グラビアロール上の塗工液を被塗布体に転写する塗工装置において、グラビアロールに塗布される塗工液を収容する塗工液溜まり(遮蔽空間)を有し、この遮蔽空間内に堰盤を設けてグラビアロールに塗工液を塗布するための充填部を形成し、上記堰盤に設けられた傾斜面に沿って塗工液を流動させることにより、グラビアロールの周面に形成されたセル内の空気と塗工液とを積極的に置換することが行われている。
【0003】
また、下記特許文献2および特許文献3に示されるように、塗工ブロック(インクチャンバー)内に配設されたインナードクター(インク整流板)により、該インク室の内部を下室と上室に区画し、上記インナードクターをグラビアロール(印刷版胴)に沿った方向に傾斜させるとともに、インナードクターの先端縁をグラビアロールに対して近接させた状態で設置することにより、該グラビアロールとインナードクターとの狭い間を塗工液が通過する際に所定の抵抗を作用させてグラビアロールに対する塗工液の付着性を向上させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−104851号公報
【特許文献2】特開平10−71703号公報
【特許文献3】特開2003−251241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜3に開示された発明では、グラビアロールに塗工液を塗布するために設けられた密閉チャンバー内に堰盤またはインナードクター等を配設することにより、密閉チャンバー内に形成された塗工液溜まりを、グラビアロールの回転方向上流側に位置する上流室と回転方向下流側に位置する下流室とに区画するとともに、該上流室と下流室との間に幅が狭くなった塗工液通路を形成することにより、該塗工液通路を塗工液が通過する際にその流速を上昇させるように構成している。この構成によれば、上記堰盤またはインナードクターの設置部においてグラビアロールのセル内に滞留した微小気泡と塗工液との置換を促進し、グラビアロールに対する塗工液の塗布性をある程度向上させることが可能である。しかし、上記密閉チャンバー内には、グラビアロールのセル内に滞留した空気とグラビアロールの周面に付着した空気(境界層の空気)との両方が持ち込まれるため、これらの空気を密閉チャンバー内で完全に除去することは困難であり、該空気の存在に起因した塗工ムラが基材に形成され易いという問題があった。
【0006】
上記密閉チャンバーを透明アクリル材により形成して該密閉チャンバーにおける気泡の発生状態を確認するとともに、密閉チャンバー内に堰盤等を配設することにより上記塗工液通路を形成したグラビア塗工装置において、密閉チャンバーの内部圧力を測定する実験を行ったところ、図9に示すようなデータが得られた。当該データから、上記密閉チャンバーの塗工液溜まり30内に堰盤31を配設することにより形成された幅の狭い塗工液通路32における塗工液の圧力は、上記堰盤31の下流側に位置する塗工液溜まり30の上流室33よりもやや高くなっているが、堰盤31の下流側に位置する塗工液溜まり30の下流室34における塗工液の圧力と略程度であり、上記塗工液溜まり30の下流端部に設けられたドクターブレード35の設置部近傍に比べて著しく低いことが確認された。
【0007】
したがって、上記塗工液溜まりの30上流室33と下流室34との間に幅の狭い上記塗工液通路32を形成したとしても、当該部分では、グラビアロール2のセル内に滞留した空気とグラビアロール2の周面に付着した空気との両方を充分に除去することができず、寧ろ上記塗工液通路32の設置部で除去される空気よりも、上記ドクターブレード35の設置部で除去される空気量の方が多いことが、上記透明アクリルにより形成された塗工液溜まり30内における泡の発生状態からも確認された。このように上記ドクターブレード35の設置部においてグラビアロール2上の気泡と塗工液との置換が行われた場合には、上記ドクターブレード35の設置部近傍に気泡が密集した状態となり易く、これに起因してグラビアロール2に対する塗工液の塗布効率が次第に悪化した状態となることが避けられなかった。
【0008】
また、図10に示すように、密閉チャンバーのインク溜まり内に設置されたインク整流板36をグラビアロール2(印刷版胴)に沿った方向に傾斜させた状態で設置することにより、当該部分でグラビアロール2のセル内に滞留した空気とグラビアロール2の周面に付着した空気とを除去するように構成した場合には、当該空気からなる気泡Kが上記インク整流板36の壁面に沿うように流動してグラビアロール2の周面に再付着し易いとともに、グラビアロール2の回転に伴ってインク整流板36の先端部がグラビアロール2の周面から離間した状態となり、上記気泡Kがインク溜まりの下流室に流入し易くなる等の問題があった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、グラビアロールに付着した空気と、密閉チャンバー内の塗工液とを適正に置換してグラビアロールに対する塗工液の塗布性を効果的に向上させることができるグラビア塗工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、基材の表面に塗工液を転写するグラビアロールと、該グラビアロールに塗工液を塗布する密閉チャンバーを有する塗工ユニットと、密閉チャンバーに形成された塗工液溜まり内に塗工液を供給する塗工液供給手段とを備えたグラビア塗工装置であって、上記密閉チャンバーには、塗工液溜まりのグラビアロール回転方向下流側部をシールするとともに、上記グラビアロール付着した余分な塗工液を除去するドクターブレードと、上記塗工液溜まりのグラビアロール回転方向上流側部をシールするシールプレートと、該シールプレートと上記ドクターブレードとの間において先端部が上記グラビアロールの周面に常時当接するように設置されたインナー部材とを備えたものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載のグラビア塗工装置において、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向上流側部に位置する塗工液溜まりの上流室に塗工液を供給する第1塗工液供給通路と、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向下流側部に位置する塗工液溜まりの下流室に塗工液を供給する第2塗工液供給通路とを備えたものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載のグラビア塗工装置において、上記インナー部材が、グラビアロールの回転方向に対向するように傾斜した状態で設置された板状部材からなるものである。
【0013】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラビア塗工装置において、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向上流側部に位置する塗工液溜まりの上流室と、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向下流側部に位置する塗工液溜まりの下流室とを連通させる連通路が密閉チャンバーに形成されるとともに、上記塗工液溜まりの上流室内に塗工液を供給する単一の塗工液供給手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、密閉チャンバーの塗工液溜まり内にインナー部材を配設し、その先端部を上記グラビアロールの周面に常時当接させるように構成したため、グラビアロールのセル内に滞留した空気とグラビアロールの周面に付着した空気とを、上記グラビアロールの回転に応じてインナー部材によりそれぞれ効果的に除去することができ、上記密閉チャンバーの塗工液溜まり内において、該塗工液溜まり内の塗工液と上記グラビアロールに付着した空気とを確実に置換することにより、グラビアロールの周面に塗工液を適正に塗布してそのセル内に塗工液を効率よく充填できるという利点がある。
【0015】
請求項2に係る発明では、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向上流側部に位置する上流室に塗工液を供給する第1塗工液供給通路と、グラビアロールよりも回転方向下流側部に位置する塗工液溜まりの下流室に塗工液を供給する第2塗工液供給通路とを設けた構造としたため、上記インナー部材により塗工液溜まりの内部を上記上流室と下流室とに完全に区画した場合においても、該上流室および下流室内に塗工液を充分に満たした状態とすることができる。したがって、上記インナー部材の先端部をグラビアロールの周面に強固に圧接させて該塗工液溜まり内の塗工液とグラビアロールに付着した空気とを効果的に置換することができるとともに、上記塗工液溜まりの上流室内において上記インナー部材によりグラビアロールから除去された空気が、上記上流室から下流室へ流入するのを抑制することが可能であり、該下流室内に流入した空気が上記ドクターブレードの設置部近傍においてグラビアロールの表面に再付着するという事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0016】
請求項3に係る発明では、上記インナー部材を、グラビアロールの回転方向に対向するように傾斜した状態で設置された板状部材によって形成したため、上記インナー部材の先端部をグラビアロールの回転に応じてその回転方向下流側に付勢することにより該グラビアロールの周面に当接させた状態に保持することができる。しかも、上記グラビアロールから除去された空気をインナー部材に沿ってグラビアロールの周面から離間させるように案内し、これによって該グラビアロールの周面から離間した空気が塗工液溜まり内に滞留した状態となるのを効果的に防止することが可能であり、該空気がグラビアロールに再付着するという事態の発生を効果的に抑制できるという利点がある。
【0017】
請求項4に係る発明では、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向上流側部に位置する塗工液溜まりの上流室と、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向下流側部に位置する塗工液溜まりの下流室とを連通させる連通路が密閉チャンバーに形成されるとともに、上記塗工液溜まりの上流室内に塗工液を供給する単一の塗工液供給手段を備えた構造としたため、簡単な構成で上記塗工液溜まりの上流室および下流室の両方に塗工液を満たした状態として、該塗工液溜まり内の塗工液とグラビアロールに付着した空気とを効果的に置換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るグラビア塗工装置の第1実施形態を示す説明図である。
【図2】密閉チャンバーの具体的構成を示す断面図である。
【図3】本発明に係るグラビア塗工装置の第2実施形態を示す図2相当図である。
【図4】本発明に係るグラビア塗工装置の第3実施形態を示す図2相当図である。
【図5】本発明に係るグラビア塗工装置の第4実施形態を示す図1相当図である。
【図6】本発明に係るグラビア塗工装置の第5実施形態を示す図2相当図である。
【図7】本発明に係るグラビア塗工装置の第6実施形態を示す図2相当図である。
【図8】本発明に係るグラビア塗工装置の第7実施形態を示す図2相当図である。
【図9】グラビア塗工装置の従来例に係る密閉チャンバーの内部圧力の作用状態を示す説明図である。
【図10】グラビア塗工装置の従来例に係る密閉チャンバー内の気泡の発生状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1および図2は、本発明に係るグラビア塗工装置の第1実施形態を示している。該グラビア塗工装置は、シート状の基材1に塗工液を塗布するものであって、該基材1の搬送路に配設されてその表面に塗工液を転写するグラビアロール2と、該グラビアロール2に塗工液を塗布する塗工ユニット3と、該塗工ユニット3に塗工液を供給する第1,第2塗工液供給手段4,5とを有している。
【0020】
上記グラビアロール2と、これに対向するように設置されたバックアップロール21との間に基材1を導入して下方から上方に搬送するとともに、該基材1の搬送方向と逆方向に上記グラビアロール2を回転駆動しつつ、該グラビアロール2を基材1に当接させることにより、その表面に塗工液が塗布されるようになっている。
【0021】
上記塗工ユニット3には、図2に示すように、グラビアロール2の周面に対向するように開口した空間部からなる塗工液溜まり6を有する密閉チャンバー7が設けられるとともに、この密閉チャンバー7の前面上端部、つまり上記グラビアロール2の回転方向下流端部には、スチール製の板材部材またはプラスチック製の板材部材(インナードクター)等からなるドクターブレード8が取り付けられ、かつ上記密閉チャンバー7の前面下端部、つまりグラビアロール2の回転方向上流側端部には、スチール製板材またはプラスチック製板材等からなるシールプレート9が取り付けられている。また、上記密閉チャンバー7内には、グラビアロール2に付着した空気と塗工液溜まり6内の塗工液との置換を促進するインナー部材10が上記ドクターブレード8とシールプレート9との間に配設されている。
【0022】
上記ドクターブレード8およびシールプレート9は、その先端部が上記グラビアロール2の周面に圧接されることにより、上記塗工液溜まり6の前面部上辺部および下辺部をシールして上記塗工液溜まり6を密閉状態に維持するように構成されている。また、上記ドクターブレード8は、上記塗工液溜まり6内においてグラビアロール2の周面上に塗布された余分な塗工液を上記グラビアロール2の回転に応じて掻き取ることにより、該グラビアロール2上に塗布される塗工液の厚みを均一に設定する機能を有している。
【0023】
上記インナー部材10は、その基端部が、上記塗工液溜まり6の背面に形成された前下がりの傾斜面に係止プレート11を介して固定されたスチール製の板状部材またはプラスチックの板状部材(インナードクター)等からなっている。そして、上記インナー部材10の先端部が、グラビアロール2の周面に当接した状態に保持されることにより、上記塗工液溜まり6の内部がインナー部材10よりもグラビアロール2の回転方向上流側部に位置する上流室12と、上記インナー部材10よりもグラビアロール2の回転方向下流側部に位置する塗工液溜まり6の下流室13とに区画されている。
【0024】
また、上記インナー部材10は、グラビアロール2に対する当接部からその回転方向に延びる接線Aに対する設置角度αが鋭角(リバースアングル)に設定されることにより、グラビアロール2の回転方向に対向するように傾斜した状態で設置されている。そして、上記グラビアロール2の周面に当接したインナー部材10の先端部が、グラビアロール2の回転に追従する方向、つまりその回転方向下流側(図2の上方側)に付勢されることにより、該グラビアロール2の周面に圧接された状態に保持されるようになっている。
【0025】
上記第1,第2塗工液供給手段4,5は、それぞれ図1に示すように、印刷用のインク等からなる塗工液が収容された塗工液タンク14と、該塗工液タンク14内の塗工液を上記密閉チャンバー7の塗工液溜まり6内に給送する給送ポンプ15とを有している。また、上記第1塗工液供給手段4には、その給送ポンプ15から吐出された塗工液を塗工液溜まり6の上流室12に供給する第1塗工液供給通路16と、該塗工液溜まり6の上流室12から排出された塗工液を上記塗工液タンク14に戻す第1塗工液返送通路17とが設けられている。一方、上記第2塗工液供給手段5には、その給送ポンプ15から吐出された塗工液を塗工液溜まり6の下流室13に供給する第2塗工液供給通路18と、該塗工液溜まり6の下流室13から排出された塗工液を上記塗工液タンク14に戻す第2塗工液返送通路19とが設けられている。
【0026】
上記構成において第1,第2塗工液供給手段4,5の給送ポンプ15を作動させることにより、各塗工液タンク14内に収容された塗工液を、上記塗工液溜まり6の上流室12および下流室13内にそれぞれ供給しつつ、上記グラビアロール2を所定速度で基材1の搬送方向と逆方向に回転駆動する。該グラビアロール2の回転に応じ、そのセル内に滞留した空気とグラビアロール2の周面に付着した空気(境界層の空気)とが上記インナー部材10によりそれぞれ除去されるとともに、該空気と上記塗工液溜まり6内の塗工液とが置換されることにより、グラビアロール2の周面に塗工液が適正に塗布されてそのセル内に塗工液が効率よく充填されることになる。
【0027】
上記インナー部材10の設置部においてグラビアロール2から除去されることなく、上記塗工液溜まり6の上流室12および下流室13に持ち込まれた空気は、塗工液溜まり6内の最下流部に設けられた上記ドクターブレード8により除去されて上記塗工液溜まり6内の塗工液と置換される。そして、上記グラビアロール2の周面上に付着した塗工液は、上記ドクターブレード8により余分な塗工液が掻き取られて厚みが均一化された状態で、該グラビアロール2の回転に応じて上記基材1との接触部に搬送されることにより、該基材1の表面に転写されるようになっている。
【0028】
なお、上記密閉チャンバー7内においてインナー部材10によりグラビアロール2から除去された空気は、インナー部材10の基端部側に案内された後、該インナー部材10の基端部近傍に接続された第1塗工液供給手段4の第1塗工液返送通路17を介して塗工液タンク14内に排出される。また、上記ドクターブレード8によりグラビアロール2から除去された空気は、塗工液溜まり6の上方部に案内された後、上記密閉チャンバー7の上端面に接続された第2塗工液供給手段5の第2塗工液返送通路19を介して塗工液タンク14内に返送される。
【0029】
このように基材1の表面に塗工液を転写するグラビアロール2と、該グラビアロール2に塗工液を塗布する密閉チャンバー7を有する塗工ユニット3と、密閉チャンバー7に形成された塗工液溜まり6内に塗工液を供給する塗工液供給手段4とを備えたグラビア塗工装置において、上記密閉チャンバー7に、塗工液溜まり6のグラビアロール回転方向下流側部をシールするとともに、上記グラビアロール2に付着した余分な塗工液を除去するドクターブレード8と、上記塗工液溜まり6のグラビアロール回転方向下流側部をシールするシールプレート9と、該シールプレート9と上記ドクターブレード8との間において先端部がグラビアロール2の周面に常時当接するように設置されたインナー部材10とを設けた構造としたため、上記グラビアロール2に付着した空気と密閉チャンバー7内の塗工液とを適正に置換してグラビアロール2に対する塗工液の塗布性を効果的に向上できるという利点がある。
【0030】
すなわち、上記密閉チャンバー7を使用してグラビアロール2に塗工液を塗布するように構成した場合には、該塗工液の塗布時に、塗工液が密閉チャンバー7の外部に飛散したり、塗工液中の有機溶剤が蒸発したりすることに起因して作業環境が悪化するという事態の発生を効果的に防止することができる。この反面、上記グラビアロール2のセル内に滞留した空気およびグラビアロール2の周面に付着した空気が密閉チャンバー7の塗工液溜まり6内に持ち込まれて滞留し易いとともに、グラビアロール2から上記空気を完全に除去することは極めて困難であった。
【0031】
しかし、上記第1実施形態に示すように密閉チャンバー7の塗工液溜まり6内にインナー部材10を配設し、その先端部を上記グラビアロール2の周面に常時当接させるように構成した場合には、グラビアロール2のセル内に滞留した空気とグラビアロール2の周面に付着した空気との両方を、上記グラビアロール2の回転に応じてインナー部材10によりそれぞれ効果的に除去することができる。したがって、上記密閉チャンバー7の塗工液溜まり6内において、該塗工液溜まり6内の塗工液と上記グラビアロール2に付着した空気とを確実に置換することができ、これによりグラビアロール2の周面に塗工液を適正に塗布してそのセル内に塗工液を効率よく充填することができる。
【0032】
また、上記第1実施形態では、インナー部材10よりもグラビアロール2の回転方向上流側部に位置する上流室12に塗工液を供給する第1塗工液供給通路16を備えた第1塗工液供給手段4と、グラビアロール2よりも回転方向下流側部に位置する塗工液溜まり6の下流室13に塗工液を供給する第2塗工液供給通路18を備えた第2塗工液供給手段5とを設けた構造としたため、上記インナー部材10により塗工液溜まり6の内部を上記上流室12と下流室13とに完全に区画した場合においても、該上流室12および下流室13内にそれぞれ塗工液を充分に満たすことができる。
【0033】
したがって、上記インナー部材10の先端部をグラビアロール2の周面に強固に圧接させて該塗工液溜まり6内の塗工液とグラビアロール2に付着した空気とを確実に置換することができるとともに、上記塗工液溜まり6の上流室12内において上記インナー部材10によりグラビアロール2から除去された空気が、上記上流室12から下流室13へ流入するのを効果的に防ぐことができる。このため、上記塗工液溜まり6の上流室12から下流室13内に流入した空気が上記ドクターブレード8の設置部近傍に滞留してグラビアロール2の表面に再付着するという事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0034】
なお、上記のように塗工液溜まり6内に配設されたインナー部材10を、グラビアロール2の回転方向に対向させるように傾斜させた状態で設置してなる上記第1実施形態に代え、図3に示す第2実施形態に示すように、上記ドクターブレード8とシールプレート9との間においてグラビアロール2の回転方向に沿わせるようにスチール製の板状部材またはプラスチック製の板状部材(インナードクター)等からなるインナー部材20を設置し、上記グラビアロール2に対する当接部からその回転方向に延びる接線Bに対する設置角度βを鈍角(ナチュラルアングル)に設定するとともに、上記インナー部材20の先端部をグラビアロール2の周面に常時当接させるように構成してもよい。
【0035】
しかし、上記第2実施形態に示すように、インナー部材20をグラビアロール2の回転方向に沿わせるように設置した場合には、上記グラビアロール2の周面に当接したインナー部材10の先端部が、グラビアロール2の回転に応じて該グラビアロール2の周面から離間する方向に付勢されるため(図9の仮想線参照)、上記インナー部材20の先端部をグラビアロール2の周面に常時当接させた状態に保持することが困難である。また、上記グラビアロール2から除去された空気がインナー部材20の先端部近傍に滞留した状態となり易く、該グラビアロール2の周面から離間した空気(気泡K)がグラビアロール2に再付着し易くなる傾向がある。
【0036】
したがって、図2に示す第1実施形態のように、インナー部材10を塗工液溜まり6内においてグラビアロール2の回転方向に対向させるように傾斜させた状態で設置することにより、上記インナー部材10の先端部を、グラビアロール2の回転に応じてその回転方向下流側に付勢し、該グラビアロール2の周面に当接した状態に保持し得るように構成することが望ましい。また、図2に示すようにインナー部材10をグラビアロール2の回転方向に対向させるように設置した場合には、グラビアロール2から除去された空気をインナー部材10に沿ってグラビアロール2の周面から離間させるように案内することにより、該グラビアロール2の周面から離間した空気が塗工液溜まり6内に滞留するのを抑制して、該空気がグラビアロール2に再付着するのを効果的に防止できるという利点もある。
【0037】
また、上記インナー部材10よりもグラビアロール2の回転方向上流側部に位置する塗工液溜まり6の上流室12に塗工液を供給する第1塗工液供給手段4と、上記インナー部材10よりもグラビアロール2の回転方向下流側部に位置する塗工液溜まり6の下流室13に塗工液を供給する第2塗工液供給手段5とを設けてなる上記第1,第2実施形態に代え、図4に示す第3実施形態のように、インナー部材10よりもグラビアロール2の回転方向上流側部に位置する塗工液溜まりの上流室12と、上記インナー部材10よりもグラビアロール2の回転方向下流側部に位置する塗工液溜まりの下流室13とを連通させる連通路23を密閉チャンバー7に形成するとともに、上記塗工液溜まり6の上流室12内に塗工液を供給する単一の塗工液供給手段24を設けた構造としてもよい。
【0038】
上記第3実施形態では、塗工液溜まり6の下流室13に塗工液を供給する給送ポンプ15および給送タンク14を備えた第2塗工液供給手段5を設けることなく、単一の塗工液供給手段24から塗工液供給通路25を介して塗工液溜まり6の上流室12内に供給された塗工液を上記連通路23から下流室13内に流入させるとともに、該下流室13の外部に導出された塗工液を塗工液返送通路26により塗工液供給手段24の塗工液タンク14に返送することができるため、上記塗工液供給手段24の構成を簡略化しつつ、上記上流室12および下流室13の両方に塗工液を満たすことができる。
【0039】
図5は、本発明に係るグラビア塗工装置の第4実施形態を示している。当該第4実施形態に係るグラビア塗工装置では、単一の塗工液タンク41および給送ポンプ42を有する塗工液供給手段43に、塗工液を塗工液溜まり6の上流室に供給する第1塗工液供給通路44と、該第1塗工液供給通路44から分岐して塗工液溜まり6の下流室13に供給する第2塗工液供給通路45と、塗工液溜まり6の上流室12から導出された塗工液を塗工液タンク41に返送する第1塗工液返送通路46と、該第1塗工液返送通路46に合流して塗工液溜まり6の下流室13から導出された塗工液を塗工液タンク41に返送する第2塗工液返送通路47とが設けられるとともに、上記第2塗工液供給通路45に圧力調節弁48が設けられている。
【0040】
上記第4実施形態に係るグラビア塗工装置によれば、上記連通路23等を設けることなく、単一の塗工液供給手段43を使用して上記塗工液溜まり6の上流室12および下流室13に塗工液をそれぞれ供給することができるとともに、必要に応じて上記圧力調節弁48を操作することにより、上記上流室12と下流室13との相対圧力を適正に調節できるという利点がある。なお、上記第2塗工液供給通路45に圧力調節弁48を設けてなる上記構成に代え、塗工液タンク41に個別に接続された第1,第2塗工液供給通路44,45にそれぞれ塗工液の給送ポンプを設けた構造としてもよい。
【0041】
また、上記塗工液溜まり6の背面に形成された前下がりの傾斜面に係止プレート11を介して基端部が固定されたスチール製の板状部材(インナードクター)等からなる上記インナー部材10,20に代え、図6に示す第5実施形態または図7に示す第6実施形態のように、密閉チャンバー7内に合成ゴム材等により形成された弾性インナーロールからなるインナー部材27を回転自在に配設し、その周面を常時当接させた構造としてもよい。
【0042】
上記基材1の表面に塗工液を転写するグラビアロール2は、その外径を、例えば30mm〜250mmの範囲内における任意の値に設定可能であるが、該グラビアロール2の外径を40mm程度の小径に設定することにより、基材1に対するグラビアロール2の接触面積を小さくすることができるとともに、グラビアロール2と基材1との間に大きな摩擦力が作用するのを抑制できるため、このグラビアロール2を介して基材1に塗工液を転写する際に塗工ムラが生じるのを効果的に抑制できるという利点がある。しかし、上記グラビアロール2が長尺に形成されてその軸受間距離が大きく設定された塗工装置において、該グラビアロール2の外径を小径とした場合には、上記グラビアロール2を介して塗工液を基材1に転写する際に該グラビアロール2に振動が発生して塗工面に悪影響が生じ易い傾向がある。
【0043】
したがって、上記グラビアロール2に振動が生じること起因した塗工ムラが生じるのを防ぐためには、例えば図8に示す第6実施形態のように、所定の厚みを有するブロック状体等からなるインナー部材28を密閉チャンバー7内に配設してスライド可能に支持するとともに、該インナー部材28を駆動して塗工液溜まり6内への変化させる押しボルト29を設け、該押しボルト29を回動操作して上記インナー部材28を螺進させるように構成することが望ましい。この構成によれば、該インナへ部材28の先端部を上記グラビアロール2の下方から当接させてグラビアロール2に付着した空気と塗工液溜まり6内の塗工液との置換を効果的に促進する機能と、該グラビアロール2の振動減衰部材として機能とを上記インナー部材28に兼ね備えさせることができるため、上記グラビアロール2を介して塗工液を基材1に転写する際に該グラビアロール2に振動が発生するのを効果的に防止できるという利点がある。
【符号の説明】
【0044】
1 基材
2 グラビアロール
4,5,24,43 塗工液供給手段
6 塗工液溜まり
7 密閉チャンバー
8 ドクターブレード
9 シールプレート
10,20,27,28 インナー部材
16,44 第1塗工液供給通路
18,45 第2塗工液供給通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に塗工液を転写するグラビアロールと、該グラビアロールに塗工液を塗布する密閉チャンバーを有する塗工ユニットと、密閉チャンバーに形成された塗工液溜まり内に塗工液を供給する塗工液供給手段とを備えたグラビア塗工装置であって、上記密閉チャンバーには、塗工液溜まりのグラビアロール回転方向下流側部をシールするとともに、上記グラビアロール付着した余分な塗工液を除去するドクターブレードと、上記塗工液溜まりのグラビアロール回転方向上流側部をシールするシールプレートと、該シールプレートと上記ドクターブレードとの間において先端部が上記グラビアロールの周面に常時当接するように設置されたインナー部材とを備えたことを特徴とするグラビア塗工装置。
【請求項2】
上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向上流側部に位置する塗工液溜まりの上流室に塗工液を供給する第1塗工液供給通路と、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向下流側部に位置する塗工液溜まりの下流室に塗工液を供給する第2塗工液供給通路とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のグラビア塗工装置。
【請求項3】
上記インナー部材が、グラビアロールの回転方向に対向するように傾斜した状態で設置された板状部材からなることを特徴とする請求項1または2に記載のグラビア塗工装置。
【請求項4】
上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向上流側部に位置する塗工液溜まりの上流室と、上記インナー部材よりもグラビアロールの回転方向下流側部に位置する塗工液溜まりの下流室とを連通させる連通路が密閉チャンバーに形成されるとともに、上記塗工液溜まりの上流室内に塗工液を供給する単一の塗工液供給手段とを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラビア塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−170835(P2012−170835A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32278(P2011−32278)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000237260)富士機械工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】