説明

グリコシル化エンケファリン薬

二糖類によりグリコシル化されたエンケファリンペプチドは血液脳関門をとして輸送され、血流に導入された場合にモルヒネよりも優れた鎮痛効果を生じさせることが教示される。二糖類が付加してグリコシル化ペプチドは単糖または三糖類が付加した類似ペプチドよりも優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に鎮痛効果を与える方法および治療薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの医薬の歴史を通じて、種々の化合物が苦痛を緩和するために使用されてきた。特に、オピエートとして知られる植物起源の化合物クラスは鎮痛および陶酔目的で古くから使用されてきた。今日でもオピエート薬モルヒネは重大な苦痛に対する鎮痛薬として使用され、モルヒネはなお臨床研究のために重要な水準点となっている。モルヒネはその麻薬性副作用にもかかわらず今日最も広範に処方される注射可能オピオイドである。過剰投与による急性のオピオイド毒性は呼吸低下及び死を引き起こすことがあり、一方、慢性的使用は肉体的依存性、中毒および重篤な便秘症を生じさせることがある。
一般に脊椎動物、特に哺乳動物において内在性オピオイドペプチドが合成され、モルヒネを含む外来性オピオイド分子と同じレセプターに結合する。内在性ペプチドは総称的な用語エンドルフィンによって知られており、エンドルフィンは1970年代に発見されて以来、盛んに議論され、研究されてきた。エンドルフィンは「ランナーズ・ハイ」およびチョコレートを食べた後などに経験される感覚を含む、報告されている種々の陶酔感の天然の源として考えられている。
これらの経験に関する証拠は非常に主観的なものであるが、種々の感覚的、感情的、欲求的および認知的機能において内在性エンドルフィン産生が重要な役割を果たしていることは疑いがない。
【0003】
エンドルフィンの一つのクラスはエンケファリンとして知られている。エンケファリンはオピオイドレセプターと高い特異性をもって結合する小さなペプチドである。天然および合成エンケファリンがある。エンケファリンはオピオイドレセプターと能動的に結合し、脳にデリバリーされた場合に強い鎮痛効果を生じさせ得ることがよく知られている。しかしながら、エンドルフィン一般、特にエンケファリンの使用は理論から現実の治療へと移行してない。大部分はそれらの投与及び安定性における困難性のため、およびこの分子は血管脳関門を通過させてデリバリーさせることができないことに基づいている。
脳血管関門は哺乳動物の血流と脳脊髄液腔の間に存在する障壁である。血流にデリバリーされた、モルヒネのようないくつかの小さなオピオイド分子は脳まで通過することが出来る。一般に、ヒト血流中に導入されたエンドルフィンのようなペプチドはこの血管脳関門を通過しない。従って、合成であっても天然物であっても、哺乳動物モデルへ静脈注射されたエンケファリン分子は患者への鎮痛効果デリバリーという点で期待に反することが分かるというのが経験であった。
【0004】
血管脳関門は2つの主要な構成要素を含んでいる。動脈血と脳毛細血管および脳の間質液との間に内皮層が存在する。脈絡叢において上皮層が静脈血と脳脊髄液との間に存在する。脊髄においては、血液脳関門は内皮障壁のみからなっている。血液脳関門は分子の物理的障害であるだけではなく、代謝的障害でもある。なぜなら、これらの層は酸化酵素及びペプチダーゼを有しており、それらがペプチドのような代謝的に不安的な物質をそれらが脳脊髄液に到達する前に分解してしまうことがあるからである。酵素的障壁は、中枢神経系からペプチド医薬を排除するという点で血液脳関門によって形成される障壁の重要な一部かも知れない。分子を脳脊髄液へデリバリーするということはその薬剤が脳へ入ることも保証するわけではないことに注意すべきである。なぜなら、多くの分子はたとえ脳脊髄液へデリバリーされたとしても能動的過程により血液系へ迅速に輸送され戻されるからである。脳血管関門を通過させる薬剤の輸送は2つの広いカテゴリー、受動拡散および特異的輸送機構を通して媒介される促進拡散に分類される。ペプチドはかなり大きく相対的に親水性であるので、それらは受動拡散によっては血液脳関門を通過せず、それらは促進拡散又は能動輸送機構を必要とする。種々の侵襲性薬剤デリバリー計画が血液脳関門の背後に薬剤をデリバリーするために使用されてきた。それらには、脳内フュージョンまたは脳脊髄膜下インプラントが含まれる。それらの侵襲性技術はヒトにおいて正当化されているという医学的状況が存在するが、非侵襲性方法論がペプチドベースの薬理治療一般へのより広範な治療用途、特にオピオイドペプチドベースの鎮痛薬の治療応用に地する可能性を有しているのは明らかである。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、グリコシル化エンケファリンである鎮痛薬分子の効果適量を個体の血流に投与することによってその個体に痛覚消失を生じさせる方法として要約される。前記グリコシル化は二糖類によるグリコシル化である。
本発明はまた、患者へデリバリーすることを意図した治療薬剤として要約される。前記薬剤はグリコシル化エンケファリンであり、このグリコシル化は二糖類によるグリコシル化である。
本発明の他の利点及び特徴は以下の既述により明らかとなるであろう。
【0006】
エンケファリンに糖を付加するとエンケファリン分子の構造的安定性を与えることが出来ることが示唆された。また、グリコシル化エンケファリンが、血液脳関門を通過するはっきりした、しかし弱い飽和性の輸送を示し、この分子が脳内のオピオイドレセプターに確かに強く結合することも示された。ここではグリコシル化エンケファリンのあるクラス、二糖類の付加したエンケファリンが血液脳関門を横切ってより効率的に輸送され、したがって単糖または三糖類グリコシル化エンケファリンよりも鎮痛効果を与えるためにより効果的であることを報告する。また、これらの同じ化合物が種々の動物モデルで強い抗侵害性効果を生じさせ、有益な抗うつ特性も有し得ることが見出された。これらの発見により、血流にデリバリーする効果的な鎮痛薬としてのエンケファリンの用途が見出されるであろう。
二糖類グリコシル化エンケファリンが他のグリコシル化エンケファリンに対して優れているかを説明する正確な機構ははっきりしないが、分子の疎水性/親水性のバランスに関連すると考えられる。非グリコシル化エンケファリンのような疎水性ペプチドは生体膜に挿入され、そこでペプチダーゼによって迅速に分解され、したがって全ての細胞膜に見られる多様な輸送機構の作用をあまり受けない。エンケファリンへ単糖を付加するとこの分子の親水性を増加させ、血液脳関門と通過する輸送をある程度補助するが、エンケファリンへの二糖類の付加がずっと優れている。興味深いことに、三糖類がエンケファリンに付加された場合、二糖類が付加された類似のエンケファリンよりも効果が劣る。これはおそらく両親媒性のバランスがとれないためであろう。両親媒性分子、すなわち疎水性領域および親水性領域の両方を有する分子は、最も効果的であるとも考えられている。糖ペプチドが水性相中で長時間存在すると、トランスサイトーシス(血液側のエンドサイトーシス、および続く脳側のエクソサイトーシス)を受けるための膜との充分な相互作用が無いであろう。逆に、糖ペプチドが長時間膜と結合していると、ペプチダーゼによる分解前に膜から離脱することがないであろう。以下で議論するように、アドレス領域に単一の二糖類が付加したエンケファリンは異なる部位に2つの単糖が付加した類似のエンケファリンよりも効果的である。極性および非極性ドメインを有することにより、分子は血液脳関門を通過し、オピオイドレセプターに結合することができ、単一の二糖類付加はエンケファリンのトランスサイトーシスによる脳血管関門を通過する輸送のためにこれらのドメインの適切なバランスを生じさせると理論付けられる。この理論が全ての細部で正しくてもそうでなくても、糖ペプチドエンケファリン、二糖類が付加した分子は血液脳関門を非常に容易に通過することは明らかである。
【0007】
エンケファリン及びエンドルフィンペプチドはメッセージ領域とアドレス領域を有すると考えることが出来る。メッセージ領域とは、この分子のレセプターに結合する部分であって非常に小さく、典型的には天然のエンケファリンでは4つのアミノ酸モチーフYGGFである。アドレス領域は膜結合を制御するようであり、レセプター特異性を修飾する補助として機能しえる。よく知られたように、オピオイドレセプターにはいくつかのクラスがあり、ミュー(μ)、デルタ(δ)およびカッパ(κ)という分類で知られる3つのサブタイプが受け入れられており、それぞれ、クローンレセプターMOR、DORおよびKORに対応する。種々のエンドルフィンおよびエンケファリンがレセプターの異なるクラスに優先的に結合することが知られている。いくつかのエンドルフィン及びエンケファリンおよびそのレセプターを(アミノ酸の一文字表記で)以下の表1に示す。メッセージ領域に下線を引いてある。
【0008】
表1,天然に存在するオピオイドペプチド配列

【0009】
オピオイドレセプター結合のための古典的モチーフはYGGF配列である。このモチーフにはある程度の変動が可能であるが、最初のチロシン及び4番目のフェニルアラニンはエンケファリンの不変的な必要条件のようである。カエルフィロメドゥーサ・バイカラー(Phyllomedusa bicolor)(エナンチオマーD-アミノ酸を天然に産生する)の皮膚中の天然オピオイドペプチドの発見はこのモチーフ中の中間のグリシン残基を置換し得る他のD-アミノ酸の研究につながった。特に、D-アミノ酸を含む幾つかのモチーフ、例えば、Tyr-D-Cys-Gly-Phe、Tyr-D-Ala-Gly-PheおよびTyr-D-Thr-Gly-Pheが効果的な合成エンケファリンメッセージ配列であることが分かった。オピオイドレセプターに対するより高いアフィニティーを得るために、分子のコンフォメーションを変更させるべく最初のグリシンを置換するD-アミノ酸を有する合成エンケファリン類似体が設計された。上記の表1および以下の表2において、「t」がD-Thrを意味するように、小文字はD-アミノ酸を意味する。
本明細書において、エンケファリンへの二糖類付加は、その二糖類がペプチドオピオイド分子のアドレス領域に付加した場合にもっとも効果的であることが教示される。この分子のアドレス領域への糖部分の付加は、この分子のレセプターへの結合もレセプターへのデリバリーも阻害することなく血液脳関門を通過する輸送を補助するようである。この分子のメッセージ領域への糖残基の付加は血流への導入による抗侵害性を生み出すためにはあまり効果的ではない。
【0010】
本明細書において、上述したこの分子の輸送区域は二糖類部分である。エンケファリンの適切な両親媒性バランスとして、二糖類はエンケファリンの血液脳関門を通過する輸送のために優れた糖であることが教示される。適切な二糖類には、通常の天然の二糖類が含まれ、それらには、スクロース、トレハロース、サッカロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、ゲンチビオース、イソマルトース、メリビオースおよびプリメヴェオース(primeveose)が含まれるが、これらに限定されない。それぞれの特定のエンケファリンについて、もっとも適切な二糖類は経験的に実験によって決定することが出来る。
【0011】
本明細書に記載されるグリコシル化エンケファリンは種々の技術によって作製することが出来る。固相ペプチド合成による小さなペプチドの合成は現在ではよく知られており再現性のある一般的な方法である。多数の樹脂が商業的に入手可能でありこの合成に適している。それらには、Wang、Pal、Rinkアミド、Rink酸およびSasrin樹脂が含まれる。小さなペプチドはまた微生物宿主におけるタンパク質発現系またはin vitro無細胞ペプチド合成によっても作製することが出来る。上記の表1に掲げた天然のエンドルフィン及びエンケファリンに加えて、多数の関連する合成エンドルフィンおよびエンケファリンも知られている。いくつかの合成エンケファリンは以下の表2に示してある。多数の小さなペプチドエンケファリン分子のいずれもこれらの方法または他の方法によって本発明の範囲内の使用のために作製することが出来る。
小さなペプチドへ糖を連結する適切な方法も知られている。ペプチドのアドレス領域へ、ペプチドの側鎖へのO-結合によって糖が連結していることが好ましい。O-結合とは、糖がアミノ酸のヒドロキシ側鎖へ連結していることを意味する。米国特許第5,727,254号には糖をO-結合によって天然または合成ペプチド若しくはアミノ酸へ結合する有用な方法が記載されている。この二糖部分が最初にアミノ酸へ付加されて次にこれがペプチドエンケファリンへ取り込まれるのか、アミノ酸が始めにエンケファリンへアッセンブルされて次にグリコシル化されるのかは重要ではないが、通常のやり方では、セリン又はスレオニンをグリコシル化し、次にそのグリコシル化アミノ酸をオピオイドペプチドの固相合成に取り入れる。
【0012】
グリコシル化エンケファリンが血液脳関門を効率的に通過する能力は、それらの分子の脳脊髄間隙への投与による結果を、同じ分子の静脈投与による類似の結果と比較することによって評価することが出来る。単糖または三糖類が付加したグリコシル化エンケファリンが脳にデリバリーされた場合に鎮痛作用を生じさせることおよびある程度は血液脳関門を通過して輸送させることが見出された。しかしながら、これらの分子は血液脳関門を通して効率に伝達されない。反対に、二糖類が付加したグリコシル化エンケファリンは、脳にデリバリーされた場合、または、血流にデリバリーされた場合に、効果的な鎮痛効果を生じさせる。上述したように、これらの分子のいくつかはモルヒネの何倍もの鎮痛効果を伝達する。
本発明のグリコシル化エンケファリンは鎮痛および抗うつのための有用な臨床薬剤であることが証明されることが期待される。臨床使用のためには、グリコシル化ペプチドは懸濁液として作成され包装され、患者に使用するための適切な指示が表示されるであろう。この薬剤は静脈経由でデリバリーすることができ、この分子は血液脳関門を通過することが出来るので、それでもなお脳内の適切なレセプターに結合することが出来るであろう。他のアジュバント、添加剤および増強剤もそのような製剤に含められるかも知れない。
【0013】
実施例
種々のペプチド配列および付加された種々の糖を有する糖ペプチドを合成した。以下は典型的な糖ペプチドアッセンブリおよび合成プロトコルである。
HBTU/HOBt促進ペプチドカップリング(1.5当量のアミノ酸あたり2.0当量/2.0当量)による改変固相FMOC化学法を用いて6-残基ペプチドおよび糖ペプチドを手動で合成した。カップリング反応は40〜90分間まで変動させ、Kaiserニンヒドリン試験によってモニターした。-OAc保護基をH2NNH2・H2Oにより炭水化物から除去し、-OC(CH3)3側鎖保護基をCH2Cl2中90%のF3CCOOHで切断した(これにより樹脂からの切断も行われる)。粗ペプチドを氷冷エーテルで沈殿させ、濾過し、水に溶解して凍結乾燥した。精製はPerkin-Elmer LC250 HPLCにより調製スケールの(700x45mm)Vydac C18逆相ペプチドクロマトグラフィーカラムを用いて行った。以下の条件を使用した:CH3CN/0.1%F3CCOOH水溶液の直線AB勾配(10%−50%CH3CN、30分間)、流速7mL/分、室温。調製用HPLC後、全画分を分析用HPLCにより、Hewlett-Packard Series II 1040分析用HPLCにより、CH3CN/0.1%F3CCOOH水溶液の直線AB勾配(10%−40%CH3CN、40分間、流速1mL/分、室温)で純度について分析した。HPLC精製に用いた水は使用に先立って3回濾過し、アルゴンで二時間脱気した。
【0014】
体重25-35グラムのオスICRマウスで55℃尾部フリック試験(tail flick test)を用いてマウス抗侵害試験を行った。基準不応期間を各マウスについて取得した。次にマウスに薬剤を注射し、注射後種々の時間において抗侵害性について試験した。組織損傷を避けるため、10秒間のカットオフ点を使用した。抗侵害パーセンテージは、((試験不応期間-対照不応期間)/(10-対照不応期間))x100として計算した。大部分の薬剤を種々の用量で試験した。
以下の表2に掲げた糖ペプチドの全てを合成した。表2に使用されている表記法において、D-スレオニン残基は「t」と表示され、「L-Ser」はセリンのアイソマーを表し、ロイシンの次を意味するのではなく、括弧内の糖はその位置に付加している糖を表す。これらの分子をラットモデルにおいて標準的な尾部フリックアッセイを用いて抗侵害について試験した。これらの分子をオピオイドレセプターに対する結合性および脳(ICV)または血流(IV)へデリバリーされた鎮痛効果について試験した。
【0015】
抗侵害に関する尾部フリック試験のデータをグラフ化し、例示的ないくつかのデータを図1および図2に示した。図1では分子は脳に到達しており(すなわち、i.c.v.)全ての試験分子はモルヒネよりも低い濃度で効果的な鎮痛効果を伝達した。本質的に、脳において、これらの分子は全て苦痛緩和の点でモルヒネよりも効果的である。これと比較して、図2においては、分子は血流へデリバリーされており(すなわち、i.v.)、試験分子のいくつかのみがモルヒネよりも強い抗侵害効果を生じた。これらの分子を、本明細書ではMMP2230、MMP2200、MD2005と命名するが、これらはそれぞれ付加された二糖類を有するという点でのみ他の分子と異なっている。特に単糖残基が付加したSAM1095との比較に注目されたし。言い換えると、これらのエンケファリン分子は一般に脳に到達した場合にモルヒネよりも強力であるが、経静脈的に送られた場合には二糖類が付加したエンケファリンのみが血液脳関門を通過してモルヒネよりも強い効果を示すに充分なほど効率的に輸送された。二糖類糖ペプチドには、そのペプチドに付加している特定の糖部分に基づいて作られた薬剤名(すなわち、マルトモルフィン(MMP2230)、ラクトモルフィン(MMP2200)およびビオモルフィン(MD2005))を与えた。
【0016】
他の2つのチャートもこの現象を説明する助けとなる。図3において、3次元棒グラフはオピオイドレセプターへの結合効率および表2の化合物の幾つかについての正規化経静脈活性レベルを示している。単糖類(SAM1095)または三糖類(MMP2300)が結合した類似のペプチドと比較して、二糖類を有するいくつかのエンケファリンについて経静脈活性のレベルが非常に増大していることに注目される。同様に、図4において、i.v.投与による効能がi.c.v.投与による効能に対してプロットされている。二糖類を有する全ての糖ペプチドがこのチャート上で単糖類が付加した最も優れた糖ペプチド(SAM1095)よりも下にあることが注目され、そのうちの2例(MMP2200およびMD2005)が劇的に低いことが注目される。これらの相違は血液脳関門を通る輸送における効率によってのみ説明することができ、輸送におけるこの相違に対する説明はペプチドに付加した糖の性質に伴うものである。
【0017】
モルヒネと同じくらい強力であるが、上述したクラスのグリコシル化エンケファリンは植物由来のオピエートに対して優れた副作用プロファイルを有していると考えられる。これらの分子はモルヒネや他の非ペプチド性化合物に比較して、より呼吸抑制が少ないであろうし(観察されている)、便秘を起こすことも少ないであろうし(デルタオピオイドアゴニストに関する文献に基づく)、生じる活性な代謝物が少ないであろう。
これらの同じ薬剤が抗うつ特性を有しているようにみえることが見いだされた。この性質を抑鬱症動物モデル、抑欝特性を有し得る試験薬剤について慣用される動物モデルで試験した。特に、二糖類糖ペプチドMMP2200(30mg/kg, i.p., -30分間)は強制遊泳試験において生理食塩水を注射したマウスに比較して不動時間の有意な減少を生じさせることが分かった。対照注射マウスは約85秒の平均不動時間を示したのに対してMMP2200注射マウスは平均不動時間は60秒未満であった。この結果はMMP2200が抗うつ活性を有し得ることを示しており、この効能はフルオキセチンのようなSSRIと類似であり、デシプライミンのような三環系に比較して幾分効果が劣っていることを示している。





































【0018】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例の実験データをグラフ化したものであり、脳にデリバリーされた例示的グリコシル化エンケファリンの効果を示す。
【図2】図2は、実施例の実験データをグラフ化したものであり、血流にデリバリーされた例示的グリコシル化エンケファリンの効果を示す。
【図3】図3は、例示的なグリコシル化エンケファリンのオピオイドレセプター結合および鎮痛効果を示す実験データをグラフ化して示したものである。
【図4】図4は、例示的なグリコシル化エンケファリンについて脳及び血液にデリバリーされた場合の効果の相違を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の血流にグリコシル化エンケファリンである鎮痛作用性分子の効果量を投与することを含む、個体に痛覚消失を生じさせる方法であって、前記グリコシル化が二糖類によるものである、前記方法。
【請求項2】
エンケファリンがTyr-D-Thr-Gly-Pheモチーフを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
グリコシル化エンケファリンが表2においてMMP2200およびMMP2005と命名された分子からなる群より選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項4】
ペプチドエンケファリン分子に二糖類を付加する工程を含む、血流脳関門を通過して輸送されるようにペプチドエンケファリンを改変する方法。
【請求項5】
式X-O-Gで表される化合物(式中、Xはオピオイドレセプターに結合するペプチドエンケファリンであり、Gは二糖類であり、前記ペプチドエンケファリンの前記二糖類へのO-結合は前記ペプチドのアドレス領域に存在する)。
【請求項6】
ペプチドがYGGFおよびYxGF(xはD-アミノ酸)からなる群より選ばれるメッセージ配列を含む、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
ヒト用薬剤として使用するためであると表示された薬剤デリバリー包装形態を含み、前記包装がグリコシル化エンケファリンペプチドを含み、前記グリコシル化が前記ペプチドのメッセージ領域に付加した二糖類によるものである、医薬組成物。
【請求項8】
グリコシル化ペプチド化合物YtGFLS(b-メリビオース)CONH2
【請求項9】
溶液状態であって注射可能医薬として使用するために包装されたグリコシル化ペプチド化合物YtGFLS(b-ラクトース)CONH2
【請求項10】
溶液状態であって注射可能医薬として使用するために包装されたグリコシル化ペプチド化合物YtGFLS(b-マルトース)CONH2

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−518759(P2006−518759A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503815(P2006−503815)
【出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/005340
【国際公開番号】WO2004/075843
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(505220181)ザ アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ アリゾナ (2)
【Fターム(参考)】