説明

グリセロールを用いた酵素反応による脂肪酸アルキルエステルの濃縮方法

有機溶剤非含有条件下でのアルキルエステルの動的分離のための酵素的プロセスを開示する。例えば魚油から得られるアルキルエステルを、水の存在下、異なる割合で、真空チャンバー中でグリセロールと反応させる。平衡に達する前に反応を終結させ、濃縮されたアルキルエステル画分を、短行程蒸留を用いて反応混合物から単離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
開示される本発明は、脂肪酸アルキルエステルの濃縮のための酵素的プロセスの分野に属する。
【0002】
本願は、2005年5月23日に出願された米国仮特許出願第60/683,749号の恩典を主張するものであり、これは、その全文が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
天然供給源から得られるトリグリセリドは多数の様々な脂肪酸からなり、これらは、炭素数、置換パターン、不飽和の程度、および立体化学の点で異なりうる。例えば魚油においては、商業的に重要かつ生物学的に活性なω-3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、およびドコサペンタエン酸(DPA)を含む、50種を上回る様々な脂肪酸が見出されている。ω-3脂肪酸は、特に心血管疾患、炎症、ならびに認知の機能および発達の領域において、ヒトおよび動物に有益な健康効果に関連している[1〜3]。したがって、魚油、藻油、およびアザラシ油などの供給源からω-3脂肪酸を精製することが望まれている。
【0004】
植物油においても、トランス-11 オレイン酸(バクセン酸)およびシス-6,9,12 オクタデカトリエン酸(γ-リノレン酸(GLA))などのいくつかの異なる脂肪酸が同様に見出されている。脱水した硬化ヒマシ油はバクセン酸の良好な供給源であり、一方、ルリヂサ油およびマツヨイグサ油はGLAの良好な供給源である。GLAは同様に、免疫系の調整、アトピー性湿疹、リウマチ様関節炎、糖尿病ニューロパシーおよび肝硬変の治療などの、正の健康効果と関連付けられている脂肪酸である[4]。乳脂肪は、トランス-バクセン酸および共役脂肪酸のような生物学的に活性な脂肪酸の別の供給源に相当する。
【0005】
いくつかの脂肪酸の強い正の生物学的効果のために、脂肪酸を、補助食品として、食品/餌の原料として、および薬物として使用することができる。しかし、天然供給源における例えばω-3脂肪酸の濃度は低く、従って、所望の脂肪酸の濃度を高めることのできるプロセスが必要である。これまでは、短行程蒸留、低温溶剤結晶化、溶剤脱ろう、および尿素錯体化が用いられてきた。
【0006】
これらの方法は高価かつ時間がかかり、したがって、濃縮脂肪酸の加工コストが高いことの一因となっている。最近、遊離脂肪酸[5]、エチルエステル[6]、またはヘキシルエステル[7]としてDHA/EPAを濃縮する方法として、酵素反応(加水分解、エステル化など)が検討され、調べられている。更に、GLAを遊離脂肪酸として[8]、および共役リノール酸(CLA)の異性体[9]をアルキルエステルとして濃縮するための技術が、使用されている。これらの方法の制限は、最終生成物の収率が低いこと、または処理工程の数のいずれかであり、どちらも生成物のコストに直接影響する。
【0007】
従って、より単純で、より少ない処理工程からなり、より高純度の生成物をより高収量でもたらすプロセスが必要である。大量のEPA/DHAが世界中に供給されており、これらはエチルエステルと考えられている。従って、EPA/DHAをエチルエステルとして濃縮することにより、処理工程が省かれ、それによって時間およびコストが低減される。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
第一の局面において、本発明は、一工程プロセスでアルキルエステルをグリセロールと反応させることによって、脂肪酸アルキルエステルを分離するための方法を提供する。この反応は、第二の容器から入れた水の存在下、真空容器中で、酵素によって触媒される。様々な割合で基質がグリセロールと反応するように、反応条件を選択する。当初の組成物と比較して、脂肪酸アルキルエステル画分の組成物における違いを得るために、平衡に達する前に反応を終結させる。脂肪酸アルキルエステルと反応生成物(モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリド)との間で揮発性が大きく異なるため、精製アルキルエステル組成物を、短行程蒸留を用いて高収量で得ることができる。開始材料として用いた脂肪酸アルキルエステルは、魚油および藻油などの海洋供給源から、ヒマシ油、マツヨイグサ油、およびルリヂサ油などの植物供給源から、またはアザラシ油および鯨油などの動物供給源から調製することができる。供給源に応じて、記載のプロセスを用いてアルキルエステルの濃縮物を調製することができる。そのようなアルキルエステルの非限定的な例としては、EPAエチルエステル、DHAエチルエステル、DPAエチルエステル、GLAエチルエステル、およびバクセン酸エチルエステルが挙げられる。
【0009】
本発明の別の局面は、上述のプロセスから生成される脂肪酸アルキルエステル組成物である。食品/餌製品に加えて、補助食品および薬物は、上述のプロセスから生成される該組成物をさらに含む。
【0010】
本発明の更に別の態様とは、脂肪酸アルキルエステル、グリセリド、および遊離脂肪酸を含む、新規脂質組成物である。該脂肪酸アルキルエステルは、該グリセリドよりも1.1倍またはそれ以上大きいヨウ素価を有する。該組成物中の該遊離脂肪酸の量は、50%(w,w)未満である。該組成物は、動物またはヒトによって安全に摂取されうる。
【0011】
定義
本明細書において使用される「食品」という用語は、ヒトによる摂取に適した任意の食物または餌を指す。「食品」は、調製され包装された食物(例えば、マヨネーズ、サラダドレッシング、パン、またはチーズ食物)や、動物の餌(例えば、押し出し成形されたペレット状の動物の餌または粗く混ぜた餌)であってもよい。
【0012】
本明細書で使用される「動物の餌」という用語は、動物による摂取に適した任意の餌を指す。
【0013】
本明細書において使用される「乳児食」という用語には、調合乳などの、乳児のために調合された食品を指す。
【0014】
本明細書において使用される「補助食品」とは、食物の一部として使用するための、食事のまたは栄養の補足として調合された食品を指す。
【0015】
本明細書において使用される「ω-3脂肪酸」という用語は、分子のメチル末端由来の第3と第4の炭素原子の間の炭化水素鎖に最終二重結合を有する、多価不飽和脂肪酸を指す。ω-3脂肪酸の非限定的な例には、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸(EPA)、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸(DHA)、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸(DPA)、9,12,15-オクタデカトリエン酸(ALA)、および6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸(SDA)が含まれる。
【0016】
本明細書において使用される「ω-6脂肪酸」という用語は、分子のメチル末端由来の第6と第7の炭素原子の間の炭化水素鎖に最終二重結合を有する、多価不飽和脂肪酸を指す。ω-6脂肪酸の非限定的な例には、シス-6,9,12オクタデカトリエン酸(GLA)が含まれる。
【0017】
本明細書において使用される「魚油」という用語は、海洋供給源から得られる任意の油、例えば、マグロ油、アザラシ油、および藻油を指す。
【0018】
本明細書において使用される「リパーゼ」という用語は、脂肪酸エステルを加水分解できる任意の酵素を指す。
【0019】
本明細書において使用される「揮発性反応生成物」という用語は、水および炭素数1〜12のアルコールを指す。
【0020】
本明細書において使用される「脂肪酸アルキルエステル」という用語は、脂肪酸の誘導体を指す。脂肪酸は、炭素数1〜24の鎖長および0〜6の範囲の二重結合を有する。誘導体は、炭素数1〜12のアルキル基でありうる。分枝型、不飽和型、および飽和型のアルキル鎖など、適切であると認められた任意のアルキル基が意図される。
【0021】
本明細書において使用される「触媒的に有効な量」という用語は、触媒反応を得るのに必要な触媒の最低限の量を指す。
【0022】
発明の説明
本発明は、真空容器(B)中での(異なる割合での)脂肪酸アルキルエステルとグリセロールとの間の酵素反応によって脂肪酸アルキルエステルを分離するためのプロセスを開示する。容器Bの圧力を低下させ、水蒸気(水分)が第二の容器(A)からチューブを通って反応混合物に入るのを可能にする(実験的構成の概略図に関しては図1を参照されたい)。本発明は、分離された容器からの水の添加に限定されるものではない。ゆっくりかつ制御された様式で水蒸気/湿気を加えるその他の手段も、本発明の趣旨に含まれる。
【0023】
平衡に達する前に反応は終結され、濃縮された脂肪酸アルキルエステル画分は、短行程蒸留を用いてグリセリドから分離される。グリセロールの量、酵素の量および種類、ならびに反応時間および温度は、各用途に対して最適化する必要がある。これらのパラメータ設定は、当初の組成物の科学的性質、利用可能な時間、および作製予定の最終組成物に左右されると考えられる。本発明は、任意の特定の酵素の使用に限定されるものではない。実際、サーモミセス・ラヌギノサス(Thermomyces Lanuginosus)リパーゼ、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ、カンジダ・アンタークチカ(Candida Antarctica)リパーゼ、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)リパーゼ、およびムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)リパーゼを含むがこれらに限定されるわけではない、様々な酵素の使用が意図されている。酵素および/または酵素担体の極性に応じて、非極性反応混合物中への固定化酵素(例えばTL-IM)の分散は困難でありうる。エマルジョンを安定化させるために、レシチンが添加される。
【0024】
本発明は、いずれかの任意の特定の脂肪酸アルキルエステルに限定されるものではない。開示されたプロセスを用いて様々な割合でグリセロールと反応すると考えられる任意の脂肪酸アルキルエステルが意図される。これには、非限定的に以下が含まれる:デカン酸(10:0)、ウンデカン酸(11:0)、10-ウンデカン酸(11:1)、ラウリン酸(12:0)、シス-5-ドデカン酸(12:1)、トリデカン酸(13:0)、ミリスチン酸(14:0)、ミリストレイン酸(シス-9-テトラデセン酸、14:1)、ペンタデカン酸(15:0)、パルミチン酸(16:0)、パルミトレイン酸(シス-9-ヘキサデセン酸、16:1)、ヘプタデカン酸(17:1)、ステアリン酸(18:0)、エライジン酸(トランス-9-オクタデセン酸、18:1)、オレイン酸(シス-9-オクタデカン酸、18:1)、ノナデカン酸(19:0)、エイコサン酸(20:0)、シス-11-エイコセン酸(20:1)、11,14-エイコサジエン酸(20:2)、ヘンエイコサン酸(21:0)、ドコサン酸(22:0)、エルカ酸(シス-13-ドコセン酸、22:1)、トリコサン酸(23:0)、テトラコサン酸(24:0)、ネルボン酸(24:1)、ペンタコサン酸(25:0)、ヘキサコサン酸(26:0)、ヘプタコサン酸(27:0)、オクタコサン酸(28:0)、ノナコサン酸(29:0)、トリコサン酸(30:0)、バクセン酸(t-11-オクタデセン酸、18:1)、タリル酸(オクタデカ-6-イン酸、18:1)、およびリシノール酸(12-ヒドロキシオクタデカ-シス-9-エン酸、18:1)、ならびにω3、ω6、およびω9脂肪酸残基、例えば、9,12,15-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)[18:3、ω3];6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)[18:4、ω3];11,14,17-エイコサトリエン酸(ジホモ-α-リノレン酸)[20:3、ω3];8,11,14,17-エイコサテトラエン酸 [20:4、ω3]、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸 [20:5、ω3];7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸 [22:5、ω3];4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸 [22:6、ω3];9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)[18:2、ω6];6,9,12-オクタデカトリエン酸(γ-リノレン酸)[18:3、ω6];8,11,14-エイコサトリエン酸(ジホモ-γ-リノレン酸)[20:3、ω6];5,8,11,14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)[20:4、ω6];7,10,13,16-ドコサテトラエン酸 [22:4、ω6];4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸 [22:5、ω6];6,9-オクタデカジエン酸 [18:2、ω9];8,11-エイコサジエン酸 [20:2、ω9];5,8,11-エイコサトリエン酸(ミード酸)[20:3、ω9];t10,c12 オクタデカジエン酸;c10,t12 オクタデカジエン酸;c9,t11 オクタデカジエン酸;およびt9,c11 オクタデカジエン酸。更に、アシル残基は、共役した、ヒドロキシル化した、エポキシ化した、またはヒドロキシエポキシ化した(hydroxyepoxidated)アシル残基でもよい。
【0025】
10% EPAおよび50% DHAからなる組成物からDHAエチルエステルを濃縮する際、以下の条件を用いた:反応時間(24時間)、グリセロール(13%)、リゾムコール・ミエヘイリパーゼ(RM-IM)(13%)、エチルエステル(74%)、反応温度(4O0C)、および圧力(0.1〜1 mbar)。平衡に達する前に反応を終結させ、その後、短行程蒸留を用いて生成物を単離したが、これは、脂肪酸アルキルエステル(83%)、グリセリド(14%)、および遊離脂肪酸(3%)からなった。24時間後、エチルエステル画分中のDHAの含量は、50%から74%まで上昇した。反応温度を25℃まで下げることによって更に選択性が高まり、37時間後にDHA濃度84%に達した。また、ω-6脂肪酸アラキドン酸(AA)の量も、0.6%から41時間後に0.27%まで減少した。一部の態様において、AAは炎症誘発性前駆体であるため、生成物中のAA濃度を低下させることは有用でありうる。慢性炎症は、心血管疾患、メタボリックシンドローム、および2型糖尿病などのいくつかの状態と関連付けられている[10-12]。
【0026】
ある態様において、本プロセスを用いて、そのような脂肪酸アルキルエステル、例えばエチル化された魚油、藻油、および/またはアザラシ油を含む混合物から、DHAアルキルエステル、EPAアルキルエステル、および/またはDPAアルキルエステルを濃縮することができる。魚油の非限定的な例としては、冷却圧搾のマグロ、サーディンから得られる油が挙げられ、またはタラ肝油であってもよい。
【0027】
別の態様において、本プロセスを用いて、エチル化ルリヂサ油またはエチル化マツヨイグサ油などのGLAに富む供給源から、GLAアルキルエステルを濃縮することができる。エチル化ルリヂサ油をグリセロールと反応させることによってGLA濃度が20%から66.7%まで上昇したことが、本発明により開示される。
【0028】
更なる態様において、本プロセスを用いて、脱水した硬化ヒマシ油エチルエステルまたは部分的に硬化した共役リノール酸の混合物から、およびその他の供給源から、バクセン酸を濃縮することができる。
【0029】
更に別の態様において、シス-9, シス-11;シス-9, トランス-11;トランス-9, シス-11;トランス-9, トランス-11;シス-10, シス-12;シス-10, トランス-12;トランス-10, シス-12、およびトランス-10, トランス-12などのCLAエチルエステル異性体の混合物から、シス-9, トランス-11などのCLAエチルエステル異性体を濃縮することができる。
【0030】
本発明は、いずれの特定の機序にも限定されない。実際に、本発明を実施するために、機序を理解する必要はない。言うまでもなく、本発明者らの知見およびその他によると、アルキルエステルとグリセロールの間の反応は遅い[5]。少量の水の添加によって反応速度が上昇するが、分子レベルでどのような機序によるのかは明らかではない。反応の際に酸価は上昇しないという事実のために(2.8〜3.4の範囲の酸価)、脂肪酸アルキルエステルとグリセロールの間で直接反応が起きていると考えることが妥当である。水が酵素の活性を増大させること、および、遊離脂肪酸がこのプロセスを仲介しないことが予想される。
【0031】
本発明は、遊離脂肪酸への変換なしに脂肪酸アルキルエステルを直接濃縮できるという点で、先行技術と比較して改善を提供する。大量の濃縮脂肪酸アルキルエステルが、世界中の市場で販売されている。本発明を用いれば、1〜3処理工程を省くことができ、それによって、濃縮プロセスの時間およびコストが低減される。更に、例えばDHAエチルエステルとグリセリドの間の揮発性が、遊離脂肪酸としてのDHAとグリセリドよりも大きいので、収量を増大させることができる。グリセリドは、脂肪酸アルキルエステルがグリセロールと反応する時に形成される反応生成物である。
【0032】
実施例
実施例1
エチルエステル(10% EPAおよび50% DHA(相対ピーク面積))100 g、グリセロール13 g、および、Novozymes(Bagsvaerd, Denmark)製の固定化リゾムコール・ミエヘイリパーゼ(RM-IM)13 gを反応容器中で混合し、撹拌した。第二の分離容器から水/水蒸気を入れて、40℃(圧力0.1〜1 mbar)で反応を実施した(添付の図1の概略図を参照されたい)。8、16、および24時間後に試料を反応混合物から回収し、GC-FIDで分析した。結果により、8、16、および24時間後のエチルエステル画分中のDHA含量がそれぞれ61%、70%、および74%であったことが示された。24時間後、エチルエステルの量が約40%まで減少したが、遊離脂肪酸の量は約2%まで増加した。第二の容器から消費された水の量は、当初のエチルエステル量に対して約40%であった。次に、濾過によって酵素を除去し、混合物を脱気して、グリセリドからエチルエステル画分を分離するために短行程蒸留を用いて蒸留した。GC分析によって、最終蒸留物が83%エチルエステル、14%モノグリセリド、および2〜3%遊離脂肪酸を含むことが示された。残渣は、主にグリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリド)からなっていたが、5%エチルエステルおよび0.5〜1%遊離脂肪酸も含んだ。
【0033】
実施例2
本実験は、グリセロール4.3 g、RM-IM 4.3 g、およびエチルエステル(10% EPAおよび50% DHA)33 gを25℃で反応させたこと以外は実施例1と同一の条件下で実施した。29時間、37時間、および41時間後に、エチルエステル画分は、81% DHA、84% DHA、および80% DHAをそれぞれ含んでいた。AAの量は、0時間目の0.7%から41時間後の0.26%まで減少した。この反応は、水9 gを消費した。酸価は5〜8の範囲内であった。
【0034】
実施例3
本実験は、脂肪酸エチルエステル(GLAに富むエチル化ルリヂサ油)100 g、グリセロール13 g、レシチン0.34 g、およびNovozymes(Bagsvaerd, Denmark)製の固定化サーモミセス・ラヌギノサス(TL-IM)13.7 gを50℃で反応させたこと以外は実施例1と同一の条件下で実施した。開始時には、GLAエチルエステルの濃度は20%であり、18:1、18:2、および18:3ピーク間の比率は1:2:1であった。2時間後、GLAの濃度は34.8%まで上昇し、18:1、18:2、および18:3比は1:3:3に変化した。5時間後、GLAの濃度は42.4%まで上昇し、18:1、18:2、および18:3比は1:3:4に変化した。23時間後、GLAの濃度は67%まで上昇し、18:1、18:2、および18:3比は1:3:11に変化した。反応の際に消費された水の量は547 gであった。
【0035】
実施例4
レシチンを添加しなかった点を除いて、実施例3と同じ実験を実施した。40時間後に実験を終結させたが、反応は全く起こっていなかったことが結果により示された。
【0036】
実施例5
本実験は、脂肪酸エチルエステル(エチル化アザラシ油)300 g、グリセロール40 g、レシチン1 g、およびTL-IM 45 gを50℃で反応させたこと以外は実施例1と同一の条件下で実施した。アザラシ油は、ω-3脂肪酸であるEPA、DHA、およびDPAに富む海洋供給源である。25時間後に実験を終結させた。DHA濃度は8%から11.9%まで上昇し、DPA濃度は3.2%から3.7%まで上昇し、EPA濃度は7.1%から8.2 %まで上昇した。反応の際に水50 gが消費された。酸価は、開始時の0.5から25時間後の7.9まで増加した。
【0037】
本発明が脂肪酸アルキルエステルを濃縮するための新規の方法を提供することは、上記から明らかである。上記の明細書で言及されている全ての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、本発明で記載した方法および系に様々な修正および変更が行われ得ることは、当業者に明白であろう。本発明を特定の好ましい態様に関して説明したが、請求する本発明はそのような特定の態様に過度に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際に、医療、生化学、または関連する分野の当業者には明白な、本発明を実施するために記載された様式の様々な改変は、添付の特許請求の範囲の趣旨に含まれることが意図されている。
【0038】
参考文献

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実験的構成の概略図。真空容器(B)中での(異なる割合での)脂肪酸アルキルエステルとグリセロールとの間の酵素反応によって脂肪酸アルキルエステルを分離するためのプロセスの概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、脂肪酸アルキルエステルを分離するための方法:
a) 少なくとも2種の脂肪酸アルキルエステル、グリセロール、および触媒的に有効な量の酵素の混合物を形成させる工程;
b) 少なくとも2種の脂肪酸アルキルエステルが異なる割合でエステル化するような条件で、水の存在下、減圧下で混合物を処置する工程。
【請求項2】
脂肪酸アルキルエステルに富む組成物を得るために、少なくとも2種の脂肪酸アルキルエステルを分離する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分離容器または蒸気供給ユニットから水蒸気として水が供給される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(b)における条件が、グリセロールが異なる割合で脂肪酸アルキルエステルをエステル化し始めさせるのに有効な温度で混合物を撹拌する一方で、反応混合物から揮発性反応生成物を除去することを含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
全ての脂肪酸アルキルエステルがエステル化される前にエステル化反応を終結させる工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
当初の組成物と比較して脂肪酸アルキルエステルに富む脂肪酸アルキルエステル画分を得るために、分離する工程が、生成物混合物を短行程蒸留工程に供する工程を含む、請求項2〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
脂肪酸アルキルエステルが、魚油、藻油、アザラシ油、鯨油、ルリヂサ油、マツヨイグサ油、脱水した硬化ヒマシ油、および部分的に硬化した共役リノール酸などのトリグリセリドから調製される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
脂肪酸アルキルエステルが魚油のエチルエステルまたはメチルエステルである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
脂肪酸アルキルエステルに富む組成物を少なくとも1種のその他の食用物質と共に調合する工程をさらに含む、請求項2〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
脂肪酸アルキルエステルに富む組成物を食品として調合する工程をさらに含む、請求項2〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
食品が、動物の餌、乳児用調合乳、およびヒト用に調製された食品からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の方法によって作製される、組成物、食品、乳児用調合乳、または動物の餌。
【請求項13】
脂肪酸アルキルエステル、グリセリド、および脂肪酸を含む組成物であって、該脂肪酸アルキルエステルが、該グリセリドよりも1.1倍またはそれ以上大きいヨウ素価を有し、該組成物中の該脂肪酸の量が50%(w,w)未満であり、動物により安全に摂取されうる、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法によって作製される組成物。
【請求項14】
脂肪酸アルキルエステル、グリセリド、および脂肪酸を含む組成物であって、該脂肪酸アルキルエステルが、該グリセリドよりも1.1倍またはそれ以上大きいヨウ素価を有し、該組成物中の該脂肪酸の量が50%(w,w)未満であり、動物により安全に摂取されうる、組成物。
【請求項15】
脂肪酸アルキルエステル、グリセロール、水、および触媒的に有効な量の酵素の混合物を、グリセロールが異なる割合で脂肪酸アルキルエステルをエステル化し始めさせるのに有効な温度で反応させる一方で、アルコールおよび水を反応混合物から除去する工程を含む、脂肪酸アルキルエステルを分離するための方法。
【請求項16】
グリセロールが異なる割合で脂肪酸アルキルエステルをエステル化するように、脂肪酸アルキルエステル、グリセロールの混合物を触媒的に有効な量の酵素でエステル化する工程、および、全ての脂肪酸アルキルエステルがエステル化される前にエステル化反応を終結させる工程を含む、脂肪酸アルキルエステルを分離するための方法。
【請求項17】
グリセロールが異なる割合で脂肪酸アルキルエステルをエステル化し始めさせるのに有効な温度で混合物中の脂肪酸を撹拌する一方で、反応混合物から揮発性反応生成物を除去する工程を含む、酵素的脂肪酸分離方法。
【請求項18】
全ての脂肪酸アルキルエステルがエステル化される前にエステル化反応を終結させる工程を含む、酵素的脂肪酸分離方法。
【請求項19】
c) エマルジョンの安定性を改善するための十分な濃度のレシチンの添加
をさらに含む、請求項1記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−545407(P2008−545407A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512955(P2008−512955)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【国際出願番号】PCT/IB2006/003828
【国際公開番号】WO2007/052162
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(505027834)エイカー バイオマリン エイエスエイ (6)
【Fターム(参考)】