説明

グリース組成物及びグリース封入転がり軸受

【課題】低温時の特異音の発生を抑制し、広温度範囲における低トルク性を満足し、高温下でも軸受潤滑寿命が長く、ワニスに対する錆止め性に優れる、モータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物を提供すること。
【解決手段】40℃における動粘度が20〜55mm2/sであるペンタエリスリトールエステル基油、及び下記式(A)で示されるジウレア増ちょう剤7〜13質量%を含有し、且つ多価アルコールエステル系錆止め剤及び有機スルホン酸塩系錆止め剤からなる群から選ばれる錆止め剤を含有する、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受用グリース組成物:


(式中、R2は、炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示す。
R1及びR3は、シクロへキシル基又は炭素数16〜20の直鎖又は分岐アルキル基を示し、かつシクロへキシル基と炭素数16〜20の直鎖又は分岐アルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+C16-20直鎖又は分岐アルキル基の数)}×100]が、60〜90モル%である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、各種モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物、及びそのグリース組成物を封入した、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめ、各種産業機械で使用されるモータは、寒冷地からエンジンルーム内の高温雰囲気まで様々な環境で運転されるため、使用される軸受には、広温度範囲で且つ長期間使用可能であることが求められている。また、近年環境意識の高まりから、モータも高効率化が求められており、使用される軸受には、低トルク化の要求が強い。
また、軸受の性能は封入されているグリースの性能に大きく依存するため、グリースの選定には注意が必要である。例えば寒冷時では、グリースの基油粘度上昇によって軌道面の油膜むら・不均一化が生じやすくなり、転動体と軌道面との間の摩擦係数が微小な周期的変化を起こし、これによって転動体に自励振動を生じる。これは、運転条件によっては特異音(冷時異音)と呼ばれる軸受異音を発生することがある。これらの対策として、例えば、特許文献1では、特定の基油を特定の割合で配合し、粘度を低くすることで対策したものが開示されている。
また近年、消費電力削減の観点から、自動車を始め、各産業で使用される電気機器や機械部品は、高効率化が求められており、部品の軽量化や構造の改良など、種々の検討がなされている。使用されるグリースにも同様に、低温から高温までの広温度範囲で低トルクであることが重要となっている。低トルク性を満足するためのグリースの改善としては、使用される基油の動粘度を下げて対応することが常套手段とされてきた。例えば、特許文献2では、40℃における動粘度が10mm2/s以上のエステル油を含有する基油を用いたグリースが提案されている。しかし、基油の動粘度を下げるとトルクは低減するものの、高温下における基油の耐熱性が悪くなり、焼付き寿命を満足できなくなる。
【0003】
また高温での使用環境の観点から、使用されるグリースには、長い焼付き寿命が求められる。高温下での焼付き寿命の改善としては、例えば特許文献3では、アルキルジフェニルエーテル油を必須成分とし、特定の増ちょう剤を用いたグリースが提案されている。しかし、このグリースでは、基油動粘度が高く、低トルク性を満足することができない。
さらに、モータ用転がり軸受特有の問題としてワニスによる錆発生があるため、グリースには錆止め性が求められる。ワニスに対する錆止め性を満足するためのグリースの改善としては、基油にエステル系合成油を使用せず、できるかぎり鉱油を使用することで改善してきた(非特許文献1)。しかし、基油を鉱油としたグリース組成物では、上述した広温度範囲での低トルク性、特に低温時のトルクを満足できなくなる。さらに鉱油は、合成油と比較して耐熱性が劣るため、高温での長い焼付き寿命も満足できなくなる。
また、例えば、特許文献4では、多価アルコール系エステルを錆止め剤として使用し、基油に10重量%以上の合成炭化水素油を含ませたグリース組成物が提案されている。
しかし、モータ用転がり軸受に求められるワニスに対する錆止め性を満足するものではない。
上述したように、モータ用転がり軸受に使用されるグリースには、低温時の特異音がないこと、広温度範囲においてトルクが低いこと、高温下における焼付き寿命が長いこと、錆止め性に優れることが求められ、上述したいずれのグリースも、全ての性能を満足することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−270566号公報
【特許文献2】特開2000−198993号公報
【特許文献3】特開平1−259097号公報
【特許文献4】特開2004−51912号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鈴木、外丸、山本、鈴木:「小形モータ用玉軸受のワニスさびの原因とその防止法」、NSK Bearing Journal、No.643、1982年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、低温時の特異音の発生を抑制し、広温度範囲における低トルク性を満足し、高温下でも軸受潤滑寿命が長く、ワニスに対する錆止め性に優れ、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物を提供することである。
本発明はまた、前記グリース組成物を封入したモータの回転子を支持するモータ用転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、低温時の特異音の発生の抑制、広温度範囲における低トルク性の達成及び軸受潤滑寿命の延命、及びワニスによる錆の発生の課題に対し、増ちょう剤、基油及び錆止め剤を選定することで、これを改善した。
すなわち、本発明により、以下のグリース組成物を提供する:
1.増ちょう剤と、基油と、錆止め剤とを含有するグリース組成物であって、
前記組成物が、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受用グリース組成物であり、
前記増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、組成物中の増ちょう剤の含有量が7〜13質量%であり、
前記基油が、40℃における動粘度が20〜55mm2/sであるペンタエリスリトールエステル油であり、
前記錆止め剤が、多価アルコールエステル系錆止め剤からなる群から選ばれる少なくとも一種と、有機スルホン酸塩系錆止め剤からなる群から選ばれる少なくとも一種との混合物である、前記グリース組成物:
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R2は、炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示す。
R1及びR3は、シクロへキシル基又は炭素数16〜20の直鎖又は分岐アルキル基を示し、かつシクロへキシル基と炭素数16〜20の直鎖又は分岐アルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+C16-20直鎖又は分岐アルキル基の数)}×100]が、60〜90モル%である。)
2.ペンタエリスリトールエステル油の流動点が−50℃以下である、前記1項記載のグリース組成物。
3.多価アルコールエステル系錆止め剤が、ソルビタントリオレートである、前記1又は2項記載のグリース組成物。
4.有機スルホン酸塩系錆止め剤が、スルホン酸亜鉛である、前記1又は2項記載のグリース組成物。
5.前記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受。
6.前記軸受が密封型軸受である、前記5項記載の転がり軸受。
7.前記軸受が、樹脂製保持器を用いた軸受である、前記5又は6項記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温時の特異音の発生を抑制し、広温度範囲における低トルク性を満足し、高温下でも軸受潤滑寿命が長く、ワニスに対する錆止め性に優れる、転がり軸受に封入されるグリース組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のモータ用転がり軸受の一実施態様の深溝玉軸受の一部分の断面図である。
【図2】本発明のモータ用転がり軸受の他の実施形態の深溝玉軸受の断面図である。
【図3】本発明の実施形態のモータ用転がり軸受を用いたモータの構成を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔増ちょう剤〕
本発明で用いる増ちょう剤は、上記式(A)で表される。
式(A)中、R1及びR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれシクロヘキシル基又は炭素数16〜20、好ましくは炭素数18の直鎖又は分岐アルキル基を示す。
2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を示す。代表例として、以下の構造式で表されるものがあげられる。
【0013】
【化2】

【0014】
シクロヘキシル基のモル数の割合は、60〜90モル%、好ましくは70〜80モル%である。シクロヘキシル基のモル数の割合は、式(A)の増ちょう剤を構成する原料の仕込み比を変更することにより調節することができる。
上記増ちょう剤を使用することにより、トルクの要因となる増ちょう剤量を低減でき、その結果、広温度範囲における低トルク性を満足することができる。式(A)の増ちょう剤はまた、高温下でも耐熱性に優れるため、本発明のグリース組成物は長い潤滑寿命を示すことができる。
なお、増ちょう剤としては、一般的に、LiやNa等を含む金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ジウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系増ちょう剤等の非石けん類が挙げられるが、金属石けん類、ベントン、シリカゲルは、耐熱性、すなわち高温下での軸受潤滑寿命が満足するものではない。またフッ素系増ちょう剤は、耐熱性は満足するものの非常に高価であり、汎用性に欠ける。
増ちょう剤の含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、7〜13質量%、好ましくは8〜13質量%である。7質量%を下回ると、グリースが軟らかく、漏洩することがあり、潤滑寿命を満足することができないこともある。一方、13質量%より多いと低トルク性を満足することができない。
【0015】
〔基油〕
本発明で用いる基油は、40℃における動粘度が20〜55mm2/sであるペンタエリスリトールエステル油である。40℃における動粘度は25〜50mm2/sであるのが好ましく、25〜40mm2/sであるのがより好ましい。40℃における動粘度が55mm2/sを超えると、耐熱性は優れるものの、低温時の特異音の発生の抑制や広温度範囲における低トルク性を満足できない。一方、40℃における動粘度が20mm2/sを下回ると、低温時の特異音の発生の抑制や広温度範囲における低トルク性は優れるものの、耐熱性に劣ることから充分な潤滑寿命を満足できない。なお、40℃における動粘度は、JIS K 2220 23.に準拠して測定することができる。
【0016】
〔錆止め剤〕
本発明における錆止め剤としては、多価アルコールエステル系錆止め剤からなる群から選ばれる少なくとも一種と、有機スルホン酸塩系錆止め剤からなる群から選ばれる少なくとも一種との混合物を用いる。この錆止め剤を使用することによりワニスによる錆発生の問題を回避することができる。
多価アルコールエステル系錆止め剤としては、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノオレートが好ましい。ソルビタントリオレートがより好ましい。
有機スルホン酸塩系錆止め剤としては、スルホン酸亜鉛、スルホン酸カルシウムが好ましい。スルホン酸亜鉛がより好ましい。
錆止め剤の含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、1〜5質量%、好ましくは2〜4質量%である。
【0017】
その他の添加剤は、必要に応じ、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受に封入されるグリースに通常使用される添加剤を使用することができる。
その他の添加剤の例として、アミン系、フェノール系に代表される酸化防止剤;亜硝酸ソーダなどの無機不働態化剤;多価アルコールエステル系錆止め剤および有機スルホン酸塩系錆止め剤以外の錆止め剤、例えばアミン系錆止め剤、カルボン酸塩錆止め剤;ベンゾトリアゾールに代表される金属腐食防止剤;脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステルに代表される油性剤;リン系、硫黄系、有機金属系に代表される耐摩耗剤や極圧剤;酸化金属塩、二硫化モリブデンに代表される固体潤滑剤などが挙げられる。
特に高温環境では、グリースが酸化劣化してしまうため、使用する酸化防止剤は、アミン系、フェノール系を単独で用いるよりも併用することが望ましい。また、耐はく離性を考慮する場合、有機スルホン酸塩系錆止め剤と耐荷重添加剤を併用することが好ましい。
【0018】
本発明の組成物の混和ちょう度は、適宜調整できるが、好ましくは200〜350、より好ましくは240〜320である。
【0019】
〔モータ用転がり軸受〕
本発明の組成物を封入できるモータ用転がり軸受のモータとしては、汎用モータ、自動車用モータや産業機械用モータが挙げられる。汎用モータとしては、ACモータ、DCモータなどが挙げられる。自動車用モータとしては、EV・HEV駆動用モータ、電動コンプレッサー用モータ、電動ファン用モータ、ABSポンプ用モータ、スターター用モータ、ワイパー用モータ、パワーウインドー用モータ、電動パワーステアリングモータ、ステアリング調整用チルトモータ、ブロワーモータなどが挙げられる。また、産業機械用モータとしては、生産設備用モータ、送風機用モータ、ポンプ用モータ、圧縮機用モータ、サーボモータなどが挙げられる。
【0020】
本発明のグリース組成物を封入するモータの回転子を支持するモータ用転がり軸受としては、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受等があげられる。
軸受は密封型であるのが好ましい。
前記軸受は、樹脂製保持器を用いた軸受であってもよく、鉄製保持器を用いた軸受であってもよい。
前記軸受が、樹脂製保持器を用いた軸受であるのが好ましい。樹脂製保持器(特に、内輪又は外輪)の材質は、PA66(ポリアミド66)、PA46(ポリアミド46)、PA9T(ポリアミド9T)、PA11(ポリアミド11)、PA6(ポリアミド6)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)であるのが好ましい。
【0021】
次に本発明の好ましい実施形態のグリース組成物を封入するモータの回転子を支持するモータ用転がり軸受の構造を説明する。
図1は、保持器として、樹脂製の保持器を用いたモータ用転がり軸受1の一部分の断面図である。転がり軸受1は、複数の球状の玉(転動体)5を保持する樹脂製保持器2を用いた単列密封型の深溝玉軸受であり、内輪3と、内輪3に対し同心状に径方向に離間して配置された外輪4とを備えている。
【0022】
内輪3の外周面には、所定の角度間隔で、半球状の複数の内側凹部3aが形成され、また、外輪4の内周面の内側凹部3aと径方向に対向する各位置には、半球状の複数の外側凹部4aが形成されている。そして、対向して配置された各内側凹部3aと外側凹部4aの間に、球状の転動体5がそれぞれ配置されている。
【0023】
径方向に離間して配置された内輪3と外輪4の間に形成された環状空間Sの軸方向内側端および外側端のそれぞれには、環状シールSLが取付けられ、環状空間を密閉している。そして、この密閉された環状空間S内に本発明のグリースが封入される。
【0024】
図2は、保持器として鉄製の保持器を用いたモータ用転がり軸受10の断面図である。転がり軸受10は、複数の球状の玉(転動体)40を保持する鉄製保持器50を用いた単列密封型の深溝玉軸受であり、内輪20と、内輪20に対し同心状に径方向に離間して配置された外輪30とを備えている。
【0025】
内輪20の外周面には、所定の角度間隔で、半球状の複数の内側凹部20aが形成され、また、外輪30の内周面の内側凹部30aと径方向に対向する各位置には、半球状の複数の外側凹部30aが形成されている。そして、対向して配置された各内側凹部20aと外側凹部30aの間に、球状の転動体40がそれぞれ配置されている。
【0026】
径方向に離間して配置された内輪20と外輪30の間に形成された環状空間Sの軸方向内側端および外側端のそれぞれには、環状シールSLが取付けられ、環状空間を密閉している。そして、この密閉された環状空間S内に本発明のグリース組成物70が封入される。
【0027】
図3は、図2に示されたモータ用転がり軸受10を用いたモータの構成を示す図面である。
モータは、ジャケット29の内周壁に配置されたモータ用マグネットからなる固定子80と、巻線22が巻回され回転軸21に固着された回転子23とを備えている。
モータは、さらに、回転軸21に固定された整流子24と、ジャケット29に支持されたエンドフレーム27に配置されたブラシホルダ25と、このブラシホルダ25内に収容されたブラシ26とを備えている。
モータの回転軸21は、図2に示されている深溝玉軸受10と、深溝玉軸受10を支持する支持構造体とを介して、ジャケット29に回転自在に支持されている。
ここで、図2のモータ用転がり軸受10を用いた例を示したが、図1の樹脂製の保持器を用いたモータ用転がり軸受1を用いても良い。
【実施例】
【0028】
<試験グリースの調製>
表1及び表2に示した増ちょう剤、基油及び添加剤を用い、実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。基油の量は、増ちょう剤及び添加剤との合計量が100となる量とした。具体的には、基油中で、ジフェニルメタンジイソシアネートと所定のアミンとを反応させ、昇温、冷却後、ベースグリースを得た。ベースグリースに所定の添加剤と基油を加え、3本ロールミル後、混和ちょう度(試験方法JIS K2220 7.)が280〜350になるように実施例1〜6及び比較例1〜10のグリース組成物を得た。なお、40℃における基油の動粘度は、JIS K2220 23.に準拠して測定した。
【0029】
<基油>
エステル油A:ペンタエリスリトールエステル油(40℃の動粘度33mm2/s、流動点−52.5℃)
エステル油B:ペンタエリスリトールエステル油(40℃の動粘度29mm2/s、流動点−50℃)
エステル油C:ペンタエリスリトールエステル油(40℃の動粘度38mm2/s、流動点−55℃)
エステル油D:ジペンタエリスリトールエステル油(40℃の動粘度220mm2/s、流動点−30℃)
エステル油E:トリメチロールプロパンエステル油(40℃の動粘度19mm2/s、流動点−45℃)
エーテル油:アルキルジフェニルエーテル油(40℃の動粘度97mm2/s、流動点−30℃)
合成炭化水素油:ポリα-オレフィン(40℃の動粘度30mm2/s、流動点−65℃)
鉱油:40℃の動粘度39mm2/s、流動点−12.5℃
【0030】
<錆止め剤>
ソルビタントリオレート
Znスルホネート:ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛
<酸化防止剤>
アミン系酸化防止剤
フェノール系酸化防止剤
<耐荷重添加剤>
ZnDTP:ジチオリン酸亜鉛
【0031】
<試験方法>
・冷時異音
所定の軸受にグリースを規定量充填した後、軸受回転試験機に設置した。軸受を充分に冷却した後、モータを始動して軸受の内輪を回転させ、回転数を30秒間で4000rpmまで上げた。その30秒間の異音の発生有無を聴覚により確認した。
軸受形式:6206
グリース封入量:全空間容積比25%
試験荷重:ラジアル荷重2kgf
回転数:0〜4000rpm
最高回転数までに要する時間:30秒
評価温度:−40℃
繰返し数:3
【0032】
・低トルク性(低温)
試験は、JIS K2220 18.の低温トルク試験により、−40℃にて行った。
回転を10分間続け、最後の15秒間におけるトルク測定装置の読みの平均値より、回転トルクを算出した。
【0033】
・低トルク性(室温)
試験は、所定の軸受にグリースを規定量充填した後、軸受トルク試験機に設置した。モータにより、規定の回転数にて内輪回転させ、その際に試験軸受外輪にかかる力をロードセルにて読み取った。
試験条件を下記に示す。なお、トルクが安定した時を回転トルクとした。
軸受形式:6203LB(保持器の材質:ガラス繊維25質量%を含むPA66)
グリース封入量:静止空間容積比の80%
試験荷重:ラジアル荷重200N
回転数:4000rpm
雰囲気温度:25℃
【0034】
・耐熱性(軸受潤滑寿命)
試験は、ASTM D3336に準拠した軸受潤滑寿命試験機を用いて行った。
試験条件を下記に示す。なお、モータが過電流(4アンペア)を生じるまで、または軸受温度が+15℃上昇するまでの時間を焼付寿命とした。
軸受形式:6204金属シール
試験温度:180℃
回転数:10000rpm
グリース量:1.8g
試験荷重:アキシャル荷重66.7N ラジアル荷重66.7N
【0035】
・錆止め性
試験条件を下記に示す。なお、規定温度、規定時間後の錆発生有無を目視により確認し、合否判定した。
軸受形式:4T−30204
試験温度及び時間:40℃、22h ⇔ 25℃、2h を1サイクルとし、これを4サイクル行った。
グリース量:9mg
ワニス:日東電工NV−5501:触媒No.6A=100:1(質量比)で混合したもの
試験方法を以下に説明する。なお、本試験では、該軸受の外輪のみを使用した。n−ヘキサンにて試験軸受外輪を洗浄後、外輪走行面にグリース9mgを塗布した。2cm間隔に折った50mm×400mmのろ紙を、所定のワニス中に15分間含浸した後、ろ紙を引き上げ、室温で30分放置後、130℃で30分乾燥させた。500mLのビーカー中に乾燥させたワニス含浸ろ紙を入れ、その上にガラス製シャーレを置き、さらにその上にグリースを塗布した試験軸受を静置した。蒸留水50mLを入れた1Lビーカーに、上述した500mLビーカーを入れ、ボリエチレンシートで密閉した。規定温度、規定時間、規定サイクルで試験を行い、試験後の軸受外輪走行面の錆発生有無を目視により確認した。
【0036】
評価
・冷時異音
聴覚による異音発生有無
n=3のいずれも異音無し・・・○(合格)
n=3のうち1つでも異音有り・・・×(不合格)
・低トルク性
低温トルク 100mNm未満・・・○(合格) 100mNm以上・・・×(不合格)
室温トルク 10mNm未満・・・○(合格) 10mNm以上・・・×(不合格)
・耐熱性
軸受潤滑寿命 200h以上・・・○(合格) 200h未満・・・×(不合格)・錆止め性
錆の発生無し・・・○(合格) 錆の発生有り・・・×(不合格)
総合評価
冷時異音、低トルク性(低温及び室温)、耐熱性及び錆止め性のいずれも合格・・・○(合格)
冷時異音、低トルク性(低温及び室温)、耐熱性及び錆止め性のいずれか1つが不合格・・・×(不合格)
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
40℃における動粘度が20〜55mm2/sであるペンタエリスリトールエステル基油、及び所定のジウレア増ちょう剤7〜13質量%を含有し、且つ多価アルコールエステル系錆止め剤及び有機スルホン酸塩系錆止め剤を含む実施例1〜6のグリース組成物は、冷時異音、低トルク性、耐熱性、錆止め性のいずれも合格であった。
一方、いずれかが含まれていない比較例1〜10のグリース組成物は、冷時異音、低トルク性、耐熱性、錆止め性のいずれか一以上が不合格であった。
【符号の説明】
【0040】
1 転がり軸受
2 保持器
3 内輪
4 外輪
5 玉(転動体)
S 環状空間
SL 環状シール
10 転がり軸受
20 内輪
30 外輪
40 玉(転動体)
50 保持器
70 グリース組成物
21 回転軸
22 巻線
23 回転子
24 整流子
25 ブラシホルダ
26 ブラシ
27 エンドフレーム
29 ジャケット
80 固定子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤と、基油と、錆止め剤とを含有するグリース組成物であって、
前記組成物が、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受用グリース組成物であり、
前記増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、組成物中の増ちょう剤の含有量が7〜13質量%であり、
前記基油が、40℃における動粘度が20〜55mm2/sであるペンタエリスリトールエステル油であり、
前記錆止め剤が、多価アルコールエステル系錆止め剤からなる群から選ばれる少なくとも一種と、有機スルホン酸塩系錆止め剤からなる群から選ばれる少なくとも一種との混合物である、前記グリース組成物:
【化1】

(式中、R2は、炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示す。
R1及びR3は、シクロへキシル基又は炭素数16〜20の直鎖又は分岐アルキル基を示し、かつシクロへキシル基と炭素数16〜20の直鎖又は分岐アルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+C16-20直鎖又は分岐アルキル基の数)}×100]が、60〜90モル%である。)
【請求項2】
ペンタエリスリトールエステル油の流動点が−50℃以下である、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
多価アルコールエステル系錆止め剤が、ソルビタントリオレートである、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
有機スルホン酸塩系錆止め剤が、スルホン酸亜鉛である、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した、モータの回転子を支持するモータ用転がり軸受。
【請求項6】
前記軸受が密封型軸受である、請求項5記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記軸受が、樹脂製保持器を用いた軸受である、請求項5又は6記載の転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−197401(P2012−197401A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82624(P2011−82624)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】