説明

グリース組成物及び転がり軸受

【課題】耐熱性及び潤滑性能により優れたグリース組成物、並びに高温での焼き付きや、白色組織変化を伴う離性の発生が抑えられ、防錆性能にも優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】エステル系合成油及びパーフルオロポリエーテル油を含む基油と、第一増ちょう剤としてジウレア化合物及び第二増ちょう剤としてフッ素樹脂を含み、かつ、防錆添加剤としてカルボン酸、カルボン酸塩及びエステル系化合物から選ばれる2種以上を合計でグリース全量の1〜10質量%の割合で含有するグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入した転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物及びそれを封入した転がり軸受に関し、詳しくは、耐熱性及び耐剥離性に優れたグリース組成物及びそれを封入した転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の小型軽量化、居住空間の拡大の要請から、自動車のエンジンルーム空間は小さくなる傾向にある。これに伴い、エンジンルーム内に設置される電装部品及びエンジン補機の一層の小型軽量化が進んでいる。しかし、このような小型化が進むことにより、エンジンルームの高温化という問題が発生している。また、これに加え、エンジンルームの静粛性向上の要請からエンジンルームの密閉化が進んでいるため、エンジンルームの高温化が一層促進される傾向にある。したがって、エンジンルーム内に装備される部品の耐熱性が益々重要となってきている。例えば、電動ファンモータ軸受は、従来は130〜150℃の軸受温度で使用されてきたが、近年においては、180〜200℃の高温下でも耐え得るような軸受けが必要とされている。したがって、軸受けに使用されるグリースについても耐熱性の高いものが必要とされる。
【0003】
また、オルタネータやカーエアコン用電磁クラッチにおいても高速化することで出力の低下分を補っており、それに伴いアイドルプーリも同様に高速化することになる。更に、静粛性向上の要望によりエンジンルームの密封化が進み、エンジンルーム内の高温化が促進されており、電動ファンモータ同様に180〜200℃の高温下でも耐え得るような軸受が必要とされている。
【0004】
従来、高温用グリース組成物として、特定のエステル油にLi系石鹸またはウレア系化合物を配合させたグリース(特許文献1参照)や、鉱油及び合成潤滑油から選ばれる1種と、フッ素油との混合油からなる基油にウレア化合物を配合させたグリース組成物(特許文献2参照)等が知られているが、何れのグリース組成物も160℃以上の高温下では、早期に焼付けを生じる。
【0005】
更に、自動車は世界各国で使用されており、その環境も多様である。例えば、熱帯雨林地域や海洋が近い場所では大気中の湿度や塩分濃度が高いため、軸受が腐食しやすく、防錆性能を向上させることが重要な課題となっている。また、上述の自動車電装部品やエンジン補機用の軸受は、エンジン外部に置かれ、ベルトで駆動されることから、路面から跳ね上がる泥水や雨水が浸入しやすい。これらの軸受は、通常、接触型ゴムシールにより外部からの水の浸入を防ぐ構造になっているが、完全な防水は困難である。更には、自動車のエンジンは稼動と停止とが繰り返し行われるため、エンジンが停止している間に軸受ハウジング内の温度が下がり、露点に達して軸受周辺に空気中の水分が凝集して結露を起こして軸受に付着したり、潤滑剤中に混入することも考えられる。
【0006】
上記各部品用軸受は、ベルトによるプーリ駆動で回転しており、ベルトとプーリとの間では滑りが発生すると静電気が発生する。軸受では、回転中は潤滑剤の油膜により内外輪間は絶縁状態にあるが、停止時に内外輪が一気に導通して内外輪間に大きな電位差が生じることがある。そのため、軸受に水分が浸入すると電気分解により水素イオンが発生し、水素イオンが軸受鋼中に侵入して水素脆性による白色組織変化を伴った剥離を引き起こすことが知られている。また、封入グリースも高温に晒されて分解し、水素イオンが発生することがある。このような水素イオンによる白色組成変化を伴う剥離を抑えるために、例えば、潤滑剤の水素イオン指数pHを7〜13に設定することが行われている(特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特許第2,977,624号公報
【特許文献2】特開平11−181465号公報
【特許文献3】特開平11−72120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、自動車の電動部品やエンジン補機用の軸受は、今後もより高速回転され、より高温に晒されることが想定される。そこで、本発明は、耐熱性及び潤滑性能により優れたグリース組成物を提供し、更に高温での焼き付きや、白色組織変化を伴う離性の発生が抑えられ、防錆性能にも優れる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、エステル系合成油及びパーフルオロポリエーテル油を含む基油と、第一増ちょう剤として下記一般式(I)で表されるジウレア化合物及び第二増ちょう剤としてフッ素樹脂を含み、かつ、防錆添加剤としてカルボン酸、カルボン酸塩及びエステル系化合物から選ばれる2種以上を合計でグリース全量の1〜10質量%の割合で含有することを特徴とするグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受を提供する。
【0010】
【化2】

【0011】
〔式中、Rは炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基であり、R及びRは炭素数6〜20の脂肪族系炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。〕
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリース組成物は、基油成分のパーフルオロエーテル油と、第二増ちょう剤成分のフッ素樹脂とにより優れた耐熱性を示し、高温下においても焼き付きが無く、白色組織変化を伴う剥離も起こさず、長寿命の転がり軸受を提供することが可能となる。また、基油にはエステル系合成油も含まれているため、優れた防錆性能を示すカルボン酸、カルボン酸塩及びエステル系化合物から選ばれる防錆添加剤を添加することが可能となり、防錆性能に優れる軸受を提供できる。更に、第一増ちょう剤として特定のジウレア化合物を含み、基油としてエステル系合成油を含有していることにより、耐熱性を損なうこと無く、通常のフッ素系グリースと比較して安価なグリース組成物を提供できるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のグリース組成物において、基油は、エステル系合成油とパーフルオロポリエーテル油とを含む。
【0014】
エステル系合成油としては、特に限定するものではないが、例えば、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペートなどのジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエートなどのポリオールエステル;トリメリット酸エステル、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油等が挙げられる。このような中でも、芳香族エステル油が熱酸化安定性の観点から好ましい。
【0015】
エステル系合成油の動粘度(JIS K2283に準拠;以下同様)は、40℃で20〜500mm2/s、好ましくは30〜400mm2/sであることが望ましい。動粘度がこの範囲にあると、潤滑特性、蒸発特性及び低温流動性に優れる傾向にある。
【0016】
パーフルオロポリエーテル油としては、特に限定するものではないが、(CF2CF2O)、(CF2O)、(CF2CF(CF3)O)、(CF(CF3)O)、(CF2CF2CF2O)、(CF2CF(OXa)O)及び(CF(OXa)O)から選択される少なくとも1種のフルオロオキシアルキレン構造単位を含むものが好ましい。尚、Xaは−(CF2n3(nは0〜4の整数)である。
【0017】
パーフルオロポリエーテル油が、上記フルオロオキシアルキレン構造単位のうち2種以上から構成される場合は、各構造単位は連鎖に沿って統計的に分布している。また、その末端基は、−CF3、−C25、−C37、ClCF2CF(CF3)−、CF3CFClCF2−、ClCF2CF2−、ClCF3−、−CF2H、−CF(CF3)H等のような、1個のH及び/またはClを任意に有するフルオロアルキル基である。
【0018】
低温流動性不足による低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるという観点から、パーフルオロポリエーテル油の40℃における動粘度は、20〜500mm2/s、好ましくは30〜400mm2/sであることが望ましい。
【0019】
尚、基油におけるエステル系合成油及びパーフルオロポリエーテル油の含有量は、特に制限するものではないが、基油全量に対して、エステル系合成油を30〜80質量%、パーフルオロポリエーテル油を70〜20質量%含むことが好ましい。エステル系合成油及びパーフルオロポリエーテル油の各含有量が上記範囲にあると、耐熱性に優れ、しかも、低コストのグリース組成物を提供し得る。中でも、エステル系合成油とパーフルオロポリエーテル油とを等量(50:50)とすることがより好ましい。
【0020】
また、基油全体としても、40℃における動粘度が20〜500mm2/sであることが好ましい。40℃における動粘度が500mm2/sを超えると、転がり軸受のトルクが上昇しすぎる傾向にある。また、低温での流動性が不十分となり、転がり軸受を低温下で起動する際に異音が発生するおそれがある。また、動粘度が20mm2/s未満であると、蒸発損失や潤滑性の点から適当でない。即ち、基油の粘度が低すぎると、高温において例えば軸受の回転中に軌道面と転動体との金属接触を避けるのに十分な潤滑油膜の形成が困難となる。
【0021】
更に、本発明の目的を達成し得る限り、本発明の基油には、エステル系合成油及びパーフルオロポリエーテル油以外に、例えば、鉱油、高精製鉱油、合成炭化水素油、フェニルエーテル系合成油、シリコーン系合成油等の従来公知の潤滑油を含んでもよい。このような他の潤滑油は、特に限定するものではないが、熱酸化安定性の観点からは、基油全体の30質量%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明のグリース組成物には、第一増ちょう剤として下記一般式(I)で示されるジウレア化合物、第二増ちょう剤としてフッ素樹脂が配合される。
【0023】
【化3】

【0024】
式中、R2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基である。R1及びR3は炭素数6〜20の脂肪族系炭化水素基であり、脂肪族系炭化水素基は直鎖状及び分枝状の何れもよいが、好ましくは直鎖状である。これらの炭化水素基の炭素数が前記下限値より小さいと、増ちょう剤が基油に分散し難く、増ちょう剤と基油とが分離しやすい傾向にある。一方、炭化水素基の炭素数が前記上限値より大きいと、工業的に製造し難い傾向にある。尚、R1及びR3は、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
この一般式(I)で表されるジウレア化合物は、公知の方法で製造することが可能であり、例えば、基油中で、R2を骨格中に含むジイソシアネート1モルに対して、R1及びR3を骨格中に含むモノアミンを合計で約2モルの割合で反応させることにより得られる。また、このようなジウレア化合物は市場からも入手可能である。
【0026】
2を骨格中に含むジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート、ジメチルジフェニレンジイソシアネート、またはこれらのアルキル置換体等が好適に用いられる。また、R1またはR3を骨格中に含むモノアミンとしては、例えば、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、エイコシルアミン等の脂肪族アミン等を使用し得る。
【0027】
第二増ちょう剤として使用されるフッ素樹脂の種類は、特に制限するものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、または、テトラフルオロエチレンと全体若しくはその一部がフッ素化された他のエチレン系不飽和炭化水素モノマーとの共重合体(以下、「テトラフルオロエチレン共重合体」と記す)等が好ましい。
【0028】
テトラフルオロエチレン共重合体としては、例えば、以下の(1)〜(4)に示すものが挙げられる。
(1)フッ化ビニリデン;ヘキサフルオロイソブテン;クロロトリフルオロエチレン;パーフルオロプロペン等のパーフルオロアルキルエチレン類のうちの1種以上のコモノマーを、0.01〜3モル%、好ましくは0.05〜0.5モル%共重合させた変性ポリテトラフルオロエチレン。
(2)少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜6個である)を、テトラフルオロエチレン(TFE)に0.5〜8モル%共重合させたTFE熱可塑性共重合体。具体的には、例えばパーフルオロプロピルビニルエーテルとTFEとの共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテルとTFEとの共重合体、パーフルオロエチルビニルエーテルとTFEとの共重合体等が挙げられる。
(3)炭素数3〜8のパーフルオロオレフィンを、2〜20モル%共重合させたTFE熱可塑性共重合体。尚、この共重合体には、5モル%未満であれば、パーフルオロビニルエーテル構造を有する他のコモノマーを共重合させてもよい。
(4)パーフルオロメチルビニルエーテル0.5〜13モル%と、下記式(II)〜(IV)のフッ素化モノマーのうち1種以上(0.05〜5モル%)とを共重合させたTFE熱可塑性共重合体。
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
式(II)及び式(III)中、Rは、下記(i)〜(iii)の何れか一つである。
(i)2〜12個の炭素原子を含有するパーフルオロアルキル基。
(ii)下記式(V)に示す化学構造を有する基。式(V)中、rは1〜4の整数であり、r’は0〜3の整数である。
【0033】
【化7】

【0034】
(iii)下記式(VI)に示す化学構造を有する基。式(VI)中、構造単位(OCFX)と(OCF2−CFY)は連鎖に沿って統計的に分布している。また、Tは、1〜3個の炭素原子を含有するパーフルオロアルキル基であり、任意に1個のHまたはClを有する。X及びYは、F基またはCF3基である。Zは、−(CFX)−または(CF2CFY)−であり、qとq’は0〜10の整数で相互に同じかまたは異なる数値であってもよい。
【0035】
【化8】

【0036】
尚、式(II)及び式(III)により示されるフッ素化合物モノマーの数平均分子量は、200〜2000である。また、式(IV)中、R4は1〜5個の炭素を有するパーフルオロアルキル基で、CF3が好ましい。また、X1とX2は相互に独立して、1〜3個の炭素を有するパーフルオロアルキル基またはフッ素原子であり、中でもCF3基が好ましい。
【0037】
上記(1)〜(4)には、分子式中の数値、共重合化、及び平均分子量について好適な数値範囲が限定されているが、これらの数値が前記範囲の下限値未満であると、グリース状とするのに十分な増ちょう性がテトラフルオロエチレン共重合体に付与されない。また、前記範囲の上限値を超えると、グリース組成物が硬化して十分な潤滑性を発揮することが困難である。
【0038】
増ちょう剤において、上記のジウレア化合物を30〜80質量%、フッ素樹脂を70〜20質量%の割合とすることが好ましく、特に、ジウレア化合物を30〜60質量%、フッ素樹脂を70〜40質量%とすることが好ましい。ジウレア化合物とフッ素樹脂とがこのような範囲にあると、耐熱性に優れ、かつ、低コストのグリース組成物を提供し得る。
【0039】
また、グリース組成物における増ちょう剤の含有量、即ち第一増ちょう剤と第二増ちょう剤との合計量は、グリース組成物全体の5〜40質量%であることが好ましい。増ちょう剤の含有量が5重量%未満であるとグリース状態を維持することが困難となり、40重量%を超えるとグリース組成物が硬化しすぎて十分な潤滑性を発揮することが困難となる。但し、グリース組成物の混和ちょう度、及び、転がり軸受への適用の観点からは、増ちょう剤の含有量がグリース組成物全体の10〜30質量%であることが好ましい。
【0040】
尚、本発明においては、ジウレア化合物及びフッ素樹脂以外にも、本発明の効果を妨げない範囲において、これら以外に従来公知の各種の増ちょう剤をグリース組成物に配合してもよい。
【0041】
本発明のグリース組成物には、防錆添加剤としてカルボン酸、カルボン酸塩及びエステル系化合物から選ばれる2種以上を、合計でグリース全量の1〜10質量%の割合となるように添加される。
【0042】
カルボン酸としては、モノカルボン酸ではナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、ステアリン酸及びその誘導体等が挙げられ、ジカルボン酸ではコハク酸及びその誘導体等が挙げられる。また、カルボン酸塩としては、これらのカルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉛等が挙げられる。特に、コハク酸及びその誘導体、ナフテン酸塩が、良好な防錆性能を有するとともに、白色組織変化を伴う剥離の抑制効果が高いことから好ましい。尚、ナフテン酸塩はナフテン核を有する化合物であるが、中でもナフテン核を有する飽和カルボン酸塩(C2n−1COOMe)、飽和複環カルボン酸塩(C2n−3COOMe)及びこれらの誘導体が好ましい。尚、Meは金属元素である。具体的には、単環のカルボン酸塩として下記(VII)式及び(VIII)式で表される化合物が好ましい。
【0043】
【化9】

【0044】
式中、Rは炭化水素基、Meは金属元素を表す。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルカノール基、アラルキル基等が挙げられる。中でも、ナフテン酸亜鉛が好ましい。
【0045】
また、コハク酸及びその誘導体としては、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド、及びこれらのカルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉛等の金属塩等が等を挙げることができる。中でも、コハク酸、アルケニルコハク酸、コハク酸イミドが好ましい。
【0046】
また、エステル系化合物としては、多価アルコールのカルボン酸エステルとしてはソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタエリスリットモノオレエートやコハク酸ハーフエステル等が挙げられ、特にソルビタンモノオレエート及びコハク酸ハーフエステルが良好な防錆性能を有するとともに、白色組織変化を伴う剥離の抑制効果が高いことから好ましい。
【0047】
上記のカルボン酸、カルボン酸塩及びエステル系化合物は、2種を以上混合して使用され、合計量でグリース組成物全量の1〜10質量%となるように添加される。添加量が1質量%未満では、防錆性能及び白色組織変化を伴う剥離を防止する効果を十分に付与することができず、10質量%を越える場合はグリース組成物が軟化してグリース漏れを起こすおそれがある。また、組み合わせる個々の添加量は、グリース組成物全量の0.5〜9,5質量%であることが好ましい。
【0048】
本発明のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるために、所望により種々の添加剤を混合してもよい。添加剤としては、グリース組成物に通常添加される添加剤を用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
【0049】
酸化防止剤としては、一般的に使用される酸化防止剤が使用でき、例えば、フェニル−1−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛等のその他の酸化防止剤を使用することができる。
【0050】
極圧剤としては、例えば、リン系の極圧剤、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等を使用することができる。
【0051】
油性剤としては、例えば、脂肪酸、動植物油等の油性向上剤を使用することができる。
【0052】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等を使用することができる。
【0053】
これらの添加剤は、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば、特に限定されるものではない。
【0054】
また、本発明のグリース組成物の混和ちょう度は、220〜385であることが好ましい。混和ちょう度が220未満であると、グリース組成物が硬すぎるため、軸受のトルク性能が低下する傾向にある。また、385を超えると軸受からの漏れ量が多くなる。
【0055】
本発明のグリース組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、エステル系合成油を基油とし、ウレア化合物を増ちょう剤とするジウレアグリースと、パーフルオロポリエーテル油を基油とし、フッ素樹脂を増ちょう剤とするフッ素グリースとを別々に製造し、これらを混合することにより製造してもよい。
【0056】
あるいは、エステル系合成油とパーフルオロポリエーテル油とを混合した基油に、ジウレア化合物及びフッ素樹脂を増ちょう剤として添加することにより製造してもよい。
【0057】
本発明のグリース組成物は、その用途に制限を受けるものではないが、優れた耐熱性・潤滑性を有することから、オルタネータ、電磁クラッチ等の自動車電装部品、アイドラプーリ等の自動車等の高温高速条件下で使用される機器の回転部分に使用される転がり軸受に好適に使用される。
【0058】
転がり軸受自体の種類や構想には制限が無く、例えば図1に示す玉軸受を挙げることができる。図示される玉軸受1は、内輪10と外輪11との間に転動自在に配設された複数の玉13と、複数の玉を保持する保持器12と、外輪11に取り付けられた接触形のシール14とで構成される。また、内輪10と外輪11とシール14,14とで囲まれた軸受空間には、上記本発明のグリース組成物Gが充填され、シール14,14により玉軸受1内に密封されている。そして、このようなグリース組成物Gにより、両輪10、11の軌道面と玉13との接触面が潤滑される。
【0059】
本発明の転がり軸受は、前述したグリース組成物により、高温下においても焼き付きが無く、水分が浸入した場合でも、水素イオンによる白色組織変化を伴う剥離の発生が抑制され、耐久性に優れたものとなる。
【0060】
尚、転がり軸受としては、上記玉軸受の他、例えば、アンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受とすることもできる。
[実施例]
【0061】
以下、本発明について実施例に基づき更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。
【0062】
(実施例1〜5、比較例1〜5)
表1に実施例の試験グリースの組成、表2に比較例の試験グリースの組成を示すが、増ちょう剤及び基油を形成する各成分については、増ちょう剤全量または基油全量に占める割合(質量%)を示し、防錆添加剤についてはグリース全量に対する割合(質量%)を示す。また、各試験グリースとも、その他に、グリース全量に対し0.95質量%のアミン系酸化防止剤(チバスペシャルケミカルズ社製「VANLUBE 81」)と、0.05質量%のベンゾトリアゾール系金属不活性化剤(城北化学社製「ベンゾトリアゾール」)とを含有している。
【0063】
各試験グリースについて、下記の試験方法に従い、防錆性試験、焼付試験及び剥離試験を行った。また、各試験グリースの混和ちょう度をJISK2220に従い測定した。それぞれの結果を同表に併記する。
【0064】
<防錆性試験>
内径17mm、外径47mm、幅14mmの接触形ゴムシール付き深溝玉軸受(図1参照)に、各試験グリースを軸受空間容積の50%を占めるように充填した。そして、回転速度1800min−1で30秒間慣らし運転(回転)を行った後、軸受内部に0.5質量%の塩水を0.5ml注入し、再び回転速度1800min−1で30秒間慣らし運転を行った。次いで、80℃、100%RHに調整された恒温恒湿槽にこの玉軸受を48時間放置した後、玉軸受を分解して軌道面に発生している錆の状況を肉眼で観察した。結果を、以下のようなランクに評価した。
防錆性評価基準
#7:錆の発生無し
#6:シミ状の微小な錆有り
#5:直径0.3mm以下の点状の錆有り
#4:直径1.0mm以下の錆有り
#3:直径5.0mm以下の錆有り
#2:直径10.0mm以下の錆有り
#1:軌道面のほぼ全面に錆が発生
尚、#7〜#5を防錆性良好とし、#4〜#1を防錆性不良とした。
【0065】
<焼付試験>
内径8mm、外径22mm、幅7mmの鉄シールド付き深溝玉軸受(図1参照)に、各試験グリースを軸受空間の50%を占めるように充填した。そして、この玉軸受を、図2に示すようなASTMD1741の軸受寿命試験機に類似の試験機に装着し、軸受温度180℃、アキシアル荷重59Nの条件下で、3000min−1の回転速度で回転させ、焼付が生じて外輪の温度が190℃以上に上昇するまでの時間を寿命とした。また、3000時間回転させても190℃以上に上昇しなかった場合は、試験を打ち切った。尚、その他の条件については、ASTMD1741に準拠した。試験は、一種類の軸受について4回行い、その平均値を試験結果として利用した。比較例3の試験グリースを用いた場合の焼付時間を基準(1.0)として相対比較をした。
【0066】
<剥離試験>
この剥離試験では、エンジン実機を用いてオルタネータに組み込んだ軸受を急加減速させることにより評価を行った。単列深溝玉軸受(内径17mm、外径47mm、幅14mm)に各試験グリースを2.5g封入し、オルタネータに組み込んだ後、室温雰囲気下、プーリ荷重1560Nでエンジン回転数1000〜6000min−1(軸受回転数2400〜13300min−1)を繰り返し連続回転させ、500時間を目標に試験を行った。規定の振動値より大きくなった時点で試験を終了した。また、500時間に達した時点で規定の振動値よりも小さい場合も試験を終了とした。そして、試験終了後、軸受鋼材の剥離の有無について確認した。試験は10回行い、下記式から剥離発生率を算出した。
剥離発生率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1及び表2に示されるように、本発明に従う実施例の各試験グリースは、防錆性、焼き付き寿命及び耐剥離性の向上に効果があることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る転がり軸受の一実施形態である玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図2】試験グリースの潤滑寿命を評価する軸受寿命試験機の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 保持器
13 玉
14 シール
G グリース組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル系合成油及びパーフルオロポリエーテル油を含む基油と、第一増ちょう剤として下記一般式(I)で表されるジウレア化合物及び第二増ちょう剤としてフッ素樹脂を含み、かつ、防錆添加剤としてカルボン酸、カルボン酸塩及びエステル系化合物から選ばれる2種以上を合計でグリース全量の1〜10質量%の割合で含有することを特徴とするグリース組成物。
【化1】

〔式中、Rは炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基であり、R及びRは炭素数6〜20の脂肪族系炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。〕
【請求項2】
請求項1記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−217464(P2007−217464A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36853(P2006−36853)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】