説明

グリース組成物及び転がり軸受

【課題】フッ素化合物やフッ素油を用いることなく安価でありながらも、180℃を超える環境でも十分な潤滑性を示す耐熱性に優れるグリース組成物、並びに180℃を超える環境での使用に十分に耐え得る転がり軸受を提供する。
【解決手段】基油と、増ちょう剤として特定のジウレア化合物を含有するグリース組成物、並びに内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に保持するとともに、前記グリース組成物を封入した転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物及び転がり軸受に関する。より詳細には、耐熱性に優れるグリース組成物、並びに高温・高速回転下で使用され、耐熱性、耐過重性及び耐久性に優れる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や産業機械等に組み込まれる転がり軸受や、自動車のエンジン周りの電装機械に使用される転がり軸受は、小型軽量化や高速回転化が進み、高温化の傾向がある。一方で、省資源化や省エネ要求も高まっており、メンテナンスフリーの要望も高い。そのため、転がり軸受には、耐熱性に加えて信頼性や耐久性も要求されるようになっている。
【0003】
これまで、軸受温度が150℃前後となる環境では、アルキルアミンを原料としたジウレア化合物を増ちょう剤とするグリースが汎用的に用いられている。しかし、軸受温度が180℃を超えるような環境では、ウレアの分解が起こり、グリースの硬化が急激に進行して潤滑性を失ってしまう。そこで、軸受温度が180℃を超えるような環境では、フッ素系または粘度鉱物系のグリース組成物が使用されてきたが、これらのグリース組成物は耐熱性には優れるものの、潤滑性や耐過重性等が良くないという欠点を抱えており、耐熱性と潤滑性とを兼ね備えるグリース組成物が求められているのが現状である。
【0004】
このような背景から、本出願人も先に、増ちょう剤にジウレア化合物とフッ素化合物とを用い、基油にエステル油とフッ素油との混合油を用いたハイブリッドグリース組成物を提案している(特許文献1参照)。しかしながら、フッ素化合物やフッ素油は高価であり、コストが大幅に高くなり、汎用性があるとは言い難い。
【0005】
その他にも、基油や添加剤を工夫して耐熱性を向上させることも行われているが、基油が十分な耐熱性を有していても増ちょう剤がグリース全体としての耐熱性を低下させることがある。また、添加剤についても添加剤の消耗、あるいは添加による悪影響が懸念される。
【0006】
【特許文献1】特開2005−105080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、フッ素化合物やフッ素油を用いることなく安価でありながらも、180℃を超える環境でも十分な潤滑性を示す耐熱性に優れるグリース組成物を提供することを目的とする。また、180℃を超える環境での使用に十分に耐え得る転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、下記のグリース組成物及び転がり軸受を提供する。
(1)基油と、増ちょう剤として下記一般式(I)で表されるジウレア化合物を含有することを特徴とするグリース組成物。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R1,R3は含窒素五員環または含窒素六員環を表し、両者は同一であってもよく、異なっていてもよい。R2はトリレン基またはビトリレン基である。)
(2)基油がジアルキルジフェニルエーテル油、エステル油、ポリα−オレフィン油または鉱油であり、かつ、増ちょう剤量がグリース全量の3〜30質量%であることを特徴とする上記(1)記載のグリース組成物。
(3)内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に保持するとともに、上記(1)または(2)記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリース組成物は、フッ素化合物やフッ素油を含まず安価でありながらも、180℃を超える環境でも十分な潤滑性を示し、耐熱性に優れる。また、本発明の転がり軸受は、このようなグリース組成物を封入したことにより、180℃を超える環境での使用に十分に耐えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0013】
(グリース組成物)
本発明のグリース組成物において、基油には制限がないが、耐熱性を考慮すると合成油が好ましく、コスト面からは鉱油が好ましい。また、合成油と鉱油とを混合して使用することもできる。
【0014】
合成油としては、炭化水素油、芳香族油、エステル油、エーテル油が挙げられる。炭化水素油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンオリゴマー等のポリα−オレフィンまたはこれらの水素化物が挙げられる。芳香族油としては、モノアルキルベンゼンやジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレンやジアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これら合成油の中でも、エステル油、エーテル油、ポリα―オレフィンが好ましく、エーテル油がより好ましい。
【0015】
更にエーテル油の中でもジアルキルジフェニルエーテルが好ましく、特にジフェニルエーテルに結合するアルキル鎖のα位に炭素が付加した下記一般式(A)で表されるエーテル油(分岐エーテル油)に、ジフェニルエーテルに直鎖のアルキル鎖が結合した下記一般式(B)で表されるエーテル油(直鎖エーテル油)を全体の5〜80%となるように混合した混合油が好ましい。なお、式中のR4,R5は炭素数10〜20のアルキル基である。
【0016】
【化3】

【0017】
鉱油は、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が挙げられ、特に減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが好ましい。
【0018】
また、基油は、耐熱性以外にも、自動車エンジン周りの電装機械に使用されることを考慮すると、低音での潤滑性に優れることも必要であるため、40℃における動粘度で10〜400mm/sであることが好ましい。
【0019】
増ちょう剤には、下記一般式(I)で表されるジウレア化合物を用いる。
【0020】
【化4】

【0021】
式中、R1,R3は含窒素五員環または含窒素六員環を表し、両者は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、R2はトリレン基またはビトリレン基である。
【0022】
一般的なジウレア化合物はアルキルアミンとイソシアネートとの反応生成物であるが、構造中のC−N結合が熱により分解しやすく、使用温度は160℃程度が限界である。しかし、本発明で用いる一般式(I)で表されるジウレア化合物は、含窒素五員環または含窒素六員環のアミンを出発原料にするため、構造中にC−N結合よりも熱に強いN−N結合が生成してグリースの耐熱性を格段に高める。
【0023】
増ちょう剤量は、通常のウレア系グリースと同様で構わないが、グリース全量の3〜30質量%が好ましい。
【0024】
グリース組成物には、その各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、フェニル−1−ナフチルアミン等のアミン系、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール等のフェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤;アルカリ金属およびアルカリ土類金属等の有機スルフォン酸塩、アルキル、アルケニルこはく酸エステル等のアルキル、アルケニルこはく酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル等の防錆剤;リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤;脂肪酸、動植物油等の油性向上剤;ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等を、単独又は2種以上混合して添加することができる。なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0025】
また、グリース組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、基油中で含窒素五員環または含窒素六員環のアミンとイソシアネートとを反応させることにより得られる。添加剤は、得られたベースグリースに適量添加され、均一に混練される。混和ちょう度は265〜295が適当である。
【0026】
(転がり軸受)
本発明はまた、上記のグリース組成物を封入した転がり軸受に関する。図1は、転がり軸受の一実施形態である玉軸受の構造を示す縦断図面である。この玉軸受1は、内輪10と、外輪11と、内輪10と外輪11との間に転動自在に配設された複数の転動体である玉13と、複数の玉13を保持する保持器12と、外輪11に取り付けられた接触形のシール14、14と、で構成されている。また、内輪10と外輪11とシール14、14とで囲まれた軸受空間には、上記のグリース組成物Gが充填され、シール14により密封されている。そして、グリース組成物Gにより、前記両輪10、11の軌道面と玉13との接触面が潤滑される。
【0027】
本発明の転がり軸受は、グリース組成物Gの優れた耐熱性により、180℃を超える温度でも安定して作動する。そのため、工作機械や産業機械、自動車エンジン周りの電装機械の他にも、自動車用セラミックガスタービン、ターボエンジン、コージェネレーション用エンジン、ジェットエンジン等に好適である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0029】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
表1に示すように、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、表記のアミンとを表記の基油中で反応させ、添加剤を添加して全体を均一に混練して試験グリースを調製した。尚、アルキルジフェニルエーテル油Aは、(株)松村石油研究所製で、一般式(A)で表される分岐エーテル油:一般式(B)で表される直鎖エーテル油=20:80の混合油(80mm/s@40℃)であり、アルキルジフェニルエーテル油Bは(株)松村石油研究所製「LB100」(100mm/s@40℃)であり、エステル油は日油(株)製ポリオールエステル油「H−481D」(129mm/s@40℃)である。そして、各試験グリースについて下記の試験を行った。結果を表1に併記する。
【0030】
(1)耐熱試験
試験グリースをシャーレに10g程度取り、上面を開放したまま200℃の高温槽に入れ、300時間放置した。加熱前後の重量差から蒸発量を求め、更に加熱後の酸価、ちょう度を測定した。
【0031】
(2)増ちょう剤の分解温度測定及びTG測定
試験グリースの増ちょう剤のみ用い、TG/DTA試験により室温から400℃まで10℃/minの昇温速度で加熱していき、増ちょう剤の分解温度を測定した。また、5%減量温度も併せて測定した、増ちょう剤の分解温度は、増ちょう剤の耐熱性を示す1つの指標であり、高いほど分解が起きにくく耐熱性に優れるということができる。
【0032】
(3)焼付き寿命試験
耐熱ゴムシール付き6305玉軸受(外径62mm、内径25mm、幅17mm)に試験グリースを軸受空間の30%となるように封入して試験軸受とした。そして、試験軸受を、外輪温度200℃、ラジアル荷重98N、アキシアル荷重98N、内輪回転速度15000min−1にて連続回転させ、その間の外輪温度とモータ電流値(トルク)とを測定し、温度とモータ電流値の上昇を起こしたときに焼付き寿命とみなし、それまでの回転時間を求めた。試験は各3回行い、その平均値を求めた。結果は、比較例1の値に対する相対値で示してある。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、一般式(I)で表されるジウレア化合物を増ちょう剤に用いることにより耐熱性が向上し、転がり軸受に封入した際の焼付き寿命も大幅に延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
13 玉
G グリース組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤として下記一般式(I)で表されるジウレア化合物を含有することを特徴とするグリース組成物。
【化1】

(式中、R1,R3は含窒素五員環または含窒素六員環を表し、両者は同一であってもよく、異なっていてもよい。R2はトリレン基またはビトリレン基である。)
【請求項2】
基油がジアルキルジフェニルエーテル油、エステル油、ポリα−オレフィン油または鉱油であり、かつ、増ちょう剤量がグリース全量の3〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に保持するとともに、請求項1または2記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2009−185110(P2009−185110A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23580(P2008−23580)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】