説明

グルコシルグリセロールを含有する組成物

本発明は、20から80%w/wのグルコシルグリセロールおよび0.5から20%w/wの1種類以上の単糖類および/または二糖類を含有する組成物に関する。意外なことに、特に、高濃度でグルコシルグリセロールを含有する水溶液が並外れて長期の安定性をもたらすことが分かった。この組成物は殺菌効果および殺カビ効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコシルグリセロールに基づく組成物並びにこの組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコシルグリセロール、またはより詳しくは2−O−α−D−グルコシルグリセロールは、例えば、浸透圧保護目的のためにその性質を利用するシアノバクテリアにより合成される天然物質である。このように、シアノバクテリアは、1.5Mまでの濃度のNaClを含む塩性媒質中で成長できる。その分子は細胞質中に高濃度で蓄積し、このようにして、高塩濃度のためにそのような環境中に存在する浸透圧を減少させ、それゆえ、細胞を水の損失から保護する。ここでの例は、シアノバクテリアのシネコシスティス属の一種のPCC6803(Synechocystis sp. PCC6803)である。
【0003】
さらに、その分子はミロタムヌス科の植物からも産生される。これらの植物は湿潤から乾燥環境において生長する。ミロタムヌス・フラベリフォリアは、60cmの高さまで岩盤に生長する、アフリカ南部に見られる小さな灌木である。この植物は、アフリカ南部で起こる数ヶ月も続く乾燥した渇水期に、完全に無傷で生存する。しかしながら、雨が降るやいなや、この植物は再び数時間以内に急に生長し始め、それゆえ、この植物は、「復活の木」の別称でも知られている。2−O−α−D−グルコシルグリセロールの構造は以下のとおりである:
【化1】

【0004】
例えば、特許文献1には、化粧品または皮膚用製剤のためのグルコシルグリセロールなどのグルコシルグリセリドの使用が記載されている。この物質は、例えば、保湿剤として、すなわち、水分添加特性を有する物質として利用できる。これは別にして、グルコシルグリセロールは、食品への使用に関して生体分子および微生物の安定剤として、癌の治療のための薬剤として、または抗菌剤として、以前に記載されてきた。
【0005】
グルコシルグリセロールは、化学的および酵素的の両方で生成できる。純粋な形態での天然2−O−α−D−グルコシルグリセロールの合成は、立体化学の点で、化学的方法によって実際的には実行できない。何故ならば、この方法では些細な収量でしか得られないからである。微生物合成は実施できるかもしれないが、このようにして得られる収量は少ないことが分かった。α−グルコシダーゼによる糖転移反応を利用した酵素的合成には、そのプロセスの位置選択性が誤っているという重大な欠点がある。誤りの理由は、その酵素が、グリセロールの第二級ヒドロキシル基の代わりに、むしろ第一級のグルコシル化の方を選ぶからである。したがって、α−グルコシダーゼを使用した場合、生成物の混合物は30%しか正しい天然のグルコシルグリセロールを含有しないので、多大な労力と出費なくしてはその生成物を単離できない。
【0006】
特許文献2には、2−O−α−D−グルコシルグリセロールを生成するための特に好ましい方法が開示されている。この場合、スクロース・ホスホリラーゼが、グリコシル供与体およびグルコシル受容体としてのグリセロールを有するブレンドと反応させられる。グルコシル供与体がスクロースであることが好ましい。これ以外に、グルコース1−リン酸およびα−D−グルコース1−フルオライドを使用することができる。選択率と収率(>95%)は優れている。最初に、スクロース・ホスホリラーゼの存在下でのスクロースのグリセロールによる転化によって、グルコシル酵素中間体が形成され、フルクトースが遊離される。それに続き、グルコシル酵素中間体は、求核原子、この場合はグリセロールにより攻撃され、よって、所望の2−O−α−D−グルコシルグリセロールが生成され、その酵素は再び遊離される。副反応として、グルコシル酵素中間体の加水分解が行われ、グルコースが形成される。次いで、生成物の洗浄がクロマトグラフィーにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第19540749A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/034158A2号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、生成物がカラムクロマトグラフィーにより洗浄された後、ある量の糖類、特に、単糖類と二糖類のグルコース、フルクトースおよびスクロースがまだ生成物中に残留することが分かった。生成物中にまだ残っている糖類は、細菌または菌類のための栄養素として働き、それゆえ、グルコシルグリセロール組成物の有効期限が減少し得るという事実のために、このことは問題であることが判明した。他方で、防腐剤、殺菌剤または防カビ剤の添加は、化粧品または食品添加物としての生成物の用途を鑑みて、可能な範囲で避けるべきである。
【0009】
したがって、本発明の課題は、細菌の成長を増加させる傾向になく、それゆえ、より長い有効期限をもたらすグルコシルグリセロールに基づく組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この課題は、20から80%w/wのグルコシルグリセロールおよび0.5から20%w/wの1種類以上の単糖類および/または二糖類を含有する組成物を提供することによって達成される。この組成物は、水溶液の形態で提供されることが好ましい。
【0011】
意外なことに、20%w/wと80%w/wの間に及ぶ増加した濃度でグルコシルグリセロールを含有する組成物が、長期安定性をもたらし、細菌の成長の増加により影響を受けないことが分かった。単糖類および/または二糖類の存在にもかかわらず、細菌または菌類の成長は増加せず、これに対して、コロニー形成単位の数は、本発明により提供される組成物の結果として、著しく減少さえする。
【0012】
使用されるグルコシルグリセロールは、例えば、シネコシスティス属(Synechocystis)のシアノバクテリアにより蓄積される、天然に生じる2−O−α−D−グルコシルグリセロールであることが好ましい。しかしながら、基本的に、グルコースのグリセロール分子へのβ−グリコシド結合から、または1位でのグルコースのグリセロールへの結合から、匹敵する効果が予測できる。したがって、天然のグルコシルグリセロールに加え、D型およびL型の1−O−αグルコシルグリセロール、1−O−βグルコシルグリセロールおよび2−O−βグルコシルグリセロールを使用することも同様に考えられる。
【実施例】
【0013】
本発明の組成物の意外な殺菌効果は、調査に使用した様々な濃度の2−O−α−Dグルコシルグリセロール並びに5%w/wのグルコースの水溶液による大腸菌DSM 1576の生菌数の結果を示す以下の表から分かる。
【表1】

【0014】
上の表からはっきりと分かるように、高濃度のグルコシルグリセロールを使用すると、数日以内でコロニー形成単位の数が著しく減少するのに対し、対照溶液(5%w/wのグルコース)を使用した場合、細菌コロニーの数は最初に急激に増加する。それゆえ、明らかに、高濃度のグルコシルグリセロールには、高い殺菌効果がある。
【0015】
その上、かびのアスペルギルス・ニガーおよび酵母菌のカンジダ・アルビカンスに別の試験を同じように行った。この場合、50%w/wの2−D−α−D−グルコシルグリセロールおよび3.5%w/wのグルコースを含有する水溶液を使用した。
【表2】

【0016】
それゆえ、高濃度のグルコシルグリセロールは、殺菌性効果があるだけでなく、殺カビ性もあり、よって、本発明は、殺菌剤または防カビ剤としての濃縮グルコシルグリセロール組成物の使用にも関する。
【0017】
組成物中のグルコシルグリセロールは、30%w/wおよび70%w/wの間に及ぶ濃度で使用することが好ましく、40%w/wと60%w/wの間に及ぶ濃度がさらに好ましく、約50%w/wが特に好ましい。50%の溶液が、優れた長期安定性をもたらす。
【0018】
単糖類および/または二糖類の濃度は、典型的に1%w/wと10%w/wの間に及び、特に3%w/wと7%w/wの間に及ぶ。上述した合成の過程で、酵素転化の結果として得られるフルクトース、副生成物としてのグルコース並びに抽出物としてのスクロースが主に生成される。
【0019】
この水溶液は、pH値が5.5と6.0の間の透明、無色から薄黄色の液体である。先に挙げた物質以外に、さらに別の物質、特に、完全には転化されなかったグリセリンが存在してもよい。
【0020】
本発明による組成物は、スキンケア剤、例えば、お肌の保湿剤の成分として使用してもよい。この組成物は、糖尿病患者のための甘味料の成分、栄養補給食品として、またはタンパク質と脂質などの生体分子を安定化させるために、使用してもよい。
【0021】
関連する用途に適応するために、この組成物は、さらに別の物質、例えば、担体、香料、ソリュタイザー、ビタミン類、安定剤、消泡剤、増粘剤、着色料、界面活性剤、乳化剤または保湿物質などの化粧品補助物質を含有してもよい。基本的に、そのような性質の添加剤なく、実質的に長期の安定性が確保された場合でも、防腐剤および殺菌剤の添加が考えられる。
【0022】
本発明の組成物は、マイクロカプセルの形態で使用してもよい。液体のマイクロカプセル封入は、例えば、製薬学の分野における当業者に公知の方法である。本発明の方法を使用すると、経口投与を容易にでき、許容度を改善でき、必要であれば、放出を適切に遅らせることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20から80%w/wのグルコシルグリセロールおよび0.5から20%w/wの1種類以上の単糖類および/または二糖類を含有する組成物。
【請求項2】
前記組成物が水溶液であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記グルコシルグリセロールが2−O−α−Dグルコシルグリセロールであることを特徴とする請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記グルコシルグリセロールの濃度が30%w/wと70%w/wの間に及ぶことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記グルコシルグリセロールの濃度が40%w/wと60%w/wの間に及ぶことを特徴とする請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記単糖類および/または二糖類の濃度が1%w/wと10%w/wの間に及ぶことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記単糖類および/または二糖類がグルコース、フルクトースおよび/またはスクロースであることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載の組成物のスキンケア剤の成分としての使用。
【請求項9】
生体分子の安定化のための請求項1から7いずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項10】
請求項1から7いずれか1項記載の組成物の甘味料の成分としての使用。
【請求項11】
20%w/wと80%w/wの間のグルコシルグリセロールを含有する組成物の殺菌剤としての使用。
【請求項12】
20%w/wと80%w/wの間のグルコシルグリセロールを含有する組成物の防カビ剤としての使用。
【請求項13】
請求項1から7いずれか1項記載の組成物を含有するマイクロカプセル。

【公表番号】特表2012−506882(P2012−506882A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533601(P2011−533601)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007704
【国際公開番号】WO2010/049136
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(510126117)ビトップ アーゲー (4)
【氏名又は名称原語表記】bitop AG
【Fターム(参考)】