説明

ケイ素化合物

【課題】電気・電子材料においては、絶縁性、耐熱性、耐久性、成形性等の更なる改善が求められていて、そのためにかご型構造を有するシルセスキオキサンを主鎖とし、結合の位置が明確に限定され、成形性に優れた共重合体が望まれている。本発明は、従来の化合物を用いる場合には困難であった、主鎖にかご型構造を有するシルセスキオキサンを有する共重合体を提供することを目的とする。
【解決手段】式(1)で示される構成単位を有するケイ素化合物。式(1)において、mは1〜30の整数であり、Rはアリールまたはシクロアルキルであり、RおよびRは独立してアルキル、アリールまたはアリールアルキルであり、Rは−CHCH−、−CHCHCH−、−O−、エチルフェニルまたはフェニルエチルである。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキオキサン誘導体を用いて得られるケイ素化合物に関する。このケイ素化合物は、電子材料、光学材料、電子光学材料、塗料、プライマーなどに用いられる。「シルセスキオキサン」は、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している化合物を示す類名であるが、本発明において用いる「シルセスキオキサン骨格」は、シルセスキオキサン構造およびその一部が変形したシルセスキオキサン類似構造の総称である。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサン骨格を含むポリマーは、特異な構造を有するため様々な分野での用途が検討されている。これまで、テトラエトキシシランのようなアルコキシシランを用いたゾル−ゲル法によってシルセスキオキサン構造を有する重合体の合成が行われてきた。しかし、ゾル−ゲル法には、反応時間が長い、反応の制御が難しい、微細な空孔が残りやすいなどの課題が残されている。
【0003】
かご型構造を有するシルセスキオキサンまたはその誘導体を用いた重合体に関する研究が行われている。そしてこの重合体は、耐候性、耐熱性、物理的特性、光学的特性などに優れていると期待されている。例えば、Lichtenhan等は、シルセスキオキサンのかご型構造に欠損があるもの、いわゆる不完全なかご型構造(完全な8面体状ではなく、その1部が欠損した構造)のものをシロキサンで結合した共重合体の製造方法を開示している(特許文献1および2)。この製造方法は、多面体オリゴメリックシルセスキオキサン(polyhedral oligomeric Silsesquioxane)を、アミンなどを官能基とする二官能性のシラン、シロキサン、または有機金属化合物で架橋する方法である。Lichtenhan等は、不完全なかご型構造のシルセスキオキサンをシロキサン等で結合したものを主鎖とする共重合体の製造方法、およびかご型構造のシルセスキオキサンをペンダント共重合成分とし、メタクリル酸を共重合体主鎖成分とした共重合体の製造方法を開示している(非特許文献1)。更に、非特許文献2にてシルセスキオキサンの不完全なかご型構造の隅に位置するSiに結合するOHと、ビス(ジメチルアミノ)シラン等とを反応させたシルセスキオキサン−シロキサン共重合体の製造方法を開示している(非特許文献2)。
【0004】
一方、完全なかご型構造のシルセスキオキサンとビニル基含有化合物とを反応させる共重合体の製造方法が開示されている(Lichtenhan等、特許文献3)。田中等は水素化オクタシルセスキオキサンとフェニルエチルベンゼンをヒドロシリル化重合させて共重合体が得られることを報告している(非特許文献3)。Laine等は、かご型構造の複数の隅にビニル基を結合させた完全なかご型のシルセスキオキサン化合物と、水素化した完全なかご型のシルセスキオキサン化合物をヒドロシリル化重合させると、ゲル状の共重合体が得られることを報告している(非特許文献4)。Zank等は、かご型構造を有する水素化オクタシルセスキオキサンと水酸基含有化合物またはビニル基含有化合物とを反応させて、有機溶剤可溶性の水素化オクタシルセスキオキサンを有する共重合体を得る製造法を開示している(特許文献4および5)。これらはいずれも、完全なかご型構造を有するシルセスキオキサンが主鎖にグラフトした構造であるか、架橋点となるかのどちらかである。かご型構造を有するシルセスキオキサンをポリマー鎖にグラフトさせた場合、シルセスキオキサンは局所的な分子運動を抑制するためポリマーへの改質効果を示すが、ポリマー鎖構造の変化には寄与しない、一方、シルセスキオキサンが架橋点となった場合、ゲル状の共重合体となり成形性に劣る。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,412,053号明細書
【特許文献2】米国特許第5,589,562号明細書
【特許文献3】米国特許第5,484,867号明細書
【特許文献4】特開2002−069191
【特許文献5】特開2000−265065
【非特許文献1】Comments Inorg. Chem., 1995, 17, 115-130
【非特許文献2】Macromolecules, 1993, 26, 2141-2142
【非特許文献3】Chem.,Lett., 1998, 763-764
【非特許文献4】J. Am.Chem.Soc, 1998, 120, 8380-8391
【非特許文献5】Polymer Preprints, Japan, Vol.50, No.12(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気・電子材料においては、特に、絶縁性、耐熱性、耐久性、成形性等の更なる改善が求められている。しかしながら、従来のシルセスキオキサン共重合体ではこれらの特性を満たすことはできない。そのために、優れた耐熱性、耐候性、電気絶縁性、硬度、力学的強度、耐薬品性等をもつかご型構造を有するシルセスキオキサンを主鎖とし、結合の位置が明確に限定され、成形性に優れた共重合体が望まれている。しかしながら、主鎖にかご型構造を有するシルセスキオキサンを有する共重合体は、従来の化合物を用いる場合には困難であった。非特許文献5には主鎖型ポリマーとして用いることのできる化合物が開示されているが、T8構造のシルセスキオキサン骨格を主鎖に導入した共重合体の開示例は1つのみであり、成形体として使用できる可能性も不明であり、知られている特性も限られていた。従って、依然として具体的な用途は十分明らかではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明で用いる用語は、次のように定義される。アルキルおよびアルキレンは、どちらも直鎖の基であってもよく、分岐された基であってもよい。このことは、これらの基において任意の水素がハロゲンや環式の基などと置き換えられた場合も、任意の−CH−が−O−、−CH=CH−、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、フェニレンなどで置き換えられた場合も同様である。本発明で用いる「任意の」は、位置のみならず個数も任意であることを示す。複数の基が別の基で置き換えられるときには、それぞれの基が異なる別の基で置き換えられてもよい。例えば、アルキルにおいて任意の−CH−が−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよい場合には、アルコキシアルケニルまたはアルケニルオキシアルキルであってもよいことを示す。そして、これらの基におけるアルコキシ、アルケニレン、アルケニルおよびアルキレンのいずれの基も、直鎖の基であってもよく、分岐された基であってもよい。但し、本発明において、任意の−CH−が−O−で置き換えられてもよいと記述するときには、連続する複数の−CH−が−O−で置き換えられることはない。
【0008】
T8D2構造またはその類似構造を有するシルセスキオキサン骨格を主鎖に導入することにより、任意に分子量等を制御でき、求められる物性に調整することが可能となる。Siに3個の酸素が結合している構造をT構造とし、Siに2個の酸素が結合している構造をD構造とするとき、T8D2構造は8つのT構造と2つのD構造とが組み合わされている構造を意味する。注釈なしで用いられるフェニルおよびナフチルはそれぞれ非置換の基を示す。
【0009】
本発明者等は、下記の式(1)で示される構成単位を有するケイ素化合物を新規に合成し、これを用いて無色透明なコーティング膜を形成できること、加熱溶融により成形体を形成できることを知った。即ち、上記の課題は下記の構成からなる本発明によって解決される。
[1]式(1)で示される構成単位を有するケイ素化合物。


ここに、mは1〜30の整数であり;Rは任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、またはシクロアルキルであり;RおよびRは独立して炭素数1〜40のアルキル、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールアルキルであり;炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよく;アリールまたはアリールアルキルの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;アリールアルキルのアルキレンにおいて、その炭素数は1〜10であり、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−、−CH=CH−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよく;Rは−CHCH−、−CHCHCH−、−O−または下記の基のいずれかである:


ここに、これらの基の左側の遊離基がシルセスキオキサン骨格のSi原子に結合する。
【0010】
[2]Rのすべてがフェニル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルから選択される同一の基であり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルである、[1]項に記載のケイ素化合物。
【0011】
[3]Rのすべてがフェニルであり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルである、[1]項に記載のケイ素化合物。
【0012】
[4]mが1〜10の整数であり、構成単位の繰り返し数が1以上である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【0013】
[5]mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜100である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【0014】
[6]mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜20である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【0015】
[7]Rが−O−である、[1]項に記載のケイ素化合物。
【0016】
[8]Rのすべてがフェニル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルから選択される同一の基であり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルであり、そしてRが−O−である、[1]項に記載のケイ素化合物。
【0017】
[9]Rのすべてがフェニルであり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルであり、そしてRが−O−である、[1]項に記載のケイ素化合物。
【0018】
[10][1]項に記載の式(1)において、mが1〜10の整数であり、構成単位の繰り返し数が1以上である、[7]〜[9]のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【0019】
[11][1]項に記載の式(1)において、mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜100である、[7]〜[9]のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【0020】
[12][1]項に記載の式(1)において、mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜20である、[7]〜[9]のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、T8D2構造またはその類似構造を有するPSQ骨格を主鎖に含み、熱可塑性を有する重合体が提供される。本発明の重合体は、透明性、皮膜形成性などに優れていて、フィルム、シートおよび成形体として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下の説明においては、式(1)で示される構成単位を有するケイ素化合物を化合物(1)と表記することがある。式(2)で示される化合物を化合物(2)と表記することがある。他の式で示される化合物についても、同様の方法で簡略化して表記することがある。「シルセスキオキサン」を記号「PSQ」で表記することがある。従って、「シルセスキオキサン誘導体」は「PSQ誘導体」と表記される。そして、化合物(1)はPSQ誘導体であり、更には主鎖にPSQ骨格を有する重合体である。以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0023】
式(1)におけるRは、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、またはシクロアルキルである。ハロゲンの好ましい例は、フッ素、塩素および臭素である。炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよい。Rの好ましい例は、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜8のアルキルで置き換えられてもよいフェニル、非置換のナフチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。このとき、フェニルの置換基である炭素数1〜8のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−またはフェニレンで置き換えられてもよい。Rのより好ましい例は、フェニル、アルキルフェニル、アルキルオキシフェニル、フェニルを含む置換基を有するフェニル、ナフチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。このとき、フェニル、アルキルフェニル、アルキルオキシフェニルおよびフェニルを含む置換基を有するフェニルにおいては、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい。そして、Rの更に好ましい例は、フェニル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。
【0024】
ハロゲン化フェニルの例は、ペンタフルオロフェニル、4−クロロフェニルおよび4−ブロモフェニルである。アルキルフェニルの例は、4−メチルフェニル、4−エチルフェニル、4−プロピルフェニル、4−ブチルフェニル、4−ペンチルフェニル、4−ヘプチルフェニル、4−オクチルフェニル、4−ノニルフェニル、4−デシルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、2,4,6−トリエチルフェニル、4−(1−メチルエチル)フェニル、4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル、4−(2−エチルヘキシル)フェニルおよび2,4,6−トリス(1−メチルエチル)フェニルである。アルキルオキシフェニルの例は、4−メトキシフェニル、4−エトキシフェニル、4−プロポキシフェニル、4−ブトキシフェニル、4−ペンチルオキシフェニル、4−ヘプチルオキシフェニル、4−デシルオキシフェニル、4−オクタデシルオキシフェニル、4−(1−メチルエトキシ)フェニル、4−(2−メチルプロポキシ)フェニル、4−(1,1−ジメチルエトキシ)フェニルなどである。フェニルを含む置換基を有するフェニルの例は、4−フェニルオキシフェニル、3−フェニルメチルフェニル、ビフェニルおよびターフェニルである。
【0025】
ベンゼン環の水素の一部がハロゲンで置き換えられ、さらに他の水素がアルキルまたはアルキルオキシで置き換えられたフェニルの例は、3−クロロ−4−メチルフェニル、2,5−ジクロロ−4−メチルフェニル、3,5−ジクロロ−4−メチルフェニル、2,3,5−トリクロロ−4−メチルフェニル、2,3,6−トリクロロ−4−メチルフェニル、3−ブロモ−4−メチルフェニル、2,5−ジブロモ−4−メチルフェニル、3,5−ジブロモ−4−メチルフェニル、2,3−ジフルオロ−4−メチルフェニル、3−クロロ−4−メトキシフェニル、3−ブロモ−4−メトキシフェニル、3,5−ジブロモ−4−メトキシフェニル、2,3−ジフルオロ−4−メトキシフェニル、2,3−ジフルオロ−4−エトキシフェニルおよび2,3−ジフルオロ−4−プロポキシフェニルである。
【0026】
またはRがアルキルであるとき、その炭素数は1〜40である。好ましい炭素数は1〜20である。より好ましい炭素数は1〜8である。そして、その任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよい。アルキルの好ましい例は、炭素数1〜20の非置換のアルキル、炭素数2〜20のアルコキシアルキル、炭素数1〜8のアルキルにおいて1個の−CH−がシクロアルキレンで置き換えられた基、およびここに列挙したそれぞれの基において任意の水素がフッ素で置き換えられた基である。シクロアルキレンの好ましい炭素数は3〜8であり、5または6がより好ましい。そして、このシクロアルキレンにおいては、隣り合わない2つの炭素原子が架橋されてもよい。
【0027】
炭素数1〜20の非置換のアルキルの例は、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、1,1,2−トリメチルプロピル、ヘプチル、オクチル、2,4,4−トリメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシルおよびエイコシルである。炭素数1〜20のフッ素化アルキルの例は、3,3,3−トリフルオロプロピル、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナデカフルオロヘキシル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル、パーフルオロ−1H,1H,2H,2H−ドデシルおよびパーフルオロ−1H,1H,2H,2H−テトラデシルである。炭素数2〜20のアルコキシアルキルの例は、3−メトキシプロピル、メトキシエトキシウンデシルおよび3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピルである。炭素数1〜8のアルキルにおいて1個の−CH−がシクロアルキレンで置き換えられた基の例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、アダマンタンエチル、2−ビシクロヘプチルおよびシクロオクチルである。シクロヘキシルは、メチルの−CH−がシクロへキシレンで置き換えられた例である。シクロヘキシルメチルは、エチルの−CH−がシクロへキシレンで置き換えられた例である。
【0028】
またはRが任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールであるとき、その好ましい例はRの好ましい例と同じである。RまたはRは、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールと炭素数1〜10のアルキレンとで構成されるアリールアルキルであってもよい。アリールの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよい。アルキレンにおいては、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−、−CH=CH−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよい。このようなアリールアルキルの好ましい例は、フェニルと炭素数1〜4のアルキレンとで構成されるフェニルアルキルである。このとき、フェニルの任意の水素はメチル、メトキシまたはフッ素で置き換えられてもよく、アルキレンにおけるフェニルに結合する−CH−は−O−で置き換えられてもよい。
【0029】
またはRのより好ましい例は、フェニル、ハロゲン化フェニル、少なくとも1つのメチルを有するフェニル、メトキシフェニル、ナフチル、フェニルメチル、フェニルエチル、フェニルブチル、2−フェニルプロピル、1−メチル−2−フェニルエチル、ペンタフルオロフェニルプロピル、4−エチルフェニルエチル、3−エチルフェニルエチル、4−(1,1−ジメチルエチル)フェニルエチル、4−メトキシフェニルプロピル、フェノキシプロピル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。そして、RまたはRの更に好ましい例は、フェニル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。
である。
【0030】
式(1)におけるmは1〜30の整数である。好ましいmは1〜10であり、より好ましいmは1〜3である。最も好ましいmは1である。そして、本発明のケイ素化合物における式(1)で示される構成単位の繰り返し数は1以上である。好ましい繰り返し数は2〜100であり、より好ましい繰り返し数は2〜20である。
式(1)における好ましいRは、本発明のケイ素化合物の主鎖が全てSiおよびOから構成されることから、−O−である。
【0031】
化合物(1)は、化合物(2)と化合物(3)とを反応させることにより得ることができる。


ここに、RおよびRは式(1)におけるRおよびRとそれぞれ同様に定義される基であり;Xは水素、−CH=CH、−CHCH=CH、スチリルまたは−OHである。


ここに、Rおよびmは式(1)におけるRおよびmとそれぞれ同様に定義される基であり;Zは、Xが水素であるとき−CH=CH、−CHCH=CHまたはスチリルであり、Xが−CH=CH、−CHCH=CHまたはスチリルであるとき水素であり、そしてXが−OHであるとき塩素である。
【0032】
本発明で用いる化合物(2)は、例えば、化合物(4)と化合物(5)とを反応させることにより得ることができる。




これらの式におけるR、RおよびXは、式(2)におけるそれぞれの記号と同じ意味を有する。なお、Xが−OHである化合物(2)は、Xが水素である化合物(2)を加水分解することによって得ることができる。
【0033】
化合物(5)の代わりに化合物(6)を用いても化合物(2)を合成することができる。但し、このときは架橋反応によるオリゴマー化が起きないように注意が必要である。そして、Xが塩素である化合物(2)が得られるので、Zが−OHである化合物(3)を入手できない場合には、これを加水分解して−OHに変える必要がある。


【0034】
そして、化合物(4)は、例えば、式(7)で表される化合物を1価のアルカリ金属水酸化物および水の存在下、有機溶剤の存在下もしくは不存在下で加水分解、縮重合することにより製造することができる。1価のアルカリ金属水酸化物の例は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムである。これらのうち、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。1価のアルカリ金属水酸化物の使用量は、前記のシラン化合物に対するモル比で、0.3〜1.5である。より好ましいモル比は0.4〜0.8である。そして、添加する水の量は、シラン化合物に対するモル比で1.0〜1.5である。より好ましいモル比は1.1〜1.3である。有機溶剤の好ましい例は直鎖状、分岐状または環状の1価のアルコールである。アルコールは縮合過程での構造制御に寄与すると推定される。


【0035】
反応に用いる溶剤は、反応の進行を阻害しないものであれば特に制限されない。好ましい溶剤の例は、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤、および酢酸エチルなどのエステル系溶剤である。これらの溶剤は単独で使用しても、その複数を組み合わせて使用してもよい。これらの溶剤の中でも、芳香族炭化水素系溶剤、その中でもトルエンが最も好ましい。溶剤は必ずしも必要ではないが、使用する場合には、溶剤に対する原料の好ましい割合は、溶剤の重量に基づいて0.05〜80重量%である。より好ましい割合は30〜70重量%である。割合は目的によって異なる。ヒドロシリル化反応を用いる場合はヒドロシリル化反応が阻害されることなく進行すれば、原料の重量と得られる反応生成物の重量とにほとんど差がない。従って、この割合は溶剤に対する反応生成物の重量%と同じである。
【0036】
反応は室温で実施してもよい。反応を促進させるために加熱してもよい。反応による発熱または好ましくない反応を制御するために冷却してもよい。必要に応じて触媒を用いることができる。ヒドロシリル化反応では、ヒドロシリル化触媒を添加することによって、反応をより容易に進行させることができる。好ましいヒドロシリル化触媒の例は、カルステッド(Karstedt)触媒、スパイヤー(Spier)触媒、ヘキサクロロプラチニック酸などであり、これらは一般的によく知られた触媒である。これらのヒドロシリル化触媒は、反応性が高いので少量添加すれば十分反応を進めることができる。その使用量は、触媒に含まれる遷移金属のヒドロシリル基に対する割合で、10−9〜1モル%である。好ましい添加割合は10−7〜10−3モル%である。10−9モル%は、重合を進行させることができ、容認できる時間内で終了させるために必要な添加割合の下限である。製造コストを低く抑えることを考慮すれば、この割合の好ましい上限は1モル%である。
【0037】
かご型構造の骨格を主鎖に導入することによって得られる本発明の重合体は、主鎖の動きが制限されること等により剛直性が付与され、耐熱性や物理的強度が高くなると予測される。その構造の特異性から高い光学透過性が期待できる。本発明の重合体は、溶解性、耐熱性、機械強度、光学透過性、ガス透過性、誘電率、難燃性、接着性、加工性等の優れた効果を期待できるので、幅広い用途に利用できる。電気・電子材料としての用途の例は、金属溶出防止膜、ガスバリア膜、反射防止膜等の基板用コーティング剤、液状封止剤、層間絶縁膜等の半導体用コーティング剤、マイクロレンズ、導光板、光導波路材料等の光学素子、ディスプレイ基板およびプリント配線用基板等である。必要に応じ、初期の性状を損なわない範囲で、重合体への他の成分、例えば、酸化防止剤、着色剤、充填剤等をブレンドして使用してもよい。
【0038】
実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されない。なお、実施例における化学式において、Meはメチルであり、Phはフェニルである。
【実施例1】
【0039】
化合物(8)(1.8g)と化合物(9)(0.2g)をトルエン(10ml)に溶解した。この溶液を70℃まで加熱した後、カルステッド触媒(1μl)を添加して同温度で3時間攪拌した。得られた反応液における重合体の分子量をGPCにより測定したところ、数平均分子量(Mn)=17,100、重量平均分子量(Mw)=103,500であった。この反応液をガラス板上に滴下し、トルエンを蒸発させて、ガラス面に接着した平滑で透明な皮膜を得た。反応液からトルエンを蒸発させ得られた白色粉末のうち0.3gを直径5mmのチューブ中に入れ80℃に加熱し、30分間保持したのち5,000rpmで15分間回転させることによりチューブ状の成型体を得た。




分子量の測定条件は次のとおりである。
装置:日本分光株式会社製、JASCO GULLIVER 1500 (インテリジェント示差屈折率計 RI-1530)
カラム:東ソー製カラムG4000HXL、G3000HXL、G2500HXLおよびG2000HXLの4本を、この順序に接続して使用した。
カラム温度:40℃
展開溶剤:THF
流量:1.0ml/min
標準物質:分子量既知のポリスチレン.
【実施例2】
【0040】
式(10)で示される化合物(0.6g)を脱水トルエン(20ml)に溶解し、トリエチルアミン(0.42ml)を加えたのちに30分氷浴し冷却した。この溶液に1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン(0.10ml)を加え室温で1日撹拌したのち、さらに1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン(0.10ml)を加え、室温で7日間撹拌した。こののち、沈殿物をろ過により除き、得られたろ液を水層が中性になるまで水洗した。水洗したろ液にMgSOを加えて水分を除去したのち、有機層を濃縮した。得られた濃縮物をヘキサンを用いて洗浄したのち、沈殿物を乾燥し、0.26gのロウ状物質を得た。さらにヘキサンを用いて洗浄と再沈殿を行い0.16gのロウ状物質を得た。得られたロウ状物質の分子量を測定したところ、Mn=21,000、Mw=210,000であった。


分子量の測定は下記の条件で行った。
装置:Waters 996 Potodiod Detecter Array
カラム:Shodex KF806M 300X8.0mm
移動相:THF
流速:1.0ml/min
温度:35℃
分子量標準サンプル:分子量既知のポリスチレン
【実施例3】
【0041】
式(11)で示される化合物(1.31g)を脱水トルエン(30ml)に溶解し、トリエチルアミン(0.42ml)および1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン(0.20ml)を加えて室温で1日撹拌した。このちさらに1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン(0.10ml)を加え、室温で1日撹拌した。この後、沈殿物をろ過により除いたのち、得られたろ液を水層が中性になるまで水洗した。水洗したろ液にMgSOを加えて水分を除去した後、有機層を乾燥して白色固体0.854gを得た。この白色固体をヘキサンで洗浄した後乾燥させ、0.805gの白色固体を得、さらに再沈殿を行うことにより目的物の白色固体0.14gを得た。得られた白色固体の分子量を測定したところMn=4,200,Mw=8,000であった。分子量の測定は実施例2と同じ条件で行った。


【実施例4】
【0042】
表1に示した化合物(2)と化合物(3)を用いて、実施例2または3と同様の方法により化合物(1)を合成し、それぞれの分子量と転移温度を測定した。結果は表1に示すとおりであった。
<表1>

No.4−1〜No.4−3で用いた化合物(2)は、実施例2に記載の化合物(10)であり、No.4−4で用いた化合物(2)は、実施例3に記載の化合物(11)である。これらの化合物(1)をそれぞれのTg以上に加熱したのち、ガラス板の間で圧延して冷却することにより、無色・透明なフィルムを得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される構成単位を有するケイ素化合物。


ここに、mは1〜30の整数であり;Rは任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、またはシクロアルキルであり;RおよびRは独立して炭素数1〜40のアルキル、任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールアルキルであり;炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよく;アリールまたはアリールアルキルの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;アリールアルキルのアルキレンにおいて、その炭素数は1〜10であり、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH−は−O−、−CH=CH−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよく;Rは−CHCH−、−CHCHCH−、−O−または下記の基のいずれかである:


ここに、これらの基の左側の遊離基がシルセスキオキサン骨格のSi原子に結合する。
【請求項2】
のすべてがフェニル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルから選択される同一の基であり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルである、請求項1に記載のケイ素化合物。
【請求項3】
のすべてがフェニルであり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルである、請求項1に記載のケイ素化合物。
【請求項4】
mが1〜10の整数であり、構成単位の繰り返し数が1以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【請求項5】
mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜100である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【請求項6】
mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜20である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【請求項7】
が−O−である、請求項1に記載のケイ素化合物。
【請求項8】
のすべてがフェニル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルから選択される同一の基であり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルであり、そしてRが−O−である、請求項1に記載のケイ素化合物。
【請求項9】
のすべてがフェニルであり、RおよびRが独立してフェニルまたはメチルであり、そしてRが−O−である、請求項1に記載のケイ素化合物。
【請求項10】
請求項1に記載の式(1)において、mが1〜10の整数であり、構成単位の繰り返し数が1以上である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【請求項11】
請求項1に記載の式(1)において、mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜100である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のケイ素化合物。
【請求項12】
請求項1に記載の式(1)において、mが1〜3の整数であり、構成単位の繰り返し数が2〜20である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のケイ素化合物。

【公開番号】特開2006−22207(P2006−22207A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201561(P2004−201561)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】