ケラタン硫酸オリゴ糖画分及びそれを含む薬剤
【課題】 不純物が実質的に混在しないケラタン硫酸オリゴ糖を医薬組成物、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、細胞の分化誘導剤又はアポトーシス誘導剤として利用することを課題とする。
【解決手段】 ケラタン硫酸オリゴ糖からなるケラタン硫酸オリゴ糖画分であって、前記ケラタン硫酸オリゴ糖が、式(I)で表わされる四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、式(II)で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、式(III)で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖から選ばれることを特徴とするケラタン硫酸オリゴ糖画分。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【解決手段】 ケラタン硫酸オリゴ糖からなるケラタン硫酸オリゴ糖画分であって、前記ケラタン硫酸オリゴ糖が、式(I)で表わされる四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、式(II)で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、式(III)で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖から選ばれることを特徴とするケラタン硫酸オリゴ糖画分。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、細胞の分化誘導剤、アポトーシス誘導剤及びこれらの薬剤の有効成分として有用なケラタン硫酸オリゴ糖に関する。
【背景技術】
【0002】
ケラタン硫酸は、N−アセチルグルコサミン残基の6位がO−硫酸化されたN−アセチルラクトサミンを基本構造とするグリコサミノグリカンである。特に、構成二糖単位中のN−アセチルグルコサミン残基の6位以外の水酸基がさらに硫酸化された高硫酸化ケラタン硫酸は、サメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシなどの哺乳動物の軟骨、骨や角膜に存在することが知られている。その分解物であるケラタン硫酸オリゴ糖を生成する方法として、ケラタン硫酸に、バチルス属細菌由来のケラタン硫酸分解酵素(特許文献1参照)を用いた報告がある。
【0003】
また、ウシ軟骨由来のケラタン硫酸をケラタナーゼIIで分解後、分画して得られた25種のオリゴ糖画分について分析し、下記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(以下、「ケラタン硫酸四糖(I)」ともいう」)、下記(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖(以下、「ケラタン硫酸五糖(II)」ともいう)、下記(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(以下、「ケラタン硫酸二糖(III)」ともいう)等の構造を推定した報告もある(非特許文献1参照)。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【0004】
しかしながら、現在までに不純物(例えばエンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、ケラタン硫酸オリゴ糖以外の他のグリコサミノグリカン類等)を除いた純粋なケラタン硫酸オリゴ糖、特にケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)を効率良く大量に調製した報告はない。特に、このような不純物の混在は、ケラタン硫酸オリゴ糖を医薬品として利用する場合に致命的な欠点になるおそれがある。更に、このケラタン硫酸オリゴの糖薬理作用(特に、抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫調節作用、細胞の分化導作用、アポトーシス誘導作用)については全く知られていない。
【特許文献1】特開平2−57182号公報
【非特許文献1】Biochemistry, 33, 4836-4846 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記観点からなされたものであり、不純物が実質的に混在しないケラタン硫酸オリゴ糖を抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、細胞の分化誘導剤(以下、「分化誘導剤」という)又はアポトーシス誘導剤として利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、高硫酸化ケラタン硫酸をケラタン硫酸分解酵素で分解し、その分解産物の中から二〜五糖単位のオリゴ糖、特に二糖、四糖及び五糖単位のオリゴ糖を調製し、その薬理作用について鋭意研究を重ねた結果、これらのオリゴ
糖及びその塩が優れた抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫調節作用、細胞の分化誘導作用、アポトーシス誘導作用を示すことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤又はアポトーシス誘導剤(以下、これら薬剤を総称して「本発明の薬剤」ということがある)は、ケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する。本明細書中において「ケラタン硫酸オリゴ糖」とは、ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素で分解して得られうるケラタン硫酸の分解生成物を意味する。
【0008】
本発明の薬剤に用いるケラタン硫酸オリゴ糖としては、シアル酸及び/又はフコースを含みうる硫酸化されたN−アセチルラクトサミン単位を有するケラタン硫酸オリゴ糖、硫酸化されたN−アセチルグルコサミンを還元末端に有する二〜五糖単位のオリゴ糖であって、1分子中の少なくとも2個所の水酸基が硫酸化されたケラタン硫酸オリゴ糖、特に、少なくともGal(6S)-GlcNAc(6S)(ただし、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。)で表される二糖を構成成分として含む上記ケラタン硫酸オリゴ糖が例示される。さらに、前記ケラタン硫酸オリゴ糖として、下記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖等が好適な例として挙げられる。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【0009】
本発明はまた、硫酸化されたN−アセチルグルコサミンを還元末端に有する二〜五糖単位のオリゴ糖であって、1分子中の少なくとも2個所の水酸基が硫酸化されたケラタン硫酸オリゴ糖を99%以上含有し、下記の特性を有するケラタン硫酸オリゴ糖画分を提供する。
(a)エンドトキシンを実質的に含まず、また核酸、蛋白質、プロテアーゼの含有量は検出限界以下である。
(b)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない。
【0010】
本発明はまた、少なくともGal(6S)-GlcNAc(6S)で表される二糖を構成成分として含むケラタン硫酸オリゴ糖を99%以上含有し、かつ上記(a)および(b)の特性を有するケラタン硫酸オリゴ糖画分を提供する。また、前記オリゴ糖画分に含有されるケラタン硫酸オリゴ糖として、上記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖等が好適な例として挙げられる。さらに、これらのケラタン硫酸オリゴ糖としては、軟骨魚類由来の高硫酸化ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニターゼ型ケラタン硫酸分解酵素で分解後、分画して得られるケラタン硫酸オリゴ糖が挙げられる。
【0011】
本発明はさらに、ケラタン硫酸を、下記の理化学的性質:
(1)作用:
ケラタン硫酸に作用し、そのN−アセチルグルコサミニド結合を加水分解する;
(2)基質特異性:
ケラタン硫酸I、ケラタン硫酸II及びケラタンポリ硫酸に作用し、主な分解物として硫酸化ケラタン硫酸二糖及び硫酸化ケラタン硫酸四糖を生じる;、好ましくはさらに下記の理化学的性質:
(3)至適反応pH:
4.5〜6(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃);
(4)pH安定性:
6〜7(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃、1時間放置);
(5)至適反応温度:
50〜60℃(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、10分反応);
(6)熱安定性:
少なくとも45℃以下で安定(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、1時間放置)、
を有するケラタン硫酸分解酵素によって分解するステップと、この分解生成物から下記性質を有するケラタン硫酸オリゴ糖を分画するステップとを含む、ケラタン硫酸オリゴ糖画分の製造法を提供する。
(A)硫酸化N−アセチルラクトサミンを基本骨格とするケラタン硫酸オリゴ糖を主成分とする;
(B)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸、蛋白質及びプロテアーゼの含有量は微量もしくは検出限界以下である;
(C)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない。
【0012】
また、上記ケラタン硫酸オリゴ糖画分の製造方法において、例えば、原料のケラタン硫酸として高硫酸化ケラタン硫酸を用いると、上記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミンニ糖等を含むケラタン硫酸オリゴ糖、特に(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖及び(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖を主成分とするケラタン硫酸オリゴ糖が得られる。
【0013】
なお、本発明において好ましい二〜五糖単位のケラタン硫酸オリゴ糖は、通常2〜4カ所が硫酸化されているものである。また、本発明において用いることができるシアル酸を含むケラタン硫酸オリゴ糖において、シアル酸としては、N−アセチルノイラミン酸及びN−グリコリルノイラミン酸を挙げることができるが、好ましいのはN−アセチルノイラミン酸である。また、シアル酸がα2,3結合又はα2,6結合したものの何れをも用いることができるが、好ましいのはα2,3結合したものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<1>本発明に用いるケラタン硫酸オリゴ糖およびケラタン硫酸オリゴ糖画分
本発明に用いるケラタン硫酸オリゴ糖の原料となるケラタン硫酸は、主としてガラクトース又はガラクトース−6−硫酸とN−アセチルグルコサミン−6−硫酸との二糖の繰り返し構造で構成され、動物種及び器官などによって硫酸含有量が異なっているが、通常はサメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシなどの哺乳動物の軟骨、骨や角膜等の生原料から製造される。
【0015】
原料として使用されるケラタン硫酸は、通常入手できるものであればよく、特に限定されないが、構成糖であるガラクトース残基が硫酸化された高硫酸化ケラタン硫酸(構成二糖当たり1.5〜2分子の硫酸基を含む高硫酸化ケラタン硫酸をケラタンポリ硫酸ということもある)を用いることが好ましい。また、ガラクトース残基の硫酸基の位置としては、6位が好ましい。このような高硫酸化ケラタン硫酸は、例えば、サメ等の軟骨魚類の軟
骨のプロテオグリカンから取得できる。また、市販されているものを使用することもできる。
【0016】
本発明のケラタン硫酸オリゴ糖は、ケラタン硫酸、好ましくは高硫酸化ケラタン硫酸の緩衝溶液にエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素、例えばバチルス属細菌由来のケラタナーゼII(引用文献1)、または本発明者らがバチルス属に属する細菌から新たに見出した新規ケラタン硫酸分解酵素を作用させて分解した後、得られた分解物を分画することにより得られる。この分解反応は、例えばケラタン硫酸濃度1.0〜100mg/mlで、pH6.0〜7.0に調整された緩衝溶液を温度25〜40℃で1〜72時間反応させて行われる。この場合、緩衝液の濃度は、通常0.01〜0.2Mである。緩衝液としては、上記pH範囲に調整できるものであれば、種類は特に制限されず、例えば酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液が挙げられる。また、分解反応に使用される酵素の量は、ケラタン硫酸1gに対し0.1から1.0ユニットが例示できる。ここで、1ユニットとは、1分間に1μmolのN−アセチルグルコサミンに相当する還元末端を生成する酵素量である。
【0017】
上記の新規ケラタン硫酸分解酵素は、バチルス・サーキュランス、例えば本発明者らによって分離されたバチルス・サーキュランスKsT202株が産生する酵素であり、熱安定性に優れたケラタン硫酸分解酵素である。この酵素は、バチルス・サーキュランスKsT202株を好適な培地で培養し、この培地又は/及び細菌菌体から、通常の酵素の精製法に準じて精製することにより得られる。バチルス・サーキュランスKsT202株は、平成6年9月5日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に微生物受託番号FERM P−14516として寄託され、平成7年11月6日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、FERM BP−5285の受託番号で寄託されている。
【0018】
また、上記新規ケラタン硫酸分解酵素の理化学的性質を以下に示す。
(1)作用:
ケラタン硫酸に作用し、そのN−アセチルグルコサミニド結合を加水分解する。
(2)基質特異性:
ケラタン硫酸I、ケラタン硫酸II及びケラタンポリ硫酸に作用し、主な分解物として硫酸化ケラタン硫酸二糖及び硫酸化ケラタン硫酸四糖を生じる。また、硫酸化ケラタン硫酸五糖も生じることが確認されている。
(3)至適反応pH:
4.5〜6(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃)
(4)pH安定性:
6〜7(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃、1時間放置)
(5)至適反応温度:
50〜60℃(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、10分反応)
(6)熱安定性:
少なくとも45℃以下で安定(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、1時間放置)
本発明のケラタン硫酸オリゴ糖画分を製造する際には、この様な新規ケラタン硫酸分解酵素や上記ケラタナーゼIIなどのケラタン硫酸分解酵素を、更に、常法により固定化した固定化酵素を用いて反応を行わせることもできる。
上記のような酵素による分解反応によって、ケラタン硫酸はオリゴ糖に分解される。
【0019】
次に、こうして得られたオリゴ糖は、通常の分離精製方法、例えば、エタノール沈澱や各種クロマトグラフィーによって精製され、目的のケラタン硫酸オリゴ糖を分離精製することができる。この精製方法を例えば二糖、四糖及び五糖のケラタン硫酸オリゴ糖の場合について更に詳しく説明すると、通常、前記分解生成物を初めエタノール沈澱によって濃
縮し、次いでゲル濾過(分画分子量範囲100〜10,000)により、ほぼ二糖、四糖、五糖近辺のケラタン硫酸オリゴ糖にそれぞれ粗分画する。更に、この粗画分を陰イオン交換クロマトグラフィーによって、エンドトキシンを実質的に含まず、また、核酸、蛋白質、プロテアーゼの含有量は検出限界以下であり、さらにヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない、すなわち実質的に純粋な二糖、四糖および五糖に分離、分画する。本発明において「実質的に含まない」とは、鋭敏な検出法によって検出はされるが、ケラタン硫酸オリゴ糖の薬理作用(抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫調節作用、細胞の分化誘導作用、アポトーシス誘導作用等)に影響を及ぼさない程度の含量であることをいう。
また、本発明のケラタン硫酸オリゴ糖は、ケラタン硫酸を原料とし、これをエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼによって分解し、二〜五糖単位のオリゴ糖画分を分画したものであり、原料であるケラタン硫酸を実質的に含まない。
【0020】
尚、ケラタン硫酸を構成するガラクトース又はガラクトース−6−硫酸とN−アセチルグルコサミン−6−硫酸とのN−アセチルグルコサミド結合を優先的に又は特異的に切断する化学的分解法によってケラタン硫酸を分解した分解物からも、ケラタン硫酸オリゴ糖は取得され得る。
【0021】
上記のようにして、ケラタン硫酸オリゴ糖、特に前記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖等が得られる。なお、式(I)、式(II)、式(III)で表される物質の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)及び高速原子衝撃質量分析による解析結果は、後述の実施例に示す通りである。
【0022】
また、本発明に用いられるケラタン硫酸オリゴ糖は、電離した状態のもの、プロトンが付加した構造のもの、或はアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム等)やアルカリ土類金属(カルシウム等)、アンモニウム等との無機塩基との間で形成された塩、又はジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等との有機塩基との間で形成された塩のうち、薬学的に許容される塩も包含する。
【0023】
また、本発明に用いられるケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその塩と、通常医薬に用いられる担体、賦形剤、その他の添加物等とからなる医薬組成物も新規なものであり、抗炎症、抗アレルギー、免疫調節、細胞の分化誘導、アポトーシス誘導等を目的として投与することができる。
【0024】
本発明のケラタン硫酸オリゴ糖画分は、以上の方法により、ケラタン硫酸、特に高硫酸化ケラタン硫酸の酵素分解物から、エンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、目的のケラタン硫酸オリゴ糖以外の他のグリコサミノグリカン類等の不純物を除去し、ケラタン硫酸オリゴ糖の含有量を99%以上としたものである。
【0025】
<2>本発明の薬剤
上記のようなケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤あるいはアポトーシス誘導剤等、その他の用途の医薬品として広く利用できる。
【0026】
本発明の抗炎症剤は、炎症が関与するあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症として、例えば慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、変形性脊椎症、変形性関節症、腰痛症、手術後及び外傷後の炎症及び腫脹の緩解、肩甲関節周囲炎、顎関節症、腱 腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨顆炎(テニス肘)、筋肉痛、角結膜炎等を挙げることがで
きる。本発明の抗炎症剤は、含有するケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩の働きでこれらの疾患並びに症状に対して鎮痛、消炎、解熱等の抗炎症作用を有する。
【0027】
本発明の抗アレルギー剤はアレルギーが関与するあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症として、例えばアレルギー性鼻炎、アレルギー性角結膜炎、春季カタル、湿疹 皮膚炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎等を挙げることができる。
【0028】
本発明の免疫調節剤は、免疫系の異常により引き起こされるあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症として、例えば、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群(human autoimmune lymphoproliferative syndrome;Cell 81, 935−946 (1995)、Science 268, 1347-1349 (1995))、リンパ球増殖性疾患(lymphoproliferative disorder;Leukemia
and Lymphoma 16, 363-368 (1995))、血管免疫芽細胞性リンパ節症(angioimmunoblastic lymphadenopathy;Blood 85(10), 2862-2869 (1995))、免疫芽細胞性リンパ節症(immunoblastic lymphadenopaty;The American Journal of Medicine 63, 849- (1977))、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎(皮膚筋炎)、強皮症、混合結合組織病、慢性甲状腺炎、原発性粘液水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッド−パスチュア(Good-pasture)症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、進行性全身性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎等)、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、特発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群、抗リン脂質抗体症候群等を挙げることができる。
【0029】
本発明の分化誘導剤は、生理的な細胞分化の不全、免疫系の異常、悪性腫瘍等により引き起こされるあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症としては、例えば、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群、リンパ球増殖性疾患、血管免疫芽細胞性リンパ節症、免疫芽細胞性リンパ節症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎等)、進行性全身性硬化症、多発性筋炎(皮膚筋炎)、シェーグレン症候群、癌、白血病、リンパ腫、癌転移の抑制、過形成の防止(乾癬等の治療)、創傷治癒、骨髄異形成症候群、強皮症等を挙げることができる。
【0030】
本発明のアポトーシス誘導剤は、生理的なアポトーシスの不全、免疫系の異常、悪性腫瘍等により引き起こされるあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症としては、例えば、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群、リンパ球増殖性疾患、血管免疫芽細胞性リンパ節症、免疫芽細胞性リンパ節症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、進行性全身性硬化症、多発性筋炎(皮膚筋炎)、シェーグレン症候群、癌、白血病、リンパ腫、癌転移の抑制、過形成の防止(乾癬等の治療)、骨髄異形成症候群、強皮症、異常メサンギウム細胞のアポトーシス誘導(糸球体腎炎の治療)等を挙げることができる。
【0031】
リンパ節重量の抑制、分化誘導、およびアポトーシス誘導については、MRL-lpr/lprマウスにおいてそれらの効果が認められた。ヒト自己免疫性リンパ球増殖症候群(autoimmune lymphoproliferative syndrome)は、MRL-lpr/lprマウスと同様にFas遺伝子の異常が原因とされており、またリンパ節の腫脹が見られるなど、MRL-lpr/lprマウスの病態との類似性が高い。MRL-lpr/lprマウスは、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群の的確なモデルといえる。よって、免疫調節剤、分化誘導剤およびアポトーシス誘導剤において、最も好ましい本発明薬剤の適応症は、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群(autoimmune
lymphoproliferative syndrome)である。
【0032】
本発明の薬剤は、注射(筋肉内、皮下、皮内、静脈内、関節腔内、眼内、腹腔内等)、点眼、点入、経皮、経口、吸入等の投与方法に応じ、製剤化することができる。剤型としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤、点眼剤、眼軟膏剤等が挙げられる。製剤調製に当たり、慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、その他着色剤、崩壊剤等、通常医薬に用いられる成分を使用することができる。また、本発明の薬剤においては、ケラタン硫酸オリゴ糖と共にこれ以外の抗炎症成分、抗アレルギー成分、免疫調節成分、分化誘導成分、アポトーシス誘導成分等を併用することもできる。
【0033】
上記の投与方法および剤型のうち、抗炎症剤および抗アレルギー剤において好ましいものを表1に示す。また、免疫調節剤、分化誘導剤およびアポトーシス誘導剤において好ましい投与方法及び剤型を表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
本発明の抗炎症剤、抗アレルギー剤の推定有効投与量は、全身的に投与される場合、ケラタン硫酸オリゴ糖の量として30〜300mg/人/日であり、また局所的に投与される場合、1〜10mg/人/日である。また、本発明の免疫調節剤、分化誘導剤、アポトーシス誘導剤の推定有効投与量は、ケラタン硫酸オリゴ糖の量として30〜6000mg/人/日である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。なお、製造例は、バルス属細菌から得られた新規なケラタン硫酸分解酵素の製造例を示し、実施例は、ケラタン硫酸オリゴ糖画分の製造実施例、実施例2はケラタン硫酸オリゴの急性毒性及び各種薬理作用の実
施例をそれぞれ示す。また、実施例3、4、及び6は製剤の実施例である。
【0038】
<1>バチルス・サーキュランスKsT202株の分離
窒素源、無機塩類及びケラタン硫酸を含む液体培地5mlに土壌を少量添加し、45℃で3日間、振盪培養した。培養後、培養上清10μlを濾紙にスポットした。同様に培地(対照)も10μl濾紙にスポットした。風乾後、トルイジンブルー液に濾紙を浸した。薄い酢酸液で充分濾紙を洗浄した後、スポットした部位の色調を培養上清と対照とについて比較した。トルイジンブルーは、ケラタン硫酸と結合して青色を示すので、対照に比べて色調が薄くなった試料にはケラタン硫酸資化性菌の存在が確認され、培養液から菌を平板培地(例えば、ハートインフュージョン寒天培地:Heart infusion Agar)を用いて、常法により純粋分離した。
【0039】
純粋分離した種々の菌について、液体培地を用いて上記と同様にしてケラタン硫酸の資化能を調べることにより、ケラタン硫酸資化性菌を得た。この株の形態学的性質、生育特性、生理学的性質を調べた結果、本菌株はバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)と同定された。本菌株は、ケラタン硫酸を資化する点で公知の菌株と区別される新菌株である。尚、バチルス・サーキュランスKsT202株は、平成6年9月5日に工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P−14516として寄託され、平成7年11月6日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、FERM BP−5285の受託番号で寄託されている。
【0040】
<2>ケラタン硫酸分解酵素の調製
ペプトン(極東製薬工業(株)製)1.5%、ビ−ル酵母エキス(日本製薬(株)製)0.75%、サメ軟骨より調製したケラタンポリ硫酸(生化学工業(株)製) 0.75%、K2HPO4 0.5%、MgSO4 7H2O 0.02%、NaCl 0.5%、消泡剤アデカノ−ルLG109(商品名、旭電化工業(株)製)0.0015%(pH8.0)の組成からなる培地20Lを30L容量のジャ−ファ−メンタ−に仕込み、121℃で20分間蒸気滅菌後、予め同じ培地で37℃で16時間振盪培養しておいたKsT202株の培養液1L(5%)を無菌的に植菌し、45℃で24時間通気(1vvm)撹拌(300rpm)培養した。培養液20Lを連続遠心分離機で処理して菌体を除き、約20Lの菌体外液を得た。
【0041】
この菌体外液に硫酸アンモニウムを0.7飽和になるように加え、生じた沈澱を遠心分離で集め、2.5Lの10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)に溶解した。この溶液に硫酸アンモニウムを0.35飽和になるように添加し、生じた沈澱を遠心分離で除き、更に硫酸アンモニウムを0.55飽和になるように添加後、生じた沈澱を遠心分離で回収した。
【0042】
沈澱を2.5Lの10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)に溶解し、予め同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロ−ス DE52(ワットマン社製)カラム(5.2×24cm)に通して酵素を吸着させた。同緩衝液1.5Lでカラムを洗浄後、同緩衝液中、食塩濃度を直線的に0から0.3Mに上昇させ、酵素を溶出させた。
活性画分を集めて硫酸アンモニウムを0.55飽和になるように添加し、沈澱を遠心分離で集め、少量の10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)に溶解した。その後、セファクリルS−300(ファルマシア社製)カラム(3.4×110cm )に負荷し、0.5Mの食塩を含む50mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)でゲル濾過を行った。
活性画分をUK−10膜(アドバンテック東洋(株)製)を用いた限外濾過で濃縮し、約100倍量の10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)で透析した。内液を予め同緩衝液で平衡化したDEAE−トヨパール(東ソー(株)製)カラム(2.2×15cm)に通して酵素を吸着させ、0.1Mの食塩を含む同緩衝液150mlでカラムを洗浄後、同
緩衝液中、食塩濃度を直線的に0.1から0.2Mに上昇させ、酵素を溶出させた。
活性画分を限外濾過で濃縮し、セファクリルS−300カラム(2.2×101cm)に負荷し、ゲル濾過を行った。
活性画分に食塩を4Mになるように添加した後、4M食塩を含む10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したフェニルセファロ−ス(ファルマシア社製)カラム(1.6×15cm)に通して酵素を吸着させ、同緩衝液中、食塩濃度を直線的に4Mから0に減少させ酵素を溶出させた。
得られた酵素は29ユニットであり、比活性は2.09ユニット/mg(ウシ血清アルブミン重量換算)であった。精製酵素中にグリコシダーゼ類の夾雑酵素は含まれていなかった。
【0043】
このようにして得られたケラタン硫酸分解酵素は、以下に示す性質を有している。
(1)作用:
ケラタン硫酸に作用し、そのN−アセチルグルコサミニド結合を加水分解する。
(2)基質特異性:
ケラタン硫酸I、ケラタン硫酸II及びケラタンポリ硫酸に作用し、主な分解物として硫酸化ケラタン硫酸二糖及び硫酸化ケラタン硫酸四糖を生じる。また、硫酸化ケラタン硫酸五糖も生じることが確認されている。
(3)至適反応pH:
4.5〜6(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃)
(4)pH安定性:
6〜7(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃、1時間放置)
(5)至適反応温度:
50〜60℃(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、10分反応)
(6)熱安定性:
少なくとも45℃以下で安定(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、1時間放置)
以下の実施例では、上記のようにして得られたケラタン硫酸分解酵素を用いたが、本発明はこの酵素に限定されるものではなく、例えばケラタナーゼIIのような他のエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素を用いてもよい。
【0044】
実施例1
サメ軟骨由来の高硫酸化ケラタン硫酸50gを300mlの0.1M 酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解した。この液に上記ケラタン硫酸分解酵素を25ユニット加えて37℃で24時間分解を行った。反応終了後、2倍量(容量、以下同様)のエタノールを加えて撹拌し、室温で一晩放置した。翌日、反応液を遠心分離(4000rpm、15分)により上清と沈澱とに分離し、上清を減圧濃縮した(以下、この濃縮物を上清Aという)。一方、沈澱には300mlの蒸留水を加えて溶解し、3倍量のエタノールを加えて撹拌後、室温にて一晩放置した。翌日、遠心分離にて上清と沈澱を分け、上清を減圧濃縮した(以下、この濃縮物を上清Bという)。
【0045】
上清Aを少量の蒸留水に溶解し、バイオゲルP−2カラム(バイオラッド社製)(3.6×134cm)を用い、蒸留水を溶媒としてゲル濾過クロマトグラフィーを行ない、さらにイオン交換クロマトグラフィーを行なって、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)を含む画分をそれぞれ分取して凍結乾燥した。
これらのケラタン硫酸オリゴ糖画分をそれぞれ少量の蒸留水に溶解し、予め蒸留水で平衡化したムロマックカラム(室町化学工業(株)製)(4.3×35cm)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによりそれぞれさらに精製した。溶出溶媒には食塩水を用い、食塩濃度を直線的に0から3Mに上昇させて、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)、ケラタン硫酸二糖(III)をそれぞれ溶出させた。
得られたケラタン硫酸四糖(I)画分、ケラタン硫酸五糖(II)画分、ケラタン硫酸二
糖(III)画分をそれぞれ減圧濃縮後、セルロファインGCL−25カラム(生化学工業(株)製)(3.2×125cm)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより脱塩し、凍結乾燥した。
上清Bからも同様の操作によってケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)、ケラタン硫酸二糖(III)を得た。
こうして得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)についてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によるゲル濾過を行った時のクロマトグラムをそれぞれ図1、図2、図3に示す。
【0046】
ケラタン硫酸50gから得られたケラタン硫酸四糖(I)は7.8g(15.6%)、ケラタン硫酸五糖(II)は1.3g(2.6%)、ケラタン硫酸二糖(III)は10.4g(20.8%)であり、いずれにもエンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、他のグリコサミノグリカン類は含まれていなかった。
【0047】
得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)の1H-NMRスペクトルを日本電子JNM−EX400(400MHz)、13C-NMRスペクトルを日本電子JNM−EX400(100MHz)を用い、3−(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム−D4を内部標準物質として測定した。ケミカルシフトはδ(ppm)、結合定数はHzで表した。測定結果を以下に示す。
【0048】
ケラタン硫酸四糖(I)
1H-NMR δ(D2O,40℃) : 4.757(1H,d),4.565(1H,d),4.561(1H,d),4.402(1H,dd),
4.342(2H,dd),3.711(1H,dd),3.626(1H,dd),
3.555(1H,dd),2.069(3H,s),2.047(3H,s)
13C-NMRδ(D2O,25℃) : 177.81, 177.63, 177.30, 105.87, 105.69, 97.84,
93.34, 84.98, 82.41, 81.91, 81.25, 75.55, 75.44,
75.20, 75.13, 75.02, 73.70, 72.68, 72.07, 71.10,
71.01, 70.61, 69.82, 69.59, 69.29, 58.92, 57.94,
56.42, 25.09, 24.76
【0049】
ケラタン硫酸五糖(II)
1H-NMR δ(D2O,25℃) : 測定チャートを図4に示す。
13C-NMRδ(D2O,25℃) : 177.80, 177.32, 176.86, 105.92, 105.78, 104.94,
102.60, 97.86, 93.32, 85.08, 82.55, 82.04,
79.75, 78.16, 77.93, 75.69, 75.59, 75.48, 75.24,
74.98, 74.36, 72.68, 72.33, 72.07, 71.38, 71.01,
70.65, 70.35, 69.62, 69.13, 65.38, 63.94, 58.92,
57.99, 56.42, 54.57, 42.47, 25.07, 24.93, 24.76
【0050】
ケラタン硫酸二糖(III)
1H-NMR δ(D2O,40℃) : 5.235(0.64H,d,J=1.46Hz),4.766(0.41H,d,J=4.88Hz),
4.562(1.15H,d,J=7.82Hz),4.44(0.15H,br),
4.42(0.22H,br),4.357(1.30H,d,J=3.42Hz),
4.313(0.22H,d,J=4.88Hz),4.286(0.15H,d,J=3.90Hz),
4.213(2.37H,d,J=5.37Hz),
4.183(0.37H,t,J=3.42,2.93Hz),4.01-3.97(2.06H,m),
4.006(d,J=2.44Hz),3.927(1.27H,d,J=5.37Hz),
3.86-3.83(0.37H,br),3.78-3.69(2.78H,m),
3.59-3.56(1.04H,m),2.052(3.00H,m)
13C-NMRδ(D2O,25℃) : 177.61, 177.30, 105.80, 105.63, 97.82, 93.38,
82.02, 81.55, 75.60, 75.47, 75.15, 75.09, 73.70,
72.04, 71.12, 71.07, 69.93, 69.51, 59.00, 56.44,
25.05, 24.76
【0051】
また、得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)を高速原子衝撃質量分析法(FABMS)により分析した。
【0052】
(1)陽イオンFABMS(陽イオン高速原子衝撃質量分析法)
ケラタン硫酸四糖(I)は25nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸五糖(II)は40nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸二糖(III)は50nmol/μlの水溶液にそれぞれ調製され、それぞれ1.0μlをα−チオグリセロール(マトリクスとして使用)1.0μlと混和して測定に用いた。測定はfinnigan MAT TSQ700 三連四重極型質量分析計により行った。また衝突原子にはキセノン(8kV)を用いた。結果を表3に示す。なお、表中の括弧内の数字はピークの相対強度(%)を示す。
【0053】
【表3】
【0054】
(2)陰イオンFABMS(陰イオン高速原子衝撃質量分析法)
ケラタン硫酸四糖(I)は25nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸五糖(II)は40nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸二糖(III)は40nmol/μlの水溶液にそれぞれ調製された。得られた各ケラタン硫酸オリゴ糖の水溶液をそれぞれ1.0μl、1.0μl、0.5μl取り、それぞれ1.0μlのα−チオグリセロール(マトリクスとして使用)と混和して測定を行った。測定はfinnigan MAT TSQ700 三連四重極型質量分析計により行った。また衝突原子にはキセノン(8kV)を用いた。結果を表4に示す。なお、表中の括弧内の数字はピークの相対強度(%)を示す。
【0055】
【表4】
【0056】
さらに、得られた精製ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)中のエンドトキシン、核酸、蛋白質、及びプロテアーゼの含有量を測定した。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
また、精製ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)中のヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸等のグリコサミノグリカン類の含有量を、セルロースアセテート膜(セパラックス:富士写真フィルム(株)製)を用いた電気泳動法(緩衝液:0.1Mピリジン・ギ酸、pH3.0、電流:0.5mA/cm、泳動時間:30分、染色:0.5%アルシアンブルー溶液)で確認したところ、どのケラタン硫酸オリゴ糖からも、いずれの化合物も検出されなかった(検出限界以下)。
【0059】
実施例2
以上のようにして得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)について急性毒性試験及び各種薬理作用試験を行った。
【0060】
<急性毒性試験>
5週令のICR系マウスの雌雄を用いて、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸オリゴ糖のそれぞれについて急性毒性試験を実施した。ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)のそれぞれPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液を1000mg/kg又は2000mg/kgの用量で静脈内に投与し、投与後14日間、一般状態及び生死についての観察と体重の測定とを行った。その後、動物を屠殺し、剖検を実施した。
その結果、死亡した動物は認められず、一般状態、体重、剖検においても異常は認められなかった。
以上の結果から、上記ケラタン硫酸オリゴ糖のいずれをマウスの静脈内に投与した場合でも、最少死亡量は2000mg/kg以上であると結論された。
【0061】
<抗炎症作用試験>
(1)ウサギのパパイン誘発関節炎モデルを用いた抗炎症作用試験
ウサギのパパイン誘発関節炎モデルを用いて、関節液量を指標としてケラタン硫酸オリゴ糖の抗炎症作用について試験した。
【0062】
(1−1)両膝関節炎モデルを用いた、ケラタン硫酸四糖の関節腔内投与による抗炎症効果
体重約3kgの日本白色在来種ウサギ(雌)の両膝関節腔内にパパインの生理食塩水溶液(1%)を150μl注入し、関節炎モデルを作製した。パパイン注入後1日目に左側膝関節腔内に実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(1%)を150μl(1.5mg/関節)注入し(以下、ケラタン硫酸四糖(I)投与足という)、また右側膝関節腔内にはPBSを150μl注入した(以下、ケラタン硫酸四糖(I)非投与足という。また、以下ケラタン硫酸四糖(I)を投与したウサギを投与群という)。また、パパイン注入処理のみを施したウサギ(以下、対照群という)およびパパインを注入しない正常なウサギ(以下、正常群という)についても同様に試験した。注入後7日目にウサギの耳介動脈から採血し、ヘパリン加血漿を分離した。採血後ウサギを解剖し、両膝関節を分離した。2mlの生理食塩水液で3回、関節腔を洗浄し、回収関節液を採取した。血漿と回収関節液中のカルシウム濃度を測定し、下記の式から関節液量を算定した。
関節液量(μl/関節) =
回収関節液中のカルシウム量(μg/関節)/血漿中のカルシウム濃度(μg/μl)
以上の結果を表6に示す。なお表中のnは、実験に用いた各群のウサギの匹数を示す。
【0063】
【表6】
【0064】
この結果から明らかなように、本発明によるケラタン硫酸四糖(I)投与群の関節液量は対照群のそれに比べて有意に少なく、ケラタン硫酸四糖(I)の関節炎に対する改善作用が認められた。
【0065】
(1−2)両膝関節炎モデルを用いた、ケラタン硫酸四糖の筋肉内投与による抗炎症効果
(1−1)に記載された方法で関節炎モデルを作製し、パパイン注入後1日目に、左臀部の筋肉内に実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(1%溶液)を150μl(0.5mg/kg体重)注入した(以下、ケラタン硫酸四糖(I)投与群という)。対照は、ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液の代わりにPBSを150μl注入したものとした(以下、対照群という)。パパインを注入しない正常なウサギ(以下、正常群という)についても同様に試験した。注入後7日目に(1−1)と同じ方法で関節液量を
算定した。
以上の結果を表7に示す。なお表中のnは、実験に用いた各群のウサギの匹数を示す。
【0066】
【表7】
【0067】
この結果から明らかなように、本発明によるケラタン硫酸四糖(I)投与群の関節液量は対照群のそれに比べて有意に少なく、ケラタン硫酸四糖(I)による関節炎の改善作用が認められた。
【0068】
(1−3)片膝関節炎モデルを用いた、ケラタン硫酸四糖の筋肉内投与による抗炎症効果
体重約3kgの日本白色在来種ウサギ(雌)の左膝関節腔内にパパインの生理食塩水溶液(1%)を150μl注入し、右膝は無処置のままとして片膝関節炎モデルを作製した。パパイン注入後1日目に、左臀部の筋肉内に実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(2%、1%および0.5%溶液)を150μl(1.0mg/kg、0.5mg/kg、0.25mg/kg)注入した(以下、ケラタン硫酸四糖(I)投与群という)。対照は、ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液の代わりにPBSを150μl注入したものとした(以下、対照群という)。パパインを注入しない正常なウサギ(以下、正常群という)についても同様に試験した。注入後7日目に(1−1)と同じ方法で関節液量を算定した。
以上の結果を表8に示す。なお表中のnは、実験に用いた各群のウサギの匹数を示す。
【0069】
【表8】
【0070】
この結果から明らかなように、本発明によるケラタン硫酸四糖(I)投与群の関節液量は対照群のそれに比べて有意に少なく、ケラタン硫酸四糖(I)による関節炎の改善作用が認められた。
【0071】
(1−4)片膝関節炎モデルを用いた、各種ケラタン硫酸オリゴ糖の筋肉内投与による抗炎症効果
実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)の1.0%PBS溶液を150μl(0.5mg/kg)用いたこと以外は、(1−3)と全く同様の方法で試験を行った。結果を図5に示す。なお、図中、*、**及び***は、それぞれp<0.05、p<0.01、p<0.001で有意差があることを表す。また、試験に用いたウサギは各群とも10匹であった。
【0072】
この結果からケラタン硫酸四糖(I)投与群、ケラタン硫酸五糖(II)投与群及びケラタン硫酸二糖(III)投与群の関節液量はいずれも、対照群のそれに比べて有意に少なく、前記各ケラタン硫酸オリゴ糖による関節炎の改善作用が認められた。
【0073】
(2)ラット足浮腫逆受け身アルサス反応を用いた抗炎症作用試験
III型アレルギー炎症モデルであるラット足浮腫逆受け身アルサス反応におけるケラタン硫酸オリゴ糖の効果を検討した。すなわち、試験物質を投与したラットの足蹠にウサギ抗卵白アルブミン血清を皮下投与し、さらに卵白アルブミンを尾静脈から注射して炎症(浮腫)を惹起し、試験物質の浮腫に対する抑制効果を調べた。
【0074】
(試験物質の投与)
5週齢のCrj:SD系雄性ラットを、1週間予備飼育を行った後、約17時間絶食を行い、炎症惹起前に試験物質として実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)、インドメタシン(シグマ社、Lot No.19F0018)もしくはデキサメサゾン(万有製薬(株)、デカドロン注射液、Lot No.8D307P)、あるいは陰性対照として生理食塩液((株)大塚製薬工業、Lot No.K3H72)を投与した。ケラタン硫酸四糖(I)及びデキサメサゾンは生理的食塩液に溶解させたものを、インドメタシンは0.5% カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na:和光純薬工業(株)、Lot No.PTN1418)に溶解させたものを、各々使用した。投与容量は全て体重100g当たり0.5mlとした。また、投与経路としては、ケラタン硫酸四糖(I)、生理的食塩液およびデキサメサゾンは尾静脈より投与し、インドメタシンは経口投与とした。なお、インドメタシンを除く薬物はブラインド法により投与した。
【0075】
各試験物質の投与量及び投与スケジュールは次の通りである。各群は5匹で構成した。
(i)炎症惹起5分前投与
(1)生理食塩水(陰性対照)
(2)ケラタン硫酸四糖(I) 1mg/kg
(3)ケラタン硫酸四糖(I) 3mg/kg
(4)ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg
(ii)炎症惹起30分前投与
(5)インドメタシン(陽性対照) 5mg/kg
(iii)炎症惹起3時間前投与
(6)ケラタン硫酸四糖(I) 1mg/kg
(7)ケラタン硫酸四糖(I) 3mg/kg
(8)ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg
(9)デキサメサゾン(陽性対照) 1mg/kg
【0076】
(炎症の惹起)
上記の各ラットの足蹠にウサギ抗卵白アルブミン血清を皮下投与し、さらに卵白アルブミンを尾静脈から注射して炎症(足浮腫)を惹起した。用いた抗血清は次のようにして調製した。ウサギの背部皮内に2%卵白アルブミン(Egg Albumin 5 × Cryst,Lot No.P93601,生化学工業(株))含有生理的食塩液とフロイント・コンプリート・アジュバント(FCA)との等量混合液(エマルジョン)を1ml(1匹あたり卵白アルブミン10mg)を週1回、計3回注射して感作した。最終感作後から約34日に採血して抗血清を得た
。得られた抗血清について重層法により抗体価を測定した。すなわち、生理的食塩液で希釈した抗血清と0.1%卵白アルブミン含有生理的食塩液(1mg/ml)との白色沈澱反応を指標として測定した。その結果、得られた抗血清の抗体価は×27であった。
【0077】
各試験物質を投与したラットの左後肢足蹠に、各群毎に設定された時間が経過後に、6倍に希釈した抗血清を0.1ml皮下投与した。次に、0.5%卵白アルブミン含有生理的食塩液(25mg/5ml/kg)を尾静脈より投与して炎症を惹起した。炎症惹起前、および惹起後1、2、3および4時間の各群の処置足の容積を足容積測定装置(TK−101、ユニコム(株))を用いて測定し、惹起前値との差より足浮腫率を求め、さらに試験物質投与群の対照群に対する浮腫抑制率を算出した。得られた個々の浮腫率について最小有意差検定より平均値の差の検定を行った。各投与群における足浮腫率及び浮腫抑制率を表9に、炎症惹起5分前及び3時間前に薬物を投与した群の足浮腫率をそれぞれ図6、7に示した。図中、*及び**は、それぞれp<0.05、p<0.01で有意差があることを表す。
【0078】
【表9】
【0079】
その結果、陰性対照である生理的食塩液投与群では、1時間後の足浮腫率が40.9%であったのに対し、ケラタン硫酸四糖(I)−炎症惹起5分前投与群では、29.1〜34.4%であり、1mg/kg投与群および10mg/kg投与群に有意差が認められた。炎症惹起1時間後以降は、用量依存的な反応はみられなかったが、4時間後においても3mg/kg投与群および10mg/kg投与群で37.2%および35.4%と有意に低値であった。また、ケラタン硫酸四糖(I)−炎症惹起3時間前投与群では、炎症惹起1時間後に有意な差はみられなかったが、2時間後に3mg/kg投与群で35.3%、3時間後に10mg/kg投与群で41.5%、さらに4時間後には1mg/kg投与群でも38%と有意に低値を示した。また、イン
ドメタシン投与群では、2時間後及び4時間後に有意に低値を示した。またデキサメサゾン投与群では、1〜4時間後にかけていずれの測定時点でも有意に低値であった。
足浮腫抑制率は、インドメタシン投与群では、1〜4時間後にかけて9〜17.5%であったのに対し、ケラタン硫酸四糖(I)−5分前投与群では、8.6〜36.5%の高い足浮腫抑制率が算出された。また、ケラタン硫酸四糖(I)−3時間前投与群では、−8.1〜24.4%であった。一方、デキサメサゾン投与群では、31.7〜 58.1%の高い足浮腫抑制率であった。
【0080】
(3)ラットのカラゲニン胸膜炎モデルを用いた抗炎症作用試験
抗炎症剤の評価に一般的に用いられる炎症モデルであるラットのカラゲニン胸膜炎モデルを使用して、ケラタン硫酸オリゴ糖の作用を検討した。
試験には、体重約150〜170gのS.D.ラット(雌)37匹を使用した。λ-カラゲニン(シグマ社製)を生理食塩液で2%濃度に溶解し、0.8μmのフィルタ−で濾過をした。得られたカラゲニン溶液を100μl/匹の割合いで、ラットの胸腔内に投与し、胸膜炎モデルを作製した。
上記胸膜炎モデルラット19匹に、PBSに溶解したケラタン硫酸四糖(I)を、20mg/kgまたは10mg/kgの投与量で皮下(S.C.)投与した。また、陽性対照として上記ラット8匹にステロイド剤(酢酸デキサメサゾン(万有製薬(株))を、臨床投与量である150μg/kgで皮下投与した。陰性対照として、10匹にPBSを皮下投与した。各々の投与は、カラゲニン投与直後に行った。投与区分をまとめると、表10の通りである。
【0081】
【表10】
【0082】
各々のラットを、λ-カラゲニン投与後6時間後に解剖した。ラットの胸腔を開放し、ゾンデ付き2mlシリンジで貯留した胸水を採取した。その後、1mlの生理食塩液で胸腔内を洗浄し、洗浄液を回収した。シリンジで回収された胸水液量を測定し、さらに胸水中の白血球数(細胞数)を自動血球計算装置で測定した。結果を、各々図8、9に示す。図中、*及び**は、それぞれp<0.05、p<0.01(pはダンカンテストにおける危険率)で有意差があることを表す。
【0083】
図8に示されるように、ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg投与群の胸水液量は、陰性対照群と比べ有意に少なかったが、ケラタン硫酸四糖(I)20mg/kg投与群と比べ差が無く、用量依存性は認められなかった。酢酸デキサメサゾン投与群の胸水液量は、陰性対照群に比べて有意に少なかった。また、胸水中の白血球数は、ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg投与群及び20mg/kg投与群のいずれも陰性対照群と比べ有意に少なく、用量依存的に減少した(図9)。酢酸デキサメサゾン投与群の白血球数は、対照群と比べ有意に少なかった(図9)。
上記結果から、ケラタン硫酸四糖(I)はラットのカラゲニン胸膜炎モデルに対して抗炎症作用を示すことがわかる。
【0084】
(4)モルモット好中球の活性酸素(O2-)産生抑制作用
生理食塩水に溶解したグリコーゲン(Type II、Oyster;シグマ社製)の0.2%水溶液を高圧蒸気滅菌後、5週齢のHartley系モルモット(雌;日本エスエルシー社より購入)の腹腔内に20ml投与した。投与の16時間後にモルモットを脱血死させ、ヘパリン10U/mlを含む生理食塩液20mlを腹腔内に注入し、腹腔浸出液を回収した。以後、インキュベート時以外は全て氷冷下で操作した。回収した液を1000rpmで10分間遠心分離し、得られた沈渣を精製水で30秒間溶血させた後、これを2倍濃度のハンクス液(フェノールレッド不含;日水製薬製)で等張にもどし、更に1000rpmで10分間遠心分離した。得られた沈渣をハンクス液に懸濁させ、遠心分離する操作を2回行い、好中球を得た。
【0085】
採取したモルモット好中球をハンクス液に懸濁させ、血球測定装置(System K-2000;東亜医用電子(株)製)により白血球数を測定し、ハンクス液で2×106個/mlに希釈したものを細胞浮遊液として測定に用いた。細胞浮遊液1mlと上記実施例1で調製された精製ケラタン硫酸オリゴ糖(ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)またはケラタン硫酸二糖(III))の10μlを混和した後、37℃で1時間のプレインキュベーションを行った。その後、これに1.6mMのチトクロームc(Type III, Horse Heart; シグマ社製)液50μl、100μMのN−ホルミル-Met-Leu-Phe(以下FMLPともいう。シグマ社製)10μlを順番に加え、混和した。これを37℃で10分間インキュベートした後、氷冷して反応を停止させ、3000rpmで5分間の遠心分離を行った。
遠心分離で得られた上清を取り出し、その550nmにおける吸光度を測定して、10分間のインキュベート後の2×106細胞当たりの還元型チトクロームc量を求めた。活性酸素(O2-)が産生されると、還元型チトクロームc量が増加する。なお、組換えヒトSOD(recombinant human superoxide dismutase)を終濃度で20μg/ml添加したものをブランクとした。また用いたモルモットは6匹であり、それぞれ独立に実験した。対照群(ケラタン硫酸オリゴ糖を添加しないもの)における還元型チトクロームc量を100%としたときの各ケラタン硫酸オリゴ糖添加群の割合をそれぞれ算出し、対照群との差を活性酸素(O2-)産生抑制率(%)として算出し、さらに各実験の平均を求めた。結果を図10に示す。なお、図中の各ケラタン硫酸オリゴ糖の濃度は終濃度である。
【0086】
この結果より、ケラタン硫酸四糖(I)は0.01、0.1及び1.0mg/mlの濃度で、濃度依存的に顕著に活性酸素(O2-)産生を抑制していることがわかり、これは、ケラタン硫酸四糖(I)が抗炎症作用を有することを支持するものである。また、ケラタン硫酸二糖(III)およびケラタン硫酸五糖(II)も、わずかながら活性酸素の産生抑制作用が認められた。この結果から、ケラタン硫酸オリゴ糖は好中球の活性酸素(O2-)の産生を抑制することにより、抗炎症作用を発揮することが示唆された。
【0087】
〈抗アレルギー作用〉
アレルギー性結膜炎を惹起させたモルモットに、各種ケラタン硫酸オリゴ糖を点眼し、その効果を検討した。
【0088】
(1)アレルギー性結膜炎に対するケラタン硫酸四糖(I)の効果
トルエン・ジイソシアナート(toluene diisocyanate,以下TDIという)を酢酸エチルで10%濃度に希釈した。得られた10%TDIを体重約900〜1000gのHartley系モルモット(雌)10匹の左右鼻前庭(10μl/匹)に1日1回、5日間塗布し、TDI感作モデルを作製した。TDI感作モデルの左眼に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(100mg/ml)を、右眼には対照としてPBSを点眼した。点眼用量は、いずれも点眼容器からの1滴(48±4.6μl(S.D.))とした。10分後、両眼に10%TDIを6.5μl点眼し、結膜炎を惹起させた。5分間放置した後、さらに
左眼にケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(100mg/ml)を、右眼にはPBSを点眼した。15分後、両眼を観察した。結膜炎の程度は、充血、浮腫、流涙の3項目について0、+1、+2、+3の4段階の評点で段階付けをした。結果として評点の平均値を標準偏差と共に図11に示す。尚、図中*は、p<0.05(pはχ2検定における危険率)で有意差があることを表す。
その結果、ケラタン硫酸四糖(I)は、観察した充血、浮腫、流涙の3項目全てについて抑制する傾向にあり、特に浮腫については対照に比べ有意に抑制した。
【0089】
(2)アレルギー性結膜炎に対する各種ケラタン硫酸オリゴ糖の効果
上記(1)と同様に作成した各群10匹ずつのTDI感作モデルの左眼に、被検物質として上記実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)、ケラタン硫酸四糖(I)またはケラタン硫酸五糖(II)のPBS溶液(いずれも6.0mg/ml)を点眼し、右眼には対照としてPBSを点眼した。結膜炎の程度は上記(1)と同様に評価した。結果として評点の平均値を標準偏差と共に図12に示す。尚、図中*は、p<0.05(pはχ2検定における危険率)で有意差があることを表す。
その結果、ケラタン硫酸二糖(III)、ケラタン硫酸四糖(I)及びケラタン硫酸五糖(II)のいずれもが、充血、浮腫、流涙の3項目全てについて、これを抑制する傾向にあり、特にケラタン硫酸四糖(I)については、浮腫を有意に抑制する効果を示すことがわかった。
【0090】
(3)アレルギー性結膜炎に対する各種濃度のケラタン硫酸四糖(I)の効果
上記(1)と同様に作成した各群10匹ずつのTDI感作モデルの左眼に、被検物質として実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を各種濃度(6mg/ml、3mg/ml、1.5mg/mlまたは0.75mg/ml)で含有するPBS溶液を点眼し、右眼には対照としてPBSを点眼した。結膜炎の程度は上記(1)と同様に評価した。結果として評点の平均値を標準偏差と共に図13に示す。尚、図中*は、p<0.05(pはχ2検定における危険率)で有意差があることを表す。
その結果、いずれの濃度のケラタン硫酸四糖(I)PBS溶液においても、充血、浮腫、流涙の3項目全てについて抑制する傾向にあり、特に6mg/ml、3mg/ml及び1.5mg/mlの濃度のケラタン硫酸四糖(I)PBS溶液は、浮腫について有意な抑制効果を示した。
【0091】
〈免疫調節作用・細胞の分化誘導作用・アポトーシス誘導作用〉
自己免疫疾患モデルマウスであるMRLマウスに対する、ケラタン硫酸オリゴ糖の効果を検討した。
【0092】
(1)リンパ節重量抑制作用
(1−1)MRLマウスにおけるケラタン硫酸四糖(I)の4週間反復筋肉内投与試験
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(100mg/ml)を1回10mg/kg体重となるように(以下、投与群という)、また対照としてPBSを、それぞれ5回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、脾臓および腸間膜リンパ節の重量を測定し平均重量を求めた。結果を標準誤差と共に表11に示す。なお表中のnは、用いたマウスの匹数を示す。
【0093】
【表11】
【0094】
その結果、ケラタン硫酸四糖(I)を注射した群において、脾臓および腸間膜リンパ節の重量増加抑制傾向が認められ、ケラタン硫酸四糖(I)の免疫調節作用が示唆された。
【0095】
(1−2)MRLマウスにおけるケラタン硫酸二糖(III)の28日間反復筋肉内投与試験
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回1mg/kg体重、5mg/kg体重または25mg/kg体重となるように(以下、それぞれ1mg/kg投与群、5mg/kg投与群、25mg/kg投与群という)、また対照としてPBSを(以下、対照群ともいう)、それぞれ7回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、顎下リンパ節の重量を測定し平均重量を求めた。結果を標準誤差と共に図14に示す。なお用いたマウスは各群とも6匹であった。また、図中*は、p<0.05(pはBonferroni多重比較検定における危険率)で有意差があることを示す。
この結果、いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群においても顎下リンパ節の重量増加抑制効果が認められ、特に5mg/kg投与群においては対照群と比較して有意な重量増加抑制効果が認められ、ケラタン硫酸二糖(III)が免疫調節作用を有することが示唆された。
【0096】
(1−3)MRLマウスにおけるケラタン硫酸二糖(III)の56日間反復筋肉内投与試験
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回2.5mg/kg体重、5mg/kg体重または10mg/kg体重となるように(以下、それぞれ2.5mg/kg投与群、5mg/kg投与群、10mg/kg投与群という)、また対照としてPBS(以下、対照群ともいう)を、それぞれ7回/週で8週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、腸間膜リンパ節及び顎下リンパ節の重量を測定しそれぞれ平均重量を求めた。腸間膜リンパ節に関する結果を図15に、顎下リンパ節に関する結果を図16に、それぞれ標準誤差と共に示す。なお用いたマウスは各群とも7匹である。
この結果、ケラタン硫酸二糖(III)の2.5mg/kg投与群において腸間膜リンパ節の重量抑制効果が、10mg/kg投与群において腸間膜リンパ節及び顎下リンパ節の重量増加抑制効果が認められ、これによりケラタン硫酸二糖(III)の免疫調節作用が示唆された。
【0097】
(2)細胞の分化誘導作用
(2−1)細胞染色濃度を指標とした細胞の分化誘導の解析
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回1mg/kg体重、5mg/kg体重または25mg/kg体重となるように(以下、それぞれ1mg/kg投与群、5mg/kg投与群、25mg/kg投与群という)、また対照としてPBS(以下、対照群ともいう)を、それぞれ7回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、腸間膜リンパ節及び顎下リンパ節の切片標本(HE染色)を作製した。この標本について画像解析装置(PIAS製)を用いて、単位面積当たりの染色濃度を解析した。なお、未分化の細胞は細胞質の割合が多く、核も薄く染色されるために、単位面積当たりの染色濃度は低い。分化した細胞は、核の占める割合が大きく、かつ核も濃く染色されるた
め、単位面積当たりの染色濃度は高い。
腸間膜リンパ節における解析結果を図17に、顎下リンパ節における解析結果を図18に、それぞれ標準誤差と共に示す。尚、図中**は、p<0.01(pはBonferroni多重比較検定における危険率)で有意差があることを表す。なお、用いたマウスはいずれも6匹であった。
この結果、上記いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群においても単位面積当たりの染色濃度の増加(相対明度の減少)が認められ、特に5mg/kg投与群及び25mg/kg投与群においては、対照群と比較して有意な染色濃度の増加が見られた。このことは、ケラタン硫酸二糖(III)によって分化した細胞が増加したことを示しており、ケラタン硫酸二糖(III)が細胞の分化誘導作用を有することが示された。
【0098】
(2−2)リンパ節のリンパ球表面抗原を指標とした分化誘導の解析
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回2.5mg/kg体重、5mg/kg体重または10mg/kg体重となるように(以下、それぞれ2.5mg/kg投与群、5mg/kg投与群、10mg/kg投与群という)、また対照としてPBS(以下、対照群ともいう)を、それぞれ7回/週で8週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、リンパ節をcell strainer(Falcon 2350)上ですりつぶし、リンパ球細胞を調製した。調製した各投与群のリンパ球についてそれぞれ抗CD3抗体(生化学工業(株)製)及び抗CD4抗体(ファーミンジェン製)を用いた二重免疫染色、抗CD3抗体と抗CD8a抗体(ファーミンジェン製)を用いた二重免疫染色、及び、抗CD3抗体及び抗B220抗体(ファーミンジェン製)を用いた二重免疫染色を行った。なお、CD3、CD4及びCD8aはT細胞に発現する細胞表面抗原であり、B220はB細胞に発現する細胞表面抗原である。また、ヌル(null)のリンパ球細胞には、これら細胞表面抗原の発現は見られないことが知られている。
【0099】
全リンパ球細胞に対する、CD3及びCD4陽性細胞(以下、CD3+CD4+細胞ともいう;主にヘルパーT細胞)の割合(%)を標準誤差と共に図19に、CD3及びCD8a陽性細胞(以下、CD3+CD8a+細胞ともいう;主にサプレッサーT細胞及び細胞障害性T細胞)の割合(%)を標準誤差と共に図20に、またCD3及びB220陽性細胞(以下、CD3+B220+細胞ともいう;T細胞でありながらB細胞の表面抗原を有する異常な細胞)の割合(%)を標準誤差と共に図21にそれぞれ示す。尚、図中*は、p<0.05(pはRyan多重比較検定における危険率)で有意差があることを表す。なお用いたマウスは各群とも7匹であった。
【0100】
図19より、ケラタン硫酸二糖(III)の10mg/kg投与群において、対照群、2.5mg/kg投与群及び5mg/kg投与群に対する有意なCD3+CD4+細胞の増加が見られることがわかる。このことは、ヌル(null)のリンパ球細胞が相当量のケラタン硫酸二糖(III)の投与によりCD3+CD4+細胞に分化したことを示している。
図20より、ケラタン硫酸二糖(III)の10mg/kg投与群において、対照群、2.5mg/kg投与群及び5mg/kg投与群に対して、CD3+CD8a+細胞の増加が見られることがわかる。このことは、ヌル(null)のリンパ球細胞が相当量のケラタン硫酸二糖(III)の投与によりCD3+CD8a+細胞に分化したことを示している。
図21より、ケラタン硫酸二糖(III)の10mg/kg投与群において、対照群、2.5mg/kg投与群及び5mg/kg投与群に対するCD3+B220+細胞の減少が見られた。このことは、相当量のケラタン硫酸二糖(III)の投与によりCD3+B220+細胞という異常な細胞が減少したことを示しており、正常なリンパ球細胞への分化が誘導されたことを支持する結果である。
以上の結果から、ケラタン硫酸二糖(III)に細胞の分化誘導作用があることが示された。
【0101】
(3)アポトーシス誘導作用
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回1mg/kg体重、5mg/kg体重または25mg/kg体重となるように(以下、それぞれ1mg/kg投与群、5mg/kg投与群、25mg/kg投与群という)、また対照としてPBSを(以下、対照群ともいう)、それぞれ7回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、顎下リンパ節の切片標本(Gavrieliらの方法により染色;Terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)-mediated nick end labeling method; J. Cell Biol., 119, 493-501 (1992))を作製した。この染色方法は、断片化したDNAの末端を検出することにより、アポトーシスを引き起こした細胞が検出できる方法である。この標本を光学顕微鏡で観察し、単位面積当たりの染色細胞数(アポトーシスを起こした細胞。以下単にアポトーシス細胞ともいう。)を測定した。結果を標準誤差と共に図22に示す。尚、図中*はp<0.05、**はp<0.01(pはBonferroni多重比較検定における危険率)で有意差があることを表す。なお用いたマウスは各群とも6匹であった。
【0102】
この結果から、いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群においてもアポトーシス細胞数の増加が認められ、特に5mg/kg投与群においては、対照群に対して有意なアポトーシス細胞数の増加が認められることがわかる。
また、上記各群のマウスの顎下リンパ節の切片標本(HE染色)も作製し、光学顕微鏡でアポトーシス小体(apoptic body)の有無を観察した。その結果上記いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群にもアポトーシス小体が散在しているのが観察された。
これらの結果より、ケラタン硫酸二糖(III)が、アポトーシス誘導作用を有するとが示された。
以上の結果から、ケラタン硫酸オリゴ糖の免疫調節作用、細胞の分化誘導作用およびアポトーシス誘導作用が確認された。
【0103】
実施例3 軟膏
常法により日本薬局方親水軟膏に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を10mg/mlの濃度で溶解し、軟膏を製造した。本軟膏は、抗炎症剤、抗アレルギー剤のいずれにも使用できる。
【0104】
実施例4 点眼剤
常法により、リン酸塩でpH6.8〜7.6に調整した生理食塩液に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を10mg/mlの濃度で、またヒアルロン酸ナトリウムを2mg/mlの濃度で溶解し、点眼剤を製造した。本点眼剤は、抗炎症剤、抗アレルギー剤のいずれにも使用できる。
【0105】
実施例5 リポ化剤
実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を10mg/mlの濃度で、レシチンを含有するリポ化剤(アクアソームLA、日光ケミカルズ株式会社)に溶解し、超音波処理により包接させた。本リポ化剤は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤、アポトーシス誘導剤のいずれにも使用できる。
【0106】
実施例6 注射剤
常法により、リン酸塩でpH6.8〜7.6に調整した生理食塩液に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)を10mg/mlの濃度で溶解し、0.22μmのフィルターで無菌濾過することにより注射剤を製造した。本注射剤は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤、アポトーシス誘導剤のいずれにも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の精製高硫酸化ケラタン硫酸オリゴ糖画分は極めて精製度が高く、エンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、上記オリゴ糖以外の他のグリコサミノグリカン類等を
実質的に含まないため、新規な抗炎症剤等の医薬品として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、実施例1で製造した四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(ケラタン硫酸四糖(I))についてHPLCによるゲル濾過を行った時のクロマトグラムを示す図である。
【図2】図2は、実施例1で製造した三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖(ケラタン硫酸五糖(II))についてHPLCによるゲル濾過を行った時のクロマトグラムを示す図である。
【図3】図3は、実施例1で製造した二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(ケラタン硫酸二糖(III))についてHPLCによるゲル濾過を行った時のクロマトグラムを示す図である。
【図4】図4は、実施例1で製造したケラタン硫酸五糖(II)の400MHzにおける1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】図5は、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)又はケラタン硫酸二糖(III)を投与したパパイン関節炎モデルウサギの関節液量を示す図である。
【図6】図6は、炎症を惹起させたラットに対し、炎症惹起5分前にケラタン硫酸四糖(I)又は各種試験物質を投与したときの足浮腫率の経時変化を示す図である。
【図7】図7は、炎症を惹起させたラットに対し、炎症惹起3時間前にケラタン硫酸四糖(I)又は各種試験物質を投与したときの足浮腫率の経時変化を示す図である。
【図8】図8は、ケラタン硫酸四糖(I)又は酢酸デキサメサゾンを投与したカラゲニン胸膜炎モデルラットの胸水液量を示す図である。
【図9】図9は、ケラタン硫酸四糖(I)又は酢酸デキサメサゾンを投与したカラゲニン胸膜炎モデルラットの胸水中の白血球数を示す図である。
【図10】図10は、N−ホルミル-Met-Leu-Phe(FMLP)刺激によるモルモット好中球に対する、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)の活性酸素(O2-)産生抑制効果を示す図である。
【図11】図11は、ケラタン硫酸四糖(I)投与及び非投与のアレルギー性結膜炎モデルモルモットの結膜炎の程度の評点を示す図である。
【図12】図12は、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)又はケラタン硫酸二糖(III)投与及び非投与のアレルギー性結膜炎モデルモルモットの結膜炎の程度の評点を示す図である。
【図13】図13は、アレルギー性結膜炎モデルモルモットに対し、各種濃度でケラタン硫酸四糖(I)を投与したときの結膜炎の程度の評点を示す図である。
【図14】図14は、自己免疫疾患モデルマウスであるMRLマウスに対し、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を28日間反復投与したときのマウスの顎下リンパ節重量を示す図である。
【図15】図15は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を56日間反復投与したときのMRLマウスの腸間膜リンパ節重量を示す図である。
【図16】図16は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を56日間反復投与したときのMRLマウスの顎下リンパ節重量を示す図である。
【図17】図17は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスの腸間膜リンパ節切片標本(HE染色)の染色濃度についての解析結果を示す図である。
【図18】図18は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスの顎下リンパ節切片標本(HE染色)の染色濃度についての解析結果を示す図である。
【図19】図19は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスのリンパ球におけるCD3及びCD4陽性細胞の割合(%)を示す図である。
【図20】図20は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスのリンパ球におけるCD3及びCD8a陽性細胞の割合(%)を示す図である。
【図21】図21は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスのリンパ球におけるCD3及びB220陽性細胞の割合(%)を示す図である。
【図22】図22は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスの顎下リンパ節中のアポトーシス細胞数を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、細胞の分化誘導剤、アポトーシス誘導剤及びこれらの薬剤の有効成分として有用なケラタン硫酸オリゴ糖に関する。
【背景技術】
【0002】
ケラタン硫酸は、N−アセチルグルコサミン残基の6位がO−硫酸化されたN−アセチルラクトサミンを基本構造とするグリコサミノグリカンである。特に、構成二糖単位中のN−アセチルグルコサミン残基の6位以外の水酸基がさらに硫酸化された高硫酸化ケラタン硫酸は、サメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシなどの哺乳動物の軟骨、骨や角膜に存在することが知られている。その分解物であるケラタン硫酸オリゴ糖を生成する方法として、ケラタン硫酸に、バチルス属細菌由来のケラタン硫酸分解酵素(特許文献1参照)を用いた報告がある。
【0003】
また、ウシ軟骨由来のケラタン硫酸をケラタナーゼIIで分解後、分画して得られた25種のオリゴ糖画分について分析し、下記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(以下、「ケラタン硫酸四糖(I)」ともいう」)、下記(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖(以下、「ケラタン硫酸五糖(II)」ともいう)、下記(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(以下、「ケラタン硫酸二糖(III)」ともいう)等の構造を推定した報告もある(非特許文献1参照)。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【0004】
しかしながら、現在までに不純物(例えばエンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、ケラタン硫酸オリゴ糖以外の他のグリコサミノグリカン類等)を除いた純粋なケラタン硫酸オリゴ糖、特にケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)を効率良く大量に調製した報告はない。特に、このような不純物の混在は、ケラタン硫酸オリゴ糖を医薬品として利用する場合に致命的な欠点になるおそれがある。更に、このケラタン硫酸オリゴの糖薬理作用(特に、抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫調節作用、細胞の分化導作用、アポトーシス誘導作用)については全く知られていない。
【特許文献1】特開平2−57182号公報
【非特許文献1】Biochemistry, 33, 4836-4846 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記観点からなされたものであり、不純物が実質的に混在しないケラタン硫酸オリゴ糖を抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、細胞の分化誘導剤(以下、「分化誘導剤」という)又はアポトーシス誘導剤として利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、高硫酸化ケラタン硫酸をケラタン硫酸分解酵素で分解し、その分解産物の中から二〜五糖単位のオリゴ糖、特に二糖、四糖及び五糖単位のオリゴ糖を調製し、その薬理作用について鋭意研究を重ねた結果、これらのオリゴ
糖及びその塩が優れた抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫調節作用、細胞の分化誘導作用、アポトーシス誘導作用を示すことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤又はアポトーシス誘導剤(以下、これら薬剤を総称して「本発明の薬剤」ということがある)は、ケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する。本明細書中において「ケラタン硫酸オリゴ糖」とは、ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素で分解して得られうるケラタン硫酸の分解生成物を意味する。
【0008】
本発明の薬剤に用いるケラタン硫酸オリゴ糖としては、シアル酸及び/又はフコースを含みうる硫酸化されたN−アセチルラクトサミン単位を有するケラタン硫酸オリゴ糖、硫酸化されたN−アセチルグルコサミンを還元末端に有する二〜五糖単位のオリゴ糖であって、1分子中の少なくとも2個所の水酸基が硫酸化されたケラタン硫酸オリゴ糖、特に、少なくともGal(6S)-GlcNAc(6S)(ただし、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。)で表される二糖を構成成分として含む上記ケラタン硫酸オリゴ糖が例示される。さらに、前記ケラタン硫酸オリゴ糖として、下記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖等が好適な例として挙げられる。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【0009】
本発明はまた、硫酸化されたN−アセチルグルコサミンを還元末端に有する二〜五糖単位のオリゴ糖であって、1分子中の少なくとも2個所の水酸基が硫酸化されたケラタン硫酸オリゴ糖を99%以上含有し、下記の特性を有するケラタン硫酸オリゴ糖画分を提供する。
(a)エンドトキシンを実質的に含まず、また核酸、蛋白質、プロテアーゼの含有量は検出限界以下である。
(b)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない。
【0010】
本発明はまた、少なくともGal(6S)-GlcNAc(6S)で表される二糖を構成成分として含むケラタン硫酸オリゴ糖を99%以上含有し、かつ上記(a)および(b)の特性を有するケラタン硫酸オリゴ糖画分を提供する。また、前記オリゴ糖画分に含有されるケラタン硫酸オリゴ糖として、上記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖等が好適な例として挙げられる。さらに、これらのケラタン硫酸オリゴ糖としては、軟骨魚類由来の高硫酸化ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニターゼ型ケラタン硫酸分解酵素で分解後、分画して得られるケラタン硫酸オリゴ糖が挙げられる。
【0011】
本発明はさらに、ケラタン硫酸を、下記の理化学的性質:
(1)作用:
ケラタン硫酸に作用し、そのN−アセチルグルコサミニド結合を加水分解する;
(2)基質特異性:
ケラタン硫酸I、ケラタン硫酸II及びケラタンポリ硫酸に作用し、主な分解物として硫酸化ケラタン硫酸二糖及び硫酸化ケラタン硫酸四糖を生じる;、好ましくはさらに下記の理化学的性質:
(3)至適反応pH:
4.5〜6(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃);
(4)pH安定性:
6〜7(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃、1時間放置);
(5)至適反応温度:
50〜60℃(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、10分反応);
(6)熱安定性:
少なくとも45℃以下で安定(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、1時間放置)、
を有するケラタン硫酸分解酵素によって分解するステップと、この分解生成物から下記性質を有するケラタン硫酸オリゴ糖を分画するステップとを含む、ケラタン硫酸オリゴ糖画分の製造法を提供する。
(A)硫酸化N−アセチルラクトサミンを基本骨格とするケラタン硫酸オリゴ糖を主成分とする;
(B)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸、蛋白質及びプロテアーゼの含有量は微量もしくは検出限界以下である;
(C)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない。
【0012】
また、上記ケラタン硫酸オリゴ糖画分の製造方法において、例えば、原料のケラタン硫酸として高硫酸化ケラタン硫酸を用いると、上記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミンニ糖等を含むケラタン硫酸オリゴ糖、特に(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖及び(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖を主成分とするケラタン硫酸オリゴ糖が得られる。
【0013】
なお、本発明において好ましい二〜五糖単位のケラタン硫酸オリゴ糖は、通常2〜4カ所が硫酸化されているものである。また、本発明において用いることができるシアル酸を含むケラタン硫酸オリゴ糖において、シアル酸としては、N−アセチルノイラミン酸及びN−グリコリルノイラミン酸を挙げることができるが、好ましいのはN−アセチルノイラミン酸である。また、シアル酸がα2,3結合又はα2,6結合したものの何れをも用いることができるが、好ましいのはα2,3結合したものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<1>本発明に用いるケラタン硫酸オリゴ糖およびケラタン硫酸オリゴ糖画分
本発明に用いるケラタン硫酸オリゴ糖の原料となるケラタン硫酸は、主としてガラクトース又はガラクトース−6−硫酸とN−アセチルグルコサミン−6−硫酸との二糖の繰り返し構造で構成され、動物種及び器官などによって硫酸含有量が異なっているが、通常はサメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシなどの哺乳動物の軟骨、骨や角膜等の生原料から製造される。
【0015】
原料として使用されるケラタン硫酸は、通常入手できるものであればよく、特に限定されないが、構成糖であるガラクトース残基が硫酸化された高硫酸化ケラタン硫酸(構成二糖当たり1.5〜2分子の硫酸基を含む高硫酸化ケラタン硫酸をケラタンポリ硫酸ということもある)を用いることが好ましい。また、ガラクトース残基の硫酸基の位置としては、6位が好ましい。このような高硫酸化ケラタン硫酸は、例えば、サメ等の軟骨魚類の軟
骨のプロテオグリカンから取得できる。また、市販されているものを使用することもできる。
【0016】
本発明のケラタン硫酸オリゴ糖は、ケラタン硫酸、好ましくは高硫酸化ケラタン硫酸の緩衝溶液にエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素、例えばバチルス属細菌由来のケラタナーゼII(引用文献1)、または本発明者らがバチルス属に属する細菌から新たに見出した新規ケラタン硫酸分解酵素を作用させて分解した後、得られた分解物を分画することにより得られる。この分解反応は、例えばケラタン硫酸濃度1.0〜100mg/mlで、pH6.0〜7.0に調整された緩衝溶液を温度25〜40℃で1〜72時間反応させて行われる。この場合、緩衝液の濃度は、通常0.01〜0.2Mである。緩衝液としては、上記pH範囲に調整できるものであれば、種類は特に制限されず、例えば酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液が挙げられる。また、分解反応に使用される酵素の量は、ケラタン硫酸1gに対し0.1から1.0ユニットが例示できる。ここで、1ユニットとは、1分間に1μmolのN−アセチルグルコサミンに相当する還元末端を生成する酵素量である。
【0017】
上記の新規ケラタン硫酸分解酵素は、バチルス・サーキュランス、例えば本発明者らによって分離されたバチルス・サーキュランスKsT202株が産生する酵素であり、熱安定性に優れたケラタン硫酸分解酵素である。この酵素は、バチルス・サーキュランスKsT202株を好適な培地で培養し、この培地又は/及び細菌菌体から、通常の酵素の精製法に準じて精製することにより得られる。バチルス・サーキュランスKsT202株は、平成6年9月5日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に微生物受託番号FERM P−14516として寄託され、平成7年11月6日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、FERM BP−5285の受託番号で寄託されている。
【0018】
また、上記新規ケラタン硫酸分解酵素の理化学的性質を以下に示す。
(1)作用:
ケラタン硫酸に作用し、そのN−アセチルグルコサミニド結合を加水分解する。
(2)基質特異性:
ケラタン硫酸I、ケラタン硫酸II及びケラタンポリ硫酸に作用し、主な分解物として硫酸化ケラタン硫酸二糖及び硫酸化ケラタン硫酸四糖を生じる。また、硫酸化ケラタン硫酸五糖も生じることが確認されている。
(3)至適反応pH:
4.5〜6(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃)
(4)pH安定性:
6〜7(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃、1時間放置)
(5)至適反応温度:
50〜60℃(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、10分反応)
(6)熱安定性:
少なくとも45℃以下で安定(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、1時間放置)
本発明のケラタン硫酸オリゴ糖画分を製造する際には、この様な新規ケラタン硫酸分解酵素や上記ケラタナーゼIIなどのケラタン硫酸分解酵素を、更に、常法により固定化した固定化酵素を用いて反応を行わせることもできる。
上記のような酵素による分解反応によって、ケラタン硫酸はオリゴ糖に分解される。
【0019】
次に、こうして得られたオリゴ糖は、通常の分離精製方法、例えば、エタノール沈澱や各種クロマトグラフィーによって精製され、目的のケラタン硫酸オリゴ糖を分離精製することができる。この精製方法を例えば二糖、四糖及び五糖のケラタン硫酸オリゴ糖の場合について更に詳しく説明すると、通常、前記分解生成物を初めエタノール沈澱によって濃
縮し、次いでゲル濾過(分画分子量範囲100〜10,000)により、ほぼ二糖、四糖、五糖近辺のケラタン硫酸オリゴ糖にそれぞれ粗分画する。更に、この粗画分を陰イオン交換クロマトグラフィーによって、エンドトキシンを実質的に含まず、また、核酸、蛋白質、プロテアーゼの含有量は検出限界以下であり、さらにヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない、すなわち実質的に純粋な二糖、四糖および五糖に分離、分画する。本発明において「実質的に含まない」とは、鋭敏な検出法によって検出はされるが、ケラタン硫酸オリゴ糖の薬理作用(抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫調節作用、細胞の分化誘導作用、アポトーシス誘導作用等)に影響を及ぼさない程度の含量であることをいう。
また、本発明のケラタン硫酸オリゴ糖は、ケラタン硫酸を原料とし、これをエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼによって分解し、二〜五糖単位のオリゴ糖画分を分画したものであり、原料であるケラタン硫酸を実質的に含まない。
【0020】
尚、ケラタン硫酸を構成するガラクトース又はガラクトース−6−硫酸とN−アセチルグルコサミン−6−硫酸とのN−アセチルグルコサミド結合を優先的に又は特異的に切断する化学的分解法によってケラタン硫酸を分解した分解物からも、ケラタン硫酸オリゴ糖は取得され得る。
【0021】
上記のようにして、ケラタン硫酸オリゴ糖、特に前記(I)式で表される四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、(II)式で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、(III)式で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖等が得られる。なお、式(I)、式(II)、式(III)で表される物質の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)及び高速原子衝撃質量分析による解析結果は、後述の実施例に示す通りである。
【0022】
また、本発明に用いられるケラタン硫酸オリゴ糖は、電離した状態のもの、プロトンが付加した構造のもの、或はアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム等)やアルカリ土類金属(カルシウム等)、アンモニウム等との無機塩基との間で形成された塩、又はジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等との有機塩基との間で形成された塩のうち、薬学的に許容される塩も包含する。
【0023】
また、本発明に用いられるケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその塩と、通常医薬に用いられる担体、賦形剤、その他の添加物等とからなる医薬組成物も新規なものであり、抗炎症、抗アレルギー、免疫調節、細胞の分化誘導、アポトーシス誘導等を目的として投与することができる。
【0024】
本発明のケラタン硫酸オリゴ糖画分は、以上の方法により、ケラタン硫酸、特に高硫酸化ケラタン硫酸の酵素分解物から、エンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、目的のケラタン硫酸オリゴ糖以外の他のグリコサミノグリカン類等の不純物を除去し、ケラタン硫酸オリゴ糖の含有量を99%以上としたものである。
【0025】
<2>本発明の薬剤
上記のようなケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤あるいはアポトーシス誘導剤等、その他の用途の医薬品として広く利用できる。
【0026】
本発明の抗炎症剤は、炎症が関与するあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症として、例えば慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、変形性脊椎症、変形性関節症、腰痛症、手術後及び外傷後の炎症及び腫脹の緩解、肩甲関節周囲炎、顎関節症、腱 腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨顆炎(テニス肘)、筋肉痛、角結膜炎等を挙げることがで
きる。本発明の抗炎症剤は、含有するケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩の働きでこれらの疾患並びに症状に対して鎮痛、消炎、解熱等の抗炎症作用を有する。
【0027】
本発明の抗アレルギー剤はアレルギーが関与するあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症として、例えばアレルギー性鼻炎、アレルギー性角結膜炎、春季カタル、湿疹 皮膚炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎等を挙げることができる。
【0028】
本発明の免疫調節剤は、免疫系の異常により引き起こされるあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症として、例えば、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群(human autoimmune lymphoproliferative syndrome;Cell 81, 935−946 (1995)、Science 268, 1347-1349 (1995))、リンパ球増殖性疾患(lymphoproliferative disorder;Leukemia
and Lymphoma 16, 363-368 (1995))、血管免疫芽細胞性リンパ節症(angioimmunoblastic lymphadenopathy;Blood 85(10), 2862-2869 (1995))、免疫芽細胞性リンパ節症(immunoblastic lymphadenopaty;The American Journal of Medicine 63, 849- (1977))、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎(皮膚筋炎)、強皮症、混合結合組織病、慢性甲状腺炎、原発性粘液水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッド−パスチュア(Good-pasture)症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、進行性全身性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎等)、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、特発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群、抗リン脂質抗体症候群等を挙げることができる。
【0029】
本発明の分化誘導剤は、生理的な細胞分化の不全、免疫系の異常、悪性腫瘍等により引き起こされるあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症としては、例えば、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群、リンパ球増殖性疾患、血管免疫芽細胞性リンパ節症、免疫芽細胞性リンパ節症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎等)、進行性全身性硬化症、多発性筋炎(皮膚筋炎)、シェーグレン症候群、癌、白血病、リンパ腫、癌転移の抑制、過形成の防止(乾癬等の治療)、創傷治癒、骨髄異形成症候群、強皮症等を挙げることができる。
【0030】
本発明のアポトーシス誘導剤は、生理的なアポトーシスの不全、免疫系の異常、悪性腫瘍等により引き起こされるあらゆる疾患に対して有効であるが、具体的な適応症としては、例えば、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群、リンパ球増殖性疾患、血管免疫芽細胞性リンパ節症、免疫芽細胞性リンパ節症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、進行性全身性硬化症、多発性筋炎(皮膚筋炎)、シェーグレン症候群、癌、白血病、リンパ腫、癌転移の抑制、過形成の防止(乾癬等の治療)、骨髄異形成症候群、強皮症、異常メサンギウム細胞のアポトーシス誘導(糸球体腎炎の治療)等を挙げることができる。
【0031】
リンパ節重量の抑制、分化誘導、およびアポトーシス誘導については、MRL-lpr/lprマウスにおいてそれらの効果が認められた。ヒト自己免疫性リンパ球増殖症候群(autoimmune lymphoproliferative syndrome)は、MRL-lpr/lprマウスと同様にFas遺伝子の異常が原因とされており、またリンパ節の腫脹が見られるなど、MRL-lpr/lprマウスの病態との類似性が高い。MRL-lpr/lprマウスは、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群の的確なモデルといえる。よって、免疫調節剤、分化誘導剤およびアポトーシス誘導剤において、最も好ましい本発明薬剤の適応症は、ヒト自己免疫性リンパ球増殖性症候群(autoimmune
lymphoproliferative syndrome)である。
【0032】
本発明の薬剤は、注射(筋肉内、皮下、皮内、静脈内、関節腔内、眼内、腹腔内等)、点眼、点入、経皮、経口、吸入等の投与方法に応じ、製剤化することができる。剤型としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤、点眼剤、眼軟膏剤等が挙げられる。製剤調製に当たり、慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、その他着色剤、崩壊剤等、通常医薬に用いられる成分を使用することができる。また、本発明の薬剤においては、ケラタン硫酸オリゴ糖と共にこれ以外の抗炎症成分、抗アレルギー成分、免疫調節成分、分化誘導成分、アポトーシス誘導成分等を併用することもできる。
【0033】
上記の投与方法および剤型のうち、抗炎症剤および抗アレルギー剤において好ましいものを表1に示す。また、免疫調節剤、分化誘導剤およびアポトーシス誘導剤において好ましい投与方法及び剤型を表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
本発明の抗炎症剤、抗アレルギー剤の推定有効投与量は、全身的に投与される場合、ケラタン硫酸オリゴ糖の量として30〜300mg/人/日であり、また局所的に投与される場合、1〜10mg/人/日である。また、本発明の免疫調節剤、分化誘導剤、アポトーシス誘導剤の推定有効投与量は、ケラタン硫酸オリゴ糖の量として30〜6000mg/人/日である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。なお、製造例は、バルス属細菌から得られた新規なケラタン硫酸分解酵素の製造例を示し、実施例は、ケラタン硫酸オリゴ糖画分の製造実施例、実施例2はケラタン硫酸オリゴの急性毒性及び各種薬理作用の実
施例をそれぞれ示す。また、実施例3、4、及び6は製剤の実施例である。
【0038】
<1>バチルス・サーキュランスKsT202株の分離
窒素源、無機塩類及びケラタン硫酸を含む液体培地5mlに土壌を少量添加し、45℃で3日間、振盪培養した。培養後、培養上清10μlを濾紙にスポットした。同様に培地(対照)も10μl濾紙にスポットした。風乾後、トルイジンブルー液に濾紙を浸した。薄い酢酸液で充分濾紙を洗浄した後、スポットした部位の色調を培養上清と対照とについて比較した。トルイジンブルーは、ケラタン硫酸と結合して青色を示すので、対照に比べて色調が薄くなった試料にはケラタン硫酸資化性菌の存在が確認され、培養液から菌を平板培地(例えば、ハートインフュージョン寒天培地:Heart infusion Agar)を用いて、常法により純粋分離した。
【0039】
純粋分離した種々の菌について、液体培地を用いて上記と同様にしてケラタン硫酸の資化能を調べることにより、ケラタン硫酸資化性菌を得た。この株の形態学的性質、生育特性、生理学的性質を調べた結果、本菌株はバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)と同定された。本菌株は、ケラタン硫酸を資化する点で公知の菌株と区別される新菌株である。尚、バチルス・サーキュランスKsT202株は、平成6年9月5日に工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P−14516として寄託され、平成7年11月6日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、FERM BP−5285の受託番号で寄託されている。
【0040】
<2>ケラタン硫酸分解酵素の調製
ペプトン(極東製薬工業(株)製)1.5%、ビ−ル酵母エキス(日本製薬(株)製)0.75%、サメ軟骨より調製したケラタンポリ硫酸(生化学工業(株)製) 0.75%、K2HPO4 0.5%、MgSO4 7H2O 0.02%、NaCl 0.5%、消泡剤アデカノ−ルLG109(商品名、旭電化工業(株)製)0.0015%(pH8.0)の組成からなる培地20Lを30L容量のジャ−ファ−メンタ−に仕込み、121℃で20分間蒸気滅菌後、予め同じ培地で37℃で16時間振盪培養しておいたKsT202株の培養液1L(5%)を無菌的に植菌し、45℃で24時間通気(1vvm)撹拌(300rpm)培養した。培養液20Lを連続遠心分離機で処理して菌体を除き、約20Lの菌体外液を得た。
【0041】
この菌体外液に硫酸アンモニウムを0.7飽和になるように加え、生じた沈澱を遠心分離で集め、2.5Lの10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)に溶解した。この溶液に硫酸アンモニウムを0.35飽和になるように添加し、生じた沈澱を遠心分離で除き、更に硫酸アンモニウムを0.55飽和になるように添加後、生じた沈澱を遠心分離で回収した。
【0042】
沈澱を2.5Lの10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)に溶解し、予め同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロ−ス DE52(ワットマン社製)カラム(5.2×24cm)に通して酵素を吸着させた。同緩衝液1.5Lでカラムを洗浄後、同緩衝液中、食塩濃度を直線的に0から0.3Mに上昇させ、酵素を溶出させた。
活性画分を集めて硫酸アンモニウムを0.55飽和になるように添加し、沈澱を遠心分離で集め、少量の10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)に溶解した。その後、セファクリルS−300(ファルマシア社製)カラム(3.4×110cm )に負荷し、0.5Mの食塩を含む50mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)でゲル濾過を行った。
活性画分をUK−10膜(アドバンテック東洋(株)製)を用いた限外濾過で濃縮し、約100倍量の10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)で透析した。内液を予め同緩衝液で平衡化したDEAE−トヨパール(東ソー(株)製)カラム(2.2×15cm)に通して酵素を吸着させ、0.1Mの食塩を含む同緩衝液150mlでカラムを洗浄後、同
緩衝液中、食塩濃度を直線的に0.1から0.2Mに上昇させ、酵素を溶出させた。
活性画分を限外濾過で濃縮し、セファクリルS−300カラム(2.2×101cm)に負荷し、ゲル濾過を行った。
活性画分に食塩を4Mになるように添加した後、4M食塩を含む10mMトリス酢酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したフェニルセファロ−ス(ファルマシア社製)カラム(1.6×15cm)に通して酵素を吸着させ、同緩衝液中、食塩濃度を直線的に4Mから0に減少させ酵素を溶出させた。
得られた酵素は29ユニットであり、比活性は2.09ユニット/mg(ウシ血清アルブミン重量換算)であった。精製酵素中にグリコシダーゼ類の夾雑酵素は含まれていなかった。
【0043】
このようにして得られたケラタン硫酸分解酵素は、以下に示す性質を有している。
(1)作用:
ケラタン硫酸に作用し、そのN−アセチルグルコサミニド結合を加水分解する。
(2)基質特異性:
ケラタン硫酸I、ケラタン硫酸II及びケラタンポリ硫酸に作用し、主な分解物として硫酸化ケラタン硫酸二糖及び硫酸化ケラタン硫酸四糖を生じる。また、硫酸化ケラタン硫酸五糖も生じることが確認されている。
(3)至適反応pH:
4.5〜6(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃)
(4)pH安定性:
6〜7(0.1M 酢酸緩衝液及び10mM トリス−酢酸緩衝液中、37℃、1時間放置)
(5)至適反応温度:
50〜60℃(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、10分反応)
(6)熱安定性:
少なくとも45℃以下で安定(0.1M 酢酸緩衝液、pH6.0、1時間放置)
以下の実施例では、上記のようにして得られたケラタン硫酸分解酵素を用いたが、本発明はこの酵素に限定されるものではなく、例えばケラタナーゼIIのような他のエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素を用いてもよい。
【0044】
実施例1
サメ軟骨由来の高硫酸化ケラタン硫酸50gを300mlの0.1M 酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解した。この液に上記ケラタン硫酸分解酵素を25ユニット加えて37℃で24時間分解を行った。反応終了後、2倍量(容量、以下同様)のエタノールを加えて撹拌し、室温で一晩放置した。翌日、反応液を遠心分離(4000rpm、15分)により上清と沈澱とに分離し、上清を減圧濃縮した(以下、この濃縮物を上清Aという)。一方、沈澱には300mlの蒸留水を加えて溶解し、3倍量のエタノールを加えて撹拌後、室温にて一晩放置した。翌日、遠心分離にて上清と沈澱を分け、上清を減圧濃縮した(以下、この濃縮物を上清Bという)。
【0045】
上清Aを少量の蒸留水に溶解し、バイオゲルP−2カラム(バイオラッド社製)(3.6×134cm)を用い、蒸留水を溶媒としてゲル濾過クロマトグラフィーを行ない、さらにイオン交換クロマトグラフィーを行なって、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)を含む画分をそれぞれ分取して凍結乾燥した。
これらのケラタン硫酸オリゴ糖画分をそれぞれ少量の蒸留水に溶解し、予め蒸留水で平衡化したムロマックカラム(室町化学工業(株)製)(4.3×35cm)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによりそれぞれさらに精製した。溶出溶媒には食塩水を用い、食塩濃度を直線的に0から3Mに上昇させて、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)、ケラタン硫酸二糖(III)をそれぞれ溶出させた。
得られたケラタン硫酸四糖(I)画分、ケラタン硫酸五糖(II)画分、ケラタン硫酸二
糖(III)画分をそれぞれ減圧濃縮後、セルロファインGCL−25カラム(生化学工業(株)製)(3.2×125cm)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより脱塩し、凍結乾燥した。
上清Bからも同様の操作によってケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)、ケラタン硫酸二糖(III)を得た。
こうして得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)についてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によるゲル濾過を行った時のクロマトグラムをそれぞれ図1、図2、図3に示す。
【0046】
ケラタン硫酸50gから得られたケラタン硫酸四糖(I)は7.8g(15.6%)、ケラタン硫酸五糖(II)は1.3g(2.6%)、ケラタン硫酸二糖(III)は10.4g(20.8%)であり、いずれにもエンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、他のグリコサミノグリカン類は含まれていなかった。
【0047】
得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)の1H-NMRスペクトルを日本電子JNM−EX400(400MHz)、13C-NMRスペクトルを日本電子JNM−EX400(100MHz)を用い、3−(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム−D4を内部標準物質として測定した。ケミカルシフトはδ(ppm)、結合定数はHzで表した。測定結果を以下に示す。
【0048】
ケラタン硫酸四糖(I)
1H-NMR δ(D2O,40℃) : 4.757(1H,d),4.565(1H,d),4.561(1H,d),4.402(1H,dd),
4.342(2H,dd),3.711(1H,dd),3.626(1H,dd),
3.555(1H,dd),2.069(3H,s),2.047(3H,s)
13C-NMRδ(D2O,25℃) : 177.81, 177.63, 177.30, 105.87, 105.69, 97.84,
93.34, 84.98, 82.41, 81.91, 81.25, 75.55, 75.44,
75.20, 75.13, 75.02, 73.70, 72.68, 72.07, 71.10,
71.01, 70.61, 69.82, 69.59, 69.29, 58.92, 57.94,
56.42, 25.09, 24.76
【0049】
ケラタン硫酸五糖(II)
1H-NMR δ(D2O,25℃) : 測定チャートを図4に示す。
13C-NMRδ(D2O,25℃) : 177.80, 177.32, 176.86, 105.92, 105.78, 104.94,
102.60, 97.86, 93.32, 85.08, 82.55, 82.04,
79.75, 78.16, 77.93, 75.69, 75.59, 75.48, 75.24,
74.98, 74.36, 72.68, 72.33, 72.07, 71.38, 71.01,
70.65, 70.35, 69.62, 69.13, 65.38, 63.94, 58.92,
57.99, 56.42, 54.57, 42.47, 25.07, 24.93, 24.76
【0050】
ケラタン硫酸二糖(III)
1H-NMR δ(D2O,40℃) : 5.235(0.64H,d,J=1.46Hz),4.766(0.41H,d,J=4.88Hz),
4.562(1.15H,d,J=7.82Hz),4.44(0.15H,br),
4.42(0.22H,br),4.357(1.30H,d,J=3.42Hz),
4.313(0.22H,d,J=4.88Hz),4.286(0.15H,d,J=3.90Hz),
4.213(2.37H,d,J=5.37Hz),
4.183(0.37H,t,J=3.42,2.93Hz),4.01-3.97(2.06H,m),
4.006(d,J=2.44Hz),3.927(1.27H,d,J=5.37Hz),
3.86-3.83(0.37H,br),3.78-3.69(2.78H,m),
3.59-3.56(1.04H,m),2.052(3.00H,m)
13C-NMRδ(D2O,25℃) : 177.61, 177.30, 105.80, 105.63, 97.82, 93.38,
82.02, 81.55, 75.60, 75.47, 75.15, 75.09, 73.70,
72.04, 71.12, 71.07, 69.93, 69.51, 59.00, 56.44,
25.05, 24.76
【0051】
また、得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)を高速原子衝撃質量分析法(FABMS)により分析した。
【0052】
(1)陽イオンFABMS(陽イオン高速原子衝撃質量分析法)
ケラタン硫酸四糖(I)は25nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸五糖(II)は40nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸二糖(III)は50nmol/μlの水溶液にそれぞれ調製され、それぞれ1.0μlをα−チオグリセロール(マトリクスとして使用)1.0μlと混和して測定に用いた。測定はfinnigan MAT TSQ700 三連四重極型質量分析計により行った。また衝突原子にはキセノン(8kV)を用いた。結果を表3に示す。なお、表中の括弧内の数字はピークの相対強度(%)を示す。
【0053】
【表3】
【0054】
(2)陰イオンFABMS(陰イオン高速原子衝撃質量分析法)
ケラタン硫酸四糖(I)は25nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸五糖(II)は40nmol/μlの水溶液に、ケラタン硫酸二糖(III)は40nmol/μlの水溶液にそれぞれ調製された。得られた各ケラタン硫酸オリゴ糖の水溶液をそれぞれ1.0μl、1.0μl、0.5μl取り、それぞれ1.0μlのα−チオグリセロール(マトリクスとして使用)と混和して測定を行った。測定はfinnigan MAT TSQ700 三連四重極型質量分析計により行った。また衝突原子にはキセノン(8kV)を用いた。結果を表4に示す。なお、表中の括弧内の数字はピークの相対強度(%)を示す。
【0055】
【表4】
【0056】
さらに、得られた精製ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)中のエンドトキシン、核酸、蛋白質、及びプロテアーゼの含有量を測定した。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
また、精製ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)中のヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸等のグリコサミノグリカン類の含有量を、セルロースアセテート膜(セパラックス:富士写真フィルム(株)製)を用いた電気泳動法(緩衝液:0.1Mピリジン・ギ酸、pH3.0、電流:0.5mA/cm、泳動時間:30分、染色:0.5%アルシアンブルー溶液)で確認したところ、どのケラタン硫酸オリゴ糖からも、いずれの化合物も検出されなかった(検出限界以下)。
【0059】
実施例2
以上のようにして得られたケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)について急性毒性試験及び各種薬理作用試験を行った。
【0060】
<急性毒性試験>
5週令のICR系マウスの雌雄を用いて、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸オリゴ糖のそれぞれについて急性毒性試験を実施した。ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)のそれぞれPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液を1000mg/kg又は2000mg/kgの用量で静脈内に投与し、投与後14日間、一般状態及び生死についての観察と体重の測定とを行った。その後、動物を屠殺し、剖検を実施した。
その結果、死亡した動物は認められず、一般状態、体重、剖検においても異常は認められなかった。
以上の結果から、上記ケラタン硫酸オリゴ糖のいずれをマウスの静脈内に投与した場合でも、最少死亡量は2000mg/kg以上であると結論された。
【0061】
<抗炎症作用試験>
(1)ウサギのパパイン誘発関節炎モデルを用いた抗炎症作用試験
ウサギのパパイン誘発関節炎モデルを用いて、関節液量を指標としてケラタン硫酸オリゴ糖の抗炎症作用について試験した。
【0062】
(1−1)両膝関節炎モデルを用いた、ケラタン硫酸四糖の関節腔内投与による抗炎症効果
体重約3kgの日本白色在来種ウサギ(雌)の両膝関節腔内にパパインの生理食塩水溶液(1%)を150μl注入し、関節炎モデルを作製した。パパイン注入後1日目に左側膝関節腔内に実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(1%)を150μl(1.5mg/関節)注入し(以下、ケラタン硫酸四糖(I)投与足という)、また右側膝関節腔内にはPBSを150μl注入した(以下、ケラタン硫酸四糖(I)非投与足という。また、以下ケラタン硫酸四糖(I)を投与したウサギを投与群という)。また、パパイン注入処理のみを施したウサギ(以下、対照群という)およびパパインを注入しない正常なウサギ(以下、正常群という)についても同様に試験した。注入後7日目にウサギの耳介動脈から採血し、ヘパリン加血漿を分離した。採血後ウサギを解剖し、両膝関節を分離した。2mlの生理食塩水液で3回、関節腔を洗浄し、回収関節液を採取した。血漿と回収関節液中のカルシウム濃度を測定し、下記の式から関節液量を算定した。
関節液量(μl/関節) =
回収関節液中のカルシウム量(μg/関節)/血漿中のカルシウム濃度(μg/μl)
以上の結果を表6に示す。なお表中のnは、実験に用いた各群のウサギの匹数を示す。
【0063】
【表6】
【0064】
この結果から明らかなように、本発明によるケラタン硫酸四糖(I)投与群の関節液量は対照群のそれに比べて有意に少なく、ケラタン硫酸四糖(I)の関節炎に対する改善作用が認められた。
【0065】
(1−2)両膝関節炎モデルを用いた、ケラタン硫酸四糖の筋肉内投与による抗炎症効果
(1−1)に記載された方法で関節炎モデルを作製し、パパイン注入後1日目に、左臀部の筋肉内に実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(1%溶液)を150μl(0.5mg/kg体重)注入した(以下、ケラタン硫酸四糖(I)投与群という)。対照は、ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液の代わりにPBSを150μl注入したものとした(以下、対照群という)。パパインを注入しない正常なウサギ(以下、正常群という)についても同様に試験した。注入後7日目に(1−1)と同じ方法で関節液量を
算定した。
以上の結果を表7に示す。なお表中のnは、実験に用いた各群のウサギの匹数を示す。
【0066】
【表7】
【0067】
この結果から明らかなように、本発明によるケラタン硫酸四糖(I)投与群の関節液量は対照群のそれに比べて有意に少なく、ケラタン硫酸四糖(I)による関節炎の改善作用が認められた。
【0068】
(1−3)片膝関節炎モデルを用いた、ケラタン硫酸四糖の筋肉内投与による抗炎症効果
体重約3kgの日本白色在来種ウサギ(雌)の左膝関節腔内にパパインの生理食塩水溶液(1%)を150μl注入し、右膝は無処置のままとして片膝関節炎モデルを作製した。パパイン注入後1日目に、左臀部の筋肉内に実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(2%、1%および0.5%溶液)を150μl(1.0mg/kg、0.5mg/kg、0.25mg/kg)注入した(以下、ケラタン硫酸四糖(I)投与群という)。対照は、ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液の代わりにPBSを150μl注入したものとした(以下、対照群という)。パパインを注入しない正常なウサギ(以下、正常群という)についても同様に試験した。注入後7日目に(1−1)と同じ方法で関節液量を算定した。
以上の結果を表8に示す。なお表中のnは、実験に用いた各群のウサギの匹数を示す。
【0069】
【表8】
【0070】
この結果から明らかなように、本発明によるケラタン硫酸四糖(I)投与群の関節液量は対照群のそれに比べて有意に少なく、ケラタン硫酸四糖(I)による関節炎の改善作用が認められた。
【0071】
(1−4)片膝関節炎モデルを用いた、各種ケラタン硫酸オリゴ糖の筋肉内投与による抗炎症効果
実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)の1.0%PBS溶液を150μl(0.5mg/kg)用いたこと以外は、(1−3)と全く同様の方法で試験を行った。結果を図5に示す。なお、図中、*、**及び***は、それぞれp<0.05、p<0.01、p<0.001で有意差があることを表す。また、試験に用いたウサギは各群とも10匹であった。
【0072】
この結果からケラタン硫酸四糖(I)投与群、ケラタン硫酸五糖(II)投与群及びケラタン硫酸二糖(III)投与群の関節液量はいずれも、対照群のそれに比べて有意に少なく、前記各ケラタン硫酸オリゴ糖による関節炎の改善作用が認められた。
【0073】
(2)ラット足浮腫逆受け身アルサス反応を用いた抗炎症作用試験
III型アレルギー炎症モデルであるラット足浮腫逆受け身アルサス反応におけるケラタン硫酸オリゴ糖の効果を検討した。すなわち、試験物質を投与したラットの足蹠にウサギ抗卵白アルブミン血清を皮下投与し、さらに卵白アルブミンを尾静脈から注射して炎症(浮腫)を惹起し、試験物質の浮腫に対する抑制効果を調べた。
【0074】
(試験物質の投与)
5週齢のCrj:SD系雄性ラットを、1週間予備飼育を行った後、約17時間絶食を行い、炎症惹起前に試験物質として実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)、インドメタシン(シグマ社、Lot No.19F0018)もしくはデキサメサゾン(万有製薬(株)、デカドロン注射液、Lot No.8D307P)、あるいは陰性対照として生理食塩液((株)大塚製薬工業、Lot No.K3H72)を投与した。ケラタン硫酸四糖(I)及びデキサメサゾンは生理的食塩液に溶解させたものを、インドメタシンは0.5% カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na:和光純薬工業(株)、Lot No.PTN1418)に溶解させたものを、各々使用した。投与容量は全て体重100g当たり0.5mlとした。また、投与経路としては、ケラタン硫酸四糖(I)、生理的食塩液およびデキサメサゾンは尾静脈より投与し、インドメタシンは経口投与とした。なお、インドメタシンを除く薬物はブラインド法により投与した。
【0075】
各試験物質の投与量及び投与スケジュールは次の通りである。各群は5匹で構成した。
(i)炎症惹起5分前投与
(1)生理食塩水(陰性対照)
(2)ケラタン硫酸四糖(I) 1mg/kg
(3)ケラタン硫酸四糖(I) 3mg/kg
(4)ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg
(ii)炎症惹起30分前投与
(5)インドメタシン(陽性対照) 5mg/kg
(iii)炎症惹起3時間前投与
(6)ケラタン硫酸四糖(I) 1mg/kg
(7)ケラタン硫酸四糖(I) 3mg/kg
(8)ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg
(9)デキサメサゾン(陽性対照) 1mg/kg
【0076】
(炎症の惹起)
上記の各ラットの足蹠にウサギ抗卵白アルブミン血清を皮下投与し、さらに卵白アルブミンを尾静脈から注射して炎症(足浮腫)を惹起した。用いた抗血清は次のようにして調製した。ウサギの背部皮内に2%卵白アルブミン(Egg Albumin 5 × Cryst,Lot No.P93601,生化学工業(株))含有生理的食塩液とフロイント・コンプリート・アジュバント(FCA)との等量混合液(エマルジョン)を1ml(1匹あたり卵白アルブミン10mg)を週1回、計3回注射して感作した。最終感作後から約34日に採血して抗血清を得た
。得られた抗血清について重層法により抗体価を測定した。すなわち、生理的食塩液で希釈した抗血清と0.1%卵白アルブミン含有生理的食塩液(1mg/ml)との白色沈澱反応を指標として測定した。その結果、得られた抗血清の抗体価は×27であった。
【0077】
各試験物質を投与したラットの左後肢足蹠に、各群毎に設定された時間が経過後に、6倍に希釈した抗血清を0.1ml皮下投与した。次に、0.5%卵白アルブミン含有生理的食塩液(25mg/5ml/kg)を尾静脈より投与して炎症を惹起した。炎症惹起前、および惹起後1、2、3および4時間の各群の処置足の容積を足容積測定装置(TK−101、ユニコム(株))を用いて測定し、惹起前値との差より足浮腫率を求め、さらに試験物質投与群の対照群に対する浮腫抑制率を算出した。得られた個々の浮腫率について最小有意差検定より平均値の差の検定を行った。各投与群における足浮腫率及び浮腫抑制率を表9に、炎症惹起5分前及び3時間前に薬物を投与した群の足浮腫率をそれぞれ図6、7に示した。図中、*及び**は、それぞれp<0.05、p<0.01で有意差があることを表す。
【0078】
【表9】
【0079】
その結果、陰性対照である生理的食塩液投与群では、1時間後の足浮腫率が40.9%であったのに対し、ケラタン硫酸四糖(I)−炎症惹起5分前投与群では、29.1〜34.4%であり、1mg/kg投与群および10mg/kg投与群に有意差が認められた。炎症惹起1時間後以降は、用量依存的な反応はみられなかったが、4時間後においても3mg/kg投与群および10mg/kg投与群で37.2%および35.4%と有意に低値であった。また、ケラタン硫酸四糖(I)−炎症惹起3時間前投与群では、炎症惹起1時間後に有意な差はみられなかったが、2時間後に3mg/kg投与群で35.3%、3時間後に10mg/kg投与群で41.5%、さらに4時間後には1mg/kg投与群でも38%と有意に低値を示した。また、イン
ドメタシン投与群では、2時間後及び4時間後に有意に低値を示した。またデキサメサゾン投与群では、1〜4時間後にかけていずれの測定時点でも有意に低値であった。
足浮腫抑制率は、インドメタシン投与群では、1〜4時間後にかけて9〜17.5%であったのに対し、ケラタン硫酸四糖(I)−5分前投与群では、8.6〜36.5%の高い足浮腫抑制率が算出された。また、ケラタン硫酸四糖(I)−3時間前投与群では、−8.1〜24.4%であった。一方、デキサメサゾン投与群では、31.7〜 58.1%の高い足浮腫抑制率であった。
【0080】
(3)ラットのカラゲニン胸膜炎モデルを用いた抗炎症作用試験
抗炎症剤の評価に一般的に用いられる炎症モデルであるラットのカラゲニン胸膜炎モデルを使用して、ケラタン硫酸オリゴ糖の作用を検討した。
試験には、体重約150〜170gのS.D.ラット(雌)37匹を使用した。λ-カラゲニン(シグマ社製)を生理食塩液で2%濃度に溶解し、0.8μmのフィルタ−で濾過をした。得られたカラゲニン溶液を100μl/匹の割合いで、ラットの胸腔内に投与し、胸膜炎モデルを作製した。
上記胸膜炎モデルラット19匹に、PBSに溶解したケラタン硫酸四糖(I)を、20mg/kgまたは10mg/kgの投与量で皮下(S.C.)投与した。また、陽性対照として上記ラット8匹にステロイド剤(酢酸デキサメサゾン(万有製薬(株))を、臨床投与量である150μg/kgで皮下投与した。陰性対照として、10匹にPBSを皮下投与した。各々の投与は、カラゲニン投与直後に行った。投与区分をまとめると、表10の通りである。
【0081】
【表10】
【0082】
各々のラットを、λ-カラゲニン投与後6時間後に解剖した。ラットの胸腔を開放し、ゾンデ付き2mlシリンジで貯留した胸水を採取した。その後、1mlの生理食塩液で胸腔内を洗浄し、洗浄液を回収した。シリンジで回収された胸水液量を測定し、さらに胸水中の白血球数(細胞数)を自動血球計算装置で測定した。結果を、各々図8、9に示す。図中、*及び**は、それぞれp<0.05、p<0.01(pはダンカンテストにおける危険率)で有意差があることを表す。
【0083】
図8に示されるように、ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg投与群の胸水液量は、陰性対照群と比べ有意に少なかったが、ケラタン硫酸四糖(I)20mg/kg投与群と比べ差が無く、用量依存性は認められなかった。酢酸デキサメサゾン投与群の胸水液量は、陰性対照群に比べて有意に少なかった。また、胸水中の白血球数は、ケラタン硫酸四糖(I)10mg/kg投与群及び20mg/kg投与群のいずれも陰性対照群と比べ有意に少なく、用量依存的に減少した(図9)。酢酸デキサメサゾン投与群の白血球数は、対照群と比べ有意に少なかった(図9)。
上記結果から、ケラタン硫酸四糖(I)はラットのカラゲニン胸膜炎モデルに対して抗炎症作用を示すことがわかる。
【0084】
(4)モルモット好中球の活性酸素(O2-)産生抑制作用
生理食塩水に溶解したグリコーゲン(Type II、Oyster;シグマ社製)の0.2%水溶液を高圧蒸気滅菌後、5週齢のHartley系モルモット(雌;日本エスエルシー社より購入)の腹腔内に20ml投与した。投与の16時間後にモルモットを脱血死させ、ヘパリン10U/mlを含む生理食塩液20mlを腹腔内に注入し、腹腔浸出液を回収した。以後、インキュベート時以外は全て氷冷下で操作した。回収した液を1000rpmで10分間遠心分離し、得られた沈渣を精製水で30秒間溶血させた後、これを2倍濃度のハンクス液(フェノールレッド不含;日水製薬製)で等張にもどし、更に1000rpmで10分間遠心分離した。得られた沈渣をハンクス液に懸濁させ、遠心分離する操作を2回行い、好中球を得た。
【0085】
採取したモルモット好中球をハンクス液に懸濁させ、血球測定装置(System K-2000;東亜医用電子(株)製)により白血球数を測定し、ハンクス液で2×106個/mlに希釈したものを細胞浮遊液として測定に用いた。細胞浮遊液1mlと上記実施例1で調製された精製ケラタン硫酸オリゴ糖(ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)またはケラタン硫酸二糖(III))の10μlを混和した後、37℃で1時間のプレインキュベーションを行った。その後、これに1.6mMのチトクロームc(Type III, Horse Heart; シグマ社製)液50μl、100μMのN−ホルミル-Met-Leu-Phe(以下FMLPともいう。シグマ社製)10μlを順番に加え、混和した。これを37℃で10分間インキュベートした後、氷冷して反応を停止させ、3000rpmで5分間の遠心分離を行った。
遠心分離で得られた上清を取り出し、その550nmにおける吸光度を測定して、10分間のインキュベート後の2×106細胞当たりの還元型チトクロームc量を求めた。活性酸素(O2-)が産生されると、還元型チトクロームc量が増加する。なお、組換えヒトSOD(recombinant human superoxide dismutase)を終濃度で20μg/ml添加したものをブランクとした。また用いたモルモットは6匹であり、それぞれ独立に実験した。対照群(ケラタン硫酸オリゴ糖を添加しないもの)における還元型チトクロームc量を100%としたときの各ケラタン硫酸オリゴ糖添加群の割合をそれぞれ算出し、対照群との差を活性酸素(O2-)産生抑制率(%)として算出し、さらに各実験の平均を求めた。結果を図10に示す。なお、図中の各ケラタン硫酸オリゴ糖の濃度は終濃度である。
【0086】
この結果より、ケラタン硫酸四糖(I)は0.01、0.1及び1.0mg/mlの濃度で、濃度依存的に顕著に活性酸素(O2-)産生を抑制していることがわかり、これは、ケラタン硫酸四糖(I)が抗炎症作用を有することを支持するものである。また、ケラタン硫酸二糖(III)およびケラタン硫酸五糖(II)も、わずかながら活性酸素の産生抑制作用が認められた。この結果から、ケラタン硫酸オリゴ糖は好中球の活性酸素(O2-)の産生を抑制することにより、抗炎症作用を発揮することが示唆された。
【0087】
〈抗アレルギー作用〉
アレルギー性結膜炎を惹起させたモルモットに、各種ケラタン硫酸オリゴ糖を点眼し、その効果を検討した。
【0088】
(1)アレルギー性結膜炎に対するケラタン硫酸四糖(I)の効果
トルエン・ジイソシアナート(toluene diisocyanate,以下TDIという)を酢酸エチルで10%濃度に希釈した。得られた10%TDIを体重約900〜1000gのHartley系モルモット(雌)10匹の左右鼻前庭(10μl/匹)に1日1回、5日間塗布し、TDI感作モデルを作製した。TDI感作モデルの左眼に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(100mg/ml)を、右眼には対照としてPBSを点眼した。点眼用量は、いずれも点眼容器からの1滴(48±4.6μl(S.D.))とした。10分後、両眼に10%TDIを6.5μl点眼し、結膜炎を惹起させた。5分間放置した後、さらに
左眼にケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(100mg/ml)を、右眼にはPBSを点眼した。15分後、両眼を観察した。結膜炎の程度は、充血、浮腫、流涙の3項目について0、+1、+2、+3の4段階の評点で段階付けをした。結果として評点の平均値を標準偏差と共に図11に示す。尚、図中*は、p<0.05(pはχ2検定における危険率)で有意差があることを表す。
その結果、ケラタン硫酸四糖(I)は、観察した充血、浮腫、流涙の3項目全てについて抑制する傾向にあり、特に浮腫については対照に比べ有意に抑制した。
【0089】
(2)アレルギー性結膜炎に対する各種ケラタン硫酸オリゴ糖の効果
上記(1)と同様に作成した各群10匹ずつのTDI感作モデルの左眼に、被検物質として上記実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)、ケラタン硫酸四糖(I)またはケラタン硫酸五糖(II)のPBS溶液(いずれも6.0mg/ml)を点眼し、右眼には対照としてPBSを点眼した。結膜炎の程度は上記(1)と同様に評価した。結果として評点の平均値を標準偏差と共に図12に示す。尚、図中*は、p<0.05(pはχ2検定における危険率)で有意差があることを表す。
その結果、ケラタン硫酸二糖(III)、ケラタン硫酸四糖(I)及びケラタン硫酸五糖(II)のいずれもが、充血、浮腫、流涙の3項目全てについて、これを抑制する傾向にあり、特にケラタン硫酸四糖(I)については、浮腫を有意に抑制する効果を示すことがわかった。
【0090】
(3)アレルギー性結膜炎に対する各種濃度のケラタン硫酸四糖(I)の効果
上記(1)と同様に作成した各群10匹ずつのTDI感作モデルの左眼に、被検物質として実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を各種濃度(6mg/ml、3mg/ml、1.5mg/mlまたは0.75mg/ml)で含有するPBS溶液を点眼し、右眼には対照としてPBSを点眼した。結膜炎の程度は上記(1)と同様に評価した。結果として評点の平均値を標準偏差と共に図13に示す。尚、図中*は、p<0.05(pはχ2検定における危険率)で有意差があることを表す。
その結果、いずれの濃度のケラタン硫酸四糖(I)PBS溶液においても、充血、浮腫、流涙の3項目全てについて抑制する傾向にあり、特に6mg/ml、3mg/ml及び1.5mg/mlの濃度のケラタン硫酸四糖(I)PBS溶液は、浮腫について有意な抑制効果を示した。
【0091】
〈免疫調節作用・細胞の分化誘導作用・アポトーシス誘導作用〉
自己免疫疾患モデルマウスであるMRLマウスに対する、ケラタン硫酸オリゴ糖の効果を検討した。
【0092】
(1)リンパ節重量抑制作用
(1−1)MRLマウスにおけるケラタン硫酸四糖(I)の4週間反復筋肉内投与試験
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)のPBS溶液(100mg/ml)を1回10mg/kg体重となるように(以下、投与群という)、また対照としてPBSを、それぞれ5回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、脾臓および腸間膜リンパ節の重量を測定し平均重量を求めた。結果を標準誤差と共に表11に示す。なお表中のnは、用いたマウスの匹数を示す。
【0093】
【表11】
【0094】
その結果、ケラタン硫酸四糖(I)を注射した群において、脾臓および腸間膜リンパ節の重量増加抑制傾向が認められ、ケラタン硫酸四糖(I)の免疫調節作用が示唆された。
【0095】
(1−2)MRLマウスにおけるケラタン硫酸二糖(III)の28日間反復筋肉内投与試験
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回1mg/kg体重、5mg/kg体重または25mg/kg体重となるように(以下、それぞれ1mg/kg投与群、5mg/kg投与群、25mg/kg投与群という)、また対照としてPBSを(以下、対照群ともいう)、それぞれ7回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、顎下リンパ節の重量を測定し平均重量を求めた。結果を標準誤差と共に図14に示す。なお用いたマウスは各群とも6匹であった。また、図中*は、p<0.05(pはBonferroni多重比較検定における危険率)で有意差があることを示す。
この結果、いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群においても顎下リンパ節の重量増加抑制効果が認められ、特に5mg/kg投与群においては対照群と比較して有意な重量増加抑制効果が認められ、ケラタン硫酸二糖(III)が免疫調節作用を有することが示唆された。
【0096】
(1−3)MRLマウスにおけるケラタン硫酸二糖(III)の56日間反復筋肉内投与試験
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回2.5mg/kg体重、5mg/kg体重または10mg/kg体重となるように(以下、それぞれ2.5mg/kg投与群、5mg/kg投与群、10mg/kg投与群という)、また対照としてPBS(以下、対照群ともいう)を、それぞれ7回/週で8週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、腸間膜リンパ節及び顎下リンパ節の重量を測定しそれぞれ平均重量を求めた。腸間膜リンパ節に関する結果を図15に、顎下リンパ節に関する結果を図16に、それぞれ標準誤差と共に示す。なお用いたマウスは各群とも7匹である。
この結果、ケラタン硫酸二糖(III)の2.5mg/kg投与群において腸間膜リンパ節の重量抑制効果が、10mg/kg投与群において腸間膜リンパ節及び顎下リンパ節の重量増加抑制効果が認められ、これによりケラタン硫酸二糖(III)の免疫調節作用が示唆された。
【0097】
(2)細胞の分化誘導作用
(2−1)細胞染色濃度を指標とした細胞の分化誘導の解析
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回1mg/kg体重、5mg/kg体重または25mg/kg体重となるように(以下、それぞれ1mg/kg投与群、5mg/kg投与群、25mg/kg投与群という)、また対照としてPBS(以下、対照群ともいう)を、それぞれ7回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、腸間膜リンパ節及び顎下リンパ節の切片標本(HE染色)を作製した。この標本について画像解析装置(PIAS製)を用いて、単位面積当たりの染色濃度を解析した。なお、未分化の細胞は細胞質の割合が多く、核も薄く染色されるために、単位面積当たりの染色濃度は低い。分化した細胞は、核の占める割合が大きく、かつ核も濃く染色されるた
め、単位面積当たりの染色濃度は高い。
腸間膜リンパ節における解析結果を図17に、顎下リンパ節における解析結果を図18に、それぞれ標準誤差と共に示す。尚、図中**は、p<0.01(pはBonferroni多重比較検定における危険率)で有意差があることを表す。なお、用いたマウスはいずれも6匹であった。
この結果、上記いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群においても単位面積当たりの染色濃度の増加(相対明度の減少)が認められ、特に5mg/kg投与群及び25mg/kg投与群においては、対照群と比較して有意な染色濃度の増加が見られた。このことは、ケラタン硫酸二糖(III)によって分化した細胞が増加したことを示しており、ケラタン硫酸二糖(III)が細胞の分化誘導作用を有することが示された。
【0098】
(2−2)リンパ節のリンパ球表面抗原を指標とした分化誘導の解析
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回2.5mg/kg体重、5mg/kg体重または10mg/kg体重となるように(以下、それぞれ2.5mg/kg投与群、5mg/kg投与群、10mg/kg投与群という)、また対照としてPBS(以下、対照群ともいう)を、それぞれ7回/週で8週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、リンパ節をcell strainer(Falcon 2350)上ですりつぶし、リンパ球細胞を調製した。調製した各投与群のリンパ球についてそれぞれ抗CD3抗体(生化学工業(株)製)及び抗CD4抗体(ファーミンジェン製)を用いた二重免疫染色、抗CD3抗体と抗CD8a抗体(ファーミンジェン製)を用いた二重免疫染色、及び、抗CD3抗体及び抗B220抗体(ファーミンジェン製)を用いた二重免疫染色を行った。なお、CD3、CD4及びCD8aはT細胞に発現する細胞表面抗原であり、B220はB細胞に発現する細胞表面抗原である。また、ヌル(null)のリンパ球細胞には、これら細胞表面抗原の発現は見られないことが知られている。
【0099】
全リンパ球細胞に対する、CD3及びCD4陽性細胞(以下、CD3+CD4+細胞ともいう;主にヘルパーT細胞)の割合(%)を標準誤差と共に図19に、CD3及びCD8a陽性細胞(以下、CD3+CD8a+細胞ともいう;主にサプレッサーT細胞及び細胞障害性T細胞)の割合(%)を標準誤差と共に図20に、またCD3及びB220陽性細胞(以下、CD3+B220+細胞ともいう;T細胞でありながらB細胞の表面抗原を有する異常な細胞)の割合(%)を標準誤差と共に図21にそれぞれ示す。尚、図中*は、p<0.05(pはRyan多重比較検定における危険率)で有意差があることを表す。なお用いたマウスは各群とも7匹であった。
【0100】
図19より、ケラタン硫酸二糖(III)の10mg/kg投与群において、対照群、2.5mg/kg投与群及び5mg/kg投与群に対する有意なCD3+CD4+細胞の増加が見られることがわかる。このことは、ヌル(null)のリンパ球細胞が相当量のケラタン硫酸二糖(III)の投与によりCD3+CD4+細胞に分化したことを示している。
図20より、ケラタン硫酸二糖(III)の10mg/kg投与群において、対照群、2.5mg/kg投与群及び5mg/kg投与群に対して、CD3+CD8a+細胞の増加が見られることがわかる。このことは、ヌル(null)のリンパ球細胞が相当量のケラタン硫酸二糖(III)の投与によりCD3+CD8a+細胞に分化したことを示している。
図21より、ケラタン硫酸二糖(III)の10mg/kg投与群において、対照群、2.5mg/kg投与群及び5mg/kg投与群に対するCD3+B220+細胞の減少が見られた。このことは、相当量のケラタン硫酸二糖(III)の投与によりCD3+B220+細胞という異常な細胞が減少したことを示しており、正常なリンパ球細胞への分化が誘導されたことを支持する結果である。
以上の結果から、ケラタン硫酸二糖(III)に細胞の分化誘導作用があることが示された。
【0101】
(3)アポトーシス誘導作用
MRL−lpr/lpr マウスに、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)のPBS溶液を1回1mg/kg体重、5mg/kg体重または25mg/kg体重となるように(以下、それぞれ1mg/kg投与群、5mg/kg投与群、25mg/kg投与群という)、また対照としてPBSを(以下、対照群ともいう)、それぞれ7回/週で4週間、大腿筋内に注射した。その後マウスを解剖し、顎下リンパ節の切片標本(Gavrieliらの方法により染色;Terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)-mediated nick end labeling method; J. Cell Biol., 119, 493-501 (1992))を作製した。この染色方法は、断片化したDNAの末端を検出することにより、アポトーシスを引き起こした細胞が検出できる方法である。この標本を光学顕微鏡で観察し、単位面積当たりの染色細胞数(アポトーシスを起こした細胞。以下単にアポトーシス細胞ともいう。)を測定した。結果を標準誤差と共に図22に示す。尚、図中*はp<0.05、**はp<0.01(pはBonferroni多重比較検定における危険率)で有意差があることを表す。なお用いたマウスは各群とも6匹であった。
【0102】
この結果から、いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群においてもアポトーシス細胞数の増加が認められ、特に5mg/kg投与群においては、対照群に対して有意なアポトーシス細胞数の増加が認められることがわかる。
また、上記各群のマウスの顎下リンパ節の切片標本(HE染色)も作製し、光学顕微鏡でアポトーシス小体(apoptic body)の有無を観察した。その結果上記いずれの投与量のケラタン硫酸二糖(III)投与群にもアポトーシス小体が散在しているのが観察された。
これらの結果より、ケラタン硫酸二糖(III)が、アポトーシス誘導作用を有するとが示された。
以上の結果から、ケラタン硫酸オリゴ糖の免疫調節作用、細胞の分化誘導作用およびアポトーシス誘導作用が確認された。
【0103】
実施例3 軟膏
常法により日本薬局方親水軟膏に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を10mg/mlの濃度で溶解し、軟膏を製造した。本軟膏は、抗炎症剤、抗アレルギー剤のいずれにも使用できる。
【0104】
実施例4 点眼剤
常法により、リン酸塩でpH6.8〜7.6に調整した生理食塩液に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を10mg/mlの濃度で、またヒアルロン酸ナトリウムを2mg/mlの濃度で溶解し、点眼剤を製造した。本点眼剤は、抗炎症剤、抗アレルギー剤のいずれにも使用できる。
【0105】
実施例5 リポ化剤
実施例1で調製した精製ケラタン硫酸四糖(I)を10mg/mlの濃度で、レシチンを含有するリポ化剤(アクアソームLA、日光ケミカルズ株式会社)に溶解し、超音波処理により包接させた。本リポ化剤は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤、アポトーシス誘導剤のいずれにも使用できる。
【0106】
実施例6 注射剤
常法により、リン酸塩でpH6.8〜7.6に調整した生理食塩液に、実施例1で調製した精製ケラタン硫酸二糖(III)を10mg/mlの濃度で溶解し、0.22μmのフィルターで無菌濾過することにより注射剤を製造した。本注射剤は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤、分化誘導剤、アポトーシス誘導剤のいずれにも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の精製高硫酸化ケラタン硫酸オリゴ糖画分は極めて精製度が高く、エンドトキシン、核酸、蛋白質、プロテアーゼ、上記オリゴ糖以外の他のグリコサミノグリカン類等を
実質的に含まないため、新規な抗炎症剤等の医薬品として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、実施例1で製造した四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖(ケラタン硫酸四糖(I))についてHPLCによるゲル濾過を行った時のクロマトグラムを示す図である。
【図2】図2は、実施例1で製造した三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖(ケラタン硫酸五糖(II))についてHPLCによるゲル濾過を行った時のクロマトグラムを示す図である。
【図3】図3は、実施例1で製造した二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖(ケラタン硫酸二糖(III))についてHPLCによるゲル濾過を行った時のクロマトグラムを示す図である。
【図4】図4は、実施例1で製造したケラタン硫酸五糖(II)の400MHzにおける1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】図5は、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)又はケラタン硫酸二糖(III)を投与したパパイン関節炎モデルウサギの関節液量を示す図である。
【図6】図6は、炎症を惹起させたラットに対し、炎症惹起5分前にケラタン硫酸四糖(I)又は各種試験物質を投与したときの足浮腫率の経時変化を示す図である。
【図7】図7は、炎症を惹起させたラットに対し、炎症惹起3時間前にケラタン硫酸四糖(I)又は各種試験物質を投与したときの足浮腫率の経時変化を示す図である。
【図8】図8は、ケラタン硫酸四糖(I)又は酢酸デキサメサゾンを投与したカラゲニン胸膜炎モデルラットの胸水液量を示す図である。
【図9】図9は、ケラタン硫酸四糖(I)又は酢酸デキサメサゾンを投与したカラゲニン胸膜炎モデルラットの胸水中の白血球数を示す図である。
【図10】図10は、N−ホルミル-Met-Leu-Phe(FMLP)刺激によるモルモット好中球に対する、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)及びケラタン硫酸二糖(III)の活性酸素(O2-)産生抑制効果を示す図である。
【図11】図11は、ケラタン硫酸四糖(I)投与及び非投与のアレルギー性結膜炎モデルモルモットの結膜炎の程度の評点を示す図である。
【図12】図12は、ケラタン硫酸四糖(I)、ケラタン硫酸五糖(II)又はケラタン硫酸二糖(III)投与及び非投与のアレルギー性結膜炎モデルモルモットの結膜炎の程度の評点を示す図である。
【図13】図13は、アレルギー性結膜炎モデルモルモットに対し、各種濃度でケラタン硫酸四糖(I)を投与したときの結膜炎の程度の評点を示す図である。
【図14】図14は、自己免疫疾患モデルマウスであるMRLマウスに対し、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を28日間反復投与したときのマウスの顎下リンパ節重量を示す図である。
【図15】図15は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を56日間反復投与したときのMRLマウスの腸間膜リンパ節重量を示す図である。
【図16】図16は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を56日間反復投与したときのMRLマウスの顎下リンパ節重量を示す図である。
【図17】図17は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスの腸間膜リンパ節切片標本(HE染色)の染色濃度についての解析結果を示す図である。
【図18】図18は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスの顎下リンパ節切片標本(HE染色)の染色濃度についての解析結果を示す図である。
【図19】図19は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスのリンパ球におけるCD3及びCD4陽性細胞の割合(%)を示す図である。
【図20】図20は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスのリンパ球におけるCD3及びCD8a陽性細胞の割合(%)を示す図である。
【図21】図21は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスのリンパ球におけるCD3及びB220陽性細胞の割合(%)を示す図である。
【図22】図22は、各種投与量でケラタン硫酸二糖(III)を投与したときのMRLマウスの顎下リンパ節中のアポトーシス細胞数を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラタン硫酸オリゴ糖からなる、下記(a)及び(b)の特性を有するケラタン硫酸オリゴ糖画分であって、前記ケラタン硫酸オリゴ糖が、式(I)で表わされる四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、式(II)で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、式(III)で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖から選ばれることを特徴とするケラタン硫酸オリゴ糖画分。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
(a)エンドトキシンを実質的に含まず、また核酸、蛋白質、プロテアーゼの含有量は検出限界以下である。
(b)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない。
【請求項2】
軟骨魚類由来の高硫酸化ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素で分解後、分画して得られる請求項1に記載のケラタン硫酸オリゴ糖画分。
【請求項3】
ケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩と、通常医薬に用いられる担体、賦形剤、その他の添加物等とからなる医薬組成物であって、前記ケラタン硫酸オリゴ糖が、式(I)で表わされる四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、式(II)で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、式(III)で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖から選ばれることを特徴とする医薬組成物。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【請求項1】
ケラタン硫酸オリゴ糖からなる、下記(a)及び(b)の特性を有するケラタン硫酸オリゴ糖画分であって、前記ケラタン硫酸オリゴ糖が、式(I)で表わされる四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、式(II)で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、式(III)で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖から選ばれることを特徴とするケラタン硫酸オリゴ糖画分。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
(a)エンドトキシンを実質的に含まず、また核酸、蛋白質、プロテアーゼの含有量は検出限界以下である。
(b)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸を実質的に含まない。
【請求項2】
軟骨魚類由来の高硫酸化ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素で分解後、分画して得られる請求項1に記載のケラタン硫酸オリゴ糖画分。
【請求項3】
ケラタン硫酸オリゴ糖及び/又はその薬学的に許容される塩と、通常医薬に用いられる担体、賦形剤、その他の添加物等とからなる医薬組成物であって、前記ケラタン硫酸オリゴ糖が、式(I)で表わされる四硫酸化N−アセチルラクトサミン四糖、式(II)で表される三硫酸化N−アセチルラクトサミン五糖、式(III)で表される二硫酸化N−アセチルラクトサミン二糖から選ばれることを特徴とする医薬組成物。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(I)
NeuAc〜Galβ1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(II)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(III)
(式中、Galはガラクトースを、GlcNはグルコサミンを、Neuはノイラミン酸を、Acはアセチル基を、6Sは6-O-硫酸エステルをそれぞれ表す。また、〜はα2,3結合又はα2,6結合を表す。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−19044(P2009−19044A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207058(P2008−207058)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【分割の表示】特願平8−518573の分割
【原出願日】平成7年11月22日(1995.11.22)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【分割の表示】特願平8−518573の分割
【原出願日】平成7年11月22日(1995.11.22)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
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