説明

ケーブル式操作装置

【課題】パーキングブレーキ装置の小型化を実現する。
【解決手段】 ケーブル式操作装置は、一端がブレーキレバーに取付けられ、他端が支持部材に取付けられ、その内孔にケーブル54が挿通されているコイルバネ56を備えている。支持部材58とブレーキレバーの少なくとも一方には、コイルバネに側方から接触するガイド面58bが形成されている。コイルバネ56は、ガイド面と接触する側の端部において、その端部側から順に、第1のコイルピッチとなる第1ピッチ部56bと、第1のコイルピッチより小さな第2のコイルピッチとなる第2ピッチ部56aと、第2のコイルピッチより大きな第3のコイルピッチとなる第3ピッチ部56cを備えている。コイルバネ56がセットされた状態では、第1ピッチ部56bの素線同士は密着しない一方で第2ピッチ部56aの素線同士が密着し、その密着部がガイド面の先端と当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のパーキングブレーキ装置に用いられるケーブル式操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のパーキングブレーキ装置は、通常、ブレーキレバーと、ブレーキレバーに一端が連結されたケーブルと、ケーブルを案内するコイルバネを備えている。運転者がパーキングブレーキレバーを操作すると、その操作力がケーブルを介してブレーキレバーに伝達される。これにより、ブレーキレバーがセット位置からブレーキ位置に移動し、自動車のタイヤに制動力が作用する。ブレーキレバーをブレーキ位置に移動させた状態では、コイルバネは圧縮され、ブレーキレバーをセット位置に向かって付勢する。運転者がパーキングブレーキレバーを操作して制動力を開放すると、コイルバネの付勢力によって、ブレーキレバーがブレーキ位置からセット位置に戻る。
【0003】
この種のパーキングブレーキ装置は、通常、コイルバネの一端部を支持する支持部材を有している。支持部材には、コイルバネをガイドするガイド面が形成される。ガイド面は、コイルバネの側面に接触してコイルバネを案内する。コイルバネが伸縮する際は、コイルバネがガイド面に対して摺動する。このため、コイルバネがガイド面によって磨耗し、コイルバネの耐久性が低下する。そこで、特許文献1のケーブル式操作装置では、コイルバネの端部に密巻部を形成し、この密巻部が支持部材のガイド面と接触するようにしている。ガイド面に密巻部が接触することで、コイルバネの各素線に作用する接触圧が低く抑えられ、コイルバネの耐久性が低下することが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−150468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の軽量化を図るために、パーキングブレーキ装置の小型化が検討されている。パーキングブレーキ装置を小型化するためには、コイルバネのセット長(即ち、荷重調整後のコイルバネの長さ)を短くしなければならない。しかしながら、コイルバネのセット長を短くしても、運転者のレバー操作をブレーキレバーに確実に伝えなければならない。このためには、パーキングブレーキレバーの操作量(即ち、ブレーキレバーの可動範囲)は変わらないことが望ましい。このため、単純にコイルバネの長さを短くすると、コイルバネを圧縮したときにコイルバネに生じる応力が大きくなってしまう。コイルバネに生じる応力が大きくなると、それに応じてコイルバネの材料強度を上げ、あるいは、コイルバネの外径を大きくしなければならない。コイルバネの材料強度を上げることはコスト面から難しく、また、コイルバネの外径を大きくすることはパーキングブレーキ装置の小型化の要請と反する。このため、現時点では、実用に耐え得る小型化されたパーキングブレーキ装置は実現していない。
【0006】
なお、コイルバネの端部に設けた密巻部を無くせば、圧縮時に発生するコイルバネの応力を低く抑えることはできる。しかしながら、密巻部を無くすと、ガイド面との摺動によるコイルバネの耐久性の低下という問題が解決できない。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、コイルバネの耐久性を保ちつつコイルバネに生じる応力を低く抑えることで、パーキングブレーキ装置の小型化を実現可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が行った耐久試験の結果、コイルバネがガイド面との摺動によって折損する位置は、ガイド面の先端と摺動する部位であることが判明した。すなわち、コイルバネはガイド面の全体と摺動するが、コイルバネが折損する位置は、ガイド面の先端と摺動する位置の近傍であることが判明した。このため、コイルバネの耐久性を向上するには、ガイド面の先端と摺動する部位の耐久性を向上することが重要であることが分かった。
【0009】
本願のケーブル式操作装置は、上記の知見に基づいて為されたものである。このケーブル式操作装置は、ブレーキレバーと、一端がブレーキレバーに連結されたケーブルと、ケーブルをその配索経路上で支持する支持部材と、一端がブレーキレバーに取付けられ、他端が支持部材に取付けられ、その内孔にケーブルが挿通されているコイルバネを備えている。支持部材とブレーキレバーの少なくとも一方には、コイルバネに側方から接触するガイド面が形成されている。コイルバネは、少なくともガイド面と接触する側の端部において、その端部側から順に、第1のコイルピッチとなる第1ピッチ部と、第1のコイルピッチより小さな第2のコイルピッチとなる第2ピッチ部と、第2のコイルピッチより大きな第3のコイルピッチとなる第3ピッチ部を備えている。コイルバネが支持部材とブレーキレバーに取付けられると共に荷重調整が行われた状態(すなわち、セット状態)では、コイルバネの長さが80〜120mmとなり、第1ピッチ部の素線同士は密着しない一方で第2ピッチ部の素線同士が密着し、第2ピッチ部の密着部がガイド面の先端と当接する。
【0010】
このケーブル式操作装置では、コイルバネのガイド面と摺動する側の端部に、第1〜第3ピッチ部を設け、第2ピッチ部のコイルピッチを第1,第3ピッチ部のコイルピッチよりも小さくしている。そして、コイルバネがセット状態では、第2ピッチ部の素線同士が密着し、その密着部がガイド面の先端と当接する。ガイド面の先端と当接する部分では素線同士が密着しているため、コイルバネの耐久性を向上することができる。また、ガイド面と当接する第1ピッチ部のコイルピッチが第2ピッチ部のコイルピッチより大きくされているため、第1ピッチ部がバネとして機能する。このため、コイルバネに作用する応力を低く抑えることができる。その結果、コイルバネの材料強度を上げる必要はなく、また、コイルバネの外径を大きくする必要もなく、セット状態でコイルバネの長さが80〜120mmとなる小型のパーキングブレーキ装置を実現することができる。
ここで、コイルバネが支持部材とブレーキレバーに取付けられると共に荷重調整が行われた状態(セット状態)とは、ブレーキレバーがセット位置にあり、タイヤに制動力が作用していない状態を意味する。
【0011】
上記のケーブル式操作装置では、コイルバネが支持部材とブレーキレバーに取付けられると共に荷重調整が行われた状態(セット状態)では、第2ピッチ部の一方の端からガイド面の先端までの距離が3〜5mmであり、第2ピッチ部の他方の端からガイド面の先端までの距離が3〜5mmであることが好ましい。本発明者等が行った実験によると、上記の距離を3mm以上とすることで、コイルバネの耐久性を飛躍的に向上することができる。また、各距離を5mm以下とすることで、コイルバネに生じる応力を好適に低く抑えることができる。
【0012】
上記のケーブル式操作装置では、コイルバネが自然状態のときに、第2ピッチ部において素線間に隙間が形成されていることが好ましい。このような構成によると、コイルピッチが小さい第2ピッチ部の素線にも表面処理(メッキ処理等)を施すことができる。ここで、コイルバネの自然状態とは、コイルバネに外力が作用していない状態をいう。
【0013】
また、上記のケーブル式操作装置では、コイルバネは、両端部において、その端部側から順に第1ピッチ部と第2ピッチ部と第3ピッチ部を備えていることが好ましい。このような構成によると、コイルバネの向きを確認することなくコイルバネを取付けることができ、コイルバネの取付け性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例に係るパーキングブレーキ装置の平面図。
【図2】図1のII−II断面を示す断面図。
【図3】コイルバネの側面図。
【図4】ブレーキレバーの下端が支持部材と最も近づいた状態における支持部材の近傍を示す断面図。
【図5】セット状態における第2ピッチ部の端部からガイド面の先端までの距離をパラメータとして、コイルバネの耐久性を検証した実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明する実施例の技術的特徴を列記する。
(特徴1) コイルバネの第2ピッチ部(密巻部)の素線間の間隔は、自然状態において0.1mm以上である。
(特徴2) セット状態におけるコイルバネのバネ荷重は、20〜30Nである。
(特徴3) コイルバネの外径は8mm以下であり、コイルバネの内径は4.5mm以上である。
(特徴4) コイルバネのバネ定数は2N/mm以下である。
【実施例1】
【0016】
実施例1に係る自動車用パーキングブレーキ装置を図面に基づいて説明する。図1は、自動車の後輪に配置されているドラム式のパーキングブレーキ装置10の一部抜粋図である。パーキングブレーキ装置10は、バックプレート12とブレーキシューアッセンブリ14とケーブル式操作装置50を備えている。
【0017】
バックプレート12は、円板形状の基部12aと、基部12aの外周端に沿った円筒形状の外周部12bを有している。ブレーキドラム(図示省略)は、外周部12bに沿って配置されている。
【0018】
ブレーキシューアッセンブリ14は、ブレーキシュー16,18と、シリンダ20と、間隔調整装置21と、コイルバネ28,32と、アンカー部材30を備えている。ブレーキシュー16,18は、バックプレート12の基部12aにそれぞれ支持されている。ブレーキシュー16,18は、左右対称に配置されている。ブレーキシュー16は、ライニング16aとリブ16bとウェブ16cを備えている。ウェブ16cは平板形状を有している。ウェブ16cはバックプレート12に略平行に配置されている。ウェブ16cは、シュー支持部材16dによって、基部12aに弾性的に支持されている。ウェブ16cの外側端(図1の左側の端)は円弧状に形成されている。リブ16bは、ウェブ16cの外側端に略垂直に固定されている。リブ16bの外側面には、ライニング16aが貼付されている。
【0019】
ブレーキシュー18は、ブレーキシュー16と同様に、ライニング18aとリブ18bとウェブ18cを備えている。ウェブ18cは、シュー支持部材18dによって、基部12aに弾性的に支持されている。ブレーキシュー18は、ブレーキシュー16と略同一の構成であるため、ブレーキシュー16の説明と重複する部分については説明を省略する。ブレーキシュー18は、ブレーキシュー16と左右対称に配置されている。
【0020】
ウェブ16c,18cの上端は、シリンダ20内のピストン(図示省略)にそれぞれ係合している。シリンダ20は、基部12aに固定されている。シリンダ20の下方には、コイルバネ28が配置されている。コイルバネ28は、その左端がウェブ16cに係合しており、その右端がウェブ18cに係合している。コイルバネ28は、ブレーキシュー16,18をその間隔が小さくなる方向に付勢している。また、ウェブ16c,18cの下端側には、コイルバネ32が配置されている。コイルバネ32は、その左端がウェブ16cの下端に係合しており、その右端がウェブ18cの下端に係合している。コイルバネ32は、ブレーキシュー16,18をその間隔が小さくなる方向に付勢している。コイルバネ32の上方にはアンカー部材30が配置されている。アンカー部材30はウェブ16c,18cの下端をそれぞれ支持している。
【0021】
間隔調整装置21は、ストラット22とレバー24とコイルバネ26を備えている。ストラット22は、コイルバネ28の内孔に挿通されている。ストラット22の右端は、ウェブ18cに係合している。ストラット22の左端は、後述するブレーキレバー52に係合している。ストラット22は、ストラット22の長手方向(図1の左右方向)の長さを調整するダイアル22aを備えている。ダイアル22aは、レバー24の一端に当接可能に配置されている。レバー24は、ストラット22の右端に回動可能に支持されている。レバー24は、コイルバネ26によって反時計回りに付勢されている。コイルバネ26の一端は、ウェブ18cに係合している。間隔調整装置21は、必要に応じて、ダイアル22aを回動させてストラット22の長さを調整する。これによって、ブレーキシュー16,18の間隔が調整され、また、後で詳述するコイルバネ56の長さ及びセット荷重が調整される。
【0022】
ケーブル式操作装置50は、ケーブル54とブレーキレバー52とコイルバネ56と支持部材58を備えている。ブレーキレバー52は、ウェブ16cと基部12aとの間に配置されている。ブレーキレバー52は、ブレーキ装置10の上下方向に伸びる平板形状である。ブレーキレバー52の上端部は、ウェブ16cの上部に貫通して固定されているピン60に回動可能に支持されている。ブレーキレバー52のピン60よりも下方には、ストラット22の左端が係合している。ブレーキレバー52の下端には、ケーブル支持部52aが形成されている。ケーブル支持部52aは、断面がU溝形状である。ケーブル支持部52aは、ケーブル54の一端を支持している。ケーブル54は、全長に亘ってその表面に樹脂が被覆されている。ケーブル54は、コイルバネ56の内孔に挿通されている。ケーブル54の一端には、コイルバネ56の端部のコイル径よりも径の大きい円柱形状のケーブルエンド54aが固定されている。ケーブルエンド54aは、例えば、四角柱形状、六角柱形状等の多角形の断面を有していてもよい。ケーブルエンド54aは、ケーブル支持部52aの左端と当接している。これにより、ケーブル54がブレーキレバー52に固定されている。ケーブル54の他端には、パーキングブレーキレバー(図示省略)が接続されている。
【0023】
コイルバネ56の右端は、支持部材58に支持されている。ケーブル54は、支持部材58の貫通孔58aを通って配索され、支持部材58によって支持されている。図2は、図1のII−II断面を示している。図2は、パーキングブレーキが解除され、ブレーキレバー52の下端と支持部材58とが最も離間した位置にある状態(セット状態)を示している。即ち、コイルバネ56がケーブル式操作装置50に取付けられると共に、間隔調整装置21によりストラット22の長さが調整された状態を示している。図2に示すように、ケーブル54は、支持部材58の貫通孔58aを通過している。支持部材58には、ガイド面58bが形成されている。
【0024】
図3は、コイルバネ56が自然状態のときのコイルバネ56の側面図である。コイルバネ56は、その線径が一定である鋼線で作製されている。コイルバネ56の線径は、例えば、0.8mm〜1.4mmとすることができる。また、コイルバネ56の内径は、一定であり、例えば、4.5mm〜6.0mmとすることができる。コイルバネ56の内径を4.5mm以上とすることで、コイルバネ56の内部にケーブル54が通過する空間を好適に確保することができる。また、コイルバネ56の外径は、例えば、6.1mm〜8.0mmとすることができる。コイルバネ56の外径を8.0mm以下とすることで省スペース化が図られ、他の部材との干渉等を好適に防止することができる。
【0025】
コイルバネ56は、第1ピッチ部56bと、第2ピッチ部56aと、第3ピッチ部56cを備えている。第1ピッチ部56bは、コイルバネ56の両端に形成されている。両端に形成された第1ピッチ部56bの長さは、互いに等しい。第2ピッチ部56aも、コイルバネ56の両端に形成され、第1ピッチ部56bの中央側に連続している。第2ピッチ部56aのコイルピッチは、第1ピッチ部56bのコイルピッチよりも小さい。両端に形成された第2ピッチ部56aの長さも、互いに等しい。第3ピッチ部56cは、第2ピッチ部56aの間に形成されている。第3ピッチ部56cのコイルピッチは、第2ピッチ部56aのコイルピッチよりも大きく、第1ピッチ部56bのコイルピッチと同一となっている。
【0026】
図3から明らかなように、コイルバネ56が自然状態では、第2ピッチ部56aの素線間にも隙間が形成されている。第2ピッチ部56aの素線間の間隔は、例えば、自然状態において0.1mm以上とすることが好ましい。第2ピッチ部56aの素線間に隙間を形成することで、第2ピッチ部56aの素線にも表面処理を好適に施すことができる。すなわち、コイルバネ56は、耐食性等を向上するために、その表面に表面処理(例えば、メッキ処理)が行われることがある。第2ピッチ部56aの素線間に0.1mm以上の隙間を形成することで、第2ピッチ部56aの素線の表面に好適に表面処理を施すことができる。なお、第1ピッチ部56bと第3ピッチ部における素線間の間隔は、例えば、0.6mm〜1.4mmとすることができる。
【0027】
図2に示すように、コイルバネ56がパーキングブレーキ装置10にセットされた状態では、コイルバネ56は支持部材58のガイド面58bに接触して湾曲している。具体的には、コイルバネ56の第1ピッチ部56b及び第2ピッチ部56aがガイド面58bに接触している。この状態では、第1ピッチ部56b及び第3ピッチ部56cの素線間に隙間が形成される一方で、第2ピッチ部56aの素線間には隙間が形成されていない。すなわち、第2ピッチ部56aでは素線同士が密着している。第2ピッチ部56aの素線同士が密着した密着部(B点〜C点)は、ガイド面58bの先端(A点)に当接している。本実施例では、密着部の一端(B点)からガイド面58bの先端(A点)までの距離が3.0〜5.0mmとなり、かつ、密着部の他端(C点)からガイド面58bの先端(A点)までの距離が3.0mm〜5.0mmとなるように、コイルバネ56の諸元が設定されている。
【0028】
また、本実施例では、コイルバネ56がパーキングブレーキ装置10にセットされた状態で、コイルバネ56の長さが80〜120mmとなるように設定される。コイルバネ56のセット状態の長さを120mm以下とすることで、パーキングブレーキ装置10のコンパクト化が図られている。また、コイルバネ56のセット状態の長さを80mm以上とすることで、パーキングブレーキ装置10の外径がある程度は確保され、十分な制動力を得ることができる。
【0029】
なお、コイルバネ56の自然長は、セット状態のコイルバネ56の長さよりも少なくとも5mm以上長く設定されている。これによって、セット状態におけるコイルバネ56のばたつきを防止している。また、セット状態におけるコイルバネ56のバネ荷重が20〜30Nとなり、コイルバネのバネ定数が2N/mmとなるように、コイルバネ56の諸元が設定されている。コイルバネ56がこのような荷重特性を有することで、ケーブル54に十分な復元力を与える一方で、コイルバネ56のバネ力がパーキングブレーキ装置10の制動力に影響することを防止することができる。
【0030】
次に、パーキングブレーキ装置10の動作について説明する。自動車の運転手がパーキングブレーキレバーを操作し、ケーブル54が図1の右側に引っ張られると、ブレーキレバー52がピン60を支点にして反時計回りに回動する。これにより、ストラット22を介してブレーキシュー18がアンカー部材30を支点にしてブレーキシュー16と離間する方向に移動される。それに伴って、ブレーキシュー16もアンカー部材30を支点にしてブレーキシュー18と離間する方向に移動される。その結果、ブレーキシュー16,18は、ドラムの内周面と接触する。これにより、パーキングブレーキが有効となる。この状態では、コイルバネ56は、ブレーキレバー52と支持部材58によって圧縮方向の力が付与される。自動車の運転手がパーキングブレーキレバーを操作し、ケーブル54の引張力が緩められると、ブレーキレバー52は、コイルバネ56の付勢力によって、ピン60を支点にして時計回りに回動する。これにより、ブレーキシュー16,18が接近する方向に移動され、パーキングブレーキが解除される。
【0031】
ケーブル54が図1の右側に引っ張られると、ブレーキレバー52の下端と支持部材58の間隔が狭くなり、コイルバネ56が圧縮される。図4は、ブレーキレバー52の下端が支持部材58と最も近づいた状態における支持部材58の近傍を示す断面図である。図4の状態では、コイルバネ56の長さが最小となっている。この状態でも、ガイド面58bの先端(A点)は、第2ピッチ部56aの密着部に当接している。すなわち、このパーキングブレーキ装置10においては、コイルバネ56がセット状態からコイルバネ56が最も圧縮された状態まで変化する間、常に、第2ピッチ部56aの密着部が、ガイド面58bの先端(A点)と当接している。
【0032】
本実施例のパーキングブレーキ装置10では、支持部材58のガイド面58bの先端(A点)に接触する範囲において、コイルバネ56の素線同士が密着している。このため、コイルバネ56の耐久性が最も要求される部位(ガイド面58bの先端と接触する部位)において、コイルバネ56の素線に負荷される外力が低減される。これにより、コイルバネ56の耐久性が低下することを好適に防止することができる。
また、コイルバネ56は、その端部側から順に第1,第2、第3ピッチ部56b,56a,56cを有しており、ガイド面58bと接触する第1ピッチ部56bがバネとして機能する。このため、素線同士が接触してバネとして機能しない部位が少なくなり、コイルバネ56に作用する応力を低減することができる。
これらによって、本実施例では、コイルバネ56の材料強度を上げる必要はなく、また、コイルバネ56の外径を大きくする必要もなく、セット状態でコイルバネ56の長さが80〜120mmとなる小型のパーキングブレーキ装置10を実現している。
【0033】
また、本実施例では、コイルバネ56がセットされた状態で、第2ピッチ部56aの素線同士が密着した密着部の一端(B点)からガイド面58bの先端(A点)までの距離が3.0〜5.0mmとなり、かつ、密着部の他端(C点)からガイド面58bの先端(A点)までの距離が3.0mm〜5.0mmとなるように、コイルバネ56の諸元が設定されている。このため、コイルバネ56がセット状態から最も圧縮された状態(図4の状態)まで変化する間、常に、第2ピッチ部56aの密着部がガイド面58bの先端(A点)と当接する。これによって、コイルバネ56の耐久性を飛躍的に向上することができる。また、密着部の一端(B点又はC点)からガイド面58bの先端(A点)までの距離が5mmを超えないため、コイルバネ56に作用する応力が大きくなり過ぎることを好適に防止することができる。
【0034】
図5は、セット状態における第2ピッチ部(密着部)56aの端部からガイド面58bの先端(A点)までの距離をパラメータとして、コイルバネ56の耐久性を検証した実験結果を示すグラフである。図5の横軸は、パーキングブレーキレバーを操作した回数を示しており、縦軸は、第2ピッチ部(密着部)56aの端部からガイド面58bの先端(A点)までの距離を示している。実験には、材料がSWC、線径が1.2mm、内径が4.8mm、外径が7.2mmのコイルバネを用いた。また。セット状態において第2ピッチ部(密着部)56aの中央がガイド面58bの先端(A点)に当接するように、コイルバネ56の第1,第2,第3ピッチ部56a〜56cの長さを決定した。また、セット状態におけるコイルバネ56のバネ長さを110mmとし、コイルバネ56を最も圧縮したときのコイルバネ56のバネ長さを85mmとした。図5の各点は、コイルバネ56が折損したときのパーキングブレーキレバーの操作回数を示している。図5から明らかなように、セット状態における第2ピッチ部56aの端部からガイド面58bの先端までの距離を3mm以上とすることで、パーキングブレーキレバーの操作回数が20万回を越えても、コイルバネ56が折損しなかった。この実験結果から、セット状態における第2ピッチ部56aの端部からガイド面58bの先端までの距離を3mm以上とすることで、コイルバネ56の耐久性が飛躍的に向上していることが分かった。
【0035】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0036】
例えば、上述した実施例では、コイルバネ56の第1ピッチ部56b及び第2ピッチ部56cが、コイルバネ56の両端部に設けられている。しかしながら、第1ピッチ部56b及び第2ピッチ部56cは、ガイド面58bが設けられている側の端部にのみ設けられていてもよい。
また、コイルバネ56は、自然状態で第2ピッチ部56aの素線間に隙間が形成されていた。しかしながら、コイルバネ56が自然状態となるときに、第2ピッチ部56aの素線同士が密着していてもよい。
また、支持部材が複数設けられ、各支持部材にガイド面を形成してもよい。あるいは、ブレーキレバー52側にガイド面を形成してもよい。複数のガイド面を有する場合には、各ガイド面の端部に当接する部位に密着部が形成されるように、第2ピッチ部を配置すればよい。
さらに、コイルバネ56の第1ピッチ部56bのコイルピッチと、第2ピッチ部56aのコイルピッチと、第3ピッチ部56cのコイルピッチは、コイルバネ56に要求される特性に応じて適宜設計することができる。また、各ピッチ部において、コイルピッチを一定とする必要はなく、コイルピッチが連続的に変化するようにしてもよい。
【0037】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は、複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
10:パーキングブレーキ装置
12:バックプレート
14:ブレーキシューアッセンブリ
16,18:ブレーキシュー
50:ケーブル式操作装置
52:ブレーキレバー
52a:ケーブル支持部
54:ケーブル
56:コイルバネ
56a:第2ピッチ部
56b:第1ピッチ部
56c:第3ピッチ部
58:支持部材
58b:ガイド面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用のパーキングブレーキ装置に用いられるケーブル式操作装置であって、
ブレーキレバーと、
一端がブレーキレバーに連結されたケーブルと、
ケーブルをその配索経路上で支持する支持部材と、
一端がブレーキレバーに取付けられ、他端が支持部材に取付けられ、その内孔にケーブルが挿通されているコイルバネと、を備えており、
支持部材とブレーキレバーの少なくとも一方には、コイルバネに側方から接触するガイド面が形成されており、
コイルバネは、少なくともガイド面と接触する側の端部において、その端部側から順に、第1のコイルピッチとなる第1ピッチ部と、第1のコイルピッチより小さな第2のコイルピッチとなる第2ピッチ部と、第2のコイルピッチより大きな第3のコイルピッチとなる第3ピッチ部を備えており、
コイルバネが支持部材とブレーキレバーに取付けられると共に荷重調整が行われた状態では、コイルバネの長さが80〜120mmとなり、第1ピッチ部の素線同士は密着しない一方で第2ピッチ部の素線同士が密着し、その第2ピッチ部の密着部がガイド面の先端と当接することを特徴とするケーブル式操作装置。
【請求項2】
コイルバネが支持部材とブレーキレバーに取付けられると共に荷重調整が行われた状態では、第2ピッチ部の一方の端からガイド面の先端までの距離が3〜5mmであり、第2ピッチ部の他方の端からガイド面の先端までの距離が3〜5mmであることを特徴とする請求項1に記載のケーブル式操作装置。
【請求項3】
コイルバネが自然状態のときに、第2ピッチ部において素線間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のケーブル式操作装置。
【請求項4】
コイルバネは、両端部において、その端部側から順に第1ピッチ部と第2ピッチ部と第3ピッチ部を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のケーブル式操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−174513(P2011−174513A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38123(P2010−38123)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000210986)中央発條株式会社 (173)
【Fターム(参考)】