説明

ゲル状イオン導電体及びその製造方法

【課題】高い電解液保持力と機械的強度(外部応力に対する形状維持性)とを備え、且つ透明性の高いゲル状イオン導電体を提供する。
【解決手段】ゲルのマトリックス材としてのポリウレタンと、非水系溶媒と、電解質とを含むゲル状イオン導電体であり、前記ポリウレタンが、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(但し、前記水酸基及びイソシアネート基のいずれかが少なくとも3つ以上である)に由来する架橋構造を有していることを特徴とするゲル状イオン導電体により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状イオン導電体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、非水系溶媒を多く含有することができるとともに機械的強度に優れたゲル状イオン導電体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン導電体(電解質)は、リチウムイオン二次電池、湿式光電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスの構成要件となっている。その電解質が液状の場合、液漏れ、短絡による発熱や引火等の事故が発生する可能性がある。
【0003】
そこで、上記電気化学デバイスにおいては、電解液の漏洩防止を目的として、ポリマー中に溶媒を含有させたゲル状の電解質が提案されている。例えば、ポリエーテル系のポリウレタンにリチウムイオン化合物を溶解した非水系の電解液を含浸、保持させてゲル状にしたゲル状電解質が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1のゲル状電解質は、従来から使用されていた液状の電解質に代わるものであり、液漏れの問題を解消しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−283103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、電気化学デバイスにおいては、使用する電解液の導電性がデバイスの特性を左右することから、ゲル状電解質は良好な導電性を有することが要求される。ゲル状電解質が良好な導電性を有するためには、多くの電解液を含有できることが必要とされる。しかし、特許文献1に記載されたゲル状電解質は、電解液の保持能力、即ち保液性が十分ではないために、電解液の含有量を多くすることが困難であった。
【0006】
ゲル状電解質は、導電性を良くするために電解液を多く保持させると、外部応力に対する形状維持性、即ち機械的強度の低下を引き起こす可能性があり、更には電解液の滲み出しが発生するおそれもある。一方、機械的強度の低下や電解液の滲み出しを防止するために電解液の保持量を抑制すると、導電性が低下してデバイスの性能を低下させることになってしまう。上述したように、ゲル状電解質においては、機械的強度と導電性とを高い水準で両立させることが技術的な課題となっている。また、ゲル状電解質は、例えば、光透過性を必要とするデバイスや外部から見える部分等に用いることができれば、その利用範囲も広がるため、透明性の高いものが望まれていた。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、その目的とするところは、電解液を安定的に多く含有できる特性と機械的強度(外部応力に対する形状維持性)とを備え、且つ透明性の高いゲル状イオン導電体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物とを架橋反応させて得られるポリウレタンが、非水系溶媒の保液能力が高く、多量の溶媒をゲルに含有させることが可能なためにイオン伝導性が良く、また形状維持性に優れ、且つ高い透明性が得られることを見出して本発明に至った。
【0009】
かくして本発明によれば、ゲルのマトリックス材としてのポリウレタンと、非水系溶媒と、電解質とを含むゲル状イオン導電体であり、前記ポリウレタンが、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(但し、前記水酸基及びイソシアネート基のいずれかが少なくとも3つ以上である)に由来する架橋構造を有していることを特徴とするゲル状イオン導電体が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、電解質を含む非水系溶媒中で、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(但し、前記水酸基及びイソシアネート基のいずれかが少なくとも3つ以上である)を架橋反応させることによりゲル状イオン導電体を得ることを特徴とするゲル状イオン導電体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるゲル状イオン導電体は、非水系溶媒と電解質を含む電解液を安定的に多く含有できるために、イオン伝導性が高くかつ液漏れによる危険性が少ない。また、機械的強度が高いため、外部応力に対する形状維持性に優れている。更に、高い透明性を有している。このように、従来のゲル状イオン導電体が抱えていた問題を解決した本発明によるゲル状イオン導電体は、リチウムイオン二次電池、湿式光電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに好適に使用され得る。また、電圧印加により色調変化を発現させるエレクトロクロミック現象を利用した調光ガラス等の調光材料、光電気化学の原理を応用した新たな記録媒体の材料等の新たな分野に利用されることが期待できる。
【0012】
また、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールが、ポリカプロラクトンジオール又はポリカプロラクトントリオールである場合、更にイオン伝導性を高くでき、機械的強度に優れ且つ高い透明性を有したゲル状イオン導電体が得られる。
【0013】
また、分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物が、下記式
【化1】

(式中、R1〜R3は、同一又は異なった、炭素数1〜8のアルキレン基である。)
で表される化合物である場合、更にイオン伝導性を高くでき、機械的強度に優れ且つ高い透明性を有したゲル状イオン導電体が得られる。
【0014】
また、非水系溶媒及び電解質の合計が、ゲルのマトリックス材としてのポリウレタン100重量部に対して200〜500重量部含まれる場合、更にイオン伝導性を高くでき、機械的強度に優れ且つ高い透明性を有したゲル状イオン導電体が得られる。
【0015】
また、電解質が、非水系溶媒中に0.1〜15mol/lの濃度で含まれる場合、更にイオン伝導性を高くでき、機械的強度に優れ且つ高い透明性を有したゲル状イオン導電体が得られる。
【0016】
また、非水系溶媒が、炭酸エステル、ラクトン系化合物、スルホラン系化合物、ラクタム系化合物及びホスフェート系化合物からなる群の中から選ばれる少なくとも一種以上の非プロトン性溶媒である場合、更にイオン伝導性を高くでき、機械的強度に優れ且つ高い透明性を有したゲル状イオン導電体が得られる。
【0017】
また、電解質が、リチウム塩及びカリウム塩から選ばれる少なくとも1種以上の電解質である場合、更にイオン伝導性を高くでき、機械的強度に優れ且つ高い透明性を有したゲル状イオン導電体が得られる。
【0018】
また、本発明によるゲル状イオン導電体の製造方法により、従来のゲル状イオン導電体が抱えていた上述の問題を解決できる。すなわち、電解液を安定的に多く含有でき、機械的強度に優れ且つ高い透明性を有したゲル状イオン導電体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明によるゲル状イオン導電体は、ゲルのマトリックス材としてのポリウレタンと、非水系溶媒と、電解質とを含む。ポリウレタンは、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(但し、前記水酸基及びイソシアネート基のいずれかが少なくとも3つ以上である)に由来する架橋構造を有している。
【0020】
架橋構造は、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物とを架橋反応させることにより得られる。
架橋構造を有することにより、優れた機械的強度を有することができる。これにより、非水系溶媒と電解質を含む電解液を多く含有させても液漏れし難くなり、且つ外部応力に対する形状維持性を向上できるようになる。
【0021】
なお、架橋構造を有するためには、水酸基及びイソシアネート基のいずれかが3つ以上である必要がある。これは、水酸基とイソシアネート基のいずれとも2つの場合、架橋構造を形成し得ないからである。
【0022】
ポリカプロラクトンポリオールは、例えば、ポリオールにカプロラクトンモノマーを開環重合することにより製造できる。原料として用いるポリオールの種類及びカプロラクトンの重合度により、得られるポリカプロラクトンポリオールの性質を調整できる。以下に、1分子中の水酸基の数が2又は3個であるポリカプロラクトンポリオール(ポリカプロラクトンジオール又はポリカプロラクトントリオール)の典型的な構造を示す。前記ポリカプロラクトンポリオールは1分子中にカプロラクトン由来の単位を2以上有する。
【0023】
【化2】

(式中、mは0以上の整数、nは1以上の整数、m+nは2以上であり、R1は2価の有機残基を表す。)
【0024】
【化3】

(式中、m及びpは0以上の整数、nは1以上の整数、m+n+pは2以上であり、R2は3価の有機残基を表す。)
【0025】
1は、1分子中に水酸基を2個有するポリオール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等に由来し、R2は、1分子中に水酸基を3個有するポリオール、例えば2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(慣用名:トリメチロールプロパン)、2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、グリセリン、トリエタノールアミン等に由来する。
【0026】
なお、ポリカプロラクトンポリオールの分子量は、特に限定されるものではないが、500〜4,000であることが好ましく、500〜2,000であることが更に好ましい。
【0027】
分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールは、次のような商品名で市販されており、これらのうちから任意に選択してもよい。
2官能のポリカプロラクトンジオールとしてダイセル化学工業社製のPLACCEL200シリーズが挙げられ、品種や性状によって205、L−205AL、208、L−208AL、210、210N、212、L−212AL、220、220N、220NP1、L−220AL、230、230−AL、240という商品に分類される。
【0028】
3官能のポリカプロラクトントリオールとしてはダイセル化学工業社のPLACCEL300シリーズが挙げられ、品種や性状によって303、305、308、312、L312AL、320ML、L320ALという商品に分類される。
【0029】
分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物としては、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルイソシアネート)、キシリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物あるいはジイソシアネートから誘導されるポリイソシアネート、例えば、イソシアヌレート変性ポリイソシアネート、アロファネート変性ポリイソシアネート、ビュレット変性ポリイソシアネートなどが挙げられる。これらの中でも、電気化学安定性、耐候性、ゲルの柔軟性付与のため以下の構造のものが好ましい。
【0030】
【化4】

(式中、R1〜R3は、同一又は異なった、炭素数1〜8のアルキレン基である。)
【0031】
1〜R3のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン等が挙げられる。R1〜R3は、異なる炭素数のアルキレン基でもよいが、同一の炭素数のアルキレン基であることが好ましい。
【0032】
上記ポリウレタンの重合に際して、架橋構造を形成させるためには、2つの水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと3つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、もしくは3つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと2つのイソシアネート基を有するポリイソシアネートの組み合わせであることが好ましい。また、ポリオール成分とポリイソシアネート成分の反応比は、末端の官能基の比率、即ちNCO/OH価を0.5≦NCO/OH≦1.0となるように規制することが好ましい。
【0033】
NCO/OH価が1.0を超える場合、末端のNCOがフリーな状態のものが多くなり、水分との反応により揮発成分が発生することがある。一方、0.5未満の場合、架橋が十分に行われない可能性があり、イオン導電体の機械的強度が低下することがある。
【0034】
ポリウレタンの重合に際して、硬化促進のために重合触媒を加えてもよい。重合触媒としては、金属酸化物、有機金属化合物、アミン系触媒が挙げられる。
【0035】
ゲル状イオン導電体に含有される非水系溶媒は、化学的に安定なものであれば特に限定されないが、電解質のみならず、上記のカプロラクトンポリオール及びイソシアネートをも溶解できるものであれば、より好ましい。そのような非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の炭酸エステルの他、γ−ブチロラクトンのようなラクトン系化合物、スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン系化合物、アジポニトリル、グルタロニトリル等のニトリル系化合物、N−メチルピロリドンのようなラクタム系化合物、トリメチルホスフェートのようなホスフェート系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、また2種以上を混合溶媒として用いてもよい。
【0036】
非水系溶媒及び電解質の含有量の合計は、ポリウレタン100重量部に対して200〜500重量部であることが好ましい。より好ましくは、300〜450重量部である。非水系溶媒及び電解質の含有量が200重量部未満だと、イオン伝導度が十分でなく電池としての充放電容量が低下する場合がある。また、透明性が失われる場合がある。一方、500重量部を超えると、ゲル状イオン導電体の機械的強度が低下する場合がある。
【0037】
ゲル状イオン導電体に含有される電解質としては、公知のものであれば特に限定されない。例えば、無機化合物であるLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6等のリチウム塩、KClO4、KBF4、KPF6、KAsF6等のカリウム塩やNaClO4、NaBF4、NaPF6、NaAsF6等のナトリウム塩、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、(CF3SO23CLi等の有機フッ素リチウム塩、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、モノメチルトリエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの電解質は、電気化学デバイスの用途及び使用する非水形溶媒への溶解度、電解液への伝導度等を考慮して適宜選択されてもよい。
【0038】
非水系溶媒中の電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.1〜15mol/lが好ましい。より好ましくは、0.1〜5mol/lである。
【0039】
ゲル状イオン導電体の厚さは、電気化学デバイスの用途により異なるが、1mm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.001〜0.5mmであり、0.001〜0.3mmが特に好ましい。0.001mm未満の厚さでは、塗工困難となる場合がある。一方、1mmを超えると、電気性能を十分に得られない場合がある。
【0040】
本発明のゲル状イオン導電体を製造する方法としては、一旦、ポリウレタンを作成した後に、電解質を溶解した非水系溶媒に浸漬させて膨潤させる方法と、電解質を溶解させた非水系溶媒中で、ポリオールとイソシアネートとを反応させる方法が挙げられる。このうち、後者の方法が、ゲルの形状を自由にコントロールでき、且つ簡便に作成できるという観点から、好ましい。ゲル状イオン導電体以外の電気化学デバイスの構成物を作成後に、電解質を溶解させた非水系溶媒にポリオールとイソシアネートとを溶解させた溶液を当該デバイス中に注入し、加熱処理することによりゲルを生成すると、ゲルと構成物との密着性を向上させることができるという利点がある。
【0041】
本発明によるゲル状イオン導電体は、様々な電気化学的デバイスに使用することができる。例えば、リチウムイオン二次電池、湿式光電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。また、電圧印加により色調変化を発現させるエレクトロクロミック現象を利用した調光ガラス等の調光材料、光電気化学の原理を応用した新たな記録媒体の材料等に利用されることが期待できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
まず、実施例及び比較例で作製されたゲル状イオン導電体の評価方法について説明する。
【0044】
(機械的強度)
4cm×4cm、厚さ0.5mmのゲル状イオン導電体を、折り曲げた時の状態を目視により判断し、以下のように評価する。
○:180度折り曲げても裂けが生じず、形状を元に戻す弾性を有する。
×:180度折り曲げると裂ける。
【0045】
(電解液保液性)
電解液保液性は、ブリードの有無で判断する。具体的には、電解液のブリードは、ゲル表面から染み出すように発生することから、目視による判断のうえ、以下のように評価する。
○:硬化し、且つブリード無し
×:硬化するがブリード有り、あるいは硬化しない
【0046】
(全光線透過率、ヘイズ)
ゲル状イオン導電体の全光線透過率、ヘイズをヘーズメーターHM−150型(村上色彩技術研究所社製)にて測定する。測定条件は、透過についてはJIS K7361に従い、ヘイズについてはJIS K7136に従い測定する。
【0047】
(イオン伝導率)
ゲル状イオン導電体をステンレス板で挟み込み、測定用セルを作製する。25℃でセルの電極間に交流電圧を印加して抵抗成分を測定する(交流インピーダンス法を用いる)。コール・コールプロットの実数インピーダンス切片からイオン伝導率を計算する。
【0048】
(実施例1)
1mol/lに調製したLiPF6のプロピレンカーボネート(PC)溶液400重量部が入れられたガラス容器に、分子量2,000のポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学社製:プラクセル L−220AL、水酸基価=56.5mgKOH/g)84.4重量部、イソシアヌレート変性ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ社製:デュラネートTPA−100、NCO濃度23.1重量%)15.6重量部加えて十分混和した。更に重合触媒としての有機ジルコニア化合物(マツモトファインケミカルズ社製:オルガチックスZC−700)を適量加えて均一な配合液とした。この配合液を減圧脱泡してから、シリコン処理した100μm厚のポリエチレンテレフタレート離型フィルム上の型枠(型枠内寸法:4cm×4cm×0.5mm)に注入した。型枠内の配合液を60℃にして静置反応させることで、ゲル状イオン導電体を得た。
【0049】
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードが発生しなかった(○)。また、180度折り曲げてみたところ、裂けることなく元の形状に戻った(○)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率2.0×10-3S/cmであった。
【0050】
(実施例2)
1mol/lに調製したLiPF6のPC溶液を300重量部としたことを除き、実施例1と同様の方法によりゲル状イオン導電体を得た。
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードは発生しなかった(○)。
また、180度折り曲げてみたところ、裂けることなく元の形状に戻った(○)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率1.0×10-3S/cmであった。
【0051】
(実施例3)
1mol/lに調製したLiPF6のPC溶液を233重量部としたことを除き、実施例1と同様の方法によりゲル状イオン導電体を得た。
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードが発生しなかった(○)。また、180度折り曲げてみたところ、裂けることなく元の形状に戻った(○)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率5.0×10-4S/cmであった。
【0052】
(実施例4)
電解液を1mol/lに調製したKPF6のPC溶液に変更したことを除き、実施例1と同様の方法によりゲル状イオン導電体を得た。
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードが発生しなかった(○)。また、180度折り曲げてみたところ、裂けることなく元の形状に戻った(○)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率1.0×10-3S/cmであった。
【0053】
(実施例5)
電解液を1mol/lに調製したKPF6のPC溶液に変更したことを除き、実施例2と同様の方法によりゲル状イオン導電体を得た。
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードは発生しなかった(○)。
また、180度折り曲げてみたところ、裂けることなく元の形状に戻った(○)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率8.0×10-4S/cmであった。
【0054】
(実施例6)
分子量2,000のポリカプロラクトンジオール84.4重量部を分子量2,000のポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学社製:プラクセルL−320AL、水酸基価=83.4mgKOH/g)78.7重量部に、イソシアヌレート変性ポリイソシアネートの量を15.6重量部から21.3重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法によりゲル状イオン導電体を得た。
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードは発生しなかった(○)。
また、180度折り曲げてみたところ、裂けることなく元の形状に戻った(○)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率2.0×10-3S/cmであった。
【0055】
(実施例7)
1mol/lに調製したLiPF6のPC溶液を300重量部としたことを除き、実施例6と同様の方法によりゲル状イオン導電体を得た.
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードは発生しなかった(○)。
また、180度折り曲げてみたところ、裂けることなく元の形状に戻った(○)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率9.0×10-4S/cmであった。
【0056】
(比較例1)
ポリオール成分に分子量1,000のポリプロピレングリコール(日油社製:ユニオールD−1000、水酸基価=110mgKOH/g)73.7重量部を使用し、イソシアヌレート変性ポリイソシアネートを26.3重量部としたことを除き、実施例1と同様の方法で操作を行ったが、配合液は硬化せずゲル状イオン導電体を得られなかった。
【0057】
(比較例2)
1mol/lに調製したLiPF6のPC溶液を100重量部、ポリオール成分に分子量1,000のポリプロピレングリコール(日油社製:ユニオールD−1000、水酸基価=110mgKOH/g)73.7重量部、イソシアヌレート変性ポリイソシアネート26.3重量部としたことを除き、実施例1と同様の方法によりゲル状イオン導電体を得た。
得られたゲル状イオン導電体は、硬化し、且つブリードが発生しなかった(○)。また、180度折り曲げてみたところ、裂けてしまった(×)。ゲル状イオン導電体の全光線透過率は93%であり、ヘイズは0.4%であった。また、25℃でのイオン伝導率1.0×10-4S/cmであった。
【0058】
(比較例3)
ポリオール成分に分子量2,000のポリプロピレングリコール(日油社製:ユニオールD−2000、水酸基価=55.4mgKOH/g)84.8重量部を使用し、イソシアヌレート変性ポリイソシアネートを15.2重量部に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で操作を行ったが、配合液は硬化せずゲル状イオン導電体を得られなかった。
実施例1〜3及び比較例1〜3の結果を表1にまとめて示す。
【0059】
【表1】

L−220AL:ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学社製:プラクセル L−220AL)
L−320AL:ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学社製:プラクセル L−320AL)
D−1000:ポリプロピレングリコール(日油社製:ユニオールD−1000)
D−2000:ポリプロピレングリコール(日油社製:ユニオールD−2000)
TPA−100:イソシアヌレート変性ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ社製:デュラネートTPA−100)
1M LiPF6/PC:1mol/lに調整したLiPF6のプロピレンカーボネート溶液
1M KPF6/PC:1mol/lに調整したKPF6のプロピレンカーボネート溶液
【0060】
比較例1〜3の結果は、ゲル状イオン導電体を本発明で規定された範囲で作成しなかったことによると考えられる。すなわち、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(但し、水酸基及びイソシアネート基のいずれかが少なくとも3つ以上である)を架橋反応させて得られたものではないことに起因するものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルのマトリックス材としてのポリウレタンと、非水系溶媒と、電解質とを含むゲル状イオン導電体であり、前記ポリウレタンが、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(但し、前記水酸基及びイソシアネート基のいずれかが少なくとも3つ以上である)に由来する架橋構造を有していることを特徴とするゲル状イオン導電体。
【請求項2】
前記分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールが、ポリカプロラクトンジオール又はポリカプロラクトントリオールである請求項1に記載のゲル状イオン導電体。
【請求項3】
前記分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物が、下記式
【化1】

(式中、R1〜R3は、同一又は異なった、炭素数1〜8のアルキレン基である。)
で表される化合物である請求項1又は2に記載のゲル状イオン導電体。
【請求項4】
前記非水系溶媒及び前記電解質の合計が、前記ゲルのマトリックス材としてのポリウレタン100重量部に対して200〜500重量部含まれる請求項1〜3のいずれか1つに記載のゲル状イオン導電体。
【請求項5】
前記電解質が、前記非水系溶媒中に0.1〜15mol/lの濃度で含まれる請求項1〜4のいずれか1つに記載のゲル状イオン導電体。
【請求項6】
前記非水系溶媒が、炭酸エステル、ラクトン系化合物、スルホラン系化合物、ラクタム系化合物及びホスフェート系化合物からなる群の中から選ばれる少なくとも一種以上の非プロトン性溶媒である請求項1〜5のいずれか1つに記載のゲル状イオン導電体。
【請求項7】
前記電解質が、リチウム塩及びカリウム塩から選ばれる少なくとも1種以上の電解質である請求項1〜6のいずれか1つに記載のゲル状イオン導電体。
【請求項8】
電解質を含む非水系溶媒中で、分子内に少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリカプロラクトンポリオールと分子内に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(但し、前記水酸基及びイソシアネート基のいずれかが少なくとも3つ以上である)を架橋反応させることによりゲル状イオン導電体を得ることを特徴とするゲル状イオン導電体の製造方法。

【公開番号】特開2011−198691(P2011−198691A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66432(P2010−66432)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】