コア−シェル型高分子ゲル微粒子及びその製造方法
【課題】従来のコア−シェル型高分子微粒子の利点を維持したまま、溶媒、温度等に対する高い安定性等の特徴をさらに有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を提供すること。
【解決手段】本発明は、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることを特徴とする、平均粒子径が20nm〜3000nm程度であり、架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることを特徴とする、平均粒子径が20nm〜3000nm程度であり、架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア−シェル型高分子ゲル微粒子及びその製造方法に関する。また、本発明は、該コア−シェル型高分子ゲル微粒子を用いて修飾された微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コア(核)−シェル(殻)型高分子微粒子は、粒子の表面と内部が異なった高分子で構成された微粒子であり、表面の高分子は主に媒体中での分散に寄与し、内部に異なる高分子を包含する。内部の高分子に薬剤を包含させたり、感温性等の機能をもたせることで、媒体中における分散に優れた機能性微粒子を提供することができる。そのため、コア−シェル型高分子微粒子の製造方法は非常に注目を集めている。
【0003】
コアシェル型高分子微粒子は、一般的な高分子微粒子の製造法と同様に、界面活性剤を用いる乳化重合法によって合成できるが、この場合、二回以上の重合が必要となる。また、余剰の界面活性剤が環境に負荷を与える等の欠点がある。
【0004】
他のコアシェル型高分子微粒子の合成方法として、例えば、シェル部形成の原料として極性高分子末端(ポリエチレングリコール)に重合性のビニル基やメタクリロキシ基を導入したマクロモノマーを用い、該マクロモノマーとメチルメタクリレートとを分散重合、乳化重合する方法がある(非特許文献1)。
【0005】
しかし、上記の末端重合性マクロモノマーを用いた場合、別途水溶性重合開始剤が必要となる。また、反応活性点が高分子末端にあるためミセル形成が不安定であり粒子形成しない場合や、モノマーと反応せずに活性を失いフリーのポリマーを形成し易い傾向がある。さらに、ナノスフェアーが得られる組成範囲(溶液組成及びモノマー/マクロモノマー比の組成範囲)が限定される等の欠点を有していた。
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決するために、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/またはアルコール中でソープフリー乳化重合させることを特徴とするコア−シェル型高分子微粒子の製造方法を開発している(非特許文献2)
【非特許文献1】J. Polym. Sci. A., 38, 1811 (2000)
【非特許文献2】日本接着学会第43回年次大会要旨集p107(2005) 関西大学
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記コア−シェル型高分子微粒子の利点を維持しつつ、溶媒、温度等に対して高い安定性を有する等の特徴をさらに有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることにより、粒子内に架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造できることを見出した。本発明者は、当該コア−シェル型高分子ゲル微粒子が従来のコア−シェル型高分子微粒子の利点を維持しつつ、温度、溶媒等に対する高い安定性等の新たな特徴を有することを見出した。本発明者は、かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、次に示すコア−シェル型高分子ゲル微粒子、その製造方法等を提供する。
【0010】
項1.PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることを特徴とする平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法;
項2.PEG含有高分子アゾ重合開始剤が一般式(I):
【0011】
【化1】
(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である請求項1に記載の製造方法;
項3.作製されるコア−シェル型高分子ゲル微粒子が表面に凹凸を有する、請求項1または2に記載の製造方法;
項4.PEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する多官能性モノマーのモル数の比が、前者1に対して後者が0.5〜150程度である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法;
項5.多官能性モノマーが、エチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、トリエチレングリコールジメタクリレート及びエチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法;
項6.請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造される平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項7.多官能性モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部からなるコア−シェル型高分子ゲル微粒子であって、該微粒子の平均粒子径に対する粒子径の標準偏差の比が、前者1に対して後者が0.05〜0.6程度であるコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項8.請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させることを特徴とする高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法;
項9.請求項8に記載の製造方法により製造される高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項10.請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、金属アルコキシドを反応させることを特徴とする金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法;
項11.請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項12.請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を加熱処理することを特徴とする中空金属酸化物微粒子の製造方法;
項13.請求項12に記載の製造方法により製造される中空金属酸化物微粒子。
【0012】
以下、本発明を詳述する。
I.コア−シェル型高分子ゲル微粒子
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」とも表記する)含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させて製造することができる。
【0013】
本明細書において、コア−シェル型高分子微粒子とは、粒子の表面(シェル)と内部(コア)が異なった高分子で構成された微粒子を意味する。
【0014】
本発明においてゲル微粒子とは、当該粒子中に三次元網目構造を有する高分子微粒子であり、溶媒の種類によっては、その三次元網目構造中に溶媒を含んで膨潤し、粒子内部に有機物を貯蔵することができる微粒子である。
【0015】
従って、本発明におけるコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、多官能性モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部とからなり、架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子微粒子であって、そのコア部に三次元網目構造を有し、溶媒の種類によっては、その三次元網目構造中に溶媒を含んで膨潤し、粒子内部に有機物を貯蔵することができる微粒子である。本発明における「コア−シェル型高分子ゲル微粒子」は、コア部だけでなくシェル部にも三次元網目構造を有し得る。
【0016】
なお、本発明において、用語「ゲル微粒子」「コア−シェル型高分子ゲル微粒子」は、その三次元網目構造に溶媒分子を保持していない状態のものも包含し得る。
【0017】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の原料であるPEG含有高分子アゾ重合開始剤とは、分子内にPEG及びアゾ基(−N=N−)を含有する繰り返し単位を含む高分子化合物である。具体的には、一般式(I):
【0018】
【化2】
(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である。
【0019】
一般式(I)において、mは30〜200の整数が好ましく、40〜150の整数がより好ましい。また、nは4〜40の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましい。
【0020】
より具体的には、一般式(II):
【0021】
【化3】
(式中、R1はHまたはアルキル基、R2はHまたはアルキル基、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す)
で表される高分子化合物である。
【0022】
一般式(II)において、mは30〜200の整数が好ましく、40〜150の整数がより好ましい。また、nは4〜40の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましい。
【0023】
一般式(II)において、R1で示されるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキ
ル基が好ましく、具体的にはメチル、エチル、イソプロピル等が挙げられる。特に、メチル基が好ましい。
【0024】
一般式(II)において、R2で示されるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキ
ル基が好ましく、具体的にはメチル、エチル、イソプロピル等が挙げられる。特に、メチル基が好ましい。
【0025】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤の分子量は、5000〜10万程度、好ましくは1万〜5万であればよい。また、該開始剤のPEG部分の分子量は、800〜1万程度、好ましくは1000〜8000程度であればよい。
【0026】
このPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、PEGを有しているため重合反応の媒体である水及び/またはアルコール中に良好に溶解することができ、また、分子鎖骨格中に重合開始部分(ラジカル発生部分:―N=N−)を有しているため、別途水溶性重合開始剤を使用する必要がない。さらに溶媒に溶解しない多官能性モノマーを添加した場合にミセルを形成する組成範囲(溶媒中の水/アルコール比と多官能性モノマー/PEG含有高分子アゾ重合開始剤との比)が広いという特徴を有している。しかも、分子骨格中にラジカル発生部分であるアゾ基を有しているため、末端反応性マクロモノマーに比べてラジカルの反応性、安定性が高いという特徴をも有している。
【0027】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤の具体例としては、和光純薬製の高分子アゾ重合開始剤VPE0201(PEG部分の分子量2000)、VPE0401(PEG部分の分子量4000)VPE0601(PEG部分の分子量6000)等が例示される。高分子アゾ重合開始剤VPEシリーズの合成方法は、例えば、J.J.Laverty and Z.G.Gardlund, J.Polym.Sci., Polym. Chem.Ed., 15, 2001 (1977)、A.Ueda, S.Nagai, J.Polym.Sci., Polym. Chem.Ed., 24, 405 (1986)等の文献に記載されている。
【0028】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の原料である多官能性モノマーとは、二重結合を有する官能基を分子内に2個以上、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜3個有しているモノマーである。この多官能性モノマーは、重合反応によりコア−シェル型高分子ゲル微粒子のコア部を形成する。当該多官能性モノマーに起因して、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、その構成成分である高分子が架橋されてなる三次元網目構造を有することとなる。
【0029】
官能基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ビニリデン基、ビニレン基、等の不飽和炭化水素基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、等の不飽和エステル、不飽和アミド、フルオロエチレン基、フッ化ビニリデン基、トリフルオロエチレン基等のフッ素系炭化水素基が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
このような多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジヒドロキシエチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルサイトレート、エチレングリコールジアクリレート、フェニレンジグリコールジアクリレート等を例示できる。
【0031】
多官能性モノマーは、上記のうちの1種、或いは上記のうちから選ばれる2種以上を選択することができる。本発明の多官能性モノマーとしては、微粒子の形成し易さの点から、比較的極性の高い分子が好ましい。
【0032】
本発明の重合反応の媒体は、水及び/またはアルコールが用いられる。水は、塩を含まないイオン交換水を用いることが好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4のアルコールが好適である。好ましい媒体としては、水を主成分とするものが好ましく、水とアルコールの体積比が95/5〜40/60程度、好ましくは90/10〜40/60程度の混合媒体が好適である。なお、水及びアルコールに加えて、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等の他の溶媒を用いてもよいが、媒体全体の体積の60体積%以下であることが好ましい。
【0033】
重合反応における媒体の使用量は、溶液中の85〜99.9wt%程度であればよい。
【0034】
重合反応に際し、原料である多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、多官能性モノマーのモル数とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比が、0.5:1〜150:1程度、好ましくは0.5:1〜100:1程度になるように配合される。
【0035】
ここで、「PEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数」とは、PEG換算分子量を[PEG部分の分子量+226]として、(PEG含有高分子アゾ重合開始剤の使用量g)/(PEG換算分子量[PEG部分の分子量+226])で算出される値を意味する。
【0036】
また、多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、反応溶液中の多官能性モノマーとPEG含有高分子アゾ重合開始剤の濃度の合計が、0.1-15wt%程度、好ましくは0.2-10wt%程度、より好ましくは0.5-6wt%程度となるように配合される。
【0037】
多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤を上記のような条件で配合することによって、実質的に球状でありかつ表面に凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の分散粒子を製造することができる。
【0038】
本発明において、「表面に凹凸を有する」とは、表面に複数の突起及び/またはへこみを有することを示し、「表面に複数の突起を有する」、「金平糖型」等と同様の概念を包含する。
【0039】
粒子表面に凹凸を有することによって、例えば、診断薬用途において、粒子1個あたりにより多くの抗原タンパクを結合させることができるようになる等の利点が生じる。
【0040】
さらに、上記重合反応の際に、上記の多官能性モノマーに加えて、一官能性モノマーを添加してもよい。
【0041】
ここで、一官能性モノマーとは、二重結合を有する官能基を分子内に1個有するモノマーである。
【0042】
一官能性モノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、ヘキサン酸ビニル、ラウリル酸ビニルなどのビニルエステル類、オクテン、スチレン、などの不飽和炭化水素、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸、等が挙げられる。
【0043】
一官能性モノマーを添加する場合、多官能性モノマーと一官能性モノマーとの使用割合は、前者1モルに対して、後者が通常約2モル以下、好ましくは約1モル以下である。
【0044】
また、一官能性モノマーを添加する場合、重合反応に際し、原料である多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、多官能性モノマー及び一官能性モノマーのモル数の合計とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比が、0.5:1〜150:1程度、好ましくは0.5:1〜100:1程度になるように配合される。
【0045】
また、この場合、反応溶液中の多官能性モノマー、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び一官能性モノマーの濃度の総和が、0.1-15wt%程度、好ましくは0.2-10wt%程度、より好ましくは0.5-6wt%程度となるように配合される。
【0046】
この場合、多官能性モノマー、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び一官能性モノマーを上記のような条件で配合することによって、実質的に球状でありかつ表面に凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の分散粒子を製造することができる。
【0047】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることにより製造することができる。具体的には、例えば、上記した配合量に基づき、次のようにして実施することができる。
【0048】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤を水(特に、イオン交換水)に溶解(分散)した後、アルコール(特に、エタノールまたはイソプロパノール)及び多官能性モノマーを加えて溶解(分散)させ、60〜100℃(好ましくは65〜85℃)に加熱して攪拌する。加熱攪拌は、窒素ガスを連続的にバブリングさせて行う。窒素ガス導入後約15から60分程度で反応溶液は乳白色に濁りはじめ、その後窒素気流下5〜24時間加熱攪拌を続ける。
【0049】
上記操作において、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーは、分散重合、ソープフリー乳化重合等のような形態の重合反応をする。
【0050】
ここで、ソープフリー乳化重合とは、PEG含有高分子アゾ重合開始剤以外の界面活性剤を含まない系における乳化重合を意味する。
【0051】
得られた混合物を、遠心分離と透析(分子量1000以下を通す透析膜を用いて水に対して透析)を行うことにより三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得る。ここで、水に対して透析とは、透析膜に合成して得た混合溶液を入れ、透析膜ごと水中に放置しておく(ビーカー等に入れて)と、浸透圧で水と低分子量成分が入れ替わり、架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の水分散液が得られるとするものである。この製造方法の模式図を図1に示す。
【0052】
本発明では、PEG含有高分子アゾ重合開始剤は、活性点(ラジカル開始点)を主鎖骨格中に有しているため活性点が安定であり、また1分子中に数個の活性点を有しているためモノマーと反応しやすい。したがって高い収率で本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得ることができる。また広い溶媒組成、モノマー・高分子アゾ重合開始剤比の組成範囲においてコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得ることができる。
【0053】
得られる本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の平均粒子径は、20〜3000nm程度、好ましくは90〜1000nm程度であり、平均粒子径に対する粒子径の標準偏差の比が前者1に対して後者が0.03〜0.6程度、特に0.05〜0.3程度と、個々の微粒子がほぼ均一の大きさであり、単分散に近い分布をしている。なお、平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定により行う。
【0054】
また、本発明において、原料であるPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する多官能性モノマーのモル数の比を、前者1に対して後者が0.5〜150程度の範囲で調節することにより、製造される本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の平均粒子径を20〜1000nm程度の範囲に制御できるという利点がある。通常、疎水性ビニル系モノマーのモル数に対し、PEG換算のモル数が大きくなると、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の平均粒子径が減少していく。
【0055】
また、原料であるPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する疎水性ビニル系モノマーのモル数の比を変えることによって、生成される本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の膨潤度を変化させることもできる。すなわち、PEG換算のモル数に対するビニル系モノマーのモル数の比が小さくなるほど、膨潤度は大きくなる傾向が見られた。これは、モノマーに対してPEG含有高分子アゾ重合開始剤の濃度が高くなるほど、三次元架橋の架橋密度が小さくなることに加えて分岐が起きやすくなるためと考えられる。
【0056】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、複数の高分子が、共有結合により架橋されて一体となった構造を有する。従って、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、温度及び溶媒に対して安定である。すなわち、加熱しても溶融、熱分解しにくく、また溶媒中に分散させた際に良溶媒であっても溶解しないという特徴を有する。本発明者らは多官能性モノマーによる架橋構造を含まないコア−シェル型高分子微粒子をPEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーから製造する方法を開発しているが、同程度の配合のもの同士を比較した場合、本発明による架橋構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の方が熱分解開始温度(5%減量時の温度)は約20℃高い。また、架橋構造のないコア−シェル型高分子微粒子はトルエンなどに溶解するが、架橋構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子では膨潤はするが、溶解はしない。
II.コア−シェル型高分子ゲル微粒子の修飾
上記で得られる本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を、次のようにして修飾することも可能である。
【0057】
例えば、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させて高分子層で少なくとも一部が被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。この場合、1)溶媒中に分散されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として重合により高分子層を被覆することもできるが、2)あらかじめビニル系モノマーを用いてコア−シェル型高分子ゲル微粒子を膨潤させておき、その後余分なビニル系モノマーを除去した後、膨潤したコア−シェル型高分子ゲル微粒子を溶媒中に分散させて、適宜触媒を加えることで、コア−シェル型高分子ゲル微粒子に新たな高分子層を複合化させることもできる。
【0058】
用いるビニル系モノマーは、その目的に応じて適宜選択することができ、疎水性または親水性のいずれのものでもよい。具体例としては、グリシジルメタクリレート(GMA)、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル等が好適に用いられる。ビニル系モノマーの添加量は、コア−シェル型高分子ゲル微粒子に対して、1)の方法では0.5〜10wt%程度、好ましくは1〜5wt%程度、2)の方法では100〜5000wt%程度、好ましくは200〜4000wt%程度であればよい。
【0059】
重合反応は、溶液重合、分散重合、乳化重合等の公知の反応を用いることができる。例えば、コア−シェル型高分子ゲル微粒子の水/エタノール分散液にビニル系モノマー(例えば、GMA等)を加えて、窒素気流下70〜90℃で5〜20時間程度加熱処理することにより、コア−シェル型高分子ゲル微粒子の外側にビニル系モノマー由来の高分子層を有する複合微粒子が製造される。
【0060】
また、コア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、金属アルコキシドを反応させて金属酸化物層で少なくとも1部が被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。この場合、1)溶媒中に分散されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として金属酸化物層を被覆することもできるが、2)あらかじめ金属アルコキシドを用いてコア−シェル型高分子ゲル微粒子を膨潤させておき、その後余分な金属アルコキシドを除去した後、膨潤したコア−シェル型高分子ゲル微粒子を溶媒中に分散させて、適宜触媒を加えることで、コア−シェル型高分子ゲル微粒子に金属酸化物を複合化させることもできる。
【0061】
用いる金属アルコキシドとしては、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタン、トリアルコキシアルミニウム等が例示される。
【0062】
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン等が挙げられ、好ましくは、TEOS、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシランである。また、テトラアルコキシチタンとしては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン等が挙げられ、好ましくは、テトラエトキシチタンまたはテトライソプロポキシチタンである。
【0063】
溶媒としてはアルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等)またはアルコール/水混合系(100/0〜50/50程度)が用いられる。
【0064】
金属アルコキシドの添加量は、微粒子全重量中の金属酸化物の重量分率が、1)の方法では10〜90wt%程度、好ましくは20〜75wt%程度、2)の方法では100〜5000wt%程度、好ましくは200〜4000wt%程度になるように添加すればよい。
【0065】
金属酸化物層の形成は、ゾル−ゲル法等の公知の反応を用いることができる。例えば、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子に金属アルコキシド(例えば、TEOS等)を加えて室温で膨潤させた後、余分な金属アルコキシドを除去し、エタノール中に分散させた後、触媒量のアンモニア水溶液を加えて、これを室温で2〜10時間程度撹拌する。得られた混合物を遠心分離にかけて分離して、金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子が製造される。
【0066】
更に上記で製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を加熱処理することにより有機成分を除去して中空金属酸化物微粒子を製造することもできる。本発明において用語「加熱処理」は、焼成処理を包含する。加熱処理は、400〜1000℃の温度で、1〜7時間程度であればよい。
III.用途
本発明の架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、平均粒子径の分布が狭く、均質な微粒子である。
【0067】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、そのコア部に目的の物質を保持させることによりカプセル化微粒子を製造することができる。この用途においては、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、より簡便かつ高効率にカプセル化微粒子を製造することができる。
【0068】
例えば、カプセル化微粒子は、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を構成するコア部及びシェル部ならびにカプセル化させたい物質の全てに親和性の高いいわゆる良溶媒に、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子及び目的物質を溶解することによって製造することができる。この操作により、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、その三次元網目構造内に溶媒及び目的物質を取り込んで膨潤し、カプセル化微粒子となる。
【0069】
上記製造方法において本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の替わりに、架橋構造のない微粒子を用いると、良溶媒に溶解した段階で、当該微粒子が、その構成する高分子1分子までほぐれて、溶媒中に当該高分子と目的物質が溶解した溶液となる。従って、これをカプセル化微粒子の形状にするためには、この後に、良溶媒から貧溶媒への溶媒の置換により高分子と目的物質を共沈殿させる工程及び精製工程という追加の工程が必要となる。
【0070】
また、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、シェル部に親水性ポリマーを有していることから、シェル部に抗原タンパクを結合させて血液等の診断薬として用いることができる。抗体の検出により、抗原−抗体反応によって粒子同士が凝集することから、透過率を測定することによって容易に診断が可能となる。特に、表面に凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、粒子1個当りにより多くの抗原タンパク質を結合させられるため有用である。
【0071】
また、コア部に用いる高分子の選択によって、特定温度以上で収縮する感温性のゲル微粒子、コア内に不安定な薬効成分を包含させて患部に達した際に効果を発揮させるドラッグデリバリーシステム、コア内に診断に有効な発光性微粒子あるいは磁気微粒子を包含させた診断剤等の応用が可能である。粒子径分布が狭く、容易にコア−シェル微粒子を得ることができるため、上記のような従来のコア−シェル微粒子の使用用途において、より高性能な使用が可能となり、用途拡大が期待される。たとえば、診断精度の向上、感温性ゲル微粒子の場合の収縮温度範囲を狭くする等である。
【0072】
さらに凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子については、凹凸形状を利用することでナノ粒子の分別や除去、ウイルスの除去などが可能なフィルターへの応用も期待できる。
【0073】
その他、エマルションあるいは分散溶液として、粘着剤、塗料、フィルム形成材、インク、繊維処理剤、紙処理剤、固形分としてブロッキング防止剤、クロマト充填材等従来の工業製品、にも用いることが可能であり、同様に高性能化、用途拡大が期待される。
【発明の効果】
【0074】
本発明によれば、簡便かつ効率的に粒子径分布が狭いコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。PEG含有高分子アゾ重合開始剤は、PEGを有しているため水性媒体に分散しやすく、分子鎖骨格中に重合開始部分を有しているため、別途水溶性重合開始剤を使用する必要がない。しかも、ラジカルの反応性、安定性が高いという特徴を有している。
【0075】
さらに、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、構成成分である高分子が架橋により互いに結合されているので、微粒子としての安定性が高い。従って、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、これを用いることによって、簡便かつ高効率にカプセル化微粒子を製造することができるという利点も有している。
【0076】
また、PEG含有高分子アゾ重合開始剤と多官能性モノマーとのモル比を変えることで、所望の膨張度、粒子径のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。
【0077】
さらに、凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、体積に対する比表面積が高いことに起因して、シェル部により多くの分子を吸着させることができる等の利点を有する。
【0078】
上記のような特徴を有する本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、広範な用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
次に本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、これによって本発明が限定されるわけではない。
【0080】
実施例1
200ml四つ口フラスコに高分子アゾ開始剤VPE0201(和光純薬製、PEG部分の分子量2000)0.452g(PEG換算のモル数2.0X10-4モル)を入れ、イオン交換水60mlに完全に溶かした後、この溶液にエタノール(以下EtOH)40ml、エチレングリコールジメタクリレート(以下EGDMA)1.982g(1X10-2モル)を加えて攪拌した。EGDMAのモル数/PEG換算のモル数=50であった。
【0081】
この四つ口フラスコに窒素ガス導入用キャピラリー管、攪拌羽根、冷却管を取り付け、オイルバス中において、四つ口フラスコ中の溶液を加熱攪拌し、75℃に達した後、窒素ガスを連続的にバブリングさせた。窒素ガス導入後50分程度で、反応溶液は乳白色に濁りはじめた。その後窒素気流下15時間加熱攪拌を続けた。反応溶液の遠心分離と透析(分子量1000以下を通す透析膜を用いて水に対して透析)によりEGDMAコア/PEGシェルの凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。
【0082】
動的光散乱法による粒度分布測定(大塚電子製ELS-8000HW)により得られた粒子径は388±57.8nm(個数分布)であった。この値は走査型電子顕微鏡(SEM)の結果とほぼ一致した。トルエンを用いた膨潤度測定の結果は、4.38であった。
【0083】
得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を図2に示す。
【0084】
実施例2
実施例1におけるVPE0201添加量を1.131g (PEG換算のモル数5X10-4mol) とし、他の条件は変えずに合成を行った。EGDMAのモル数/PEG換算のモル数=20であった。その結果、粒子径179±29.9nm(個数分布)の凹凸を有するコアシェル型高分子ゲル微粒子を得た。トルエンを用いた膨潤度は4.43であった。VPE0201モル数に対するモノマーモル数の比が小さい場合には粒子径は小さく、比を大きくすると粒子径は大きくなる傾向にあった。得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を図3に示す。
【0085】
比較例1
実施例1におけるVPE0201添加量0.5655g(PEG換算のモル数2.5X10-4モル)、EGDMAの添加量9.911g(5X10-2モル)とし、他の条件は変えずに合成を行った。EGDMAのモル数/PEG換算のモル数=200であった。その結果、合成開始後約3時間でポリマーがゲル状に析出し、攪拌が不可能となった。これは、粒子内での架橋だけでなく、粒子間での架橋がおこり、マクロゲル化したことによるものと考えられる。VPE0201モル数に対するモノマーモル数の比が、150程度より大きい場合にはマクロゲル化する傾向が見られた。
【0086】
比較例2
実施例1におけるVPE0201添加量1.414g(PEG換算のモル数6.25X10-4モル)、EGDMAのかわりにMMAを10.0g(1X10-2モル)用い、イオン交換水48ml, EtOH 32ml (水:EtOH=60:40)として、75℃11時間合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=160であった。その結果、粒子径194.0±28.8nm(個数分布)の凹凸のない球状コア−シェル型高分子微粒子が得られた(SEM像を図4に示す)。得られた微粒子はコア部分に架橋を有しないため、トルエン、テトラヒドロフランなどの溶媒に溶解した。
【0087】
トルエンに溶解させた後、再度水:EtOH=60:40に添加させると、再度微粒子が分散した状態となった。しかし、粒度分布測定およびSEM観察の結果(SEM像を図5に示す)から、(溶解-再分散させる前の)もとの粒子よりも粒度分布が広くなっていることがわかった。
【0088】
一方、実施例2で得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を同様にトルエンに分散させると、これは架橋構造を有するため、膨潤するが、溶解しない。膨潤した微粒子を遠心分離により回収し、粒度分布測定および乾燥後にSEM観察した結果(図6)、粒子径および粒子径分布は(トルエンで膨潤させる前の)もとの微粒子とほぼ同じであった。
【0089】
以上の結果から、コア−シェル型高分子微粒子をカプセル材料として用いる場合、架橋構造のない微粒子では、内包させる化合物とともに共溶解、再分散、回収、精製、といったプロセスを経る必要がある。また、用いる溶媒によっては、もとの粒度分布を保持していない場合があり、思考錯誤が必要となるものと考えられる。一方、本発明により得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を用いる場合、内包させる化合物とともに良溶媒に溶解(架橋微粒子は分散、膨潤)させ、遠心分離などにより回収するだけで、もとの粒度分布を保ったカプセル化粒子を容易に調製することができる。
【0090】
実施例3(コアシェル微粒子の外側にシリカ層を有する複合微粒子)
(1)実施例2で得られた微粒子0.05gを10mlのサンプル管にとり、テトラブトキシシラン(TBOS)2ccとともに混合して密封したまま、室温にて24時間保持して膨潤させた。その後上記試料の上澄みを除去し沈降した微粒子のみを100ccエルレンマイヤーフラスコに入れ、MeOH 50mlを加えて超音波洗浄器を用いて再分散させた。分散後、アンモニア水溶液(28%)2mlを加え、マグネチックスターラーで室温において5時間攪拌を続けた。得られた微粒子を遠心分離により分離させた。コアシェル微粒子の外側にシリカ層を有する複合微粒子を得た。得られた複合微粒子のSEM像を図7に示す。
【0091】
25℃における粒子径551±88.9nm(個数分布)。示差熱熱天秤測定による750℃での残渣から、シリカ成分は約57wt%であった。
(2)600℃、3時間で焼成後もSEM観察による粒子形状などに変化は見られず、焼成によって中空微粒子が得られたものと考えられる。得られた微粒子のSEM像を図8に示す。
【0092】
実施例4
実施例2におけるVPE0201添加量およびEGDMAの添加量は変えず、用いる溶媒をイオン交換水70ml、EtOH 30mlとして合成を行った。その結果、粒子径400.7±82.5nm(個数分布)の凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。得られた微粒子のSEM像を図9に示す。(SEMによりえられた粒子径と粒度分布の結果は一致していないが、粒度分布測定では、粒子が膨潤しているためと考えられる)。トルエンを用いた膨潤度は5.76であった。用いる溶媒としてEtOHとイオン交換水の比率を変えた場合、水含有率が60vol%程度で粒子径が極小を示した。水含有率が40-60vol%の範囲では粒子径の変化は大きくなかったが、60vol%を越えると急激に粒子径は大きくなった。これはモノマーおよびポリマーの溶解性が関係しているものと考えられる。
【0093】
実施例5
実施例1において、モノマーとしてEGDMA0.991g(5×10-3モル)およびメタクリル酸メチル(MMA)0.501g(5X10-3モル)を用い、他の条件は変えずに合成を行った。(EGDMA+MMAのモル数)/PEG換算のモル数=50((EGDMAのモル数)/PEG換算のモル数=25)であった。その結果、粒子径177±28.9nm(個数分布)の凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。得られた微粒子のSEM像を図10に示す。トルエンを用いた膨潤度は4.85であった。また、用いるモノマーの内MMAの割合を変えて微粒子の合成を行った結果、用いるモノマーの内MMAの割合が50%以下であれば得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子は凹凸を有することがわかった。
【0094】
実施例6
実施例2におけるVPE0201の代わりにVPE0601(和光純薬製、PEG部分の分子量6000)3.131g(PEG換算のモル数5.0×10-4モル)を用い、EGDMA添加量を1.982g(1×10-2モル)とし、イオン交換水60ml、EtOH 40mlを用いて75℃15時間加熱攪拌により合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=20であった。その結果、粒子径251±47.0nm(個数分布)の凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。
【0095】
得られた微粒子のSEM像を図11に示す。
【0096】
実施例7
実施例1においてVPE0201 1.131g(PEG換算のモル数5×10-4モル)、EGDMAの代わりにメチレンビスアクリルアミド(MBAA) 1.54g(1×10-2モル)を用い、他の条件は変えずに合成を行った。MBAAのモル数/PEG換算のモル数=20であった。
【0097】
その結果、粒子径170±34.3nm(個数分布)の凹凸を有するコアシェル型高分子ゲル微粒子を得た。
【0098】
得られた微粒子のSEM像を図12に示す。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、本発明に従うコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法の模式図を示す。
【図2】図2は、実施例1により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図3】図3は、実施例2により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図4】図4は、比較例2により得られた架橋構造をもたないコア−シェル型高分子微粒子のSEM像を示す。
【図5】図5は、比較例2により得られた架橋構造をもたないコア−シェル型高分子微粒子をトルエンに溶解後、水:EtOH=60:40から再度得られたコア−シェル型高分子微粒子のSEM像を示す。
【図6】図6は、実施例2により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子をトルエンで膨潤後再回収、乾燥したもののSEM像を示す。
【図7】図7は、実施例3(1)により得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の外側にシリカ層を有する複合微粒子のSEM像を示す。
【図8】図8は、実施例3(2)により得られた中空微粒子のSEM像を示す。
【図9】図9は、実施例4により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図10】図10は、実施例5により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図11】図11は、実施例6により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図12】図12は、実施例7により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア−シェル型高分子ゲル微粒子及びその製造方法に関する。また、本発明は、該コア−シェル型高分子ゲル微粒子を用いて修飾された微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コア(核)−シェル(殻)型高分子微粒子は、粒子の表面と内部が異なった高分子で構成された微粒子であり、表面の高分子は主に媒体中での分散に寄与し、内部に異なる高分子を包含する。内部の高分子に薬剤を包含させたり、感温性等の機能をもたせることで、媒体中における分散に優れた機能性微粒子を提供することができる。そのため、コア−シェル型高分子微粒子の製造方法は非常に注目を集めている。
【0003】
コアシェル型高分子微粒子は、一般的な高分子微粒子の製造法と同様に、界面活性剤を用いる乳化重合法によって合成できるが、この場合、二回以上の重合が必要となる。また、余剰の界面活性剤が環境に負荷を与える等の欠点がある。
【0004】
他のコアシェル型高分子微粒子の合成方法として、例えば、シェル部形成の原料として極性高分子末端(ポリエチレングリコール)に重合性のビニル基やメタクリロキシ基を導入したマクロモノマーを用い、該マクロモノマーとメチルメタクリレートとを分散重合、乳化重合する方法がある(非特許文献1)。
【0005】
しかし、上記の末端重合性マクロモノマーを用いた場合、別途水溶性重合開始剤が必要となる。また、反応活性点が高分子末端にあるためミセル形成が不安定であり粒子形成しない場合や、モノマーと反応せずに活性を失いフリーのポリマーを形成し易い傾向がある。さらに、ナノスフェアーが得られる組成範囲(溶液組成及びモノマー/マクロモノマー比の組成範囲)が限定される等の欠点を有していた。
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決するために、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーを、水及び/またはアルコール中でソープフリー乳化重合させることを特徴とするコア−シェル型高分子微粒子の製造方法を開発している(非特許文献2)
【非特許文献1】J. Polym. Sci. A., 38, 1811 (2000)
【非特許文献2】日本接着学会第43回年次大会要旨集p107(2005) 関西大学
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記コア−シェル型高分子微粒子の利点を維持しつつ、溶媒、温度等に対して高い安定性を有する等の特徴をさらに有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることにより、粒子内に架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造できることを見出した。本発明者は、当該コア−シェル型高分子ゲル微粒子が従来のコア−シェル型高分子微粒子の利点を維持しつつ、温度、溶媒等に対する高い安定性等の新たな特徴を有することを見出した。本発明者は、かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、次に示すコア−シェル型高分子ゲル微粒子、その製造方法等を提供する。
【0010】
項1.PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることを特徴とする平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法;
項2.PEG含有高分子アゾ重合開始剤が一般式(I):
【0011】
【化1】
(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である請求項1に記載の製造方法;
項3.作製されるコア−シェル型高分子ゲル微粒子が表面に凹凸を有する、請求項1または2に記載の製造方法;
項4.PEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する多官能性モノマーのモル数の比が、前者1に対して後者が0.5〜150程度である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法;
項5.多官能性モノマーが、エチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、トリエチレングリコールジメタクリレート及びエチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法;
項6.請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造される平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項7.多官能性モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部からなるコア−シェル型高分子ゲル微粒子であって、該微粒子の平均粒子径に対する粒子径の標準偏差の比が、前者1に対して後者が0.05〜0.6程度であるコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項8.請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させることを特徴とする高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法;
項9.請求項8に記載の製造方法により製造される高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項10.請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、金属アルコキシドを反応させることを特徴とする金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法;
項11.請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子;
項12.請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を加熱処理することを特徴とする中空金属酸化物微粒子の製造方法;
項13.請求項12に記載の製造方法により製造される中空金属酸化物微粒子。
【0012】
以下、本発明を詳述する。
I.コア−シェル型高分子ゲル微粒子
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」とも表記する)含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させて製造することができる。
【0013】
本明細書において、コア−シェル型高分子微粒子とは、粒子の表面(シェル)と内部(コア)が異なった高分子で構成された微粒子を意味する。
【0014】
本発明においてゲル微粒子とは、当該粒子中に三次元網目構造を有する高分子微粒子であり、溶媒の種類によっては、その三次元網目構造中に溶媒を含んで膨潤し、粒子内部に有機物を貯蔵することができる微粒子である。
【0015】
従って、本発明におけるコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、多官能性モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部とからなり、架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子微粒子であって、そのコア部に三次元網目構造を有し、溶媒の種類によっては、その三次元網目構造中に溶媒を含んで膨潤し、粒子内部に有機物を貯蔵することができる微粒子である。本発明における「コア−シェル型高分子ゲル微粒子」は、コア部だけでなくシェル部にも三次元網目構造を有し得る。
【0016】
なお、本発明において、用語「ゲル微粒子」「コア−シェル型高分子ゲル微粒子」は、その三次元網目構造に溶媒分子を保持していない状態のものも包含し得る。
【0017】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の原料であるPEG含有高分子アゾ重合開始剤とは、分子内にPEG及びアゾ基(−N=N−)を含有する繰り返し単位を含む高分子化合物である。具体的には、一般式(I):
【0018】
【化2】
(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である。
【0019】
一般式(I)において、mは30〜200の整数が好ましく、40〜150の整数がより好ましい。また、nは4〜40の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましい。
【0020】
より具体的には、一般式(II):
【0021】
【化3】
(式中、R1はHまたはアルキル基、R2はHまたはアルキル基、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す)
で表される高分子化合物である。
【0022】
一般式(II)において、mは30〜200の整数が好ましく、40〜150の整数がより好ましい。また、nは4〜40の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましい。
【0023】
一般式(II)において、R1で示されるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキ
ル基が好ましく、具体的にはメチル、エチル、イソプロピル等が挙げられる。特に、メチル基が好ましい。
【0024】
一般式(II)において、R2で示されるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキ
ル基が好ましく、具体的にはメチル、エチル、イソプロピル等が挙げられる。特に、メチル基が好ましい。
【0025】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤の分子量は、5000〜10万程度、好ましくは1万〜5万であればよい。また、該開始剤のPEG部分の分子量は、800〜1万程度、好ましくは1000〜8000程度であればよい。
【0026】
このPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、PEGを有しているため重合反応の媒体である水及び/またはアルコール中に良好に溶解することができ、また、分子鎖骨格中に重合開始部分(ラジカル発生部分:―N=N−)を有しているため、別途水溶性重合開始剤を使用する必要がない。さらに溶媒に溶解しない多官能性モノマーを添加した場合にミセルを形成する組成範囲(溶媒中の水/アルコール比と多官能性モノマー/PEG含有高分子アゾ重合開始剤との比)が広いという特徴を有している。しかも、分子骨格中にラジカル発生部分であるアゾ基を有しているため、末端反応性マクロモノマーに比べてラジカルの反応性、安定性が高いという特徴をも有している。
【0027】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤の具体例としては、和光純薬製の高分子アゾ重合開始剤VPE0201(PEG部分の分子量2000)、VPE0401(PEG部分の分子量4000)VPE0601(PEG部分の分子量6000)等が例示される。高分子アゾ重合開始剤VPEシリーズの合成方法は、例えば、J.J.Laverty and Z.G.Gardlund, J.Polym.Sci., Polym. Chem.Ed., 15, 2001 (1977)、A.Ueda, S.Nagai, J.Polym.Sci., Polym. Chem.Ed., 24, 405 (1986)等の文献に記載されている。
【0028】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の原料である多官能性モノマーとは、二重結合を有する官能基を分子内に2個以上、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜3個有しているモノマーである。この多官能性モノマーは、重合反応によりコア−シェル型高分子ゲル微粒子のコア部を形成する。当該多官能性モノマーに起因して、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、その構成成分である高分子が架橋されてなる三次元網目構造を有することとなる。
【0029】
官能基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ビニリデン基、ビニレン基、等の不飽和炭化水素基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、等の不飽和エステル、不飽和アミド、フルオロエチレン基、フッ化ビニリデン基、トリフルオロエチレン基等のフッ素系炭化水素基が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
このような多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジヒドロキシエチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルサイトレート、エチレングリコールジアクリレート、フェニレンジグリコールジアクリレート等を例示できる。
【0031】
多官能性モノマーは、上記のうちの1種、或いは上記のうちから選ばれる2種以上を選択することができる。本発明の多官能性モノマーとしては、微粒子の形成し易さの点から、比較的極性の高い分子が好ましい。
【0032】
本発明の重合反応の媒体は、水及び/またはアルコールが用いられる。水は、塩を含まないイオン交換水を用いることが好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4のアルコールが好適である。好ましい媒体としては、水を主成分とするものが好ましく、水とアルコールの体積比が95/5〜40/60程度、好ましくは90/10〜40/60程度の混合媒体が好適である。なお、水及びアルコールに加えて、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等の他の溶媒を用いてもよいが、媒体全体の体積の60体積%以下であることが好ましい。
【0033】
重合反応における媒体の使用量は、溶液中の85〜99.9wt%程度であればよい。
【0034】
重合反応に際し、原料である多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、多官能性モノマーのモル数とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比が、0.5:1〜150:1程度、好ましくは0.5:1〜100:1程度になるように配合される。
【0035】
ここで、「PEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数」とは、PEG換算分子量を[PEG部分の分子量+226]として、(PEG含有高分子アゾ重合開始剤の使用量g)/(PEG換算分子量[PEG部分の分子量+226])で算出される値を意味する。
【0036】
また、多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、反応溶液中の多官能性モノマーとPEG含有高分子アゾ重合開始剤の濃度の合計が、0.1-15wt%程度、好ましくは0.2-10wt%程度、より好ましくは0.5-6wt%程度となるように配合される。
【0037】
多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤を上記のような条件で配合することによって、実質的に球状でありかつ表面に凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の分散粒子を製造することができる。
【0038】
本発明において、「表面に凹凸を有する」とは、表面に複数の突起及び/またはへこみを有することを示し、「表面に複数の突起を有する」、「金平糖型」等と同様の概念を包含する。
【0039】
粒子表面に凹凸を有することによって、例えば、診断薬用途において、粒子1個あたりにより多くの抗原タンパクを結合させることができるようになる等の利点が生じる。
【0040】
さらに、上記重合反応の際に、上記の多官能性モノマーに加えて、一官能性モノマーを添加してもよい。
【0041】
ここで、一官能性モノマーとは、二重結合を有する官能基を分子内に1個有するモノマーである。
【0042】
一官能性モノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、ヘキサン酸ビニル、ラウリル酸ビニルなどのビニルエステル類、オクテン、スチレン、などの不飽和炭化水素、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸、等が挙げられる。
【0043】
一官能性モノマーを添加する場合、多官能性モノマーと一官能性モノマーとの使用割合は、前者1モルに対して、後者が通常約2モル以下、好ましくは約1モル以下である。
【0044】
また、一官能性モノマーを添加する場合、重合反応に際し、原料である多官能性モノマー及びPEG含有高分子アゾ重合開始剤は、多官能性モノマー及び一官能性モノマーのモル数の合計とPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数との比が、0.5:1〜150:1程度、好ましくは0.5:1〜100:1程度になるように配合される。
【0045】
また、この場合、反応溶液中の多官能性モノマー、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び一官能性モノマーの濃度の総和が、0.1-15wt%程度、好ましくは0.2-10wt%程度、より好ましくは0.5-6wt%程度となるように配合される。
【0046】
この場合、多官能性モノマー、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び一官能性モノマーを上記のような条件で配合することによって、実質的に球状でありかつ表面に凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の分散粒子を製造することができる。
【0047】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることにより製造することができる。具体的には、例えば、上記した配合量に基づき、次のようにして実施することができる。
【0048】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤を水(特に、イオン交換水)に溶解(分散)した後、アルコール(特に、エタノールまたはイソプロパノール)及び多官能性モノマーを加えて溶解(分散)させ、60〜100℃(好ましくは65〜85℃)に加熱して攪拌する。加熱攪拌は、窒素ガスを連続的にバブリングさせて行う。窒素ガス導入後約15から60分程度で反応溶液は乳白色に濁りはじめ、その後窒素気流下5〜24時間加熱攪拌を続ける。
【0049】
上記操作において、PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーは、分散重合、ソープフリー乳化重合等のような形態の重合反応をする。
【0050】
ここで、ソープフリー乳化重合とは、PEG含有高分子アゾ重合開始剤以外の界面活性剤を含まない系における乳化重合を意味する。
【0051】
得られた混合物を、遠心分離と透析(分子量1000以下を通す透析膜を用いて水に対して透析)を行うことにより三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得る。ここで、水に対して透析とは、透析膜に合成して得た混合溶液を入れ、透析膜ごと水中に放置しておく(ビーカー等に入れて)と、浸透圧で水と低分子量成分が入れ替わり、架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の水分散液が得られるとするものである。この製造方法の模式図を図1に示す。
【0052】
本発明では、PEG含有高分子アゾ重合開始剤は、活性点(ラジカル開始点)を主鎖骨格中に有しているため活性点が安定であり、また1分子中に数個の活性点を有しているためモノマーと反応しやすい。したがって高い収率で本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得ることができる。また広い溶媒組成、モノマー・高分子アゾ重合開始剤比の組成範囲においてコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得ることができる。
【0053】
得られる本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の平均粒子径は、20〜3000nm程度、好ましくは90〜1000nm程度であり、平均粒子径に対する粒子径の標準偏差の比が前者1に対して後者が0.03〜0.6程度、特に0.05〜0.3程度と、個々の微粒子がほぼ均一の大きさであり、単分散に近い分布をしている。なお、平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定により行う。
【0054】
また、本発明において、原料であるPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する多官能性モノマーのモル数の比を、前者1に対して後者が0.5〜150程度の範囲で調節することにより、製造される本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の平均粒子径を20〜1000nm程度の範囲に制御できるという利点がある。通常、疎水性ビニル系モノマーのモル数に対し、PEG換算のモル数が大きくなると、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の平均粒子径が減少していく。
【0055】
また、原料であるPEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する疎水性ビニル系モノマーのモル数の比を変えることによって、生成される本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の膨潤度を変化させることもできる。すなわち、PEG換算のモル数に対するビニル系モノマーのモル数の比が小さくなるほど、膨潤度は大きくなる傾向が見られた。これは、モノマーに対してPEG含有高分子アゾ重合開始剤の濃度が高くなるほど、三次元架橋の架橋密度が小さくなることに加えて分岐が起きやすくなるためと考えられる。
【0056】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、複数の高分子が、共有結合により架橋されて一体となった構造を有する。従って、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、温度及び溶媒に対して安定である。すなわち、加熱しても溶融、熱分解しにくく、また溶媒中に分散させた際に良溶媒であっても溶解しないという特徴を有する。本発明者らは多官能性モノマーによる架橋構造を含まないコア−シェル型高分子微粒子をPEG含有高分子アゾ重合開始剤及び疎水性ビニル系モノマーから製造する方法を開発しているが、同程度の配合のもの同士を比較した場合、本発明による架橋構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子の方が熱分解開始温度(5%減量時の温度)は約20℃高い。また、架橋構造のないコア−シェル型高分子微粒子はトルエンなどに溶解するが、架橋構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子では膨潤はするが、溶解はしない。
II.コア−シェル型高分子ゲル微粒子の修飾
上記で得られる本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を、次のようにして修飾することも可能である。
【0057】
例えば、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させて高分子層で少なくとも一部が被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。この場合、1)溶媒中に分散されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として重合により高分子層を被覆することもできるが、2)あらかじめビニル系モノマーを用いてコア−シェル型高分子ゲル微粒子を膨潤させておき、その後余分なビニル系モノマーを除去した後、膨潤したコア−シェル型高分子ゲル微粒子を溶媒中に分散させて、適宜触媒を加えることで、コア−シェル型高分子ゲル微粒子に新たな高分子層を複合化させることもできる。
【0058】
用いるビニル系モノマーは、その目的に応じて適宜選択することができ、疎水性または親水性のいずれのものでもよい。具体例としては、グリシジルメタクリレート(GMA)、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル等が好適に用いられる。ビニル系モノマーの添加量は、コア−シェル型高分子ゲル微粒子に対して、1)の方法では0.5〜10wt%程度、好ましくは1〜5wt%程度、2)の方法では100〜5000wt%程度、好ましくは200〜4000wt%程度であればよい。
【0059】
重合反応は、溶液重合、分散重合、乳化重合等の公知の反応を用いることができる。例えば、コア−シェル型高分子ゲル微粒子の水/エタノール分散液にビニル系モノマー(例えば、GMA等)を加えて、窒素気流下70〜90℃で5〜20時間程度加熱処理することにより、コア−シェル型高分子ゲル微粒子の外側にビニル系モノマー由来の高分子層を有する複合微粒子が製造される。
【0060】
また、コア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、金属アルコキシドを反応させて金属酸化物層で少なくとも1部が被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。この場合、1)溶媒中に分散されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として金属酸化物層を被覆することもできるが、2)あらかじめ金属アルコキシドを用いてコア−シェル型高分子ゲル微粒子を膨潤させておき、その後余分な金属アルコキシドを除去した後、膨潤したコア−シェル型高分子ゲル微粒子を溶媒中に分散させて、適宜触媒を加えることで、コア−シェル型高分子ゲル微粒子に金属酸化物を複合化させることもできる。
【0061】
用いる金属アルコキシドとしては、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタン、トリアルコキシアルミニウム等が例示される。
【0062】
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン等が挙げられ、好ましくは、TEOS、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシランである。また、テトラアルコキシチタンとしては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン等が挙げられ、好ましくは、テトラエトキシチタンまたはテトライソプロポキシチタンである。
【0063】
溶媒としてはアルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等)またはアルコール/水混合系(100/0〜50/50程度)が用いられる。
【0064】
金属アルコキシドの添加量は、微粒子全重量中の金属酸化物の重量分率が、1)の方法では10〜90wt%程度、好ましくは20〜75wt%程度、2)の方法では100〜5000wt%程度、好ましくは200〜4000wt%程度になるように添加すればよい。
【0065】
金属酸化物層の形成は、ゾル−ゲル法等の公知の反応を用いることができる。例えば、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子に金属アルコキシド(例えば、TEOS等)を加えて室温で膨潤させた後、余分な金属アルコキシドを除去し、エタノール中に分散させた後、触媒量のアンモニア水溶液を加えて、これを室温で2〜10時間程度撹拌する。得られた混合物を遠心分離にかけて分離して、金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子が製造される。
【0066】
更に上記で製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を加熱処理することにより有機成分を除去して中空金属酸化物微粒子を製造することもできる。本発明において用語「加熱処理」は、焼成処理を包含する。加熱処理は、400〜1000℃の温度で、1〜7時間程度であればよい。
III.用途
本発明の架橋による三次元網目構造を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、平均粒子径の分布が狭く、均質な微粒子である。
【0067】
本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、そのコア部に目的の物質を保持させることによりカプセル化微粒子を製造することができる。この用途においては、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、より簡便かつ高効率にカプセル化微粒子を製造することができる。
【0068】
例えば、カプセル化微粒子は、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を構成するコア部及びシェル部ならびにカプセル化させたい物質の全てに親和性の高いいわゆる良溶媒に、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子及び目的物質を溶解することによって製造することができる。この操作により、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、その三次元網目構造内に溶媒及び目的物質を取り込んで膨潤し、カプセル化微粒子となる。
【0069】
上記製造方法において本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の替わりに、架橋構造のない微粒子を用いると、良溶媒に溶解した段階で、当該微粒子が、その構成する高分子1分子までほぐれて、溶媒中に当該高分子と目的物質が溶解した溶液となる。従って、これをカプセル化微粒子の形状にするためには、この後に、良溶媒から貧溶媒への溶媒の置換により高分子と目的物質を共沈殿させる工程及び精製工程という追加の工程が必要となる。
【0070】
また、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、シェル部に親水性ポリマーを有していることから、シェル部に抗原タンパクを結合させて血液等の診断薬として用いることができる。抗体の検出により、抗原−抗体反応によって粒子同士が凝集することから、透過率を測定することによって容易に診断が可能となる。特に、表面に凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、粒子1個当りにより多くの抗原タンパク質を結合させられるため有用である。
【0071】
また、コア部に用いる高分子の選択によって、特定温度以上で収縮する感温性のゲル微粒子、コア内に不安定な薬効成分を包含させて患部に達した際に効果を発揮させるドラッグデリバリーシステム、コア内に診断に有効な発光性微粒子あるいは磁気微粒子を包含させた診断剤等の応用が可能である。粒子径分布が狭く、容易にコア−シェル微粒子を得ることができるため、上記のような従来のコア−シェル微粒子の使用用途において、より高性能な使用が可能となり、用途拡大が期待される。たとえば、診断精度の向上、感温性ゲル微粒子の場合の収縮温度範囲を狭くする等である。
【0072】
さらに凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子については、凹凸形状を利用することでナノ粒子の分別や除去、ウイルスの除去などが可能なフィルターへの応用も期待できる。
【0073】
その他、エマルションあるいは分散溶液として、粘着剤、塗料、フィルム形成材、インク、繊維処理剤、紙処理剤、固形分としてブロッキング防止剤、クロマト充填材等従来の工業製品、にも用いることが可能であり、同様に高性能化、用途拡大が期待される。
【発明の効果】
【0074】
本発明によれば、簡便かつ効率的に粒子径分布が狭いコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。PEG含有高分子アゾ重合開始剤は、PEGを有しているため水性媒体に分散しやすく、分子鎖骨格中に重合開始部分を有しているため、別途水溶性重合開始剤を使用する必要がない。しかも、ラジカルの反応性、安定性が高いという特徴を有している。
【0075】
さらに、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、構成成分である高分子が架橋により互いに結合されているので、微粒子としての安定性が高い。従って、本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、これを用いることによって、簡便かつ高効率にカプセル化微粒子を製造することができるという利点も有している。
【0076】
また、PEG含有高分子アゾ重合開始剤と多官能性モノマーとのモル比を変えることで、所望の膨張度、粒子径のコア−シェル型高分子ゲル微粒子を製造することができる。
【0077】
さらに、凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、体積に対する比表面積が高いことに起因して、シェル部により多くの分子を吸着させることができる等の利点を有する。
【0078】
上記のような特徴を有する本発明のコア−シェル型高分子ゲル微粒子は、広範な用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
次に本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、これによって本発明が限定されるわけではない。
【0080】
実施例1
200ml四つ口フラスコに高分子アゾ開始剤VPE0201(和光純薬製、PEG部分の分子量2000)0.452g(PEG換算のモル数2.0X10-4モル)を入れ、イオン交換水60mlに完全に溶かした後、この溶液にエタノール(以下EtOH)40ml、エチレングリコールジメタクリレート(以下EGDMA)1.982g(1X10-2モル)を加えて攪拌した。EGDMAのモル数/PEG換算のモル数=50であった。
【0081】
この四つ口フラスコに窒素ガス導入用キャピラリー管、攪拌羽根、冷却管を取り付け、オイルバス中において、四つ口フラスコ中の溶液を加熱攪拌し、75℃に達した後、窒素ガスを連続的にバブリングさせた。窒素ガス導入後50分程度で、反応溶液は乳白色に濁りはじめた。その後窒素気流下15時間加熱攪拌を続けた。反応溶液の遠心分離と透析(分子量1000以下を通す透析膜を用いて水に対して透析)によりEGDMAコア/PEGシェルの凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。
【0082】
動的光散乱法による粒度分布測定(大塚電子製ELS-8000HW)により得られた粒子径は388±57.8nm(個数分布)であった。この値は走査型電子顕微鏡(SEM)の結果とほぼ一致した。トルエンを用いた膨潤度測定の結果は、4.38であった。
【0083】
得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を図2に示す。
【0084】
実施例2
実施例1におけるVPE0201添加量を1.131g (PEG換算のモル数5X10-4mol) とし、他の条件は変えずに合成を行った。EGDMAのモル数/PEG換算のモル数=20であった。その結果、粒子径179±29.9nm(個数分布)の凹凸を有するコアシェル型高分子ゲル微粒子を得た。トルエンを用いた膨潤度は4.43であった。VPE0201モル数に対するモノマーモル数の比が小さい場合には粒子径は小さく、比を大きくすると粒子径は大きくなる傾向にあった。得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を図3に示す。
【0085】
比較例1
実施例1におけるVPE0201添加量0.5655g(PEG換算のモル数2.5X10-4モル)、EGDMAの添加量9.911g(5X10-2モル)とし、他の条件は変えずに合成を行った。EGDMAのモル数/PEG換算のモル数=200であった。その結果、合成開始後約3時間でポリマーがゲル状に析出し、攪拌が不可能となった。これは、粒子内での架橋だけでなく、粒子間での架橋がおこり、マクロゲル化したことによるものと考えられる。VPE0201モル数に対するモノマーモル数の比が、150程度より大きい場合にはマクロゲル化する傾向が見られた。
【0086】
比較例2
実施例1におけるVPE0201添加量1.414g(PEG換算のモル数6.25X10-4モル)、EGDMAのかわりにMMAを10.0g(1X10-2モル)用い、イオン交換水48ml, EtOH 32ml (水:EtOH=60:40)として、75℃11時間合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=160であった。その結果、粒子径194.0±28.8nm(個数分布)の凹凸のない球状コア−シェル型高分子微粒子が得られた(SEM像を図4に示す)。得られた微粒子はコア部分に架橋を有しないため、トルエン、テトラヒドロフランなどの溶媒に溶解した。
【0087】
トルエンに溶解させた後、再度水:EtOH=60:40に添加させると、再度微粒子が分散した状態となった。しかし、粒度分布測定およびSEM観察の結果(SEM像を図5に示す)から、(溶解-再分散させる前の)もとの粒子よりも粒度分布が広くなっていることがわかった。
【0088】
一方、実施例2で得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を同様にトルエンに分散させると、これは架橋構造を有するため、膨潤するが、溶解しない。膨潤した微粒子を遠心分離により回収し、粒度分布測定および乾燥後にSEM観察した結果(図6)、粒子径および粒子径分布は(トルエンで膨潤させる前の)もとの微粒子とほぼ同じであった。
【0089】
以上の結果から、コア−シェル型高分子微粒子をカプセル材料として用いる場合、架橋構造のない微粒子では、内包させる化合物とともに共溶解、再分散、回収、精製、といったプロセスを経る必要がある。また、用いる溶媒によっては、もとの粒度分布を保持していない場合があり、思考錯誤が必要となるものと考えられる。一方、本発明により得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を用いる場合、内包させる化合物とともに良溶媒に溶解(架橋微粒子は分散、膨潤)させ、遠心分離などにより回収するだけで、もとの粒度分布を保ったカプセル化粒子を容易に調製することができる。
【0090】
実施例3(コアシェル微粒子の外側にシリカ層を有する複合微粒子)
(1)実施例2で得られた微粒子0.05gを10mlのサンプル管にとり、テトラブトキシシラン(TBOS)2ccとともに混合して密封したまま、室温にて24時間保持して膨潤させた。その後上記試料の上澄みを除去し沈降した微粒子のみを100ccエルレンマイヤーフラスコに入れ、MeOH 50mlを加えて超音波洗浄器を用いて再分散させた。分散後、アンモニア水溶液(28%)2mlを加え、マグネチックスターラーで室温において5時間攪拌を続けた。得られた微粒子を遠心分離により分離させた。コアシェル微粒子の外側にシリカ層を有する複合微粒子を得た。得られた複合微粒子のSEM像を図7に示す。
【0091】
25℃における粒子径551±88.9nm(個数分布)。示差熱熱天秤測定による750℃での残渣から、シリカ成分は約57wt%であった。
(2)600℃、3時間で焼成後もSEM観察による粒子形状などに変化は見られず、焼成によって中空微粒子が得られたものと考えられる。得られた微粒子のSEM像を図8に示す。
【0092】
実施例4
実施例2におけるVPE0201添加量およびEGDMAの添加量は変えず、用いる溶媒をイオン交換水70ml、EtOH 30mlとして合成を行った。その結果、粒子径400.7±82.5nm(個数分布)の凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。得られた微粒子のSEM像を図9に示す。(SEMによりえられた粒子径と粒度分布の結果は一致していないが、粒度分布測定では、粒子が膨潤しているためと考えられる)。トルエンを用いた膨潤度は5.76であった。用いる溶媒としてEtOHとイオン交換水の比率を変えた場合、水含有率が60vol%程度で粒子径が極小を示した。水含有率が40-60vol%の範囲では粒子径の変化は大きくなかったが、60vol%を越えると急激に粒子径は大きくなった。これはモノマーおよびポリマーの溶解性が関係しているものと考えられる。
【0093】
実施例5
実施例1において、モノマーとしてEGDMA0.991g(5×10-3モル)およびメタクリル酸メチル(MMA)0.501g(5X10-3モル)を用い、他の条件は変えずに合成を行った。(EGDMA+MMAのモル数)/PEG換算のモル数=50((EGDMAのモル数)/PEG換算のモル数=25)であった。その結果、粒子径177±28.9nm(個数分布)の凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。得られた微粒子のSEM像を図10に示す。トルエンを用いた膨潤度は4.85であった。また、用いるモノマーの内MMAの割合を変えて微粒子の合成を行った結果、用いるモノマーの内MMAの割合が50%以下であれば得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子は凹凸を有することがわかった。
【0094】
実施例6
実施例2におけるVPE0201の代わりにVPE0601(和光純薬製、PEG部分の分子量6000)3.131g(PEG換算のモル数5.0×10-4モル)を用い、EGDMA添加量を1.982g(1×10-2モル)とし、イオン交換水60ml、EtOH 40mlを用いて75℃15時間加熱攪拌により合成を行った。MMAのモル数/PEG換算のモル数=20であった。その結果、粒子径251±47.0nm(個数分布)の凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子を得た。
【0095】
得られた微粒子のSEM像を図11に示す。
【0096】
実施例7
実施例1においてVPE0201 1.131g(PEG換算のモル数5×10-4モル)、EGDMAの代わりにメチレンビスアクリルアミド(MBAA) 1.54g(1×10-2モル)を用い、他の条件は変えずに合成を行った。MBAAのモル数/PEG換算のモル数=20であった。
【0097】
その結果、粒子径170±34.3nm(個数分布)の凹凸を有するコアシェル型高分子ゲル微粒子を得た。
【0098】
得られた微粒子のSEM像を図12に示す。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、本発明に従うコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法の模式図を示す。
【図2】図2は、実施例1により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図3】図3は、実施例2により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図4】図4は、比較例2により得られた架橋構造をもたないコア−シェル型高分子微粒子のSEM像を示す。
【図5】図5は、比較例2により得られた架橋構造をもたないコア−シェル型高分子微粒子をトルエンに溶解後、水:EtOH=60:40から再度得られたコア−シェル型高分子微粒子のSEM像を示す。
【図6】図6は、実施例2により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子をトルエンで膨潤後再回収、乾燥したもののSEM像を示す。
【図7】図7は、実施例3(1)により得られたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の外側にシリカ層を有する複合微粒子のSEM像を示す。
【図8】図8は、実施例3(2)により得られた中空微粒子のSEM像を示す。
【図9】図9は、実施例4により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図10】図10は、実施例5により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図11】図11は、実施例6により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【図12】図12は、実施例7により得られた凹凸を有するコア−シェル型高分子ゲル微粒子のSEM像を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることを特徴とする平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法。
【請求項2】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤が一般式(I):
【化1】
(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
作製されるコア−シェル型高分子ゲル微粒子が表面に凹凸を有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する多官能性モノマーのモル数の比が、前者1に対して後者が0.5〜150程度である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
多官能性モノマーが、エチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、トリエチレングリコールジメタクリレート及びエチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造される平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項7】
多官能性モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部からなるコア−シェル型高分子ゲル微粒子であって、該微粒子の平均粒子径に対する粒子径の標準偏差の比が、前者1に対して後者が0.05〜0.6程度であるコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させることを特徴とする高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により製造される高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、金属アルコキシドを反応させることを特徴とする金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項12】
請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を加熱処理することを特徴とする中空金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法により製造される中空金属酸化物微粒子。
【請求項1】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤及び多官能性モノマーを、水及び/またはアルコール中で重合させることを特徴とする平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法。
【請求項2】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤が一般式(I):
【化1】
(式中、mは20〜250の整数、nは4〜50の整数を示す。)
で表される繰り返し単位を含む高分子化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
作製されるコア−シェル型高分子ゲル微粒子が表面に凹凸を有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
PEG含有高分子アゾ重合開始剤におけるPEG換算のモル数に対する多官能性モノマーのモル数の比が、前者1に対して後者が0.5〜150程度である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
多官能性モノマーが、エチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、トリエチレングリコールジメタクリレート及びエチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造される平均粒子径20nm〜3000nm程度のコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項7】
多官能性モノマーが重合してなる高分子を含むコア部と、PEG含有高分子を含むシェル部からなるコア−シェル型高分子ゲル微粒子であって、該微粒子の平均粒子径に対する粒子径の標準偏差の比が、前者1に対して後者が0.05〜0.6程度であるコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、ビニル系モノマーを重合させることを特徴とする高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により製造される高分子層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られるコア−シェル型高分子ゲル微粒子を核として用い、水及び/またはアルコール中で、金属アルコキシドを反応させることを特徴とする金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子。
【請求項12】
請求項10に記載の製造方法により製造される金属酸化物層で被覆されたコア−シェル型高分子ゲル微粒子を加熱処理することを特徴とする中空金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法により製造される中空金属酸化物微粒子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−246704(P2007−246704A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72646(P2006−72646)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】
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