説明

コモンモードフィルタ及びその実装構造

【課題】GHz帯のコモンモードノイズを抑制する効果が高いコモンモードフィルタを提供する。
【解決手段】コモンモードフィルタ100は、第1及び第2のセラミック基体11a、11bと、第1のセラミック基体11aと第2のセラミック基体11bに挟まれた機能層12とを備えている。機能層12は、互いに磁気結合した積層方向に重なる2つのコイル導体17,18を含み、第2のセラミック基体11bからコイル導体17,18までの最短距離は、第1のセラミック基体11aからコイル導体17,18までの最短距離よりも短い。第1のセラミック基体11aは焼結フェライト、複合フェライト等の磁性材料からなる。一方、第2のセラミック基体11bはアルミナ等の低誘電率材料からなり、第1のセラミック基体11aと共に機能層12を物理的に保護すると共に、機能層12内のコイル導体間の浮遊容量を低減する役割を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンモードフィルタに関し、特に、薄膜タイプのコモンモードフィルタの構造に関するものである。また、本発明は、そのようなコモンモードフィルタの実装構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高速な信号伝送インターフェースとしてUSB2.0やHDMIなどの規格が広く普及し、パーソナルコンピュータやデジタルハイビジョンテレビなど数多くのデジタル機器に用いられている。これらのインターフェースは、古くから一般的であったシングルエンド伝送方式とは異なり、一対の信号ラインを用いて差動信号(ディファレンシャルモード信号)を伝送する差動信号方式が採用されている。
【0003】
差動伝送方式は、シングルエンド伝送方式と比べて信号ラインから発生する放射電磁界が少ないだけでなく、外来ノイズの影響を受けにくいという優れた特徴を有している。このため、信号の小振幅化が容易であり、小振幅化による立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短縮によって、シングルエンド伝送方式よりも高速な信号伝送を行うことが可能となる。
【0004】
図12は、一般的な差動伝送回路の回路図である。
【0005】
図12に示す差動伝送回路は、一対の信号ライン1,2と、信号ライン1,2にディファレンシャルモード信号を供給する出力バッファ3と、信号ライン1,2からのディファレンシャルモード信号を受ける入力バッファ4とを備えている。かかる構成により、出力バッファ3に与えられる入力信号INは、一対の信号ライン1,2を経由して入力バッファ4へ伝えられ、出力信号OUTとして再生される。このような差動伝送回路は、上述の通り、信号ライン1,2から発生する放射電磁界が少ないという特徴を有しているが、信号ライン1,2に共通のノイズ(コモンモードノイズ)が重畳した場合には比較的大きな放射電磁界を発生させてしまう。コモンモードノイズによって発生する放射電磁界を低減するためには、図12に示すように、信号ライン1,2にコモンモードフィルタ5を挿入することが有効である。
【0006】
コモンモードフィルタ5は、信号ライン1,2を伝わる差動成分(ディファレンシャルモード信号)に対するインピーダンスが低く、同相成分(コモンモードノイズ)に対するインピーダンスが高いという特性を有している。このため、信号ライン1,2にコモンモードフィルタ5を挿入することにより、ディファレンシャルモード信号を実質的に減衰させることなく、一対の信号ライン1,2を伝わるコモンモードノイズを遮断することができる。
【0007】
従来のコモンモードフィルタとしては、例えば特許文献1に示すように、非磁性基板の両面に第1及び第2のコイル導体を設け、さらにスペーサを介して非磁性基板の両面に磁性体層を設け、コイル導体の周囲を空洞化した構造が知られている。このコモンモードフィルタによれば、コイル導体内とコイル導体間の浮遊容量に起因する高周波帯域におけるディファレンシャルモードでの挿入損失を低減し、コモンモードノイズを広帯域で低減することが可能となる。また特許文献2では、2つのスパイラルパターンを直列接続することによりコモンモードノイズに対するインダクタンスを高めたコモンモードフィルタが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−196812号公報
【特許文献2】特開2007−181169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
HDMI等の最新の高速デジタルインターフェースに使用するコモンモードフィルタには、1GHz以上のコモンモードノイズを抑制できることが要求されている。しかしながら、従来の一般的なコモンモードフィルタでは、GHz帯のコモンモードノイズ抑制効果が十分でなかった。そのため特許文献1に記載のコモンモードフィルタでは、コイル導体の一部を空間部に表出させることにより浮遊容量の低減を図っているが、空間部の存在によって端子電極形成時のめっき液の侵入や機械的強度の低下といった問題がある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、GHz帯のコモンモードノイズを抑制する効果が高く、加工性や機械的強度も優れたコモンモードフィルタを提供することにある。また、本発明の目的は、そのようなコモンモードフィルタのプリント基板上に実装する際にフィルタ特性が良好となる実装構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明によるコモンモードフィルタは、互いに磁気結合した積層方向に重なる2つのコイル導体と、2つのコイル導体を挟む第1及び第2のセラミック基体とを備え、第1のセラミック基体は磁性材料からなり、第2のセラミック基体の誘電率は第1のセラミック基体よりも低く、第2のセラミック基体からコイル導体までの最短距離は、第1のセラミック基体からコイル導体までの最短距離よりも短いことを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、コイル導体が一方のセラミック基体側に偏って配置された構造において、コイル導体と近い側のセラミック基体に低誘電率材料を用いているのでセラミック基体を介してコイル導体の隣接ターン間に生じる浮遊容量を低減することができる。これにより、インピーダンスの共振を意図的に鋭くしてコモンモード減衰特性を部分的に向上させることができ、共振周波数の高周波化を図ることができる。したがって、GHz帯のコモンモードノイズ抑制効果の高いコモンモードフィルタを提供することができる。
【0013】
本発明において、2つのコイル導体はそれぞれ2つのスパイラルパターンの直列接続を含むことが好ましい。誘電率の低いセラミック基体を使用した場合にはインダクタンスが低下するが、2つのスパイラルパターンを直列接続することにより、インダクタンスの低下を補うことができ、さらにライン内の容量の低減を図ることができる。したがって、所望のインダクタンスを有する高性能なコモンモードフィルタを提供することができる。
【0014】
本発明によるコモンモードフィルタは、第1及び第2のコイル導体の内側に設けられた磁性体をさらに備えることが好ましい。第2のセラミック基体が低誘電率材料からなる場合、コイル導体のインダクタンスが低下するが、コイル導体の内側に磁性体を設けた場合にはインダクタンスの低下を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の上記課題は、コモンモードフィルタと、コモンモードフィルタが実装されたプリント基板とを備え、コモンモードフィルタは、互いに磁気結合した積層方向に重なる2つのコイル導体と、2つのコイル導体を挟む第1及び第2のセラミック基体とを備え、第2のセラミック基体の誘電率は第1のセラミック基体よりも低く、第2のセラミック基体からコイル導体までの最短距離は、第1のセラミック基体からコイル導体までの最短距離よりも短く、コモンモードフィルタは、第2のセラミック基体がプリント基板側を向いて実装されていることを特徴とするコモンモードフィルタの実装構造によっても解決することができる。
【0016】
本発明によれば、コモンモードフィルタを実装する際、プリント基板の実装領域にグランド配線があった場合、コイルパターンとの間で浮遊容量が発生するが、第2のセラミック基体がプリント基板側に配置されていることから、浮遊容量を低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明によれば、コイル導体間に生じる浮遊容量を低く抑えることができ、GHz帯のコモンモードノイズ抑制効果の高いコモンモードフィルタを提供することができる。また、内部に空洞が設けられていないため、めっき液の進入といった不具合もなく、加工性や機械的強度にも優れたコモンモードフィルタを提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、そのようなコモンモードフィルタのプリント基板上に実装する際にフィルタ特性が良好となる実装構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるコモンモードフィルタ100の外観構成を示す略斜視図である。
【図2】コモンモードフィルタ100の層構造の一例を示す略分解斜視図である。
【図3】コモンモードフィルタ100の略断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、セラミック基体とコイル導体との関係を説明するための模式図である。
【図5】コモンモードフィルタ100の実装構造を示す略断面図である。
【図6】本実施形態によるコモンモードフィルタ100のコモンモード減衰特性を従来のコモンモードフィルタと比較して示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施形態によるコモンモードフィルタ200の構成を示す略分解斜視図である。
【図8】第2の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路図である。
【図9】本発明の第3の実施形態によるコモンモードフィルタ300の構成を示す略分解斜視図である。
【図10】セラミック基体11bの構造の変形例を示す略断面図である。
【図11】実施例サンプルA1〜A3及び比較例サンプルB1のコモンモード減衰特性の測定結果を示すグラフである。
【図12】一般的な差動伝送回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるコモンモードフィルタの外観構成を示す略斜視図である。また、図2は、コモンモードフィルタ100の層構造の一例を示す略分解斜視図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態によるコモンモードフィルタ100はいわゆる薄膜タイプであって、第1及び第2のセラミック基体11a、11bと、第1のセラミック基体11aと第2のセラミック基体11bに挟まれた機能層12とを備えている。第1のセラミック基体11a、機能層12及び第2のセラミック基体11bからなる積層体の外周面には、第1〜第4の端子電極13a〜13dが形成されている。このうち、第1及び第2の端子電極13a,13bは第1の側面10aに形成され、第3及び第4の端子電極13c、13dは第1の側面10aと対向する第2の側面10bに形成されている。
【0023】
第1のセラミック基体11aは、機能層12を物理的に保護すると共に、コモンモードフィルタの閉磁路としての役割を果たすものである。第1のセラミック基体11a,11bの材料としては、焼結フェライト、複合フェライト(粉状のフェライトを含有した樹脂)等を用いることができる。
【0024】
第2のセラミック基体11bは、第1のセラミック基体11aと共に機能層12を物理的に保護すると共に、機能層12内のコイル導体間の浮遊容量を低減する役割を果たすものである。第2のセラミック基体11bの材料としては、アルミナ(Al)等を用いることが好ましい。アルミナはフェライトに比べて誘電率が低いことから、コイル導体による浮遊容量を抑制することができる。第2のセラミック基体11bはアルミナを主成分として含むものであればよく、アルミナのみで形成されていなくてもよい。
【0025】
図2に示すように、機能層12は、接着層15a,15bと、絶縁層16a〜16dと、磁性層27と、絶縁層16b上に形成された第1のコイル導体17と、絶縁層16c上に形成された第2のコイル導体18と、絶縁層16a上に形成された第1の引き出し導体19と、絶縁層16d上に形成された第2の引き出し導体20とを備えている。
【0026】
絶縁層16a〜16dは、各導体パターン間、或いは導体パターンと磁性層27とを絶縁すると共に、導体パターンが形成される下地面の平坦性を確保する役割を果たす。絶縁層16a〜16dの材料としては、電気的及び磁気的な絶縁性に優れ、加工性のよい樹脂を用いることが好ましく、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂を用いることが好ましい。導体パターンとしては、導電性及び加工性に優れたCu、Al等を用いることが好ましい。導体パターンの形成は、フォトリソグラフィーを用いたエッチング法やアディティブ法(めっき)により行うことができる。
【0027】
絶縁層16a〜16dの中央領域であって第1及び第2のコイル導体17,18の内側には、絶縁層16a〜16dを貫通する開口25が設けられており、開口25の内部には、第1のセラミック基体11aとの間に閉磁路を形成するための磁性体26が充填されている。そのため、コモンモードフィルタ100は半閉磁路構造となる。第2のセラミック基体がアルミナ等の低誘電率材料からなる場合、コイル導体17,18のインダクタンスが低下するが、コイル導体17,18の内側に磁性体を設けた場合にはインダクタンスの低下を抑制することができる。磁性体26としては、複合フェライト等を用いることが好ましい。
【0028】
さらに、絶縁層16dの表面には磁性層27が形成されている。開口25内の磁性体26は、複合フェライト(磁性粉含有樹脂)のペーストを硬化させて形成しているが、硬化時に樹脂の収縮が発生し、開口部分に凹凸が生じる。この凹凸をできるだけ少なくするためには、開口25の内部のみならず絶縁層16dの表面全体にもペーストを塗布することが好ましく、磁性層27はそのような平坦性の確保を目的として形成される。
【0029】
接着層15aはセラミック基体11aと磁性層27との貼り合わせに必要な層であり、接着層15bはセラミック基体11bと絶縁層16aとの貼り合わせに必要な層である。また、2つの接着面の凹凸を緩和し、密着性を高める役割を果たす。特に限定されるものではないが、接着層15a,15bの材料としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることができる。
【0030】
第1のコイル導体17は、コモンモードフィルタの一方のコイルを構成する矩形のスパイラルパターンからなり、第1のコイル導体17の内周端は、絶縁層16bを貫通するコンタクトホール導体21及び引き出し導体19を介して、第1の端子電極13aに接続されている。また、第1のコイル導体17の外周端は、引き出し導体23を介して第3の端子電極13cに接続されている。
【0031】
第2のコイル導体18は、コモンモードフィルタの他方のコイルを構成する矩形のスパイラルパターンからなり、第2のコイル導体18の内周端は、絶縁層16dを貫通するコンタクトホール導体22及び引き出し導体20を介して、第2の端子電極13bに接続されている。また、第2のコイル導体18の外周端は、引き出し導体24を介して第4の端子電極13dに接続されている。
【0032】
第1及び第2のコイル導体17,18は共に同一の平面形状を有しており、しかも平面視で同じ位置に設けられている。第1及び第2のコイル導体17,18は完全に重なり合っていることから、両者の間には強い磁気結合が生じている。以上の構成により、機能層12内の2つのコイル導体はコモンモードフィルタを構成している。
【0033】
図3は、コモンモードフィルタ100の略断面図である。また図4(a)及び(b)は、セラミック基体とコイル導体との関係を説明するための模式図である。
【0034】
図3に示すように、本実施形態によるコモンモードフィルタ100は、コイル導体17,18が第2のセラミック基体11b側に偏って配置された積層構造を有しており、第1のセラミック基体11aはフェライト等の磁性材料からなり、セラミック基体11bがアルミナ等の低誘電率材料で構成されている。すなわち、第1のセラミック基体11aとコイル導体17,18との間の最短距離(ここではセラミック基体11aの接着面S1から第2のコイル導体18の一方の面S2までの距離)をD1とし、第2のセラミック基体11bとコイル導体17,18との最短距離(ここではセラミック基体11bの接着面S3から第1のコイル導体17の一方の面S4までの距離)をD2とするとき、D1>D2なる関係が成立している。コイル導体17,18がセラミック基体11b側に偏っている理由は、セラミック基体11b上に絶縁層や導体層を順次積層し、導体層をパターニングし、最後に磁性層を形成することによりコモンモードフィルタ100が完成するという製造上の理由によるものである。
【0035】
図4(a)に示すように、もしコイル導体17,18と近接する一方のセラミック基体11bがフェライト等の強磁性体からなるとすると、セラミック基体11を介してコイル導体17,18の隣接ターン間に生じる浮遊容量C1が大きくなってしまうという問題がある。しかし、図4(b)に示すように、セラミック基体11bがアルミナ等の低誘電率材料からなる場合には、セラミック基体11を介してコイル導体17,18の隣接ターン間に生じる浮遊容量C2を小さくすることができる。これにより、インピーダンスの共振を意図的に鋭くしてコモンモード減衰特性を部分的に向上させることができ、共振周波数をより高くすることができる。したがって、GHz帯のコモンモードノイズ抑制効果の高いコモンモードフィルタを提供することができる。
【0036】
図5は、コモンモードフィルタ100の実装構造を示す略断面図である。
【0037】
図5に示すように、コモンモードフィルタ100は、第2のセラミック基体11bをプリント基板30側に向けて実装される。プリント基板30上に設けられたコモンモードフィルタ100の実装領域31内にグランド配線32が存在する場合、コイル導体17,18とグランド配線32との間に浮遊容量C3が発生するが、第2のセラミック基体11bをプリント基板30側に向けて実装した場合には、低誘電率材料からなる第2のセラミック基体11bがコイル導体17,18とグランド配線31との間に介在することから、フェライトからなる第1のセラミック基体11aが介在する場合に比べて、コイル導体17,18の浮遊容量C3を小さくすることができる。
【0038】
図6は、本実施形態によるコモンモードフィルタ100のコモンモード減衰特性を従来のコモンモードフィルタと比較して示すグラフである。
【0039】
図6に示すように、機能層12を挟み込む第1及び第2のセラミック基板が共にフェライト等の共時性材料からなる従来のコモンモードフィルタの共振周波数は1GHz付近であり、そのピークは比較的緩やかである。これに対し、本実施形態によるコモンモードフィルタ100の共振周波数は約2GHzとなり、そのピークも従来のコモンモードフィルタに比べて急峻となる。このように、本実施形態によれば、共振周波数をより高く且つ急峻にすることができ、よってGHz帯のコモンモードノイズを抑制する効果を高めることができる。
【0040】
図7は、本発明の第2の実施形態によるコモンモードフィルタの構成を示す略分解斜視図である。また図8は、図7に示したコモンモードフィルタの等価回路図である。
【0041】
図7に示すように、本実施形態によるコモンモードフィルタ200は、第1及び第2のコイル導体17,18が共に2つのスパイラルパターンの直列接続によって構成されている点を特徴としている。すなわち、第1のコイル導体17は第1及び第2のスパイラルパターン17A,17Bの直列接続からなり、第2のコイル導体18は第3及び第4のスパイラルパターン18A,18Bの直列接続からなる。第1のスパイラルパターン17Aは図8に示すインダクタンスL1に対応するものであり、第2のスパイラルパターン17BはインダクタンスL2に対応するものである。さらに、第3のスパイラルパターン18AはインダクタンスL3に対応するものであり、第4のスパイラルパターン18BはインダクタンスL4に対応するものである。その他の主要な構成は第1の実施形態によるコモンモードフィルタ100と実質的に同一であることから、同一の構成要素に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
第1のスパイラルパターン17Aの内周端は、絶縁層16bを貫通するコンタクトホール導体21A及び引き出し導体19Aを介して、第1の端子電極13aに接続されている。また、第1のスパイラルパターン17Aの外周端は、絶縁層16bを貫通するコンタクトホール導体21B、引き出し導体19B、及び絶縁層16bを貫通するコンタクトホール導体21Cを介して、第2のスパイラルパターン17Bの内周端に接続されている。さらに、第2のスパイラルパターン17Bの外周端は、引き出し導体19Cを介して、第3の端子電極13cに接続されている。
【0043】
第3のスパイラルパターン18Aの内周端は、絶縁層16dを貫通するコンタクトホール導体22A及び引き出し導体20Aを介して、第2の端子電極13bに接続されている。また、第3のスパイラルパターン18Aの外周端は、絶縁層16dを貫通するコンタクトホール導体22B、引き出し導体20B、及び絶縁層16dを貫通するコンタクトホール導体22Cを介して、第4のスパイラルパターン18Bの内周端に接続されている。さらに、第4のスパイラルパターン18Bの外周端は、引き出し導体20Cを介して、第4の端子電極13dに接続されている。
【0044】
スパイラルパターン17A,18Aの内側に対応する絶縁層16a〜16dの所定の領域には開口25Aが設けられており、開口25Aの内部には磁性体26Aが充填されている。また、スパイラルパターン17B,18Bの内側に対応する絶縁層16a〜16dの所定の領域には開口25Bが設けられており、開口25Bの内部には磁性体26Bが充填されている。
【0045】
第1及び第2のスパイラルパターン17A,17Bの直列接続からなる第1のコイル導体17と、第3及び第4のスパイラルパターン18A,18Bの直列接続からなる第2のコイル導体18は、第1の実施形態と同様、共に同一の平面形状を有しており、しかも平面視で同じ位置に設けられている。第1のスパイラルパターン17Aと第2のスパイラルパターン18Aは完全に重なり合っていることから、両者の間には強い磁気結合が生じている。また、第3のスパイラルパターン17Bと第4のスパイラルパターン18Bも完全に重なり合っていることから、両者の間には強い磁気結合が生じている。以上の構成により、機能層12内の2つのコイル導体はコモンモードフィルタを構成している。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によるコモンモードフィルタ200は、第1及び第2のコイル導体17,18が共に2つのスパイラルパターンの直列接続からなり、単一のスパイラルパターンに比べてインダクタンスは約2倍、浮遊容量は約1/2となる。そのため、誘電率の低いセラミック基体を使用することによるインダクタンスの低下を補うことができるだけでなく、ライン内の容量の低減を図ることができ、所望のインダクタンスを有する高性能なコモンモードフィルタを提供することができる。
【0047】
図9は、本発明の第3の実施形態によるコモンモードフィルタの構成を示す略分解斜視図である。
【0048】
図9に示すように、本実施形態によるコモンモードフィルタ300は、第1及び第2のコイル導体17,18の形状が矩形スパイラルではなく、曲線状のスパイラルパターン(円形スパイラル)である点を特徴としている。第1及び第2のコイル導体17,18の形状を円形スパイラルとした場合には、矩形スパイラルよりもその全長を短くすることができる。これにより、コモンモードフィルタのコモンモードのカットオフ周波数をより高くすることができる。一方、コイル導体の全長が短くなると直流抵抗が低下するため、円形スパイラルの場合には導体の厚みをより薄くする必要がある。その他の構成については第1の実施形態によるコモンモードフィルタ100と同様であることから、同一の構成に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、コモンモードフィルタにおけるコモンモードのカットオフ周波数をより高くすることができ、より高性能なコモンモードフィルタを実現することができる。
【0050】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明に包含されるものであることは言うまでもない。
【0051】
例えば、上記各実施形態においては、第2のセラミック基体11bの全体がアルミナ等の低誘電率材料からなる場合を説明したが、本発明はこのような構成に限定されず、例えば図10に示すように、コイル導体17,18の略直下に位置する部分のみをアルミナ11cとし、その他の大部分をフェライト11dとするセラミック基体を使用することも可能である。
【0052】
例えば、図5では第1の実施形態によるコモンモードフィルタ100の実装構造について説明したが、第2の実施形態によるコモンモードフィルタ200や第3の実施形態によるコモンモードフィルタ300を図5に示す実装構造としてもよく、コモンモードフィルタ100と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0053】
図1乃至3に示した構造を有するコモンモードフィルタの実施例サンプルA1〜A3を用意した。また、セラミック基体が上下共にフェライトからなる点を除いて実施例サンプルA1と同一構成を有する比較例サンプルB1を用意した。コモンモードフィルタのサイズは各サンプル共通であり、1.2mm×1.0mm×0.6mmとした。
【0054】
ここで、実施例サンプルA1のスパイラルのターン数は4.5Ts、導体幅は23μm、導体厚は14μm、隣接ターン間のスペース幅は5μm、上下のコイル導体間の絶縁距離は20μmとした。このとき、サンプルA1の特性インピーダンスは100Ωであった。また、実施例サンプルA2のスパイラルのターン数は8.5Ts、導体幅は10μm、導体厚は14μm、隣接ターン間のスペース幅は4μm、上下のコイル導体間の絶縁距離は8μmとした。このとき、サンプルA2の特性インピーダンスは120Ωであった。また、実施例サンプルA3のスパイラルのターン数は6.5Ts、導体幅は14μm、導体厚は14μm、隣接ターン間のスペース幅は5μm、上下のコイル導体間の絶縁距離は8μmとした。このとき、サンプルA3の特性インピーダンスは90Ωであった。なお、サンプルA1の絶縁距離を20μmとし、サンプルA2,A3の絶縁距離を8Ωとした理由は、各サンプルの特性インピーダンスを100Ω程度にするためである。
【0055】
次に、これらの実施例A1〜A3及び比較例サンプルB1のコモンモード減衰特性を測定した。その結果を図11に示す。
【0056】
図11から明らかなように、実施例サンプルA1の共振周波数は2.1GHz、実施例サンプルA2は1.4GHz、実施例サンプルA3は1.1GHzとなり、比較例サンプルB1よりも高い共振周波数となった。また、各実施例サンプルA1〜A3において共振のピークは比較例サンプルB1よりも急峻なものとなった。これらに対し、比較例サンプルB1の共振周波数は1.0GHzとなり、その共振のピークは各実施例サンプルA1〜A3よりも緩やかなものとなった。
【符号の説明】
【0057】
1,2 信号ライン
3 出力バッファ
4 入力バッファ
5 コモンモードフィルタ
10a 第1の側面
10b 第2の側面
11a 第1のセラミック基体
11b 第2のセラミック基体
11c 基体のアルミナ部分
11d 基体のフェライト部分
11a 絶縁層
12 機能層
13a 第1の端子電極
13b 第2の端子電極
13c 第3の端子電極
13d 第4の端子電極
15a,15b 接着層
16a〜16d 絶縁層
17 第1のコイル導体
18 第2のコイル導体
17A 第1のスパイラルパターン
17B 第2のスパイラルパターン
18A 第3のスパイラルパターン
18B 第4のスパイラルパターン
19,19A〜19C 引き出し導体
20,20A〜20C 引き出し導体
21,21A〜21C コンタクトホール導体
22,22A〜22C コンタクトホール導体
23 引き出し導体
24 引き出し導体
25,25A,25B 開口
26,26A,26B 磁性体
27 磁性層
30 プリント基板
31 コモンモードフィルタの実装領域
32 グランド配線
100 コモンモードフィルタ
200 コモンモードフィルタ
300 コモンモードフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに磁気結合した積層方向に重なる2つのコイル導体と、
前記2つのコイル導体を挟む第1及び第2のセラミック基体とを備え、
前記第1のセラミック基体は磁性材料からなり、
前記第2のセラミック基体の誘電率は前記第1のセラミック基体よりも低く、
前記第2のセラミック基体から前記コイル導体までの最短距離は、前記第1のセラミック基体から前記コイル導体までの最短距離よりも短いことを特徴とするコモンモードフィルタ。
【請求項2】
前記第1及び第2のコイル導体はそれぞれ2つのスパイラルパターンの直列接続を含むことを特徴とする請求項1に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項3】
前記第1及び第2のコイル導体は共に曲線状のスパイラルパターンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項4】
前記第1及び第2のコイル導体の内側に設けられた磁性体をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項5】
コモンモードフィルタと、前記コモンモードフィルタが実装されたプリント基板とを備え、
前記コモンモードフィルタは、互いに磁気結合した積層方向に重なる2つのコイル導体と、前記2つのコイル導体を挟む第1及び第2のセラミック基体とを備え、前記第2のセラミック基体の誘電率は前記第1のセラミック基体よりも低く、前記第2のセラミック基体から前記コイル導体までの最短距離は、前記第1のセラミック基体から前記コイル導体までの最短距離よりも短く、
前記コモンモードフィルタは、前記第2のセラミック基体が前記プリント基板側を向いて実装されていることを特徴とするコモンモードフィルタの実装構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−177380(P2010−177380A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17272(P2009−17272)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】