コモンモードフィルタ
【課題】コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整できるコモンモードフィルタを提供する。
【解決手段】基板101と樹脂積層部110と基板109とがこの順で積層された積層体を有し、樹脂積層部110は、スパイラル導体151,152と、スパイラル導体151,152それぞれを外部電極と接続する引出導体151a,151b,152a,152bと、平面導体P1〜P6とが形成され、平面導体P1は、樹脂積層部110内の、スパイラル導体151の外周形と積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域(又は引出導体151aの形成によって生ずる第2の余白領域)に形成され、平面導体P2は、平面導体P1と積層方向で対向する位置に形成されることを特徴とする。
【解決手段】基板101と樹脂積層部110と基板109とがこの順で積層された積層体を有し、樹脂積層部110は、スパイラル導体151,152と、スパイラル導体151,152それぞれを外部電極と接続する引出導体151a,151b,152a,152bと、平面導体P1〜P6とが形成され、平面導体P1は、樹脂積層部110内の、スパイラル導体151の外周形と積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域(又は引出導体151aの形成によって生ずる第2の余白領域)に形成され、平面導体P2は、平面導体P1と積層方向で対向する位置に形成されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコモンモードフィルタに関し、特に、小型化のために好適なコモンモードフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速な信号伝送インターフェースとして、USB2.0規格やHDMI規格が広く普及し、パーソナルコンピュータやデジタルカメラなど数多くのデジタル機器に用いられている。USB2.0規格やHDMI規格などのインターフェースは、古くから一般的であったシングルエンド伝送方式とは異なり、一対の信号線を用いて差動信号を伝送する差動信号方式が採用されている。
【0003】
差動伝送方式は、シングルエンド伝送方式と比べて信号線から発生する放射電磁界が少ないだけでなく、外来ノイズの影響を受けにくいという優れた特徴を有している。このため、信号の小振幅化が容易であり、小振幅化による立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短縮によって、シングルエンド伝送方式よりも高速な信号伝送を行うことが可能となる。
【0004】
図13は、一般的な差動伝送回路の回路図である。
【0005】
図13に示す差動伝送回路は、一対の信号線11,12と、信号線11,12に差動信号を供給する出力バッファ13と、信号線11,12からの差動信号を受ける入力バッファ14とを備えている。かかる構成により、出力バッファ13に与えられる入力信号INは、一対の信号線11,12を経由して入力バッファ14へ伝えられ、出力信号OUTとして再生される。このような差動伝送回路は、上述の通り、信号線11,12から発生する放射電磁界が少ないという特徴を有しているが、信号線11,12に共通のノイズ(コモンモードノイズ)が重畳した場合には比較的大きな放射電磁界を発生させてしまう。コモンモードノイズによって発生する放射電磁界を低減するためには、図13に示すように、信号線11,12にコモンモードチョークコイル20を挿入することが有効である。
【0006】
コモンモードチョークコイル20は、信号線11,12を伝わる差動成分(信号)に対するインピーダンス(特性インピーダンス)が低く、同相成分(コモンモードノイズ)に対するインピーダンスが高いという特性を有している。このため、信号線11,12にコモンモードチョークコイル20を挿入することにより、差動信号を実質的に減衰させることなく、一対の信号線11,12を伝わるコモンモードノイズを遮断することができる。
【0007】
一般的なコモンモードチョークコイルは一対のスパイラル導体(平面内で渦巻き状となっている導体)を含む積層体によって構成される(例えば特許文献1,2参照。)。近年、コモンモードチョークコイル積層体(以下、コモンモードフィルタという。)には小型化・低背化が厳しく要求されており、スパイラル導体の幅及びピッチは高精細化の一途を辿っている。
【特許文献1】特開平8−203737号公報
【特許文献2】特開平8−97664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスZodは、そのコモンモードチョークコイルが挿入される伝送信号系のインピーダンスと整合していることが好ましい。
【0009】
コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスZodは、次の式(1)によって表される。ただし、Cは一対のスパイラル導体間に生ずる寄生容量である。また、Ldはディファレンシャルモードインダクタンスであり、式(2)によって表される。式(2)中のLsはスパイラル導体の自己インダクタンスであり、Mdはスパイラル導体間の相互インダクタンスである。
【0010】
【数1】
【0011】
【数2】
【0012】
式(1)より、特性インピーダンスZodの調整は、スパイラル導体間の距離、スパイラル導体間の間に存在する材料の誘電率、或いは導体線路幅などの調整によって行うことができることになる。例えば導体線路幅を広くすれば寄生容量Cが大きくなるので、式(1)より特性インピーダンスZodは低下する。また、スパイラル導体間の距離を短くすることやスパイラル導体間の間に存在する材料の誘電率を大きくすることによっても寄生容量Cは大きくなり、やはり特性インピーダンスZodは低下する。
【0013】
しかしながら、上述したようにコモンモードフィルタには小型化・低背化が厳しく要求され、インピーダンス調整のために導体の幅を広くすることが困難になってきている。そうすると、特性インピーダンスZodを低下させる必要があるときには他の手段によって低下させる必要が生ずるが、スパイラル導体間の距離やスパイラル導体間の間に存在する材料の誘電率による調整には限界がある。
【0014】
上記特許文献2の第1図に記載されたLC複合部品ではフィルタ素子のひとつとしてスパイラル導体の横にコンデンサパターンが設けられており、このようなコンデンサパターンを利用することによっても特性インピーダンスZodは低下する。しかし、コモンモードフィルタが著しく大型化してしまうため、フィルタ素子としての利用は格別、特性インピーダンス調整用としては到底利用できるものではない。
【0015】
したがって、本発明の課題のひとつは、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整できるコモンモードフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明によるコモンモードフィルタは、第1磁性体基板と樹脂積層部と第2磁性体基板とがこの順で積層された積層体と、前記積層体の露出面に形成された外部電極とを有し、前記樹脂積層部は、第1及び第2のスパイラル導体と、前記第1及び第2のスパイラル導体それぞれを前記外部電極と電気的に接続する複数の引出導体と、第1及び第2の平面導体を含む複数の平面導体とを有し、前記第1の平面導体は、前記樹脂積層部内の、前記各スパイラル導体の外周形と前記積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域、又は前記各引出導体の形成によって生ずる第2の余白領域のいずれか少なくとも一方に形成され、前記第2の平面導体は、前記第1の平面導体と積層方向で対向する位置に形成され、前記各平面導体は前記各スパイラル導体又は前記各引出導体のいずれか少なくとも1つと電気的に接続していることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、絶縁性非磁性樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0018】
また、上記コモンモードフィルタにおいて、前記積層体を構成する各層の外形の角数と前記各スパイラル導体の外周形の角数とは互いに相違し、前記第1の余白領域は、前記角数の相違によって生ずる第3の余白領域を含み、前記第1の平面導体は前記第3の余白領域に形成されることとしてもよい。これによれば、角数の相違によって生ずる余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるようになる。
【0019】
なお、前記各スパイラル導体の外縁は、当該スパイラル導体が形成される樹脂層の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形を短絡してなる短絡部を有し、前記第3の余白領域は、前記仮想外周形と前記短絡部によって挟まれた領域であるとすることが好適である。
【0020】
また、上記コモンモードフィルタにおいて、第1平面導体は第1スパイラル導体と接触していることとしてもよいし、第1平面導体は第1引出導体と接触していることとしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい第1〜第4の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の好ましい第1の実施形態によるコモンモードフィルタ100の略分解斜視図である。
【0024】
図1に示すように、コモンモードフィルタ100は、基板101(第1磁性体基板)、樹脂積層部110、樹脂層106、磁性体層107a,107b、接着層108、基板109(第2磁性体基板)がこの順で積層されてなる積層体と、該積層体の側面に形成された外部電極131〜134とを有している。
【0025】
コモンモードフィルタ100は外部電極131,133を通じて入力される差動信号からコモンモードノイズを除去するために用いられるものである。コモンモードフィルタには大きさによって色々な種類があるが、例えば所謂0605型(図1に示したx方向の長さが0.65mm、y方向の長さが0.5mm、z方向の長さが0.3mm。)を用いることが好適である。
【0026】
基板101,109は積層体を物理的に保護するとともに、コモンモードチョークコイルの磁路としての役割を果たすものである。基板101,109の材料としては、焼結フェライトや複合フェライト(粉状のフェライトを含有した樹脂)を用いることが好適である。特に、Ni−Cu−Zn系フェライトやMn−Zn系フェライトなどの比較的透磁率の高い材料を用いることが好ましい。透磁率の高い磁性材料を用いることにより、コモンモードフィルタとして本来求められる磁気特性が高められるからである。
【0027】
樹脂積層部110及び樹脂層106は、中央付近に、長方形断面を有するスルーホール160を有している。また、樹脂積層部110は図1に示すように積層された4つの樹脂層102〜105から構成されており、所定の樹脂層の表面には一対のスパイラル導体(スパイラル状のコイル導体)、スパイラル導体を外部電極に電気的に接続するための引出導体、及び特性インピーダンス調整用の平面導体を含む導体パターンが形成されている。一方、樹脂層106は導体パターンと磁性体層107bを分離するために設けられているもので、その表面には導体パターンは形成されていない。
【0028】
各樹脂層102〜105,106は、感光性を有する絶縁性非磁性樹脂(例えば感光性ポリイミド樹脂)をスピンコートし、これを露光・現像・熱硬化することによって形成する。また、各導体パターンは、蒸着法又はスパッタリング法により樹脂層の上に下地導電層を形成し、これを給電体としたメッキを行うことにより形成する。
【0029】
磁性体層107aはコモンモードチョークコイルの磁路としての役割を果たす層であり、スルーホール160内に埋め込まれている。磁性体層107aは、樹脂を混ぜて流動性を持たせた磁性材料を樹脂層106上に流すことによって形成する。磁性体層107bは磁性材料を樹脂層106上に流した際に形成される層である。
【0030】
以下、樹脂積層部110について詳しく説明する。
【0031】
図2は樹脂積層部110を構成する樹脂層102〜105の各平面図である。同図に示すように、樹脂層103〜105の中央付近にはスルーホール160が形成されており、スルーホール160内には磁性体層107aが埋め込まれている。
【0032】
樹脂層102上には、引出導体151b及び平面導体P3が形成されている。引出導体151bは積層体の側面で外部電極132に接触しており、平面導体P3は引出導体151bに接触している。
【0033】
樹脂層103上には、スパイラル導体151、引出導体151a、及び平面導体P1,P4が形成されている。このうち引出導体151aはスパイラル導体151を外部電極131と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体151の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極131に接触している。また、平面導体P1は引出導体151aに接触している。一方、平面導体P4は他の導体には直接接触しておらず、孤立している。
【0034】
樹脂層103にはスルーホール161(図1参照)も設けられている。スルーホール161内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体151の内周端と引出導体151bとを電気的に接続している。
【0035】
樹脂層104上には、スパイラル導体152、引出導体152a、及び平面導体P2,P5が形成されている。このうち引出導体152aはスパイラル導体152を外部電極133と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体152の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極133に接触している。また、平面導体P2は引出導体152aに接触している。一方、平面導体P5は他の導体には直接接触しておらず、孤立している。
【0036】
樹脂層105上には、引出導体152b及び平面導体P6が形成されている。引出導体152bは積層体の側面で外部電極134に接触しており、平面導体P6は引出導体152bに接触している。
【0037】
樹脂層105にはスルーホール162(図1参照)も設けられている。スルーホール162内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体152の内周端と引出導体152bとを電気的に接続している。
【0038】
スパイラル導体151,152は、樹脂層104を介して向かい合うように配置されており、このため、両者は互いに磁気結合している。図1の図面上方からみた場合、スパイラル導体151,152は、いずれも外周端から内周端に向かっていずれも左回り(反時計回り)に巻回されている。したがって、外部電極131,133を一対の入力端子とすれば、スパイラル導体151,152は互いに同方向に磁気結合することになる。ここで、「互いに同方向に磁気結合」とは、同相成分に対しては互いに磁束を強め合い、差動成分に対しては互いに磁束を打ち消し合うように磁気結合していることを言う。これにより、スパイラル導体151,152はコモンモードチョークコイルとして機能することになる。
【0039】
平面導体P1〜P6は、コモンモードフィルタ100の特性インピーダンスを調整するために設けられているものであり、いずれも樹脂層上の余白領域に形成されている。以下、詳しく説明する。
【0040】
図3は樹脂層102〜105の余白領域B1〜B8を示す図である。
【0041】
余白領域は大きく分けて2種類に分類される。1つ目はスパイラル導体の外周形と樹脂層の外形との違いによって生ずるもの(第1の余白領域)であり、2つ目は引出導体の形成によって生ずるもの(第2の余白領域)である。いずれも、平面導体を形成するか否かに関わらず必然的に生じている余白領域である。
【0042】
余白領域B1〜B8のうち、余白領域B1,B8は第2の余白領域である。それぞれ、引出導体151b,152bの形成によって生じている。
【0043】
余白領域B4,B7は第1の余白領域である。それぞれ、スパイラル導体151,152の外周形と、樹脂層103,104の外形との違いによって生じている。
【0044】
余白領域B2,B3,B5,B6は第1の余白領域であるとともに、第2の余白領域でもある。すなわち、余白領域B2,B3は引出導体151aの形成によって生じているとともに、スパイラル導体151の外周形と樹脂層103の外形との違いによって生じているとも言える。また、余白領域B5,B6は引出導体152aの形成によって生じているとともに、スパイラル導体152の外周形と樹脂層104の外形との違いによって生じているとも言える。
【0045】
コモンモードフィルタ100においては、平面導体P1〜P6はそれぞれ、余白領域B3,B5,B1,B4,B7,B8に形成されている。中でも平面導体P1〜P3及びP6は引出導体を余白領域に向って広げた形状となっている。また、平面導体P1,P2は積層方向で互いに対向する位置に形成されている。平面導体P3〜P6も積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0046】
図4は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ100の等価回路を示す図である。
【0047】
図4に示すように、コモンモードフィルタ100は、外部電極131,132間の信号線170と外部電極133,134間の信号線171を有している。そして、信号線170,171にはスパイラル導体151,152によって構成されるコモンモードチョークコイルが挿入されている。
【0048】
平面導体P1,P2は信号線170,171間に挿入されたキャパシタC1を構成する。また、平面導体P3〜P6はキャパシタC2,C3,C4を構成し、これらは直列構成で信号線170,171間に挿入される。
【0049】
キャパシタC1〜C4は上述した式(1)中の寄生容量Cとして機能する。したがって、キャパシタC1〜C4が付加されることにより、コモンモードフィルタ100の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0050】
キャパシタC1〜C4の合成容量は、例えば所謂0605型の場合で0.5pF〜0.9pF(特に好ましくは0.7pF)とすることが好適である。合成容量の調節は、一例では平面導体P1,P2,P4,P5の長さを変えることによって行うことができる。すなわち、図2に示した導体長L1,L2,L4,L5を適宜調節することによって、平面導体の対向部分の面積が変化する。したがって、こうすることでキャパシタC1〜C4個々の容量を変えることができ、合成容量も変化することになる。
【0051】
以上説明したように、コモンモードフィルタ100によれば樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0052】
[第2の実施形態]
本発明の好ましい第2の実施形態によるコモンモードフィルタ200は、コモンモードフィルタ100において樹脂積層部110を樹脂積層部210で置き換えた構成を有している。
【0053】
図5は樹脂積層部210を構成する樹脂層202〜205の各平面図である。
【0054】
図5に示すように樹脂積層部210の構成は樹脂積層部110とほぼ同様であるが、平面導体P1〜P6に代えて平面導体P11〜P14を有する点が樹脂積層部110と異なっている。以下、樹脂積層部110との相違点を中心に説明する。
【0055】
樹脂層202上には、引出導体151b及び平面導体P12,P13が形成されている。引出導体151bは積層体の側面で外部電極132に接触しており、平面導体P13は引出導体151bに接触している。平面導体P12は積層体の側面で直接外部電極133に接触している。
【0056】
樹脂層203,204上には平面導体は形成されていない。
【0057】
樹脂層205上には、引出導体152b及び平面導体P11,P14が形成されている。引出導体152bは積層体の側面で外部電極134に接触しており、平面導体P14は引出導体152bに接触している。平面導体P11は積層体の側面で直接外部電極131に接触している。
【0058】
コモンモードフィルタ200においては、平面導体P11,P14は図3に示した余白領域B8に相当する領域に形成され、平面導体P12,P13は図3に示した余白領域B1に相当する領域に形成されている。中でも平面導体P13及びP14は引出導体を余白領域に向って広げた形状となっている。平面導体P11及びP12と平面導体P13及びP14とはそれぞれ、積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0059】
図6は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ200の等価回路を示す図である。
【0060】
図6に示すように、平面導体P11,P12は信号線170,171間に挿入されたキャパシタC11を構成する。また、平面導体P13,P14は信号線170,171間に挿入されたキャパシタC12を構成する。
【0061】
キャパシタC11,C12は上述した式(1)中の寄生用量Cとして機能する。したがって、キャパシタC11,C12が付加されることにより、コモンモードフィルタ200の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0062】
キャパシタC11,C12の合成容量は、キャパシタC1〜C4の合成容量に比べて小さな値となる。これは平面導体間の距離が広がっているからである。このように、平面導体の形成位置を変え、平面導体間の距離を広げることによっても式(1)中の寄生容量Cを調整することが可能となる。
【0063】
以上説明したように、コモンモードフィルタ200によっても樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0064】
[第3の実施形態]
本発明の好ましい第3の実施形態によるコモンモードフィルタ300は、コモンモードフィルタ100において樹脂積層部110を樹脂積層部310で置き換えた構成を有している。
【0065】
図7は樹脂積層部310を構成する樹脂層202,303,304,205の各平面図である。
【0066】
図7に示すように樹脂積層部310の構成は樹脂積層部210とほぼ同様であるが、平面導体P21〜P24をさらに有する点が樹脂積層部210と異なっている。以下、樹脂積層部210との相違点を中心に説明する。
【0067】
樹脂層303上には、スパイラル導体151及び引出導体151aの他、平面導体P22,P23が形成されている。平面導体P22は引出導体151aに接触している。平面導体P23は積層体の側面で直接外部電極134に接触している。
【0068】
樹脂層304上には、スパイラル導体152及び引出導体152aの他、平面導体P21,P24が形成されている。平面導体P21は引出導体152aに接触している。平面導体P24は積層体の側面で直接外部電極132に接触している。
【0069】
平面導体P21〜P24はそれぞれ、図3に示した余白領域B5,B3,B4,B7に相当する領域に形成されている。中でも平面導体P22及びP23は引出導体を余白領域に向って広げた形状となっている。平面導体P11,P21,P22,P12は、積層方向で互いに対向する位置に形成されている。また、平面導体P14,P24,P23,P13は、積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0070】
図8は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ300の等価回路を示す図である。
【0071】
図8に示すように、平面導体P11とP21、平面導体P21とP22、平面導体P22とP12、平面導体P13とP23、平面導体P23とP24、平面導体P24とP14はそれぞれ、信号線170,171間に並列に挿入されたキャパシタC21〜C26を構成する。
【0072】
キャパシタC21〜C26は上述した式(1)中の寄生用量Cとして機能する。したがって、キャパシタC21〜C26が付加されることにより、コモンモードフィルタ300の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0073】
以上説明したように、コモンモードフィルタ300によっても樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0074】
[第4の実施形態]
図9は、本発明の好ましい第4の実施形態によるコモンモードフィルタ400の略分解斜視図である。
【0075】
図9に示すように、コモンモードフィルタ400は、基板401(第1磁性体基板)、樹脂積層部410、樹脂層406、磁性体層407a,407b、接着層408、基板409(第2磁性体基板)がこの順で積層されてなる積層体と、該積層体の側面に形成された外部電極431〜434とを有している。
【0076】
コモンモードフィルタ400は、コモンモードフィルタとしての基本的な構造や各層の材料及び製法はコモンモードフィルタ100〜300と同様であるが、スパイラル導体の外周形が略円形であるという点で異なっている。
【0077】
樹脂積層部410及び樹脂層406は中央付近に円形のスルーホール460を有する。また、樹脂積層部410は図9に示すように積層された4つの樹脂層402〜405から構成されており、所定の樹脂層の表面には一対の略円形スパイラル導体を含む導体パターンが形成されている。一方、樹脂層406は導体パターンと磁性体層407bを分離するために設けられているもので、その表面には導体パターンは形成されていない。
【0078】
図10は樹脂積層部410を構成する樹脂層402〜405の各平面図である。同図に示すように、樹脂層403〜405の中央付近にはスルーホール460が形成されており、スルーホール460内には磁性体層407aが埋め込まれている。
【0079】
樹脂層402上には、引出導体451bが形成されている。引出導体451bは積層体の側面で外部電極432に接触している。
【0080】
樹脂層403上には、略円形のスパイラル導体451、引出導体451a、及び平面導体P31が形成されている。このうち引出導体451aはスパイラル導体451を外部電極431と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体451の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極431に接触している。また、平面導体P31はスパイラル導体451に接触している。
【0081】
樹脂層403にはスルーホール461(図9)も設けられる。スルーホール461内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体451の内周端と引出導体451bとを電気的に接続する。
【0082】
樹脂層404上には、スパイラル導体452、引出導体452a、及び平面導体P32が形成されている。このうち引出導体452aはスパイラル導体452を外部電極433と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体452の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極433に接触している。また、平面導体P32はスパイラル導体452に接触している。
【0083】
樹脂層405上には、引出導体452bが形成されている。引出導体452bは積層体の側面で外部電極434に接触している。
【0084】
樹脂層405にはスルーホール462(図9)も設けられる。スルーホール462内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体452の内周端と引出導体452bとを電気的に接続する。
【0085】
平面導体P31,P32は、いずれも樹脂層上の余白領域に形成されている。以下、詳しく説明する。
【0086】
図11は樹脂層404〜405の余白領域B11,B12を示す図である。
【0087】
図11にも示すように、本実施形態では、スパイラル導体451,452の外周形が円形である一方で、樹脂層403,404の外形は四角形である。この形状の相違により樹脂層上には余白領域(第3の余白領域)が生ずる。余白領域B11,B12はこの第3の余白領域に相当する。
【0088】
第3の余白領域についてより一般的に言えば、第3の余白領域は樹脂層の外形の角数とスパイラル導体の外周形の角数との相違によって生じているものであると言える。すなわち、スパイラル導体451,452の外周形は円形であるので、その角数は無限大である。一方、樹脂層403,404の外形は四角形であるので、その角数は4である。第3の余白領域はこのような角数の相違によって生じている。
【0089】
このように角数が相違していると、スパイラル導体の外縁は、当該スパイラル導体が形成される樹脂層表面の少なくとも1つの角に対応する部分に、該樹脂層の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形を短絡してなる短絡部を有することになる。そして、仮想外周形と短絡部によって挟まれた領域が、第3の余白領域となる。
【0090】
図11の例では、スパイラル導体451の外縁は、樹脂層403表面の角A1に対応する部分に、樹脂層403の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形T1,T2を短絡してなる短絡部451xを有している。そして、短絡部451xと仮想外周形T1,T2に挟まれた領域が、第3の余白領域である余白領域B11となる。
【0091】
同様に、スパイラル導体452の外縁は、樹脂層404表面の角A2に対応する部分に、樹脂層404の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形T3,T4を短絡してなる短絡部452xを有している。そして、短絡部452xと仮想外周形T3,T4に挟まれた領域が、第3の余白領域である余白領域B12となる。
【0092】
なお、図11からも明らかなように、第3の余白領域は、スパイラル導体の外周形と積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域の一部を構成する。
【0093】
平面導体P31,P32はそれぞれ、余白領域B11,B12に形成されている。また、平面導体P31,P32は積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0094】
以上のことを換言すれば、各スパイラル導体の最外周部の内側が曲線(円弧)となっており、最外周部の外側が余白領域B11,B12に向って広がっているということができる。なお、ここでは最外周部の内側が曲線(円弧)であるが、直線である場合も当然考えられる。
【0095】
図12は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ400の等価回路を示す図である。
【0096】
図4に示すように、コモンモードフィルタ400は、外部電極431,432間の信号線470と外部電極433,434間の信号線471を有している。そして、信号線470,471にはスパイラル導体451,452によって構成されるコモンモードチョークコイルが挿入されている。
【0097】
平面導体P31,P32は信号線470,471間に挿入されたキャパシタC31を構成する。
【0098】
キャパシタC31は上述した式(1)中の寄生容量Cとして機能する。したがって、キャパシタC31が付加されることにより、コモンモードフィルタ400の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0099】
以上説明したように、コモンモードフィルタ400によれば、積層体を構成する各層の外形の角数とスパイラル導体の外周形の各数とを相違させたことによって余白領域を生成することができ、しかもその余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるようになる。
【0100】
加えて、コモンモードフィルタ400のスパイラル導体は仮想外周形を短絡した形状を有しているので、仮想外周形に沿ったスパイラル導体を用いる場合に比べ、スパイラル導体の全長が短くなり、その直流抵抗値を下げることが可能になる。これにより、コモンモードフィルタ400のカットオフ周波数をより高くすることが可能になる。
【0101】
なお、コモンモードフィルタ400では樹脂層表面の4つの角のうち1つの角に対応する第3の余白領域にのみ特性インピーダンス調整用の平面導体を設けたが、他の3つの角に対応する第3の余白領域にも特性インピーダンス調整用の平面導体を設けてよいことは勿論である。また、第3の余白領域以外の余白領域にも平面導体を設けてよいことも勿論である。
【0102】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0103】
例えば、上記第1〜第4の実施形態はそれぞれ平面導体の形状及び形成位置の利用形態の一例を示すものであるが、平面導体の形状及び形成位置はこれらの実施形態に示した例に限られるものではなく、余白領域を利用して様々な形状、形成位置とすることが可能である。そして、そうすることによってコモンモードフィルタの特性インピーダンスを細かく調整することが可能となる。
【0104】
また、上記第4の実施形態ではスパイラル導体の外周形の角数と各層の外形の角数が互いに異なっている例を示したが、このような角数相違のパターンは他にも種々考えられる。例えば、スパイラル導体の外周形が四角形であり、積層体を構成する各層の外形が八角形であるような場合や、その逆の場合等が挙げられる。一般的にいえば、スパイラル導体の外周形状がm角形(mは3以上∞以下の自然数)であるのに対し、各層の外形状がn角形(nは3以上∞以下の自然数。m≠n)であれば、そのことによって第3の余白領域が生ずる。そして、こうして生ずる第3の余白領域に平面導体を形成することにより、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の好ましい第1の実施形態によるコモンモードフィルタの略分解斜視図である。
【図2】本発明の好ましい第1の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図3】本発明の好ましい第1〜第3の実施形態による各樹脂層の余白領域を示す図である。
【図4】本発明の好ましい第1の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図5】本発明の好ましい第2の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図6】本発明の好ましい第2の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図7】本発明の好ましい第3の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図8】本発明の好ましい第3の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図9】本発明の好ましい第4の実施形態によるコモンモードフィルタの略分解斜視図である。
【図10】本発明の好ましい第4の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図11】本発明の好ましい第4の実施形態による各樹脂層の余白領域を示す図である。
【図12】本発明の好ましい第4の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図13】一般的な差動伝送回路の回路図である。
【符号の説明】
【0106】
100,200,300,400 コモンモードフィルタ
101,109,401,409 基板
102〜106,202〜205,303,304,402〜406 樹脂層
107a,107b,407a,407b 磁性体層
108,408 接着層
110,210,310,410 樹脂積層部
131〜134,431〜434 外部電極
151,152,451,452 スパイラル導体
151a,151b,152a,152b,451a,451b,452a,452b 引出導体
160〜162,460〜462 スルーホール
170,171,470,471 信号線
451x,452x 短絡部
A1,A2 角
B1〜B8,B11,B12 余白領域
C1〜C4,C11,C12,C21〜C26,C31 キャパシタ
P1〜P6,P11〜P14,P21〜P24,P31,P32 平面導体
T1〜T4 仮想外周形
【技術分野】
【0001】
本発明はコモンモードフィルタに関し、特に、小型化のために好適なコモンモードフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速な信号伝送インターフェースとして、USB2.0規格やHDMI規格が広く普及し、パーソナルコンピュータやデジタルカメラなど数多くのデジタル機器に用いられている。USB2.0規格やHDMI規格などのインターフェースは、古くから一般的であったシングルエンド伝送方式とは異なり、一対の信号線を用いて差動信号を伝送する差動信号方式が採用されている。
【0003】
差動伝送方式は、シングルエンド伝送方式と比べて信号線から発生する放射電磁界が少ないだけでなく、外来ノイズの影響を受けにくいという優れた特徴を有している。このため、信号の小振幅化が容易であり、小振幅化による立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短縮によって、シングルエンド伝送方式よりも高速な信号伝送を行うことが可能となる。
【0004】
図13は、一般的な差動伝送回路の回路図である。
【0005】
図13に示す差動伝送回路は、一対の信号線11,12と、信号線11,12に差動信号を供給する出力バッファ13と、信号線11,12からの差動信号を受ける入力バッファ14とを備えている。かかる構成により、出力バッファ13に与えられる入力信号INは、一対の信号線11,12を経由して入力バッファ14へ伝えられ、出力信号OUTとして再生される。このような差動伝送回路は、上述の通り、信号線11,12から発生する放射電磁界が少ないという特徴を有しているが、信号線11,12に共通のノイズ(コモンモードノイズ)が重畳した場合には比較的大きな放射電磁界を発生させてしまう。コモンモードノイズによって発生する放射電磁界を低減するためには、図13に示すように、信号線11,12にコモンモードチョークコイル20を挿入することが有効である。
【0006】
コモンモードチョークコイル20は、信号線11,12を伝わる差動成分(信号)に対するインピーダンス(特性インピーダンス)が低く、同相成分(コモンモードノイズ)に対するインピーダンスが高いという特性を有している。このため、信号線11,12にコモンモードチョークコイル20を挿入することにより、差動信号を実質的に減衰させることなく、一対の信号線11,12を伝わるコモンモードノイズを遮断することができる。
【0007】
一般的なコモンモードチョークコイルは一対のスパイラル導体(平面内で渦巻き状となっている導体)を含む積層体によって構成される(例えば特許文献1,2参照。)。近年、コモンモードチョークコイル積層体(以下、コモンモードフィルタという。)には小型化・低背化が厳しく要求されており、スパイラル導体の幅及びピッチは高精細化の一途を辿っている。
【特許文献1】特開平8−203737号公報
【特許文献2】特開平8−97664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスZodは、そのコモンモードチョークコイルが挿入される伝送信号系のインピーダンスと整合していることが好ましい。
【0009】
コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスZodは、次の式(1)によって表される。ただし、Cは一対のスパイラル導体間に生ずる寄生容量である。また、Ldはディファレンシャルモードインダクタンスであり、式(2)によって表される。式(2)中のLsはスパイラル導体の自己インダクタンスであり、Mdはスパイラル導体間の相互インダクタンスである。
【0010】
【数1】
【0011】
【数2】
【0012】
式(1)より、特性インピーダンスZodの調整は、スパイラル導体間の距離、スパイラル導体間の間に存在する材料の誘電率、或いは導体線路幅などの調整によって行うことができることになる。例えば導体線路幅を広くすれば寄生容量Cが大きくなるので、式(1)より特性インピーダンスZodは低下する。また、スパイラル導体間の距離を短くすることやスパイラル導体間の間に存在する材料の誘電率を大きくすることによっても寄生容量Cは大きくなり、やはり特性インピーダンスZodは低下する。
【0013】
しかしながら、上述したようにコモンモードフィルタには小型化・低背化が厳しく要求され、インピーダンス調整のために導体の幅を広くすることが困難になってきている。そうすると、特性インピーダンスZodを低下させる必要があるときには他の手段によって低下させる必要が生ずるが、スパイラル導体間の距離やスパイラル導体間の間に存在する材料の誘電率による調整には限界がある。
【0014】
上記特許文献2の第1図に記載されたLC複合部品ではフィルタ素子のひとつとしてスパイラル導体の横にコンデンサパターンが設けられており、このようなコンデンサパターンを利用することによっても特性インピーダンスZodは低下する。しかし、コモンモードフィルタが著しく大型化してしまうため、フィルタ素子としての利用は格別、特性インピーダンス調整用としては到底利用できるものではない。
【0015】
したがって、本発明の課題のひとつは、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整できるコモンモードフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明によるコモンモードフィルタは、第1磁性体基板と樹脂積層部と第2磁性体基板とがこの順で積層された積層体と、前記積層体の露出面に形成された外部電極とを有し、前記樹脂積層部は、第1及び第2のスパイラル導体と、前記第1及び第2のスパイラル導体それぞれを前記外部電極と電気的に接続する複数の引出導体と、第1及び第2の平面導体を含む複数の平面導体とを有し、前記第1の平面導体は、前記樹脂積層部内の、前記各スパイラル導体の外周形と前記積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域、又は前記各引出導体の形成によって生ずる第2の余白領域のいずれか少なくとも一方に形成され、前記第2の平面導体は、前記第1の平面導体と積層方向で対向する位置に形成され、前記各平面導体は前記各スパイラル導体又は前記各引出導体のいずれか少なくとも1つと電気的に接続していることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、絶縁性非磁性樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0018】
また、上記コモンモードフィルタにおいて、前記積層体を構成する各層の外形の角数と前記各スパイラル導体の外周形の角数とは互いに相違し、前記第1の余白領域は、前記角数の相違によって生ずる第3の余白領域を含み、前記第1の平面導体は前記第3の余白領域に形成されることとしてもよい。これによれば、角数の相違によって生ずる余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるようになる。
【0019】
なお、前記各スパイラル導体の外縁は、当該スパイラル導体が形成される樹脂層の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形を短絡してなる短絡部を有し、前記第3の余白領域は、前記仮想外周形と前記短絡部によって挟まれた領域であるとすることが好適である。
【0020】
また、上記コモンモードフィルタにおいて、第1平面導体は第1スパイラル導体と接触していることとしてもよいし、第1平面導体は第1引出導体と接触していることとしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、コモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい第1〜第4の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の好ましい第1の実施形態によるコモンモードフィルタ100の略分解斜視図である。
【0024】
図1に示すように、コモンモードフィルタ100は、基板101(第1磁性体基板)、樹脂積層部110、樹脂層106、磁性体層107a,107b、接着層108、基板109(第2磁性体基板)がこの順で積層されてなる積層体と、該積層体の側面に形成された外部電極131〜134とを有している。
【0025】
コモンモードフィルタ100は外部電極131,133を通じて入力される差動信号からコモンモードノイズを除去するために用いられるものである。コモンモードフィルタには大きさによって色々な種類があるが、例えば所謂0605型(図1に示したx方向の長さが0.65mm、y方向の長さが0.5mm、z方向の長さが0.3mm。)を用いることが好適である。
【0026】
基板101,109は積層体を物理的に保護するとともに、コモンモードチョークコイルの磁路としての役割を果たすものである。基板101,109の材料としては、焼結フェライトや複合フェライト(粉状のフェライトを含有した樹脂)を用いることが好適である。特に、Ni−Cu−Zn系フェライトやMn−Zn系フェライトなどの比較的透磁率の高い材料を用いることが好ましい。透磁率の高い磁性材料を用いることにより、コモンモードフィルタとして本来求められる磁気特性が高められるからである。
【0027】
樹脂積層部110及び樹脂層106は、中央付近に、長方形断面を有するスルーホール160を有している。また、樹脂積層部110は図1に示すように積層された4つの樹脂層102〜105から構成されており、所定の樹脂層の表面には一対のスパイラル導体(スパイラル状のコイル導体)、スパイラル導体を外部電極に電気的に接続するための引出導体、及び特性インピーダンス調整用の平面導体を含む導体パターンが形成されている。一方、樹脂層106は導体パターンと磁性体層107bを分離するために設けられているもので、その表面には導体パターンは形成されていない。
【0028】
各樹脂層102〜105,106は、感光性を有する絶縁性非磁性樹脂(例えば感光性ポリイミド樹脂)をスピンコートし、これを露光・現像・熱硬化することによって形成する。また、各導体パターンは、蒸着法又はスパッタリング法により樹脂層の上に下地導電層を形成し、これを給電体としたメッキを行うことにより形成する。
【0029】
磁性体層107aはコモンモードチョークコイルの磁路としての役割を果たす層であり、スルーホール160内に埋め込まれている。磁性体層107aは、樹脂を混ぜて流動性を持たせた磁性材料を樹脂層106上に流すことによって形成する。磁性体層107bは磁性材料を樹脂層106上に流した際に形成される層である。
【0030】
以下、樹脂積層部110について詳しく説明する。
【0031】
図2は樹脂積層部110を構成する樹脂層102〜105の各平面図である。同図に示すように、樹脂層103〜105の中央付近にはスルーホール160が形成されており、スルーホール160内には磁性体層107aが埋め込まれている。
【0032】
樹脂層102上には、引出導体151b及び平面導体P3が形成されている。引出導体151bは積層体の側面で外部電極132に接触しており、平面導体P3は引出導体151bに接触している。
【0033】
樹脂層103上には、スパイラル導体151、引出導体151a、及び平面導体P1,P4が形成されている。このうち引出導体151aはスパイラル導体151を外部電極131と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体151の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極131に接触している。また、平面導体P1は引出導体151aに接触している。一方、平面導体P4は他の導体には直接接触しておらず、孤立している。
【0034】
樹脂層103にはスルーホール161(図1参照)も設けられている。スルーホール161内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体151の内周端と引出導体151bとを電気的に接続している。
【0035】
樹脂層104上には、スパイラル導体152、引出導体152a、及び平面導体P2,P5が形成されている。このうち引出導体152aはスパイラル導体152を外部電極133と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体152の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極133に接触している。また、平面導体P2は引出導体152aに接触している。一方、平面導体P5は他の導体には直接接触しておらず、孤立している。
【0036】
樹脂層105上には、引出導体152b及び平面導体P6が形成されている。引出導体152bは積層体の側面で外部電極134に接触しており、平面導体P6は引出導体152bに接触している。
【0037】
樹脂層105にはスルーホール162(図1参照)も設けられている。スルーホール162内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体152の内周端と引出導体152bとを電気的に接続している。
【0038】
スパイラル導体151,152は、樹脂層104を介して向かい合うように配置されており、このため、両者は互いに磁気結合している。図1の図面上方からみた場合、スパイラル導体151,152は、いずれも外周端から内周端に向かっていずれも左回り(反時計回り)に巻回されている。したがって、外部電極131,133を一対の入力端子とすれば、スパイラル導体151,152は互いに同方向に磁気結合することになる。ここで、「互いに同方向に磁気結合」とは、同相成分に対しては互いに磁束を強め合い、差動成分に対しては互いに磁束を打ち消し合うように磁気結合していることを言う。これにより、スパイラル導体151,152はコモンモードチョークコイルとして機能することになる。
【0039】
平面導体P1〜P6は、コモンモードフィルタ100の特性インピーダンスを調整するために設けられているものであり、いずれも樹脂層上の余白領域に形成されている。以下、詳しく説明する。
【0040】
図3は樹脂層102〜105の余白領域B1〜B8を示す図である。
【0041】
余白領域は大きく分けて2種類に分類される。1つ目はスパイラル導体の外周形と樹脂層の外形との違いによって生ずるもの(第1の余白領域)であり、2つ目は引出導体の形成によって生ずるもの(第2の余白領域)である。いずれも、平面導体を形成するか否かに関わらず必然的に生じている余白領域である。
【0042】
余白領域B1〜B8のうち、余白領域B1,B8は第2の余白領域である。それぞれ、引出導体151b,152bの形成によって生じている。
【0043】
余白領域B4,B7は第1の余白領域である。それぞれ、スパイラル導体151,152の外周形と、樹脂層103,104の外形との違いによって生じている。
【0044】
余白領域B2,B3,B5,B6は第1の余白領域であるとともに、第2の余白領域でもある。すなわち、余白領域B2,B3は引出導体151aの形成によって生じているとともに、スパイラル導体151の外周形と樹脂層103の外形との違いによって生じているとも言える。また、余白領域B5,B6は引出導体152aの形成によって生じているとともに、スパイラル導体152の外周形と樹脂層104の外形との違いによって生じているとも言える。
【0045】
コモンモードフィルタ100においては、平面導体P1〜P6はそれぞれ、余白領域B3,B5,B1,B4,B7,B8に形成されている。中でも平面導体P1〜P3及びP6は引出導体を余白領域に向って広げた形状となっている。また、平面導体P1,P2は積層方向で互いに対向する位置に形成されている。平面導体P3〜P6も積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0046】
図4は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ100の等価回路を示す図である。
【0047】
図4に示すように、コモンモードフィルタ100は、外部電極131,132間の信号線170と外部電極133,134間の信号線171を有している。そして、信号線170,171にはスパイラル導体151,152によって構成されるコモンモードチョークコイルが挿入されている。
【0048】
平面導体P1,P2は信号線170,171間に挿入されたキャパシタC1を構成する。また、平面導体P3〜P6はキャパシタC2,C3,C4を構成し、これらは直列構成で信号線170,171間に挿入される。
【0049】
キャパシタC1〜C4は上述した式(1)中の寄生容量Cとして機能する。したがって、キャパシタC1〜C4が付加されることにより、コモンモードフィルタ100の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0050】
キャパシタC1〜C4の合成容量は、例えば所謂0605型の場合で0.5pF〜0.9pF(特に好ましくは0.7pF)とすることが好適である。合成容量の調節は、一例では平面導体P1,P2,P4,P5の長さを変えることによって行うことができる。すなわち、図2に示した導体長L1,L2,L4,L5を適宜調節することによって、平面導体の対向部分の面積が変化する。したがって、こうすることでキャパシタC1〜C4個々の容量を変えることができ、合成容量も変化することになる。
【0051】
以上説明したように、コモンモードフィルタ100によれば樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0052】
[第2の実施形態]
本発明の好ましい第2の実施形態によるコモンモードフィルタ200は、コモンモードフィルタ100において樹脂積層部110を樹脂積層部210で置き換えた構成を有している。
【0053】
図5は樹脂積層部210を構成する樹脂層202〜205の各平面図である。
【0054】
図5に示すように樹脂積層部210の構成は樹脂積層部110とほぼ同様であるが、平面導体P1〜P6に代えて平面導体P11〜P14を有する点が樹脂積層部110と異なっている。以下、樹脂積層部110との相違点を中心に説明する。
【0055】
樹脂層202上には、引出導体151b及び平面導体P12,P13が形成されている。引出導体151bは積層体の側面で外部電極132に接触しており、平面導体P13は引出導体151bに接触している。平面導体P12は積層体の側面で直接外部電極133に接触している。
【0056】
樹脂層203,204上には平面導体は形成されていない。
【0057】
樹脂層205上には、引出導体152b及び平面導体P11,P14が形成されている。引出導体152bは積層体の側面で外部電極134に接触しており、平面導体P14は引出導体152bに接触している。平面導体P11は積層体の側面で直接外部電極131に接触している。
【0058】
コモンモードフィルタ200においては、平面導体P11,P14は図3に示した余白領域B8に相当する領域に形成され、平面導体P12,P13は図3に示した余白領域B1に相当する領域に形成されている。中でも平面導体P13及びP14は引出導体を余白領域に向って広げた形状となっている。平面導体P11及びP12と平面導体P13及びP14とはそれぞれ、積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0059】
図6は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ200の等価回路を示す図である。
【0060】
図6に示すように、平面導体P11,P12は信号線170,171間に挿入されたキャパシタC11を構成する。また、平面導体P13,P14は信号線170,171間に挿入されたキャパシタC12を構成する。
【0061】
キャパシタC11,C12は上述した式(1)中の寄生用量Cとして機能する。したがって、キャパシタC11,C12が付加されることにより、コモンモードフィルタ200の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0062】
キャパシタC11,C12の合成容量は、キャパシタC1〜C4の合成容量に比べて小さな値となる。これは平面導体間の距離が広がっているからである。このように、平面導体の形成位置を変え、平面導体間の距離を広げることによっても式(1)中の寄生容量Cを調整することが可能となる。
【0063】
以上説明したように、コモンモードフィルタ200によっても樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0064】
[第3の実施形態]
本発明の好ましい第3の実施形態によるコモンモードフィルタ300は、コモンモードフィルタ100において樹脂積層部110を樹脂積層部310で置き換えた構成を有している。
【0065】
図7は樹脂積層部310を構成する樹脂層202,303,304,205の各平面図である。
【0066】
図7に示すように樹脂積層部310の構成は樹脂積層部210とほぼ同様であるが、平面導体P21〜P24をさらに有する点が樹脂積層部210と異なっている。以下、樹脂積層部210との相違点を中心に説明する。
【0067】
樹脂層303上には、スパイラル導体151及び引出導体151aの他、平面導体P22,P23が形成されている。平面導体P22は引出導体151aに接触している。平面導体P23は積層体の側面で直接外部電極134に接触している。
【0068】
樹脂層304上には、スパイラル導体152及び引出導体152aの他、平面導体P21,P24が形成されている。平面導体P21は引出導体152aに接触している。平面導体P24は積層体の側面で直接外部電極132に接触している。
【0069】
平面導体P21〜P24はそれぞれ、図3に示した余白領域B5,B3,B4,B7に相当する領域に形成されている。中でも平面導体P22及びP23は引出導体を余白領域に向って広げた形状となっている。平面導体P11,P21,P22,P12は、積層方向で互いに対向する位置に形成されている。また、平面導体P14,P24,P23,P13は、積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0070】
図8は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ300の等価回路を示す図である。
【0071】
図8に示すように、平面導体P11とP21、平面導体P21とP22、平面導体P22とP12、平面導体P13とP23、平面導体P23とP24、平面導体P24とP14はそれぞれ、信号線170,171間に並列に挿入されたキャパシタC21〜C26を構成する。
【0072】
キャパシタC21〜C26は上述した式(1)中の寄生用量Cとして機能する。したがって、キャパシタC21〜C26が付加されることにより、コモンモードフィルタ300の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0073】
以上説明したように、コモンモードフィルタ300によっても樹脂層表面の余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるので、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になっている。
【0074】
[第4の実施形態]
図9は、本発明の好ましい第4の実施形態によるコモンモードフィルタ400の略分解斜視図である。
【0075】
図9に示すように、コモンモードフィルタ400は、基板401(第1磁性体基板)、樹脂積層部410、樹脂層406、磁性体層407a,407b、接着層408、基板409(第2磁性体基板)がこの順で積層されてなる積層体と、該積層体の側面に形成された外部電極431〜434とを有している。
【0076】
コモンモードフィルタ400は、コモンモードフィルタとしての基本的な構造や各層の材料及び製法はコモンモードフィルタ100〜300と同様であるが、スパイラル導体の外周形が略円形であるという点で異なっている。
【0077】
樹脂積層部410及び樹脂層406は中央付近に円形のスルーホール460を有する。また、樹脂積層部410は図9に示すように積層された4つの樹脂層402〜405から構成されており、所定の樹脂層の表面には一対の略円形スパイラル導体を含む導体パターンが形成されている。一方、樹脂層406は導体パターンと磁性体層407bを分離するために設けられているもので、その表面には導体パターンは形成されていない。
【0078】
図10は樹脂積層部410を構成する樹脂層402〜405の各平面図である。同図に示すように、樹脂層403〜405の中央付近にはスルーホール460が形成されており、スルーホール460内には磁性体層407aが埋め込まれている。
【0079】
樹脂層402上には、引出導体451bが形成されている。引出導体451bは積層体の側面で外部電極432に接触している。
【0080】
樹脂層403上には、略円形のスパイラル導体451、引出導体451a、及び平面導体P31が形成されている。このうち引出導体451aはスパイラル導体451を外部電極431と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体451の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極431に接触している。また、平面導体P31はスパイラル導体451に接触している。
【0081】
樹脂層403にはスルーホール461(図9)も設けられる。スルーホール461内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体451の内周端と引出導体451bとを電気的に接続する。
【0082】
樹脂層404上には、スパイラル導体452、引出導体452a、及び平面導体P32が形成されている。このうち引出導体452aはスパイラル導体452を外部電極433と電気的に接続するために設けられているもので、スパイラル導体452の外周端に接触しているとともに、積層体の側面で外部電極433に接触している。また、平面導体P32はスパイラル導体452に接触している。
【0083】
樹脂層405上には、引出導体452bが形成されている。引出導体452bは積層体の側面で外部電極434に接触している。
【0084】
樹脂層405にはスルーホール462(図9)も設けられる。スルーホール462内には導電性材料が充填されており、スパイラル導体452の内周端と引出導体452bとを電気的に接続する。
【0085】
平面導体P31,P32は、いずれも樹脂層上の余白領域に形成されている。以下、詳しく説明する。
【0086】
図11は樹脂層404〜405の余白領域B11,B12を示す図である。
【0087】
図11にも示すように、本実施形態では、スパイラル導体451,452の外周形が円形である一方で、樹脂層403,404の外形は四角形である。この形状の相違により樹脂層上には余白領域(第3の余白領域)が生ずる。余白領域B11,B12はこの第3の余白領域に相当する。
【0088】
第3の余白領域についてより一般的に言えば、第3の余白領域は樹脂層の外形の角数とスパイラル導体の外周形の角数との相違によって生じているものであると言える。すなわち、スパイラル導体451,452の外周形は円形であるので、その角数は無限大である。一方、樹脂層403,404の外形は四角形であるので、その角数は4である。第3の余白領域はこのような角数の相違によって生じている。
【0089】
このように角数が相違していると、スパイラル導体の外縁は、当該スパイラル導体が形成される樹脂層表面の少なくとも1つの角に対応する部分に、該樹脂層の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形を短絡してなる短絡部を有することになる。そして、仮想外周形と短絡部によって挟まれた領域が、第3の余白領域となる。
【0090】
図11の例では、スパイラル導体451の外縁は、樹脂層403表面の角A1に対応する部分に、樹脂層403の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形T1,T2を短絡してなる短絡部451xを有している。そして、短絡部451xと仮想外周形T1,T2に挟まれた領域が、第3の余白領域である余白領域B11となる。
【0091】
同様に、スパイラル導体452の外縁は、樹脂層404表面の角A2に対応する部分に、樹脂層404の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形T3,T4を短絡してなる短絡部452xを有している。そして、短絡部452xと仮想外周形T3,T4に挟まれた領域が、第3の余白領域である余白領域B12となる。
【0092】
なお、図11からも明らかなように、第3の余白領域は、スパイラル導体の外周形と積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域の一部を構成する。
【0093】
平面導体P31,P32はそれぞれ、余白領域B11,B12に形成されている。また、平面導体P31,P32は積層方向で互いに対向する位置に形成されている。
【0094】
以上のことを換言すれば、各スパイラル導体の最外周部の内側が曲線(円弧)となっており、最外周部の外側が余白領域B11,B12に向って広がっているということができる。なお、ここでは最外周部の内側が曲線(円弧)であるが、直線である場合も当然考えられる。
【0095】
図12は以上の構成によって実現されるコモンモードフィルタ400の等価回路を示す図である。
【0096】
図4に示すように、コモンモードフィルタ400は、外部電極431,432間の信号線470と外部電極433,434間の信号線471を有している。そして、信号線470,471にはスパイラル導体451,452によって構成されるコモンモードチョークコイルが挿入されている。
【0097】
平面導体P31,P32は信号線470,471間に挿入されたキャパシタC31を構成する。
【0098】
キャパシタC31は上述した式(1)中の寄生容量Cとして機能する。したがって、キャパシタC31が付加されることにより、コモンモードフィルタ400の特性インピーダンスZodが変化することになる。
【0099】
以上説明したように、コモンモードフィルタ400によれば、積層体を構成する各層の外形の角数とスパイラル導体の外周形の各数とを相違させたことによって余白領域を生成することができ、しかもその余白領域を有効に活用して平面導体を形成することができるようになる。
【0100】
加えて、コモンモードフィルタ400のスパイラル導体は仮想外周形を短絡した形状を有しているので、仮想外周形に沿ったスパイラル導体を用いる場合に比べ、スパイラル導体の全長が短くなり、その直流抵抗値を下げることが可能になる。これにより、コモンモードフィルタ400のカットオフ周波数をより高くすることが可能になる。
【0101】
なお、コモンモードフィルタ400では樹脂層表面の4つの角のうち1つの角に対応する第3の余白領域にのみ特性インピーダンス調整用の平面導体を設けたが、他の3つの角に対応する第3の余白領域にも特性インピーダンス調整用の平面導体を設けてよいことは勿論である。また、第3の余白領域以外の余白領域にも平面導体を設けてよいことも勿論である。
【0102】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0103】
例えば、上記第1〜第4の実施形態はそれぞれ平面導体の形状及び形成位置の利用形態の一例を示すものであるが、平面導体の形状及び形成位置はこれらの実施形態に示した例に限られるものではなく、余白領域を利用して様々な形状、形成位置とすることが可能である。そして、そうすることによってコモンモードフィルタの特性インピーダンスを細かく調整することが可能となる。
【0104】
また、上記第4の実施形態ではスパイラル導体の外周形の角数と各層の外形の角数が互いに異なっている例を示したが、このような角数相違のパターンは他にも種々考えられる。例えば、スパイラル導体の外周形が四角形であり、積層体を構成する各層の外形が八角形であるような場合や、その逆の場合等が挙げられる。一般的にいえば、スパイラル導体の外周形状がm角形(mは3以上∞以下の自然数)であるのに対し、各層の外形状がn角形(nは3以上∞以下の自然数。m≠n)であれば、そのことによって第3の余白領域が生ずる。そして、こうして生ずる第3の余白領域に平面導体を形成することにより、コモンモードフィルタの大きさに影響を与えずに、スパイラル導体によって構成されるコモンモードチョークコイルの特性インピーダンスを調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の好ましい第1の実施形態によるコモンモードフィルタの略分解斜視図である。
【図2】本発明の好ましい第1の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図3】本発明の好ましい第1〜第3の実施形態による各樹脂層の余白領域を示す図である。
【図4】本発明の好ましい第1の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図5】本発明の好ましい第2の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図6】本発明の好ましい第2の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図7】本発明の好ましい第3の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図8】本発明の好ましい第3の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図9】本発明の好ましい第4の実施形態によるコモンモードフィルタの略分解斜視図である。
【図10】本発明の好ましい第4の実施形態による樹脂積層部を構成する各樹脂層の各平面図である。
【図11】本発明の好ましい第4の実施形態による各樹脂層の余白領域を示す図である。
【図12】本発明の好ましい第4の実施形態によるコモンモードフィルタの等価回路を示す図である。
【図13】一般的な差動伝送回路の回路図である。
【符号の説明】
【0106】
100,200,300,400 コモンモードフィルタ
101,109,401,409 基板
102〜106,202〜205,303,304,402〜406 樹脂層
107a,107b,407a,407b 磁性体層
108,408 接着層
110,210,310,410 樹脂積層部
131〜134,431〜434 外部電極
151,152,451,452 スパイラル導体
151a,151b,152a,152b,451a,451b,452a,452b 引出導体
160〜162,460〜462 スルーホール
170,171,470,471 信号線
451x,452x 短絡部
A1,A2 角
B1〜B8,B11,B12 余白領域
C1〜C4,C11,C12,C21〜C26,C31 キャパシタ
P1〜P6,P11〜P14,P21〜P24,P31,P32 平面導体
T1〜T4 仮想外周形
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁性体基板と樹脂積層部と第2磁性体基板とがこの順で積層された積層体と、前記積層体の露出面に形成された外部電極とを有し、
前記樹脂積層部は、第1及び第2のスパイラル導体と、前記第1及び第2のスパイラル導体それぞれを前記外部電極と電気的に接続する複数の引出導体と、第1及び第2の平面導体を含む複数の平面導体とを有し、
前記第1の平面導体は、前記樹脂積層部内の、前記各スパイラル導体の外周形と前記積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域、又は前記各引出導体の形成によって生ずる第2の余白領域のいずれか少なくとも一方に形成され、
前記第2の平面導体は、前記第1の平面導体と積層方向で対向する位置に形成され、
前記各平面導体は前記各スパイラル導体又は前記各引出導体のいずれか少なくとも1つと電気的に接続していることを特徴とするコモンモードフィルタ。
【請求項2】
前記積層体を構成する各層の外形の角数と前記各スパイラル導体の外周形の角数とは互いに相違し、
前記第1の余白領域は、前記角数の相違によって生ずる第3の余白領域を含み、
前記第1の平面導体は前記第3の余白領域に形成されることを特徴とする請求項1に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項3】
前記各スパイラル導体の外縁は、当該スパイラル導体が形成される樹脂層の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形を短絡してなる短絡部を有し、
前記第3の余白領域は、前記仮想外周形と前記短絡部によって挟まれた領域であることを特徴とする請求項2に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項4】
前記第1の平面導体は前記第1のスパイラル導体と接触していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項5】
前記第1の平面導体は前記第1の引出導体と接触していることを特徴とする請求項1に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項1】
第1磁性体基板と樹脂積層部と第2磁性体基板とがこの順で積層された積層体と、前記積層体の露出面に形成された外部電極とを有し、
前記樹脂積層部は、第1及び第2のスパイラル導体と、前記第1及び第2のスパイラル導体それぞれを前記外部電極と電気的に接続する複数の引出導体と、第1及び第2の平面導体を含む複数の平面導体とを有し、
前記第1の平面導体は、前記樹脂積層部内の、前記各スパイラル導体の外周形と前記積層体を構成する各層の外形との違いによって生ずる第1の余白領域、又は前記各引出導体の形成によって生ずる第2の余白領域のいずれか少なくとも一方に形成され、
前記第2の平面導体は、前記第1の平面導体と積層方向で対向する位置に形成され、
前記各平面導体は前記各スパイラル導体又は前記各引出導体のいずれか少なくとも1つと電気的に接続していることを特徴とするコモンモードフィルタ。
【請求項2】
前記積層体を構成する各層の外形の角数と前記各スパイラル導体の外周形の角数とは互いに相違し、
前記第1の余白領域は、前記角数の相違によって生ずる第3の余白領域を含み、
前記第1の平面導体は前記第3の余白領域に形成されることを特徴とする請求項1に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項3】
前記各スパイラル導体の外縁は、当該スパイラル導体が形成される樹脂層の外形の辺に平行な直線によって形成される仮想外周形を短絡してなる短絡部を有し、
前記第3の余白領域は、前記仮想外周形と前記短絡部によって挟まれた領域であることを特徴とする請求項2に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項4】
前記第1の平面導体は前記第1のスパイラル導体と接触していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコモンモードフィルタ。
【請求項5】
前記第1の平面導体は前記第1の引出導体と接触していることを特徴とする請求項1に記載のコモンモードフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−239770(P2009−239770A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85218(P2008−85218)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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