説明

コレステロール合成促進剤及びヒアルロン酸産生促進剤

【課題】天然物由来の物質を有効成分とするコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及びHAS3mRNA発現促進剤の提供。
【解決手段】甘草葉部抽出物、又は下記一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちの少なくとも1種。


式中、R及びRは、下記(A)〜(C)のいずれかの組み合わせから選ばれる。(A)Rが水素のとき、Rは水素(B)Rがヒドロキシ基であるとき、Rは3−メチル−2−ブテニル基(C)Rがメトキシ基であるとき、Rは水素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステロール合成促進剤及びヒアルロン酸産生促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは、表皮細胞の角化の過程において3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−CoAを基に、コレステロール合成の律速酵素として知られるヒドロキシメチルグルタリル−CoAレダクターゼ(HMG−CoA還元酵素)をはじめとする酵素の働きにより生成される。
【0003】
コレステロールは、セラミドとともに皮膚最外層を覆う角層細胞間脂質の主成分として存在し、皮膚本来が有する生体と外界とのバリア膜としての機能維持に重要な役割を果たしている。
【0004】
角層の構造は、レンガとモルタルとに例えられ、約15層に積層された角層細胞を細胞間脂質が繋ぎ止める形で強固なバリア膜を形成している。角層細胞は、アミノ酸を主成分とする天然保湿因子を細胞内に含有することによって水分を保持する一方、角質細胞間脂質は、セラミド、コレステロール、脂肪酸等の両親媒性脂質から構成されており、疎水性部分と親水性部分とが交互に繰り返される層板構造、いわゆるラメラ構造を特徴としている。
【0005】
このような構造を有する角層のバリア機能が様々な内的・外的要因により低下すると、経表皮水分蒸散量が増加し、皮膚のかさつき、落屑、掻痒感等が引き起こされ、いわゆる乾燥肌に陥ってしまう。また、このようなバリア機能障害は、皮膚の炎症を増大させ、外界からの様々な刺激に対する防御機能が低下するという悪循環に陥ってしまう。
【0006】
これまでの研究等において、加齢又はアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患により、コレステロール、セラミド等の細胞間脂質の減少や組成変化が起こることが報告されており(非特許文献1,2参照)、バリア機能を維持、改善するために、コレステロール、セラミド等の補給が重要であることが広く認識されるようになっている。このような背景から、皮膚内部においてコレステロール合成能を向上させるものとして、ニコチン酸及びニコチン酸誘導体等が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
ヒアルロン酸は、皮膚の水分保持や粘弾性に深く関与する主要な細胞外マトリックスの一つであり、真皮線維芽細胞に加え表皮角化細胞からも合成されることが知られている。また、表皮のヒアルロン酸の機能として、免疫系、分化調整等、皮膚の恒常性維持にも関与していることも知られている。
【0008】
しかし、生理的老化に伴い皮膚内のヒアルロン酸含量が減少することが知られており、皮膚内のヒアルロン酸含量の減少が、皮膚の乾燥、萎縮、弾力性の低下、小じわの形成等の老化現象に関与している可能性が推察されている(非特許文献3参照)。したがって、表皮ヒアルロン酸の合成促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)の発現を促進することで、皮膚の老化を予防・改善することができるものと考えられる。
【0009】
このような考えに基づき、ヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)発現促進作用を有するものとして、トコフェリルレチノエート(特許文献2参照)等が知られている。
【特許文献1】特開平11−292765号公報
【特許文献2】特開2006−290873号公報
【非特許文献1】"J. Invest. Dermatol.",1996,Vol.106,p.1064-1069
【非特許文献2】"J. Clin. Invest.",1994,Vol.95,p.2281-2290
【非特許文献3】「コスメティックステージ」,2007年,第1巻,第3号,p.45−46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全性の高い天然物の中からコレステロール合成促進作用、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用及びHAS3mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及びHAS3mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及びHAS3mRNA発現促進剤は、甘草葉部抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及びHAS3mRNA発現促進剤は、下記一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちの少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
【化1】


式中、R及びRは、下記(A)〜(C)のいずれかの組み合わせから選ばれるものである。
(A)Rが水素原子のとき、Rは水素原子
(B)Rがヒドロキシ基であるとき、Rは3−メチル−2−ブテニル基
(C)Rがメトキシ基であるとき、Rは水素原子
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、甘草葉部抽出物、又は上記一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちの少なくとも1種を有効成分として含有し、安全性に優れたコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及びHAS3mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。
〔コレステロール合成促進剤,HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤,ヒアルロン酸産生促進剤,HAS3mRNA発現促進剤〕
本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及びHAS3mRNA発現促進剤は、甘草葉部抽出物、又は下記一般式(1)で表されるフラバノン類化合物(A:ピノセンブリン,B:6−プレニル−ナリンゲニン,C:アンゴホロール)のうちの少なくとも1種を有効成分として含有する。
【0016】
【化2】


式中、R及びRは、下記(A)〜(C)のいずれかの組み合わせから選ばれるものである。
(A)Rが水素原子のとき、Rは水素原子
(B)Rがヒドロキシ基であるとき、Rは3−メチル−2−ブテニル基
(C)Rがメトキシ基であるとき、Rは水素原子
【0017】
なお、本発明において「抽出物」には、甘草の葉部を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0018】
上記一般式(1)で表されるフラバノン類化合物は、当該フラバノン類化合物を含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することもできるし、合成により製造することもできる。なお、合成により製造する場合、その合成方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により合成することができる。
【0019】
上記フラバノン類化合物を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって得ることができる。上記フラバノン類化合物を含有する植物としては、例えば、甘草が挙げられる。
【0020】
抽出原料としての甘草には、Glychyrrhiza glabra、Glychyrrhiza inflata、Glychyrrhiza uralensis、Glychyrrhiza aspera、Glychyrrhiza eurycarpa、Glychyrrhiza pallidiflora、Glychyrrhiza yunnanensis、Glychyrrhiza lepidota、Glychyrrhiza echinata、Glychyrrhiza acanthocarpa等、様々な種類のものがあり、これらのうち、いずれの種類の甘草を抽出原料として使用してもよいが、特にGlychyrrhiza glabra、Glychyrrhiza uralensis、Glychyrrhiza inflataを抽出原料として使用することが好ましい。抽出原料として使用し得る甘草の構成部位としては、葉部である。
【0021】
甘草葉部抽出物は、抽出原料としての甘草の葉部を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、甘草の葉部の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0022】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0023】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、酸性化、アルカリ化、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、有機酸酸性水、アンモニアアルカリ水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0024】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0025】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合するのが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合するのが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合するのが好ましい。
【0026】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0027】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から上記フラバノン類化合物を単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、甘草葉部抽出物を濃縮し、液―液分配抽出、イオン交換樹脂、多孔性樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーにかけることにより粗精製し、さらに、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、必要に応じて結晶化することにより、上記フラバノン類化合物を単離・精製することができる。
【0028】
以上のようにして得られる甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物は、コレステロール合成促進作用、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用又はHAS3mRNA発現促進作用を有しているため、それらの作用を利用してコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又はHAS3mRNA発現促進剤の有効成分として使用することができる。
【0029】
なお、本発明においては、上記一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちのいずれか1種を上記有効成分として用いてもよいし、それらのうちの2種以上のフラバノン類化合物を混合して上記有効成分として用いてもよい。また、甘草葉部抽出物と上記フラバノン類化合物のうちの少なくとも1種とを混合して上記有効成分として用いてもよい。上記フラバノン類化合物のうちの2種以上を混合して上記有効成分として用いる場合、又は甘草葉部抽出物と上記フラバノン類化合物のうちの少なくとも1種とを混合して上記有効成分として用いる場合、その配合比は、それらの作用の程度に応じて適宜決定すればよい。
【0030】
本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又はHAS3mRNA発現促進剤は、甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物のみからなるものであってもよいし、甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物を製剤化したものであってもよい。
【0031】
甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を使用して、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を使用することができる。また、上記甘草抽出物は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0032】
なお、本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又はHAS3mRNA発現促進剤は、必要に応じて、コレステロール合成促進作用、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用又はHAS3mRNA発現促進作用を有する他の天然抽出物等を配合して有効成分として使用することができる。
【0033】
本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又はHAS3mRNA発現促進剤の投与方法としては、一般に経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0034】
また、本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又はHAS3mRNA発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0035】
本発明のコレステロール合成促進剤は、甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物が有するコレステロール合成促進作用を通じて、表皮におけるコレステロールの合成を促進し、角層のバリア機能障害に起因する皮膚のかさつき、落屑、掻痒感等を予防・改善することができる。ただし、本発明のコレステロール合成促進剤は、これらの用途以外にもコレステロール合成促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に使用することができる。
【0036】
本発明のHMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤は、甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物が有するHMG−CoA還元酵素mRNA発現促進作用を通じて、表皮におけるHMG−CoA還元酵素mRNAの発現を促進することができるため、これにより表皮におけるコレステロールの合成を促進し、角層のバリア機能障害に起因する皮膚のかさつき、落屑、掻痒感等を予防・改善することができる。ただし、本発明のHMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもHMG−CoA還元酵素mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に使用することができる。
【0037】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物が有するヒアルロン酸産生促進作用を通じて、表皮ヒアルロン酸の産生を促進することができ、これにより皮膚の乾燥、萎縮、弾力性の低下、小じわの形成等の老化現象を予防・改善することができる。ただし、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、これらの用途以外にもヒアルロン酸産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に使用することができる。
【0038】
本発明のHAS3mRNA発現促進剤は、甘草葉部抽出物又は上記フラバノン類化合物が有するHAS3mRNA発現促進作用を通じて、表皮ヒアルロン酸の合成促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)の発現を促進することができ、これにより皮膚の乾燥、萎縮、弾力性の低下、小じわの形成等の老化現象を予防・改善することができる。ただし、本発明のHAS3mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもHAS3mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に使用することができる。
【0039】
なお、本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、HAS3mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0040】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0041】
〔製造例1〕甘草葉部抽出物の製造
甘草(Glycyrrhiza glabra)の乾燥葉の粗砕物500gを抽出溶媒としての70容量%エタノール(水とエタノールとの容量比=3:7)14Lに投入し、ゆるく攪拌しながら3時間、70℃に保ち、熱時濾過した。得られた濾液を40℃で減圧下にて濃縮し、さらに減圧乾燥機で乾燥させ、甘草葉部抽出物146.4gを得た(試料1)。
【0042】
〔製造例2〕フラバノン類化合物の製造
上記製造例1にて得られた甘草葉部抽出物100gを、ダイヤイオンHP−20(三菱化学社製)を充填したカラムクロマトグラフィーにて精製した。カラムからの溶出液として、水、25容量%エタノール水溶液(水とエタノールとの容量比=3:1)、80容量%エタノール水溶液(水とエタノールとの容量比=1:4)及びアセトンを用い、それぞれの画分を得た。
【0043】
このようにして得られた80容量%エタノール水溶液画分30.0gを、順相カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーに付し、下記構造式(2)で表されるピノセンブリン196mg(試料2)、下記構造式(3)で表される6−プレニル−ナリンゲニン201mg(試料3)、及び下記構造式(4)で表されるアンゴホロール124mg(試料4)を得た。
【0044】
【化3】

【0045】
【化4】

【0046】
【化5】

【0047】
〔試験例1〕HMG−CoA還元酵素(HMGCR)mRNA発現促進作用試験
製造例1にて得られた甘草葉部抽出物(試料1)及び製造例2にて得られたフラバノン類化合物(試料2〜4)について、以下のようにしてHMG−CoA還元酵素(HMGCR)mRNA発現促進作用を試験した。
【0048】
(1)一本鎖DNAの調製
ヒト正常新生児表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte:NHEK)を、35mmDish(Falcon社製)に播種し、37℃、5%CO−95%airの条件下にて24時間培養した。培養終了後、試料(試料1〜4,試料濃度は下記表1を参照)添加培地に交換し、さらに24時間培養した。培養終了後、常法により総RNAを調製した。また、試料を添加しない以外は上記と同様にして細胞を培養し、総RNAを調製した。総RNAの調製は、下記の方法により行った。
【0049】
細胞を1mLのRNA抽出用試薬(ISOGEN,ニッポンジーン社製)に溶解し、クロロホルムを200μL添加した後、遠心(12000回転,4℃,15分間)にて上層RNA層を単離し、さらにイソプロパノールで濃縮した。
【0050】
濃縮沈殿させた総RNAをTE溶液(10mM Tris−HCl/1mM EDTA,pH8.0)に溶解して総RNA標品とし、PCR装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler MP,タカラバイオ社製)及びリアルタイムPCRキット(TaKaRa ExScriptTM RT reagent Kit,RR035A,タカラバイオ社製)を用いてHMGCRmRNA発現量を測定するための鋳型に使用する一本鎖DNAを合成した。
【0051】
(2)サイバーグリーン法を用いたリアルタイムPCR反応
HMGCR遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマー(いずれもタカラバイオ社製)を用いた。
センスプライマー:5'-CTTGCTTGCCGAGCCTAATGA-3'
アンチセンスプライマー:5'-AGAGCGTTCGTGGGTCCATC-3'
【0052】
また、内部標準としてのG3PDH遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマー(いずれもタカラバイオ社製)を用いた。
センスプライマー:5'-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3'
アンチセンスプライマー:5'-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3'
【0053】
試料添加及び試料無添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基に調製した一本鎖DNA、及び検量線作成用一本鎖DNA溶液について、リアルタイムPCR装置(Real Time PCR System Smart Cycler II,Cepheid社製)及びリアルタイムPCRキット(SYBR Premix Ex TaqTM,RR041A,タカラバイオ社製)を用いてリアルタイムPCR反応を行った。なお、検量線作成用一本鎖DNA溶液は、原液濃度の相対値を便宜的に「100000」とし、以降10倍希釈を繰り返して濃度値「100000」、「10000」、「1000」、「100」及び「10」の5段階の希釈系列とした。反応は、95℃で10秒間保温の後、95℃で5秒間、60℃で20秒間の反応を45サイクル繰り返し、1サイクルごとにサイバーグリーン色素の発光量を測定した。
【0054】
(3)解析
各サイクルのサイバーグリーン色素の発光量から、HMGCR及びG3PDHのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成した。検量線作成用一本鎖DNA溶液の希釈系列の増幅曲線から横軸に濃度、縦軸に増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数をとった検量線を作成した。各発現定量用サンプルについては、増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数を検量線上にプロットし、相対的な発現量を算出した。HMGCRの発現量は、同一サンプルにおけるG3PDHの発現量の値で補正を行った後、さらに「試料無添加」の補正値を100としたときの「試料添加」の補正値を算出した。この算出結果から、下記式に基づいてHMGCRmRNA発現促進率(%)を算出した。
【0055】
HMGCRmRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の補正値」を表し、Bは「試料無添加時の補正値」を表す。
結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、甘草葉部抽出物(試料1)、ピノセンブリン(試料2)、6−プレニル−ナリンゲニン(試料3)及びアンゴホロール(試料4)は、いずれも優れたHMGCRmRNAの発現を促進する作用を有することが確認された。
【0058】
〔試験例2〕ヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)mRNA発現促進作用試験
製造例1にて得られた甘草葉部抽出物(試料1)及び製造例2にて得られたフラバノン類化合物(試料2〜4)について、以下のようにしてヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)mRNA発現促進作用を試験した。
【0059】
(1)一本鎖DNAの調製
ヒト正常新生児表皮角化細胞(NHEK)を35mmDish(Falcon社製)に播種し、37℃、5%CO−95%airの条件下にて24時間培養した。培養終了後、試料(試料1〜4,試料濃度は下記表2を参照)添加培地に交換し、さらに24時間培養した。培養終了後、常法により総RNAを調製した。また、試料を添加しない以外は上記と同様にして細胞を培養し、総RNAを調製した。総RNAの調製は、下記の方法により行った。
【0060】
細胞を1mLのRNA抽出用試薬(ISOGEN,ニッポンジーン社製)に溶解し、クロロホルムを200μL添加した後、遠心(12000回転,4℃,15分間)にて上層RNA層を単離し、さらにイソプロパノールで濃縮した。
【0061】
濃縮沈殿させた総RNAをTE溶液(10mM Tris−HCl/1mM EDTA,pH8.0)に溶解して総RNA標品とし、PCR装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler MP,タカラバイオ社製)及びリアルタイムPCRキット(TaKaRa ExScriptTM RT reagent Kit,RR035A,タカラバイオ社製)を用いてHAS3mRNA発現量を測定するための鋳型に使用する一本鎖DNAを合成した。
【0062】
(2)サイバーグリーン法を用いたリアルタイムPCR反応
HAS3遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマー(いずれもタカラバイオ社製)を用いた。
センスプライマー:5'-TCGGCGATTCGGTGGACTA-3'
アンチセンスプライマー:5'-CCTCCAGGACTCGAAGCATCTC-3'
【0063】
また、内部標準としてのG3PDH遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマー(いずれもタカラバイオ社製)を用いた。
センスプライマー:5'-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3'
アンチセンスプライマー:5'-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3'
【0064】
試料添加及び試料無添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基に調製した一本鎖DNA、及び検量線作成用一本鎖DNA溶液について、リアルタイムPCR装置(Real Time PCR System Smart Cycler II,Cepheid社製)及びリアルタイムPCRキット(SYBR Premix Ex TaqTM,RR041A,タカラバイオ社製)を用いてリアルタイムPCR反応を行った。なお、検量線作成用一本鎖DNA溶液は、原液濃度の相対値を便宜的に「100000」とし、以降10倍希釈を繰り返して濃度値「100000」、「10000」、「1000」、「100」及び「10」の5段階の希釈系列とした。反応は、95℃で10秒間保温の後、95℃で5秒間、60℃で20秒間の反応を45サイクル繰り返し、1サイクルごとにサイバーグリーン色素の発光量を測定した。
【0065】
(3)解析
各サイクルのサイバーグリーン色素の発光量から、HAS3及びG3PDHのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成した。検量線作成用一本鎖DNA溶液の希釈系列の増幅曲線から横軸に濃度、縦軸に増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数をとった検量線を作成した。各発現定量用サンプルについては、増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数を検量線上にプロットし、相対的な発現量を算出した。HAS3の発現量は、同一サンプルにおけるG3PDHの発現量の値で補正を行った後、さらに「試料無添加」の補正値を100としたときの「試料添加」の補正値を算出した。この算出結果から、下記式に基づいてHAS3mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0066】
HAS3mRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の補正値」を表し、Bは「試料無添加時の補正値」を表す。
結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すように、甘草葉部抽出物(試料1)、ピノセンブリン(試料2)、6−プレニル−ナリンゲニン(試料3)及びアンゴホロール(試料4)は、いずれも優れたHAS3mRNAの発現を促進する作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のコレステロール合成促進剤、HMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及びHAS3mRNA発現促進剤は、皮膚の老化の予防又は改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草葉部抽出物を有効成分として含有することを特徴とするコレステロール合成促進剤。
【請求項2】
甘草葉部抽出物を有効成分として含有することを特徴とするHMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤。
【請求項3】
甘草葉部抽出物を有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項4】
甘草葉部抽出物を有効成分として含有することを特徴とするHAS3mRNA発現促進剤。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちの少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするコレステロール合成促進剤。
【化1】


(式中、R及びRは、下記(A)〜(C)のいずれかの組み合わせから選ばれるものである。
(A)Rが水素原子のとき、Rは水素原子
(B)Rがヒドロキシ基であるとき、Rは3−メチル−2−ブテニル基
(C)Rがメトキシ基であるとき、Rは水素原子)
【請求項6】
請求項5に記載の一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちの少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするHMG−CoA還元酵素mRNA発現促進剤。
【請求項7】
請求項5に記載の一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちの少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項8】
請求項5に記載の一般式(1)で表されるフラバノン類化合物のうちの少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするHAS3mRNA発現促進剤。

【公開番号】特開2010−90035(P2010−90035A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258805(P2008−258805)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】