説明

コンクリート構造物及びプレストレストコンクリート工法

【課題】鉛直方向緊張材の鋼材量を低減すると共に、側壁や底版のコンクリート量も低減することが可能であり、かつ、施工作業性の良好なプレストレストコンクリート構造物及びプレストレストコンクリート工法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物10は、側壁12の外周面に設けられる切り欠き部16と、側壁12内に埋設され、一端が前記切り欠き部16にて定着されると共に、他端が前記底版14に定着された緊張材18とを備える。また、好ましくは、緊張材18は、切り欠き部16と、底版14の内部との間に定着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物及びプレストレストコンクリート工法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、一般的なLNGなどの貯蔵用タンクの一例であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すB矢視図である。
【0003】
図6に示すように、一般に、LNGなどの貯蔵タンクは、鋼製容器などの外側にコンクリート構造物60が設けられる。かかるコンクリート構造物60の側壁12は、タンク内部を輪状に取り囲むように水平周方向に複数設けられる周方向テンドン52と、側壁12の上端から側壁12内を通り底版14まで鉛直方向に複数設けられる鉛直方向テンドン54とを備えるプレストレストコンクリート構造となる。また、図6(b)に示すように、鉛直方向テンドン54は、例えば、側壁12の上部から底版14まで到達した後、底版14内部で折り返して、別経路を通り、再び、側壁12の上端部へ戻るように配設される。
【0004】
このようなコンクリート構造物60では、構造上、特に、側壁12の下部と底版14との間に、大きな鉛直方向の曲げモーメントやせん断力が生じる。このため、この区間のコンクリートにひび割れ破損等を発生させないように、充分な圧縮力を与えることが可能な鋼材量の鉛直方向テンドン54が使用される。
【0005】
また、従来より、側壁12の下部の緊張材の量を、側壁上部よりも多く配設するプレストレストコンクリート構造物も開示されている(例えば、特許文献1又は2)。
【0006】
特許文献1には、シース管を、側壁内の上部から下部までの領域に鉛直方向に設けるとともに、これとは別に側壁内の中央部から下部までの領域にも設け、その内部にPC鋼棒からなる緊張材を配設することで、側壁下部の鉛直方向の緊張材が、側壁上部よりも密になるように配置されたプレストレストコンクリート構造物が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、コンクリートの側壁が途中から下方へ向かって部材厚が大きくなる部分を有し、この部材厚が大きくなる部分に、鉛直方向又は鉛直斜め方向の緊張材を配設するプレストレストコンクリート構造物が開示されている。
【特許文献1】特開平10−238697号公報
【特許文献2】特開2005−350092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図6に示すようなコンクリート構造物60内に設けられる鉛直方向テンドン54は、荷重条件が厳しい側壁12の下部と底版14との間に作用する曲げモーメントとせん断力に抵抗できるように、全区間にわたって同じ鋼材量で設計されるために、荷重があまりかからない側壁12の上部については、必要以上の強度を有する構造となり不経済である。
【0009】
また、特許文献1に記載されるプレストレストコンクリート構造物では、中間緊張材の上端部の定着位置が、コンクリート内に配置される構成になっているので、側壁施工において、緊張材の緊張作業とグラウト充填作業が完了しない限り、その上部の側壁の工事を実施できない。このために、工期の長期化を招くおそれがある。
【0010】
また、特許文献2に記載されるプレストレストコンクリート構造物では、側壁の壁厚増加にともなって、コンクリートの使用量が増加してしまい、材料コストが嵩む。また、側壁下部のコンクリート厚が厚くなるにともなって、タンクを構築するための占有面積も広くなってしまう。さらに、コンクリート構造全体の質量も増加するので、地震発生時には、その加速度によって構造にかかる慣性力も増加するため、この慣性力に耐えうるために、コンクリート構造物60全体を支持する底版14の基礎構造も通常よりも強固な構造にする必要があり、同様に施工コストが嵩む。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、鉛直方向緊張材の鋼材量を低減すると共に、側壁や底版のコンクリート量も低減することが可能であり、かつ、施工作業性の良好なプレストレストコンクリート構造物及びプレストレストコンクリート工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物であって、
前記側壁の外周面に設けられる切り欠き部と、
前記側壁内に埋設され、一端が前記切り欠き部にて定着されると共に、他端が前記底版に定着された緊張材とを備えることを特徴とする(第1の発明)。
【0013】
本発明によるコンクリート構造物によれば、緊張材の一端が前記切り欠き部にて定着されると共に、他端が底版に定着されることにより、切り欠き部と底版との間の緊張材の量を増やすことができ、該区間のコンクリートを重点的に補強できる。これにより、側壁の上部から底版にわたる夫々に部位に対して、適切な鋼材量の緊張材を配置でき、緊張材の材料費を必要最小限に抑えることができる。
【0014】
また、コンクリート構造物を構築するにあたって、側壁の壁厚を厚くせずに済むので、コンクリートの材料コストを低減でき、占有面積も広くなることはない。また、使用されるコンクリート量も増加しないので、地震発生時にも、その加速度によって側壁にかかる慣性力も増加しないため、コンクリート構造全体を支持する基礎構造も特に通常よりも強固にする必要もない。
【0015】
また、緊張材は、側壁外周面の切り欠き部に定着されるので、緊張材の緊張作業を、その上部の側壁の工事を妨げることなく、並行して実施できる。
【0016】
さらに、側壁の外周面に設けられた切り欠き部に緊張材の一端を定着することで、側壁内の緊張材をほぼ鉛直方向に配置することができ、これにより、緊張材によるプレストレスの導入を有効に行うことができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記緊張材の他端は、前記底版の内部に定着されることを特徴とする。
【0018】
第3の発明は、第1の発明において、前記緊張材の他端は、前記底版の外周面に定着されることを特徴とする。
本発明によるコンクリート構造物によれば、緊張材の両端に位置する定着部が、外部に露呈する構造となるため、例えば、予め、緊張材を設置すべき位置にシース管を埋設して側壁及び底版を構築することにより、側壁及び底版の構築後においても、緊張材を挿通することで緊張材を設置できる。
【0019】
第4の発明は、底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物であって、前記側壁の外周面に設けられる切り欠き部と、前記側壁内に、前記切り欠き部から前記底版内部まで下向きに延びた後、前記底版内部から上向きに延びて前記切り欠き部に戻るように略U字状に埋設され、両端が前記切り欠き部にて定着された緊張材とを備えることを特徴とする。
本発明によるコンクリート構造物によれば、緊張材の両端に位置する定着部が、外部に露呈する構造となるため、例えば、予め、緊張材を設置すべき位置にシース管を埋設して側壁及び底版を構築することにより、側壁及び底版の構築後においても、緊張材を挿通することで緊張材を設置できる。
【0020】
第5の発明は、第1〜4のいずれかに記載の発明において、前記緊張材は、前記コンクリート構造物の周方向に複数配設されることを特徴とする。
【0021】
第6の発明は、第1〜5のいずれかに記載の発明において、前記緊張材が、鋼線又は鋼より線であることを特徴とする。
【0022】
第7の発明は、第1〜5のいずれかに記載の発明において、前記緊張材が、鋼棒であることを特徴とする。
【0023】
第8の発明は、第1〜7のいずれかに記載の発明において、前記切欠き部は、前記緊張材を定着後、コンクリート又はモルタルによって充填されることを特徴とする。
本発明によるコンクリート構造物によれば、側壁の切り欠き部による強度低下を防止できる。また、外周面が、凹凸のない滑らかな曲面となるため、外部からの景観もよい。さらに、緊張材の定着部は被覆されて風雨などにも曝されないため、定着部の防錆性も向上できる。
【0024】
第9の発明は、第1〜8のいずれかに記載の発明において、低温タンクに用いられることを特徴とする。
【0025】
第10の発明は、底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物にプレストレスを導入するプレストレストコンクリート工法であって、前記側壁の外周面に切り欠き部を設け、前記側壁に、緊張材を、その一端を前記切り欠き部に定着すると共に、他端を前記底版に定着することを特徴とする。
【0026】
第11の発明は、底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物にプレストレスを導入するプレストレストコンクリート工法であって、前記側壁の外周面に切り欠き部を設け、前記側壁内に、緊張材を、前記切り欠き部から前記底版内部まで下向きに延ばした後、前記底版内部から上向きに延ばして前記切り欠き部に戻るように略U字状に埋設し、両端を前記切り欠き部にて定着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、鉛直方向緊張材の鋼材量を低減すると共に、側壁や底版のコンクリート量も低減することが可能であり、かつ、施工作業性の良好なプレストレストコンクリート構造物及びプレストレストコンクリート工法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
なお、以下の説明に用いる図において、図6に対応する部分は同一の符号を付して示す。
【0029】
図1は、本発明の第一の実施形態に係るコンクリート構造物10の内部に埋設される緊張材18を横切る位置で切断した際の断面図である。
【0030】
図1に示すように、コンクリート構造物10は、周方向テンドン52と鉛直方向テンドン54とを備える側壁12及び底版14から構成される。側壁12の外周面には、切り欠き部16を設け、緊張材18を、その一端を切り欠き部16に定着すると共に、他端を底版14内に定着して、側壁12内に埋設している。
【0031】
図2は、図1におけるX部の拡大図であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すA矢視図である。
【0032】
図2に示すように、緊張材18は、側壁12の切り欠き部16と、底版14内部との間に定着される。
【0033】
その設置手順は、例えば、先ず、底版14を構築する際に、緊張材18の下端を底版14内部に定着しておき、上端を底版14から側壁12の構築予定領域内に上方に延ばしておく。その後、この構築予定領域内における所定位置に周方向テンドン52及び鉛直方向テンドン54のシース管(図示しない)を配置して、その周囲に型枠を設け、緊張材18の上端を、側壁12の型枠の切り欠き部16を構成する部分から外部に引き出す。そして、型枠内にコンクリートを打設し、そのコンクリートを養生後、切り欠き部16から引き出されている緊張材18の端部に緊張力を与え、その状態で緊張材18の端部を切り欠き部16に定着する。
【0034】
なお、図2(b)に示すように、このような緊張材18を、例えば、周方向に隣接する鉛直方向テンドン54の間に2本並列させるなどして、コンクリート構造物10の周方向に複数配置する。
【0035】
次に、本発明に係る第二の実施形態について説明する。
本発明に係る第二の実施形態は、先に説明した第一の実施形態における緊張材18の配設位置を変更したものである。
【0036】
図3は、第二の実施形態に係る、図1におけるX部の拡大図であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すA矢視図である。
【0037】
図3に示すように、緊張材18は、切り欠き部16と、底版14の水平端20との間を、側壁12及び底版14を貫通して定着される。
【0038】
その設置手順は、例えば、底版14を構築する際に、緊張材18の下端を、底版14の水平端20の位置に固定しておき、この緊張材18を、一旦、底版14内におけるコンクリート構造物10の中心に向かう水平方向に延ばし、その後、側壁12の直下部に相当する位置で屈曲させて、底版14から側壁12の構築予定領域内に上方に引き出しておく。その後、先に述べた第一の実施形態と同様に、この構築予定領域内における所定位置に周方向テンドン52及び鉛直方向テンドン54のシース管(図示しない)を配置して、その周囲に型枠を設け、緊張材18の上端を、側壁12の型枠の切り欠き部16を構成する部分から外部に引き出す。そして、型枠内にコンクリートを打設し、そのコンクリートを養生後、切り欠き部16から引き出されている緊張材18の端部に緊張力を与え、その状態で緊張材18の端部を切り欠き部16に定着する。
【0039】
なお、図3(b)に示すように、第二の実施形態も第一の実施形態と同様に、緊張材18を、例えば、周方向に隣接する鉛直方向テンドン54の間に2本並列させるなどして、コンクリート構造物10の周方向に複数配置する。
【0040】
次に、本発明に係る第三の実施形態について説明する。
本発明に係る第三の実施形態は、先に説明した第一及び第二の実施形態における緊張材18の配設位置を変更したものである。
【0041】
図4は、第三の実施形態に係る、図1におけるX部の拡大図であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すA矢視図である。
【0042】
図4に示すように、緊張材18は、切り欠き部16から、側壁12の内部を通って略鉛直下方向へ延伸して底版14まで到達後、底版14から別経路の側壁12の内部を通って略鉛直上向きへ延伸し、再び、切り欠き部16とは別の位置に設けられる切り欠き部16に貫通するような略U字状の形状で、コンクリートに定着される。なお、図示しないが、切り欠き部16が周方向に長く形成されている場合には、緊張材18の両端が、同じ切り欠き部16に定着されてもよい。
【0043】
その設置手順は、例えば、先ず、底版14を構築する際に、略U字状を有する緊張材18の屈曲部付近を底版14内部に埋設しておき、それ以外の埋設されない両端部を底版14から側壁12の構築予定領域内に上方に延ばしておく。その後、この構築予定領域内における所定位置に周方向テンドン52及び鉛直方向テンドン54のシース管(図示しない)を配置して、その周囲に型枠を設け、緊張材18の両端を、側壁12の型枠の切り欠き部16を構成する部分から外部に引き出す。そして、型枠内にコンクリートを打設し、そのコンクリートを養生後、切り欠き部16から引き出されている緊張材18の両端に緊張力を与え、その状態で緊張材18の両端を切り欠き部16に定着する。
【0044】
なお、図4(b)に示すように、第三の実施形態も第一又は第二の実施形態と同様に、緊張材18を、例えば、周方向に隣接する鉛直方向テンドン54の間に2本並列させるなどして、コンクリート構造物10の周方向に複数配置する。
【0045】
また、第一〜第三の実施形態で説明した、コンクリート打設の際に埋設する緊張材18には、例えば、未硬化状態の液状エポキシ樹脂を鋼材部に塗布し、その上にポリエチレンを被覆したアフターボンド(登録商標)式のPC鋼より線又はPC鋼棒を用いる。あるいは、予めPC鋼より線又はPC鋼棒をシース管に挿通したものを用いてもよく、この場合には、コンクリート内に埋設し、緊張作業後、シース管と鋼材部との隙間に、鋼材部の防食及びコンクリートとの一体化のために、セメントミルクなどのグラウト材を注入するものとする。
【0046】
また、第二及び第三の実施形態の緊張材18の設置手順については、緊張材18を側壁12及び底版14の構築予定領域内に配置しておき、その後、その周囲に構築される型枠にコンクリートを打設することによって施工するとしたが、これに限らず、予め、シース管のみを、緊張材18を設置する区間に配置しておき、底版14及び側壁12のコンクリートを打設及び養生した後において、このシース管に、緊張材18を挿通する手順をとってもよい。
【0047】
シース管には、例えば、プラスチック製、あるいは鋼製のものを用い、コンクリートペーストの漏れがないよう水密性を持ち、コンクリートの重さで潰れたり、取り扱い中に押し潰されたりしないだけの充分な強度を有するものを用いる。
この場合に用いる緊張材18には、シース管に挿通可能で、定着作業が簡単な、例えば、PC鋼より線からなるシングルストランドを用いる。
【0048】
図5は、緊張材18の一例であるシングルストランド30の詳細構造を示す図であり、同図(a)は上面図、(b)は断面図、(c)は下面図である。
【0049】
図5に示すように、シングルストランド30は、一本のPC鋼より線32と、PC鋼より線32の両端部に設けられ、PC鋼より線32の緊張力による反力(圧縮力)をコンクリートに伝達させるための支圧板34と、コンクリートを緊張した時に支圧板34の近傍に生じる局所的な応力に対して、コンクリートにひび割れが入るのを防止するためのスパイラル筋36と、支圧板34をコンクリートに定着するための定着具38(ウェッジ38aとスリーブ38bとからなる)及び圧力グリップ40とから構成される。
【0050】
シングルストランド30による緊張方法は、先ず、圧力グリップ40によってPC鋼より線32の一端(図5の下端)に定着された支圧板34を、底版14内、底版14の水平端20、又は側壁12の切り欠き部16に定着して、PC鋼より線32を、その他端が切り欠き部16に達するように設ける。その後、切り欠き部16から取り出されたPC鋼より線32の他端に、支圧板34を嵌め込み、専用のジャッキ(図示しない)を用いて、定着具38の側からPC鋼より線32に緊張力を加えながら、その反力を支圧板34に伝達させて、下端の支圧板34との間のコンクリートに圧縮力を与えていく。そして、所定の圧縮力に達したことを確認したならば、その圧縮力を維持したまま、PC鋼より線32の他端部にスリーブ38bを取り付け、取り付けられたスリーブ38bに楔状のウェッジ38aを圧入して、ウェッジ38aのPC鋼より線32と接触する内周面を、PC鋼より線32に緊締させる。これにより、コンクリートに圧縮力を与えたまま、定着具38を固定できる。なお、PC鋼より線32の両端から緊張力を加える場合には、圧力グリップ40を定着具38に交換し、その両端から専用ジャッキによって緊張力を加え、PC鋼より線32の両端に定着具38を緊締させる。
【0051】
最後に、定着具38から突出したPC鋼より線32の余長部を適当な長さに切断し、グラウト材をPC鋼より線32とシース管との隙間に注入することで、シングルストランド30の設置作業が完了する。
【0052】
また、第一〜第三の実施形態で述べた緊張材18による緊張作業が完了した後で、切り欠き部16に、コンクリートを打設して補強することが好ましい。
【0053】
そして、最終的に、第一〜第三の実施形態で述べた緊張材18の緊張作業と並行して、その上部の側壁12を構築していき、側壁12の構築が完了後、鉛直方向テンドン54及び周方向テンドン52をシース管に挿通し、鉛直方向テンドン54から周方向テンドン52の順で緊張作業を行うことによって、コンクリート構造物10の構築が完了する。
【0054】
以上説明したように、第一〜第三の実施形態によるコンクリート構造物10によれば、側壁12の外周面に設けられる切り欠き部16と、底版14との間に、緊張材18を重点的に設けることにより、側壁12下部と底版14との間のコンクリートへの圧縮力を高めることができる。これにより、この区間に生じる鉛直方向の曲げモーメントやせん断力などによって発生するコンクリートのひび割れ破損等を防止できる。
【0055】
また、側壁12の上部から底版14にわたる夫々に部位に対して、適切な鋼材量の鉛直方向テンドン54及び緊張材18を配置でき、これら緊張材の材料費を必要最小限に抑えることができる。
【0056】
すなわち、従来、鉛直方向テンドン54は、側壁12の下部と底版14との間に作用する曲げモーメントとせん断力に抵抗できるように、鉛直方向テンドン54全体の鋼材量を設計しているために、側壁12の上部に関しては、必要以上の強度仕様となるマルチストランド(複数のPC鋼より線で構成される緊張材)を用いなければならなかったが、第一〜第三の実施形態の構成を採用すれば、側壁12の下部と底版14との間の強度を重点的に増強できるため、側壁12上部の強度仕様に適応した、鋼材量の少ない鉛直方向テンドン54を用いることができる。従って、コンクリート構造物10に用いられる鉛直方向テンドン54の鋼材量を削減できる。
【0057】
また、第一〜第三の実施形態によるコンクリート構造物10によれば、緊張材18の上端部を切り欠き部16に定着することで、コンクリート構造物10を構築するにあたって、側壁12の壁厚を厚くせずに済むので、コンクリートの材料コストを低減でき、占有面積も広くなることはない。また、コンクリート量も増加しないので、地震発生時にも、その加速度によって側壁12にかかる慣性力も増加しないため、コンクリート構造物10を支持する基礎構造等も特に通常よりも強固にする必要はない。
【0058】
また、第一〜第三の実施形態によるコンクリート構造物10によれば、緊張材18は、側壁12の外周面の切り欠き部16に定着されるので、緊張材18の緊張作業を、その上部の側壁12との工事を妨げることなく、並行して実施できる。
【0059】
また、第一〜第三の実施形態によるコンクリート構造物10によれば、側壁12の外周面に設けられた切り欠き部16に緊張材18の端部を定着することで、側壁12内の緊張材18をほぼ鉛直方向に配置することができ、これにより、緊張材18によるプレストレスの導入を有効に行うことができる。
【0060】
また、第一〜第三の実施形態によるコンクリート構造物10によれば、緊張材18の定着後に側壁12に形成された切り欠き部16に、コンクリート又はモルタルを充填することにより、側壁12の切り欠き部16による強度低下を防止できる。また、側壁12の外周面が、凹凸のない滑らかな曲面となるため外部からの景観もよい。さらに、緊張材18の定着部は被覆されて風雨などにも曝されないため、定着部の防錆性も向上できる。
【0061】
なお、第一〜第三の実施形態において、緊張材18の緊張作業は、その上部の側壁12の構築と並行して実施するものとしたが、これに限らず、周方向テンドン52を緊張する前であれば、その作業実施時期は問わない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るコンクリート構造物の内部に埋設される緊張材を横切る位置で切断した際の断面図である。
【図2】図1におけるX部の拡大図であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すA矢視図である。
【図3】第二の実施形態に係る、図1におけるX部の拡大図であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すA矢視図である。
【図4】第三の実施形態に係る、図1におけるX部の拡大図であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すA矢視図である。
【図5】緊張材の一例であるシングルストランドの詳細構造を示す図であり、同図(a)は上面図、(b)は断面図、(c)は下面図である。
【図6】図6は、一般的なLNGなどの貯蔵用タンクの一例であって、(a)はその断面図、(b)は側壁12内の緊張材配置状態を示すB矢視図である
【符号の説明】
【0063】
10、60 コンクリート構造物
12 側壁
14 底版
16 切り欠き部
18 緊張材
20 水平端
30 シングルストランド
32 PC鋼より線
34 支圧板
36 スパイラル筋
38 定着具
38a ウェッジ
38b スリーブ
40 圧力グリップ
52 周方向テンドン
54 鉛直方向テンドン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物であって、
前記側壁の外周面に設けられる切り欠き部と、
前記側壁内に埋設され、一端が前記切り欠き部にて定着されると共に、他端が前記底版に定着された緊張材とを備えることを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項2】
前記緊張材の他端は、前記底版の内部に定着されることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物。
【請求項3】
前記緊張材の他端は、前記底版の外周面に定着されることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物。
【請求項4】
底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物であって、
前記側壁の外周面に設けられる切り欠き部と、
前記側壁内に、前記切り欠き部から前記底版内部まで下向きに延びた後、前記底版内部から上向きに延びて前記切り欠き部に戻るように略U字状に埋設され、両端が前記切り欠き部にて定着された緊張材とを備えることを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項5】
前記緊張材は、前記コンクリート構造物の周方向に複数配設されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート構造物。
【請求項6】
前記緊張材が、鋼線又は鋼より線であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート構造物。
【請求項7】
前記緊張材が、鋼棒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート構造物。
【請求項8】
前記切り欠き部は、前記緊張材を定着後、コンクリート又はモルタルによって充填されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のコンクリート構造物。
【請求項9】
低温タンクに用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のコンクリート構造物。
【請求項10】
底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物にプレストレスを導入するプレストレストコンクリート工法であって、
前記側壁の外周面に切り欠き部を設け、
前記側壁に、緊張材を、その一端を前記切り欠き部に定着すると共に、他端を前記底版に定着することを特徴とするプレストレストコンクリート工法。
【請求項11】
底版とその上に立設される側壁とからなるコンクリート構造物にプレストレスを導入するプレストレストコンクリート工法であって、
前記側壁の外周面に切り欠き部を設け、
前記側壁内に、緊張材を、前記切り欠き部から底版内部まで下向きに延ばした後、前記底版内部から上向きに延ばして前記切り欠き部に戻るように略U字状に埋設し、両端を前記切り欠き部にて定着することを特徴とするプレストレストコンクリート工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−303101(P2007−303101A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130617(P2006−130617)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】