説明

コンデンサレンズ、顕微鏡装置

【課題】AF光を反射する反射面が標本面近傍に無い場合でもAF装置を利用可能にするコンデンサレンズと、AF顕微鏡装置を提供すること。
【解決手段】オートフォーカス用光源L1と、前記光源からの光を対物レンズG5を介して標本面Sに照射し、前記標本面からの反射光を前記対物レンズを介して光検出器Cで検出するオートフォーカス用光学系10と、前記標本に対し前記対物レンズの反対側に前記標本面と等価な反射面を有する光学部材MIRを備えた光学系20と、を有することを特徴とする顕微鏡装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡用コンデンサレンズと、当該コンデンサレンズを用いたオートフォーカス機能(以後AFと略記する)を備える顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物標本とカバーガラスとの境界面における両者の屈折率差に基づく反射光を利用して生物標本に合焦した状態を維持すると共に、光軸方向の合焦位置をオフセットすることができるAF装置を搭載した顕微鏡が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−70276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のAF機能を備えた顕微鏡装置(以後AF顕微鏡装置と略記する)は、油浸対物レンズを用いたとき生物標本で最も一般的な固定標本(例えば、染色液で染色された生物標本等)の場合、標本の屈折率がカバーガラスとほぼ同等の屈折率となるため、標本とカバーガラスの境界面での反射率がほぼ零になり、AF光を反射する反射面が標本面近傍に存在せず、AF装置を利用できなくなると言う課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、オートフォーカス用光源と、前記光源からの光を対物レンズを介して標本面に照射し、前記標本面からの反射光を前記対物レンズを介して光検出器で検出するオートフォーカス用光学系と、前記標本に対し前記対物レンズの反対側に前記標本面と等価な反射面を有する光学部材を備えた光学系と、を有することを特徴とする顕微鏡装置を提供する。
【0005】
また、本発明は、透過照明光学系に配設されるコンデンサレンズであって、前記コンデンサレンズの透過照明用光源側焦点位置近傍に所定波長の光を選択的に反射する光学部材を配設したことを特徴とするコンデンサレンズを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、AF光を反射する反射面が標本面近傍に存在しない場合でもAF装置を利用可能にするコンデンサレンズと、AF顕微鏡装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態にかかるAF顕微鏡装置について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、発明の理解を容易にするためのものに過ぎず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において当業者により実施可能な付加・置換等を施すことを排除することは意図していない。
【0008】
図1は、実施の形態にかかるAF顕微鏡装置の概略構成図である。図2は、図1の標本近傍の拡大図である。
【0009】
図1において、実施の形態にかかるAF顕微鏡装置100は、後述する、オートフォーカス用のAF光学系10と、標本に照明光を照射する透過照明光学系20と、標本像を形成する結像光学系30とから構成されている。なお、以下の説明では、正立型顕微鏡を代表として説明するが倒立型顕微鏡にも適用可能であることは言うまでもない。
【0010】
AF光学系10では、図1の実線で示すように、AF用光源L1から射出した赤外光束(以後、AF光と記す)はコレクタレンズG1でコリメートされ平行光束となり、ハーフストップHSで半円光束となる。その後、ハーフミラーHMで一部の光束が後述するダイクロイックミラーDM方向に反射され、オフセット用凹レンズG3、凸レンズG4を通り、観察像の可視域成分が受光素子Cに達するのを防ぐための可視光カットフィルタF1を通り、ダイクロイックミラーDMで対物レンズG5方向に反射し、対物レンズG5を介して生物標本とカバーガラスの境界面である標本面Sに光源像を結像する。ダイクロイックミラーDMは、AF用光源L1からの赤外光域の光を反射し、観察光である可視域の光を透過させる。
【0011】
ここで、生物標本50とカバーガラス51に屈折率差があり標本面SでAF光の反射面が形成される場合、図1および図2の破線で示すように、AF用光源L1の光源像は標本面Sで反射して対物レンズG5に入射して平行光束となり、AF光の照明時と逆の経路で進行し、ダイクロイックミラーDMで反射し、可視光カットフィルタF1、オフセットレンズG4、G3を経て、ハーフミラーHMを透過して結像レンズG2により受光素子Cに結像する。このように、通常のAF動作では、図1の実線で照射されたAF光は標本面Sで反射して破線の経路で受光素子Cに入射する。
【0012】
受光素子Cからの信号は、制御部40に伝達され、AF用光源L1の焦点位置を標本面Sに維持するように不図示のステージまたは対物レンズG5が光軸方向に移動される。このようにして、通常のAF動作が達成される。
【0013】
透過照明光学系20では、照明光源L2からの照明光束はコレクタレンズG9で略平行光にされ赤外光カットフィルタF3を通過し、視野絞りFSを経て偏向ミラーMで対物レンズG5側に反射され、レンズG8でコンデンサレンズG6の透過照明用光源側焦点位置FBに光源像を結像する。この光源像位置からの照明光は、コンデンサレンズG6により標本に照射される。赤外光カットフィルタF3は、照明光源L2から発せられる赤外光が対物レンズG5を介して受光素子Cに入射するのを防止するために設けられている。また、コンデンサレンズG6の透過照明用光源側焦点位置FB近傍には、開口絞りASと、AF用光源L1の赤外光を反射する反射面を有する光学部材であるダイクロイックミラーMIRが配設されている。
【0014】
なお、AF顕微鏡装置100使用時には、コンデンサレンズG6の標本側焦点位置は、標本面S近傍に位置付けられている。また、ダイクロイックミラーMIRは、コンデンサレンズG6の透過照明用光源側焦点位置FB近傍に挿脱可能に構成しても良い。
【0015】
結像光学系30では、透過照明光学系20で照明された標本からの光は、対物レンズG5で集光されて略平行光で射出され、ダイクロイックミラーDMで可視光が透過され赤外光カットフィルタF2を通過して第2対物レンズG7で像面Iに標本像が結像される。像面Iに結像された標本像は、不図示の接眼レンズを介してユーザに観察、あるいは、二次元撮像素子が像面Iに配置され不図示のモニターで観察される。また、AF顕微鏡装置100は、オフセットレンズG3,G4の少なくとも一方を制御部40を介してAF光学系10の光軸に沿って移動させることで、オートフォーカス動作を維持しつつ結像光学系30の標本側焦点位置を光軸に沿って標本中を移動することが出来る。このようにして、実施の形態にかかるAF顕微鏡装置100が構成されている。
【0016】
図2に示すように、一般的に油浸系対物レンズG5と生物固定標本50の場合、従来の標本面Sでは標本50とカバーガラス51との屈折率差がないため赤外光を標本面Sで反射することが出来ずAF動作を行うことが出来ない。なお、スライドガラス面でもAF光を反射することが可能な場合があるが、スライドガラスは、厚さの精度や面精度が悪いためAF動作を高い精度で行えないため、AF光を反射させる面として好ましくない。
【0017】
そこで、本AF顕微鏡装置100では、対物レンズG5の標本側焦点位置の前方(標本に対し対物レンズG5とは反対側)に配置された照明光学系20のコンデンサレンズG6の透過照明用光源側焦点位置FB近傍にAF光を反射し可視光を透過するダイクロイックミラーMIRを配置してAF動作を可能にしている。
【0018】
図1および図2の実線に示すように、AF用光源L1から出たAF光束はコレクタレンズG1でコリメートされ平行光束となり、ハーフストップHSで半円光束となる。その後、ハーフミラーHMで一部の光束が反射され、オフセット用凹レンズG3、凸レンズG4を通り、観察像の可視域成分が受光素子Cに達するのを防ぐ可視光カットフィルタF1を通り、ダイクロイックミラーDMで反射して対物レンズG5を介して標本面Sに光源像を結像する。
【0019】
標本面SではAF光を反射しないため、光源像は標本面Sをほぼ全ての光束が透過し、透過照明光学系20のコンデンサレンズG6に入射した後、コンデンサレンズG6の透過照明用光源側焦点位置FB近傍に配置されたダイクロイックミラーMIRで反射してコンデンサレンズG6を逆行して標本面Sに再度結像する。その後入射光路と同じ光路を逆行しダイクロイックミラーDM、可視光カットフィルタF1、オフセットレンズG4、G3を経て平行光束となりハーフミラーHMを透過して結像レンズG2により受光素子Cに結像する。この時、受光素子C上における焦点ずれに対するAF光の移動方向が、通常時(標本面Sで反射する時、図中の破線で示す)とダイクロイックミラーMIR使用時では異なる(図中の、実線で示す)。
【0020】
そこで、AF顕微鏡装置100では、対物レンズG5あるいはダイクロイックミラーDMの使用状況をAF顕微鏡装置100側でモニターして受光素子C上での合焦位置演算時の信号と合焦位置の方向を破線と実線では逆に対応するように制御部40で設定することで、AF動作を行わせることが可能になる。
【0021】
このように、本実施の形態にかかるAF顕微鏡装置100は、生物標本50とカバーガラス51の境界面である標本面SでAF光の反射面が存在しない場合にも、コンデンサレンズG6の透過照明用光源側焦点位置FB近傍に配設されたダイクロイックミラーMIRでAF光を反射することでAF動作を行うことが出来る。また、標本近傍にAF光の反射面が存在しない場合にも、ダイクロイックミラーMIRを反射面として使用することでAF動作を行うことが出来る。
【0022】
なお、ダイクロイックミラーMIRは、コンデンサレンズG6の透過照明用光源側焦点位置FB近傍に配置したが、ここに限らず標本面Sと等価な位置の近傍であれば同様の効果を奏することが出来る。また、ミラーMIRはダイクロイックミラーのみならず、赤外光を反射し可視光を透過する特性を有する光学部材であれば同様の効果を奏することが出来る。
【0023】
また、上記説明では、ダイクロイックミラーMIRを透過照明光学系20のコンデンサレンズG6に配置した場合について説明したが、全てのAF顕微鏡装置で透過照明光学系は必要なく、コンデンサレンズに相当する光学部材中に配置しても良い。例えば、標本像を落射照明光学系で観察するAF顕微鏡装置では、標本に対し対物レンズG5の反対側に本実施の形態にかかるダイクロイックミラーMIRを備えるコンデンサレンズと等価な光学部材を配置することで同様の効果を奏することが出来る。
【0024】
また、上記説明ではダイクロイックミラーMIRで反射されたAF光(図1の実線)は、通常の場合の反射光(図1の破線)とでは制御部40での制御が異なる。これを解決するために実線の光線を破線の光線に変換する光学系(例えば、偶数回反射面設置等)を設けても良い。このような光学系を設けることで、制御部40のAF信号処理を通常のままの制御で使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態にかかるAF顕微鏡装置の概略構成図である。
【図2】図1の標本近傍の拡大図である。
【符号の説明】
【0026】
10 AF光学系
20 透過照明光学系
30 結像光学系
40 制御部
100 AF顕微鏡装置
L1 AF用光源
L2 照明光源
G1 コレクタレンズ
HS ハーフストップ
HM ハーフミラー
G3、G4 オフセット用レンズ
F1 可視光カットフィルタ
DM ダイクロイックミラー
G5 対物レンズ
S 標本面
G6 コンデンサレンズ
G7 第2対物レンズ
G8 レンズ
G9 コレクタレンズ
F2、F3 赤外光カットフィルタ
MIR ダイクロイックミラー
C 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートフォーカス用光源と、
前記光源からの光を対物レンズを介して標本面に照射し、前記標本面からの反射光を前記対物レンズを介して光検出器で検出するオートフォーカス用光学系と、
前記標本に対し前記対物レンズの反対側に前記標本面と等価な反射面を有する光学部材を備えた光学系と、を有することを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記光学系は、前記標本を照明する透過照明光学系に含まれ、
前記光学部材は、前記透過照明光学系中に前記標本面と等価な位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記透過照明光学系はコンデンサレンズを含み、
前記光学部材は、前記コンデンサレンズの透過照明用光源側焦点位置近傍に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記光学部材は、赤外光を反射し可視光を透過することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記光学部材は、ダイクロイックミラーであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
前記光学部材は、光路に挿脱可能であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
前記オートフォーカス用光源は、赤外光を射出することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の顕微鏡装置。
【請求項8】
透過照明光学系に配設されるコンデンサレンズであって、
前記コンデンサレンズの透過照明用光源側焦点位置近傍に所定波長の光を選択的に反射する光学部材を配設したことを特徴とするコンデンサレンズ。
【請求項9】
前記光学部材は、赤外光を反射することを特徴とする請求項8に記載のコンデンサレンズ。
【請求項10】
前記光学部材は、ダイクロイックミラーであることを特徴とする請求項8または9に記載のコンデンサレンズ。
【請求項11】
前記光学部材は、光路に挿脱可能であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載のコンデンサレンズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−139757(P2010−139757A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315959(P2008−315959)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】