説明

コンデンサ用ケース、その製造方法、コンデンサ及びコンデンサの製造方法

【課題】薄型偏平形ケースの成形精度を向上させる。
【解決手段】コンデンサ素子(82)が収容されるコンデンサ用ケース(2)であって、板状成形材から打抜加工されたスラグ(スラグ28A、28B)から押出し成形された側壁部(4)と底面部(6)とを備える有底筒状体(29)であり、前記側壁部及び前記底面部の短辺部は長辺部の2分の1以下であり、前記底面部から前記側壁部が立ち上がる部分が湾曲面であり、前記有底筒状体の内底面と少なくとも前記長辺部の前記側壁部とが成す隅部に周回状凸部(14)が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム等の成形材料を用いたケース及びその製造技術、そのケースを用いるコンデンサ及びその製造技術に関し、例えば、衝撃押出成形を用いたコンデンサ用ケース、その製造方法、コンデンサ及びコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ用ケースの製造技術として深絞り成形が知られている。この深絞り成形では、アルミニウム等の成形材料でスラグを形成し、複数のパンチとダイスを用いてスラグに複数段階の成形を施し、徐々に塑性変形させた中間体を経て所望形状のケースに加工する。
【0003】
このような深絞り成形は、複数段階の成形工程からなり、成形加工に手間がかかるとともに、各工程では、専用のパンチとダイスが用いられている。段階的な工程処理に加え、工程毎に専用のパンチやダイスを必要とすることは、加工コストや設備コストによる経済的負担が大きい。
【0004】
また、衝撃押出成形法では、ダイスに配置されたスラグにパンチを押し当て、パンチとダイスとでスラグを塑性変形させており、スラグに対するパンチの押当て動作(一動作)で成形を行う。
【0005】
衝撃押出成形法のように、一動作による成形加工は設備コストや、工程数を単純化する利点があるが、スラグに対するパンチの押当て位置決め等の調整や、押当て位置誤差で成形品に生じる肉厚の不均一化が問題となる。
【0006】
ケースの肉厚が不均一化すると、ケース強度が部分的に低下する。このようなケースにコンデンサ素子が実装され、駆動時のケース内圧が上昇すると、強度の低い部分に膨れを生じるおそれがある。また、このケース開口部の肉厚が不均一である場合には、封口体をレーザ溶接してケースを封口する際に、肉厚が薄い部分で溶接強度が低下し、ケースの密封性が損なわれるおそれがある。
【0007】
斯かるケース成形に関し、ケースの肉厚を均一化するため、パンチにテーパ状の凸部を形成し、この凸部に嵌合する凹部をブランク材に設けることにより、ブランク材の凹部にパンチの凸部を組み合わせてダイス中で押圧成形することが知られている(特許文献1)。
【0008】
また、ケース成形に関し、押圧面部に最も突出した頂部を持ち、この頂部を包囲して平滑面とした突部をパンチに備え、このパンチをケース成形に用いることが知られている(特許文献2)。
【0009】
また、ケース成形に関し、パンチに先端面部から僅かに立ち上がる平坦面状の凸部を形成し、この凸部を持つパンチを用いることが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−5907号公報
【特許文献2】特開平10−24343号公報
【特許文献3】特開2000−107831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、ケース成形に用いられるパンチやダイスの形状に関し、ケース側壁の肉厚(側壁の厚みであり、ケースの厚みではない)の均一化に向けた種々の工夫が施されている。成形品であるケースについて、肉厚精度はケース形状と密接な関係がある。薄型偏平の例えば、ケース厚:10〔mm〕以下、ケース幅:20〔mm〕以上、ケース高:400〔mm〕以上のケースでは、外形寸法が充足されても側壁の肉厚にばらつきを生じ、品質のよいケースを得ることが困難である。試作ではある程度の精度が得られても、一定以上の品質を維持するには歩留りが問題である。
【0012】
斯かるケース成形にはスラグが用いられる。このスラグは例えば、アルミケースの場合、アルミニウムの板材を打ち抜いて形成される。例えば、ケース厚:10〔mm〕以下、ケース幅:20〔mm〕以上、ケース高:400〔mm〕以上のアルミケースでは、厚さ:10〔mm〕以下、ケース幅:20〔mm〕程度のスラグが必要である。このような寸法を持つスラグをアルミニウムの板材から打ち抜いた場合には、その形状が歪化し、形状が安定しない。このようなスラグを用いることは、ケース精度が低下し、均一な肉厚を実現することができない。
【0013】
斯かる課題について、特許文献1〜3にはその開示や示唆はなく、それを解決する構成等についての開示や示唆はない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、コンデンサ用ケース及びその製造方法に関し、薄型偏平形ケースの成形精度を向上させることにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、コンデンサに関し、薄型偏平形ケースコンデンサを用いてコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明のコンデンサ用ケースは、コンデンサ素子が収容されるコンデンサ用ケースであって、板状成形材から打抜加工されたスラグから押出し成形された側壁部と底面部とを備える有底筒状体であり、前記側壁部及び前記底面部の短辺部は長辺部の2分の1以下であり、前記底面部から前記側壁部が立ち上がる部分が湾曲面であり、前記有底筒状体の内底部と少なくとも前記長辺部の前記側壁部とが成す隅部に周回状凸部が備えられている。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明のコンデンサ用ケースの製造方法は、コンデンサ素子が収容されるコンデンサ用ケースの製造方法であって、板状成形材から打抜き加工により第1のスラグを生成する工程と、前記第1のスラグから押出し成形により第2のスラグに加工する工程と、前記コンデンサ用ケースの外形に対応するキャビティを備えるダイと、前記コンデンサ用ケースの内形に対応する形状を持つパンチとを用いることにより、側壁部及び底面部を備え、これら側壁部及び底面部が短辺部と長辺部とを有する有底筒状体に前記第2のスラグを成形する工程とを含んでいる。
【0018】
このコンデンサ用ケースの製造方法において、前記パンチは、前記第2のスラグに押し当てられる第1の面部と、前記有底筒状体の側壁部を成形する第2の面部とを備え、前記第1の面部は、前記有底筒状体の内底面を成形する凸部と、この凸部より後退させ且つ前記凸部を包囲して形成された段部とを備え、前記段部が前記第2のスラグの成形に際し、スラグ材溜まりとしてもよい。
【0019】
このコンデンサ用ケースの製造方法において、更に、前記有底筒状体の開口部を切り落として整形する工程とを含んでもよい。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明のコンデンサは、板状成形材から打抜加工されたスラグから押出し成形された側壁部と底面部とを備える有底筒状体であり、前記側壁部及び前記底面部の短辺部は長辺部の2分の1以下であり、前記底面部から前記側壁部が立ち上がる部分が湾曲面であり、前記有底筒状体の内底部と少なくとも前記長辺部の前記側壁部とが成す隅部に周回状凸部が備えられたケースと、前記ケースに収容された薄型偏平形のコンデンサ素子と、前記ケースの開口部に設置されて前記開口部を封止するとともに、前記コンデンサ素子に接続された外部端子を備えた封口体とを備える。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明のコンデンサの製造方法は、板状成形材から打抜加工されたスラグから押出し成形された側壁部と底面部とを備える有底筒状体であり、前記側壁部及び前記底面部の短辺部は長辺部の2分の1以下であり、前記底面部から前記側壁部が立ち上がる部分が湾曲面であり、前記有底筒状体の内底部と少なくとも前記長辺部の前記側壁部とが成す隅部に周回状凸部が備えられたケースを作成する工程と、前記ケースに薄型偏平形のコンデンサ素子を収容する工程と、前記コンデンサ素子に接続された外部端子を備えた封口体で前記ケースの開口部を封止する工程とを含んでいる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、次のような効果が得られる。
【0023】
(1) コンデンサ用ケースに関し、成形精度を高めた薄型偏平形ケースを提供できる。
【0024】
(2) コンデンサ用ケースに関し、成形精度を向上させることができる。
【0025】
(3) 肉厚の均一なコンデンサ用ケースを提供でき、内圧上昇による部分的な膨れを防止できる。
【0026】
(4) 品質の良いコンデンサを提供できる。
【0027】
そして、本発明の他の目的、特徴及び利点は、添付図面及び各実施の形態を参照することにより、一層明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施の形態に係るコンデンサ用ケースを示す平面図である。
【図2】図1に示すコンデンサ用ケースのII−II線断面図である。
【図3】図2の破線包囲部の拡大断面図である。
【図4】第2の実施の形態に係るコンデンサ用ケースの製造工程を示すフローチャートである。
【図5】第1スラグの打抜き加工の一例を示す図である。
【図6】第2スラグの冷間押出し加工の一例を示す図である。
【図7】第1スラグ及び第2スラグの比較を示す断面図である。
【図8】第2スラグの整形工程の一例を示す図である。
【図9】ケース形成工程の一例を示す図である。
【図10】押当て面部側から見たパンチの一例を示す斜視図である。
【図11】ケース形成の一例を示す断面図である。
【図12】ケースの整形処理の一例を示す図である。
【図13】コンデンサの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1の実施の形態〕
【0030】
第1の実施の形態はコンデンサ用ケースの構造を提示する。
【0031】
このコンデンサ用ケースについて、図1、図2及び図3を参照する。図1、図2及び図3はコンデンサ用ケースの一例を示し、図1はコンデンサ用ケースの開口部側から見た平面、図2は図1のII−II線断面、図3は図2の破線部III の拡大断面を示している。
【0032】
このコンデンサ用ケース2は、本発明のコンデンサ用ケースの一例であって、成形材料から作成され、成形材料に例えば、アルミニウムを用いて成形加工されたものである。このコンデンサ用ケース2は、図1に示すように、薄型偏平形であって、長円形の側壁部4と底面部6(図2)とを備える。側壁部4は、平行面を形成する1対のフラット面部8と、1対の第1の湾曲面部10とを備える。湾曲面部10は断面円形である。側壁部4で包囲された内底部12には、側壁部4側の隅部に周回状凸部14が形成されている。この周回状凸部14からすれば、内底部12は窪みを形成している。
【0033】
ケース開口部16は、図2に示すように、側壁部4の縁部を切り落とし、フラットな開口面部を形成している。また、底面部6の外縁部には第2の湾曲面部18が形成されている。
【0034】
そして、内底部12に形成されている周回状凸部14は、図2の破線部III を拡大した図3に示すように、平坦面部20と第3の湾曲面部22とを備え、内底部12から立ち上がる湾曲面部22には第4の湾曲面部24が形成され、平坦面部20から立ち上がる側壁部4には第5の湾曲面部25が形成されている。
【0035】
このコンデンサ用ケース2において、ケース幅をW1 〔mm〕、ケース厚をT1 〔mm〕、ケース高をH1 〔mm〕、側壁部4の肉厚をtw、底面部6の肉厚をtb、周回状凸部14の周回幅をwr、周回状凸部14の高さをhとすれば、これらの大小関係及び一例としての寸法は以下の通りである。
【0036】
一例としての寸法によれば、H1 >W1 >T1 ≫twであり、ケース高H1 =63〔mm〕、ケース幅W1 はケース厚T1 の5倍、W1 =5T1 に設定され、W1 =25〔mm〕、T1 =5〔mm〕、tw=0.5〔mm〕である。また、tb≧twである。ここで、周回凸部14の寸法は、wr=0.5〔mm〕以上、h=0.5〔mm〕以上である。これらのwr及びhは、ケース2の側壁部4の肉厚tw及び底面部6の肉厚tbの寸法以上であることが好ましい。つまり、この寸法設定とすることで後述する衝撃押出成形時に周回凸部14(十分なアルミニウム突出量が確保)が形成され、側壁部4が均一に形成される。
【0037】
このコンデンサ用ケース2の特徴や利点を挙げれば次の通りである。
【0038】
(1) 側壁部4の肉厚が均一化されている。
【0039】
(2) 側壁部4を構成する1対の平坦面部20が断面円形の湾曲面部10で平行に維持され、ケース厚T1 方向の応力による変形を防止している。
【0040】
(3) 断面円形の湾曲面部10は、その中心方向に対する応力を分散するので、ケース強度を高めている。
【0041】
(4) 内底部12に形成された周回状凸部14は、側壁部4と底面部6との角部を補強している。フラット面部8を周回状凸部14によって補強され、ケース2の変形を防止できる。
【0042】
〔第2の実施の形態〕
【0043】
第2の実施の形態は、コンデンサ用ケースの製造方法であって、側壁部の肉厚の均一化等、加工精度を高めた製造方法を提示する。
【0044】
コンデンサ用ケースの製造方法について、図4を参照する。図4はコンデンサ用ケースの製造方法の一例を示している。
【0045】
この製造方法は本発明のコンデンサ用ケースの製造方法の一例であって、その製造工程には図4に示すように、スラグ形成工程(ステップS1)、第1の熱処理工程(ステップS2)、スラグ鍛造工程(ステップS3)、第2の熱処理工程(ステップS4)、成形前処理工程(ステップS5)、ケース成形工程(ステップS6)、仕上げ工程(ステップS7)を含んでいる。
【0046】
(1) スラグ形成工程(ステップS1)
【0047】
スラグ形成工程は、図5に示すように、フープ材26から第1のスラグ28Aを形成する工程であって、この実施の形態では、フープ材26からスラグ28Aを打ち抜く工程である。スラグ28Aは、コンデンサ用ケース2に加工される有底筒状体29(図9)の成形単位である。
【0048】
フープ材26は例えば、アルミニウムの板材を用いればよいが、他の成形材料であってもよい。この実施の形態では、フープ材26はアルミニウムの熱延コイルから平坦化したアルミニウム板材が用いられ、複数のスラグ28Aが形成可能な連続した帯状材である。
【0049】
この実施の形態では、ダイ30及びパンチ32からなる打抜型が用いられ、ダイ30は下型であって、フープ材26から打ち抜かれるスラグ28Aの断面形状に対応するブランク部34が形成されている。この実施の形態では、ブランク部34は長円形である。これに対し、パンチ32は上型であって、ダイ30のブランク部34と相似形の断面形状を持ち、ブランク部34に挿通可能な断面長円形の柱体である。このパンチ32の押当て面部36はフラット面である。
【0050】
そこで、スラグ28Aの打抜きでは、パンチ32とダイ30との間にフープ材26が導かれ、ダイ30のブランク部34の上方に位置決めされたパンチ32を下降させてフープ材26に押し当て貫通させる。これにより、フープ材26は、ダイ30及びパンチ32による剪断力を受け、フープ材26からスラグ28Aが打ち抜かれ、ダイ30のブランク部34からパンチ32により押し出される。
【0051】
各スラグ28Aは既述の通り、単一の有底筒状体29の成形単位であって、コンデンサ用ケース2の成形に必要な体積及び形状を備えている。このスラグ28Aの形状は、上面部をフラット面部38、側壁部を長円状部40、下面側に湾曲して膨出する膨出部42(図6)を備えた固体である。
【0052】
(2) 熱処理工程(ステップS2)
【0053】
この熱処理工程では、フープ材26から打ち抜かれたスラグ28Aに熱処理を施す。この熱処理は焼き鈍し処理である。この焼き鈍し処理ではスラグ28Aを加熱した後、徐々に冷却させる。打ち抜きにより塑性歪みを生じているスラグ28Aは、この熱処理(焼き鈍し)により塑性歪みが除かれ、素材の安定化が図られる。
【0054】
(3) スラグ鍛造工程(ステップS3)
【0055】
熱処理の後のスラグ鍛造工程は、衝撃押出成形の前処理として、スラグ28Aに対し、鍛造により第2のスラグ28Bに成形する。
【0056】
この鍛造処理について、図6を参照する。図6はスラグの冷間押出し加工を示している。
【0057】
この鍛造処理では、図6に示すように、据え込み金型44が用いられ、この据え込み金型44にスラグ28Aを通過させ、冷間押出しによりスラグ28Bに成形する。
【0058】
据え込み金型44は、スラグ28Aが挿入される挿入部46と、成形部48とを備えている。挿入部46は、スラグ28Aの厚みT2 より僅かに大きい幅W3 を持ち、成形部48は、スラグ28Bの厚みT3 に対応する幅W4 (<ケース幅W1 )に成形するための傾斜面を対向させている。即ち、成形部48は、幅W3 から幅W4 に連続的に傾斜している。
【0059】
この鍛造処理では、冷間押出しであり、スラグ28Aが据え込み金型44の挿入部46に挿入されて位置決めされる。このスラグ28Aの上面部に突き型50を当てて垂直に降下させることにより、幅W3 から幅W4 に狭められている成形部48を通過したスラグ28Aは、高さ方向に延伸し、スラグ28Aより薄い厚さT3 を持つ平板状のスラグ28Bが形成される。
【0060】
このスラグ28Bは、図6に示すように、スラグ28Aと相似形の断面長円状の板状体であって、頂部には突き型50による突き跡52が生じ、下面側は断面円形である。
【0061】
次に、スラグ28A、28Bとの比較について、図7を参照する。スラグ28Bに成形前のスラグ28Aを破線で重ねて表示すると、図7のAに示すように、横幅W2 、W5 は略一致している(W2 ≒W5 )が、スラグ28Bの高さH3 はスラグ28Aの高さH2 より大幅に伸延している。また、スラグ28Bの厚みT3 は、図7のBに示すように、スラグ28Aの厚みT2 より大幅に減少している。また、平面形状にあっては、スラグ28Bの厚みT3 がスラグ28Aの厚みT2 より減少するも、相似形が維持されている。スラグ28Bの幅W5 及び厚みT3 はコンデンサ用ケース2又は有底筒状体29の幅W1 及び厚みT1 に略一致している。
【0062】
(4) 熱処理工程(ステップS4)
【0063】
この熱処理工程では、スラグ28Aから冷間押出しによる鍛造処理を経たスラグ28Bに熱処理を施す。この熱処理は既述の焼き鈍し処理である。この焼き鈍し処理ではスラグ28Bを加熱した後、徐々に冷却させる。スラグ28Aから冷間押出し処理を経たスラグ28Bは塑性歪みを生じているが、この熱処理(焼き鈍し)により塑性歪みが除かれ、既述の熱処理と同様に素材の安定化が図られる。
【0064】
(5) 成形前処理工程(ステップS5)
【0065】
この成形前処理工程では、有底筒状体29の成形精度を向上させるための準備処理として、スラグ28Bの整形処理を行う。
【0066】
この成形前処理工程について、図8を参照する。図8はスラグ28Bの頂部の平滑化処理を示し、Aは平滑化前のスラグ28B、Bは平滑化後のスラグ28Bを示している。冷間押出し加工、焼鈍処理を経たスラグ28Bは頂部に成形によるバリ54を生じ、凹凸状態にある。そこで、スラグ28Bの底面部と平行面になるように、図8のAに示すように、破線56の箇所で切断する。又は、スラグ28Bの頂部のバリ54をプレス等により押し潰してもよい。これにより、図8のBに示すように、スラグ28Bの頂部はフラット面58に形成される。
【0067】
(6) ケース成形工程(ステップS6)
【0068】
このケース成形工程は、コンデンサ用ケース2に加工される有底筒状体29の成形工程であって、鍛造処理である衝撃押出成形による有底筒状体29の形成工程である。この成形について、図9を参照する。図9は衝撃押出成形処理を工程順に示している。
【0069】
この衝撃押出成形には、図9に示すように、下型のダイ60と、上型のパンチ62が用いられる。ダイ60には有底筒状体29の底面側の外観形状に合致する形状のキャビティ64が形成されている。パンチ62は有底筒状体29の空間形状に合致する形状であり、その高さH5 は成形される有底筒状体29の高さより大きく設定されている。パンチ62の水平断面形状は、キャビティ64の水平断面形状より、既述のコンデンサ用ケース2の肉厚tw(図1)分又はその同等分だけ小さく設定されている。
【0070】
そこで、図9のAに示すように、ダイ60のキャビティ64にスラグ28Bを挿入する。キャビティ64内にあるスラグ28Bに対し、図9のBの矢印で示すように、パンチ62を下降させてスラグ28Bに押し当てる。これにより、図9のCに示すように、パンチ62がダイ60のキャビティ64に挿入されるに従ってスラグ28Bが押圧されて変形する。この結果、スラグ28Bは、パンチ62の側面に沿って成形されるとともに延伸し、有底筒状体29に成形される。
【0071】
ダイ60からパンチ62を離脱させ、成形された有底筒状体29からパンチ62を抜き取ると、図9のDに示すように、有底筒状体29が得られる。この場合、有底筒状体29の開口部(ケース開口部16)には、長幅側の側壁部分に山形状の突出部66が形成されている。この突出部66は、スラグ28Bが所定形状のコンデンサ用ケース2に成形するに十分な体積を持たせているために生じたものである。
【0072】
この衝撃押出成形に用いたパンチ62の形状、コンデンサ用ケース2の内側の成形について、図10及び図11を参照する。図10はパンチ62の押当て面部を示し、図11はコンデンサ用ケース2の成形を拡大して示している。
【0073】
パンチ62には、図10に示すように、スラグ28Bに押し当てられる第1の面部として押当て面部68と、有底筒状体29の側壁部4を成形する第2の面部として側壁面部69とを備える。押当て面部68には、パンチ62の本体側の水平断面と相似形の凸部70が形成され、この凸部70は平坦面に形成されている。この凸部70は、パンチ62の水平断面より小さく設定され、凸部70の周囲には段部72が形成されている。
【0074】
このようなパンチ62がスラグ28Bに押し当てられると、図11に示すように、段部72にスラグ28Bの一部が侵入して残留する。この結果、コンデンサ用ケース2の内底部12には、既述の周回状凸部14(図2、図3)が形成される。
【0075】
(7) 仕上げ工程(ステップS7)
【0076】
この仕上げ工程は成形された有底筒状体29をコンデンサ用ケース2に仕上げ処理する工程である。この仕上げ処理には縁切りや洗浄等が含まれ、縁切りは剪断による所謂よろめき加工である。
【0077】
この仕上げ処理について、図12を参照する。図12はコンデンサ用ケース2のケース開口部16を示し、Aは仕上げ処理前、Bは仕上げ処理後を示している。既述のように、衝撃押出成形によって得られたコンデンサ用ケース2では、図9のDに示すように、開口縁部に山形の突出部66が生じている。そこで、コンデンサ用ケース2では、衝撃押出成形によって十分なケース高が得られているので、図12のAに破線74で示す部分を切断面に設定し、図12のBに示すように、縁切りを行い、ケース開口部16を平坦な開口面部に成形する。これにより、製品としてのコンデンサ用ケース2が作成される。
【0078】
以上述べた第2の実施の形態について、特徴事項や利点を以下に列挙する。
【0079】
(a) 側壁部4の肉厚が均一化され、コンデンサ用ケース2の成形精度を向上させることができる。
【0080】
(b) 上記実施の形態では、アルミニウム等の板材(フープ材)から所定形状のスラグ28Aを打ち抜くスラグ打ち抜き工程、打ち抜いたスラグ28Aを金型による冷間押し出しにより所定形状のスラグ28Bに変形させている。
【0081】
(c) 鍛造されたスラグ28Bを所定温度で焼鈍し、そのスラグ28Bをダイ60のキャビティ64に固定し、パンチ62で押圧することにより、キャビティ64の側壁面に沿って突出させる衝撃押出工程によって薄型偏平の有底ケースを得ている。
【0082】
(d) フープ材26から打ち抜き→鍛造によってスラグ28A、28Bを形成することで、板材から直接スラグを打ち抜く従来の加工に比較し、処理が簡略化される。また、スラグ鍛造工程及び焼鈍工程により、スラグ28A、28Bを安定化状態にするので、衝撃押出工程時のケース成形による肉厚の不均一化を防止できる。
【0083】
(e) スラグ28Bには鍛造工程で底面部に湾曲部を形成している。この湾曲部により、衝撃押出工程によるケース成形の際のアルミニウムの塑性変形(アルミニウム流れ)が良好になり、コンデンサ用ケース2の肉厚を均一化することができる。
【0084】
(f) 衝撃押出成形に用いるパンチ62の押当て面部(成形先端面)68は、外周より一定間隔の離間距離(離間幅)txを持って周回する段部72で包囲された凸部70が形成されている。そして、パンチ62の側壁面部69と凸部70との離間距離txは成形されるコンデンサ用ケース2の側壁部4の肉厚twと同等以上に設定すればよい。この結果、ケース2の内底部12には、パンチ62の押当て面部68にある底面形状に沿って周回する周回状凸部14が形成される。
【0085】
(g) パンチ62がスラグ28Bに押し当てられた際、パンチ62のほぼ一定幅に、成形されるアルミニウム溜まり(即ち、スラグ材溜まりの一例である)が生成され、このアルミニウム溜まりから、パンチ62の側壁面部69に沿ってアルミニウムが延伸し、所定形状に成形される。このようにアルミニウム溜まりは、コンデンサ用ケース2の側壁部4へ成形される十分なアルミニウム突出量を確保し、側壁部4の肉厚twの不均一化の防止に寄与している。
【0086】
(h) 衝撃押出成形では、既述のように、コンデンサ用ケース2のケース開口部16の側壁部には、その長辺側に扇状の突出部66を生じさせる。この突出部66を含めて切断して端面を形成すれば、ケース開口部16を平坦化することができる。
【0087】
(i) 薄型偏平形のケースでは、衝撃押出工程によって、長辺側と短辺側とでアルミニウムの突出量が異なる。衝撃押出工程後のケース端面としては平坦面が好ましい。パンチの底面に所定の凹凸や放射状の溝を設けて衝撃押出を行う方法では、これを十分に解消することができないし、押出し成形の加圧力を変化させてしまう。これに対し、上記実施の形態では、パンチ62の加圧力をスラグ28Bに一様に加えてコンデンサ用ケース2の長辺側に突出部66を生じさせ、ケース短辺側とケース長辺側の塑性変形力を一様化している。これにより、ケース短辺側とケース長辺側の強度が同一になる。この結果、例えば、コンデンサ製造時の加締め時の短辺側と長辺側での加締め工程の容易化に寄与する。
【0088】
〔第3の実施の形態〕
【0089】
第3の実施の形態は、既述のコンデンサ用ケースを用いたコンデンサ及びその製造方法である。
【0090】
第3の実施の形態について、図13を参照する。図13はコンデンサの断面を示している。図13において、図1及び図2と同一部分には同一符号を付してある。
【0091】
このコンデンサ80は、本発明のコンデンサの一例であって、既述のコンデンサ用ケース2を用いている。このコンデンサ80には、図13に示すように、コンデンサ用ケース2に収容可能なコンデンサ素子82が用いられ、このコンデンサ素子82には陽極側電極体と、陰極側電極体とをセパレータを介在させて積層した積層タイプの偏平型素子が用いられる。このコンデンサ素子82では、端面部に陽極側電極体から引き出された陽極部84、陰極側電極体から引き出された陰極部86を備えている。
【0092】
この実施の形態では、コンデンサ素子82を収容するコンデンサ用ケース2を封口する封口板88にはコンデンサ用ケース2と同様にアルミニウム等の金属板が使用されている。封口板88は、コンデンサ用ケース2を封口する蓋体、封口体の一例である。この封口板88には、陽極端子90及び陰極端子92が絶縁部材94を介挿して設置されている。そこで、陽極部84は陽極端子90に内部リード96により接続され、陰極部86は陰極端子92に内部リード98により接続されている。
【0093】
このような接続処理を経たコンデンサ素子82は電解液を含浸した後、図13に示すように、コンデンサ用ケース2に収容され、コンデンサ用ケース2のケース開口部16には封口板88が設置される。
【0094】
そして、ケース開口部16の開口縁部と封口板88とをレーザ溶接により固定し、コンデンサ用ケース2を封口板88で封口するとともに、封止する。これにより、コンデンサ80が完成する。
【0095】
斯かる構成では、既述のコンデンサ用ケース2を用いているので外装強度が補強され、内圧上昇によっても形状変化がなく、信頼性の高いコンデンサ80を提供できる。
【0096】
〔他の実施の形態〕
【0097】
(1) 第2の実施の形態において、第2のスラグ28Bの頂部を切断してフラット化する処理を行っているが、この工程は省略してもよい。
【0098】
(2) 上記実施の形態の製造方法では、薄型偏平形のコンデンサ用ケースを開示しているが、これに限定されない。本発明は側壁部がフラットとなる角型のコンデンサ用ケースに適用してもよい。
【0099】
(3) 成形材料としてアルミニウムを例示しているが、成形可能な材料であればよく、アルミニウムに限定されない。
【0100】
(4) コンデンサとしては、電解コンデンサや電気二重層コンデンサに適用可能である。
【実施例】
【0101】
上記実施の形態について、実施例では、5H×25W×60Lのコンデンサ用ケースの製造に本発明を適用したが、衝撃押出成形による薄型ケースを低コストで製造することが可能となり、成形精度が高く、品質の良いコンデンサ用ケースが得られた。
【0102】
以上説明したように、本発明の最も好ましい実施の形態や実施例について説明したが、本発明は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、又は発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論であり、斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、アルミニウム等の成形材料を用いるケース及びその製造、そのケースを用いるコンデンサ及びその製造に利用でき、薄型偏平形ケースの作成精度の向上、コンデンサに用いて内圧上昇による部分的な膨れの防止、品質の良いコンデンサの提供に寄与する等、有用である。
【符号の説明】
【0104】
2 コンデンサ用ケース
4 側壁部
6 底面部
8 フラット面部
10 湾曲面部
12 内底部
14 周回状凸部
18 湾曲面部
26 フープ材
29 有底筒状体
62 パンチ
68 押当て面部
69 側壁面部
70 凸部
72 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子が収容されるコンデンサ用ケースであって、
板状成形材から打抜加工されたスラグから押出し成形された側壁部と底面部とを備える有底筒状体であり、前記側壁部及び前記底面部の短辺部は長辺部の2分の1以下であり、前記底面部から前記側壁部が立ち上がる部分が湾曲面であり、前記有底筒状体の内底部と少なくとも前記長辺部の前記側壁部とが成す隅部に周回状凸部が備えられていることを特徴とするコンデンサ用ケース。
【請求項2】
コンデンサ素子が収容されるコンデンサ用ケースの製造方法であって、
板状成形材から打抜き加工により第1のスラグを生成する工程と、
前記第1のスラグから押出し成形により第2のスラグに加工する工程と、
前記コンデンサ用ケースの外形に対応するキャビティを備えるダイと、前記コンデンサ用ケースの内形に対応する形状を持つパンチとを用いることにより、側壁部及び底面部を備え、これら側壁部及び底面部が短辺部と長辺部とを有する有底筒状体に前記第2のスラグを成形する工程と、
を含むことを特徴とするコンデンサ用ケースの製造方法。
【請求項3】
前記パンチは、前記第2のスラグに押し当てられる第1の面部と、前記有底筒状体の側壁部を成形する第2の面部とを備え、前記第1の面部は、前記有底筒状体の内底部を成形する凸部と、この凸部より後退させ且つ前記凸部を包囲して形成された段部とを備え、前記段部が前記第2のスラグの成形に際し、スラグ材溜まりとなることを特徴とする請求項2に記載のコンデンサ用ケースの製造方法。
【請求項4】
前記有底筒状体の開口部を切り落として整形する工程と、
を含むことを特徴とする請求項3に記載のコンデンサ用ケースの製造方法。
【請求項5】
板状成形材から打抜加工されたスラグから押出し成形された側壁部と底面部とを備える有底筒状体であり、前記側壁部及び前記底面部の短辺部は長辺部の2分の1以下であり、前記底面部から前記側壁部が立ち上がる部分が湾曲面であり、前記有底筒状体の内底部と少なくとも前記長辺部の前記側壁部とが成す隅部に周回状凸部が備えられたケースと、
前記ケースに収容された薄型偏平形のコンデンサ素子と、
前記ケースの開口部に設置されて前記開口部を封止するとともに、前記コンデンサ素子に接続された外部端子を備えた封口体と、
を備えることを特徴とするコンデンサ。
【請求項6】
板状成形材から打抜加工されたスラグから押出し成形された側壁部と底面部とを備える有底筒状体であり、前記側壁部及び前記底面部の短辺部は長辺部の2分の1以下であり、前記底面部から前記側壁部が立ち上がる部分が湾曲面であり、前記有底筒状体の内底部と少なくとも前記長辺部の前記側壁部とが成す隅部に周回状凸部が備えられたケースを作成する工程と、
前記ケースに薄型偏平形のコンデンサ素子を収容する工程と、
前記コンデンサ素子に接続された外部端子を備えた封口体で前記ケースの開口部を封止する工程と、
を含むことを特徴とするコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−151167(P2012−151167A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6771(P2011−6771)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【出願人】(511014884)株式会社ダイヤ精工 (1)
【出願人】(000222990)株式会社テクノアソシエ (11)
【Fターム(参考)】