コンバイン
【課題】クローラ走行跡に水が溜まり難くして、クローラ走行跡の土壌の軟弱化を防止し、圃場の走行性を向上させる。
【解決手段】左右一対のクローラ走行装置17を備えるコンバイン1において、各クローラ走行装置17の後方に、圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置24を設ける。これにより、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができ、その結果、クローラ走行跡に水が溜まり難くなる。また、溝切装置24は、機体に対して昇降可能に設けると共に、前処理部2の昇降に連動して自動的に昇降制御される。これにより、オペレータの操作負担を軽減できるだけでなく、圃場端で機体を回行するときに溝切装置24が破損する不都合も回避できる。
【解決手段】左右一対のクローラ走行装置17を備えるコンバイン1において、各クローラ走行装置17の後方に、圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置24を設ける。これにより、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができ、その結果、クローラ走行跡に水が溜まり難くなる。また、溝切装置24は、機体に対して昇降可能に設けると共に、前処理部2の昇降に連動して自動的に昇降制御される。これにより、オペレータの操作負担を軽減できるだけでなく、圃場端で機体を回行するときに溝切装置24が破損する不都合も回避できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対のクローラ走行装置を備えるコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のコンバインは、左右一対のクローラ走行装置を備えている(例えば、特許文献1参照)。クローラ走行装置は、複数の輪体(駆動輪、アイドラ、転輪、可動転輪など)に無端帯状のクローラを巻回して構成されるものであり、車輪式の走行装置に比べて悪路走破性が高いため、湿田圃場でも収穫作業を行うことが可能である。
【特許文献1】実開昭59−14830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のようなコンバインが湿田圃場を走行した場合、圃場にはクローラの走行跡が残るが、クローラ走行跡は、コンバインの重みで土が締まるため、水が溜まりやすい傾向がある。そして、水溜まり状態が長く続くと、その部分の土壌が年々軟弱化するため、その部分でクローラが沈下し、走行不能状態に陥る惧れがあった。
【0004】
尚、特許文献1に示されるコンバインは、前処理部の下部に、下方に突出する複数の突起を有し、これらの突起で圃場面に排水溝を形成するように構成されているため、圃場面全体の排水性を向上させることが可能である。しかしながら、クローラ走行装置の前方に形成された排水溝は、クローラによって踏み固められてしまうため、クローラ走行跡の排水性を向上させることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、機体の前部に昇降自在に設けら、下降状態で茎稈を刈り取る前処理部と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀する脱穀部と、左右一対のクローラ走行装置とを備えるコンバインにおいて、各クローラ走行装置の後方に昇降自在に設けられ、下降状態で圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置と、前処理部の昇降に連動して溝切装置を自動的に昇降制御する制御装置とを備えることを特徴とする。このようにすると、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができるので、クローラ走行跡に水が溜まり難くなり、その結果、クローラ走行跡の土壌の軟弱化を防止し、圃場の走行性を向上させることができる。しかも、溝切装置は、前処理部の昇降に連動して自動的に昇降制御されるので、圃場端で機体を回行するときに溝切装置が破損する不都合を回避できる。
また、前記制御装置は、脱穀部への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部の昇降に連動した溝切装置の自動昇降制御をOFFにすることを特徴とする。このようにすると、非作業時においては、溝切装置の下降が規制されることになるので、圃場外で前処理部を下降させても、これに連動して溝切装置が下降するような不都合を回避できる。
また、前記制御装置は、前処理部の上昇に連動して溝切装置を上昇制御する場合、溝切装置の上昇を設定時間遅延させることを特徴とする。このようにすると、前処理部の上昇後、機体回行が開始されるまでの間も溝切を行うことができる。
また、前記制御装置は、機体後進時、溝切装置を強制的に上昇制御することを特徴とする。このようにすると、機体後進時において、溝切装置が走行抵抗とならないだけでなく、溝切装置に対する屑の巻き付きや、溝切装置の破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はコンバインであって、該コンバイン1は、圃場の茎稈を刈り取る前処理部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀して選別する脱穀部3と、選別された穀粒を貯留する穀粒タンク4と、脱穀済みの排稈を後処理する後処理部5と、オペレータが乗車する運転部6と、クローラ式の走行部7とを備えて構成されている。
【0007】
前処理部2は、茎稈を分草するデバイダ8、茎稈を引き起す引起し装置(図示せず)、茎稈を掻込む掻込み装置(図示せず)、茎稈の株元を切断する刈刃(図示せず)、刈り取った茎稈を脱穀部3に向けて搬送する前処理搬送装置9などを備えて構成されている。前処理部2全体は、コンバイン1の機体前部に昇降自在に連結されており、作業走行時には、前処理部2を下降させた状態で茎稈の刈り取りを行い、機体回行時、路上走行時などの非作業走行時には、前処理部2を上昇させる。
【0008】
脱穀部3は、茎稈を挟持搬送する脱穀フィードチェン10、扱胴(図示せず)を収容する扱室(図示せず)、揺動選別体(図示せず)を収容する選別室(図示せず)などを備えて構成されている。エンジン(図示せず)から脱穀部3に至る脱穀動力伝動経路には、作業機クラッチ(図示せず)が設けられており、作業走行時には、作業機クラッチを入り状態とする。
【0009】
図2に示すように、運転部6は、オペレータが着座する運転席11や各種の操作具を配置して構成されている。例えば、運転席11の前方には、機体操向具及び前処理昇降操作具に兼用されるマルチステアリングレバー12などの操作具が配置されており、運転席11の左側方には、走行変速操作具及び前後進切換操作具に兼用される主変速レバー13、作業機クラッチ操作具及び刈取クラッチ操作具に兼用される脱穀・刈取クラッチスイッチ14、後述する溝切自動制御のON/OFF操作具である溝切自動スイッチ15、溝切自動制御の溝深さ設定操作具である溝深さ設定ダイヤル16などの操作具が配置されている。
【0010】
走行部7は、左右一対のクローラ走行装置17を備える。各クローラ走行装置17は、駆動輪18、アイドラ19、転輪20、可動転輪21などの輪体に無端帯状のクローラ22を巻回して構成されており、駆動輪18の駆動にもとづいて機体の前進、後進、回行などが行われる。また、本実施形態のクローラ走行装置17は、車高昇降シリンダ23L、23Rの伸縮作動に応じて車高を変更する車高変更機能を有しており、左右の車高昇降シリンダ23L、23Rを同方向に伸縮作動させて車高を変更する車高制御や、左右の車高昇降シリンダ23L、23Rを背反方向に伸縮作動させたり、いずれか一方の車高昇降シリンダ23L、23Rを伸縮作動させて機体を水平姿勢に保つ水平制御などを行うことが可能である。
【0011】
図1、図3及び図4に示すように、左右の各クローラ走行装置17の後方には、それぞれ、圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置24が設けられている。このような溝切装置24によれば、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができるので、クローラ走行跡に水が溜まり難くなり、その結果、クローラ走行跡の土壌の軟弱化を防止し、圃場の走行性を向上させることができる。
【0012】
図5に示すように、本実施形態の溝切装置24は、左右方向を向く支軸24aに、溝切ディスク24bを回転自在に支持して構成されている。溝切ディスク24bは、図5の(A)に示すように、ベアリング24cを介して支持することが好ましいが、図5の(B)に示すように、ベアリング24cを用いない遊嵌支持であってもよい。尚、図5において、符号の24dは、支軸24aに溶着され、溝切ディスク24bの一側方への抜止めをする押さえプレート、24eは、支軸24aにCピン止めされ、溝切ディスク24bの他側方への抜止めをする抜止めプレートである。
【0013】
溝切装置24は、機体後端より前方に配置されることが好ましい。例えば、図1に示すように、機体後端部の下方に存在する空きスペースを利用して溝切装置24を配置する。機体の全長、全幅内に溝切装置24を配置し、機体の大型化を回避することができる。
【0014】
溝切装置24は、機体に対して昇降可能に設けられている。例えば、図3及び図4に示すように、機体フレーム25の後端部に左右一対のアーム26を上下回動自在に設けると共に、各アーム26の先端部に溝切装置24を構成する。このようにすると、溝切が不要な状況(非作業走行時、機体後進時など)においては、溝切装置24を上昇位置に格納することができる。
【0015】
本実施形態では、左右の溝切装置24を単一の油圧シリンダで昇降させるように構成されている。具体的には、左右のアーム26の基端部を連結軸27で連結すると共に、連結軸27の中間部に設けたアーム28と機体フレーム25との間に溝切昇降シリンダ29を介設し、該溝切昇降シリンダ29の伸縮作動にもとづいて左右の溝切装置24を同時に昇降させる。このようにすると、左右の溝切装置24を個別に昇降させる場合に比して、油圧構成を簡略化することができる。しかも、上記の構成によれば、左右の溝切装置24間は空間となるので、後処理部5から落下する切断藁や排塵との干渉を回避することができる。
【0016】
図6に示すように、コンバイン1には、マイコンなどで構成される制御装置30が設けられている。制御装置30の入力側には、前述した作業機クラッチスイッチ(脱穀・刈取クラッチスイッチ14)、溝切自動スイッチ15及び溝深さ設定ダイヤル16に加え、溝切装置24の昇降位置を検出する溝切リフトポテンショ31、マルチステアリングレバー12の前処理昇降操作を検出する前処理上昇スイッチ32及び前処理下降スイッチ33、前処理部2の昇降位置を検出する前処理リフトポテンショ34、主変速レバー13の操作位置を検出する主変速レバーポテンショ35などが接続される一方、制御装置30の出力側には、溝切昇降シリンダ29を伸縮作動させる溝切昇降バルブ36の溝切上昇ソレノイド36a及び溝切下降ソレノイド36b、前処理昇降シリンダ(図示せず)を伸縮作動させる前処理昇降バルブ37の前処理上昇ソレノイド37a及び前処理下降ソレノイド37bなどが接続されている。つまり、制御装置30は、上記の各種スイッチやセンサから入力される信号にもとづく判断で、前処理昇降バルブ37や溝切昇降バルブ36を切り換えることにより、前処理部2や溝切装置24の昇降を制御するようになっている。
【0017】
本発明の実施形態に係る制御装置30は、溝切装置24を昇降制御するにあたり、前処理部2の昇降に連動して溝切装置24を自動的に昇降制御する溝切自動制御手段(図11参照)を備えている。このようにすると、前処理部2の昇降に連動して溝切装置24が自動的に昇降するので、溝切装置24の昇降操作を不要にしてオペレータの操作負担を軽減することができ、また、溝切装置24を下降させたまま機体回行を行うことがなくなるので、機体回行時における溝切装置24の破損も防止することができる。
【0018】
また、本実施形態の制御装置30は、脱穀部3への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部2の昇降に連動した溝切装置24の自動昇降制御(溝切自動制御)をOFFにする。このようにすると、非作業時においては、溝切装置24の下降が規制されることになるので、圃場外で前処理部2を下降させても、これに連動して溝切装置24が下降するような不都合を回避できる。
【0019】
また、本実施形態の制御装置30は、前処理部2の上昇に連動して溝切装置24を上昇制御する場合、溝切装置24の上昇を設定時間遅延させる。このようにすると、前処理部2の上昇後、機体回行が開始されるまでの間も溝切を行うことができる。
【0020】
また、本実施形態の制御装置30は、機体後進時、溝切装置24を強制的に上昇制御する。このようにすると、機体後進時において、溝切装置24が走行抵抗とならないだけでなく、溝切装置24に対する屑の巻き付きや、溝切装置24の破損を防止することができる。
【0021】
次に、制御装置30により昇降制御される溝切装置24の動作について、図7を参照して説明する。
【0022】
図7の(A)に示すように、非刈取作業中は、前処理部2が上昇位置にあるので、これに連動して溝切装置24も上昇状態を維持する。ここで刈取作業を開始すべく前処理部2を下降させると、これに連動して溝切装置24も下降する。そして、下降した溝切装置24は、溝深さ設定ダイヤル16で設定された位置を維持しながら、クローラ走行跡に排水用の溝を形成する。
【0023】
図7の(B)に示すように、刈取作業中は、前処理部2が下降位置にあるので、これに連動して溝切装置24も下降状態を維持するが、下記に示す4つの条件のうち、何れか一つが成立した場合には、溝切装置24が自動的に上昇する。
1)溝切自動スイッチOFF
2)作業機クラッチOFF
3)機体後進
4)前処理部上昇
ただし、前処理部2に連動して上昇する場合は、所定の遅延時間が経過した後に上昇する。
【0024】
制御装置の具体的な制御手順について、図8〜図12を参照して説明する。尚、本実施形態の制御装置30は、図8に示すように、各種のスイッチやセンサから信号を入力する入力制御(S11)、前処理部2を昇降制御する前処理昇降制御(S12)、溝切装置24を昇降制御する溝切制御(S13)、アクチュエータに対して信号を出力する出力制御(S14)などの制御を実行するが、入力制御、前処理昇降制御及び出力制御の制御手順は従来通りであるため、溝切制御の制御手順についてのみ説明する。
【0025】
図9に示すように、溝切制御では、溝切自動スイッチ15がONであるか否か(S21)、作業機クラッチスイッチ(脱穀・刈取クラッチスイッチ14)がONであるか否か(S22)、主変速レバー13が前進位置であるか否か(S23)の判断を行い、すべての判断結果がYESである場合は溝切自動制御を実行し(S24)、一つでもNOと判断した場合は溝切上昇制御を実行する(S25)。
【0026】
図10に示すように、溝切上昇制御では、溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S31)、この判断結果がNOである場合は、溝切装置24を上昇させる(S32)。
【0027】
図11に示すように、溝切自動制御では、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上であるか否かを判断し(S41)、この判断結果がNO場合は、溝切装置24の現在の昇降位置が溝深さ設定ダイヤル16で設定される設定位置と一致しているか否かを判断し(S42)、この判断結果がNOである場合は、溝切装置24を下降させる(S43)。一方、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上である場合は、溝切上昇遅延制御を実行する(S44)。
【0028】
図12に示すように、溝切上昇遅延制御では、上昇遅延フラグのセット値を判断し(S51)、これが0である場合は、上昇遅延フラグに1をセットすると共に、所定時間の遅延タイマをセットする(S52)。上昇遅延フラグに1がセットされた後は、遅延タイマ時間の経過を判断し(S53)、この判断結果がYESになったら、溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S54)、この判断結果がNOである場合は、溝切装置24を上昇させる(S55)。
【0029】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、左右一対のクローラ走行装置17を備えるコンバイン1において、各クローラ走行装置17の後方に、圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置24を設けたので、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができ、その結果、クローラ走行跡に水が溜まり難くなる。これにより、クローラ走行跡の土壌の軟弱化を防止し、圃場の走行性を向上させることができる。
【0030】
また、溝切装置24は、機体に対して昇降可能に設けられると共に、機体後端より前方に配置されるので、溝切が不要な状況(非作業走行時、機体後進時など)においては、溝切装置24を上昇位置に格納することができる。また、溝切装置24は、機体後端より前方に配置されるので、機体の全長が長くなるような不都合もない。
【0031】
また、溝切装置24を昇降制御する制御装置30は、前処理部2の昇降に連動して溝切装置24を自動的に昇降制御するので、オペレータの操作負担を軽減できるだけでなく、圃場端で機体を回行するときに溝切装置24が破損する不都合も回避できる。
【0032】
また、制御装置30は、脱穀部3への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部2の昇降に連動した溝切装置の自動昇降制御をOFFにするので、非作業時においては、溝切装置24の下降が規制されることになり、その結果、圃場外で前処理部2を下降させても、これに連動して溝切装置24が下降するような不都合を回避できる。
【0033】
また、制御装置30は、前処理部2の上昇に連動して溝切装置24を上昇制御する場合、溝切装置24の上昇を設定時間遅延させるので、前処理部2の上昇後、機体回行が開始されるまでの間も溝切を行うことができる。
【0034】
また、制御装置30は、機体後進時、溝切装置24を強制的に上昇制御するので、機体後進時において、溝切装置24が走行抵抗とならないだけでなく、溝切装置24に対する屑の巻き付きや、溝切装置24の破損を防止することができる。
【0035】
次に、本発明の第二実施形態に係るコンバイン1Bについて、図13〜図19を参照して説明する。ただし、前記実施形態と共通の部分については、前記実施形態と同じ符号を付けることにより、前記実施形態の説明を援用する。
【0036】
図13に示すように、第二実施形態に係るコンバイン1Bは、左右一対の溝切昇降シリンダ29L、29Rを備え、左右の溝切装置24をそれぞれ独立的に昇降可能とした点が前記実施形態と相違している。このようにすると、左右の車高昇降シリンダ23L、23Rによる機体の水平制御にもとづいて、機体が圃場面に対して傾斜した状態であっても、左右独立した溝切装置24の昇降制御により溝切装置24の昇降位置を適正化し、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができる。
【0037】
図14に示すように、第二実施形態に係る制御装置30Bの入力側には、前述した第一実施形態の入力機器に加え、水平自動制御のON/OFF操作具である水平自動スイッチ50、左側クローラ走行装置17の昇降位置を検出する左車高ポテンショ51、右側クローラ走行装置17の昇降位置を検出する右車高ポテンショ52、機体の左右傾斜を検出する傾斜センサ53などが接続される一方、出力側には、前述した第一実施形態の出力機器に加え、左車高昇降シリンダ23Lを伸縮作動させる左車高昇降バルブ54の左車高上昇ソレノイド54a及び左車高下降ソレノイド54b、右車高昇降シリンダ23Rを伸縮作動させる右車高昇降バルブ55の右車高上昇ソレノイド55a及び右車高下降ソレノイド55bなどが接続されている。
【0038】
次に、第二実施形態における溝切装置24の動作について、図15を参照して説明する。
【0039】
図15の(A)、(B)に示すように、水平な圃場面を走行している場合は、機体も水平であるため、左右の溝切装置24は同じ昇降位置を維持しながら圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する。ここで、左右傾斜のある圃場面に移行すると、水平自動制御によって左右いずれかの車高昇降シリンダ23L、23Rが動作し、機体が水平に保たれる。例えば、圃場面が左傾斜であるときは、図15の(A)に示すように、左側のクローラ走行装置17を下降させて、左車高を上げてもよし、図15の(B)に示すように、右側のクローラ走行装置17を上昇させて、右車高を下げてもよい。しかしながら、このような水平制御を行うと、機体が圃場面に対して左右に傾くので、左右の溝切装置24の溝深さが相違してしまう。そこで、本実施形態では、左右のクローラ走行装置17の昇降に連動して左右の溝切装置24を自動的に昇降制御する。以下、具体的な制御手順について説明する。
【0040】
図16に示すように、第二実施形態の制御装置30Bは、各種のスイッチやセンサから信号を入力する入力制御(S111)、前処理部2を昇降制御する前処理昇降制御(S112)、左右クローラ走行装置17の昇降制御にもとづいて機体を水平に保つ傾斜制御(S113)、溝切装置24を昇降制御する溝切制御(S114)、アクチュエータに対して信号を出力する出力制御(S115)などの制御を実行する。
【0041】
図17に示すように、溝切制御では、溝切自動スイッチ15がONであるか否か(S121)、作業機クラッチスイッチ(脱穀・刈取クラッチスイッチ14)がONであるか否か(S122)、主変速レバー13が前進位置であるか否か(S123)の判断を行い、すべての判断結果がYESである場合は溝切自動制御を実行し(S124)、一つでもNOと判断した場合は溝切上昇制御を実行する(S125)。
【0042】
図18に示すように、溝切上昇制御では、左側溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S131)、この判断結果がNOである場合は、左側溝切装置24を上昇させる(S132)。また、右側溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S133)、この判断結果がNOである場合は、右側溝切装置24を上昇させる(S134)。
【0043】
図19に示すように、溝切自動制御では、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上であるか否かを判断し(S141)、この判断結果がNO場合は、溝切設定フラグのセット値を判断する(S142)。ここで、溝切設定フラグに0がセットされている場合は、溝切装置24の現在の昇降位置が溝深さ設定ダイヤル16で設定される設定位置と一致しているか否かを判断し(S143)、この判断結果がNOである場合は、左右の溝切装置24を下降させると共に、左右のクローラ走行装置17の昇降を禁止する(S144)。そして、溝切装置24が設定位置まで下降したら、溝切設定フラグに1をセットし(S145)、溝切装置24の下降を停止させる。溝切設定フラグに1がセットされたら、傾斜制御による左右の車高変化を判断し(S146、S148)、いずれかの判断結果がYESの場合は、その車高変化量にもとづいて、車高変化があった側の溝切装置24に係る溝切昇降補正量を演算し、当該溝切装置24の昇降位置を変更する(S147、S149)。一方、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上である場合は、溝切上昇遅延制御を実行すると共に(S150)、溝切設定フラグのセット値を0に戻す(S151)。
【0044】
図20に示すように、溝切上昇遅延制御では、上昇遅延フラグのセット値を判断し(S161)、これが0である場合は、上昇遅延フラグに1をセットすると共に、所定時間の遅延タイマをセットする(S162)。上昇遅延フラグに1がセットされた後は、遅延タイマ時間の経過を判断し(S163)、この判断結果がYESになったら、左右の溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S164、S166)、この判断結果がNOである場合は、左右の溝切装置24を上昇させる(S165、S167)。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】運転部の平面図である。
【図3】(A)は溝切装置を上昇させた状態を示す走行部の側面図、(B)は溝切装置を下降させた状態を示す走行部の側面図である。
【図4】走行部の平面図である。
【図5】(A)はベアリング支持された溝切装置の断面図、(B)は遊嵌支持された溝切装置の断面図である。
【図6】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図7】(A)及び(B)は溝切装置の動作説明図である。
【図8】制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図9】溝切制御のフローチャートである。
【図10】溝切上昇制御のフローチャートである。
【図11】溝切自動制御のフローチャートである。
【図12】溝切上昇遅延制御のフローチャートである。
【図13】第二実施形態に係る走行部の平面図である。
【図14】第二実施形態に係る制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図15】(A)及び(B)は第二実施形態に係る溝切装置の動作説明図である。
【図16】第二実施形態に係る制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図17】第二実施形態に係る溝切制御のフローチャートである。
【図18】第二実施形態に係る溝切上昇制御のフローチャートである。
【図19】第二実施形態に係る溝切自動制御のフローチャートである。
【図20】第二実施形態に係る溝切上昇遅延制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1 コンバイン
2 前処理部
3 脱穀部
7 走行部
14 脱穀・刈取クラッチスイッチ
15 溝切自動スイッチ
16 溝深さ設定ダイヤル
17 クローラ走行装置
24 溝切装置
29 溝切昇降シリンダ
30 制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対のクローラ走行装置を備えるコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のコンバインは、左右一対のクローラ走行装置を備えている(例えば、特許文献1参照)。クローラ走行装置は、複数の輪体(駆動輪、アイドラ、転輪、可動転輪など)に無端帯状のクローラを巻回して構成されるものであり、車輪式の走行装置に比べて悪路走破性が高いため、湿田圃場でも収穫作業を行うことが可能である。
【特許文献1】実開昭59−14830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のようなコンバインが湿田圃場を走行した場合、圃場にはクローラの走行跡が残るが、クローラ走行跡は、コンバインの重みで土が締まるため、水が溜まりやすい傾向がある。そして、水溜まり状態が長く続くと、その部分の土壌が年々軟弱化するため、その部分でクローラが沈下し、走行不能状態に陥る惧れがあった。
【0004】
尚、特許文献1に示されるコンバインは、前処理部の下部に、下方に突出する複数の突起を有し、これらの突起で圃場面に排水溝を形成するように構成されているため、圃場面全体の排水性を向上させることが可能である。しかしながら、クローラ走行装置の前方に形成された排水溝は、クローラによって踏み固められてしまうため、クローラ走行跡の排水性を向上させることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、機体の前部に昇降自在に設けら、下降状態で茎稈を刈り取る前処理部と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀する脱穀部と、左右一対のクローラ走行装置とを備えるコンバインにおいて、各クローラ走行装置の後方に昇降自在に設けられ、下降状態で圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置と、前処理部の昇降に連動して溝切装置を自動的に昇降制御する制御装置とを備えることを特徴とする。このようにすると、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができるので、クローラ走行跡に水が溜まり難くなり、その結果、クローラ走行跡の土壌の軟弱化を防止し、圃場の走行性を向上させることができる。しかも、溝切装置は、前処理部の昇降に連動して自動的に昇降制御されるので、圃場端で機体を回行するときに溝切装置が破損する不都合を回避できる。
また、前記制御装置は、脱穀部への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部の昇降に連動した溝切装置の自動昇降制御をOFFにすることを特徴とする。このようにすると、非作業時においては、溝切装置の下降が規制されることになるので、圃場外で前処理部を下降させても、これに連動して溝切装置が下降するような不都合を回避できる。
また、前記制御装置は、前処理部の上昇に連動して溝切装置を上昇制御する場合、溝切装置の上昇を設定時間遅延させることを特徴とする。このようにすると、前処理部の上昇後、機体回行が開始されるまでの間も溝切を行うことができる。
また、前記制御装置は、機体後進時、溝切装置を強制的に上昇制御することを特徴とする。このようにすると、機体後進時において、溝切装置が走行抵抗とならないだけでなく、溝切装置に対する屑の巻き付きや、溝切装置の破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はコンバインであって、該コンバイン1は、圃場の茎稈を刈り取る前処理部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀して選別する脱穀部3と、選別された穀粒を貯留する穀粒タンク4と、脱穀済みの排稈を後処理する後処理部5と、オペレータが乗車する運転部6と、クローラ式の走行部7とを備えて構成されている。
【0007】
前処理部2は、茎稈を分草するデバイダ8、茎稈を引き起す引起し装置(図示せず)、茎稈を掻込む掻込み装置(図示せず)、茎稈の株元を切断する刈刃(図示せず)、刈り取った茎稈を脱穀部3に向けて搬送する前処理搬送装置9などを備えて構成されている。前処理部2全体は、コンバイン1の機体前部に昇降自在に連結されており、作業走行時には、前処理部2を下降させた状態で茎稈の刈り取りを行い、機体回行時、路上走行時などの非作業走行時には、前処理部2を上昇させる。
【0008】
脱穀部3は、茎稈を挟持搬送する脱穀フィードチェン10、扱胴(図示せず)を収容する扱室(図示せず)、揺動選別体(図示せず)を収容する選別室(図示せず)などを備えて構成されている。エンジン(図示せず)から脱穀部3に至る脱穀動力伝動経路には、作業機クラッチ(図示せず)が設けられており、作業走行時には、作業機クラッチを入り状態とする。
【0009】
図2に示すように、運転部6は、オペレータが着座する運転席11や各種の操作具を配置して構成されている。例えば、運転席11の前方には、機体操向具及び前処理昇降操作具に兼用されるマルチステアリングレバー12などの操作具が配置されており、運転席11の左側方には、走行変速操作具及び前後進切換操作具に兼用される主変速レバー13、作業機クラッチ操作具及び刈取クラッチ操作具に兼用される脱穀・刈取クラッチスイッチ14、後述する溝切自動制御のON/OFF操作具である溝切自動スイッチ15、溝切自動制御の溝深さ設定操作具である溝深さ設定ダイヤル16などの操作具が配置されている。
【0010】
走行部7は、左右一対のクローラ走行装置17を備える。各クローラ走行装置17は、駆動輪18、アイドラ19、転輪20、可動転輪21などの輪体に無端帯状のクローラ22を巻回して構成されており、駆動輪18の駆動にもとづいて機体の前進、後進、回行などが行われる。また、本実施形態のクローラ走行装置17は、車高昇降シリンダ23L、23Rの伸縮作動に応じて車高を変更する車高変更機能を有しており、左右の車高昇降シリンダ23L、23Rを同方向に伸縮作動させて車高を変更する車高制御や、左右の車高昇降シリンダ23L、23Rを背反方向に伸縮作動させたり、いずれか一方の車高昇降シリンダ23L、23Rを伸縮作動させて機体を水平姿勢に保つ水平制御などを行うことが可能である。
【0011】
図1、図3及び図4に示すように、左右の各クローラ走行装置17の後方には、それぞれ、圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置24が設けられている。このような溝切装置24によれば、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができるので、クローラ走行跡に水が溜まり難くなり、その結果、クローラ走行跡の土壌の軟弱化を防止し、圃場の走行性を向上させることができる。
【0012】
図5に示すように、本実施形態の溝切装置24は、左右方向を向く支軸24aに、溝切ディスク24bを回転自在に支持して構成されている。溝切ディスク24bは、図5の(A)に示すように、ベアリング24cを介して支持することが好ましいが、図5の(B)に示すように、ベアリング24cを用いない遊嵌支持であってもよい。尚、図5において、符号の24dは、支軸24aに溶着され、溝切ディスク24bの一側方への抜止めをする押さえプレート、24eは、支軸24aにCピン止めされ、溝切ディスク24bの他側方への抜止めをする抜止めプレートである。
【0013】
溝切装置24は、機体後端より前方に配置されることが好ましい。例えば、図1に示すように、機体後端部の下方に存在する空きスペースを利用して溝切装置24を配置する。機体の全長、全幅内に溝切装置24を配置し、機体の大型化を回避することができる。
【0014】
溝切装置24は、機体に対して昇降可能に設けられている。例えば、図3及び図4に示すように、機体フレーム25の後端部に左右一対のアーム26を上下回動自在に設けると共に、各アーム26の先端部に溝切装置24を構成する。このようにすると、溝切が不要な状況(非作業走行時、機体後進時など)においては、溝切装置24を上昇位置に格納することができる。
【0015】
本実施形態では、左右の溝切装置24を単一の油圧シリンダで昇降させるように構成されている。具体的には、左右のアーム26の基端部を連結軸27で連結すると共に、連結軸27の中間部に設けたアーム28と機体フレーム25との間に溝切昇降シリンダ29を介設し、該溝切昇降シリンダ29の伸縮作動にもとづいて左右の溝切装置24を同時に昇降させる。このようにすると、左右の溝切装置24を個別に昇降させる場合に比して、油圧構成を簡略化することができる。しかも、上記の構成によれば、左右の溝切装置24間は空間となるので、後処理部5から落下する切断藁や排塵との干渉を回避することができる。
【0016】
図6に示すように、コンバイン1には、マイコンなどで構成される制御装置30が設けられている。制御装置30の入力側には、前述した作業機クラッチスイッチ(脱穀・刈取クラッチスイッチ14)、溝切自動スイッチ15及び溝深さ設定ダイヤル16に加え、溝切装置24の昇降位置を検出する溝切リフトポテンショ31、マルチステアリングレバー12の前処理昇降操作を検出する前処理上昇スイッチ32及び前処理下降スイッチ33、前処理部2の昇降位置を検出する前処理リフトポテンショ34、主変速レバー13の操作位置を検出する主変速レバーポテンショ35などが接続される一方、制御装置30の出力側には、溝切昇降シリンダ29を伸縮作動させる溝切昇降バルブ36の溝切上昇ソレノイド36a及び溝切下降ソレノイド36b、前処理昇降シリンダ(図示せず)を伸縮作動させる前処理昇降バルブ37の前処理上昇ソレノイド37a及び前処理下降ソレノイド37bなどが接続されている。つまり、制御装置30は、上記の各種スイッチやセンサから入力される信号にもとづく判断で、前処理昇降バルブ37や溝切昇降バルブ36を切り換えることにより、前処理部2や溝切装置24の昇降を制御するようになっている。
【0017】
本発明の実施形態に係る制御装置30は、溝切装置24を昇降制御するにあたり、前処理部2の昇降に連動して溝切装置24を自動的に昇降制御する溝切自動制御手段(図11参照)を備えている。このようにすると、前処理部2の昇降に連動して溝切装置24が自動的に昇降するので、溝切装置24の昇降操作を不要にしてオペレータの操作負担を軽減することができ、また、溝切装置24を下降させたまま機体回行を行うことがなくなるので、機体回行時における溝切装置24の破損も防止することができる。
【0018】
また、本実施形態の制御装置30は、脱穀部3への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部2の昇降に連動した溝切装置24の自動昇降制御(溝切自動制御)をOFFにする。このようにすると、非作業時においては、溝切装置24の下降が規制されることになるので、圃場外で前処理部2を下降させても、これに連動して溝切装置24が下降するような不都合を回避できる。
【0019】
また、本実施形態の制御装置30は、前処理部2の上昇に連動して溝切装置24を上昇制御する場合、溝切装置24の上昇を設定時間遅延させる。このようにすると、前処理部2の上昇後、機体回行が開始されるまでの間も溝切を行うことができる。
【0020】
また、本実施形態の制御装置30は、機体後進時、溝切装置24を強制的に上昇制御する。このようにすると、機体後進時において、溝切装置24が走行抵抗とならないだけでなく、溝切装置24に対する屑の巻き付きや、溝切装置24の破損を防止することができる。
【0021】
次に、制御装置30により昇降制御される溝切装置24の動作について、図7を参照して説明する。
【0022】
図7の(A)に示すように、非刈取作業中は、前処理部2が上昇位置にあるので、これに連動して溝切装置24も上昇状態を維持する。ここで刈取作業を開始すべく前処理部2を下降させると、これに連動して溝切装置24も下降する。そして、下降した溝切装置24は、溝深さ設定ダイヤル16で設定された位置を維持しながら、クローラ走行跡に排水用の溝を形成する。
【0023】
図7の(B)に示すように、刈取作業中は、前処理部2が下降位置にあるので、これに連動して溝切装置24も下降状態を維持するが、下記に示す4つの条件のうち、何れか一つが成立した場合には、溝切装置24が自動的に上昇する。
1)溝切自動スイッチOFF
2)作業機クラッチOFF
3)機体後進
4)前処理部上昇
ただし、前処理部2に連動して上昇する場合は、所定の遅延時間が経過した後に上昇する。
【0024】
制御装置の具体的な制御手順について、図8〜図12を参照して説明する。尚、本実施形態の制御装置30は、図8に示すように、各種のスイッチやセンサから信号を入力する入力制御(S11)、前処理部2を昇降制御する前処理昇降制御(S12)、溝切装置24を昇降制御する溝切制御(S13)、アクチュエータに対して信号を出力する出力制御(S14)などの制御を実行するが、入力制御、前処理昇降制御及び出力制御の制御手順は従来通りであるため、溝切制御の制御手順についてのみ説明する。
【0025】
図9に示すように、溝切制御では、溝切自動スイッチ15がONであるか否か(S21)、作業機クラッチスイッチ(脱穀・刈取クラッチスイッチ14)がONであるか否か(S22)、主変速レバー13が前進位置であるか否か(S23)の判断を行い、すべての判断結果がYESである場合は溝切自動制御を実行し(S24)、一つでもNOと判断した場合は溝切上昇制御を実行する(S25)。
【0026】
図10に示すように、溝切上昇制御では、溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S31)、この判断結果がNOである場合は、溝切装置24を上昇させる(S32)。
【0027】
図11に示すように、溝切自動制御では、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上であるか否かを判断し(S41)、この判断結果がNO場合は、溝切装置24の現在の昇降位置が溝深さ設定ダイヤル16で設定される設定位置と一致しているか否かを判断し(S42)、この判断結果がNOである場合は、溝切装置24を下降させる(S43)。一方、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上である場合は、溝切上昇遅延制御を実行する(S44)。
【0028】
図12に示すように、溝切上昇遅延制御では、上昇遅延フラグのセット値を判断し(S51)、これが0である場合は、上昇遅延フラグに1をセットすると共に、所定時間の遅延タイマをセットする(S52)。上昇遅延フラグに1がセットされた後は、遅延タイマ時間の経過を判断し(S53)、この判断結果がYESになったら、溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S54)、この判断結果がNOである場合は、溝切装置24を上昇させる(S55)。
【0029】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、左右一対のクローラ走行装置17を備えるコンバイン1において、各クローラ走行装置17の後方に、圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置24を設けたので、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができ、その結果、クローラ走行跡に水が溜まり難くなる。これにより、クローラ走行跡の土壌の軟弱化を防止し、圃場の走行性を向上させることができる。
【0030】
また、溝切装置24は、機体に対して昇降可能に設けられると共に、機体後端より前方に配置されるので、溝切が不要な状況(非作業走行時、機体後進時など)においては、溝切装置24を上昇位置に格納することができる。また、溝切装置24は、機体後端より前方に配置されるので、機体の全長が長くなるような不都合もない。
【0031】
また、溝切装置24を昇降制御する制御装置30は、前処理部2の昇降に連動して溝切装置24を自動的に昇降制御するので、オペレータの操作負担を軽減できるだけでなく、圃場端で機体を回行するときに溝切装置24が破損する不都合も回避できる。
【0032】
また、制御装置30は、脱穀部3への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部2の昇降に連動した溝切装置の自動昇降制御をOFFにするので、非作業時においては、溝切装置24の下降が規制されることになり、その結果、圃場外で前処理部2を下降させても、これに連動して溝切装置24が下降するような不都合を回避できる。
【0033】
また、制御装置30は、前処理部2の上昇に連動して溝切装置24を上昇制御する場合、溝切装置24の上昇を設定時間遅延させるので、前処理部2の上昇後、機体回行が開始されるまでの間も溝切を行うことができる。
【0034】
また、制御装置30は、機体後進時、溝切装置24を強制的に上昇制御するので、機体後進時において、溝切装置24が走行抵抗とならないだけでなく、溝切装置24に対する屑の巻き付きや、溝切装置24の破損を防止することができる。
【0035】
次に、本発明の第二実施形態に係るコンバイン1Bについて、図13〜図19を参照して説明する。ただし、前記実施形態と共通の部分については、前記実施形態と同じ符号を付けることにより、前記実施形態の説明を援用する。
【0036】
図13に示すように、第二実施形態に係るコンバイン1Bは、左右一対の溝切昇降シリンダ29L、29Rを備え、左右の溝切装置24をそれぞれ独立的に昇降可能とした点が前記実施形態と相違している。このようにすると、左右の車高昇降シリンダ23L、23Rによる機体の水平制御にもとづいて、機体が圃場面に対して傾斜した状態であっても、左右独立した溝切装置24の昇降制御により溝切装置24の昇降位置を適正化し、クローラ走行跡に確実に排水用の溝を形成することができる。
【0037】
図14に示すように、第二実施形態に係る制御装置30Bの入力側には、前述した第一実施形態の入力機器に加え、水平自動制御のON/OFF操作具である水平自動スイッチ50、左側クローラ走行装置17の昇降位置を検出する左車高ポテンショ51、右側クローラ走行装置17の昇降位置を検出する右車高ポテンショ52、機体の左右傾斜を検出する傾斜センサ53などが接続される一方、出力側には、前述した第一実施形態の出力機器に加え、左車高昇降シリンダ23Lを伸縮作動させる左車高昇降バルブ54の左車高上昇ソレノイド54a及び左車高下降ソレノイド54b、右車高昇降シリンダ23Rを伸縮作動させる右車高昇降バルブ55の右車高上昇ソレノイド55a及び右車高下降ソレノイド55bなどが接続されている。
【0038】
次に、第二実施形態における溝切装置24の動作について、図15を参照して説明する。
【0039】
図15の(A)、(B)に示すように、水平な圃場面を走行している場合は、機体も水平であるため、左右の溝切装置24は同じ昇降位置を維持しながら圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する。ここで、左右傾斜のある圃場面に移行すると、水平自動制御によって左右いずれかの車高昇降シリンダ23L、23Rが動作し、機体が水平に保たれる。例えば、圃場面が左傾斜であるときは、図15の(A)に示すように、左側のクローラ走行装置17を下降させて、左車高を上げてもよし、図15の(B)に示すように、右側のクローラ走行装置17を上昇させて、右車高を下げてもよい。しかしながら、このような水平制御を行うと、機体が圃場面に対して左右に傾くので、左右の溝切装置24の溝深さが相違してしまう。そこで、本実施形態では、左右のクローラ走行装置17の昇降に連動して左右の溝切装置24を自動的に昇降制御する。以下、具体的な制御手順について説明する。
【0040】
図16に示すように、第二実施形態の制御装置30Bは、各種のスイッチやセンサから信号を入力する入力制御(S111)、前処理部2を昇降制御する前処理昇降制御(S112)、左右クローラ走行装置17の昇降制御にもとづいて機体を水平に保つ傾斜制御(S113)、溝切装置24を昇降制御する溝切制御(S114)、アクチュエータに対して信号を出力する出力制御(S115)などの制御を実行する。
【0041】
図17に示すように、溝切制御では、溝切自動スイッチ15がONであるか否か(S121)、作業機クラッチスイッチ(脱穀・刈取クラッチスイッチ14)がONであるか否か(S122)、主変速レバー13が前進位置であるか否か(S123)の判断を行い、すべての判断結果がYESである場合は溝切自動制御を実行し(S124)、一つでもNOと判断した場合は溝切上昇制御を実行する(S125)。
【0042】
図18に示すように、溝切上昇制御では、左側溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S131)、この判断結果がNOである場合は、左側溝切装置24を上昇させる(S132)。また、右側溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S133)、この判断結果がNOである場合は、右側溝切装置24を上昇させる(S134)。
【0043】
図19に示すように、溝切自動制御では、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上であるか否かを判断し(S141)、この判断結果がNO場合は、溝切設定フラグのセット値を判断する(S142)。ここで、溝切設定フラグに0がセットされている場合は、溝切装置24の現在の昇降位置が溝深さ設定ダイヤル16で設定される設定位置と一致しているか否かを判断し(S143)、この判断結果がNOである場合は、左右の溝切装置24を下降させると共に、左右のクローラ走行装置17の昇降を禁止する(S144)。そして、溝切装置24が設定位置まで下降したら、溝切設定フラグに1をセットし(S145)、溝切装置24の下降を停止させる。溝切設定フラグに1がセットされたら、傾斜制御による左右の車高変化を判断し(S146、S148)、いずれかの判断結果がYESの場合は、その車高変化量にもとづいて、車高変化があった側の溝切装置24に係る溝切昇降補正量を演算し、当該溝切装置24の昇降位置を変更する(S147、S149)。一方、前処理部2の現在の昇降位置が刈取停止位置以上である場合は、溝切上昇遅延制御を実行すると共に(S150)、溝切設定フラグのセット値を0に戻す(S151)。
【0044】
図20に示すように、溝切上昇遅延制御では、上昇遅延フラグのセット値を判断し(S161)、これが0である場合は、上昇遅延フラグに1をセットすると共に、所定時間の遅延タイマをセットする(S162)。上昇遅延フラグに1がセットされた後は、遅延タイマ時間の経過を判断し(S163)、この判断結果がYESになったら、左右の溝切装置24の現在の昇降位置が最上昇位置であるか否かを判断し(S164、S166)、この判断結果がNOである場合は、左右の溝切装置24を上昇させる(S165、S167)。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】運転部の平面図である。
【図3】(A)は溝切装置を上昇させた状態を示す走行部の側面図、(B)は溝切装置を下降させた状態を示す走行部の側面図である。
【図4】走行部の平面図である。
【図5】(A)はベアリング支持された溝切装置の断面図、(B)は遊嵌支持された溝切装置の断面図である。
【図6】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図7】(A)及び(B)は溝切装置の動作説明図である。
【図8】制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図9】溝切制御のフローチャートである。
【図10】溝切上昇制御のフローチャートである。
【図11】溝切自動制御のフローチャートである。
【図12】溝切上昇遅延制御のフローチャートである。
【図13】第二実施形態に係る走行部の平面図である。
【図14】第二実施形態に係る制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図15】(A)及び(B)は第二実施形態に係る溝切装置の動作説明図である。
【図16】第二実施形態に係る制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図17】第二実施形態に係る溝切制御のフローチャートである。
【図18】第二実施形態に係る溝切上昇制御のフローチャートである。
【図19】第二実施形態に係る溝切自動制御のフローチャートである。
【図20】第二実施形態に係る溝切上昇遅延制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1 コンバイン
2 前処理部
3 脱穀部
7 走行部
14 脱穀・刈取クラッチスイッチ
15 溝切自動スイッチ
16 溝深さ設定ダイヤル
17 クローラ走行装置
24 溝切装置
29 溝切昇降シリンダ
30 制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の前部に昇降自在に設けら、下降状態で茎稈を刈り取る前処理部と、
刈り取った茎稈から穀粒を脱穀する脱穀部と、
左右一対のクローラ走行装置と
を備えるコンバインにおいて、
各クローラ走行装置の後方に昇降自在に設けられ、下降状態で圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置と、
前処理部の昇降に連動して溝切装置を自動的に昇降制御する制御装置と
を備えることを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記制御装置は、脱穀部への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部の昇降に連動した溝切装置の自動昇降制御をOFFにすることを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記制御装置は、前処理部の上昇に連動して溝切装置を上昇制御する場合、溝切装置の上昇を設定時間遅延させることを特徴とする請求項1又は2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記制御装置は、機体後進時、溝切装置を強制的に上昇制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンバイン。
【請求項1】
機体の前部に昇降自在に設けら、下降状態で茎稈を刈り取る前処理部と、
刈り取った茎稈から穀粒を脱穀する脱穀部と、
左右一対のクローラ走行装置と
を備えるコンバインにおいて、
各クローラ走行装置の後方に昇降自在に設けられ、下降状態で圃場のクローラ走行跡に排水用の溝を形成する溝切装置と、
前処理部の昇降に連動して溝切装置を自動的に昇降制御する制御装置と
を備えることを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記制御装置は、脱穀部への動力伝動を入り/切りする作業機クラッチが切りの場合、前処理部の昇降に連動した溝切装置の自動昇降制御をOFFにすることを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記制御装置は、前処理部の上昇に連動して溝切装置を上昇制御する場合、溝切装置の上昇を設定時間遅延させることを特徴とする請求項1又は2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記制御装置は、機体後進時、溝切装置を強制的に上昇制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンバイン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−104314(P2010−104314A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281059(P2008−281059)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
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