説明

コンバータ制御方法及びコンバータ制御装置並びに空調機及びその制御方法及び制御装置

【課題】空調機において冷房と暖房とを切り替える指令のみで、コンバータから出力される直流電圧を制御することが目的とされる。
【解決手段】空調機は、コンバータ制御装置1と、3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1を直流電圧Vdcに変換するコンバータ31とを備える。コンバータ制御装置1は、直流電圧指令値選択部11、直流電圧指令値記憶部12と、コンバータ波形制御部13とを備える。直流電圧指令値選択部11は、冷房と暖房とを切り替える冷暖指令Sのみに基づいて、直流電圧指令値記憶部12に記憶された前記直流電圧指令値Vdcc,Vdchの一を選択する。コンバータ波形制御部13は、選択された直流電圧指令値Vdcc,Vdch、直流電圧Vdc及び3相電流Iu1,Iv1,Iw1を用いて、IGBTモジュール311〜316のオン/オフのタイミングを求め、そのタイミングで制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバータ制御方法及びコンバータ制御装置並びに空調機及びその制御方法及び制御装置に関し、例えば空調機等に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
空調機等に備わる圧縮機に所望の電圧を供給するために、コンバータ及びインバータが設けられる。コンバータは、例えば3相交流電圧を直流電圧に変換する。また、インバータは、例えば直流電圧を所望の3相交流電圧に変換する。
【0003】
例えば日本のように高調波規制のない国においては、特に高調波を低減する等の対策を施す必要がないため、コンバータの回路が例えばダイオードで構成されてもよい。ところが、高調波規制のある国においては、高調波を低減するために、コンバータの回路がIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子で構成される。
【0004】
なお、本発明に関連する技術を以下に示す。
【0005】
【特許文献1】特開平11−299290号公報
【特許文献2】特開平11−316041号公報
【特許文献3】特開2003−306273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スイッチング素子での電力損失は、ダイオード等に比べて大きい。このため、スイッチング素子で構成されたコンバータでの電力損失は、ダイオード等で構成されたコンバータよりも大きくなる。
【0007】
また、コンバータから出力される直流電圧の昇圧率を高めると、スイッチング素子での電力損失が大きくなる。
【0008】
コンバータの入力側にフィルタとしてのリアクトルが設けられている場合には、スイッチング素子のスイッチングに伴い、リアクトルで電磁騒音が発生する。この電磁騒音は、例えばスイッチング周波数を高めることで抑制される。しかし、このような対策では、コンバータでの電力損失がさらに大きくなる。
【0009】
これらの対策として、例えば圧縮機に設けられたモータの回転速度に応じて、コンバータから出力される直流電圧の値を変化させることで、コンバータでの電力損失が低減される。このような技術は、上記した特許文献1乃至特許文献3で開示されている。
【0010】
しかし、これらの技術では、モータの回転速度を精度良く検出する必要がある。さらには、スイッチング素子を制御するための信号を、時々刻々と変化する回転速度に応じて発生させる必要があり、制御が煩雑化しやすい。
【0011】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、空調機において冷房と暖房とを切り替える指令のみで、コンバータから出力される直流電圧を制御することが目的とされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の請求項1にかかるコンバータ制御方法は、交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する方法であって、前記コンバータはスイッチング素子(311〜316)を有し、冷房と暖房とを切り替える指令(S)のみに基づいて、前記冷房及び前記暖房の各々に対応した直流電圧指令値(Vdcc,Vdch)の一を選択し、選択された前記直流電圧指令値と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とを用いて、前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求め、前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフする。
【0013】
この発明の請求項2にかかるコンバータ制御方法は、請求項1記載のコンバータ制御方法であって、前記冷房に対応した前記直流電圧指令値(Vdcc)は、前記暖房に対応した前記直流電圧指令値(Vdch)よりも小さい。
【0014】
この発明の請求項3にかかるコンバータ制御方法は、交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する方法であって、前記コンバータはスイッチング素子(311〜316)を有し、変調率指令値(Kc;Kh)に基づいて直流電圧指令値(Vdcc;Vdch)を求めるステップと、前記直流電圧指令値と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とを用いて、変調率(K)を得て前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求めるステップと、前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフするステップとを備え、前記直流電圧指令値は、前記変調率と前記変調率指令値との差がなくなるように求められる。
【0015】
この発明の請求項4にかかるコンバータ制御方法は、請求項3記載のコンバータ制御方法であって、前記変調率指令値(Kc,Kh)は、所定の指令に基づいて複数の前記変調率指令値からその一が選択される。
【0016】
この発明の請求項5にかかるコンバータ制御方法は、請求項4記載のコンバータ制御方法であって、前記所定の指令は、冷房と暖房とを切り替える。
【0017】
この発明の請求項6にかかる空調機の制御方法は、請求項1、請求項2及び請求項5のいずれか一つに記載のコンバータ制御方法により、前記コンバータ(31)から前記直流電圧(Vdc)が出力され、前記冷房及び前記暖房を行う空調機を前記直流電圧に基づいて制御する。
【0018】
この発明の請求項7にかかるコンバータ制御装置は、交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する装置であって、前記コンバータは、スイッチング素子(311〜316)を有し、選択部(11)と、記憶部(12)と、制御部(13)とを備え、前記記憶部は、冷房及び暖房の各々に対応した直流電圧指令値(Vdcc,Vdch)を記憶し、前記選択部は、前記冷房と前記暖房とを切り替える指令(S)のみに基づいて、前記記憶部から前記直流電圧指令値の一を選択し、前記制御部は、選択された前記直流電圧指令値と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とを用いて、前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求め、前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフする。
【0019】
この発明の請求項8にかかるコンバータ制御装置は、請求項7記載のコンバータ制御装置であって、前記冷房に対応した前記直流電圧指令値(Vdcc)は、前記暖房に対応した前記直流電圧指令値(Vdch)よりも小さい。
【0020】
この発明の請求項9にかかるコンバータ制御装置は、交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する装置であって、前記コンバータは、スイッチング素子(311〜316)を有し、演算部(24)と、制御部(23)とを備え、前記制御部は、直流電圧指令値(Vdcc;Vdch)と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とが入力され、それらを用いて変調率(K)を得て前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求め、前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフし、前記演算部は、変調率指令値(Kc;Kh)及び前記変調率が入力され、前記変調率と前記変調率指令値との差がなくなるように前記直流電圧指令値を求める。
【0021】
この発明の請求項10にかかるコンバータ制御装置は、請求項9記載のコンバータ制御装置であって、選択部(21)と、記憶部(22)とを更に備え、前記記憶部は、冷房及び暖房の各々に対応した前記変調率指令値(Kc,Kh)を記憶し、前記選択部は、所定の指令に基づいて、前記記憶部から前記変調率指令値の一を選択し、前記演算部(24)に与える。
【0022】
この発明の請求項11にかかるコンバータ制御装置は、請求項10記載のコンバータ制御装置であって、前記所定の指令値は、前記冷房と前記暖房とを切り替える。
【0023】
この発明の請求項12にかかる空調機の制御装置は、請求項7、請求項8及び請求項11のいずれか一つに記載のコンバータ制御装置と、前記コンバータ(31)とを備え、前記冷房及び前記暖房を行う空調機を、前記コンバータから出力される前記直流電圧(Vdc)に基づいて制御する。
【0024】
この発明の請求項13にかかる空調機は、請求項12記載の空調機の制御装置を備え、前記制御装置から出力される前記直流電圧(Vdc)に基づいて制御される。
【発明の効果】
【0025】
この発明の請求項1にかかるコンバータの制御方法及び請求項7にかかるコンバータの制御装置によれば、冷房と暖房とを切り替えるだけで、コンバータから出力される直流電圧が制御される。よって、コンバータの制御が簡単化される。
【0026】
この発明の請求項2にかかるコンバータの制御方法及び請求項8にかかるコンバータの制御装置によれば、冷房時では、暖房時に比して直流電圧が低くなり、スイッチング素子での電力損失が小さくなる。よって、効率良くコンバータを制御することできる。しかも、損失低減の効果により、より小型な放熱フィンや少ない風量で運転ができるようになり、コストが低減される。
【0027】
この発明の請求項3にかかるコンバータの制御方法及び請求項9にかかるコンバータの制御装置によれば、変調率指令値を入力するだけで、コンバータに入力される交流電圧が所定の変調率で直流電圧に変換されるので、直流電圧指令値を記憶しておく必要がない。したがって、コンバータ入力の交流電圧の実効値が変更される場合であっても、直流電圧指令値を記憶させ直す必要でない。
【0028】
この発明の請求項4にかかるコンバータの制御方法及び請求項10にかかるコンバータの制御装置によれば、例えば冷房と暖房との切替を行うための指令が入力されるだけで、コンバータから出力される直流電圧が制御される。
【0029】
この発明の請求項5にかかるコンバータの制御方法及び請求項11にかかるコンバータの制御装置によれば、冷房と暖房を切り替える指令が入力されるので、請求項4にかかるコンバータの制御方法及び請求項10にかかるコンバータの制御装置に適用できる。
【0030】
この発明の請求項6にかかる空調機の制御方法及び請求項12にかかる空調機の制御装置並びに請求項13にかかる空調機によれば、空調機の制御が簡単化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
第1の実施の形態.
図1は、コンバータ制御装置1を備えた空調機の本実施の形態にかかる主要部を示す。空調機は、3相交流電源5、EMI(Electro Magnetic Interference)フィルタ33、リアクトルL1,L2,L3、コンバータ31、コンデンサC、インバータ32、圧縮機4、インバータ波形制御部6及びコンバータ制御装置1を備える。
【0032】
コンバータ31は、IGBTモジュール311〜316を有する。IGBTモジュール311〜316の各々は、IGBTと、IGBTのコレクタ端子とエミッタ端子との間に接続されるダイオードとを有する。このとき、ダイオードには、エミッタ端子側からコレクタ端子側へのみ電流が流れる。
【0033】
IGBTモジュール311のコレクタ端子とIGBTモジュール314のエミッタ端子とは、接続点N3を介して接続される。IGBTモジュール312のコレクタ端子とIGBTモジュール315のエミッタ端子とは、接続点N4を介して接続される。IGBTモジュール313のコレクタ端子とIGBTモジュール316のエミッタ端子とは、接続点N5を介して接続される。
【0034】
IGBTモジュール311,312,313の各々のエミッタ端子は、コンバータ31の出力端子N2に接続される。IGBTモジュール314,315,316の各々のコレクタ端子は、コンバータ31の出力端子N1に接続される。
【0035】
3相交流電源5は出力端子511,512,513を有する。出力端子511は、EMIフィルタ33及びリアクトルL1を介して接続点N3に接続される。出力端子512は、EMIフィルタ33及びリアクトルL2を介して接続点N4に接続される。出力端子513は、EMIフィルタ33及びリアクトルL3を介して接続点N5に接続される。
【0036】
コンデンサCは、出力端子N1,N2の間に接続される。
【0037】
インバータ32は、IGBTモジュール321〜326を有する。IGBTモジュール321〜326の各々は、IGBTと、IGBTのコレクタ端子とエミッタ端子との間に接続されるダイオードとを有する。このとき、ダイオードには、エミッタ端子側からコレクタ端子側へのみ電流が流れる。
【0038】
IGBTモジュール321のコレクタ端子とIGBTモジュール324のエミッタ端子とは、接続点N6を介して接続される。IGBTモジュール322のコレクタ端子とIGBTモジュール325のエミッタ端子とは、接続点N7を介して接続される。IGBTモジュール323のコレクタ端子とIGBTモジュール326のエミッタ端子とは、接続点N8を介して接続される。
【0039】
IGBTモジュール321,322,323の各々のエミッタ端子は、インバータ32の入力端子N2に接続される。IGBTモジュール324,325,326の各々のコレクタ端子は、インバータ32の入力端子N1に接続される。ここで、コンバータ31の出力端子N1,N2を、インバータ32については入力端子N1,N2として把握した。
【0040】
圧縮機4は入力端子411,412,413を有する。入力端子411,412,413は、接続点N6,N7,N8のそれぞれに接続される。
【0041】
3相交流電源5から出力された3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1は、EMIフィルタ33及びリアクトルL1,L2,L3を介して、それぞれコンバータ31に入力される。
【0042】
EMIフィルタは、3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1に含まれる高周波ノイズ等を除去する。また、リアクトルL1,L2,L3は、3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1に起因してコンバータ31に突入電流が流れることを防止する。
【0043】
コンバータ31は、IGBTモジュール311〜316をオン/オフして、3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1を整流して、コンバータ31の出力端子N1,N2の間に印加する。IGBTモジュール311〜316のオン/オフは、後述するコンバータ制御装置1により制御される。
【0044】
コンデンサCは、コンバータ31の出力を平滑にして直流電圧Vdcを得る。このとき、直流電圧Vdcは、コンバータ31から出力される直流電圧Vdcと把握することができる。そして、直流電圧Vdcはインバータ32に入力される。
【0045】
インバータ32は、IGBTモジュール321〜326をオン/オフして、直流電圧Vdcを3相交流電圧Vu2,Vv2,Vw2に変換する。IGBTモジュール321〜326のオン/オフは、後述するインバータ波形制御部6により制御される。
【0046】
圧縮機4は、インバータ32から出力される3相交流電圧Vu2,Vv2,Vw2に従って動作する。
【0047】
コンバータ制御装置1は、直流電圧指令値選択部11,直流電圧指令値記憶部12及びコンバータ波形制御部13を有し、入力された冷暖指令Sに基づいて、コンバータ31を制御する。
【0048】
冷暖指令Sは、冷房と暖房とを切り替えるための指令であり、例えば空調機内を流れる冷媒の方向を切り替える四路切替え弁に与える指令が採用される。
【0049】
直流電圧指令値選択部11には、冷暖指令Sが与えられる。そして、冷暖指令Sが冷房へ切り替える指令であれば、直流電圧指令値記憶部12から冷房に対応する直流電圧指令値Vdccを取り出す。冷暖指令Sが暖房へ切り替える指令であれば、直流電圧指令値記憶部12から暖房に対応する直流電圧指令値Vdchを取り出す。直流電圧指令値Vdcc,Vdchは、コンバータ波形制御部13に与えられる。
【0050】
コンバータ波形制御部13は、さらにコンバータ31の出力を平滑して得られる直流電圧Vdcと、コンバータ31へ入力される3相電流Iu1,Iv1,Iw1と、3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1のゼロクロス信号S3とが与えられる。
【0051】
図2は、コンバータ波形制御部13を概念的に示すブロック図である。コンバータ波形制御部13は、加減算器131a〜131d、加算器131e、比例積分(PI)制御部132a〜132c、電圧演算部133a,133b、変換部134、位相演算部135及びPWM(Pulse Width Modulation)制御部136を有する。
【0052】
位相演算部135にはゼロクロス信号S3が与えられる。位相演算部135は、これを用いて、交流電圧の位相θと、電気角速度ω1とを求める。
【0053】
変換部134には、位相θが与えられる。変換部134は、位相θに従って、3相電流Iu1,Iv1,Iw1を、電気角速度ω1で回転するd軸−q軸座標系に変換し、有効電流Idと無効電流Iqを得る。
【0054】
加減算器131aは、冷房時には直流電圧指令値Vdccから直流電圧Vdcを差し引いて、また暖房時には直流電圧指令値Vdchから直流電圧Vdcを差し引いて、電圧差ΔVを求める。
【0055】
PI制御部132aは、電圧差ΔVに基づいてPI制御することで、有効電流指令値Idを求める。
【0056】
電圧演算部133aは、有効電流指令値Id、電気角速度ω1及びインダクタンスLに基づいて、それらの積を求めて電圧指令値Vd1を得る。ここで、インダクタンスLは、d軸−q軸座標系にリアクトルL1,L2,L3を変換した値である。また、一般にリアクトル値は互いに等しく、L1=L2=L3とする。
【0057】
加減算器131cは、無効電流指令値Iq及び無効電流Iqが与えられ、無効電流指令値Iqから無効電流Iqを差し引いて電流差ΔIqを求める。無効電流指令値Iqは0に設定してもよく、かかる設定はコンバータ31の力率が改善されるという点で望ましい。
【0058】
PI制御部132cは、電流差ΔIqに基づいてPI制御することで、電圧指令値Vq2を得る。
【0059】
加算器131eは、電圧指令値Vd1,Vq2の和を求めることで、電圧指令値Vqを求める。
【0060】
電圧演算部133bは、無効電流指令値Iq、電気角速度ω1及びインダクタンスLに基づいて、それらの積を求めて電圧指令値Vq1を得る。
【0061】
加減算器131bは、有効電流指令値Id及び有効電流Idが与えられ、有効電流指令値Idから有効電流Idを差し引いて電流差ΔIdを求める。
【0062】
PI制御部132bは、電流差ΔIdに基づいてPI制御することで、電圧指令値Vd2を得る。
【0063】
加減算器131dは、電圧指令値Vd2から電圧指令値Vq1を差し引いて、電圧指令値Vdを求める。
【0064】
PWM制御部136には、電圧指令値Vd,Vq、直流電圧Vdc及び位相θが与えられる。PWM制御部136は、式(1)に従って変調率Kを求め、式(2)に従って位相φを求める。そして、変調率K及び位相φ、θに基づいて、IGBTモジュール311〜316のオン/オフのタイミングを求める。詳細は従来公知であるので省略する。
【0065】
【数1】

【0066】
【数2】

【0067】
PWM制御部136は、当該タイミングを信号S1としてコンバータ31に与えることで、そのタイミングでIGBTモジュール311〜316のオン/オフを制御する。
【0068】
インバータ波形制御部6は、インバータ32から出力される3相交流電圧Vu2,Vv2,Vw2と、それに従って流れる3相電流Iu2,Iv2,Iw2と、圧縮機4に備えられるモータの回転速度指令値ωが与えられる。そして、3相交流電圧Vu2,Vv2,Vw2、3相電流Iu2,Iv2,Iw2及び回転速度指令値ωに基づいて、IGBTモジュール321〜326のオン/オフのタイミングを求める。詳細は従来公知であるので省略する。
【0069】
インバータ波形制御部6は、当該タイミングを信号S2としてインバータ32に与えることで、そのタイミングでIGBTモジュール321〜326のオン/オフを制御する。
【0070】
上述したコンバータ31を制御する技術によれば、冷房と暖房とを切り替えるだけで、コンバータ31から出力される直流電圧Vdcが制御される。よって、コンバータ31の制御が簡単化される。
【0071】
図3は、モータの回転速度と圧縮機4の吐出圧との関係を例示する。冷房時では、暖房時に比べて、圧縮機4に設けられたモータの回転速度が小さい。従って、冷房時では、暖房時に比べて、モータの回転速度起電圧が小さく、これに起因してインバータ32から出力すべき最大電圧が小さい。このため、インバータ32の入力電圧、換言すればコンバータ31から出力される直流電圧Vdcを、低くすることができる。
【0072】
よって、上述した内容において、直流電圧指令値Vdccを直流電圧指令値Vdchよりも小さく設定してもよい。例えば、直流電圧指令値Vdccを600V、直流電圧指令値Vdchを700Vに設定される。
【0073】
このように直流電圧指令値Vdcc,Vdchを設定することで、冷房時では、暖房時に比して直流電圧Vdcが低くなり、スイッチング素子での電力損失が小さくなる。よって、効率良くコンバータ31を制御することできる。更に、損失低減の効果により、より小型な放熱フィンや少ない風量で運転ができるようになり、延いては、コストが低減される。なお、概して、放熱フィンサイズは、室外機の周囲温度が高い冷房状態で決まる。
【0074】
第2の実施の形態.
図4は、コンバータ制御装置2を備えた空調機の本実施の形態にかかる主要部を示す。この空調機は、図1で示される空調機について、コンバータ制御装置1に代えてコンバータ制御装置2を備えたものである。図4で示される構成要素のうち図1で示される構成要素と同じものには、同符号が付されている。
【0075】
コンバータ制御装置2は、コンバータ変調率指令値選択部21、コンバータ変調率指令値記憶部22、コンバータ波形制御部23及び直流電圧指令値演算部24を有する。
【0076】
コンバータ変調率指令値選択部21には、冷暖指令Sが与えられる。そして、冷暖指令Sが冷房へ切り替える指令であれば、コンバータ変調率指令値記憶部22から冷房に対応する変調率指令値Kcを取り出す。冷暖指令Sが暖房へ切り替える指令であれば、コンバータ変調率指令値記憶部22から暖房に対応する変調率指令値Khを取り出す。変調率指令値Kc,Khは、直流電圧指令値演算部24に与えられる。
【0077】
コンバータ波形制御部23は、第1の実施の形態で説明したコンバータ波形制御部13と同様にして、冷房時には直流電圧指令値Vdcc、また暖房時にはVdchに基づいて、IGBTモジュール311〜316のオン/オフのタイミングをそれぞれ求める。そして、当該タイミングを信号S1としてコンバータ31に与えることで、そのタイミングでIGBTモジュール311〜316のオン/オフを制御する。ここで、直流電圧指令値Vdcc,Vdchは、直流電圧指令値演算部24から与えられる。また、タイミングを求める過程で得られる変調率Kは、直流電圧指令値演算部24に与えられる。
【0078】
直流電圧指令値演算部24は、平均演算部241、加減算器242及び制限付積分部243を有する。そして、冷房時には、変調率指令値Kc及び変調率Kに基づいて、直流電圧指令値Vdccを求める。暖房時には、変調率指令値Kh及び変調率Kに基づいて、直流電圧指令値Vdchを求める。
【0079】
平均演算部241は、コンバータ波形制御部23から与えられた変調率Kからその変動成分を除去して、平均変調率K’を求める。例えば、変調率Kに一次遅れ演算を施すことで、その変動成分が除去される。
【0080】
平均演算部241は、例えば、変調率Kについて所定の期間での平均を求め、これを平均変調率K’としてもよい。
【0081】
加減算器242は、冷房時には、平均変調率K’から変調率指令値Kcを差し引いて、差分ΔKcを求める。また暖房時には、平均変調率K’から変調率指令値Khを差し引いて、差分ΔKhを求める。差分ΔKc,ΔKhは、制限付積分部243に与えられる。
【0082】
図5は、制限付積分部243を概念的に示すブロック図である。制限付積分部243は、比例演算部2431、積算部2432、制限部2433及び積分部2434を有する。
【0083】
比例演算部2431は、差分ΔKc,ΔKhに比例係数を掛けて差分ΔKを求め、それを積算部2342に与える。
【0084】
制限部2433は、後述する積分部2434から出力される直流電圧指令値Vdcc,Vdchの値に基づいて、1または0を値εとして出力する。つまり、直流電圧指令値Vdcc,Vdchの値が所定の範囲Vdc1〜Vdc2内にあるときには、ε=1を出力する。直流電圧指令値Vdcc,Vdchの値が下限値Vdc1未満になるときには、ΔKが負ならばε=0、ΔKが正ならばε=1をそれぞれ出力する。直流電圧指令値Vdcc,Vdchの値が上限値Vdc2を超えるときには、ΔKが負ならばε=1、ΔKが正ならばε=0をそれぞれ出力する。値εは積算部2432に与えられる。
【0085】
上記した所定の範囲の下限値Vdc1及び上限値Vdc2は、例えば次のようにして設定される。3相交流電源5から出力される3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1の線間電圧実効値VacがVac1〜Vac2の範囲内にある設定では、下限値Vdc1は√2・Vac1で設定され、上限値Vdc2は、√2・Vac2以上であって、コンバータ31を構成する部品の耐圧などを超えない程度に設定される。なお、電圧Vac1、Vac2は、電源電圧変動や各国の電源電圧などに応じて定められる。
【0086】
積算部2432は、差分ΔKと値εとの積ε・ΔKを求めて、積分部2434に与える。
【0087】
積分部2434は、積ε・ΔKを積分することで、直流電圧指令値Vdcc,Vdchを求める。そして、直流電圧指令値Vdcc,Vdchは、コンバータ波形制御部23に与えられる。
【0088】
制限付積分部243は、例えば、差分ΔKc,ΔKhに基づいてPI制御し、それにより求められた直流電圧指令値Vdcc,Vdchに制限を設けてもよい。
【0089】
いずれにしても、直流電圧指令値演算部24は、冷房時には、変調率Kと変調率指令値Kcとの差がなくなるように、直流電圧指令値Vdccを求める。また暖房時には、変調率Kと変調率指令値Khとの差がなくなるように、直流電圧指令値Vdchを求める。
【0090】
上述したコンバータ31を制御する技術によれば、選択された変調率指令値Kc,Khに基づいて、コンバータ31に入力される3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1が所定の変調率で直流電圧Vdcに変換されるので、直流電圧指令値を記憶しておく必要がない。したがって、3相交流電圧Vu1,Vv1,Vw1の線間電圧実効値VacがVac1〜Vac2の範囲内で変動する場合であっても、記憶された直流電圧指令値の変更処理が必要でない。これによって、特に、国毎に異なる電源電圧の値に柔軟に対応できる。
【0091】
しかも、冷暖指令Sに基づいて変調率指令値Kc,Khが選択されるので、冷暖指令Sが入力されるだけで、コンバータ31から出力される直流電圧Vdcが制御される。
【0092】
上述したコンバータ制御装置2は、例えばコンバータ変調率指令値選択部21及びコンバータ変調率指令値記憶部22を含まなくてもよい。この場合、冷暖指令Sに代えて変調率指令値Kc,Khが、コンバータ31に入力される指令として採用される。
【0093】
本実施の形態において、直流電圧Vdcがほぼ一定になった後は、このときの直流電圧指令値Vdcc,Vdchを記憶しておいてもよい。この場合、次の冷暖指令Sが入力される迄は、変調率指令値Kc,Khにより直流電圧指令値Vdcc,Vdchを求めることなしに、記憶された直流電圧指令値Vdcc,Vdchに基づいてコンバータ31を制御することができる。
【0094】
従って、例えば運転が停止した後に、再び同じ状態で運転させる場合には、運転が停止する前の直流電圧指令値Vdcc,Vdchを記憶しておくことで、直流電圧指令値Vdcc,Vdchを改めて求めることなく運転が再開できる。
【0095】
また、直流電圧Vdcがほぼ一定になった後は、所定の時間間隔ごとに直流電圧指令値Vdcc,Vdchを改めて求め、その都度、記憶された直流電圧指令値Vdcc,Vdchを更新してもよい。
【0096】
例えば、直流電圧指令値演算部24及びその他の空調機器は、その制御処理がマイコンにより行われる。上述した技術によれば、記憶された直流電圧指令値Vdcc,Vdchを用いてコンバータ31を制御している期間は、マイコンにより直流電圧指令値演算部24を制御しなくてもよい。よって、マイコンによる制御処理が簡単化される。
【0097】
上述したいずれの実施の形態においても、コンバータ制御装置1もしくはコンバータ制御装置2と、コンバータ31とを含む装置を、空調機の制御装置と把握して、空調機の制御装置は、冷房と暖房とを行う空調機を、コンバータ31から出力される直流電圧Vdcに基づいて制御すると把握できる。
【0098】
また、空調機は、上記した空調機の制御装置を備え、空調機の制御装置から出力される直流電圧Vdcに基づいて制御されると把握できる。
【0099】
この空調機及び空調機を制御する技術によれば、第1の実施の形態もしくは本実施の形態で説明したコンバータ制御技術を含むので、空調機の制御が簡単化される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】コンバータ制御装置1を備えた空調機の第1の実施の形態にかかる主要部を示すブロック図である。
【図2】コンバータ波形制御部13を概念的に示すブロック図である。
【図3】モータの回転速度と圧縮機の吐出圧との関係を示す図である。
【図4】コンバータ制御装置2を備えた空調機の第2の実施の形態にかかる主要部を示すブロック図である。
【図5】制限付積分部243を概念的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0101】
Vu1,Vv1,Vw1 3相交流電圧
Vdc 直流電圧
dcc,Vdch 直流電圧指令値
Iu1,Iv1,Iw1 3相電流
K 変調率
c,Kh 変調率指令値
11 直流電圧指令値選択部
12 直流電圧指令値記憶部
13,23 コンバータ波形制御部
21 コンバータ変調率指令値選択部
22 コンバータ変調率指令値記憶部
24 直流電圧指令値演算部
31 コンバータ
311〜316 IGBTモジュール(スイッチング素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する方法であって、
前記コンバータはスイッチング素子(311〜316)を有し、
冷房と暖房とを切り替える指令(S)のみに基づいて、前記冷房及び前記暖房の各々に対応した直流電圧指令値(Vdcc,Vdch)の一を選択し、
選択された前記直流電圧指令値と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とを用いて、前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求め、
前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフする、コンバータ制御方法。
【請求項2】
前記冷房に対応した前記直流電圧指令値(Vdcc)は、前記暖房に対応した前記直流電圧指令値(Vdch)よりも小さい、請求項1記載のコンバータ制御方法。
【請求項3】
交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する方法であって、
前記コンバータはスイッチング素子(311〜316)を有し、
変調率指令値(Kc;Kh)に基づいて直流電圧指令値(Vdcc;Vdch)を求めるステップと、
前記直流電圧指令値と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とを用いて、変調率(K)を得て前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求めるステップと、
前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフするステップと
を備え、
前記直流電圧指令値は、前記変調率と前記変調率指令値との差がなくなるように求められる、コンバータ制御方法。
【請求項4】
前記変調率指令値(Kc,Kh)は、所定の指令に基づいて複数の前記変調率指令値からその一が選択される、請求項3記載のコンバータ制御方法。
【請求項5】
前記所定の指令は、冷房と暖房とを切り替える、請求項4記載のコンバータ制御方法。
【請求項6】
請求項1、請求項2及び請求項5のいずれか一つに記載のコンバータ制御方法により、前記コンバータ(31)から前記直流電圧(Vdc)が出力され、
前記冷房及び前記暖房を行う空調機を前記直流電圧に基づいて制御する、空調機の制御方法。
【請求項7】
交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する装置であって、
前記コンバータは、スイッチング素子(311〜316)を有し、
選択部(11)と、
記憶部(12)と、
制御部(13)と
を備え、
前記記憶部は、冷房及び暖房の各々に対応した直流電圧指令値(Vdcc,Vdch)を記憶し、
前記選択部は、前記冷房と前記暖房とを切り替える指令(S)のみに基づいて、前記記憶部から前記直流電圧指令値の一を選択し、
前記制御部は、選択された前記直流電圧指令値と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とを用いて、前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求め、前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフする、コンバータ制御装置。
【請求項8】
前記冷房に対応した前記直流電圧指令値(Vdcc)は、前記暖房に対応した前記直流電圧指令値(Vdch)よりも小さい、請求項7記載のコンバータ制御装置。
【請求項9】
交流電圧(Vu1,Vv1,Vw1)を直流電圧(Vdc)に変換するコンバータ(31)を制御する装置であって、
前記コンバータは、スイッチング素子(311〜316)を有し、
演算部(24)と、
制御部(23)と
を備え、
前記制御部は、直流電圧指令値(Vdcc;Vdch)と、前記コンバータから出力される前記直流電圧と、前記コンバータへ入力される電流(Iu1,Iv1,Iw1)とが入力され、それらを用いて変調率(K)を得て前記スイッチング素子のオン/オフのタイミングを求め、前記タイミングで前記スイッチング素子をオン/オフし、
前記演算部は、変調率指令値(Kc;Kh)及び前記変調率が入力され、前記変調率と前記変調率指令値との差がなくなるように前記直流電圧指令値を求める、コンバータ制御装置。
【請求項10】
選択部(21)と、
記憶部(22)と
を更に備え、
前記記憶部は、冷房及び暖房の各々に対応した前記変調率指令値(Kc,Kh)を記憶し、
前記選択部は、所定の指令に基づいて、前記記憶部から前記変調率指令値の一を選択し、前記演算部(24)に与える、請求項9記載のコンバータ制御装置。
【請求項11】
前記所定の指令値は、前記冷房と前記暖房とを切り替える、請求項10記載のコンバータ制御装置。
【請求項12】
請求項7、請求項8及び請求項11のいずれか一つに記載のコンバータ制御装置と、
前記コンバータ(31)と
を備え、
前記冷房及び前記暖房を行う空調機を、前記コンバータから出力される前記直流電圧(Vdc)に基づいて制御する、空調機の制御装置。
【請求項13】
請求項12記載の空調機の制御装置を備え、
前記制御装置から出力される前記直流電圧(Vdc)に基づいて制御される、空調機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−6046(P2006−6046A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180872(P2004−180872)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】