説明

コンパレータ回路およびそれを用いた試験装置

【課題】コンパレータの遅延時間分散を低減する。
【解決手段】コンパレータ100は、入力電圧VINと基準電圧VREFを比較する。入力段10は、差動増幅器を含む。遅延回路20は、入力段10の出力信号S1を調節可能に遅延させる。遅延補償回路30は、入力段10におけるオーバードライブ電圧VODに応じて、遅延回路20の遅延量を制御する。遅延補償回路30は、差動増幅器の出力電圧をオーバードライブ電圧VODを示す信号として利用し、遅延回路20の遅延量τを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパレータ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの電圧信号あるいは電流信号(以下、電気信号という)の大小関係を比較するために、コンパレータが用いられる。コンパレータは有限の応答時間(遅延時間)を有しており、市販の高速なコンパレータ(たとえばナショナルセミコンダクター社のLMH7324)では、10mVから1Vの範囲の入力レベルに対する遅延時間の変化、すなわち遅延時間分散は20psである。
【0003】
図1(a)〜(c)は、コンパレータの遅延時間分散を説明する図である。いま、コンパレータの第1の入力端子に所定の基準電圧VREFが、第2の入力端子に基準電圧VREFとクロスするようにその電圧レベルが変動する入力電圧VINが入力されるものとする。図1(a)は、入力電圧VINおよび基準電圧VREFを、図1(b)はコンパレータの出力信号Qのレベルを示す。
【0004】
コンパレータの出力信号Qは、入力電圧VINが基準電圧VREFとクロスするタイミングt1よりも遅れて遷移する。この遅延量は、入力電圧VINが基準電圧VREFをどの程度超えて遷移するか、言い換えれば遷移後の入力電圧VINと基準電圧VREFの電位差(これをオーバードライブ電圧という)に応じて変化する。具体的にはオーバードライブ電圧が大きいほど、出力信号Qの遅延は小さくなる。図1(c)には、オーバードライブ電圧と遅延量の関係が示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「LMH7324 RSPECL 出力対応クワッド700ps 高速コンパレータ」仕様書、[online]、[2010年5月28日検索]、インターネット<URL:http://www.national.com/JPN/ds/LM/LMH7324.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1(c)に示される遅延時間分散は、アプリケーションによっては無視できない影響を及ぼす。たとえば入力電圧のスイング量(振幅)が小さい場合には、オーバードライブ電圧が0.2V以下となり、遅延量が非常に大きくなるかもしれない。
【0007】
また半導体デバイスを試験する試験装置には、時間デジタル変換器(TDC:Time to Digital Converter)が用いられるが、このTDCの前段に遅延時間分散を有するコンパレータを利用すると、TDCの時間分解能が、コンパレータの遅延時間分散によって制限されてしまうという問題もある。
【0008】
なお、このような課題を本発明の分野における共通の一般知識の範囲として捉えてはならない。さらに言えば、上記考察自体が、本出願人がはじめて想到したものである。
【0009】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、コンパレータの遅延時間分散の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、2つの入力電圧を比較するコンパレータに関する。コンパレータは、差動増幅器を含む入力段と、入力段の出力信号を調節可能に遅延させる遅延回路と、入力段におけるオーバードライブ電圧に応じて、遅延回路の遅延量を制御する遅延補償回路と、を備える。
【0011】
この態様によると、入力段の後段に遅延回路を設け、その遅延量をオーバードライブ電圧に応じてフィードフォワード制御することにより、遅延時間分散を好適にキャンセルすることができる。
【0012】
遅延回路は、入力段の出力信号を固定的に遅延させる固定遅延回路と、固定遅延回路の出力信号に、遅延補償回路による制御に応じた可変遅延を与える可変遅延回路と、を備えてもよい。
フィードフォワード制御には制御遅延が生ずる。制御遅延が大きい場合には、遅延量の補償が行われる可変遅延回路の前段に固定遅延回路を設けることにより、フィードフォワード制御を好適に行うことができる。
【0013】
遅延補償回路は、差動増幅器の出力電圧を、オーバードライブ電圧を示す信号として利用し、遅延量を制御してもよい。
入力段の差動増幅器は、オーバードライブ電圧が大きいとき飽和領域で動作し、オーバードライブ電圧が小さいときにはリニア領域で動作する。差動増幅器の出力電圧、すなわち差動対とそれに対する負荷(たとえばカレントミラー負荷)との接続点の電圧に着目すると、飽和領域において一定(たとえば電源電圧)となり、リニア領域では入力電圧がゲイン倍された電圧が得られる。したがって差動増幅器の出力電圧を利用して、その変動とは逆特性を有するように遅延回路の遅延量を調節することにより、コンパレータ全体としての遅延時間分散を低減することができる。
【0014】
遅延補償回路は、そのゲートに電源電圧が印加され、その第1端子に差動増幅器の出力電圧が印加される制御用トランジスタを含んでもよい。可変遅延回路は、そのゲートが制御用トランジスタの第2端子と接続され、その第1端子に電源電圧が印加されるバイアストランジスタと、バイアストランジスタの第2端子と接地端子の間に設けられたインバータ型の遅延回路と、を含んでもよい。
この構成によれば、オーバードライブ電圧の変動の逆特性を有する遅延を与えることができる。
【0015】
本発明の別の態様は、試験装置である。この試験装置は、入力信号を基準電圧と比較するコンパレータと、コンパレータの出力信号とストローブ信号の遷移タイミングの時間差を示すデジタル値を生成する時間デジタル変換器と、を備える。
この態様によると、試験装置の時間分解能を高めることができる。
【0016】
本発明のさらに別の態様もまた、試験装置である。この装置は、コンパレータを備える。
この態様によると、試験装置の時間分解能を高めることができる。
【0017】
本発明のさらに別の態様もまた、試験装置である。この試験装置は、入力信号を基準電圧と比較するコンパレータと、コンパレータの出力信号とストローブ信号の遷移タイミングの時間差を示すデジタル値を生成する時間デジタル変換器と、を備える。コンパレータは、入力信号および基準電圧が入力された差動増幅器を含む入力段と、入力段におけるオーバードライブ電圧に応じて、デジタル値を補正する遅延補償回路と、を含む。
【0018】
この態様によると、遅延回路の遅延量を調節することに代えて、デジタル値を補正することにより、コンパレータの遅延時間分散を抑制することができる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のある態様によれば、コンパレータの遅延時間分散を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1(a)〜(c)は、コンパレータの遅延時間分散を説明する図である。
【図2】実施の形態に係るコンパレータの構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態に係るコンパレータの具体的な構成例を示す回路図である。
【図4】図3のコンパレータの遅延量τを示す図である。
【図5】実施の形態に係るコンパレータを用いた試験装置の構成を示すブロック図である。
【図6】変形例に係るコンパレータを用いた試験装置の別の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0024】
図2は、実施の形態に係るコンパレータ100の構成を示すブロック図である。コンパレータ100は、入力段10、遅延回路20、遅延補償回路30を備える。コンパレータ100は、2つの入力電圧VINおよびVREFを比較する。具体的には、2つの電圧の一方は固定的な基準電圧VREFであり、他方は時間とともに電圧レベルが変化する入力電圧VINである。
【0025】
入力段10は、差動増幅器を含む。遅延回路20は、入力段10の出力信号S1を調節可能に遅延させる。遅延回路20が出力信号S1に与える遅延量をτDLYとする。遅延補償回路30は、入力段10におけるオーバードライブ電圧VOD、すなわち、入力電圧VINのレベル遷移後の安定した電圧と基準電圧VREFとの電位差に応じて、遅延回路20の遅延量τDLYを制御する。
【0026】
遅延回路20は、固定遅延回路22および可変遅延回路24を含む。固定遅延回路22は、入力段10の出力信号S1を固定的に遅延させる。固定遅延回路22の遅延量をτFIXと呼ぶ。可変遅延回路24は、固定遅延回路22の出力信号S2に、遅延補償回路30による制御に応じた可変遅延τVARを与える。つまり、遅延回路20全体の遅延量τDLYは、
τDLY=τFIX+τVAR
で与えられる。
【0027】
以上がコンパレータ100の基本構成である。上述したように、2つの電圧VREFとVINがクロスしたタイミングから、入力段10の出力信号S1のレベルが遷移するタイミングまでの遅延時間τCMPは、オーバードライブ電圧VODに応じて変化する。つまり、遅延時間τCMPは、オーバードライブ電圧VODに応じた関数として、
τCMP=f(VOD
と表すことができる。この関数f(VOD)は、あらかじめシミュレーションあるいは実測によって取得することができる。
【0028】
コンパレータ100全体の遅延量τは、
τ=τCMP+τDLY …(1)
で与えられる。コンパレータ100の遅延時間分散を抑制するためには、コンパレータ100の遅延量が一定であればよい。そこで遅延補償回路30は、コンパレータ100全体の遅延量τが一定値constとなるように、τDLYを調節する。
τDLY=const−τDLY …(2)
【0029】
遅延回路20の遅延量τDLYをオーバードライブ電圧VODの関数g(VOD)と書くとすると、その関数は、
g(VOD)=const−f(VOD) …(3)
で与えられる。上述のように、関数f(VOD)は設計段階において取得可能であるから、式(3)を満たすような遅延量τDLYも、オーバードライブ電圧VODの関数として取得することができる。
【0030】
つまり遅延補償回路30は、遅延回路20の遅延量τDLYが、オーバードライブ電圧VODに対して入力段10の遅延時間τCMPと逆特性を有するように、式(3)に従って遅延量τDLYを調節する。
【0031】
このコンパレータ100によれば、入力段10の後段に遅延回路20を設け、その遅延量τDLYをオーバードライブ電圧VODに応じてフィードフォワード制御することにより、遅延時間分散を好適にキャンセルすることができる。
【0032】
またフィードフォワード制御においては、制御遅延が生ずる。制御遅延が大きい場合には、遅延量の補償が行われる可変遅延回路24の前段に固定遅延回路22を設けることにより、フィードフォワード制御を好適に行うことができる。
【0033】
続いて、遅延補償回路30による具体的な遅延量の調節について説明する。
より具体的には遅延補償回路30は、入力段10の差動増幅器の出力電圧を、オーバードライブ電圧VODを示す信号として利用し、遅延回路20の遅延量τDLYを制御する。
【0034】
図3は、実施の形態に係るコンパレータ100の具体的な構成例を示す回路図である。入力段10は、差動増幅器12および出力段14を備える。差動増幅器12は、差動入力対M11、M12、能動負荷であるカレントミラー回路M13、M14およびテイル電流源であるトランジスタM15を含む一般的な構成である。なお差動増幅器12の構成は図3のそれには限定されない。
【0035】
出力段14は、差動増幅器12の出力電圧(差動電圧)VDIFFに応じた信号S1を、後段の遅延回路20へと出力する。出力段14の構成も図3のそれには限定されない。
【0036】
入力段10の差動増幅器12は、リニア領域と飽和領域の2つで動作する。ここで差動増幅器12の出力電圧VDIFF、すなわち差動対M12とそれに対する負荷、つまりトランジスタM14との接続点N1の電圧に着目する。差動増幅器12は、オーバードライブ電圧VODがある程度大きくなると飽和領域動作となり、差動増幅器12の出力電圧VDIFFは電源電圧Vddの一定値をとる。
【0037】
反対にオーバードライブ電圧VODが小さいと差動増幅器12はリニア領域で動作し、差動増幅器12の出力電圧VDIFFとして、入力電圧VINがゲイン倍された電圧が発生する。すなわち差動増幅器12の出力電圧VDIFFはオーバードライブ電圧VODに対してほぼ線形に変化する。図1(c)に示したように、遅延時間分散は、オーバードライブ電圧VODが小さな領域、つまりリニア領域で顕著であるため、差動増幅器12の出力電圧VDIFFを利用して、その変動とは逆特性を有するように遅延回路20の遅延量τを調節することにより、コンパレータ100全体としての遅延時間分散を低減することができる。
【0038】
遅延補償回路30は、制御用トランジスタM31を含む。制御用トランジスタM31はNチャンネルMOSFETであり、そのゲートに電源電圧Vddが印加され、その第1端子(チャネルの一端)に差動増幅器12の出力電圧VDIFFが印加される。
【0039】
可変遅延回路24は、バイアストランジスタM21およびインバータ型遅延回路28を含む。バイアストランジスタM21はPチャンネルMOSFETであり、そのゲートは制御用トランジスタM31の第2端子(チャンネルの他端)と接続され、その第1端子(ソース)には電源電圧Vddが印加される。インバータ型遅延回路28は、バイアストランジスタM21の第2端子(ドレイン)と接地端子Vssの間に設けられる。インバータ型遅延回路28の遅延時間τVARは、バイアストランジスタM21に流れるバイアス電流Ibiasに応じて変化する。
【0040】
この構成によれば、制御用トランジスタM31は、オーバードライブ電圧VODに依存する出力電圧VDIFFに応じて、バイアストランジスタM21のゲート電圧、すなわちバイアス電流Ibiasを調節することができる。このときの遅延量τDLYは、入力段10の遅延量τCMPの分散と逆特性を有するものとなる。
【0041】
固定遅延回路22は、多段接続された複数のインバータを含む。また可変遅延回路24の後段には、出力バッファ26が設けられている。
【0042】
図4は、図3のコンパレータ100の遅延量τを示す図である。横軸はオーバードライブ電圧VODを、縦軸は遅延量τを示す。図4あるいは図1(c)に示すように、コンパレータ単体(つまり入力段10のみ)では、オーバードライブ電圧VODが0.2V以下の領域において、遅延時間τCMPの分散が非常に大きかった。これに対して、図3のコンパレータ100によれば、遅延回路20の遅延量τDLYを図4に示すように、入力段10の遅延量と逆特性を有するように変化させることができ、それらを合成して得られる全体の遅延量τは、オーバードライブ電圧VODによらずに一定値とすることができる。
【0043】
なおコンパレータ100全体の遅延量は、遅延回路20を設けることにより、入力段10単体の場合よりも大きくなる。したがって、図2、図3のコンパレータ100は、遅延時間の絶対量ではなく、遅延時間分散が小さいことが要求されるアプリケーションに好適に利用することができる。
【0044】
続いて、コンパレータ100の好適なアプリケーションを説明する。
図5は、実施の形態に係るコンパレータ100を用いた試験装置2の構成を示すブロック図である。試験装置2は、コンパレータ100および時間デジタル変換器(Time to Digital Converter、以下TDCという)300を備える。
【0045】
TDC300は、第1の信号(以下、スタート信号という)と第2の信号(ストップ信号)の遷移タイミングの時間差をデジタル値に変換する。TDC300は、バーニア遅延回路200と、プライオリティエンコーダ202を備える。バーニア遅延回路200は、スタート信号SSTARTとストップ信号SSTOPを受け、時間差に応じた位置でビットが変化するサーモメータコードTCを生成する。バーニア遅延回路200は、第1遅延回路210と、第2遅延回路220と、サーモメータラッチTL0〜TLNを備える。
【0046】
第1遅延回路210は、多段接続されたN個の第1遅延素子D1を含み、スタート信号SSTARTに、ステージごとに第1所定量t1の遅延を与え、異なる遅延が付与された(N+1)個の遅延スタート信号SA0〜SANを出力する。同様に第2遅延回路220は、多段接続されたN個の第2遅延素子D2を含み、ストップ信号SSTOPにステージごとに第2所定量の遅延を与え、異なる遅延が付与された(N+1)個の遅延ストップ信号SB0〜SBNを出力する。
【0047】
第1所定量t1の遅延は、第2所定量t2よりも長く設定される。第1遅延回路210、第2遅延回路220内の遅延素子を1段通過するごとに、スタート信号SSTARTとストップ信号SSTOPの相対的な時間差は、Δt=(t1−t2)だけ小さくなる。スタート信号SSTARTとストップ信号SSTOPの初期の時間差がτである場合、(τ/Δt)段の遅延素子を経由した段階で、2つの信号のエッジのタイミングは逆転する。
【0048】
j段目(jは0≦j≦Nを満たす整数)のサーモメータラッチTLjは、j段目から出力される遅延ストップ信号SBjを、j段目から出力される遅延スタート信号SAjでラッチする。本明細書においては、便宜的に1段目よりひとつ前を0段目という。つまり、0段目のサーモメータラッチTL0は、遅延される前のスタート信号と、遅延される前のストップ信号を受ける。
【0049】
その結果、ストップ信号SSTOPがスタート信号SSTARTに追いつくまでは、サーモメータラッチTLの出力は0となり、追いついたところから先は1となる。かくして、(N+1)個のサーモメータラッチTL0〜TLNによりラッチされたデータが、サーモメータコードTC[0:N]として出力される。サーモメータコードの名称は、あるビットを境として値が1から0(または0から1)に切り替わることが、温度計に似ていることにちなんでいる。
【0050】
なお、スタート信号SSTARTにストップ信号SSTOPが追いつかなかった場合、サーモメータコードTCは全ビットが0となり、スタート信号SSTARTよりもストップ信号SSTOPが先に入力された場合、全ビットが1となる。
【0051】
コンパレータ100は、DUT1から出力される試験信号を受け、その電圧レベルVINを所定のしきい値電圧VREFと比較する。コンパレータ100の出力信号は、TDC300にスタート信号SSTARTとして供給される。また、TDC300にはストップ信号SSTOPとして、ある基準タイミングでハイレベルに遷移するストローブ信号STROBEが入力される。
【0052】
試験装置2は、DUT1からの試験信号が、ストローブ信号STROBEに対して、どれほど離れたタイミングで遷移しているかを測定する。
【0053】
このような用途において、コンパレータ100が、DUT1からの試験信号の振幅に対して遅延時間分散を有していると、正確にDUT1を評価することができない。そこで上述したコンパレータ100を用いることにより、試験信号の振幅が変化してオーバードライブ電圧VODが変化しても、コンパレータ100での遅延時間τは一定であることが保証されるため、DUT1を正確に評価することができる。なおこの用途では、遅延時間τの絶対値が大きいことは問題とならない。なぜなら、遅延時間τに応じてストローブ信号SSTROBEのタイミングを遅くすればよいからである。
【0054】
図6は、変形例に係るコンパレータ100aを用いた試験装置2aの構成を示すブロック図である。
【0055】
図2、図3のコンパレータ100では、入力段10の後段に遅延回路20が設けられていたが、図6のコンパレータ100aではそれが省略されている。その代わりに、コンパレータ100aは、後段においてデジタル信号処理によって入力段10の遅延量τCMPを補正する。
【0056】
試験装置2aは、コンパレータ100aおよびTDC300を備える。
コンパレータ100aは、入力段10、遅延補償回路30aおよびA/Dコンバータ32を備える。遅延補償回路30aは、入力段10の遅延時間分散をキャンセルするために後段において与えるべき遅延量τDLYを示すアナログの制御電圧VCNTを出力する。このアナログ電圧VCNTは、図2において可変遅延回路24に入力される電圧に相当し、図3においてバイアストランジスタM21のゲートに入力される電圧に相当する。
【0057】
A/Dコンバータ32は、アナログ電圧VCNTをデジタル値DCNTに変換する。プライオリティエンコーダ202は、デジタル値DCNTに応じて、時間差を示すバイナリコードBCの値を補正する。バイナリコードBCの補正は、プライオリティエンコーダ202の後段において行ってもよい。
【0058】
この構成によれば、遅延回路20が不要となり、回路面積を削減できるという利点がある。
【0059】
その他、実施の形態に係るコンパレータ100は、試験装置のピンエレクトロニクスボードに搭載されるコンパレータ(タイミングコンパレータ)にも利用することができる。
【0060】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセス、それらの組み合わせには、さまざまな変形例が存在しうる。以下、こうした変形例について説明する。
【0061】
実施の形態ではMOSFETを用いた構成を説明したが、それらの一部をバイポーラトランジスタで構成してもよい。また、NチャンネルMOSFETとPチャンネルMOSFETを置換し、電源電圧Vddと接地電圧Vssを天地反転した構成も本発明の態様として有効である。
【0062】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0063】
1…DUT、2…試験装置、100…コンパレータ、10…入力段、12…差動増幅器、14…出力段、20…遅延回路、M21…バイアストランジスタ、22…固定遅延回路、24…可変遅延回路、26…出力バッファ、28…インバータ型遅延回路、30…遅延補償回路、M31…制御用トランジスタ、S1…出力信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの入力電圧を比較するコンパレータであって、
差動増幅器を含む入力段と、
前記入力段の出力信号を調節可能に遅延させる遅延回路と、
前記入力段におけるオーバードライブ電圧に応じて、前記遅延回路の遅延量を制御する遅延補償回路と、
を備えることを特徴とするコンパレータ。
【請求項2】
前記遅延回路は、
前記入力段の出力信号を固定的に遅延させる固定遅延回路と、
前記固定遅延回路の出力信号に、前記遅延補償回路による制御に応じた可変遅延を与える可変遅延回路と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のコンパレータ。
【請求項3】
前記遅延補償回路は、前記差動増幅器の出力電圧を前記オーバードライブ電圧を示す信号として利用し、前記遅延量を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のコンパレータ。
【請求項4】
前記遅延補償回路は、
そのゲートに電源電圧が印加され、その第1端子に前記差動増幅器の出力電圧が印加される制御用トランジスタを含み、
前記可変遅延回路は、
そのゲートが前記制御用トランジスタの第2端子と接続され、その第1端子に電源電圧が印加されるバイアストランジスタと、
前記バイアストランジスタの第2端子と接地端子の間に設けられたインバータ型の遅延回路と、
を含むことを特徴とする請求項2に記載のコンパレータ。
【請求項5】
入力信号を基準電圧と比較する請求項1から4のいずれかに記載のコンパレータと、
前記コンパレータの出力信号とストローブ信号の遷移タイミングの時間差を示すデジタル値を生成する時間デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする試験装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のコンパレータを備えることを特徴とする試験装置。
【請求項7】
入力信号を基準電圧と比較するコンパレータと、
前記コンパレータの出力信号とストローブ信号の遷移タイミングの時間差を示すデジタル値を生成する時間デジタル変換器と、
を備え、
前記コンパレータは、
前記入力信号および前記基準電圧が入力された差動増幅器を含む入力段と、
前記入力段におけるオーバードライブ電圧に応じて、前記デジタル値を補正する遅延補償回路と、
を含むことを特徴とする試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−44521(P2012−44521A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185020(P2010−185020)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】