説明

コーティング方法

【課題】プラスチックからなる基材に形成される金属層の機能性を確保すると共に金属層の性質をより幅広く実現可能とする。
【解決手段】プラスチックからなる板状の基材Yの少なくとも一方側の面に金属層X1を形成するコーティング方法であって、上記金属層X1の原料粉末Xを圧延処理によって上記基材Yの少なくとも一方側の面に圧着する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックからなる基材に対して金属層を形成するコーティング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックからなる基材の保護や新たな機能の追加のために、基材に対して金属からなるコーティング層を形成する場合がある。
例えば、プラスチックからなる基材の耐摩耗性を向上させるために、基材の表面にクロムを含む金属層を形成する場合がある。また、プラスチックからなる基材に対して触媒作用を追加するために、基材の表面にプラチナを含む金属層を形成する場合がある。
そして、このような金属層を形成する方法としては、金属層からなるシートや金属層の原料粉末を接着剤によって基材に貼り付ける方法が用いられている。
【特許文献1】特許第3807991号公報
【特許文献2】特許第3707216号公報
【特許文献3】特許第3783472号公報
【特許文献4】特許第3737751号公報
【特許文献5】特許第2740943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、接着剤を用いて、金属層からなるシートや金属層の原料粉末を基材に対して貼り付けた場合には、接着剤の成分が金属層と基材の間、あるいは金属層に残ることとなり、金属層が所望の機能性を発揮できない場合がある。
また、接着剤と基材との相性及び接着剤と金属層との相性を考慮する必要があるため、基材として用いることができるプラスチック材料や金属層の形成材料が限定されてしまう。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、プラスチックからなる基材に形成される金属層の機能性を確保すると共に金属層の性質をより幅広く実現可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、プラスチックからなる板状の基材の少なくとも一方側の面に金属層を形成するコーティング方法であって、上記金属層の原料粉末を圧延処理によって上記基材の少なくとも一方側の面に圧着する工程を有することを特徴とする。
【0006】
このような特徴を有する本発明のコーティング方法によれば、金属層の原料粉末が基材に対して圧着される工程を含んで金属層が形成される。つまり、接着剤を用いることなく金属層の原料粉末が基材に対して固着される。
【0007】
また、本発明においては、上記原料粉末は、上記金属層の粉末であるという構成を採用する。
【0008】
また、本発明においては、一対の圧延ローラ間において上記粉末を上記基材の少なくとも一方側の面に圧着するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着剤を用いることなく金属層の原料粉末が基材に対して固着される。つまり、本発明によれば、金属層からシートと基材とを圧延処理によって貼り合わせることなく金属層を基材に対してコーティングすることができる。このため、接着剤が残存すること接着剤に起因して材料が限定されることを回避することができる。よって、本発明によれば、プラスチックからなる基材に形成される金属層の機能性を確保すると共に金属層の性質をより幅広く実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係るコーティング方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材の認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本第1実施形態のコーティング方法を行うコーティング装置D1の概略構成図である。
この図に示すように、コーティング装置D1は、ホッパ1と、ベルトフィーダ2と、圧延ローラ3とを備えている。
【0012】
ホッパ1は、後述する金属層X1の原料粉末Xを収容すると共に原料粉末Xをベルトフィーダ2に供給するように構成されている。
【0013】
ベルトフィーダ2は、原料粉末Xを搬送し、圧延ローラ3上から下方に原料粉末Xを落下させることによって、圧延ローラ3の周面(後述する圧延ローラ3Aの周面)に原料粉末Xを供給する構成となっている。
【0014】
圧延ローラ3は、一対の圧延ローラ3Aと圧延ローラ3Bとによって構成されている。圧延ローラ3Aがベルトフィーダ2の下方に位置されるように配置されている。この圧延ローラ3は、不図示の回転駆動機構により回転駆動されることによって、ベルトフィーダ2を介して供給される原料粉末Xと上方から挿通される板状の基材Yとを圧延ローラ3Aと圧延ローラ3Bとの間において圧延する構成となっている。
そして、圧延ローラ3は、圧延ローラ3A,3B間において基材Y及び原料粉末Xを圧延処理によって圧着し、これによって基材Yの一方側の面に、原料粉末Xからなる粉末層である金属層X1を形成する。
【0015】
なお、本実施形態のコーティング方法においては、原料粉末Xは、金属層X1の粉末によって構成されている。また、基材Yはプラスチックから形成された板状部材である。
【0016】
そして、このような構成を有するコーティング装置D1の動作である本実施形態のコーティング方法では、まずホッパ1に収容された原料粉末Xがベルトフィーダ2によって圧延ローラ3Aの周面に供給される。
圧延ローラ3Aの周面に供給された原料粉末Xは、圧延ローラ3Aの回転駆動によって、圧延ローラ3A,3Bの間に供給され、圧延ローラ3A,3Bの間に上方から下方へ挿通されて搬送される板状の基材Yの一方側の面に圧着されて配置される。そして、以上の工程によって、原料粉末Xからなる粉末層である金属層X1が基材Yの一方側の面に形成される。
【0017】
このような本実施形態のコーティング方法によれば、接着剤を用いることなく金属層の原料粉末Xが基材Yに対して固着される。つまり、本実施形態のコーティング方法によれば、金属層からシートと基材とを圧延処理によって貼り合わせることなく金属層を基材に対してコーティングすることができる。このため、接着剤が残存すること接着剤に起因して基材Y及び原料材料Xが限定されることを回避することができる。よって、本実施形態のコーティング方法によれば、プラスチックからなる基材Yに形成される金属層X1の機能性を確保すると共に金属層X1の性質をより幅広く実現することが可能となる。
【0018】
また、本実施形態のコーティング方法においては、原料粉末Xが金属層X1の粉末から構成されているものとした。このため、原料粉末Xを基材Yに対して圧着した後に原料粉末Xに対して何らかの処理を行うことなく金属層X1を形成することができる。
【0019】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0020】
図2は、本第2実施形態のコーティング方法を行うコーティング装置D2の概略構成図である。
この図に示すように、コーティング装置D2は、上記第1実施形態におけるコーティング装置D1が備えるホッパ1と、ベルトフィーダ2と、圧延ローラ3に加え、プーリ4と、レーザ加熱炉5と、回収ローラ6とを備えている。
【0021】
プーリ4は、圧延ローラ3の下方に配置されており、圧延ローラ3によって原料粉末Xが一方側の面に圧着された基材Yを水平方向に案内するように構成されている。
【0022】
加熱炉5は、一方側の面に配置された原料粉末Xを基材Yごと、原料粉末Xの融点近傍まで加熱することによって原料粉末Xを溶融あるいは焼結させるものである。これによって、基材Yの一方側の面における粉末層が溶融あるいは焼結し、その後冷却されることによって基材Yに対してより強固に固着する金属層X1とされる。
【0023】
回収ローラ6は、加熱炉5から排出された基材Yを巻き取ることによって回収するものである。
【0024】
なお、本実施形態のコーティング方法においては、加熱炉5における基材Yの溶融を防止するために、基材Yよりも融点の低い原料粉末X(例えば半田)が用いられる。
【0025】
次に、このように構成されたコーティング装置D2の動作(すなわち、本実施形態のコーティング方法)について説明する。
【0026】
まず、上記第1実施形態のコーティング方法と同様に、まずホッパ1に収容された原料粉末Xがベルトフィーダ2によって圧延ローラ3Aの周面に供給され、圧延ローラ3Aの周面に供給された原料粉末Xが、圧延ローラ3Aの回転駆動によって、圧延ローラ3A,3Bの間に供給され、圧延ローラ3A,3Bの間に上方から下方へ挿通されて搬送される板状の基材Yの一方側の面に圧着されて配置される。
【0027】
そして、原料粉末Xが圧着された基材Yは、圧延ローラ3A,3Bの下方に位置する加熱炉5にプーリ4を介して挿入され、原料粉末Xの融点近傍まで加熱される。この結果、原料粉末Xが、溶融あるいは焼結し、その後冷却することによって基材Yの表面に強固に固着され、これによって金属層X1とされる。
【0028】
そして、強固に固着された金属層X1が形成された基材Yが回収ローラ6によって巻き取られることによって回収される。
【0029】
このような本実施形態のコーティング方法によれば、加熱炉5によって原料粉末Xが溶融あるいは焼結されるため、基材Yに対してより強固に固着された金属層X1を形成することができる。
このため、本実施形態のコーティング方法によって金属層X1が形成された基材Yは、回収ローラ6によって巻回して回収することが可能となる。
【0030】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係るコーティング方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0031】
例えば、上記実施形態においては、基材Yの一方側に金属層X1を形成する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、基材Yの両側に金属層X1を形成しても良い。
このような場合には、基材Yの搬送方向における両側にホッパ、ベルトフィーダを設置し、基材Yの両側に対して原料粉末Xを供給すれば良い。
【0032】
また、上記実施形態において原料粉末Xは、金属層X1の粉末である構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、原料粉末Xは、例えば熱処理等の後処理により金属層X1の成分となるものであっても良い。
つまり、例えば金属層X1が合金層である場合には、熱処理によって当該合金となる複数の金属粉末を原料粉末Xとして用いることもできる。
また、原料粉末Xとして金属化合物を用い、原料粉末Xを基材Yに対して圧着させた後に還元処理を行うことによって、金属層X1を形成することも可能である。
【0033】
また、上記第2実施形態においては、基材Yごと原料粉末Xを加熱する加熱炉5を用いて原料粉末Xを加熱する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、レーザ加熱装置等により、原料粉末Xのみを局所的に加熱する構成であっても良い。
このような構成を採用することによって、原料粉末Xとして基材Yよりも融点の高いものを用いた場合であっても、金属層X1を基材Yに対して強固に固着させることが可能となる。
【0034】
また、上記実施形態においては、一対の圧延ローラにてセラミックス含有粉末Xを圧着させることによって基材に対して配置する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、圧延ローラ以外の構成によってセラミックス含有粉末Xを圧着させても良い。
【0035】
また、上記実施形態においては、金属層X1が金属のみからなる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、金属層X1に金属以外の材料を含有させても良い。
このような場合には、原料粉末Xに金属以外の材料を混合させてホッパ1に収容しておけば良い。
【0036】
また、上記実施形態においては、金属層X1を基材Yの一方側の面の全面に対して形成する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、基材Yの局所的な領域に原料粉末Xを配置し、当該領域にのみ金属層X1を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態であるコーティング方法を行うためのコーティング装置の概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態であるコーティング方法を行うためのコーティング装置の概略図である。
【符号の説明】
【0038】
D1,D2……コーティング装置、X……原料粉末、X1……金属層、Y……基材、3……圧延ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックからなる板状の基材の少なくとも一方側の面に金属層を形成するコーティング方法であって、
前記金属層の原料粉末を圧延処理によって前記基材の少なくとも一方側の面に圧着する工程を有することを特徴とするコーティング方法。
【請求項2】
前記原料粉末は、前記金属層の粉末であることを特徴とする請求項1記載のコーティング方法。
【請求項3】
一対の圧延ローラ間において前記粉末を前記基材の少なくとも一方側の面に圧着することを特徴とする請求項1または2記載のコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155713(P2009−155713A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338511(P2007−338511)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】