説明

コーティング液およびコーティング方法

【課題】プラスチック、ガラス、金属などの成形品表面に優れた特性を与えるコーティング液およびコーティング方法を提供すること。
【解決手段】アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンとを、両者の合計として1〜30質量%の濃度で不活性有機溶剤中に溶解してなることを特徴とするコーティング液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種物品の表面改質に有用であるコーティング液およびコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種プラスチック(なお、本発明における「プラスチック」とは「熱可塑性樹脂」および「熱硬化性樹脂」の双方を意味する)成形品が多種多量に使用されている。これらのプラスチック成形品としてはフィルム、シート、各種立体形状の物品がある。また、ガラス成形品や金属成形品も同様に各種の形状の物品が多量に使用されている。
【0003】
プラスチック成形品は、成形容易性、着色容易性、電気絶縁性、耐候性などの各種耐久性などの各種物性に優れているという利点があるが、他方では、ガラスや金属などに比較して表面が本質的に柔らかい材料であることから、表面耐擦傷性が劣る、電気的絶縁性であることから帯電しやすい、表面が疎水性であることから結露が生じ易いなどの欠点も多い。これらの欠点のうちで耐擦傷性の向上に関してはプラスチック成形品の表面に硬質樹脂塗料(ハードコート塗料)からなる硬質膜を形成する技術が知られている。また、帯電防止に関しては、プラスチック成形品の表面に導電性層を形成する方法、プラスチック成形品中に導電剤を含有させる方法が知られている。また、結露防止に関しては、プラスチック成形品の表面に親水性の層(例えば、第4級アンモニウム塩基を有する樹脂層)を形成する方法などが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記表面耐擦傷性の改良、帯電防止、結露防止などに関する大部分の方法は、プラスチック成形品の表面に当該プラスチック成形品とは異なる材質からなる機能性層を形成することを内容としている。それ故にプラスチック成形品とその表面に形成する機能性層との密着性に問題が残っている。例えば、紫外線・電子線硬化性ハードコート塗料やポリシラザンを含む塗料によりプラスチック成形品表面に高硬度のハードコート層を形成することによって、プラスチック成形品の表面耐擦傷性を向上させることができるが、プラスチック成形品表面とハードコート層との密着性に問題があり、成形品の折り曲げなどによってハードコート層の白化や剥離が生じる。また、ポリシラザン塗料を用いる方法では、皮膜形成に高温を要し、耐熱性の低いプラスチック成形品には適用が困難である。また、帯電防止や結露防止層についても類似の問題が残っている。また、ガラスや金属成形品の表面改質においても様々な課題が残っている。
【0005】
従って本発明の目的は、プラスチック、ガラス、金属などの成形品表面に優れた特性を与えるコーティング液およびコーティング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
1.アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンとを、両者の合計として1〜30質量%の濃度で不活性有機溶剤中に溶解してなることを特徴とするコーティング液。
2.アルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランおよびそれらの縮合物から選ばれる少なくとも1種である前記1に記載のコーティング液。
3.アルコキシシラン(A)とパーヒドロポリシラザン(B)との合計量を100質量部とした場合、A:B=10〜90:90〜10の質量比である前記1に記載のコーティング液。
4.不活性有機溶剤が、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルおよびジブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である前記1に記載のコーティング液。
【0007】
5.前記1に記載のコーティング液を物品の表面に塗布し、アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンとを加水分解して上記物品の表層部に透明なSiOx含有膜を形成することを特徴とする物品のコーティング方法。
6.加水分解を、120℃以下の温度で行なう前記5に記載の物品のコーティング方法。
7.物品が、プラスチック成形品、ガラス成形品又は金属成形品である前記5に記載の物品のコーティング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特にプラスチック成形品表面に、耐擦傷性、帯電防止性、結露防止性などに優れた表面層を形成することができる。本発明のコーティング液をプラスチック成形品表面に塗布すると、コーティング液中の有機溶剤がプラスチック成形品の表面を膨潤させるとともに、コーティング液中の珪素化合物がプラスチック成形品の表層部中に浸透する。
【0009】
その後、特に高温で処理することなく、放置または加水処理することによって、プラスチック成形品の表層部中にSiOx(x≦2)が生成し、該表層部は成形品の構成材料である高分子化合物とSiOxとの混合複合層となる。該複合層中のSiOxの濃度は表面が最も高く、内部に向かって濃度が低下している。従って上記複合層は成形品表面と一体化しており、成形品を屈曲させても上記複合層が表面剥離することがない。しかも最表面はSiOxの含有量が最も高く、SiOxの特性である高硬度、導電性、親水性などが現れ、プラスチック成形品表面に、優れた耐擦傷性、帯電防止性および結露防止性などを付与することができる。また、成形品がガラスや金属性である場合も同様な効果が得られるが、その機構は不明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
本発明のコーティング液の主たる成分は、アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンと不活性有機溶剤である。アルコキシシランとしては、モノアルキルトリアルコキシシランなどのアルキルアルコキシシラン(アルキル基およびアルコキシ基の炭素数は1〜4個程度)も使用できるが、好ましいものはテトラアルコキシシラン、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランおよびそれらの縮合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのアルコキシシランは市場から入手して使用することができる。
【0011】
本発明で使用するパーヒドロポリシラザンとは、珪素、窒素および水素のみから構成される化合物であり、炭素などの有機成分を含まない無機のポリマーであり、−(SiH2NH)−ユニットから構成されている。これらのパーヒドロポリシラザンは登録商標「アクアミガ」として、商品番号NN110、NN310、NL110A、NL120A、NL150A、NL160A、NP110、NP140、SP140、UP140で市販されており、これらの商品は各種の固形分濃度の有機溶剤溶液として入手して使用することができる。特に好ましいものはジブチルエーテルの溶液となっている商品番号NL120Aである。
【0012】
本発明のコーティング液は前記アルコキシシランと前記パーヒドロポリシラザンとを有機溶剤に溶解してなる。使用する有機溶剤としては、上記化合物に対して不活性な有機溶剤であれば特に限定されないが、プラスチック成形品などの表面に対する適度の膨潤性、揮発性、環境衛生上からは、エーテル系有機溶剤、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルおよびジブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
これらの有機溶剤に溶解する前記アルコキシシラン(A)と前記パーヒドロポリシラザン(B)は、両者の合計量を100質量部とした場合、A:B=10〜90:90〜10の質量比であることが好ましい。アルコキシシランの使用量が少なすぎるとSiOxの生成に高い温度(例えば、120〜200℃)を必要とし、耐熱性の低いプラスチック製品への応用が困難である。一方、アルコキシシランの使用量が多すぎると、形成される複合膜の靭性が不十分であり、プラスチック成形品などを屈曲させた場合、複合膜にクラック(白化)が生じたり、密着性の良好な複合層の形成が困難である。
【0014】
本発明のコーティング液中における前記アルコキシシランと前記パーヒドロポリシラザンとの合計の濃度は1〜30質量%であることが好ましい。上記濃度が低すぎると所望の膜厚の複合層の形成に多量のコーティング液を使用しなければならず、一方、上記濃度が高すぎるとコーティング液のプラスチック成形品などの表層部への均一浸透性が妨げられ、高性能の複合層の形成が困難になる場合がある。なお、本発明のコーティング液は加水分解触媒などの各種添加剤を含んでもよい。
【0015】
本発明のコーティング方法は、上記本発明のコーティング液を物品の表面に塗布し、アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンを加水分解して上記物品の表層部に透明なSiOxを含む複合膜を形成することを特徴としている。本発明のコーティング方法でコーティングされる物品としては、プラスチック成形品、ガラス成形品および金属成形品などが挙げられるが、これらに限定されない。特に有効である物品はプラスチック成形品であるので以下プラスチック成形品を代表例として説明する。
【0016】
プラスチック成形品の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂などの公知の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられ、特に限定されるものではない。これらの材料からなるプラスチック成形品の形状は、フィルム、シート、板状体、その他の各種の立体的成形品が挙げられる。
【0017】
上記プラスチック物品の表面に対する前記本発明のコーティング液の塗布方法は特に限定されず、被塗布物品の形状に適した塗布方法、例えば、スプレー法、ディッピング法、刷毛塗り法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ法、インクジェット法などが挙げられる。塗布量についても特に限定されないが、被塗布物品に要求される表面性能に対応して塗布量を決定すればよい。一般的には、固形分換算にて0.1〜10g/m2であり、好ましくは0.5〜5g/m2である。塗布量が0.1g/m2未満であると充分な特性を有する表面複合層が形成されず、一方、塗布量が10g/m2を超えると複合層が過剰品質になる他に複合層の透明性が失われる場合がある。
【0018】
本発明のコーティング方法の顕著な特徴は、上記で塗布した塗布層の硬化に特別の加熱を必須としないことである。塗布層を加熱することによって複合層の形成が促進されるが、加熱温度は120℃以下で充分であり、従って耐熱性が低い汎用の熱可塑性樹脂からなるプラスチック成形品の表面処理が問題なく実施できる。上記塗布層の硬化は、塗布後に空気中に放置しておいても進行する。放置による硬化は、コーティング液の溶剤の蒸発とともに、空気中の水分の吸収による加水分解であり、数日から数十日で硬化が完了する。また、硬化には、塗布物に水を噴霧して放置してもよく、さらにスチームなどによる加熱を組み合わせてもよい。
【0019】
以上の如くして本発明のコーティング方法が完了してプラスチック成形品の表層部に、SiOxと当該成形品の樹脂成分との複合層が形成される。当該複合層と成形品表面との境界は明確ではなく、表面のSiOx濃度が最も高く成形品の内部に向かってSiOx濃度が徐々に低下していることが分析により明かになっている。複合層の厚みはコーティング液の塗布量によって変化するが、断面を電子顕微鏡で観察すると約0.5〜5μmの厚みが観察される。
【0020】
以上の如くして得られたプラスチック成形品の表面は、シリカに類似した無機性を有しており、成形品の構成樹脂の種類にかかわらず、その鉛筆硬度は4H〜6H以上に向上しており、耐擦傷性が顕著に向上している。しかも表面処理したシート形状などのプラスチック成形物を多数回繰り返し屈曲テストを行なっても表面複合層に変化がなく、剥離や白化(クラックによる)が認められない。これらの事実は、本発明のコーティング液によって形成される層がSiOxと成形品基材である樹脂との複合層となっていることを示唆している。
【0021】
また、上記複合層の表面はSiOxリッチであることから、当該表面は親水性であり、空気中の水分を吸着しており、表面抵抗が低く、約107〜1010Ω/□程度となっており、摩擦などによって静電気が帯電せず、埃などの付着も生じない。従ってプラスチック成形品が電子部品であっても帯電による当該部品の損傷が生じない。また、同様な理由で本発明のコーティング液によって処理されたプラスチックフィルムやシートは電子部品の包装材料としても有用である。さらに同様な理由から湿度の変化によってもその表面に微細水滴が付着することがなく、結露防止性・防曇性にも優れていることから、日光や他の光の透過を妨げることがなく、農業用ハウスのシートなどとしても有用である。
【0022】
以上処理対象物品としてプラスチック成形品を代表例として説明したが、本発明のコーティング液はガラス成形品に適用しても、ガラス成形品に対して優れた帯電防止、結露防止、防汚性などを付与することができる。このような性能の付与の理論的根拠は不明である。また、鉄やアルミニウムなどの金属製品の表面に塗布および被覆することで、優れた防食性、高硬度、防汚性などを付与することができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、以下の文中の部および%は全て質量基準である。
実施例1〜5
ポリシラザン(パーヒドロポリシラザン)のジブチルエーテル溶液(商品名アクアミカNL120A、クラリアントジャパン株式会社製、20%溶液)にジブチルエーテルを加えて濃度10%に希釈してA液を調製した。このA液100部に下記表1に記載のアルコキシシランをX部加えて溶解し本発明のコーティング液を得た。
【0024】
比較例1、2
上記のポリシラザン溶液単独(濃度10%)を比較例1とし、テトラエトキシシランのジブチルエーテル溶液(濃度10%)を比較例2とした。
【0025】

商品名シリケート45およびMシリケート51はいずれも多摩化学工業製である。
【0026】
実施例6
前記表1に記載の本発明のコーティング液および比較例1、2のコーティング液をそれぞれスプレー缶に挿入した。一方、20cm×20cmサイズで厚み1mmの透明アクリル板を用意し、該アクリル板の表面に前記スプレー缶よりコーティング液を固形分として約2g/m2の割合でスプレー塗布した。温度45℃に加熱して溶剤の大部分を除去した後、温度80℃、相対湿度80%の雰囲気に48時間放置した。得られた7種のアクリル板(No.1〜7および無処理のアクリル板(No.8))の透明性(目視観察)、表面硬度(鉛筆硬度)、表面固有抵抗(Ω/□)、防曇性および耐屈曲性を調べたところ下記表2の結果が得られた。
【0027】

【0028】
上記において、透明性は肉眼で観察し、未処理アクリル板と同等の透明性を有するか否かについて調べた。表面硬度はJIS規定による鉛筆硬度である。表面固有抵抗はJISの規定により測定した。防曇性は15℃に冷却したアクリル板を30℃80RHの雰囲気に入れた場合の曇の状況により判定した。耐屈曲性はアクリル板を95°の角度に5回繰り返し折り曲げた場合の折り曲げ線の白化状態を調べ、白化が認められないものを良好とし、白化が認められたものを不良とした。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上の本発明によれば、各種物品の表面改質に有用であるコーティング液およびコーティング方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンとを、両者の合計として1〜30質量%の濃度で不活性有機溶剤中に溶解してなることを特徴とするコーティング液。
【請求項2】
アルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランおよびそれらの縮合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
アルコキシシラン(A)とパーヒドロポリシラザン(B)との合計量を100質量部とした場合、A:B=10〜90:90〜10の質量比である請求項1に記載のコーティング液。
【請求項4】
不活性有機溶剤が、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルおよびジブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のコーティング液。
【請求項5】
請求項1に記載のコーティング液を物品の表面に塗布し、アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンとを加水分解して上記物品の表層部に透明SiOx含有膜を形成することを特徴とする物品のコーティング方法。
【請求項6】
加水分解を、120℃以下の温度で行なう請求項5に記載の物品のコーティング方法。
【請求項7】
物品が、プラスチック成形品、ガラス成形品又は金属成形品である請求項5に記載の物品のコーティング方法。

【公開番号】特開2006−219538(P2006−219538A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32245(P2005−32245)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(505048507)アートブリード株式会社 (1)
【Fターム(参考)】