説明

コーティング組成物

【課題】透明で、超撥水性、耐久性を有する被膜を形成するコーティング組成物を提供すること。
【解決手段】コーティング組成物は、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、(D)酸類、および、(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子を含有しており、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、および、(D)酸類は混合されて熟成が完了した状態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物に関し、特に、建築物の外壁や屋根、航空機、船舶、車両等のボディー、ガラス、ホイール等、乗用車のサイドミラー、エアコンの熱交換器、パラボラアンテナ、電線等に使用されるコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車のサイドミラーやガラス、家屋の窓ガラス等のように、屋外に設置されたり、屋外で使用されるガラスやミラーは、雨滴等が付着すると、視覚的に識別しにくくなり、視認性が低下する。また、建築物の外壁、屋根等に雨滴が付着すると美観を損ねる。さらにまた、パラボラアンテナ、電線等に結露や着氷が生じると、あるいは、エアコンの熱交換器に水滴が付着すると種々の問題が発生する。そのため、建築物の外壁等、パラボラアンテナ、電線、ガラスやミラー、熱交換器等の表面に撥水性を付与する技術の開発が行われている。
【0003】
例えば、特開2003−306670号公報、特開2004−149700号公報、特開2004−149701号公報、および、特開2005−218980号公報には、表面が疎水性の微粒子を用いて撥水性の塗膜を形成することが開示されているが、いずれも初期には高い撥水性を示すが、ワイパー等に対する耐摺動性が未だ十分ではなく、実際に屋外で使用した場合や、雨が激しく当たったり自動車のフロントガラスに使用した場合には、簡単にコーティング膜が剥がれてしまい実使用に耐えるものではなかった。
【0004】
耐久性の向上を目的として、特開平10−259037号公報および特開2000−144122号公報にはコーティング液を塗工した後に熱処理を行うことが開示されているが、350℃以上の高い熱処理が必要であり、操作が非常に煩雑であると共に、被コーティング物の耐熱性も大きな課題となっていた。また、特開2008−007363号公報には、焼結固定された撥水撥油防汚性の透明微粒子で表面が覆われた撥水撥油防汚性ガラス板が開示されているが、焼結工程で250℃以上の熱処理が必要であり、上記と同様の問題を含むものであった。
【0005】
特開2002−038094号公報には、有機・無機ハイブリッドゾル液に固体潤滑粒子を分散させたコーティング液を塗布して、接触角が140°以上の超撥水膜を形成することが開示されているが、この超撥水膜は透明性に劣っている。また、特開2003−206476号公報には、疎水化処理された無機微粒子と有機ケイ素化合物とを混合した超撥水剤組成物を用いて超撥水被膜を形成することが開示されているが、耐久性が十分ではなく、雨が激しく当たる場所やワイパーの摺動動作が強要される自動車のフロントガラス等に使用されると、簡単に超撥水被膜が剥がれてしまい、実用に耐えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−306670号公報
【特許文献2】特開2004−149700号公報
【特許文献3】特開2004−149701号公報
【特許文献4】特開2005−218980号公報
【特許文献5】特開平10−259037号公報
【特許文献6】特開2000−144122号公報
【特許文献7】特開2008−007363号公報
【特許文献8】特開2002−038094号公報
【特許文献9】特開2003−206476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、簡易に被膜を形成することができ、透明性に優れ、かつ、耐久性に優れた、超撥水性の被膜を形成することができるコーティング組成物を提供することにある。また、このコーティング組成物を用いて超撥水性のコーティング被膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のコーティング組成物は、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、(D)酸類、および、(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子を含有しており、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、および、(D)酸類は混合されて熟成が完了した状態であることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、(A)シリコンアルコキシドと(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子との割合は、重量比で、(A)/(E)=3/1〜16/1であることができる。
【0010】
本発明において、前記(D)酸類は無機酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明のコーティング被膜の形成方法は、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、および、(D)酸類を混合し、熟成が完了した後、(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子を添加してコーティング溶液を調製し、該コーティング溶液を被コーティング物体へ塗布した後、熱処理を施してコーティング被膜を形成することを特徴とする。
【0012】
ここで、前記コーティング溶液を被コーティング物体へ塗布する方法として、フローコート法、ディップコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、バーコート法、または、スクリーン印刷法のいずれかの方法を採用することが好ましい。
【0013】
また、前記被コーティング物体は、ガラス基板、金属基板、および、プラスチック基板のいずれかであることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記熱処理が、0℃以上、250℃未満の温度で行われることができる。
【0015】
本発明においては、前記熱処理の後、更に、フッ素を含まないヘキシルトリメトキシシラン若しくはフッ素を含むヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを塗布することによって疎水化処理を施すことが好ましい。
この場合、前記疎水化処理は、40℃以上、90℃以下の温度で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明性に優れ、かつ、耐久性に優れた、超撥水性の被膜を形成することができるコーティング組成物を提供することができ、このコーティング組成物を用いて、簡易に透明性かつ耐久性を有する超撥水性膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のコーティング組成物は、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、(D)酸類、および、(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子を含有している。
【0018】
本発明に用いられる(A)シリコンアルコキシドとしては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のテトラアルコキシシランが挙げられる。また、アルコキシドの種類としては、例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、または、ブトキシドが挙げられ、アルコキシ基の一部をβ−ジケトン、β−ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン等で置換したアルコキシド誘導体であっても良い。
【0019】
本発明に用いられる(B)アルコール類としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、または、1−メトキシ−2−プロパノールのような極性溶媒が挙げられる。これらの中では、エチルアルコール、または、イソプロピルアルコールを用いることが好ましい。これらのアルコール類は単独で、あるいは2種類以上を併用して用いることができる。本発明においてアルコール類は、微粒子等を安定に分散させるための溶媒として機能する。
【0020】
本発明に用いられる(C)水としては、例えば、イオン交換水等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる(D)酸類としては、例えば、塩酸、硫酸、または、硝酸のいずれかの無機酸、酢酸、ギ酸等の有機酸等が挙げられる。これらの酸類の中では、無機酸を用いることが好ましく、塩酸、硫酸、硝酸等を用いることが更に好ましい。これらの酸類は単独で、あるいは2種類以上を併用して用いることができる。本発明において酸類は、触媒として利用している。
【0022】
本発明に使用される(D)微粒子は、表面が疎水性であり、また、平均一次粒子径が100nm以下であることが必要である。微粒子の平均一次粒子径は、1〜100nmの範囲内であることが好ましく、5nm〜100nmの範囲内であることが更に好ましい。微粒子の粒子径が100nmを越えると、コーティング膜表面で光の散乱が生じ、透明性を保持することができなくなることがあるからである。すなわち、微粒子をガラス等の表面に付着させたコーティング膜は、この微粒子と同等の大きさや高さの凹凸を有するので、平均粒径が100nm以下の微粒子を付着させれば、可視光線の波長(主に、400〜800nm程度)より小さな凹凸となり、コーティング膜表面で光の散乱が生じず、透明性を保持することができる。したがって、本発明のコーティング組成物が適用される対象物がガラス、ミラー等である場合には透明性が有効に生かされ特に効果的である。
【0023】
微粒子の形状は、厳密な意味での球状に限定されることはない。例えば、その結晶形態や凝集状態の形態が、ほぼ球状、円柱状、鱗片状、繊維状、不定形状、または、多面体形状であってもよい。
【0024】
表面が疎水性である微粒子は、珪素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、アンチモン、スズ、タングステン、亜鉛、鉄、セリウム、マンガン、銅、マグネシウム、ホルミウムまたはニッケルの酸化物、あるいは、炭素を主成分とすることが好ましいが、特に酸化ケイ素であることが好ましい。本発明においては、これらを単独で、あるいは2種類以上を混合して使用することができる。微粒子が酸化亜鉛を用いて形成された場合には、コーティング膜表面に、さらに抗菌、抗カビ作用を付与することができる。
【0025】
本発明においては、表面が疎水性の微粒子が、疎水性シリカであることが好ましい。ここで「シリカ」とは、厳密にSiOの状態で存在するものだけではなく、珪素酸化物も含むことを意味する。表面が疎水性の微粒子とは、微粒子表面が疎水化処理されているものをいい、例えば、疎水性シリカとは、シリカの表面が疎水化処理されているものを意味する。
【0026】
微粒子表面を疎水化する方法としては、微粒子表面に疎水性を付与することができれば特に限定されることはなく、適宜採用される。例えば、表面にフッ素やアルキル基を含有させることが好ましい。微粒子表面にフッ素やアルキル基を含有させる方法としては、シリル化剤、シランカップリング剤、または、アルキルアルミニウム(有機金属化合物)を用いる方法が挙げられる。ここでシリル化剤とは、無機材料に対して親和性あるいは反応性を有する加水分解性シリル基に、アルキル基、アリル基、フッ素を含有したフルオロアルキル基等を結合させた化合物である。珪素に結合した加水分解性基としては、アルコキシ基、ハロゲン、または、アセトキシ基が挙げられるが、通常、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、塩素が好ましく使用される。例えば、トリメチルシリル化剤、アルキルシラン類、アリールシラン類、または、フルオロアルキルシラン類を挙げることができる。
【0027】
本発明においては、親水性の微粒子に疎水化処理を行って、表面を疎水性にしてもよい。
【0028】
本発明においては、乾式による疎水化処理を行うことが好ましい。ここで、乾式による疎水化処理とは、気相中で親水性微粒子と疎水化剤とを反応させることをいう。疎水化剤としては、モノメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、または、シリコーンオイルを使用することができる。例えば、高熱合成した二酸化珪素を、ジメチルジクロルシランを用いて流動床中で疎水化することができる。なお、疎水化反応は、400〜600℃の温度で実施することが好ましい。また、湿式による疎水化処理とは、溶液中で親水性微粒子と疎水化剤とを反応させることをいう。
なお、表面が疎水性の微粒子の疎水化度については、塗布等する対象である被コーティング物体の材質や、使用される有機溶媒の種類に応じて、適宜、設計されることが好ましい。
【0029】
シリカ表面にメチル基を含有する疎水性シリカとしては、例えば、商品名「レオロシールHM20S」((株)トクヤマ製、平均一次粒子径12nm)、商品名「レオロシールHM30S」((株)トクヤマ製、平均一次粒子径7nm)、商品名「レオロシールHM40S」((株)トクヤマ製、平均一次粒子径7nm)、商品名「レオロシールDM30S」((株)トクヤマ製、平均一次粒子径7nm)、商品名「レオロシールZD30S」((株)トクヤマ製、平均一次粒子径7nm)等を商業的に入手することができる。
【0030】
本発明においては、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分の混合割合は、適宜設計されることができるが、例えば、(A)シリコンアルコキシドと(E)微粒子との混合割合は重量比で、(A)成分/(E)成分=3/1〜16/1の範囲内であることが好ましく、9/1〜11/1の範囲内であることが更に好ましい。
また、(A)シリコンアルコキシドと(B)アルコール類との混合割合は重量比で、(A)成分/(B)成分=1/10〜4/10の範囲内であることが好ましく、30/190〜50/190の範囲内であることが更に好ましい。
【0031】
本発明においては、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、および、(D)酸類は、(E)微粒子と混合する前に、別途混合されていることが必要である。また、これらの混合液は、熱処理が施されて熟成が完了した状態であることが必要である。ここで、熟成が完了した状態とは、二酸化ケイ素の重合が適切にできて、シリコンアルコキシドのゾルゲルが適度に発達している状態であり、また後続の微粒子との混合工程において微粒子を取り込むことができて、塗布膜を形成する際に本願の効果を発揮しうる状態をいう。このように熟成が完了した状態の混合液を(E)微粒子と混合し、被コーティング物体に塗布等して被膜を形成すれば、初期の水滴接触角が150°以上であり、かつ、ワイパー10回摺動後の水滴接触角が140°以上の被膜を実現することができる。例えば、混合液に、熱処理温度が60℃で熱処理時間が12時間以上で熱処理が施された場合には、熟成が完了した状態になっている。
【0032】
(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を混合して熟成が完了した状態で(E)疎水性微粒子と混合させた場合には、熟成が完了した状態では二酸化ケイ素のポリマー鎖が十分に長くなっており、疎水性微粒子との密着性が向上するため、耐久性が著しく良くなるものと考えられる。
【0033】
本発明において、(E)疎水性微粒子は溶媒に分散された状態で上記混合液に添加することができる。ここで用いられる溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール等のアルコール類を使用することができ、具体的には、上記(B)アルコール類で挙げたものと同様のものを使用することができる。なお、本発明における(B)成分(アルコール類)の使用量には、この(E)成分を分散させるために使用されるアルコール類の使用量は含めないものとする。
【0034】
微粒子の添加量は、コーティング組成物中、0.1質量%以上、15.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、1質量%以上、5質量%以下の範囲内であることが更に好ましい。微粒子の添加量が0.1質量%未満であると十分な撥水性が得られないことがあり、15.0質量%を超えると透明感に劣る場合があるからである。
【0035】
本発明のコーティング組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、一般的なコーティング液等に通常使用される添加剤等を添加することができ、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、香料、または、防腐剤を添加することができる。
【0036】
本発明においては、表面が疎水性で、平均一次粒子径が100nm以下の微粒子を、アルコール類等の分散溶媒中で、キャビテーション作用により分散させることが好ましい。ここで、キャビテーション作用を起こさせるためには、例えば、微粒子を分散溶媒に入れて、超音波分散機を用いて分散させることにより達成される。キャビテーション作用により分散させられた上記微粒子は予想外の超撥水性を発揮するが、このメカニズムは明らかではない。分散溶媒に超音波を照射すると、圧力の高い部分と低い部分が現れ、水に溶けていた気体がキャビティ(気泡)となって発生する。この気泡が瞬間的に収縮破壊して、疎水性の微粒子を良好な状態で分散させたり、あるいは、更に何らかの作用を微粒子自体に及ぼすと考えられる。なお、ホモジナイザー等の分散機によって分散させても超撥水性を発揮することがあるが、形成される被膜の透明性との兼ね合いで調整が必要である。
【0037】
例えば、(A)〜(D)成分を混合し熟成が完了した状態で、(E)疎水性微粒子を分散溶媒に分散させたものを混合したコーティング組成物を、ガラス、鏡面等の被コーティング物体の表面に塗布等した後、乾燥させることによって、被コーティング物体に撥水性を付与することができる。ここで、微粒子は、被コーティング物体の表面に付着して凹凸を形成する。この凹凸は、ガラスと水滴との接点を小さくする働きをする。したがって、水滴の接触角度が150゜〜175゜であるような超撥水性を実現することができる。また、本発明のコーティング組成物は、ワイパーを10回摺動させた後でも水滴の接触角度が140°以上である。
【0038】
本発明のコーティング組成物を塗布する方法は、特に限定されることなく一般的な方法を採用することができる。例えば、フローコート法、ディップコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。また、これらを適宜、組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明のコーティング組成物を上記方法によって被コーティング物体にコーティングした後、乾燥させるが、乾燥温度は0℃〜100℃であり、乾燥時間は1分〜1時間であることが好ましい。
【0040】
次いで、被コーティング物体に塗布等されたコーティング膜は熱処理されることが好ましいが、その温度は0℃以上、250℃未満であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、例えば250℃以上になると、被コーティング物体自体の耐熱性が問題になってくるので、温度は高くなりすぎないことが好ましい。
【0041】
本発明においては、コーティング液塗布後、熱処理して形成されたコーティング被膜に、更に疎水化処理(FAS処理)を施すことができる。具体的には、フッ素を含まないアルキルシラン(ex.ヘキシルトリメトキシシラン)若しくはフッ素を含むフルオロアルキルシラン(ex.ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン)を有機溶媒で希釈した溶液を、コーティング被膜に接触させて(ex.塗布して)疎水化処理を行うことができる。なお、疎水化処理後はエタノール等で洗浄されることが好ましい。本発明においては、疎水化処理の温度は25℃〜75℃の範囲であり、処理時間は0.5時間〜8時間の範囲であることが好ましい。
【0042】
上記疎水化処理に使用されるフルオロアルキルシラン等としては、フルオロアルキルシラン(ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等)、アルキルシラン(デシルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。例えば、商品名「TSL8233」(ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、モメンティブ社製)、商品名「KBM−7103」(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)、商品名「KBM−3103」(デシルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)等を商業的に入手することができる。また、希釈に用いられる有機溶媒としては、ヘキサンが好ましい。
【0043】
本発明のコーティング組成物は、種々の被コーティング物体に対して適用することができる。塗工される被コーティング物体としては、例えば、強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、銅等の金属、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート等のプラスチック、石類、コンクリート等が挙げられる。
【0044】
本発明のコーティング組成物を、例えば、建築物の窓ガラス、外灯のガラス、車両の窓ガラス、自動車のサイドミラー、サングラス、各種計器等の窓ガラス、浴室用鏡等にコーティングすることができ、また、建物の外壁や屋根、塀、自動車・航空機・船舶のボディや鏡、ホイール等に使用することができる。本発明のコーティング組成物をコーティングし、乾燥させて形成された皮膜面には、超撥水性の膜が形成されるので、水滴、ごみ等の付着を防止し、美観の維持や視界の確保を実現することができる。また、エアコンの熱交換器等のように不必要に水滴のつきやすい部品の表面に超撥水性の被膜を形成すれば、水滴の付着を防止し、気流の抵抗を抑え、水の付着による熱伝導率の低下を防ぐことができる。また、パラボラアンテナや電線等に超撥水性被膜を形成すれば、結露や着氷を防止することができる。さらにまた、本発明によれば、透明なコーティング膜を形成することができるので、高層住宅の窓ガラス、道路鏡、道路標識、看板等にも好ましく使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。なお、各実施例及び各比較例は以下に示す方法で測定および評価を行った。
【0046】
(1)初期水滴接触角の測定
協和界面科学(株)製のCA−DT型接触角計を用い、大気中(約25℃)で2μLの水滴をサンプルガラスの撥水性膜に滴下して、水滴の静的接触角を測定した。
【0047】
(2)ウォッシャビリティーテスト
ワイパーによる摺動を想定した試験方法であり、具体的には、ウォッシャビリティーテスター((株)東洋精機製作所製)に市販のワイパー(ノーマルゴム)をセットし、サンプルガラスの撥水性膜面を荷重38g/cmの条件で、所定回数往復させた。ワイパー10回摺動後に、上記(1)と同様にして水滴の静的接触角を測定した。
【0048】
(3)仕上り性(透明性)の評価
撥水性膜を目視観察して、透明性の評価を行った。但し、評価基準は下記の5段階評価とした。
(評価基準)
5 完全に透明である
4 わずかに曇りが認められる
3 斜めから見ると曇りが認められる
2 正面から見ると曇りが認められる
1 白く見える
【0049】
(4)総合評価
得られたデータについて下記評価基準に基づいて総合評価を行った。
「○」 ワイパー10回摺動後の水滴接触角が140℃以上であり、かつ、仕上がり性の評価点が3.5以上の場合
「×」 ワイパー10回摺動後の水滴接触角が140℃未満であるか、仕上がり性の評価点が3.5未満の少なくとも一方の満たす場合
【0050】
なお、下記実施例および比較例では下記材料を使用した。
「レオロシールHM30S」: 疎水性シリカ、固形分100%、平均一次粒子径7nm、(株)トクヤマ製
IPA: イソプロピルアルコール(アルコール系溶媒)
「TEOS」: テトラエトキシシラン(ケイ酸エチル)(シリコンエトキシド)、特級99%
EtOH: エチルアルコール(アルコール系溶媒)
水: イオン交換水、1μS/cm以下
塩酸:2M塩酸水溶液
「TSL8233」: ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、モメンティブ社製
【0051】
(実施例1)
TEOSを25.25g、エチルアルコールを234mL、水を6.48g、および、2M塩酸水溶液を3mL混合してゾル液を作製した。なお、混合割合はモル比で、TEOS/EtOH/HO/HCl=0.3/10/0.9/0.015である。このゾル液に熱処理を施して熟成を行った。すなわち、20℃で1週間熱処理を行って熟成が完了したゾル液を得た。
別途、表面が疎水性で、粒子径が約7nmの疎水性シリカ(商品名「レオロシールHM30S」、固形分100%、(株)トクヤマ製)をイソプロピルアルコール(IPA)に入れ、超音波分散機を用い、周波数44KHzで1時間分散して、濃度10%の疎水性シリカIPA分散液(YIH2001)を作製した。
疎水性シリカ分散液(YIH2001)を攪拌しながら12mL採取し、得られたゾル液の80mLに攪拌しながら混合し、混合した後、2時間静止保存してコーティング液を作製した。
作製したコーティング液を、厚さ1.1mmのスライドガラス板(硼珪酸ガラス)上に、ディップコーターを用いてディップ速度が2mm/sで3回塗工し、ディップコーターを用いてディップ速度が3mm/sでEtOH洗浄を1回行った。その後、20℃で乾燥させた後、熱処理(60℃で12時間)を行って被膜を形成し、撥水性膜を有するガラス基材(サンプルガラス)を作製した。なお、施工時のスライドガラス板の温度は20℃であり、施工時のコーティング液の温度は20℃であった。
【0052】
得られたサンプルガラスの撥水性膜について、目視により初期の仕上り性(透明性)の評価を行った。また、上記測定方法等に基づいて、初期の撥水性の評価として初期水滴接触角の測定を行い、ウォッシャビリティーテストによるワイパー10回摺動後の水滴接触角の測定を行った。その結果を表1に示す。
なお、撥水性膜を有するガラス基材(サンプルガラス)に、「TSL8233」の1%ヘキサン溶液を用い、60℃で5時間、疎水化処理を施し、処理終了後にEtOH洗浄して、疎水化処理された撥水性膜を得ることができた。
【0053】
(実施例2〜19、比較例1〜13)
ゾル液の形成に使用された各成分の混合量、ゾル液の熟成条件、dip回数と洗浄速度、被膜塗布後の熱処理条件を表1〜表6に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、撥水性膜を有するガラス基材(サンプルガラス)を作製した。なお、実施例14等のゾル液は、TEOSを34.0g、エチルアルコールを234mL、水を6.5g、および、2M塩酸水溶液を3mL混合して作製され、その混合割合はモル比で、TEOS/EtOH/HO/HCl=0.4/10/0.9/0.015であった。また、実施例17等のゾル液は、TEOSを42.08g、エチルアルコールを234mL、水を7.2g、および、2M塩酸水溶液を5mL混合して作製され、その混合割合はモル比で、TEOS/EtOH/HO/HCl=0.5/10/1.0/0.025であった。また、比較例9等のゾル液は、TEOSを33.66g、エチルアルコールを280mL、水を8.64g、および、2M塩酸水溶液を4mL混合して作製され、その混合割合はモル比で、TEOS/EtOH/HO/HCl=0.4/12/1.2/0.02であった。得られたサンプルガラスについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1〜表6に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
表1〜表3から明らかなように、実施例1〜19のコーティング組成物を用いてなる被膜は、透明性に優れており、かつ、超撥水性を有することが分かった。また、実施例1〜19のコーティング組成物を用いてなる被膜は、ワイパー10回摺動後でも140°以上であることが分かった。
【0061】
一方、表4〜表6から明らかなように、比較例1〜15のコーティング組成物を用いてなる被膜は、ワイパー10回摺動後の水接触角が140°未満になってしまうか、仕上がり性に劣っており、両特定を同時に満たすことができるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のコーティング組成物は、建物、自動車、航空機、船舶等に超撥水性を付与する必要がある箇所に有効に使用することができる。また、さらに透明性を保持する必要がある部分に特に有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、(D)酸類、および、(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子を含有しており、(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、および、(D)酸類は混合されて熟成が完了した状態であることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
(A)シリコンアルコキシドと(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子との割合が、重量比で、(A)/(E)=3/1〜16/1であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記(D)酸類が、無機酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
(A)シリコンアルコキシド、(B)アルコール類、(C)水、および、(D)酸類を混合し、熟成が完了した後、(E)表面が疎水性で平均一次粒子径が100nm以下の微粒子を添加してコーティング溶液を調製し、該コーティング溶液を被コーティング物体へ塗布した後、熱処理を施してコーティング被膜を形成することを特徴とするコーティング被膜の形成方法。
【請求項5】
前記コーティング溶液を被コーティング物体へ塗布する方法として、フローコート法、ディップコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、バーコート法、または、スクリーン印刷法のいずれかの方法を採用することを特徴とする請求項4に記載のコーティング被膜形成方法。
【請求項6】
前記被コーティング物体が、ガラス基板、金属基板、および、プラスチック基板のいずれかであることを特徴とする請求項4または5のいずれか1項に記載のコーティング被膜形成方法。
【請求項7】
前記熱処理が、0℃以上、250℃未満の温度で行われることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載のコーティング被膜の形成方法。
【請求項8】
前記熱処理の後、更に、フッ素を含まないヘキシルトリメトキシシラン若しくはフッ素を含むヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを塗布することによって疎水化処理を施すことを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載のコーティング被膜の形成方法。
【請求項9】
前記疎水化処理が、40℃以上、90℃以下の温度で行われることを特徴とする請求項7に記載のコーティング被膜形成方法。

【公開番号】特開2010−254734(P2010−254734A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102898(P2009−102898)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(391021226)株式会社カーメイト (100)
【Fターム(参考)】