コーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置
【課題】補間前加減速と補間後加減速を併用している場合でも、コーナ部の内回り量を許容内回り量以下にする。
【解決手段】指令解析部10は加工プログラムを解析し実行形式に変換し、補間前加減速部12は速度制御を行い、補間処理部14は補間処理を行い各軸へ移動指令を出力し、各軸用補間後加減速処理部(X軸用補間後加減速処理部16X,Y軸用補間後加減速処理部16Y,Z軸用補間後加減速処理部16Z)は移動指令に対して補間後加減速処理を行い、各軸サーボ(X軸サーボ18X,Y軸サーボ18Y,Z軸サーボ18Z)は補間後加減速処理後の移動指令に基づきそれぞれサーボ制御を行い、位置,速度,電流のフィードバックを行って各軸サーボモータを駆動制御し、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20およびコーナ部速度ゼロ保持時間計算部22を備えたコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【解決手段】指令解析部10は加工プログラムを解析し実行形式に変換し、補間前加減速部12は速度制御を行い、補間処理部14は補間処理を行い各軸へ移動指令を出力し、各軸用補間後加減速処理部(X軸用補間後加減速処理部16X,Y軸用補間後加減速処理部16Y,Z軸用補間後加減速処理部16Z)は移動指令に対して補間後加減速処理を行い、各軸サーボ(X軸サーボ18X,Y軸サーボ18Y,Z軸サーボ18Z)は補間後加減速処理後の移動指令に基づきそれぞれサーボ制御を行い、位置,速度,電流のフィードバックを行って各軸サーボモータを駆動制御し、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20およびコーナ部速度ゼロ保持時間計算部22を備えたコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械を制御する数値制御装置に関し、特に、ブロック間で生じるコーナにおける許容内回り量を設定することが可能な数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御において、加工指令を行うブロックを連続して実行する場合、移動方向が変化することで加工経路にコーナができる。コーナ部では移動する軸や各軸の速度が急激に変化するため、機械にショックが発生しやすい。
一般的な数値制御では、このようなショックを抑制するために加減速が行われている。加減速の方法としては、補間処理の前に加工経路に沿って加減速を行う補間前加減速と、補間処理の後に各軸に対して加減速を行う補間後加減速がある。
補間前加減速では、コーナ部での各軸の速度の急激な変化を抑制するために、各軸の速度変化量があらかじめ設定した許容速度差以下になるようなコーナ部速度を算出し、コーナ部での速度が算出したコーナ部速度になるようにコーナ部手前から送り速度を減速し、コーナ部到達後に送り速度を加速するように速度制御を行う(特許文献1の図4参照)。
【0003】
補間後加減速では、さらに機械に発生するショックを抑制するため、補間前加減速により決定した各軸の速度を時間基準で局所的に平均化する、つまり各軸の速度変化をなますように制御が行われるが、その結果ブロック間でオーバラップして加減速が行われるため、加工経路が指令された加工経路からずれて内回りが発生する。
コーナ部における方向転向角やコーナ前後で移動する軸の違い、あるいは補間後加減速の特性を表す時定数によって内回り量は変化するため、内回り量をある値以下にするためには、使用する機械や加工プログラムごとに各軸の許容速度差や補間後加減速の時定数を調整する必要がある。特許文献2の請求項4では、コーナ部における加減速による内回り量を速度によって制御する技術について記載されている。
また、特許文献3には、コーナ部での内回り量や誤差量、トレランスといった値を設定する技術が開示され、特許文献4には、経路を操作することによりコーナ部の内回り量を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−72414号公報
【特許文献2】特開2010−92161号公報
【特許文献3】欧州特許第0864952号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1398682号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載されている(数1)には、補間後加減速時定数τが含まれているが、補間前加減速の特性を表す指標が含まれていない。すなわち、特許文献2では補間後加減速のみを考慮し、補間前加減速は考慮していない。
したがって、補間前加減速と補間後加減速を併用した場合、特許文献2に開示される技術は適用できない。また、補間前加減速によってコーナ部で減速することができないため、コーナ部前後の速度を(特許文献2に記載の(数1))により算出される速度で一定にする必要があり、加工時間が延びてしまう問題がある。
【0006】
また、前述のように、補間前加減速によるコーナ部の速度制御は、コーナ部手前から減速し、コーナ部到達直後に加速するような制御であり、補間後加減速は、補間前加減速で決定した各軸の速度を時間基準で局所的に平均化する速度制御である。このため、補間前加減速でコーナ部速度をゼロとした場合であっても、補間後加減速を使用するとコーナ部の速度はゼロとはならない。これは補間後加減速による内回りが必ず発生することを意味する。すなわち、あらかじめ設定されたコーナの許容内回り量以下の内回り量とする制御が不可能な場合がある。具体的には、算出した補間前加減速の速度制御におけるコーナ部速度が負になった場合が該当する。
【0007】
また、特許文献3に開示される技術は特許文献2に開示されるものと同様に、補間後加減速のみを考慮してコーナ部の内回り量を制御するものであり、特許文献4に開示される技術は経路を操作することによりコーナ部の内回り量を制御するものであり、両特許文献とも補間前加減速と補間後加減速の両方の加減速を考慮した速度制御によりコーナ部の内回り量を制御するものではない。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、補間前加減速と補間後加減速を併用している場合であっても、コーナ部の内回り量をあらかじめ設定した許容内回り量以下にすることが常に可能なコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、複数のブロックからなる加工プログラムを解析し、補間前加減速処理および補間後加減速処理を行って速度制御を行う数値制御装置において、前記ブロック間に生じるコーナ部の加工時に補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量の許容値を設定する許容内回り量設定部と、該設定された許容内回り量と、予め設定された補間前加減速の加速度および補間後加減速の加減速時定数と、前記加工プログラムで指令されたコーナ前ブロックの指令経路の方向とコーナ後ブロックの指令経路の方向のなす方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度を算出するコーナ部速度計算部と、前記コーナ部の合成速度が前記コーナ部速度計算部により算出された速度となるように補間前加減速処理を行って補間データを作成する補間前加減速処理部と、該補間データを加減速処理する補間後加減速処理部と、を有することを特徴とするコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
請求項2に係る発明は、前記コーナ部速度を後述する数1式によって算出し、前記補間前加減速、補間後加減速を行うことを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記コーナ部速度計算部で、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度が算出できなかった場合に、前記許容内回り量、前記補間後加減速の時定数、前記方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度をゼロとする時間を算出するコーナ部速度ゼロ保持時間計算部を有し、補間前加減速において、前記算出した時間以上、コーナ部速度をゼロとし、その後加速を開始するように制御することを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
請求項4に係る発明は、前記コーナ部速度をゼロとする時間を後述する数2によって算出することを特徴とする請求項3に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、補間前加減速と補間後加減速を併用している場合であっても、コーナ部の内回り量をあらかじめ設定した許容内回り量以下にすることが常に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の機能ブロック図である。
【図2】コーナ前ブロックの指令経路とコーナ後ブロックの指令経路を説明する図である。
【図3】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図4】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図5】補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図6】補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図7】補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図8】補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図9】補間後加減速によるX,Y軸速度を説明する図である。
【図10】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図11】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図12】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図13】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図14】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図15】補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図16】補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図17】補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図18】補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図19】補間後加減速によるX軸,Y軸速度を説明する図である。
【図20】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図21】本発明の実施形態における加減速処理のフローチャートである。
【図22】本発明の他の実施形態における加減速処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は発明のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置の実施形態の機能ブロック図である。指令解析部10は加工プログラムを解析し実行形式に変換する。補間前加減速部12は速度制御を行う。補間処理部14は補間処理を行い各軸へ移動指令を出力する。各軸用補間後加減速処理部(X軸用補間後加減速部16X,Y軸用補間後加減速部16Y,Z軸用補間後加減速部16Z)は移動指令に対して補間後加減速処理を行う。各軸サーボ(X軸サーボ18X,Y軸サーボ18Y,Z軸サーボ18Z)は補間後加減速処理後の移動指令に基づきそれぞれサーボ制御を行い、位置,速度,電流のフィードバックを行って各軸サーボモータを駆動制御する。本発明の実施形態は更に、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20を備えた構成(請求項1,2の発明に対応)、または、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20およびコーナ部速度ゼロ保持時間計算部22を備えた構成(請求項3,4の発明に対応)である。
なお、許容内回り量によるコーナ部速度計算部20で用いられる許容内回り量は図示しない入力部から該許容内回り量によるコーナ部速度計算部20に設定することができる。あるいは許容内回り量を、加工プログラム中で指定する、あるいは、数値制御装置に備わったメモリに予めパラメータとして格納しておいてもよい。
【0014】
本発明の実施形態は、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20を有することによって、加工指令を行うブロックのブロック間に生じるコーナの加工時に発生する補間後加減速の溜り量による許容内回り量を直接設定可能となり、許容内回り量による減速速度を速度制御することができる点で、従来技術と相違する。
また、本発明の他の実施形態は、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20、コーナ部速度ゼロ保持時間計算部22を有することによって、そのコーナの方向転向角や移動軸によらず、内回り量を設定された許容内回り量以下にすること、そのためにコーナ部速度と、コーナ部速度ゼロ保持時間を算出することができ、許容内回り量による減速速度とコーナ部速度ゼロ保持時間を考慮した速度制御を行うことができる点で、従来技術と相違する。
【0015】
なお、上述したコーナ部速度は数1式により算出することができる。
【0016】
【数1】
【0017】
図2はコーナ前ブロックの指令経路とコーナ後ブロックの指令経路を説明する図である。θはコーナ前ブロックの指令経路とコーナ後ブロックの指令経路間で発生するコーナにおける方向転向角である。
数1式の第2項は、補間前加減速の加速度Aを指標として含んでいることからわかるように、補間前加減速を考慮した項である。また第2項は負であるので、数1式で算出されるコーナ部速度は第1項のみで算出される値よりも小さくなるが、本発明では補間前加減速によりコーナ部のみで数1式で算出されるコーナ部速度以下まで減速すればよいのであり、全体として加工時間が短縮される。また、補間前加減速を使用しない場合にはAが0となり、すなわち第2項が0となり、補間後加減速だけを使用した場合でも対応可能である。
【0018】
また、コーナ部速度ゼロ保持時間は数2式により算出することができる。
【0019】
【数2】
【0020】
上述したように、本発明は、ブロック間で生じるコーナにおける許容内回り量を設定することが可能な数値制御装置であって、かつ、加減速を行う手段として補間前加減速と補間後加減速の両方を使用することが可能な数値制御装置であって、かつ、ブロック間で生じるコーナにおいて、補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量をあらかじめ設定された許容内回り量以内に収めるために、コーナ部速度を算出し、補間前加減速の速度制御によってコーナ部における速度を制御する機能を有する数値制御装置である。
【0021】
また、本発明は、前記の算出したコーナ部速度が負である場合に、補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量をあらかじめ設定された許容内回り量以内に収めるために、コーナ部速度ゼロ保持時間を算出し、前記補間前加減速の速度制御によってコーナ部速度がゼロである時間を制御する機能を有する前記の数値制御装置である。
【0022】
本発明により、補間前加減速と補間後加減速を併用している場合であっても、コーナ部の内回り量をあらかじめ設定した許容内回り量以下にすることが常に可能となる。そのことにより、指令形状に対する許容誤差内での加工が保証され、より高精度の加工が可能となる。さらに、許容誤差内でのできるだけ高速の加工が可能となる。つまり、指令形状に対して許容誤差内とするために適正な減速のみ行われるので、必要以上に減速することがなくなり、高速加工となる。高速加工は省エネ加工でもある。また、直接許容内回り量を設定することにより、機械調整の手間を省くことが可能となる。
【0023】
加工プログラムのブロックN01とブロックN02の指令によってコーナ部を加工する場合を例として説明する。加工指令を行うプログラムのブロック間において、図3に示されるように、ブロックN01とその次のブロックN02によって生じるコーナ部において補間後加減速の溜り量によって内回りが発生する。ここで、補間後加減速とは、指令形状(ブロックN01,ブロックN02)に対して補間周期毎の補間を行った後、2つのブロックに亘って各軸の速度を時間基準で局所的に平均化する、つまり各軸の速度変化をなます加減速である。
【0024】
コーナ部では、例えば特許文献1に開示されるような速度制御を行い、補間前加減速と補間後加減速を行う。補間前加減速は指令経路の接線方向の送り速度に対する加減速であるので加工誤差を生じない。しかし、コーナ部では軸毎にみると急激な速度変化が生じるため、通常図4に示されるようにコーナ部で減速を行う。図4は補間前加減速による合成速度を説明する図である。合成速度(上述した「指令経路の接線方向の送り速度」に相当する)を各軸速度に分けると図5,図6のようになる。図5は補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。図6は補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。補間前加減速を行った後、さらに図7,図8に示されるように各軸速度に対して補間後加減速を行い、各軸の移動指令が各軸のサーボへ出力される。図7は補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。図8は補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。
【0025】
補間後加減速を行うと補間後加減速による溜まり量が発生する。図9は補間後加減速によるX,Y軸速度を説明する図である。図9におけるブロックN01とブロックN02の間の「オーバラップ部分」は補間後加減速の溜り量によって発生し、この部分で内回りが発生する。内回り量は、ブロックN01とブロックN02の速度、ブロック間の減速速度、補間後加減速の時定数、加工経路によって変化する。あらかじめ許容内回り量を設定し、コーナ部における内回り量が許容内回り量以下となるようなコーナ部速度を算出し、算出したコーナ部速度を公知技術(特許文献1参照)の速度制御に組み込むことで、内回り量を許容内回り量以下に抑えることができる。
【0026】
以下、具体的数値を用いて内回り量を説明する。
<例1>
X軸とY軸の補間前加減速の加速度をA=3000[mm/sec2]、補間後加減速時定数をTa=0.016[sec]、コーナ部での許容内回り量をS=0.050[mm]とする。このとき、以下のプログラムO0001を実行した場合を考える。移動指令の単位は[mm]、送り速度の単位は[mm/min]とする。
O0001
N01 G01 G91 X100.0 F1000
N02 G01 G91 Y100.0 F1000
ブロックN01とブロックN02のブロック間での方向転向角はθ=π/2[rad]であるので、k=1/6とすれば、数1式からブロック間での減速速度Vclampは数3式のようになる。
【0027】
【数3】
【0028】
補間前加減速により、合成速度のコーナ部速度が580.7[mm/min]以下となるように加減速を行い、補間データを作成し、その後に補間後加減速を実行する。
【0029】
シミュレーションを行ったところ、図10に示されるようにVclamp=590.0[mm/min]の場合の内回り量は、図11に示されるように0.0504[mm]となり、許容内回り量S=0.050[mm]以上だったが、図12に示されるようにVclamp=580.0[mm/min]の場合の内回り量は、図13に示されるように0.0499[mm]となり、許容内回り量許容内回り量S=0.050[mm]以下になった。なお、この例は補間前加減速を加速度一定(直線形加減速)で行った場合であるが、他のタイプ(例えばベル形加減速)を使用する場合には数1式に現れる係数kを適当に調節すればよい。
【0030】
<例2>
上記の例1において、許容内回り量をS=0.010[mm]とより厳しく設定すると、k=1/6とすれば、数1式からブロック間での減速速度Vclampは数4式のようになる。
【0031】
【数4】
【0032】
このようにVclampが負になるが、速度は負の値をとらないので、コーナ部における内回り量を許容内回り量以下とすることができないことがわかる。そこで、数2式を用いて数5式によりコーナ部速度ゼロ保持時間T0を算出する。
【0033】
【数5】
【0034】
補間前加減速において、コーナ部速度をゼロとし、コーナ部に到達してからコーナ部速度ゼロ保持時間以上のあいだ速度をゼロのまま保持し、その後加速を開始するように制御する。
シミュレーションを行ったところ、T0=0.003[sec]の場合の内回り量は0.01207[mm]となり、許容内回り量S=0.010[mm]以上だったが、T0=0.004[sec]の場合の内回り量は0.00948[mm]となり(図14〜図20参照)、許容内回り量以下になった。なお、図14は補間前加減速による合成速度を説明する図である。図15は補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。図16は補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。図17は補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。図18は補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。図19は補間後加減速によるX軸,Y軸速度を説明する図である。図20はコーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【0035】
図21は本発明の実施形態における加減速処理のフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA01]加工プログラムを解析する。
●[ステップSA02]ブロック間の方向転向角θを求める。
●[ステップSA03]コーナ部速度Vclampを数1式により算出する。
●[ステップSA04]Vclampは0以上であるか否か判断し、0以上の場合(つまりYESの場合)にはステップSA06へ移行し、0以上ではない(つまりNOの場合)にはステップSA05へ移行する。
●[ステップSA05]Vclampの値を0とする。
●[ステップSA06]Vclampを使用した補間前加減速処理を行う。
●[ステップSA07]補間処理を実行する。
●[ステップSA08]各軸補間後加減速処理を実行し、処理を終了する。
【0036】
図22は本発明の他の実施形態における加減速処理のフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB01]加工プログラムを解析する。
●[ステップSB02]ブロック間の方向転向角θを求める。
●[ステップSB03]コーナ部速度Vclampを数1式により算出する。
●[ステップSB04]コーナ部速度ゼロ保持時間T0を0とする。
●[ステップSB05]Vclampは0以上であるか否か判断し、0以上の場合(つまりYESの場合)にはステップSB08へ移行し、0以上ではない(つまりNOの場合)にはステップSB06へ移行する。
●[ステップSB06]Vclampの値を0とする。
●[ステップSB07]コーナ部速度ゼロ保持時間T0を式2により算出する。
●[ステップSB08]VclampとT0を使用した補間前加減速処理を行う。
●[ステップSB09]補間処理を実行する。
●[ステップSB10]各軸補間後加減速処理を実行し、処理を終了する。
【0037】
以上説明したように、本発明では、補間前加減速と補間後加減速の両方を考慮して、コーナ部における内回り量があらかじめ設定された許容内回り量以下となるようなコーナ部速度を算出しており、この点で従来技術と大きく異なる。これにより、補間前加減速と補間後加減速を併用した場合であっても、使用する機械や加工プログラムごとに各軸の許容速度差や補間後加減速の時定数を調整することなく、コーナ部の加工において内回り量をあらかじめ設定された許容内回り量以下とすることができる。
【符号の説明】
【0038】
10 指令解析部
12 補間前加減速部
14 補間処理部
16X X軸用補間後加減速部
16Y Y軸用補間後加減速部
16Z Z軸用補間後加減速部
18X X軸サーボ
18Y Y軸サーボ
18Z Z軸サーボ
20 許容内回り量によるコーナ部速度計算部
22 コーナ部速度ゼロ保持時間計算部
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械を制御する数値制御装置に関し、特に、ブロック間で生じるコーナにおける許容内回り量を設定することが可能な数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御において、加工指令を行うブロックを連続して実行する場合、移動方向が変化することで加工経路にコーナができる。コーナ部では移動する軸や各軸の速度が急激に変化するため、機械にショックが発生しやすい。
一般的な数値制御では、このようなショックを抑制するために加減速が行われている。加減速の方法としては、補間処理の前に加工経路に沿って加減速を行う補間前加減速と、補間処理の後に各軸に対して加減速を行う補間後加減速がある。
補間前加減速では、コーナ部での各軸の速度の急激な変化を抑制するために、各軸の速度変化量があらかじめ設定した許容速度差以下になるようなコーナ部速度を算出し、コーナ部での速度が算出したコーナ部速度になるようにコーナ部手前から送り速度を減速し、コーナ部到達後に送り速度を加速するように速度制御を行う(特許文献1の図4参照)。
【0003】
補間後加減速では、さらに機械に発生するショックを抑制するため、補間前加減速により決定した各軸の速度を時間基準で局所的に平均化する、つまり各軸の速度変化をなますように制御が行われるが、その結果ブロック間でオーバラップして加減速が行われるため、加工経路が指令された加工経路からずれて内回りが発生する。
コーナ部における方向転向角やコーナ前後で移動する軸の違い、あるいは補間後加減速の特性を表す時定数によって内回り量は変化するため、内回り量をある値以下にするためには、使用する機械や加工プログラムごとに各軸の許容速度差や補間後加減速の時定数を調整する必要がある。特許文献2の請求項4では、コーナ部における加減速による内回り量を速度によって制御する技術について記載されている。
また、特許文献3には、コーナ部での内回り量や誤差量、トレランスといった値を設定する技術が開示され、特許文献4には、経路を操作することによりコーナ部の内回り量を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−72414号公報
【特許文献2】特開2010−92161号公報
【特許文献3】欧州特許第0864952号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1398682号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載されている(数1)には、補間後加減速時定数τが含まれているが、補間前加減速の特性を表す指標が含まれていない。すなわち、特許文献2では補間後加減速のみを考慮し、補間前加減速は考慮していない。
したがって、補間前加減速と補間後加減速を併用した場合、特許文献2に開示される技術は適用できない。また、補間前加減速によってコーナ部で減速することができないため、コーナ部前後の速度を(特許文献2に記載の(数1))により算出される速度で一定にする必要があり、加工時間が延びてしまう問題がある。
【0006】
また、前述のように、補間前加減速によるコーナ部の速度制御は、コーナ部手前から減速し、コーナ部到達直後に加速するような制御であり、補間後加減速は、補間前加減速で決定した各軸の速度を時間基準で局所的に平均化する速度制御である。このため、補間前加減速でコーナ部速度をゼロとした場合であっても、補間後加減速を使用するとコーナ部の速度はゼロとはならない。これは補間後加減速による内回りが必ず発生することを意味する。すなわち、あらかじめ設定されたコーナの許容内回り量以下の内回り量とする制御が不可能な場合がある。具体的には、算出した補間前加減速の速度制御におけるコーナ部速度が負になった場合が該当する。
【0007】
また、特許文献3に開示される技術は特許文献2に開示されるものと同様に、補間後加減速のみを考慮してコーナ部の内回り量を制御するものであり、特許文献4に開示される技術は経路を操作することによりコーナ部の内回り量を制御するものであり、両特許文献とも補間前加減速と補間後加減速の両方の加減速を考慮した速度制御によりコーナ部の内回り量を制御するものではない。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、補間前加減速と補間後加減速を併用している場合であっても、コーナ部の内回り量をあらかじめ設定した許容内回り量以下にすることが常に可能なコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、複数のブロックからなる加工プログラムを解析し、補間前加減速処理および補間後加減速処理を行って速度制御を行う数値制御装置において、前記ブロック間に生じるコーナ部の加工時に補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量の許容値を設定する許容内回り量設定部と、該設定された許容内回り量と、予め設定された補間前加減速の加速度および補間後加減速の加減速時定数と、前記加工プログラムで指令されたコーナ前ブロックの指令経路の方向とコーナ後ブロックの指令経路の方向のなす方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度を算出するコーナ部速度計算部と、前記コーナ部の合成速度が前記コーナ部速度計算部により算出された速度となるように補間前加減速処理を行って補間データを作成する補間前加減速処理部と、該補間データを加減速処理する補間後加減速処理部と、を有することを特徴とするコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
請求項2に係る発明は、前記コーナ部速度を後述する数1式によって算出し、前記補間前加減速、補間後加減速を行うことを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記コーナ部速度計算部で、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度が算出できなかった場合に、前記許容内回り量、前記補間後加減速の時定数、前記方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度をゼロとする時間を算出するコーナ部速度ゼロ保持時間計算部を有し、補間前加減速において、前記算出した時間以上、コーナ部速度をゼロとし、その後加速を開始するように制御することを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
請求項4に係る発明は、前記コーナ部速度をゼロとする時間を後述する数2によって算出することを特徴とする請求項3に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、補間前加減速と補間後加減速を併用している場合であっても、コーナ部の内回り量をあらかじめ設定した許容内回り量以下にすることが常に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の機能ブロック図である。
【図2】コーナ前ブロックの指令経路とコーナ後ブロックの指令経路を説明する図である。
【図3】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図4】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図5】補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図6】補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図7】補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図8】補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図9】補間後加減速によるX,Y軸速度を説明する図である。
【図10】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図11】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図12】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図13】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図14】補間前加減速による合成速度を説明する図である。
【図15】補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図16】補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図17】補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。
【図18】補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。
【図19】補間後加減速によるX軸,Y軸速度を説明する図である。
【図20】コーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【図21】本発明の実施形態における加減速処理のフローチャートである。
【図22】本発明の他の実施形態における加減速処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は発明のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置の実施形態の機能ブロック図である。指令解析部10は加工プログラムを解析し実行形式に変換する。補間前加減速部12は速度制御を行う。補間処理部14は補間処理を行い各軸へ移動指令を出力する。各軸用補間後加減速処理部(X軸用補間後加減速部16X,Y軸用補間後加減速部16Y,Z軸用補間後加減速部16Z)は移動指令に対して補間後加減速処理を行う。各軸サーボ(X軸サーボ18X,Y軸サーボ18Y,Z軸サーボ18Z)は補間後加減速処理後の移動指令に基づきそれぞれサーボ制御を行い、位置,速度,電流のフィードバックを行って各軸サーボモータを駆動制御する。本発明の実施形態は更に、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20を備えた構成(請求項1,2の発明に対応)、または、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20およびコーナ部速度ゼロ保持時間計算部22を備えた構成(請求項3,4の発明に対応)である。
なお、許容内回り量によるコーナ部速度計算部20で用いられる許容内回り量は図示しない入力部から該許容内回り量によるコーナ部速度計算部20に設定することができる。あるいは許容内回り量を、加工プログラム中で指定する、あるいは、数値制御装置に備わったメモリに予めパラメータとして格納しておいてもよい。
【0014】
本発明の実施形態は、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20を有することによって、加工指令を行うブロックのブロック間に生じるコーナの加工時に発生する補間後加減速の溜り量による許容内回り量を直接設定可能となり、許容内回り量による減速速度を速度制御することができる点で、従来技術と相違する。
また、本発明の他の実施形態は、補間前加減速部12が許容内回り量によるコーナ部速度計算部20、コーナ部速度ゼロ保持時間計算部22を有することによって、そのコーナの方向転向角や移動軸によらず、内回り量を設定された許容内回り量以下にすること、そのためにコーナ部速度と、コーナ部速度ゼロ保持時間を算出することができ、許容内回り量による減速速度とコーナ部速度ゼロ保持時間を考慮した速度制御を行うことができる点で、従来技術と相違する。
【0015】
なお、上述したコーナ部速度は数1式により算出することができる。
【0016】
【数1】
【0017】
図2はコーナ前ブロックの指令経路とコーナ後ブロックの指令経路を説明する図である。θはコーナ前ブロックの指令経路とコーナ後ブロックの指令経路間で発生するコーナにおける方向転向角である。
数1式の第2項は、補間前加減速の加速度Aを指標として含んでいることからわかるように、補間前加減速を考慮した項である。また第2項は負であるので、数1式で算出されるコーナ部速度は第1項のみで算出される値よりも小さくなるが、本発明では補間前加減速によりコーナ部のみで数1式で算出されるコーナ部速度以下まで減速すればよいのであり、全体として加工時間が短縮される。また、補間前加減速を使用しない場合にはAが0となり、すなわち第2項が0となり、補間後加減速だけを使用した場合でも対応可能である。
【0018】
また、コーナ部速度ゼロ保持時間は数2式により算出することができる。
【0019】
【数2】
【0020】
上述したように、本発明は、ブロック間で生じるコーナにおける許容内回り量を設定することが可能な数値制御装置であって、かつ、加減速を行う手段として補間前加減速と補間後加減速の両方を使用することが可能な数値制御装置であって、かつ、ブロック間で生じるコーナにおいて、補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量をあらかじめ設定された許容内回り量以内に収めるために、コーナ部速度を算出し、補間前加減速の速度制御によってコーナ部における速度を制御する機能を有する数値制御装置である。
【0021】
また、本発明は、前記の算出したコーナ部速度が負である場合に、補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量をあらかじめ設定された許容内回り量以内に収めるために、コーナ部速度ゼロ保持時間を算出し、前記補間前加減速の速度制御によってコーナ部速度がゼロである時間を制御する機能を有する前記の数値制御装置である。
【0022】
本発明により、補間前加減速と補間後加減速を併用している場合であっても、コーナ部の内回り量をあらかじめ設定した許容内回り量以下にすることが常に可能となる。そのことにより、指令形状に対する許容誤差内での加工が保証され、より高精度の加工が可能となる。さらに、許容誤差内でのできるだけ高速の加工が可能となる。つまり、指令形状に対して許容誤差内とするために適正な減速のみ行われるので、必要以上に減速することがなくなり、高速加工となる。高速加工は省エネ加工でもある。また、直接許容内回り量を設定することにより、機械調整の手間を省くことが可能となる。
【0023】
加工プログラムのブロックN01とブロックN02の指令によってコーナ部を加工する場合を例として説明する。加工指令を行うプログラムのブロック間において、図3に示されるように、ブロックN01とその次のブロックN02によって生じるコーナ部において補間後加減速の溜り量によって内回りが発生する。ここで、補間後加減速とは、指令形状(ブロックN01,ブロックN02)に対して補間周期毎の補間を行った後、2つのブロックに亘って各軸の速度を時間基準で局所的に平均化する、つまり各軸の速度変化をなます加減速である。
【0024】
コーナ部では、例えば特許文献1に開示されるような速度制御を行い、補間前加減速と補間後加減速を行う。補間前加減速は指令経路の接線方向の送り速度に対する加減速であるので加工誤差を生じない。しかし、コーナ部では軸毎にみると急激な速度変化が生じるため、通常図4に示されるようにコーナ部で減速を行う。図4は補間前加減速による合成速度を説明する図である。合成速度(上述した「指令経路の接線方向の送り速度」に相当する)を各軸速度に分けると図5,図6のようになる。図5は補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。図6は補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。補間前加減速を行った後、さらに図7,図8に示されるように各軸速度に対して補間後加減速を行い、各軸の移動指令が各軸のサーボへ出力される。図7は補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。図8は補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。
【0025】
補間後加減速を行うと補間後加減速による溜まり量が発生する。図9は補間後加減速によるX,Y軸速度を説明する図である。図9におけるブロックN01とブロックN02の間の「オーバラップ部分」は補間後加減速の溜り量によって発生し、この部分で内回りが発生する。内回り量は、ブロックN01とブロックN02の速度、ブロック間の減速速度、補間後加減速の時定数、加工経路によって変化する。あらかじめ許容内回り量を設定し、コーナ部における内回り量が許容内回り量以下となるようなコーナ部速度を算出し、算出したコーナ部速度を公知技術(特許文献1参照)の速度制御に組み込むことで、内回り量を許容内回り量以下に抑えることができる。
【0026】
以下、具体的数値を用いて内回り量を説明する。
<例1>
X軸とY軸の補間前加減速の加速度をA=3000[mm/sec2]、補間後加減速時定数をTa=0.016[sec]、コーナ部での許容内回り量をS=0.050[mm]とする。このとき、以下のプログラムO0001を実行した場合を考える。移動指令の単位は[mm]、送り速度の単位は[mm/min]とする。
O0001
N01 G01 G91 X100.0 F1000
N02 G01 G91 Y100.0 F1000
ブロックN01とブロックN02のブロック間での方向転向角はθ=π/2[rad]であるので、k=1/6とすれば、数1式からブロック間での減速速度Vclampは数3式のようになる。
【0027】
【数3】
【0028】
補間前加減速により、合成速度のコーナ部速度が580.7[mm/min]以下となるように加減速を行い、補間データを作成し、その後に補間後加減速を実行する。
【0029】
シミュレーションを行ったところ、図10に示されるようにVclamp=590.0[mm/min]の場合の内回り量は、図11に示されるように0.0504[mm]となり、許容内回り量S=0.050[mm]以上だったが、図12に示されるようにVclamp=580.0[mm/min]の場合の内回り量は、図13に示されるように0.0499[mm]となり、許容内回り量許容内回り量S=0.050[mm]以下になった。なお、この例は補間前加減速を加速度一定(直線形加減速)で行った場合であるが、他のタイプ(例えばベル形加減速)を使用する場合には数1式に現れる係数kを適当に調節すればよい。
【0030】
<例2>
上記の例1において、許容内回り量をS=0.010[mm]とより厳しく設定すると、k=1/6とすれば、数1式からブロック間での減速速度Vclampは数4式のようになる。
【0031】
【数4】
【0032】
このようにVclampが負になるが、速度は負の値をとらないので、コーナ部における内回り量を許容内回り量以下とすることができないことがわかる。そこで、数2式を用いて数5式によりコーナ部速度ゼロ保持時間T0を算出する。
【0033】
【数5】
【0034】
補間前加減速において、コーナ部速度をゼロとし、コーナ部に到達してからコーナ部速度ゼロ保持時間以上のあいだ速度をゼロのまま保持し、その後加速を開始するように制御する。
シミュレーションを行ったところ、T0=0.003[sec]の場合の内回り量は0.01207[mm]となり、許容内回り量S=0.010[mm]以上だったが、T0=0.004[sec]の場合の内回り量は0.00948[mm]となり(図14〜図20参照)、許容内回り量以下になった。なお、図14は補間前加減速による合成速度を説明する図である。図15は補間前加減速によるX軸速度を説明する図である。図16は補間前加減速によるY軸速度を説明する図である。図17は補間後加減速によるX軸速度を説明する図である。図18は補間後加減速によるY軸速度を説明する図である。図19は補間後加減速によるX軸,Y軸速度を説明する図である。図20はコーナ部において補間後加減速の溜まり量によって内回りが発生することを説明する図である。
【0035】
図21は本発明の実施形態における加減速処理のフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA01]加工プログラムを解析する。
●[ステップSA02]ブロック間の方向転向角θを求める。
●[ステップSA03]コーナ部速度Vclampを数1式により算出する。
●[ステップSA04]Vclampは0以上であるか否か判断し、0以上の場合(つまりYESの場合)にはステップSA06へ移行し、0以上ではない(つまりNOの場合)にはステップSA05へ移行する。
●[ステップSA05]Vclampの値を0とする。
●[ステップSA06]Vclampを使用した補間前加減速処理を行う。
●[ステップSA07]補間処理を実行する。
●[ステップSA08]各軸補間後加減速処理を実行し、処理を終了する。
【0036】
図22は本発明の他の実施形態における加減速処理のフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB01]加工プログラムを解析する。
●[ステップSB02]ブロック間の方向転向角θを求める。
●[ステップSB03]コーナ部速度Vclampを数1式により算出する。
●[ステップSB04]コーナ部速度ゼロ保持時間T0を0とする。
●[ステップSB05]Vclampは0以上であるか否か判断し、0以上の場合(つまりYESの場合)にはステップSB08へ移行し、0以上ではない(つまりNOの場合)にはステップSB06へ移行する。
●[ステップSB06]Vclampの値を0とする。
●[ステップSB07]コーナ部速度ゼロ保持時間T0を式2により算出する。
●[ステップSB08]VclampとT0を使用した補間前加減速処理を行う。
●[ステップSB09]補間処理を実行する。
●[ステップSB10]各軸補間後加減速処理を実行し、処理を終了する。
【0037】
以上説明したように、本発明では、補間前加減速と補間後加減速の両方を考慮して、コーナ部における内回り量があらかじめ設定された許容内回り量以下となるようなコーナ部速度を算出しており、この点で従来技術と大きく異なる。これにより、補間前加減速と補間後加減速を併用した場合であっても、使用する機械や加工プログラムごとに各軸の許容速度差や補間後加減速の時定数を調整することなく、コーナ部の加工において内回り量をあらかじめ設定された許容内回り量以下とすることができる。
【符号の説明】
【0038】
10 指令解析部
12 補間前加減速部
14 補間処理部
16X X軸用補間後加減速部
16Y Y軸用補間後加減速部
16Z Z軸用補間後加減速部
18X X軸サーボ
18Y Y軸サーボ
18Z Z軸サーボ
20 許容内回り量によるコーナ部速度計算部
22 コーナ部速度ゼロ保持時間計算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブロックからなる加工プログラムを解析し、補間前加減速処理および補間後加減速処理を行って速度制御を行う数値制御装置において、
前記ブロック間に生じるコーナ部の加工時に補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量の許容値を設定する許容内回り量設定部と、
該設定された許容内回り量と、予め設定された補間前加減速の加速度および補間後加減速の加減速時定数と、前記加工プログラムで指令されたコーナ前ブロックの指令経路の方向とコーナ後ブロックの指令経路の方向のなす方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度を算出するコーナ部速度計算部と、
前記コーナ部の合成速度が前記コーナ部速度計算部により算出された速度となるように補間前加減速処理を行って補間データを作成する補間前加減速処理部と、
該補間データを加減速処理する補間後加減速処理部と、
を有することを特徴とするコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【請求項2】
前記コーナ部速度を
【数1】
によって算出し、前記補間前加減速、補間後加減速を行うことを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【請求項3】
前記コーナ部速度計算部で、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度が算出できなかった場合に、前記許容内回り量、前記補間後加減速の時定数、前記方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度をゼロとする時間を算出するコーナ部速度ゼロ保持時間計算部を有し、
補間前加減速において、前記算出した時間以上、コーナ部速度をゼロとし、その後加速を開始するように制御することを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【請求項4】
前記コーナ部速度をゼロとする時間を
【数2】
によって算出することを特徴とする請求項3に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【請求項1】
複数のブロックからなる加工プログラムを解析し、補間前加減速処理および補間後加減速処理を行って速度制御を行う数値制御装置において、
前記ブロック間に生じるコーナ部の加工時に補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量の許容値を設定する許容内回り量設定部と、
該設定された許容内回り量と、予め設定された補間前加減速の加速度および補間後加減速の加減速時定数と、前記加工プログラムで指令されたコーナ前ブロックの指令経路の方向とコーナ後ブロックの指令経路の方向のなす方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度を算出するコーナ部速度計算部と、
前記コーナ部の合成速度が前記コーナ部速度計算部により算出された速度となるように補間前加減速処理を行って補間データを作成する補間前加減速処理部と、
該補間データを加減速処理する補間後加減速処理部と、
を有することを特徴とするコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【請求項2】
前記コーナ部速度を
【数1】
によって算出し、前記補間前加減速、補間後加減速を行うことを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【請求項3】
前記コーナ部速度計算部で、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度が算出できなかった場合に、前記許容内回り量、前記補間後加減速の時定数、前記方向転向角から、前記補間後加減速の溜り量によって発生する内回り量が前記許容内回り量以下になるようにコーナ部速度をゼロとする時間を算出するコーナ部速度ゼロ保持時間計算部を有し、
補間前加減速において、前記算出した時間以上、コーナ部速度をゼロとし、その後加速を開始するように制御することを特徴とする請求項1に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【請求項4】
前記コーナ部速度をゼロとする時間を
【数2】
によって算出することを特徴とする請求項3に記載のコーナ部の許容内回り量による速度制御を行う数値制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−69123(P2013−69123A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207302(P2011−207302)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
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