説明

コールドスプレー用ノズル及びコールドスプレー装置

【課題】コールドスプレー用ノズルの内壁部への原料粉末の付着及びコールドスプレー用ノズルの閉塞を大幅に減少できるコールドスプレー用ノズル及びコールドスプレー装置を提供する。
【解決手段】この課題を達成するため、先細で円錐状の圧縮部と該圧縮部に連通する先広がりで円錐状の膨張部とを含み、原料粉末をその融点以下の作動ガスを用いて該圧縮部のノズル入口から流入させ、該膨張部先端のノズル出口より超音速流として噴出させるコールドスプレー用ノズルであって、該膨張部は、少なくとも内周壁面がフッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材で形成されていることを特徴とするコールドスプレー用ノズルを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、操業中のノズルへの原料粉末、特にアルミニウム粉末の付着やこれに起因するノズルの閉塞を大幅に減少させたコールドスプレー用ノズル及び該コールドスプレー用ノズルを用いたコールドスプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば製鉄プロセスの鋳型やロール、自動車ホイール、ガスタービン構成部品等の各種の金属部材には、耐摩耗性や耐食性を向上させて金属部材の長寿命化を図るべく、ニッケル、銅、アルミニウム、クロム又はこれらの合金等の皮膜を形成する技術が知られている。
【0003】
この皮膜を形成する一つの方法として、金属メッキが用いられている。しかし、金属メッキは、大面積に施工できない、クラックが発生し易いといった問題が生じる。
【0004】
他の方法として、溶射により皮膜を形成する方法が挙げられる。この溶射としては、減圧プラズマ溶射(LPPS)、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF)及び大気プラズマ溶射等が含まれる。しかし、これら溶射で皮膜を形成した場合には、溶射中に酸化するため緻密な皮膜の形成が困難であり、導電率及び熱伝導率が低く、また付着率が低く、不経済である等の問題がある。
【0005】
これらに代わる新たな皮膜を形成する技術として、固相状態のまま原料粉末の皮膜を形成する「コールドスプレー」が注目されている。このコールドスプレーは、原料粉末の融点又は軟化点よりも低い温度の作動ガスを超音速流とし、作動ガス中に搬送ガスによって搬送された原料粉末を投入してノズル先端より噴出させ、固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成するものである。つまり、金属、合金、金属間化合物、セラミックス等の原料粉末を超音速で基材表面に固相状態で衝突させて皮膜を形成するものである。
【0006】
さらに、このコールドスプレー技術を詳細に説明すると、窒素ガス、ヘリウムガス、空気等が貯蔵されている圧縮ガスボンベからのガス供給手段は、作動ガスラインと搬送ガスラインとに分岐される。高圧の作動ガスは、ヒーターにより原料粉末の融点以下の温度に加熱された後、コールドスプレーガンのチャンバー内に供給される。他方、高圧の搬送ガスは、原料粉末供給手段に導入され、原料粉末を上記チャンバー内に搬送する。搬送ガスにより搬送された原料粉末は、作動ガスによりノズルの円錐状の圧縮部を経て超音速流となり、円錐状の膨張部の先端に位置するノズル出口より噴出し、基材表面に固相状態で衝突し、皮膜を形成する。
【0007】
このコールドスプレーによる皮膜は、従来より提案されている上述した溶射による皮膜に比べて、緻密、高密度で、導電性、熱伝導率が高く、酸化や熱変質も少なく、密着性が良好であることが知られている。
【0008】
このコールドスプレーの大きな問題は、原料粉末のノズルへの付着やこれに起因するノズルの閉塞である。ノズルとしては、通常、ステンレス鋼、工具鋼、超硬合金等を用いて製造されるが、アルミニウム、ニッケル、銅、アルミニウム、ステンレス鋼又はこれらの合金を原料としてコールドスプレーにより皮膜を形成する場合には、ノズルの各部、特に膨張部に原料粉末が付着し、さらにはノズルが閉塞する。これは、操業時に、原料粉末とノズル内面との間で摩擦が生じ、ノズル内面の温度が上昇し、原料粉末がノズル内面に凝着することに起因する。このことがシステムの故障の原因となり、またこのことにより頻繁なノズル交換作業が必要となる。このようなノズルに対する原料粉末の付着やこれに起因するノズルの閉塞は、操業後、場合によっては数分間で生じ、コールドスプレー技術の実用化において大きな障害となっていた。特にアルミニウム粉末を原料とした場合には、ノズルの各部へのアルミニウム粉末の付着が著しく、ノズルの閉塞が顕著であった。
【0009】
特許文献1(特開2004−298863号公報)には、ノズルの少なくとも膨張部(拡大部)をポリベンゾイミダゾールからなるコールドスプレー技術用ノズルを開示し、このノズルにより金属粉末によるノズルへの付着やノズルの詰まりを減らすことができるとされている。
【0010】
また、特許文献2(特開2005−95886号公報)には、ノズル入口部に続く円錐状の先細部と、先細部にのど部を介して続く短尺の円錐状の末広部と、末広部に続く筒状の平行部からなり、平行部に脱着機構及び/又は粉末投入口を設けたコールドスプレー用ノズルが開示されている(請求項1)。特許文献2では、上記のノズル設計を特定することによって、安価な規格品のパイプ材を使用できるとともに、平行部の交換が容易となり、仮に0.5m以上の大面積施工において粉末が堆積しても簡単に円筒部のみを交換することができ、のど部、末広部等でのノズル詰まりが生じた際にノズルのメンテナンスが容易となるとされている。
【0011】
特許文献1のように、ノズル材料としてポリベンゾイミダゾールを用いた場合には、原料粉末によるノズルへの付着やノズルの詰まりを一定限度は減らすことができるが、アルミニウム粉末を原料粉末とした場合には、この効果は充分ではない。また、ポリベンゾイミダゾールは樹脂であるため、溶射粒子の衝突により容易に摩耗するためノズル寿命が短いのみならず、その上、耐熱性が低いため500℃以上の高温では使用できない。
【0012】
また、特許文献2は、ノズル部材の交換を容易にすること等を目的とするもので、本質的にノズルに対する原料粉末の付着やこれに起因する閉塞を減少させることを意図するものではない。
【0013】
このように、ノズルへの原料粉末、特にアルミニウム粉末の付着やこれに起因するノズルの閉塞というコールドスプレー技術における実用上の大きな課題は、未だ解決されていない。
【0014】
【特許文献1】特開2004−298863号公報
【特許文献2】特開2005−95886号公報
【特許文献3】特開平5−179224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本件発明の目的は、操業中のコールドスプレー用ノズルへの原料粉末、特にアルミニウム粉末の付着やこの付着に起因するコールドスプレー用ノズルの閉塞を大幅に減少し、長寿命化を達成できるコールドスプレー用ノズル及び該コールドスプレー用ノズルを用いたコールドスプレー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本件発明者等は、検討の結果、コールドスプレー用ノズル材料の一部又は全部をフッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材を用いることにより、上記目的が達成し得ることに想到した。
【0017】
すなわち、本件発明に係るコールドスプレー用ノズルは、先細で円錐状の圧縮部と該圧縮部に連通する先広がりで円錐状の膨張部とを含み、原料粉末をその融点以下の作動ガスを用いて該圧縮部のノズル入口から流入させ、該膨張部先端のノズル出口より超音速流として噴出させるコールドスプレー用ノズルであって、該膨張部は、少なくとも内周壁面がフッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材で形成されていることを特徴とする。
【0018】
そして、 本件発明に係るコールドスプレー用ノズルは、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材によって全体を成形することが好ましい。
【0019】
また、本件発明に係るコールドスプレー用ノズルは、コールドスプレー用ノズルの全体が一体成形されていることが好ましい。
【0020】
本件発明に係るコールドスプレー用ノズルの製造に用いる前記フッ素樹脂は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、フッ化ビニリデン樹脂又は三フッ化エチレン樹脂いずれかを用いることが好ましい。
【0021】
更に、本件発明に係るコールドスプレー用ノズルの製造に用いる前記ポリイミド樹脂は、大気中での連続使用温度が300℃以上のポリイミド樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
また、本件発明は、原料粉末を供給する原料粉末供給手段と、作動ガス及び搬送ガスを供給するガス供給手段と、該原料粉末をその融点以下の該作動ガスを用いて超音速流として噴出させるノズルを備えたコールドスプレーガンとを少なくとも有するコールドスプレー装置であって、該ノズルとして上記コールドスプレー用ノズルを用いることを特徴とするコールドスプレー装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本件発明に係るコールドスプレー用ノズル及び該コールドスプレー用ノズルを用いたコールドスプレー装置は、操業時の原料粉末、特にアルミニウム粉末のコールドスプレー用ノズルの内壁部への付着及びこれに起因するコールドスプレー用ノズルの閉塞を大幅に減少でき、コールドスプレー用ノズルの長寿命化が達成できるので、コールドスプレー用ノズルの頻繁な交換が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本件発明を実施するための最良の形態について詳述する。ここで、図1は、本件発明に係るコールドスプレー用ノズルの一実施形態を示す概略断面図である。
【0025】
この図1において、コールドスプレー用ノズル1は、端部にノズル入口1aを有する先細で円錐状の圧縮部1bとこれに連通し、端部にノズル出口1dを有する先広がりで円錐状の膨張部1cとからなる。本件発明に係るコールドスプレー用ノズルは、少なくとも上記した圧縮部1bと膨張部1cを有していればよく、その他の形状は任意である。例えば圧縮部1bと膨張部1cとの間に狭小なのど部を設けたり、膨張部1cのノズル出口側に筒状の平行部を設けてもよい。なお、図1において、矢線は原料粉末の流れを示す。
【0026】
本件発明では、少なくとも上記膨張部1cの少なくとも、内周壁部が、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材によって(以下、「フッ素樹脂等」と称する。)成形される。ここで、少なくとも内周壁部と言っているのは、膨張部の外周部に金属、セラミック等の無機材質を用いて、その内周壁部のみを、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材でライニングした状態とするものを含む意味で記載している。例えば、当該膨張部の外周部を金属、セラミック等の無機材質で構成し、それをオキシジアニリンとピロメリット酸とを含むポリイミド樹脂前駆体溶液の中に浸漬し、加熱することにより、イミド化させポリイミド樹脂層を、膨張部の内周壁面に形成する等の手法を採用することが可能である。
【0027】
この膨張部1cは、最も原料粉末が付着し易く、これに起因するコールドスプレー用ノズルの閉塞が最も生じ易いので、この部分をフッ素樹脂で成形することによって、原料粉末の付着及びこれに起因するコールドスプレー用ノズルの閉塞を大幅に減少することができる。
【0028】
本件発明では、上述のように、少なくとも上記膨張部1cがフッ素樹脂等によって成形されている。しかし、上記圧縮部1b等の他の部分は、従来より用いられているコールドスプレー用ノズル材料であるステンレス鋼等で成形してもよいが、好ましくは他の部分も含めた全体の、少なくとも内周壁面がフッ素樹脂等によって成形されていることが望ましい。全体の内周壁面に、フッ素樹脂等が存在すると、膨張部1cのみならず圧縮部1b等においても、原料粉末の付着及びこれに起因するコールドスプレー用ノズルの閉塞を大幅に減少することができる。
【0029】
従って、当該膨張部の全体を、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材で構成することが好ましい。単一素材であり、加工が容易だからである。更に、コールドスプレー用ノズル1の全体がフッ素樹脂等により、一体成形体として製造されることが経済性の点から望ましい。
【0030】
膨張部1c等を、フッ素樹脂等の単一素材で製造する方法は、特に限定されないが、金型を用いた熱プレス成形、又は、樹脂塊を物理的に加工して製造することが一般的である。
【0031】
ここで、フッ素樹脂は、耐熱性、耐寒性、耐薬品性に優れ、また摩擦性が低く、非粘着性を有する樹脂である。ここで使用されるフッ素樹脂は、特に限定されず、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)又は三フッ化エチレン樹脂(PCTFE)等が例示されるが、特に四フッ化エチレン樹脂が好ましい。
【0032】
また、ポリイミド樹脂とは、イミド基をもつ合成樹脂の総称である。その中でも、ポリイミド樹脂は、最も広く知られたものであり、典型的にはオキシジアニリンとピロメリット酸とを用いて製造され、「全芳香族ポリイミド」と称される場合もある。このポリイミド樹脂は、特に耐熱性に優れる。ここでは、大気中での連続使用温度が300℃以上、不活性ガス雰囲気でも400℃以上の連続使用温度を備えるものを選択的に使用する事が好ましい。また、ポリイミド樹脂は、耐摩擦特性、耐磨耗特性も優れていることから、エンジニアリングプラスチック、金属、セラミックの長所を兼ね備えた高機能素材である。
【0033】
図2には、本件発明に係るコールドスプレー装置の概略図である。図2において、ガス供給手段は、圧縮ガスボンベ2、作動ガスライン3及び搬送ガスライン4で形成されている。作動ガスライン3及び搬送ガスライン4には、それぞれ圧力調整器5a、5b、流量調節弁6a、6b、流量計7a、7b及び圧力ゲージ8a、8bが備えられ、圧縮ガスボンベ2からの作動ガス及び搬送ガスの圧力及び流量を調整している。
【0034】
作動ガスライン3には、電力源9により加熱されるヒーター10が配置され、作動ガスは、原料粉末の融点又は軟化点より低い温度に加熱された後、コールドスプレーガン11中のチャンバー12内に導入される。チャンバー12には、圧力計13と温度計14が設置され、圧力及び温度を制御している。
【0035】
一方、原料粉末供給手段は、原料粉末供給装置15、これに付設される計量器16及び原料粉末供給ライン17により構成される。
【0036】
圧縮ガスボンベ2からの搬送ガスは、搬送ガスライン4を通り、原料粉末供給装置15に導入され、計量器16により計量された所定量の原料粉末を原料粉末供給ライン17を経て、チャンバー12内に搬送する。
【0037】
ここで用いられる原料粉末としては、金属、合金、金属間化合物等が挙げられるが、具体的にはアルミニウム、ニッケル、鉄、銀、クロム又はこれらの合金の粉末が例示されるが、特にアルミニウム粉末に好ましく用いられる。
【0038】
搬送ガスによりチャンバー12内に搬送された原料粉末は、上記作動ガスを用いて超音速流としてコールドスプレー用ノズル1先端より噴出され、固相状態又は固液共存状態で基材18に衝突させて皮膜を形成する。
【0039】
ここに用いられるコールドスプレー用ノズル1は、上述したように、先細で円錐状の圧縮部1bと該圧縮部1bに連通する先広がりで円錐状の膨張部1cとを含み、少なくと該膨張部1cが、フッ素樹脂等によって成形されている。
【0040】
このため、上述したように、コールドスプレー操業時の原料粉末のコールドスプレー用ノズルの内壁部への付着及びこれに起因するコールドスプレー用ノズルの閉塞を大幅に減少できる。
【0041】
以下、実施例等に基づき本件発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0042】
この実施例では、図1に示すコールドスプレー用ノズルを、一体成型品として、フッ素樹脂(四フッ化エチレン樹脂)、を用いて製造した。このコールドスプレー用ノズルを用いて、図2に示したコールドスプレー装置によりコールドスプレー操作を行った。コールドスプレー操業条件及び使用装置は、以下の表1の通りである。
【0043】
【表1】

【0044】
この結果、30分間操業後、コールドスプレー用ノズルの内壁部への原料粉末の付着、コールドスプレー用ノズルの閉塞は生じなかった。結果を、比較例と対比可能なように表2に示す。
【実施例2】
【0045】
この実施例では、図1に示すコールドスプレー用ノズルを、全芳香族ポリイミド樹脂(住友化学株式会社製 MELDIN(登録商標)を使用)を用いて、一体成形品として製造した。このコールドスプレー用ノズルを用いて、図2に示したコールドスプレー装置によりコールドスプレー操作を行った。その他、実施例1と同様である。
【実施例3】
【0046】
この実施例では、図1に示すステンレス製のコールドスプレー用ノズルの表面に、ポリイミド樹脂層を形成して、ポリイミド樹脂コートノズルを製造した。以下、その製造手順に関して述べる。
【0047】
容器内に攪拌機を設け、更に、その容器には窒素導入管、及び窒素流出管を設けた。そして、容器内に、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物40.02g(0.13モル)を入れた。そして、そこにN−メチル−2−ピロリジノンとジエチレングリコールモノメチルエーテルとの1:1(重量比)の混合溶媒300gを添加し、窒素パージ雰囲気下で混合した。ここに、窒素気流下で、平均分子量が790であるビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン11.20g(0.014モル)に対して、150gの上記混合溶媒を30分かけて滴下し、十分に混合した。そして、混合が終了すると、氷浴を用いて0℃に保ちながら、窒素気流下で44.38g(0.13モル)の4,4’−1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)アニリンを5回に分けて添加し、その後、溶液温度を30℃以下に保ちながら、5時間攪拌を継続し、ポリイミド前駆体溶液を得た。なお、このポリイミド前駆体溶液の調製には、特許文献3(特開平5−179224号公報)を参照した。
【0048】
その後、当該ポリイミド前駆体溶液に、ステンレス製のコールドスプレー用ノズルを浸漬して、80℃×1時間の加熱を行い、100℃、150℃、200℃でそれぞれ30分間加熱して、ステンレス製のコールドスプレー用ノズルの表面に、淡黄透明のポリイミド樹脂層を形成した。上記操作を複数回繰り返して、500μm厚さのポリイミド樹脂層を備えるポリイミド樹脂層コートノズルを製造した。このポリイミド樹脂層コートノズルを用いて、図2に示したコールドスプレー装置によりコールドスプレー操作を行った。その他、実施例1と同様である。
【0049】
なお、このポリイミドコート層を形成したポリイミド樹脂のガラス転移温度(TMA測定による値)は180℃、窒素下での5%重量減少温度(TGAによる)は490℃、熱分解温度は500℃、赤外分光法によるイミド化率は95%以上である。
【比較例】
【0050】
図1に示されるコールドスプレー用ノズルを、従来より用いられているステンレス鋼を用いて一体成形した。このコールドスプレー用ノズルを用い、図2に示すコールドスプレー装置によりコールドスプレーを行った。操業条件及び使用装置は、実施例1と同様である。
【0051】
この結果、4分〜5分後にコールドスプレー用ノズルの膨張部の内壁面に原料粉末の付着が始まり、5分〜6分後には、コールドスプレー用ノズルが閉塞した。従って、溶射効率の測定は出来なかった。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例と比較例との対比:上記表2から分かるように、ノズル摩耗の観点から見ると実施例も比較例も差異がない。コールドスプレー時の300℃〜350℃の作動ガス温度に加熱された原料粉末は、殆ど固体状態に近い。この原料粒子が、コールドスプレー用ノズルの内壁部に対して衝突すると、コールドスプレー用ノズルの構成材料の差異が明瞭に現れる。比較例ではステンレス鋼でコールドスプレー用ノズルを製造した。このステンレス鋼は、300℃〜350℃の温度で顕著な軟化等を示さない硬質材料と言える。これに対して、実施例で使用したコールドスプレー用ノズルの少なくとも内周壁面には、フッ素樹脂又はポリイミド樹脂が用いられており、ステンレス鋼に比べると軟質材料と言える。即ち、コールドスプレー用ノズルを、ここで言う温度領域で使用する場合、金属系の硬質材料ではなく、耐熱樹脂系の軟質系材料でコールドスプレー用ノズルを製造することが、ノズル摩耗が少なくて済む事が分かる。
【0054】
また、ノズル閉塞の状況を見ると、比較例に比べて、明らかに実施例の方が勝っている。作動ガス温度が300℃〜350℃の範囲で、原料粉末が固体状態であると、コールドスプレー用ノズルの内壁部に対し衝突する原料粒子は、コールドスプレー用ノズルの材質によって粒子形状が塑性変形する程度が異なる。比較例のステンレス鋼を用いて形成したコールドスプレー用ノズルの場合には、内周壁での衝突粒子の変形が大きく、その付着現象が顕著に表れ、5分〜6分で閉塞し、コールドスプレー操作が不可能になる。これに対し、実施例としてものは、そのコールドスプレー用ノズルの少なくとも内壁部がフッ素樹脂等のいずれかの軟質の樹脂材によって形成されているため、その内壁面に対し衝突する原料粒子の塑性変形が起こりにくく、付着現象が起こりにくい。その結果、実施例の場合には、30分間の連続したコールドスプレー操作で、全くノズル閉塞は発生しない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本件発明に係るコールドスプレー用ノズル及び該コールドスプレー用ノズルを用いたコールドスプレー装置により、コールドスプレー操業時の原料粉末、特にアルミニウム粉末のコールドスプレー用ノズルへの付着及びこれに起因するコールドスプレー用ノズルの閉塞を大幅に減少できた。この結果、コールドスプレー用ノズルの長寿命化が達成できる。従って、コールドスプレー用ノズルの頻繁な交換が不要となる。従って、本件発明は、コールドスプレー技術の実用化にとって極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本件発明に係るコールドスプレー用ノズルの一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本件発明に係るコールドスプレー装置の概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1 コールドスプレー用ノズル
1a ノズル入口
1b 圧縮部
1c 膨張部
1d ノズル出口
2 圧縮ガスボンベ
3 作動ガスライン
4 搬送ガスライン
5a、5b 圧力調整器
6a、6b 流量調節弁
7a、7b 流量計
8a、8b 圧力ゲージ
9 電力源
10 ヒーター
11 コールドスプレーガン
12 チャンバー
13 圧力計
14 温度計
15 原料粉末供給装置
16 計量器
17 原料粉末供給ライン
18 基材
矢線 原料粉末の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先細で円錐状の圧縮部と該圧縮部に連通する先広がりで円錐状の膨張部とを含み、原料粉末をその融点以下の作動ガスを用いて該圧縮部のノズル入口から流入させ、該膨張部先端のノズル出口より超音速流として噴出させるコールドスプレー用ノズルであって、
該膨張部は、少なくとも内周壁面がフッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材で形成されていることを特徴とするコールドスプレー用ノズル。
【請求項2】
フッ素樹脂、ポリイミド樹脂のいずれかの樹脂材又はこれらの複合樹脂材によって全体を成形した請求項1に記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項3】
コールドスプレー用ノズルの全体が一体成形されている請求項2に記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項4】
前記フッ素樹脂は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、フッ化ビニリデン樹脂又は三フッ化エチレン樹脂いずれかである請求項1〜請求項3のいずれかに記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂は、大気中での連続使用温度が300℃以上のポリイミド樹脂である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項6】
原料粉末を供給する原料粉末供給手段と、作動ガス及び搬送ガスを供給するガス供給手段と、該原料粉末を、その融点以下の該作動ガスを用いて超音速流として噴出させるノズルを備えたコールドスプレーガンとを含むコールドスプレー装置であって、
該ノズルに請求項1〜請求項5のいずれかに記載のコールドスプレー用ノズルを用いることを特徴とするコールドスプレー装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−142669(P2010−142669A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96590(P2007−96590)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(594062640)プラズマ技研工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】