説明

コーン状破壊部補強構造、該コーン状破壊部補強構造を有する建物、及び破壊耐力の増分算出方法

【課題】引き抜き力が作用する線状部材に対して角度を持って配筋された補強線状部材によって増加するコーン状破壊部の増分荷重を算出することを目的とする。
【解決手段】コーン状破壊部30の設計破壊耐力には、式(1)から算出された柱主筋32A、32Bの増分荷重Pが加えられている。換言すれば、コーン状破壊部30の設計破壊耐力には、柱主筋32A、32Bの寄与分が加えられている。ここで、柱主筋32A、32Bの梁主筋18、20の引き抜き方向の許容たわみ量δは、用いられる柱主筋32A、32Bの強度、本数等によって、適宜調整される。また、コーン状破壊部30に柱主筋32A、32Bとは別の補強部材がある場合には、当該補強部材の強度、耐力等から柱主筋32A、32Bの許容たわみ量δを推定することもできる。この許容たわみ量δを用いて、コーン状破壊部30の破壊耐力の増分荷重Pを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーン状破壊部補強構造、該コーン状破壊部補強構造を有する建物、及び破壊耐力の増分算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柱、スラブ、基礎等のコンクリート部材に埋設された鉄筋やアンカーボルト等に引き抜き力が作用し、当該引き抜き力が鉄筋やアンカーボルト等の定着力(コンクリート部材の破壊耐力)を超えると、コンクリート部材がコーン状に破壊(コーン状破壊)することが知られている。
【0003】
そこで、特許文献1では、アンカーボルトによる鉄骨柱とコンクリート基礎との接合構造において、コンクリート基礎に埋設されたアンカーボルトの周囲に、当該アンカーボルトと平行な鉄筋を埋設することにより、コンクリート基礎のコーン状破壊を抑制している。
【0004】
また、特許文献2では、アンカーによるコンクリート杭の杭頭部と構造物との接合構造において、杭頭部に立設されたアンカーの周囲に、当該アンカーと平行な縦筋と横筋とを籠状に連結した籠状鉄筋を設け、当該籠状鉄筋をアンカーと共に構造物に埋設することにより、構造物のコーン状破壊を抑制している。
【0005】
ところで、引き抜かれる鉄筋やアンカーボルト等と平行に配置された補強筋によるコーン状破壊の補強効果は、一般的に降伏強度の0.7倍として設計される(例えば、非特許文献1)。従って、補強筋の降伏強度や本数を適切に選択することにより、コーン状破壊を効率的に抑制することができる。一方、鉄筋やアンカーボルト等に対して角度を持って配筋された補強筋は、コーン状破壊の抑制に寄与しているものの、その抑制効果を推定する術がなかった。そのため、不要な補強筋を設けるなどの過剰設計の原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−25832号公報
【特許文献2】特開2008−50901号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本建築学会 鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説、1999.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事実を考慮し、引き抜き力が作用する線状部材に対して角度を持って配筋された補強線状部材によって増加するコーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重を算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載のコーン状破壊部補強構造は、コンクリート部材に埋設された線状部材と、前記コンクリート部材に埋設され、該コンクリート部材から前記線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材と、を備え、前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられている。
【数1】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、である。
【0010】
上記の構成によれば、コンクリート部材には、線状部材と補強線状部材が埋設されている。ここで、コンクリート部材から線状部材が引き抜かれたときに、想定されるコンクリート部材の破壊領域をコーン状破壊部として規定する。そして、補強線状部材は、このコーン状破壊部を横切るように埋設されている。即ち、補強線状部材は、コーン状破壊部を貫通すると共に、線状部材に対して角度を持っている。
【0011】
コーン状破壊部の設計破壊耐力(設計値)には、下記式(1)から算出された補強線状部材の増分荷重Pが加えられている。換言すれば、コーン状破壊部の設計破壊耐力には、補強線状部材の寄与分が加えられている。
【0012】
ここで、補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量δは、用いられる補強線状部材の強度、サイズ(断面積)、本数等によって、適宜調整される。また、コーン状破壊部に補強線状部材とは別の補強部材がある場合には、当該補強部材の強度、耐力等から補強線状部材の許容たわみ量δを推定することもできる。この許容たわみ量δを用いて、コーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重Pを算出する。
【0013】
このように、補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pを考慮してコーン状破壊部を設計することにより、過剰な補強筋等を減らすことができ、コンクリート部材の構造を単純化することができる。
【0014】
請求項2に記載のコーン状破壊部補強構造は、コンクリート部材に埋設された線状部材と、前記コンクリート部材に埋設され、該コンクリート部材から前記線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材と、前記コーン状破壊部に少なくとも一部が埋設され、前記線状部材と平行すると共に、補強線状部材と連結された補強筋と、を備え、前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)及び式(2)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられている。
【数2】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、fhy:補強筋の降伏強度、E:補強筋のヤング係数、である。
【0015】
上記の構成によれば、コンクリート部材には、線状部材、補強線状部材、補強筋が埋設されている。ここで、コンクリート部材から線状部材が引き抜かれたときに、想定されるコンクリート部材の破壊領域をコーン状破壊部として規定する。そして、補強線状部材は、コーン状破壊部を横切るように埋設されている。即ち、補強線状部材は、コーン状破壊部を貫通すると共に、線状部材に対して角度を持っている。また、コーン状破壊部には、補強筋の少なくとも一部が埋設されている。
【0016】
ここで、コーン状破壊部の設計破壊耐力(設計値)には、式(1)及び式(2)から算出された補強線状部材の増分荷重Pが加えられている。換言すれば、コーン状破壊部の設計破壊耐力には、補強線状部材の寄与分が加えられている。
【0017】
先ず、式(2)から補強線状部材の許容たわみ量δを算出する。式(2)では、補強筋に作用する軸力が降伏強度の0.7倍に達したときの当該補強筋の変形量(伸び量)を、補強線状部材の許容たわみ量δとして仮定している。なお、補強筋の変形量は、線状部材の埋設長さLの1/2に相当する補強筋に変形が生じたものとしている。
【0018】
次に、式(2)から求めた許容たわみ量δを式(1)に代入し、補強線状部材の増分荷重Pを算出する。式(1)では、補強線状部材を単純支持ばり(両端ピン支持)と仮定し、当該補強線状部材に許容たわみ量δの変形を生じさせる集中荷重を、増分荷重Pとして算出する。なお、補強線状部材の支点間距離は、線状部材の直径に線状部材の埋設長さの2倍を加えた長さとしている。即ち、補強線状部材の支点間距離は、コーン状破壊部の底面の直径と同じである。
【0019】
ここで、コーン状破壊に対し、引き抜かれる線状部材と平行する補強筋の補強効果については、従来から広く研究が進められており、その補強効果(破壊耐力の増分)は、一般的に降伏強度の0.7倍とされている。このように既に確立された補強筋の補強効果に基づいて、補強線状部材の補強効果、即ち、コーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重Pを推定することにより、増分荷重Pの算出精度が向上する。
【0020】
また、例えば、既存建物において、コーン状破壊部に補強線状部材、補強筋が埋設されている場合、補強筋の降伏強度fhy、ヤング係数Eが分かれば、補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pを式(1)及び式(2)から算出することができる。従って、既存建物の耐震改修等においても、過剰な補強等を減らすことができる。
【0021】
請求項3に記載のコーン状破壊部補強構造は、第1コンクリート部材と第2コンクリート部材とにまたがって埋設される線状部材と、前記第1コンクリート部材に埋設され、該第1コンクリート部材から前記線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記第1コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材と、を備え、前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられている。
【数3】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、fhy:線状部材と平行な補強筋の降伏強度、E:線状部材と平行な補強筋のヤング係数、である。
【0022】
上記の構成によれば、線状部材が、第1コンクリート部材と第2コンクリート部材とにまたがって埋設されている。また、第1コンクリート部材には、補強線状部材が埋設されている。ここで、第1コンクリート部材から線状部材が引き抜かれたときに、想定される第1コンクリート部材の破壊領域をコーン状破壊部として規定する。そして、補強線状部材は、コーン状破壊部を横切るように埋設されている。即ち、補強線状部材は、コーン状破壊部を貫通すると共に、線状部材に対して角度を持っている。
【0023】
また、第1コンクリート部材のコーン状破壊部の設計破壊耐力(設計値)には、前述の式(1)から算出された補強線状部材の増分荷重Pが加えられている。換言すれば、コーン状破壊部の設計破壊耐力には、補強線状部材の寄与分が加えられている。
【0024】
ここで、補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量δは、用いられる補強線状部材の強度、サイズ(断面積)、本数等によって、適宜調整される。また、コーン状破壊部に補強線状部材とは別の補強部材がある場合には、当該補強部材の強度、耐力等から補強線状部材の許容たわみ量δを推定することもできる。この許容たわみ量δを用いて、コーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重Pを算出する。
【0025】
このように、補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pを考慮してコーン状破壊部を設計することにより、過剰な補強筋等を減らすことができ、第1コンクリート部材の構造を単純化することができる。
【0026】
請求項4に記載のコーン状破壊部補強構造は、コンクリート製の柱とコンクリート製の梁との仕口部に埋設される梁鉄筋と、前記仕口部に埋設され、該仕口部から前記梁鉄筋が引き抜かれたときに、破壊される前記柱のコーン状破壊部を該柱の材軸方向に横切る柱鉄筋と、前記コーン状破壊部に少なくとも一部が埋設され、前記梁鉄筋と平行すると共に、前記柱鉄筋と連結された補強筋と、を備え、前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)及び式(2)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられている。
【数4】

ただし、δ:柱鉄筋の梁鉄筋の引き抜き方向の許容たわみ量、L:梁鉄筋の埋設長さ、d:梁鉄筋の直径、E:柱鉄筋のヤング係数、I:柱鉄筋の断面2次モーメント、fhy:補強筋の降伏強度、E:補強筋のヤング係数、である。
【0027】
上記の構成によれば、線状部材が、コンクリート製の柱とコンクリート製に梁との仕口部に埋設されている。また、柱には、補強線状部材が埋設されている。ここで、柱から線状部材が引き抜かれたときに、想定される柱の破壊領域をコーン状破壊部として規定する。そして、補強線状部材は、コーン状破壊部を横切るように埋設されている。即ち、補強線状部材は、コーン状破壊部を貫通すると共に、線状部材に対して角度を持っている。
【0028】
また、柱のコーン状破壊部の設計破壊耐力(設計値)には、前述の式(1)から算出された補強線状部材の増分荷重Pが加えられている。換言すれば、コーン状破壊部の設計破壊耐力には、補強線状部材の寄与分が加えられている。
【0029】
ここで、補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量δは、用いられる補強線状部材の強度、サイズ(断面積)、本数等によって、適宜調整される。また、コーン状破壊部に補強線状部材とは別の補強部材がある場合には、当該補強部材の強度、耐力等から補強線状部材の許容たわみ量δを推定することもできる。この許容たわみ量δを用いて、コーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重Pを算出する。
【0030】
このように、補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pを考慮してコーン状破壊部を設計することにより、過剰な補強筋等を減らすことができ、柱の構造を単純化することができる。
【0031】
請求項5に記載のコーン状破壊部補強構造は、請求項1又は請求項2に記載のコーン状破壊部補強構造において、前記コンクリート部材が、柱、梁、スラブ、又は基礎であり、前記線状部材が、アンカー部材である。
【0032】
上記の構成によれば、コンクリート部材が、柱、梁、スラブ、又は基礎であり、線状部材がアンカー部材とされている。このアンカー部材は、例えば、コンクリート柱と鉄骨梁、コンクリート梁と鉄骨間柱(鉄骨柱)、基礎と鉄骨柱、基礎と免震装置とを接合する場合に用いられる。このように、本発明は種々の部材に適用することができる。
【0033】
請求項6に記載の建物は、請求項1〜5の何れか1項に記載のコーン状破壊部補強構造を有している。
【0034】
上記の構成によれば、請求項1〜5の何れか1項に記載のコーン状破壊部補強構造を有することで、コーン状破壊を効率的に抑制することができ、施工性が向上された建物を構築することができる。
【0035】
請求項7に記載の破壊耐力の増分算出方法は、コンクリート部材に埋設された線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材によって増加する前記コーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重Pを式(1)及び式(2)から算出する。
【数5】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、fhy:線状部材と平行な補強筋の降伏強度、E:線状部材と平行な補強筋のヤング係数、である。
【0036】
上記の構成によれば、コンクリート部材には、線状部材と補強線状部材が埋設されている。ここで、コンクリート部材から線状部材が引き抜かれたときに、想定されるコンクリート部材の破壊領域をコーン状破壊部として規定する。そして、このコーン破状破壊部を横切る補強部材によって増加するコーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重Pを式(1)及び式(2)から算出する。換言すれば、補強線状部材がコーン状破壊部の破壊抑制に寄与する寄与分を式(1)及び式(2)から算出する。
【0037】
先ず、式(2)から補強線状部材の許容たわみ量δを算出する。式(2)では、線状部材と平行して埋設された補強筋を想定し、この補強筋に作用する軸力が降伏強度の0.7倍に達したときの当該補強筋の変形量(伸び量)を、補強線状部材の許容たわみ量δとして仮定している。なお、補強筋の変形量は、線状部材の埋設長さLの1/2に相当する補強筋に変形が生じたものとしている。
【0038】
次に、式(2)から求めた許容たわみ量δを式(1)に代入し、補強線状部材の増分荷重Pを算出する。式(1)では、補強線状部材を単純支持ばり(両端ピン支持)と仮定し、当該補強線状部材に許容たわみ量δの変形を生じさせる集中荷重を、増分荷重Pとして算出する。なお、補強線状部材の支点間距離は、線状部材の直径に、線状部材の埋設長さの2倍を加えた長さとしている。即ち、補強線状部材の支点間距離は、コーン状破壊部の底面の直径と同じである。
【0039】
このように、コーン状破壊部を横切る補強線状部材の増分荷重Pを算出することにより、コンクリート部材のコーン状破壊を効率的に抑制することができる。従って、過剰な補強筋等を減らすことができ、コンクリート部材の構造を単純化することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、上記の構成としたので、引き抜き力が作用する線状部材に対して角度を持って配筋された補強線状部材によって増分するコーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係るコーン状破壊部補強構造が適用された柱と梁の仕口部を示す、立面図である。
【図2】図1に示された仕口部の平面図である。
【図3】図1に示された仕口部を梁側から見た側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るコーン状破壊部を示す、斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係るコーン状破壊部補強構造の変形例が適用された柱と梁の接合部を示す、立面図である。
【図6】図5の5−5線断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るコーン状破壊部補強構造の変形例を示す図であり、(A)は立面図、(B)は鉄骨間柱と梁との接合部を示す拡大立面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るコーン状破壊部補強構造の変形例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図8(A)の8−8線断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係るコーン状破壊部補強構造の変形例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図8(A)の9−9線断面図である。
【図10】鉄筋引き抜き定着試験の試験装置を示す、立面図である。
【図11】鉄筋引き抜き定着試験で使用した試験体を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図12】鉄筋引き抜き定着試験で使用した試験体を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図13】試験体の要部拡大説明図である。
【図14】鉄筋引き抜き定着試験の試験結果を示す、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0043】
図1〜3図には、本実施形態のコーン状破壊部補強構造が適用されたコンクリート製の柱12(コンクリート部材、第1コンクリート部材)と、コンクリート製の梁14、16(第2コンクリート部材)が示されている。梁14、16は柱12の両側から張り出しており、柱12に支持されている。なお、各梁14、16は柱12と図示せぬ柱との間に架設されており、ラーメン架構を構成している。
【0044】
各梁14、16には、梁14、16の材軸方向へ延びる複数の梁主筋18、20(線状部材)と、当該梁主筋18、20を補強するせん断補強筋22、24がそれぞれ埋設されている。梁主筋18、20は、各梁14、16の端面から突出しており、柱12と梁14、16との仕口部26に埋設されている。これらの梁主筋18と梁主筋20とは連続するように仕口部26内に埋設されているが、両者は接続されていない。また、梁主筋18、20の端部には、柱12との定着力を高めるための機械式定着28がそれぞれ取り付けられている。なお、機械式定着28は必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0045】
ここで、梁主筋18、20には、当該梁14、16の自重(長期荷重)や地震荷重によって引き抜き力(矢印A方向)が作用する。この引き抜き力が、梁主筋18、20の周辺にあるコンクリートの破壊耐力(梁主筋18、20の引き抜き耐力)を超えると、当該コンクリートにひびや亀裂が入り、仕口部26がコーン状(円錐形状)に破壊されることになる。このようにコーン状に破壊される領域をコーン状破壊部30(図4参照)とし、このコーン状破壊部の曲面(以下、「コーン状破壊面30A」という)を二点鎖線で図示している。なお、コーン状破壊部30はコーン状破壊面30A内の領域であり、詳細については後述する。
【0046】
柱12には、柱12の材軸方向(上下方向)に延びる柱主筋32(補強線状部材)と、当該柱主筋32を補強するせん断補強筋34が埋設されている。柱主筋32は、図2に示されるように、柱12の外周に沿って間隔を空けて埋設されており、柱12の材軸方向に仕口部26を貫通している。また、柱主筋32のうち、梁14、16側に埋設された柱主筋32A、32Bは、各梁主筋18、20のコーン状破壊部30を柱12の材軸方向に横切っている。即ち、柱主筋32A、32Bは、柱12の材軸方向にコーン状破壊部30を通り貫け、コーン状破壊部30の一方側(上方又は下方)から他方側(下方又は上方)へ渡っている。また、柱主筋32A、32Bは、立面視にて梁主筋18、20と直交又は略直交しており、梁主筋18、20に対して角度を持っている(梁主筋18と平行しない)。この柱主筋32A、32Bを補強するせん断補強筋34は、柱主筋32A、32Bと立面視にて直交又は略直交しており、梁主筋18、20と平行又は略平行している。また、仕口部26に周辺あるせん断補強筋34は、部分的にコーン状破壊部30に埋設されている。
【0047】
なお、本実施形態における柱主筋32A、32Bがコーン状破壊部30を横切るとは、柱主筋32A、32Bがコーン状破壊部30を直線的に突っ切ることを意味し、例えば、図2に示すせん断補強筋34のように、コーン状破壊部30内で屈曲するものは含まれない。このせん断補強筋34のように、コーン状破壊部30内で屈曲していると、梁主筋18、20の引き抜き力に対して効率的に抵抗できないためである。
【0048】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0049】
先ず、コーン状破壊部について説明する。
一般に、コンクリート部材に埋設された鉄筋やアンカー等に引き抜き力が作用し、この引き抜き力がコンクリート部材の破壊耐力(引き抜き耐力)を超えると、コンクリート部材がコーン状(円錐状又は円錐台状)に破壊される。本実施形態におけるコーン状破壊部30は、実験や経験に基づいてコンクリート部材がコーン状に破壊される領域を想定したものであり、コーン状破壊部30の曲面(以下、「コーン状破壊面30A」という)に沿って、コンクリート部材にひびや亀裂等が生じるものと仮定している。具体的には、コーン状破壊部30は、梁主筋18の端部から梁主筋18の引き抜き方向(図1において、矢印A方向)へ向かって広がる円錐台状の領域であり、仕口部26から梁主筋18が引き抜かれたときに、コーン状破壊部30のコーン状破壊面30Aに沿って、柱12に破壊が生じることになる。また、コーン状破壊面30Aは、一般に、引き抜き力が作用する鉄筋やアンカー等に対して45度の傾斜角で規定されている。
【0050】
なお、コーン状破壊面30Aは、コンクリート強度や、補強部材の強度、サイズ(断面積)、及び本数等に変動する。従って、前述の梁主筋18に対して45度の傾斜角に限定されるものではなく、適宜設計可能である。また、コーン状破壊部30には、補強をする前に想定される破壊領域、及び補強をした後に想定される破壊領域の何れをも含む概念である。
【0051】
ここで、本実施形態では、柱主筋32A、32Bがコーン状破壊部30を横切ると共に、立面視にて梁主筋18、20と直交又は略直交しているため、梁主筋18、20に引き抜き力が作用した場合、柱主筋32A、32Bのダボ作用によって周囲のコンクリートが拘束される。従って、コーン状破壊部30の破壊、即ち、コーン状破壊面30Aに沿って生じるひびや亀裂が抑制される。本実施形態では、このような柱主筋32A、32Bの補強効果を考慮して、コーン状破壊部30の設計破壊耐力が調整される。具体的には、下記式(1)及び式(2)から算出された柱主筋32A、32Bによる増分荷重Pが、各コーン状破壊部30の設計破壊耐力に加算されている。
【0052】
【数6】

ただし、δ:補強線状部材(柱主筋)の線状部材(梁主筋)の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材(梁主筋)の埋設長さ、d:線状部材(梁主筋)の直径、E:補強線状部材(せん断補強筋)のヤング係数、I:補強線状部材(せん断補強筋)の断面2次モーメント、fhy:補強筋の降伏強度、E:補強筋のヤング係数、である。
【0053】
ここで、図13を参照しながら、後述する鉄筋引き抜き定着試験で用いた試験体S6Mを例に式(1)及び式(2)について説明する。なお、本実施形態における梁主筋18、20、柱主筋32A、32B、せん断補強筋34は、鉄筋引き抜き定着試験で用いた引き抜き鉄筋90、水平筋94、補強筋96にそれぞれ相当する。
【0054】
コーン状破壊部30の破壊抑制に寄与する水平筋94の寄与分は、水平筋94が設計上負担可能な集中荷重として算定する。具体的には、水平筋94の許容たわみ量δを求め、当該水平筋94に許容たわみ量δの変形を生じさせる集中荷重を逆算し、この集中荷重をコーン状破壊部30の破壊耐力の増分荷重Pとして算定する。
【0055】
水平筋94の許容たわみ量δとは、水平筋94を単純支持ばり(両端ピン支持)と仮定した場合に、引き抜き鉄筋90の引き抜き力に起因して、水平筋94の支点間中央部に作用する集中荷重によって水平筋94に生じる最大たわみ量である。水平筋94の支点間距離は、コーン状破壊部30の底面(試験体S6Mの上面に投影されたコーン状破壊部30の円形領域)の直径、即ち、引き抜き鉄筋90の直径に、当該引き抜き鉄筋90の埋設長さLの2倍を加えた長さである。
【0056】
この水平筋94の許容たわみ量δは、用いられる水平筋94の強度、サイズ(断面積)、本数等によって、適宜設計することが可能であり、また、コーン状破壊部30に水平筋94とは別の補強部材がある場合には、当該補強部材の強度から水平筋94の許容たわみ量δを推定することもできる。
【0057】
ここで、引き抜き鉄筋90と平行する補強筋96の補強効果については、従来から広く研究が進められており、その補強効果(コーン状破壊部30の破壊耐力の増分)は、一般的に降伏強度の0.7倍とされている。そのため、本実施形態では、この補強筋96の補強効果から水平筋94の許容たわみ量δを推定する。具体的には、式(2)を用いて水平筋94の許容たわみ量δを算出する。式(2)では、補強筋96に作用する軸力が降伏強度の0.7倍に達したときの補強筋96の変形量(伸び量)を、水平筋94の許容たわみ量δとして仮定している。
【0058】
なお、コーン状破壊部30に対する補強筋96の埋設長さは、引き抜き鉄筋90との位置関係によって変動する。即ち、補強筋96が引き抜き鉄筋90から離れるに従って補強筋96の埋設長さが短くなり、補強筋96が引き抜き鉄筋90に接近するに従って補強筋96の埋設長さが長くなり、最大で引き抜き鉄筋90の埋設長さLと同じになる。そのため、コーン状破壊部30に対する補強筋96の埋設長さmは、引き抜き鉄筋90の埋設長さLの1/2として平均化し、このL×1/2の補強筋96に変形(軸ひずみ)が生じるものと仮定している。そして、式(2)から求めた水平筋94の許容たわみ量δを式(1)に代入し、水平筋94の増分荷重Pを算出する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、柱主筋32A、32Bによって増加するコーン状破壊部30の破壊耐力の増分荷重Pを式(1)及び式(2)から算出し、柱主筋32A、32Bの補強効果を算定している。これにより、柱主筋32A、32Bの補強効果を定性的に把握することが可能となり、従来と比較して、仕口部26に対する過剰な補強を減らすことができる。よって、仕口部26の構造を単純化することができる。また、梁主筋18と平行するせん断補強筋34の補強効果に基づいて、柱主筋32A、32Bの補強効果、即ち、コーン状破壊部30の破壊耐力の増分荷重Pを推定することにより、増分荷重Pの算出精度が向上する。
【0060】
更に、例えば、既存建物において、仕口部26に埋設されているせん断補強筋の降伏強度fhy、ヤング係数Eが分かれば、式(1)及び式(2)から柱鉄筋によるコーン状破壊部の増分荷重Pを算出することができる。従って、既存建物の耐震改修等においても、過剰な補強等を減らすことができる。また、本実施形態では、梁主筋18と梁主筋20とを接続しないため、施工性が向上する。
【0061】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0062】
本実施形態は、コンクリート製の柱12とコンクリート製の梁14、16との接合部に限らず、コンクリート部材同士の接合部、コンクリート部材と鉄骨部材との接合部、又はコンクリート部材と機械装置(例えば、免震装置、ダンパー等)との接合部等に適用することができる。
【0063】
例えば、図5及び図6には、アンカーボルト40(アンカー部材)によって接合されたコンクリート製の柱12と鉄骨梁42、44とが示されている。鉄骨梁42、44は、H形鋼46の端部に端部フランジ48を接合して構成されている。この端部フランジ48には、アンカーボルト40が貫通する貫通孔が形成されている。また、端部フランジ48とH形鋼46とは補強リブ50によって補強されている。
【0064】
アンカーボルト40は柱12(コンクリート部材)に埋設されており、その端部に機械式定着28が取り付けられている。アンカーボルト40(線状部材)の機械式定着28と反対側の端部は柱12の側面から突出し、鉄骨梁42、44の端部フランジに形成された貫通孔に挿入されている。このアンカーボルト40の端部に取り付けられたナット52を締め付けることにより、柱12に鉄骨梁42、44が接合されている。
【0065】
柱12に埋設された柱主筋32A、32Bは、当該柱12の材軸方向にコーン状破壊部30を横切ると共に、立面視にてアンカーボルト40と直交又は略直交している。そして、各コーン状破壊部30の設計破壊耐力には、前述した式(1)及び式(2)を用いて算出した柱主筋32A、32Bによる増分荷重Pが加算されている。従って、柱12の構造を単純化することができる。
【0066】
また、図7(A)及び図7(B)には、ラーメン架構を構成する上下の梁54の間に配置された鉄骨間柱56が示されている。この鉄骨間柱56は角形鋼管からなる間柱本体58を備え、当該間柱本体58の両端部には端部フランジ60がそれぞれ接合されている。これらの端部フランジ60には、アンカーボルト40が貫通する貫通孔が形成されている。また、端部フランジ60と間柱本体58とは補強リブ62によって補強されている。なお、上下の梁54は、一対の柱53の間に架設されている。
【0067】
図7(B)に示されるように、アンカーボルト40は、一端が梁54(コンクリート部材)に埋設されている。梁54の上面から突出するアンカーボルト40の他端は、端部フランジ60に形成された貫通孔に挿入されており、ナット52が取り付けられている。このナット52を締め付けることにより、上下の梁54に鉄骨間柱56が接合されている。
【0068】
梁54に埋設された梁主筋18は、コーン状破壊部30を梁54の材軸方向に横切ると共に、立面視にてアンカーボルト40と直交又は略直交している。各コーン状破壊部30の設計破壊耐力には、前述した式(1)及び式(2)を用いて算出した梁主筋18による増分荷重Pが加算されている。従って、梁54の構造を単純化することができる。
【0069】
更に、図8(A)及び図8(B)には、コンクリート製の基礎64に固定された鉄骨柱66が示されている。鉄骨柱66は、角形鋼管からなる柱本体70を備え、当該柱本体70の両端部には端部フランジ72がそれぞれ接合されている。これらの端部フランジ72には、アンカーボルト40が貫通する貫通孔が形成されている。また、端部フランジ72と柱本体70とは補強リブ74によって補強されている。
【0070】
鉄骨柱66は、アンカーボルト40によって基礎64に固定されている。アンカーボルト40の周囲には、格子状に連結された複数の横筋68と縦筋69が埋設されている。これらの横筋68及び縦筋69は、コーン状破壊部30を横切ると共に、アンカーボルト40と立面視にて直交又は略直交している。
【0071】
ここで、基礎64には、アンカーボルト40と平行する補強筋等の補強部材が埋設されていない。従って、式(1)における許容たわみ量δは、横筋68及び縦筋69の強度、サイズ(断面積)、本数等によって適宜設計される。これにより、基礎64の構造を単純化することができる。また、コーン状破壊部30には、格子状に連結された複数の横筋68及び縦筋69が横切っているため、コーン状破壊部30の破壊耐力が大きくなる。
【0072】
更にまた、図9(A)及び図9(B)には、スラブ65の上に構築された壁80が示されている。壁80はコンクリート製で、格子状に連結された横筋82及び縦筋84が埋設されている。縦筋84のスラブ65側の端部には、機械式継手からなる継手86が取り付けられており、この継手86を介して縦筋84とアンカーボルト40とが接続されている。アンカーボルト40は、壁80とスラブ65とにまたがって埋設されている。スラブ65に埋設された横筋68及び縦筋69は、各アンカーボルト40のコーン状破壊部30を水平方向に横切ると共に、アンカーボルト40と立面視にて直交又は略直交している。また、各コーン状破壊部30の設計破壊耐力には、スラブ65の横筋68による増分荷重Pが加算されているが、前述したように、スラブ65には、アンカーボルト40と平行する補強均等の補強部材が埋設されていないため、式(1)における許容たわみ量δは、横筋68の強度、サイズ(断面積)、本数等によって適宜される。これにより、スラブ65の構造を単純化することができる。
【0073】
なお、本実施形態では機械式継手からなる継手86を用いて縦筋84とアンカーボルト40とを接続したが、継手形式はこれに限られない。即ち、機械式継手の他、重ね継手、溶接継ぎ手などを適宜用いることができる。更に、壁80の壁途中部又は壁頭部等に継手86を設けて、縦筋84とアンカーボルト40とを接続しても良い。
【0074】
また、図示を省略するが、上記実施形態は、免震装置、ダンパー、ブレース、鋼製耐震壁等と基礎(フーチングを含む)、床、梁、小梁、柱との接合部にも適用することができる。また、図1に示す構成は、梁14、16の間に柱12を通す、いわゆる柱通しであるが、上下の柱の間に梁を通す、いわゆる梁通しとしても良い。この場合、梁に埋設される柱鉄筋が線状部材となり、梁主筋が補強線状部材となる。
【0075】
なお、上記実施形態では、補強線状部材として柱主筋32A、32B(図1参照)等を用いたが、PC鋼線、PC鋼棒等のPC鋼材や、ステンレス鉄筋、炭素繊維等を収束した繊維補強材等を用いることができる。また、アンカーボルト40に替えて、L型アンカー、J型アンカー、ケミカルアンカー等を用いることもできる。
【0076】
また、図1に示す構成では、梁主筋18、20に対して柱主筋32A、32Bが直交又は略直交しているが、これに限定されるものではない。柱主筋32A、32Bは、梁主筋18、20と平行せず、梁主筋18、20に対して角度を持っていれば良い。この場合、柱主筋32A、32Bによるコーン状破壊部30の増分荷重Pは、上記の角度を考慮して適宜算出すれば良い。
【0077】
また、柱12、梁14、16等のコンクリート部材(第1コンクリート部材、第2コンクリート部材)は、鉄筋コンクリート造に限らず、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造、更には現場打ち工法、プレキャスト工法等の種々の工法を用いることができる。また、鋼繊維、炭素繊維等が混入された補強コンクリートを用いることができる。
【0078】
更に、上記実施形態は、建物の一部に用いても、全てに用いても良い。また、種々の構造の新築建物、改築建物に適用することができる。上記実施形態に係るコーン状破壊部補強構造を適用することにより、コーン状破壊を効率的に抑制することができ、施工性が向上された建物を構築することができる。
【0079】
次に、鉄筋引き抜き定着試験について説明する。
【0080】
<試験方法>
図10には、鉄筋引き抜き定着試験で用いた加力装置95が示されている。後述する試験体S6U、S6Mの長手方向両端部に、PC鋼棒92で各300kNのプレストレスを導入し、反力床97に固定した。次に、試験体S6U、S6Mの上面に埋設された引き抜き鉄筋90に50tジャッキで引き抜き力を加え(矢印B方向)、試験体S6U、S6Mの上面から50mm上方の位置で、引き抜き鉄筋90の抜け出し変位(引き抜き鉄筋90の伸び量)δを測定した。なお、この抜け出し変位には、試験体S6U、S6Mに埋設された引き抜き鉄筋90の伸び量だけでなく、試験体S6U、S6Mから突出した引き抜き鉄筋90の伸び量も含まれている。
【0081】
<試験体>
図11(A)〜図11(C)には試験体S6Uが示されており、図12(A)〜図12(B)には試験体S6Mが示されている。試験体としては、水平筋94の本数が異なる2つの試験体S6U、S6Mを用いた。試験体S6Uは、柱主筋に相当する水平筋94を2本(2−D13)とし、コーン状破壊に対する水平筋94の影響を小さくした。一方、試験体S6Mは、水平筋94の本数を試験体S6Uの2倍の4本(4−D13)とし、コーン状破壊に対する水平筋94の影響を大きくし、水平筋94によってコーン状破壊強度(破壊耐力)が増加するか否かを検討した。また、各試験体S6U、S6Mでは、補強筋96としてD6(SD345)を使用した。
【0082】
引き抜き鉄筋90はD25(USD685)とし、その端部に機械式定着99(東京鉄鋼製)を取り付けた。また、引き抜き鉄筋90の埋設長さ(定着長さ)L(図13参照)は、コーン状破壊を促すために直径dの8倍とした。また、試験体S6U、S6Mには、コンクリートに鋼繊維を1%(体積比)混入した鋼繊維補強コンクリートを使用した。本試験で用いた引き抜き鉄筋90、水平筋94、補強筋96、繊維補強コンクリートの詳細は、表1の通りである。
【0083】
【表1】

【0084】
<試験結果>
図14、及び表2、表3に試験結果を示す。
本試験では、試験体S6Uの最大耐力時(表2参照)、及び試験体S6Mの最大耐力時(表3)の2つの場合について、水平筋94によるコーン状破壊部30の破壊耐力の増分荷重Pを算出した。
【0085】
先ず、試験体S6Uの最大耐力時について説明する。
試験体S6Uの最大耐力時(抜け出し変位δ=3.3mm)における試験体S6Uと試験体S6Mの荷重を比較すると、試験体S6Uは325kN(最大耐力)であり、試験体S6Mは378kNであった。これは、試験体S6Uよりも余計に埋設された2本の水平筋94によって、試験体S6Mの破壊強度が54kN(≒378kN−325kN)増加したことを示している。なお、54kNは、小数点以下を四捨五入した値である。
【0086】
【表2】

【0087】
また、図14に示すグラフには、コーン状破壊を想定した定着強度(非特許文献1参照)の計算値を併記している。なお、SF効果考慮は、定着強度のコンクリート寄与分を1.5倍している。つまり、コンクリートと周辺補強筋によって算出する定着強度(掻き出し定着破壊強度)を試験体S6U、S6Mともに大きく上回っていることが分かった。
【0088】
ここで、コーン状破壊時の補強筋96の効果は、既往の研究に基づき降伏強度の0.7倍と定められている。そこで、試験体S6Uが最大耐力に達した時の水平筋94の引き抜き方向(矢印B方向)の変形、即ち、水平筋94の許容たわみ量δは、引き抜き鉄筋90の定着長さ(埋設長さ)領域のみで補強筋96が降伏強度の0.7倍に達した時の変形と仮定し、式(2)から算定した。また、式(1)より、水平筋94が引き抜き鉄筋90の材軸方向(引き抜き方向)に許容たわみ量δの変形をしたときの単純支持条件(単純支持ばり)における集中荷重(増分荷重)Pを算出し、コーン状破壊に対する水平筋94の寄与分を算定した。ただし、増分荷重Pは、引き抜き鉄筋90のせん断強度以下とする。なお、単純支持条件の支点間距離Lは、引き抜き鉄筋90の埋設長さLの2倍に、引き抜き鉄筋90の直径を加算したものとした。
【0089】
【数7】

ただし、δ:水平筋の引き抜き鉄筋の引き抜き方向の許容たわみ量、L:引き抜き鉄筋の埋設長さ、d:引き抜き鉄筋の直径、E:水平筋のヤング係数、I:水平筋の断面2次モーメント、fhy:補強筋の降伏強度、E:補強筋のヤング係数、である。
【0090】
そして、試験における測定荷重の差分ΔPと式(1)及び式(2)から算出した増分荷重Pの比(ΔP/P=1.28)を算出することにより、式(1)及び式(2)の妥当性を確認した。
【0091】
次に、試験体S6Mの最大耐力時について説明する。
試験体S6Mの最大耐力時(抜け出し変位δ=8.6mm)における試験体S6Uの最大耐力(破壊耐力)と試験体S6Mの最大耐力を比較すると、試験体S6Uの最大耐力は325kNであり、試験体S6Mの最大耐力は414kNであった。これは、試験体S6Uよりも余計に埋設された2本の水平筋94によって、試験体S6Mの破壊強度が、90kN(≒414kN−325kN)増加したことを示している。なお、90kNは、小数点以下を四捨五入した値である。
【0092】
【表3】

【0093】
試験体S6Mの最大耐力時(終局状態)は、引き抜き鉄筋90の抜け出し変位δが8.6mmと大きいことを考慮し、引き抜き鉄筋90の埋設長さLと同じ長さの補強筋96に変形(伸び)が生じたもの仮定し、下記式(3)から水平筋94の許容たわみ量δを算出した。なお、式(3)以外の条件は、前述した試験体S6Uの最大耐力時と同様である。
【0094】
【数8】

【0095】
そして、式(3)求めた許容たわみ量δを上記式(1)に代入し、コーン状破壊部30の増分荷重Pを算出した。また、試験における測定荷重の差分ΔPと、式(1)及び式(3)から算出した増分荷重Pの比(ΔP/P=1.07)を算出することにより、式(1)及び式(3)の妥当性を確認した。
【0096】
なお、本試験では、圧縮強度65.7N/mmの繊維補強コンクリートを用いたが、圧縮強度が30〜90N/mmの範囲にあれば、同様の考え方で上記の式(1)〜式(3)を適用することができる。また、水平筋94は、引き抜き鉄筋90の端部から当該引き抜き鉄筋90の直径dの4倍以上離れていることが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0098】
12 柱(コンクリート部材、第1コンクリート部材)
14 梁(第2コンクリート部材)
16 梁(第2コンクリート部材)
18 梁主筋(線状部材)
20 梁主筋(線状部材)
26 仕口部
30 コーン状破壊部
32A 柱主筋(補強線状部材)
32B 柱主筋(補強線状部材)
34 せん断補強筋(補強筋)
40 アンカーボルト(線状部材、アンカー部材)
42 鉄骨梁(第2コンクリート部材)
54 梁(コンクリート部材)
64 スラブ(コンクリート部材、第1コンクリート部材)
68 横筋(補強線状部材)
69 縦筋(補強線状部材)
80 壁(コンクリート部材、第1コンクリート部材)
90 引き抜き鉄筋(線状部材)
94 水平筋(補強線状部材)
96 補強筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材に埋設された線状部材と、
前記コンクリート部材に埋設され、該コンクリート部材から前記線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材と、
を備え、
前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられているコーン状破壊部補強構造。
【数1】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、である。
【請求項2】
コンクリート部材に埋設された線状部材と、
前記コンクリート部材に埋設され、該コンクリート部材から前記線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材と、
前記コーン状破壊部に少なくとも一部が埋設され、前記線状部材と平行すると共に、補強線状部材と連結された補強筋と、
を備え、
前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)及び式(2)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられているコーン状破壊部補強構造。
【数2】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、fhy:補強筋の降伏強度、E:補強筋のヤング係数、である。
【請求項3】
第1コンクリート部材と第2コンクリート部材とにまたがって埋設される線状部材と、
前記第1コンクリート部材に埋設され、該第1コンクリート部材から前記線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記第1コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材と、
を備え、
前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられているコーン状破壊部補強構造。
【数3】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、fhy:線状部材と平行な補強筋の降伏強度、E:線状部材と平行な補強筋のヤング係数、である。
【請求項4】
コンクリート製の柱とコンクリート製の梁との仕口部に埋設される梁鉄筋と、
前記仕口部に埋設され、該仕口部から前記梁鉄筋が引き抜かれたときに、破壊される前記柱のコーン状破壊部を該柱の材軸方向に横切る柱鉄筋と、
前記コーン状破壊部に少なくとも一部が埋設され、前記梁鉄筋と平行すると共に、前記柱鉄筋と連結された補強筋と、
を備え、
前記コーン状破壊部の設計破壊耐力には、式(1)及び式(2)から算出された前記補強線状部材による破壊耐力の増分荷重Pが加えられているコーン状破壊部補強構造。
【数4】

ただし、δ:柱鉄筋の梁鉄筋の引き抜き方向の許容たわみ量、L:梁鉄筋の埋設長さ、d:梁鉄筋の直径、E:柱鉄筋のヤング係数、I:柱鉄筋の断面2次モーメント、fhy:補強筋の降伏強度、E:補強筋のヤング係数、である。
【請求項5】
前記コンクリート部材が、柱、梁、スラブ、又は基礎であり、
前記線状部材が、アンカー部材である請求項1又は請求項2に記載のコーン状破壊部補強構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のコーン状破壊部補強構造を有する建物。
【請求項7】
コンクリート部材に埋設された線状部材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部を横切る補強線状部材によって増加する前記コーン状破壊部の破壊耐力の増分荷重Pを式(1)及び式(2)から算出する破壊耐力の増分算出方法。
【数5】

ただし、δ:補強線状部材の線状部材の引き抜き方向の許容たわみ量、L:線状部材の埋設長さ、d:線状部材の直径、E:補強線状部材のヤング係数、I:補強線状部材の断面2次モーメント、fhy:線状部材と平行な補強筋の降伏強度、E:線状部材と平行な補強筋のヤング係数、である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−21433(P2011−21433A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169350(P2009−169350)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】