説明

サイクロイドモーター

【課題】モーターの出力軸の回転運動を直線運動に変換して出力するための装置を簡略化するとともに動力伝達効率を高める。
【解決手段】ステーター1の定円円筒内で、定円円筒面1aに設けられた磁極により、円筒状の磁性体からなるローター2をサイクロイド転動させる構成を備え、ステーター1の定円円筒面1a又はローター2の転動円筒面2aのいずれか一方に螺旋状の突起(2b)、他方に螺旋状の溝(1b)を設け、ローター2をサイクロイド転動から螺旋運動に変換して軸方向に運動させるしくみを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサイクロイドモーターに関し、特に、サイクロイドモーターのローターのサイクロイド運転(転動)を利用して、ローターの回転運動を直線運動に変換して出力するサイクロイドモーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の直線運動出力型のモーターには、モーター軸の回転を減速装置によって減速し、この減速されたモーター軸の回転運動を変換装置によって直線運動に変換するものが知られている。この種のモーターは例えば特許文献1に記載されており、参照されたい。
【特許文献1】特開平8−340656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の直線運動出力型のモーターでは、既述のとおり、出力軸の回転を減速装置によって減速し、この減速されたモーター軸の回転運動を変換装置によって直線運動に変換するため、モーターに減速装置と変換装置を付加しなければならないことで、機械的な構造が大きい空間を占有し、複数の機械力の形態を変換する装置を介在することで、動力伝達率が低下するという問題があった。
【0004】
本発明は、このような従来の問題を解決するもので、その目的は、出力軸の回転運動を直線運動に変換して出力するための装置を簡略化するとともに動力伝達効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明のサイクロイドモーターは、定円円筒内で、定円円筒面に設けられた磁極により、円筒状の磁性体からなるローターをサイクロイド転動させるサイクロイドモーターにおいて、前記定円円筒面又は前記ローターの転動円筒面のいずれか一方に螺旋状の突起、他方に螺旋状の溝を備え、前記ローターをサイクロイド転動から螺旋運動に変換して軸方向に運動させることを要旨とする。この場合、螺旋状の突起と螺旋状の溝のいずれか一方又は両方をコイルスプリング状に形成された螺旋体により構成することができる。また、ローターの軸方向の運動を定円円筒外に取り出す手段を備えることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のサイクロイドモーターによれば、上記の構成により、出力軸の回転運動を直線運動に変換して出力するための装置を簡略化するとともに動力伝達効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。図1乃至図5に第1の実施の形態を示している。図1及び図2に示すように、サイクロイドモーターは、ステーター1と、ローター2とを備えている。ステーター1は円筒構造になっており、その内周に磁極6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6hと、各磁極6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6hを励磁するコイル1d、1d、1d、1d、1d、1d、1d、1dが(周方向に)等間隔に設けられ、電気回路をなす磁路(図示省略)によって略円筒状に構成され、さらに充填材1fによって定円円筒面1aが形成される。なお、コイル1d、1d、1d、1d、1d、1d、1d、1dはマイコンなどで構成されたモーター制御装置(図示省略)に接続される。ローター2は円筒状の磁性体からなり、ステーター1の定円円筒内に嵌合される。この場合、ステーター1の定円円筒面1aの直径とローター2の転動円筒面2aの直径は同一ではなく、定円円筒面1aの直径が転動円筒面2aの直径よりも少し大きく設定される。これにより、ステーター1の定円円筒面1aとローター2の転動円筒面2aとの間に所定の隙間が設けられる。このようにして、モーター制御装置により、ステーター1の各コイル1dを制御して、磁極6a、6b、6c、6d、6e、…を順に励磁することにより、その磁気吸引力により、ステーター1の定円円筒内でローター2の転動円筒面2aが定円円筒面1a上を回転方向に移動し、定円円筒面1aと転動円筒面2aとの間に設けられた隙間により、ローター2が偏心しながら回転する動作、すなわちサイクロイド転動を取るようになっている。
【0008】
このステーター1とローター2にはまた、ステーター1の定円円筒面1a又はローター2の転動円筒面2aのいずれか一方に螺旋状の突起を、他方に螺旋状の溝を備えて、ローター2をサイクロイド転動から螺旋運動に変換して軸方向に運動させるしくみが採用されている。このしくみは、具体的に言えば、ステーター1の定円円筒面1aとローター2の転動円筒面2aに、螺旋状の溝と突起が相互に噛み合うねじのように形成されて、ステーター1の定円円筒内にローター2が支持され、磁極6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6hの磁気吸引力によりサイクロイド転動することにより、定円円筒内でローター2が軸方向に相対的に変位自在に構成されたものである。
【0009】
この場合、図3に示すように、ステーター1の定円円筒面1aに、螺旋状の溝1bが形成され、図4に示すように、ローター2の転動円筒面2aに、ステーター1に設けた螺旋状の溝1bに係合可能な螺旋状の突起2bが形成される。このようにしてモーター制御装置により、ステーター1の磁極6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6hの励磁を制御することによって、ステーター1の定円円筒面1aに形成された螺旋状の溝1bとローター2の転動円筒面2aに形成された突起2bが噛み合った状態から、ステーター1の定円円筒内で、ローター2の転動円筒面2aが磁極6a、6b、6c、6d、6e、…に順次引き付けられて、ローター2が回転し、ローター2の転動円筒面2aの突起2bが定円円筒面1aの螺旋状の溝1bを辿ることによって直線運動を併せて行う。このとき、図5に示すように、ローター2の突起2bは左右どちらの側面もステーター1の溝1bの両側面に接触することなしに、また突起2bの頂点部分も溝1bの底に接触することなしに、突起2bが溝1bの上を移動する。また、このとき、ステーター1の磁極6a、6b、6c、6d、6e、…の励磁を段階的に制御することで、ローター2の回転を制御することができるので、ローター2の位置決めを正確に行うことができる。
【0010】
以上説明したように、このサイクロイドモーターは、ステーター1の定円円筒内で、定円円筒面1aに設けられた磁極6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6hにより、円筒状の磁性体からなるローター2をサイクロイド転動させる構成を備え、ステーター1の定円円筒面1a又はローター2の転動円筒面2aのいずれか一方に螺旋状の突起(2b)、他方に螺旋状の溝(1b)を設け、ローター2をサイクロイド転動から螺旋運動に変換して軸方向に運動させるようにしたので、出力軸の回転運動を直線運動に変換して出力するための装置を簡略化することができ、またローター2の回転力で、ローター2を軸方向に移動させるので、動力伝達効率を高めることができる。また、この場合、ステーター1とローター2の円周比により、ローター2を減速することができ、これにより、大きなトルクを生み出すことができる。さらに大きなトルクが必要な場合には、ステーター1の定円円筒面1aとローター2の転動円筒面2aに歯を形成し、互いに噛み合わせることにより、歯が無い場合に比べて摩擦を大きくすることができ、より強いトルクを得ることができる。
【0011】
図6に第2の実施の形態を示している。図6に示すように、この実施の形態では、ステーター1内周の螺旋状の溝(又は突起)に代えて、螺旋体1gが設けられている。この場合、螺旋体1gはコイルスプリング状に形成され、この螺旋体1gがステーター1の内周に挿入され、磁極6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6h上に固定されている。このようにして螺旋体1gが磁極6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6hの間の溝空間をレールのように橋渡しするので、ローター2の螺旋状の突起(又は溝)を螺旋体1gでガイドし、ローター2をスムーズに回転させることができる。このようにステーター1内周の螺旋状の溝を螺旋体1gにより構成することで、ステーター1の定円円筒面1aに欠陥があっても、完全なネジを形成することができる。また、ローター2外周の螺旋状の突起(又は溝)を、このコイルスプリング状の螺旋体で構成することもでき、この螺旋体により同様の作用効果を得ることができる。なお、この螺旋体はステーター1の定円円筒面1a又はローター2の転動円筒面2aの螺旋状の突起又は溝のいずれか一方又は両方に適用することができる。
【0012】
図7に第3の実施の形態を示している。図7に示すように、この実施の形態では、ローター2の軸方向の運動をステーター1の定円円筒外に取り出す手段を備えている。この手段には、ローター2に係合してローター2の軸方向の運動によるローター2の変位を選択的に外部に取り出す継ぎ手が採用され、この場合、中心軸3、ワッシャー5a、5b、Eリング4a、4bで構成される。図示のように、ステーター1の内部にローター2が挿入され、ローター2に中心軸3が取り付けられる。この場合、中心軸3はステーター1の左右で支えられる。ローター2と中心軸3は固定されていない。中心軸3にはローター2の両側にワッシャー5a、5bが取り付けられ、これらのワッシャー5a、5bがEリング4a、4bで固定されて、ワッシャー5a、5bで挟みこむようにローター2がある。このようにしてローター2が既述のとおり、回転され、直線運動すると、ローター2でワッシャー5a又は5bを押し、このワッシャー5a又は5b がEリング4a又は4bで中心軸3に固定されているので、中心軸3が直線的に移動する。よって、この中心軸3でローター2の直線運動を、ローター2の回転と偏心運動に係りなく、ステーター1の外部に取り出すことができる。このようにローター2の軸方向の運動をステーター1の定円円筒外に取り出す手段を備えたことで、ローター2の軸方向の運動をモーターの外部に置かれた負荷に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるサイクロイドモーターの横断面図
【図2】同サイクロイドモーターの縦断面図
【図3】同サイクロイドモーターの、特にステーターの一部破断斜視図
【図4】同サイクロイドモーターの、特にローターの斜視図
【図5】図1中のC部拡大図
【図6】本発明の第2の実施の形態におけるサイクロイドモーターの、特にステーターの一部破断斜視図
【図7】本発明の第3の実施の形態におけるサイクロイドモーターの横断面図
【符号の説明】
【0014】
1 ステーター
1a 定円円筒面
1b 溝
1d コイル
1f 充填材
1g コイルスプリング
2 ローター
2a 転動円筒面
2b 突起
3 中心軸
4a Eリング
4b Eリング
5a ワッシャー
5b ワッシャー
6a 磁極
6b 磁極
6c 磁極
6d 磁極
6e 磁極
6f 磁極
6g 磁極
6h 磁極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定円円筒内で、定円円筒面に設けられた磁極により、円筒状の磁性体からなるローターをサイクロイド転動させるサイクロイドモーターにおいて、
前記定円円筒面又は前記ローターの転動円筒面のいずれか一方に螺旋状の突起、他方に螺旋状の溝を備え、前記ローターをサイクロイド転動から螺旋運動に変換して軸方向に運動させることを特徴とするサイクロイドモーター。
【請求項2】
螺旋状の突起と螺旋状の溝のいずれか一方又は両方はコイルスプリング状に形成された螺旋体により構成される請求項1に記載のサイクロイドモーター。
【請求項3】
ローターの軸方向の運動を定円円筒外に取り出す手段を備える請求項1又は2に記載のサイクロイドモーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−312310(P2008−312310A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156147(P2007−156147)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(591117413)株式会社菊池製作所 (33)
【Fターム(参考)】