説明

サイドメンバのナット保持構造

【課題】周辺部品を効率よく容易に組み付けることができ、寸法誤差や公差を吸収でき、溶接ひずみによるネジ部の損傷やメッキ剥がれを防ぐことができ、高強度ナットも使用できる安価なサイドメンバのナット保持構造を提供する。
【解決手段】トラック用シャシフレームのサイドメンバ1に、補強材6を設けると共に補強材6にナット10を回転を規制しつつ調芯可能に保持する切欠部11を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック用シャシフレームのサイドメンバに、補強材を設けると共にナットを回転を規制しつつ調芯可能に保持するサイドメンバのナット保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図10に示すように、トラック用シャシフレームのサイドメンバ1には、強度上必要な補強材6が設けられると共に、様々な周辺部品(図示せず)が組み付けられる。これら周辺部品は、ボルト17、ナット10を介して組み付けられ、特にナット10は、サイドメンバ1に周辺部品を組み付けるときの作業性を改善するためにサイドメンバ1に予め溶接されている。
【0003】
これにより、サイドメンバ1に周辺部品を組み付けるときナット10を支持する必要がなく、周辺部品を効率よく容易に組み付けることができる。
【0004】
【特許文献1】実開昭62−199521号公報
【特許文献2】特開2007−127194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サイドメンバ1にナット10を溶接するため、溶接のための費用が発生するという問題があると共に、周辺部品を締め付けるとき寸法誤差や公差を吸収できないという問題があった。
【0006】
また、溶接ひずみによりナット10のネジ部が損傷したりメッキが剥がれる虞があり、防錆性能悪化等の品質不良が発生する虞があるという問題もあった。ネジ部が損傷した場合、リタップ作業を行わなくてはならず、リタップ費用が発生するとともに、ネジ部のメッキが剥がれ、防錆性能が悪化することとなる。
【0007】
またさらに、ナット10を溶接にて取り付けるため、溶接に適さない高強度ナットを使用できず、設計上の自由度が低くなると共に、ナット10を修理するときナット10の交換が困難になるという問題もあった。
【0008】
一方、サイドメンバ1にナット10を溶接しない場合、ボルト17を締め付けるときナット10をスパナ等で支持して共回りを防止する必要があり、作業効率が悪いという問題があった。
【0009】
また、図11に示す袋ナット60ではナット本体61を保持する専用部品62が必要となり、部品点数が増え、組み付けに溶接を行なう必要があるためコストが高くなるという問題があった。
【0010】
またさらに、ナット保持手段として特許文献1記載のものが知られているが、ナットを専用部品で保持するものであるため、専用部品を使用する必要があり、部品点数が増え、専用部品の組み付けに溶接を行なう必要があり、コストが高くなるという問題があった。
【0011】
特許文献2記載の技術は、ボルトを専用部品で保持するものであるため、特許文献1記載の技術と同様に専用部品を使用する必要があり、部品点数が増え、組み付けに溶接を行なう必要があり、コストが高くなるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、周辺部品を効率よく容易に組み付けることができ、寸法誤差や公差を吸収でき、溶接ひずみによるネジ部の損傷やメッキ剥がれを防ぐことができ、高強度ナットも使用できる安価なサイドメンバのナット保持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明は、トラック用シャシフレームのサイドメンバに、補強材を設けると共に該補強材にナットを回転を規制しつつ調芯可能に保持する切欠部を形成したものである。
【0014】
上記ナットが一端にフランジを有し、上記切欠部と上記サイドメンバとの間には、上記ナットのフランジを収容するフランジ収容部が形成され、該フランジ収容部が、上記サイドメンバから上記切欠部を離間させるように上記補強材を屈曲して成形されるとよい。
【0015】
上記切欠部が、上記補強材の縁部にスリット状に形成されると共に、一端を開口して形成されるとよい。
【0016】
上記切欠部が上記補強材の上縁から下方に延びて形成されるとよい。
【0017】
上記切欠部の一端側にナットの抜け止めをするための屈曲部を形成するとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、周辺部品を効率よく容易に、かつ、安価に組み付けることができ、寸法誤差や公差を吸収でき、溶接ひずみによるネジ部の損傷やメッキ剥がれを防ぐことができ、高強度ナットも使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の好適実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【0020】
トラック用シャシフレームのサイドメンバは、シャシフレームの左右両側に配置され前後に延びる鋼材からなる。図1に示すように、サイドメンバ1は、それぞれ鋼板を断面コ字状に屈曲して形成されており、上下に延びるウェブ2と、ウェブ2の上下両端から車幅方向内側に延びるフランジ3、4とを有する。ウェブ2には、ボルト17を挿通するためのボルト孔(図示せず)が形成されており、ウェブ2の車幅方向内側の面5には、補強材6が溶接にて設けられている。
【0021】
補強材6は、断面L字状に形成されており、上下に延びる垂直面部7をウェブ2の内側の面5に溶接されると共に水平面部8をサイドメンバ1の下側フランジ4の上面9に溶接されている。また、補強材6には、ナット10を回転を規制しつつ調芯可能に保持する切欠部11がサイドメンバ1に取り付ける周辺部品(図示せず)に応じた数、すなわち、必要に応じて単数又は複数形成されている。ナット10は、一端にフランジ12を有するフランジ付き六角ナットを用いる。フランジ付き六角ナットは広く使用されており、四角ナットより安価に市販されている。
【0022】
図1及び図2に示すように、切欠部11は、補強材6の上縁から下方に延びるスリット状に形成されており、上端にナット10を出入りさせるための開口13を有する。切欠部11の幅は、ナット10の直径方向に離間する2面間の間隔w1よりも若干広く、かつ、ナット10の直径方向に離間する2つの角部間の間隔w2よりも狭く形成されており、ナット10の回転を規制しつつナット10の半径方向の移動を許容するようになっている。また、切欠部11の長さはナット10の外周の一辺の長さより十分長く形成されており、ナット10が上下方向に移動してもナット10の回転を規制できるようになっている。また、切欠部11とサイドメンバ1との間には、ナット10のフランジ12を収容するためのフランジ収容部14が形成されている。
【0023】
フランジ収容部14は、サイドメンバ1から切欠部11を離間させるように切欠部11の周囲の補強材6を屈曲して形成されており、上端にフランジ12を出入りさせるためのフランジ用開口15を有する。すなわち、フランジ収容部14は、上端が開口された袋状に形成されており、切欠部11にナット10を装着するときナット10のフランジ12を収容してフランジ12の軸方向の移動を規制するようになっている。フランジ収容部14は、プレス成型により複数同時に形成される。
【0024】
次に本実施の形態の作用を述べる。
【0025】
補強材6に切欠部11とフランジ収容部14を形成する場合、サイドメンバ1に取り付ける前の補強材6にプレス加工を施す。具体的には、断面L字状に形成された補強材6にプレス加工を施して補強材6にフランジ収容部14となる凹部16を形成したのち、凹部16の縁部にプレス加工を施して切欠部11を形成する。複数の凹部16、複数の切欠部11を一括して形成できる。
【0026】
このようにして凹部16と切欠部11を有する補強材6が得られたら、サイドメンバ1のウェブ2の車幅方向内側の面5と下側フランジ4の上面9に補強材6を溶接して取り付ける。このとき、サイドメンバ1には予めボルト17を挿通するためのボルト孔(図示せず)を形成しておき、それぞれのボルト孔と切欠部11の位置を合わせるように位置決めをしてサイドメンバ1に補強材6を取り付ける。これにより、凹部16とサイドメンバ1との間に袋状のフランジ収容部14が形成される。
【0027】
切欠部11にナット10を保持させる場合、図2に示すように切欠部11の上端開口13にナット10を上方から挿入する。図1及び図3に示すように、ナット10が切欠部11内に落下して収容されると共に、ナット10のフランジ12がフランジ収容部14内に落下して収容される。フランジ12は、フランジ収容部14に軸方向の移動を規制されるため、ナット10は安定して切欠部11に保持される。
【0028】
サイドメンバ1に周辺部品を取り付ける場合、周辺機器のボルト孔とサイドメンバ1のボルト孔にボルト17を通し、ボルト17を回転させる。切欠部11に保持されたナット10は、回転するボルト17に当接することで切欠部11内で若干移動し、ボルト17の軸上に自動的に調芯され、ボルト17に螺合される。この後、ボルト17を所定の締結力となるように締め付けることで周辺部品を容易に取り付けることができる。
【0029】
このように、トラック用シャシフレームのサイドメンバ1に、補強材6を設けると共に補強材6にナット10を回転を規制しつつ調芯可能に保持する切欠部11を形成したため、サイドメンバ1には強度上必要となる補強材6を流用してナット10を保持することができ、サイドメンバ1にナット10やナット10を保持する別部材を溶接する必要がなく、溶接費用を削減できると共に、ナット10のネジ部が溶接ひずみにより損傷したりメッキが剥がれる虞をなくすことができ、防錆性能悪化等の品質不良の発生をなくすことができる。そして、ネジ部損傷に伴うリタップ作業をなくすことができ、溶接に適さない高強度ナット等も必要に応じて使用することができる。ナット10の交換も容易にできる。また、周辺部品を締め付けるときナット10が若干動くことで寸法誤差や公差を吸収でき、周辺部品を容易に取り付けることができる。サイドメンバ1とナット10を別々にしておく場合のように、ナット10をスパナ等で支持する必要がなく、効率よく作業できる。また、ナット保持のための専用部品を使用する必要もなく、部品点数も増えず、製造コストを低減できる。そして、標準形状のナットを使用できるため、汎用性が高くかつ低コストのナット保持構造とすることができる。
【0030】
また、切欠部11とサイドメンバ1との間には、ナット10のフランジ12を収容するフランジ収容部14が形成され、フランジ収容部14が、サイドメンバ1から切欠部11を離間させるように補強材6を屈曲して成形されるものとしたため、簡単な構造で確実にナット10を保持することができ、ボルト締結時にナット10の姿勢を確実に維持でき、周辺部品を容易に取り付けることができる。
【0031】
切欠部11が、補強材6の縁部にスリット状に形成されると共に、一端を開口して形成されるものとしたため、切欠部11にナット10を容易に装着することができると共に、ナット10を容易に交換できる。
【0032】
また、切欠部11が補強材6の上縁から下方に延びるスリット状に形成されるものとしたため、ナット10が自重で切欠部11に保持されるようにでき、ナット10を安価かつ確実に保持することができる。
【0033】
なお、切欠部11の形状は上述に限るものではなく、ボルト17の位置、補強材6の形状、必要な機能等に応じて適宜変更するとよい。
【0034】
例えば、シャシフレームをナット10を保持した状態で搬送する場合など、切欠部11からナット10が抜け落ちる虞があり、ナット10をより確実に保持したい場合、図4(a)、(b)、(c)に示すように、切欠部20の上端部に臨む補強材6にナット10の抜け止めをするための屈曲部21を形成するとよい。屈曲部21は、切欠部20の上端部に臨む補強材6をフランジ収容部14側に屈曲させるとよい。この場合、切欠部20の上下長さをナット10の直径方向に離間する2つの角部間の間隔w2より十分長く形成し、屈曲部21の下方にナット10が保持されるものにするとよい。振動などによりナット10が跳ね上がっても屈曲部21がナット10に干渉し、ナット10が切欠部20から抜け落ちるのを防ぐことができる。
【0035】
また、補強材6が断面L字状である場合について述べたが、図5に示すように、補強材30が断面コ字状である場合、補強材30の上下に延びるウェブ31にナット10より十分大きな孔32を形成してウェブ31に縁部33を形成し、この縁部33に切欠部11を形成してもよい。切欠部11は上述のように補強材30の縁部33から下方に延びるものにするとよい。また、図6に示すように、切欠部34は、孔32の上下に延びる縁部33から水平方向に延びて形成されるものとしてもよい。この場合、フランジ収容部35は、切欠部34の開口36と同じ方向に向けて開口するフランジ用開口37を有するものにするとよい。またさらに、図7に示すように、1つの孔32から複数の切欠部34が延びるように形成してもよい。
【0036】
また、サイドメンバ1の下側フランジ4にナット10を保持する場合、図8に示すように、補強材6の水平面部8に切欠部40を形成するとよい。この場合、切欠部40は水平面部8の縁部41から垂直面部7の方向に延びて形成されるとよく、フランジ収容部42は、切欠部40の開口43と同じ方向に開口するフランジ用開口44を有するとよい。
【0037】
またさらに、周辺部品を取り付けるまでサイドメンバ1を移動させる必要がない場合など、切欠部11からナット10が落下する虞がない場合、図9(a)に示すように、フランジのない六角ナット50を用い、補強材6に切欠部11のみを形成してフランジ収容部を形成しないものとしてもよい。六角ナット50にボルト17の先端部が1、2周螺合するまで手などで六角ナット50を支持すれば周辺部品を容易に組み付けることができる。この場合、切欠部11は必ずしも一端に開口13を有するスリット状に形成する必要はない。図9(b)に示すように、切欠部51は長孔状に形成してもよい。
【0038】
以上、補強部材6がサイドメンバ1のウェブ内面5と下側フランジ4の上面9に溶接される場合を説明したが、溶接はウェブ内面5と下側フランジ4の上面9のいずれか一方でもよく、また、溶接の代わりにリベットやボルト等でサイドメンバ1に固定されてもよい。さらにフランジ収容部14は補強材6を断面L字状に形成された後にプレス加工を施して形成する代わりに断面L字状の成形と同時にプレス加工にて成形してもよく、切欠部11の形成も、フランジ収容部14となる凹部16を形成した後に限定する必要はなく、場合によっては切欠部11を形成した後に凹部16を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の好適実施の形態を示すシャシフレームのサイドメンバの要部拡大斜視図である。
【図2】ナットを保持する切欠部の斜視説明図である。
【図3】ナットを保持した切欠部の斜視説明図である。
【図4】(a)は他の実施の形態を示す切欠部の斜視図であり、(b)は(a)の正面図であり、(c)は(b)の平面図である。
【図5】他の実施の形態を示す補強材の要部拡大斜視図である。
【図6】他の実施の形態を示す補強材の要部拡大斜視図である。
【図7】図6の変形例である。
【図8】他の実施の形態を示す補強材の要部拡大斜視図である。
【図9】(a)は他の実施の形態を示す切欠部の斜視図であり、(b)は(a)の変形例である。
【図10】従来のサイドメンバの要部拡大斜視図である。
【図11】従来の袋ナットの斜視説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 サイドメンバ
6 補強材
10 ナット
11 切欠部
12 フランジ
14 フランジ収容部
20 切欠部
21 屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラック用シャシフレームのサイドメンバに、補強材を設けると共に該補強材にナットを回転を規制しつつ調芯可能に保持する切欠部を形成したことを特徴とするサイドメンバのナット保持構造。
【請求項2】
上記ナットが一端にフランジを有し、上記切欠部と上記サイドメンバとの間には、上記ナットのフランジを収容するフランジ収容部が形成され、該フランジ収容部が、上記サイドメンバから上記切欠部を離間させるように上記補強材を屈曲して成形された請求項1記載のサイドメンバのナット保持構造。
【請求項3】
上記切欠部が、上記補強材の縁部にスリット状に形成されると共に、一端を開口して形成された請求項1又は2記載のサイドメンバのナット保持構造。
【請求項4】
上記切欠部が上記補強材の上縁から下方に延びて形成された請求項3記載のサイドメンバのナット保持構造。
【請求項5】
上記切欠部の一端側にナットの抜け止めをするための屈曲部を形成した請求項3又は4記載のサイドメンバのナット保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−143399(P2010−143399A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322655(P2008−322655)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】