説明

サスペンション制御装置

【課題】サスペンション制御装置において、発熱量及び消費電力を低減する。
【解決手段】鉄道車両1の車体2と台車3との間にコイルバネ5及び減衰力可変ダンパ6を介装する。加速度センサ10、11の検出に基づき、コントローラ12から制御電流を供給して減衰力可変ダンパ6の減衰力を調整することにより、車体2の振動を抑制する。減衰力可変ダンパ6を伸び側/縮み側の減衰力が制御電流に応じてハード/ソフト、ソフト/ソフト、ハード/ソフトとなる減衰力反転型とする。コントローラ12により、減衰力特性をソフト/ソフトに指令する際、ソフト/ソフトとなる制御電流の領域において、最小の電流値に近い省電力値を制御電流として減衰力可変ダンパ6に供給する。これにより、最小限の電流の供給により、ソフト/ソフトの減衰力特性を得ることでき、発熱量及び消費電力を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力可変ダンパの減衰力を制御することにより、振動を抑制するサスペンション制御装置に関するものである
【背景技術】
【0002】
例えば鉄道車両は、走行中、軌道の不整、空気力加振による外乱等によって車体の上下、左右に様々な振動を生じるが、近年、高速運行化に伴い、これらの振動の抑制の要求が高まっており、新幹線、在来線を問わず、乗心地及び走行安定性の両面から振動の抑制が重要な課題の1つとなっている。
【0003】
そこで、走行中の車体の振動を抑制するため、減衰力可変ダンパを用いたサスペンション制御装置が種々提案されている。この種の鉄道車両用のサスペンション制御装置は、輪軸と台車、台車と車体との間に、制御電流により減衰係数を可変とした減衰力可変ダンパを装着し、加速度センサ等の車両状態を検出する各種センサの検出に基づき、振動状態に応じて、コントローラにより制御電流を供給して減衰力可変ダンパの減衰力を適宜調整することにより、車体の振動を抑制する。
【0004】
また、例えば特許文献1に記載されているように、ピストンロッドの伸び側と縮み側とで反対の減衰力特性すなわち、伸び側がハード(大きな減衰力を発生させる特性、以下同じ)で縮み側がソフト(小さな減衰力を発生させる特性、以下同じ)、及び、伸び側がソフトで縮み側がハードという組合せを選択的に設定可能な、いわゆる減衰力反転型の減衰力可変ダンパが公知である。このような反転型の減衰力特性により、いわゆるスカイフック理論に基づく振動制御を実行する際、ピストンロッドの行程判定が不要で、コントローラの処理負荷を軽減することが可能になる。
【0005】
減衰力反転型の減衰力可変ダンパの減衰力特性について図4を参照して説明する。図4中にH/Sで示す領域を参照して、制御電流Iが0からI1の領域では、減衰力は、伸び側がハード(最大でほぼ一定)で縮み側がソフト(最小でほぼ一定)となり、制御電流IがI1からI2の領域では、電流の増大に伴い伸び側の減衰力が小さくなる。図4中にS/Sで示す領域を参照して、制御電流がI2からI3の領域では、減衰力特性は、伸び側、縮み側ともにソフトでほぼ一定となる。図4中にS/Hで示す領域を参照して、制御電流IがI3からI4の領域では、電流の増大に伴い縮み側の減衰力が大きくなり、I4を超えると縮み側の減衰力がハード(最大でほぼ一定)となる。これにより、制御電流に応じて、減衰力特性を伸び側がハードで縮み側がソフト(H/S)、伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)、及び、伸び側がソフトで縮み側がハード(S/H)の組み合わせで選択的に切換えることができる。そして、伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)の減衰力特性を指令する場合には、制御電流Iとして、I2からI3の中央値Icを供給するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−82602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようなサスペンション制御装置においては、信頼性、耐久性の向上の観点から発熱量及び消費電力の低減が望まれている。
本発明は、発熱量及び消費電力を低減するようにしたサスペンション制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、コントローラによって制御電流を供給して減衰力可変ダンパの減衰力を制御することにより振動の抑制を行なうサスペンション制御装置において、
前記減衰力可変ダンパは、制御電流の大きさに応じて、伸び側の減衰力が大きく、縮み側の減衰力が小さい第1領域と、伸び側及び縮み側共に減衰力が小さい第2領域と、伸び側の減衰力が小さく、縮み側の減衰力が大きい第3領域の順で減衰力特性が変化し、
前記コントローラは、前記減衰力可変ダンパに対して、第2領域の減衰力特性を指令するとき、制御電流として前記第2領域において最小の電流値に近い省電力値の電流を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発熱量及び消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るサスペンション制御装置を適用した鉄道車両の要部の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るサスペンション制御装置に用いられる減衰力可変ダンパの減衰力特性を示すグラフ図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るサスペンション制御装置において、コントローラにより減衰力可変ダンパに制御電流を供給するための制御フローを示すフローチャートである。
【図4】従来の減衰力反転型の減衰力可変ダンパの減衰力特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るサスペンション制御装置が適用される鉄道車両を図1に示す。図1に示すように、鉄道車両1は、車体2の前後(前部のみ図示する)に台車3が取付けられ、各台車3には、2つの輪軸4が取付けられている。
【0012】
台車3は、車体2に対して、鉛直軸回りに回動可能であり、また、上下方向及び左右方向に一定の変位が可能なように連結されており、各台車3の左右に設けられた一対のコイルバネ5によって車体2を弾性的に支持している。なお、コイルバネ5の代りに空気バネ等の他のバネ手段を用いて車体2を支持してもよい。各台車3と車体2との間には、減衰力可変ダンパ6が連結されている。減衰力可変ダンパ6は、各台車3の左右に配置され、車体2の前後左右(第1軸から第4軸という)の合計4箇所に配置されている。また、各輪軸4は、台車4に対して上下方向に移動可能に設けられ、これらの間には、輪バネ8及び油圧ダンパ9が装着されて台車4を弾性的に支持している。
【0013】
各台車3と車体2とを横(左右)方向に対して弾性的に支持するバネ及びダンパ手段(図示せず)が設けられている。なお、これらの油圧ダンパ9及びダンパ手段は、減衰力可変ダンパ6と同様、減衰力特性を調整可能な減衰可変ダンパとしてもよいが、ここでは、説明の簡素化のため、減衰力特性が固定されたものとし、減衰力可変ダンパ6の減衰力特性のみを制御する場合について説明する。
【0014】
減衰力可変ダンパ6は、ソレノイドバルブ等の減衰力切換弁を有し、制御電流に応じて減衰力特性を切換可能な油圧ダンパであり、図2に示す反転型の減衰力特性を有するものである。すなわち、図2中にH/Sで示す領域(第1領域)を参照して、制御電流Iが0からI1の領域では伸び側がハード(最大でほぼ一定)で縮み側がソフト(最小でほぼ一定)となり、制御電流IがI1からI2の領域では、電流の増大に伴い伸び側の減衰力が小さくなる。図2中にS/Sで示す領域(第2領域)を参照して、制御電流IがI2からI3の領域では、伸び側、縮み側ともにソフトでほぼ一定となる。また、図2中にS/Hで示す領域(第3領域)を参照して、制御電流IがI3からI4の領域では、電流の増大に伴い縮み側の減衰力が大きくなり、I4を超えると縮み側がハード(最大でほぼ一定)となる。これにより、制御電流に応じて、減衰力特性を伸び側がハードで縮み側がソフト(H/S)、伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)、及び、伸び側がソフトで縮み側がハード(S/H)の組み合わせで選択的に切換えることができる。このとき、図2中でS/Sで示す領域、すなわち、伸び側及び縮み側共にソフトとなる領域(制御電流I=I2〜I3)が図4に示すものに比して広くなっている。
【0015】
なお、減衰力可変ダンパ6の減衰力特性は、図2に示す特性とは逆に、制御電流Iが小さい領域で伸び側がソフトで縮み側がハードとなり、大きい領域で伸び側がハードで縮み側がソフトとなるものでもよい。また、減衰力可変ダンパ6は、上述のような減衰力特性が得られるものであれば、油圧ダンパ以外の形式のダンパ、例えば作動油を他の流体(水、空気など)に変更した流体式ダンパ、あるいは、摩擦式ダンパ、モータを発電機として動作させることにより発生する減衰力を利用する電磁式ダンパ等であってもよい。
【0016】
車体2には、車体2の前後左右に配置されて上下方向の加速度をそれぞれ検出する加速度センサ10(前部に配置されたもののみを図示する)、車体の中央部に配置されて上下方向の加速度を検出する加速度センサ11を含む車体の振動状態に関するパラメータを検出する各種センサが設けられている。また、加速度センサ10、11を含むこれらの各種センサが検出するパラメータに基づき各減衰力可変ダンパ6の減衰力を制御するコントローラ12が設けられている。
【0017】
コントローラ12は、加速度センサ10、11を含む各種センサが検出したパラメータを、例えばスカイフック理論等の振動抑制のための制御理論に基づく所定の論理規則に従って処理して各減衰力可変ダンパ6の目標減衰力を演算し、制御電流値Iを決定して各減衰力可変ダンパ6に供給する。スカイフック理論に基づく振動制御では、車体2と台車3との振動状態に応じて、各減衰力可変ダンパ6の減衰力特性を加振方向のストロークに対する減衰力がソフトで制振方向のストロークに対する減衰力がハードとなるように切換える。
【0018】
このとき、減衰力可変ダンパ6の減衰力特性を伸び側及び縮み側ともにソフト(S/S)を指令する際、制御電流IをI2〜I3の範囲で出来るだけ小さい値、すなわち、最小値であるI2に近い省電力値Isとして供給する。
【0019】
コントローラ12が各減衰力可変ダンパ6に制御電流Iを供給するための制御フローについて図3を参照して説明する。
図3を参照して、ステップS1で、加速度センサ10、11を含む各種センサからの検出信号を読込んでステップS2に進む。ステップS2で、ノイズ成分除去のためにLPF(ローパスフィルタ)処理、及び、ドリフト成分及び定常偏差成分除去のためのHPF(ハイパスフィルタ)処理等のフィルタ処理を実行してステップS3に進む。ステップS3で、加速度信号等の過大、過小、各加速度センサ値の比較等による異常判定処理を実行してステップS4に進む。ステップS4で、加速度信号を積分処理した後、各ゲイン等を乗じて車体2の振動を抑制するように各減衰力可変ダンパ6の目標減衰力を演算して、ステップS5に進む。
【0020】
ステップS5で、第1軸の減衰可変ダンパ6に対する減衰力特性の指令が伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)か否かを判定する。減衰力特性の指令が伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)である場合、ステップS6で第1軸の減衰力可変ダンパ6の制御電流Iを省電力値IsとしてステップS7に進む。減衰力特性の指令が伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)でない場合、その指令に応じた制御電流Iを決定してステップS7に進む。
【0021】
以下、同様に、第2軸〜第4軸の減衰力可変ダンパ6について、減衰力特性の指令が伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)の場合、制御電流Iを省電力値Isとし、伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)でない場合、その指令に応じた制御電流Iを決定して(ステップS7〜S12)、ステップS13に進む。そして、ステップS13で第1軸から第4軸の各減衰力可変ダンパ6に制御電流Iを供給する。
【0022】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
コントローラにより、加速度センサ10、11を含む各種センサの検出信号をスカイフック理論等に基づく所定の論理規則に従って処理して、第1軸〜第4軸の目標減衰力を決定し、目標減衰力に応じた制御電流Iを各減衰力可変ダンパ6に供給して減衰力を制御することにより、車体2の振動を抑制する。
【0023】
このとき、減衰力特性の指令が伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)の場合、制御電流値Iを省電力値Isとすることにより、最低限の電流によって減衰力可変ダンパ6の減衰力特性を伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)に調整することができ、ソレノイド等の発熱量及び消費電力を低減することができる。鉄道車両の車体2の振動制御においては、一般的に停車中には伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)の減衰力特性を指令するので、特に、比較的停車時間の長い在来線の車両に適用した場合、発熱量の及び消費電力を効果的に低減することができる。
【0024】
減衰力可変ダンパ6の減衰力特性は、図2に示すように、伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)の領域(I=I2〜I3)が広くなっている場合、制御電流Iとして、省電力値Isを指令することにより、この領域の域の中央値Icを指令する上記従来例に対して大幅に発熱量及び消費電力を低減することがきる。
【0025】
なお、上記特許文献1に記載されているような減衰力反転型の減衰力可変ダンパの場合、一般的に、作動流体の流体力がスプール弁等の減衰力調整弁の弁体に対して開弁方向に作用する。これにより、ピストン速度がある程度大きい状態では、作動流体の流速が大きくなり、その流体力が弁体を開弁方向に移動させようとするので、伸び側及び縮み側共にソフト(S/S)の領域(制御電流I=I2〜I3)が広くなる傾向がある。このため、減衰力可変ダンパとして、例えば特許文献1に記載されているような既存のものを用いた場合でも、本発明の制御を適用することにより、発熱量及び消費電力の低減効果を期待することができる。
【0026】
上記実施形態では、本発明を台車3と車体2との上下方向の振動を抑制する減衰力可変ダンパ6に適用した場合ついて説明しているが、本発明は、このほか、台車3と車体2との横(左右)方向の振動を抑制するダンパ、あるいは、台車3と輪軸4との間の振動を抑制するダンパを減衰力可変ダンパとすることにより、同様に適用することができる。
【0027】
上記実施形態では、一例として本発明のサスペンション制御装置を鉄道車両に適用した場合について説明しているが、本発明は、これに限らず、自動車等の他の車両、あるいは、建築物の制振装置等の他のサスペンション装置にも、同様に、適用することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
6…減衰力可変ダンパ、12…コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラによって制御電流を供給して減衰力可変ダンパの減衰力を制御することにより振動の抑制を行なうサスペンション制御装置において、
前記減衰力可変ダンパは、制御電流の大きさに応じて、伸び側の減衰力が大きく、縮み側の減衰力が小さい第1領域と、伸び側及び縮み側共に減衰力が小さい第2領域と、伸び側の減衰力が小さく、縮み側の減衰力が大きい第3領域の順で減衰力特性が変化し、
前記コントローラは、前記減衰力可変ダンパに対して、第2領域の減衰力特性を指令するとき、制御電流として前記第2領域において最小の電流値に近い省電力値の電流を供給することを特徴とするサスペンション制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−179970(P2012−179970A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42927(P2011−42927)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】