説明

サスペンション装置

【課題】タイロッドの位置を保ち、振動の抑制を確保しながら、ナックルの腕部の小型化を図ることができるサスペンション装置を提供する
【解決手段】サスペンション装置40は車軸61を受ける軸受け嵌合部43aが下部に設けられているナックル43と、軸受け嵌合部43a近傍に操舵力を付与するタイロッド82を連結しているタイロッド連結機構91と、を備える。タイロッド連結機構91は、軸受け嵌合部43aに張り出させた腕部(ナックルアーム)43eと、腕部43eに一端92を接合し他端83bをタイロッド82に連結しているスタッド83と、を備え、スタッド83は、他端83bより一端92がナックル43に近接するように傾いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置、特にステアリング装置との連結に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サスペンション装置では、車軸を支持しているナックルに、運転者が操作するステアリング装置のタイロッドの先端部が連結されている。一般的に、先端部とナックルとの間は、ナックルに一体な腕部に先端部が棒状のスタッドで接合されている。腕部は、タイロッドとの連結によって、車両左右方向の振動抑制にも寄与するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−178410号公報(第5頁、図2)
【0003】
しかし、特許文献1のサスペンション装置では、ナックルからタイロッド接続部までの距離が長くなり、タイロッド接続部までの間をなし、且つタイロッド接続部を含む腕部の構造を大きくする必要がある。タイロッドを接続するのに、大型で重量が増加するという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、タイロッドの位置を保ち、振動の抑制を確保しながら、ナックルの腕部の小型化を図ることができるサスペンション装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、車軸を受ける軸受け嵌合部が下部に設けられているナックルと、軸受け嵌合部近傍に操舵力を付与するタイロッドを連結しているタイロッド連結機構と、を備えたサスペンション装置において、タイロッド連結機構は、軸受け嵌合部に張り出させた腕部と、腕部に一端を接合し他端をタイロッドに連結しているスタッドと、を備え、スタッドは、他端より一端がナックルに近接するように傾いていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明では、タイロッド連結機構は、軸受け嵌合部に張り出させた腕部と、腕部に一端を接合し他端をタイロッドに連結しているスタッドと、を備え、スタッドは、他端より一端がナックルに近接するように傾いているので、他端を基準にスタッドを垂直に配置した場合に比べ、ナックルから一端までの距離を小さくすることができ、腕部を太くして剛性(断面係数)を高める必要がなくなる。すなわち、タイロッドの位置を保ち、振動の抑制を確保しながら、ナックルの腕部の小型化を図ることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明のサスペンション装置の斜視図である。
サスペンション装置40は、車両10のフロントに採用されたものである。具体的には後述する。
【0008】
図1に示すように、車両10における車体11は、車体フレーム20と、この車体フレーム20の前部に防振用弾性ブッシュ(図示せず)を介して取り付けられたサブフレーム30とから成る。車体フレーム20は、サブフレーム30の上方において、車体前後に延びた左右のフロントアッパフレーム21(左側のみを示す。)と、各フロントアッパフレーム21に接合された左右のホイールハウス(図示せず)とを有している。
【0009】
サブフレーム30は平面視略ロ字状を呈しており、車体11の前後方向に延びる左右の縦メンバ31,31と、これらの縦メンバ31,31の前端間に掛け渡すべく車体11の左右方向に延びる前部横メンバ32と、左右の縦メンバ31,31の後端間に掛け渡すべく車体11の左右方向に延びる後部横メンバ33とから成る。
【0010】
サブフレーム30には、左右の車両用サスペンション装置40(左側のみを示す。)及び車両用ステアリング装置80が搭載されている。なお、左右のサスペンション装置40は互いに同様の構成なので、左側だけを説明し、右側を省略する。
【0011】
サスペンション装置40は、上側のアッパアーム41及び下側のロアアーム42と、ナックル43と、ダンパ44と、スタビライザ45とから成り、車体11に車輪(図示せぬ前輪)を懸架するためのダブルウィッシュボーン式サスペンションである。このサスペンション装置40はフロントサスペンションとして採用される。
【0012】
図2は、本発明のサスペンション装置に用いられたナックルの側面図であり、車両の外方から見た図である。図1と併用して説明する。
ナックル43は、車輪を回転可能に支持する部材であり、上下がアッパアーム41とロアアーム42に連結されている。
詳しく述べると、ナックル43は、車軸61を介して車輪を回転可能に支持するナックル本体部43aと、ナックル本体部43aの上端から上方へ延びた上方延長部43bと、上方延長部43bの上端部に形成された上部連結部43cと、ナックル本体部43aの下端に形成された下部連結部43dと、ナックル本体部43aの上端近傍から後方へ延びた略水平な腕部であるところのナックルアーム43eとから成る、一体成形品である。
【0013】
ナックルアーム43eは、先端部分にタイロッド連結部43fを有している。タイロッド連結部43fは、ナックル本体部43aの中心CL(車軸61の中心)から上方へ高さHiだけオフセットしている。
【0014】
上部連結部43c(ナックル43の上端部43c)は、ボールジョイント62によって、アッパアーム41のスイング先端部にスイング可能に連結されている。下部連結部43d(ナックル43の下端部43d)は、ボールジョイント63によって、ロアアーム42のナックル連結部42a(スイング先端部42a)にスイング可能に連結されている。
【0015】
ナックル43において、上部連結部43cと下部連結部43dとを通る直線KLのことを、キングピン軸KLと言う。ナックル43は、キングピン軸KLを中心として左右に回転可能である。この結果、ナックル43に取り付けられている車輪は、キングピン軸KLを中心として転舵可能である。
【0016】
このように、サスペンション装置40は、ナックル本体部43aから上方へ上方延長部43bを延ばし、上方延長部43bの上端部に形成された上部連結部43cを、アッパアーム41によって車体11に連結した構成なので、ハイマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンションと言われている。
【0017】
ステアリング装置80は、例えば油圧パワーステアリング装置から成り、車幅方向に長いステアリングギヤボックス81を有している。ステアリングギヤボックス81は、図示せぬステアリングホイールの操舵力を車体11の左右方向の転舵力に変換してタイロッド82から取り出すためのギヤ機構(例えばパワーステアリング式ギヤ機構)を収納した部材である。このステアリングギヤボックス81は、サブフレーム30に取り付けられている。
【0018】
図1に示すように、タイロッド82の先端部82aは、ボールジョイント83によって、ナックルアーム43eのタイロッド連結部43fに連結されている。ところで、ボールジョイント83における取付け軸83a(スタット軸83a)は、腕部(ナックルアーム)43eの下面に、下方から取り付けられる。このため、タイロッド82の先端部82aと、ボールジョイント83におけるボール83bは、腕部(ナックルアーム)43eよりも下位に位置する。
【0019】
ステアリングホイールを操舵することによって、タイロッド82を左右に移動させると、タイロッド82は腕部(ナックルアーム)43eを押し引きする。この結果、ナックル43は、キングピン軸KLを中心として左右に回転し、車輪を転舵させる。
【0020】
ここで、タイロッド連結機構91を主体に説明する。
タイロッド連結機構91は、軸受け嵌合部(ナックル本体部)43aに張り出させた腕部(ナックルアーム)43eと、腕部(ナックルアーム)43eに一端であるところの接合軸部92を接合し、他端であるところの球部(ボール)83bをタイロッド82の先端部82a、詳しくは球面接合部93に連結しているスタッド(ボールジョイント)83と、を備える。
【0021】
腕部(ナックルアーム)43eは、軸受け嵌合部(ナックル本体部)43aの上後側部94から四角錐状の張り出し本体部95が形成され、張り出し本体部95に連ねてタイロッド連結部43fが形成されたものである。
タイロッド連結部43fには、タイロッド取付点P2が図2の側面視において、厚さ(孔の長さ)の中心に設けられている。
【0022】
張り出し本体部95は、地面に向いている下部97がスタッド(ボールジョイント)83に直交するように形成されている。下部97をスタッド(ボールジョイント)83に直交するように形成することで、スタッド(ボールジョイント)83を固定する際の直交受け面98を下部97と平行に形成するだけでよく、直交受け面98の形成は容易になる。
また、下部97が、スタッド(ボールジョイント)83に直交するように形成されているので、タイロッド82の先端部82aに接合している球面接合部93との干渉を防止することができる。
【0023】
スタッド83は、他端83bより一端92がナックル43に近接するように傾いている。具体的には、図2の車両側面視において、ナックル43からスタッド(ボールジョイント)83の一端92までの距離はL2、ナックル43からスタッド(ボールジョイント)83の他端83bまでの距離はL1であり、距離L2は、距離L1より小さい。そして、ナックル43に対して、角度θだけ傾いている。
【0024】
より具体的には、図2の車両側面視において、キングピン軸KLからタイロッド取付点P2までの距離L2は、キングピン軸KLからスタッド(ボールジョイント)83の球部83bまでの距離L1より小さい。
【0025】
言い方を変えると、図2の車両側面視において、スタッド(ボールジョイント)83は、キングピン軸KLに対して、スタッド(ボールジョイント)83の他端83bから延長したスタッド(ボールジョイント)83の軸線Csが角度θで交差するように配置されている。
【0026】
次に、本発明のサスペンション装置の作用を説明する。
サスペンション装置40では、ナックル43にタイロッド82を取付けるためのスタッド(ボールジョイント)83をナックル43側に傾けることで、腕部(ナックルアーム)43eのタイロッド連結部43fまでの距離を短くするころができ、タイロッド82の位置を保ち又は位置を変更することなく、腕部(ナックルアーム)43eを短くするころができる。
【0027】
具体的には、スタッド83をナックル43側に傾けることは、タイロッド82を基準にスタッド83を垂直に立設した場合に比べ、タイロッド連結部43f(タイロッド取付点P2)をナックル43へ向かう方向(矢印a2の方向)に距離L3だけオフセットすることができ、腕部(ナックルアーム)43eに加わる力(応力)を小さくすることができる。従って、タイロッド82の位置を保ち、振動の抑制を確保しながら、腕部(ナックルアーム)43eの小型化を図ることができる。
【0028】
タイロッド連結機構91では、スタッド(ボールジョイント)83を長くする必要がなく、既存のスタッドの流用が可能となり、スタッド(ボールジョイント)83の製造は容易である。
スタッド(ボールジョイント)83を長くする必要がなく、既存のスタッドの流用が可能となり、スタッド(ボールジョイント)83の重量増加を抑制することができる。
【0029】
尚、本発明のサスペンション装置は、実施の形態ではフロントのサスペンション装置に採用したが、車両のフロント以外にも採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のサスペンション装置は、車両のフロントのサスペンション装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のサスペンション装置の斜視図である。
【図2】本発明のサスペンション装置に用いられたナックルの側面図である。
【符号の説明】
【0032】
40…サスペンション装置、43…ナックル、43a…軸受け嵌合部(ナックル本体部)、43e…腕部(ナックルアーム)、61…車軸、82…タイロッド、83…スタッド(ボールジョイント)、83b…他端、91…タイロッド連結機構、92…一端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸を受ける軸受け嵌合部が下部に設けられているナックルと、前記軸受け嵌合部近傍に操舵力を付与するタイロッドを連結しているタイロッド連結機構と、を備えたサスペンション装置において、
前記タイロッド連結機構は、前記軸受け嵌合部に張り出させた腕部と、該腕部に一端を接合し他端を前記タイロッドに連結しているスタッドと、を備え、前記スタッドは、他端より一端がナックルに近接するように傾いていることを特徴とするサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−126243(P2009−126243A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300867(P2007−300867)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】