説明

サスペンション装置

【課題】前後方向入力に対するコンプライアンスステアを適正に調整可能な機構を提供する。
【解決手段】前側ロアリンク4に後側ロアリンク5に向けて張り出す張出部7を設け、その張出部7と後側ロアリンクを、内側ブッシュ21と外側ブッシュ20で連結する。後側ロアリンク5の中心を通る仮想の基準線Hに対する、内側ブッシュ21と外側ブッシュ20との距離を等しく設定すると共に、内側ブッシュ21よりも外側ブッシュ20を車両前後方向後方に配置する。上記内側ブッシュ21の上下方向剛性の方が外側ブッシュ20の上下方向剛性よりも高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられるサスペンション装置、特に後輪用サスペンション装置に好適なサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の後輪用サスペンション装置としては、例えば特許文献1に記載の装置がある。この装置では、車輪支持部材の下部領域と車体側部材とを連結すると共に車両前後方向に間隔をおいて配置される一対の剛体アーム(ロアアーム)と、上記一対の剛体アームにそれぞれ剛結することで当該一対の剛体アーム間に架設される結合部材と、を備える。その結合部材は、車体側部材及び車輪支持部材への連結部の中心を含む面に平行な方向に変形可能なような、車幅方向に厚さ方向を向けた平板形状の鋼板から構成される。
これにより、前後剛性を下げることと、その際のトー特性の適正化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−234705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記従来技術では、板材からなる結合部材全体が板厚方向に撓むことによって剛性を下げるものであるが、結合部材の撓み変形量を規制するものがないので、結合部材の剛性を下げるほど、別途、前後方向の変位を規制する手段が必要となったりするなどコンプライアンスの調整が面倒である。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、前後方向入力に対するコンプライアンスステアを適正に調整可能な機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、車両前後方向に並ぶ第1リンクと第2リンクとを備え、第1リンクから第2リンクに向けて張り出す張出部と第2リンクとを弾性体からなる2以上の個別のブッシュで連結する。2以上のブッシュは車幅方向に離して配置する。上記第1リンクは、車輪に車両前後方向の力が入力されたときに、車両前後方向に延在する軸であって、車両上面視において車両前方側が車両後方側に対して車体側部材により近くなるように傾く回転軸のまわりに回転する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車輪接地面への前後方向入力によるトーイン方向へのステアを増加させることができる。この結果、例えば制動時の車両安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る後輪用サスペンション装置を示す上面図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る後輪用サスペンション装置におけるリンクの配置構成を示す車両正面からみた概要図で有る。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係る外側ブッシュを説明する縦断面図である。
【図4】本発明に基づく第1実施形態に係る内側ブッシュを説明する縦断面図である。
【図5】車両前後方向への入力に対する挙動を示す上面図である。
【図6】車両接地点に前後方向入力があった場合の車両側方からみた模式図である。
【図7】本発明に基づく第2実施形態に係る後輪用サスペンション装置を説明する上面図である。
【図8】本発明に基づく第2実施形態に係る後輪用サスペンション装置を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の後輪用サスペンション装置を示す上面図であり、図2は車両前方からみたリンクの配置を説明する概要図である。
(構成)
車輪1を回転自在に支持するアクスル2の下部領域と車体側部材であるサスペンションメンバ3との間を連結する2本のロアリンク4、5と、アクスル2の上部領域とサスペンションメンバ3とを連結するアッパリンク8とを備える。
【0009】
上記2本のロアリンク4、5は、アクスル2に対し、それぞれ弾性体ブッシュ9、10によって上下揺動可能な状態で取り付けられると共に、サスペンションメンバ3に対してもそれぞれ弾性体ブッシュ11、12によって上下揺動可能な状態に連結している。アッパリンク8も、アクスル2に対し、弾性体ブッシュ13によって上下揺動可能な状態で取り付けられると共に、サスペンションメンバ3に対しても弾性体ブッシュ14によって上下揺動可能な状態に連結している。
【0010】
上記2本のロアリンク4、5は、車両前後方向で並ぶように配置される。ここで、この2本のロアリンク4、5を区別して説明する場合には、車両前後方向前側のロアリンク4を前側ロアリンク4と、車両前後方向後側のロアリンク5を後側ロアリンク5と呼ぶことにする。
上記各弾性体ブッシュ9〜14は、入れ子状に配置された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体が介装されて構成される。本実施形態では、外筒がリンク4、5、8の端部に固定されると共に、内筒がボルトを介してサスペンションメンバ3若しくはアクスル2に取り付けられている。
【0011】
前側ロアリンク4は、リンク軸線L1に沿って直線状に延びる棒状の部材であって、その両端取付け部にそれぞれ、上記構成の弾性体ブッシュ9、11が設けられている。
また、後側ロアリンク5は、リンク軸線L2に沿って延びるリンク本体部6と、そのリンク本体部6と一体になっていると共に当該リンク本体部6から上記前側ロアリンク4に向けて車両前後方向前方に張り出した張出部7とから構成されている。なお、上記張出部7は、板状の部材であって、上面視で略台形状の形状をしている。
【0012】
その張出部7における、前側ロアリンク4に車両前後方向で対向する先端部は、車幅方向にオフセットさせて配置された2個の弾性体ブッシュ20、21を介して前側ロアリンク4に連結している。本実施形態では、その前側ロアリンク4と張出部7とを連結する弾性体ブッシュ20、21は、上面視においてブッシュ軸を略車両前後方向に向けて配置されて、外筒が前側ロアリンク4に固定されると共に内筒が取付けボルトを介して張出部7に固定されている。これによって、前側ロアリンク4と後側ロアリンク5とは、連結部である弾性体ブッシュ20、21によって三次元的に揺動可能に連結されると共にその揺動量も外筒と内筒と間のスパンや弾性体の剛性などによって一定に規制されている。
【0013】
また本実施形態では、上面視において、2本のロアリンク4、5におけるサスペンションメンバ3への取付け点(以下、単に車体側取付け点P1、P3と呼ぶ。)間の車両前後方向でのスパンよりも、2本のロアリンク4、5におけるアクスル2への取付け点(以下、単に車輪側取付け点P2、P4と呼ぶ。)間の車両前後方向でのスパンの方が短くなるように配置されている。すなわち、上面視において、図1のように、上記2本のロアリンク4、5における、それぞれの車輪側取付け点P2、P4と車体側取付け点P1、P3を結ぶリンク軸線L1、L2同士の交点P5は、アクスル2よりも車幅方向外方、つまり両ロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4よりも車幅方向外方となるように設定している。図1の例では、側面視において、後側ロアリンク5における車体側取付け点P3に対する車輪側取付け点P4の車両前後方向後方へのオフセット量(図1ではほぼゼロ)よりも、前側ロアリンク4における車体側取付け点P1に対する車輪側取付け点P2の車両前後方向後方へのオフセット量が大きくなるように、上面視において、後側ロアリンク5のリンク軸線L2の車両前後方向後方への傾きよりも、前側ロアリンク4のリンク軸線L1の車両前後方向後方への傾きを大きく設定している。なお、このように配置することで、上面視において、2本のロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4及び車体側取付け点P1、P3の4点を結ぶ形状が略台形形状となっている。
【0014】
またこのように、後側ロアリンク5と比べて、前側ロアリンク4を、車体側取付け点P1、P3に対する車輪側取付け点P2、P4を車両前後方向後方に大きくオフセットするように設定する結果、2本のロアリンク4、5の両リンク軸線L1、L2の交点P5は、上面視において、車輪1の中心(ホイールセンタW/C)よりも車両前後方向後方に配置されている。またこのため、前側ロアリンク4と張出部7とを揺動可能に連結する2つの弾性体ブッシュ20、21は、車輪側の弾性体ブッシュ20が、車体側の弾性体ブッシュ21よりも車両前後方向後方に配置される。
【0015】
ここで、前側ロアリンク4と張出部7とを揺動可能に連結する2つの弾性体ブッシュ20、21を、コネクトブッシュ20、21と呼称し、ロアリンク4、5と、アクスル2及びサスペンションメンバ3とをそれぞれ連結する弾性体ブッシュ9〜12を取付けブッシュ9〜12と呼称する。また、2つのコネクトブッシュ20、21を区別する場合には、車輪側のコネクトブッシュ20を外側ブッシュ20と、車体側のコネクトブッシュ21を内側ブッシュ21と呼ぶ。
【0016】
また、本実施形態では、リンク本体部6の車輪側取付け点P4と車体側取付け点P3との中点をG1(リンク軸線L2上で、弾性体ブッシュ10と弾性体ブッシュ12の中心位置)とし、上面視で、上記リンク本体部6の中点G1を通り、且つ車輪の回転軸線L(アクスル2の軸)と直交する仮想の直線である基準線Hを想定する。
そして、上面視において、上記外側ブッシュ20から上記基準線Hまでの最短距離と、内側ブッシュ21から上記基準線Hまでの最短距離とを等しく設定する。即ち、上面視において、外側ブッシュ20の中心点P5と内側ブッシュ21の中心点P6との中心P7が、上記基準線Hと交わるように設定する。
また、内側ブッシュ21の上下方向剛性が、外側ブッシュ20の上下方向剛性よりも高く設定する。
【0017】
例えば、外側ブッシュ20について、図3に示すように、内筒20bを挟んだ上下の弾性体20c部分にスグリ20d(空洞)を形成することで、相対的に外側ブッシュ20の上下方向剛性を低下させる。若しくは、内側ブッシュ21について、図4のように、内筒21bを挟んだ上下の弾性体21c部分に対し、当該弾性体21cよりも剛性が高い中間板21eを介装することで、相対的に内側ブッシュ21の上下方向剛性を高くする。もっとも図3及び図4の構成を両方実施しても良い。なお、相対的に内側ブッシュ21の上下方向剛性が外側ブッシュ20の上下方向剛性よりも高く設定する手段は、これに限定されない。外側ブッシュ20の弾性体20cを構成する材料よりも、内側ブッシュ21の弾性体21cの材料の方が、相対的に剛性が高い材料を使用するなど、他の公知の手段で上記剛性バランスを実現しても良い。
【0018】
このように設定すると、2つのコネクトブッシュ20、21による上下方向の力に対する弾性中心G2は、2つのコネクトブッシュ20、21間の中心P7よりも内側ブッシュ21側に位置する。つまり、上記弾性中心G2は、上記基準線Hよりも車幅方向内側に位置する。
また、取付けブッシュ9〜12の剛性は、上記2つのコネクトブッシュ20、21の剛性よりも高く設定する。
ここで、アクスル2は車輪支持部材を、サスペンションメンバ3は車体側部材を、リンク本体部6は第1リンクを、前側ロアリンク4は第2リンクを、それぞれ構成する。また、コネクトブッシュ20、21の弾性体は、弾性連結部を構成する。
【0019】
(作用効果)
(1)2本のロアリンク4、5同士を連結することで、車輪1への車両前後方向の入力を2本のロアリンク4、5で受けることが可能となる。このため、当該車両前後方向入力を受けるために、別のリンクを設けなくても良い。
また、このように2本のロアリンク4、5同士を連結しても、その連結部をコネクトブッシュ20、21によって所定の揺動範囲内でのみ揺動可能に構成することで、車輪1への車両前後方向の入力に対して、コネクトブッシュ20、21は少なくとも車幅方向へ所定揺動範囲だけ揺動可能な状態で連結される。
【0020】
その結果、突起乗り越しなど、路面の不整による車輪1への前後方向入力(ホイールセンタW/Cヘの前後入力)に対し、コネクトブッシュ20、21の弾性体20c、21cが撓むことにより、外筒20a、21aに対して内筒20b、21bが相対的に多少車両前後方向に揺動しつつ、図5に示すように、車幅方向に揺動変位することで、上面視における2本のロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4及び車体側取付け点P1、P3の4点を結ぶ略台形形状が変化することで、連結された2本のロアリンク4、5で支持されるアクスル2の車両前後方向の剛性が低く設定される。このため、特に突起乗り越し時のショックが低減されるなど、乗り心地が向上する。なお、図5では、分かりやすくするためにオーバーに挙動を記載している。
【0021】
また、コネクトブッシュ20、21は、所定以上弾性体20c、21cが撓むとそれ以上揺動することがないので、別の部材を設けなくても、必要以上に揺動することが防止される。
また、前後方向の入力に対しコネクトブッシュ20、21が撓むことで吸収し、コネクトブッシュ20、21のゴムの特性により減衰も得られるため、前後方向入力に対する振動の収まりが良い。また、ロアリンク4、5は強度を満足するように設計しても、コネクトブッシュ20、21の剛性によって前後方向の剛性が決まるため、設計自由度を大きくすることが可能となる。
【0022】
(2)またこのように、車輪1への前後方向入力に対しコネクトブッシュ20、21が撓むことで前後方向入力の剛性を低く設定できるので、2本のロアリンク4、5同士を連結して当該2本のロアリンク4、5で車輪1への前後方向の入力を受けるようにしても、路面不整によるショック低減のために、2本のロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4及び車体側取付け点P1、P3を構成する取付けブッシュ9〜12の剛性を低く設定する必要がない。すなわち、当該ロアリンク4、5の取付けブッシュ9〜12の剛性を高く設定可能である。従って、上記ロアリンク4、5の取付けブッシュ9〜12の剛性を高く設定することで、アクスル2の横方向剛性(車幅方向の剛性)を高くすることができ、またこのことはキャンバ剛性を高くすることにも繋がる結果、操縦安定性を向上することができる。なお、車輪1への横方向入力は、2本のロアリンク4、5に対し略リンク軸線L1、L2方向に掛かるので、コネクトブッシュ20、21の剛性を低く設定してもアクスル2の横剛性を低くすることはない。この結果、前後方向の低剛性化と横方向の高剛性化の両立が可能で、乗り心地と操縦安定性をより高いレベルで両立することができる。
【0023】
(3)また、上面視において、2本のロアリンク4、5のリンク軸線L1、L2の交点P5を、車輪1の中心(ホイールセンタW/C)よりも車両前後方向後方に位置させることで、アクスル2の回転中心がホイールセンタW/Cよりも後方に位置する。このため、車両旋回時のタイヤ横方向の入力に対し、旋回外輪側の車輪1をトーイン方向に向けるトルクが働き、車両旋回時の安定性が向上する。
【0024】
(4)また、上面視において、連結された2本のロアリンク4、5のリンク軸線L1、L2の交点P5をアクスル2よりも車幅方向外方、つまり、車両前後方向における、車輪側取付け点P2、P4間のスパンが車体側取付け点P1、P3間のスパンより狭く設定していることで、次の作用効果を奏する。
制動などによって、車輪1の接地面に対し車両前後方向後方向への入力があると、2本のロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4はともに車両前後方向後方にほぼ同量だけ揺動変位するが、その2本におけるロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4の車両横方向変位の差によってトーイン方向のトー変化がついて、制動時の安定性が向上する。
【0025】
図1の例では、後側ロアリンク5はほぼ車幅方向にリンク軸線L2を設定しているが、前側ロアリンク4は、車輪1側が車両前後方向後方となるように、リンク軸線L1が車両前後方向後方に傾いている結果、2本のロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4はともに車両前後方向後方にほぼ同量だけ揺動変位する際に、後側ロアリンク5の車輪側取付け点P4よりも前側ロアリンク4の車輪側取付け点P2が車両側に引き込まれることで、車輪1はトーイン方向に変化する。
【0026】
(5)更に、車幅方向に互いにオフセットして配置される各コネクトブッシュ20、21の位置及び剛性を、上述のように設定することで、車輪1の接地面への車両前後方向入力には、さらに次のような作用効果を奏する。
上述のように、制動などによって車輪1の接地面に対し車両前後方向後方向への入力があると、前側ロアリンク4の車輪側取付け点P2は、図5のように、車両前後方向後方に揺動変位する。このとき、内側ブッシュ21よりも外側ブッシュ20の方が相対的に車両前後方向後方に配置されていることで、つまり内側ブッシュ21の中心P6と外側ブッシュ20の中心P5を結ぶ直線は、外側ブッシュ20側が車両前後方向後方に傾いている(図1では、上面視において前側ロアリンク4のリンク軸線L1と一致している。)。このため、車輪側取付け点P2の車両前後方向後方への揺動変位によって、上面視で、張出部7における当該外側ブッシュ20側を車両幅補方向内側に引き込む作用が出る。
【0027】
また、制動操作などによって車輪1の接地面に対し車両前後方向の制動力が入力されると、その入力によって、車幅方向から見た図6のように、ワインドアップ方向のモーメントが発生する。このモーメントによってアクスル2に連結する後側ロアリンク5のリンク本体部6には上方に向かう力が作用すると共に、前側ロアリンク4には下方に向かう力が作用することで、両ロアリンク4、5を連結するコネクトブッシュ20、21にも上下方向の力が入力される。そして、後側ロアリンク5に着目すると、当該後側ロアリンク5の重心は、リンク本体部6と張出部7の先端部側(コネクトブッシュの取付け部)との間に位置するため、上記ワインドアップ方向の入力によって、リンク本体部6に対し上方への力が作用すると、張出部7の先端部側(2つのコネクトブッシュ20、21)には下方に向かう力が作用する。
【0028】
このとき、2つのコネクトブッシュ20、21の基準線Hに対する車幅方向の位置及び上下方向剛性を上述のように調整することで、上面視において、上記2つの弾性中心G1、G2を通過する軸が、上下方向への揺動に対する後側ロアリンク5の弾性主軸Rとなる。この弾性主軸Rは、車輪1の回転軸線Lと直交する基準線Hに対し、前側が車幅方向内側となるように車幅方向へ傾いているので、ワインドアップ方向のモーメントによって、後側ロアリンク5において、リンク本体部6が上方に且つ張出部7の前側ロアリンク側が下方に向かう力が作用する。その際に、上記弾性主軸R若しくはその近傍周りに当該後側ロアリンク5が上下に回動変位しようとし、また上述のように内側ブッシュ21側が車幅方向内側に引き込まれる結果、張出部7においては、内側ブッシュ21側が、下方に変位しつつ車幅方向内側に引き込まれるように変位する。このような変位の挙動によって、後側ロアリンク5には、上面視において、図5中矢印Mで示す回転方向のモーメントが作用し、そのモーメントによって後側ロアリンク5の車輪側取付け点P4に対し、車体側取付け点P3を中心として車両前後方向前方側への力が作用する。このように、ワインドアップ方向のモーメントによって、上面視でみると、上記後側ロアリンク5の車輪側取付け点P4の車両前後方向後方への揺動量が低減することで、トーイン方向へのステアを増加させる作用が発揮して、制動時の車両安定性を向上させることが出来る。
【0029】
ここで、上記実施形態では、後側ロアリンク6について、車輪側の弾性体ブッシュ10と車体側の弾性体ブッシュ12との上下方向剛性が同一若しくはほぼ同一とみなして、両弾性体ブッシュ10、12による幾何学的な中心を、その両弾性体ブッシュ10、12による上下方向入力に対する弾性中心G1とみなしている。通常、車輪側の弾性体ブッシュ10と車体側の弾性体ブッシュ12との上下方向剛性の差は小さいと想定されるので問題はない。
【0030】
(応用)
(1)上記実施形態では、上面視で、2つのコネクトブッシュ20、21の中心P7が基準線H上に位置するように設定しているが、これに限定されない。例えば、上記外側ブッシュ20から上記基準線Hまでの最短距離よりも、内側ブッシュ21から上記基準線Hまでの最短距離の方が大きくなるように設定しても良い。この場合には、2つのコネクトブッシュ20、21による上下方向入力に対する弾性中心G2がより車幅方向内側に、つまり、上記弾性主軸Rが、より車両前後方向前側が車幅方向内側となるように傾いて、上記効果が大きくなる。
【0031】
また、上記外側ブッシュ20から上記基準線Hまでの最短距離よりも、内側ブッシュ21から上記基準線Hまでの最短距離の方が大きくなるように設定する場合には、内側ブッシュ21の上下方向剛性と外側ブッシュ20の上下方向剛性とが同じであっても良い。同じであっても、2つのコネクトブッシュ20、21による上下方向の力に対する弾性中心G2は、上記基準線Hよりも車幅方向内側に位置する。
【0032】
また、外側ブッシュ20から上記基準線Hまでの最短距離が、内側ブッシュ21から上記基準線Hまでの最短距離よりも大きくなるように設定した場合には、2つのコネクトブッシュ20、21による上下方向の力に対する弾性中心G2が、上記基準線Hよりも車幅方向内側に位置するように、内側ブッシュ21の上下方向剛性を、相対的に、外側ブッシュ20の上下方向剛性よりも大きくなるように設定する。
【0033】
また、上面視で、2つのコネクトブッシュ20、21の中心P7が基準線H上に位置するように設定し、且つ内側ブッシュ21の上下方向剛性と外側ブッシュ20の上下方向剛性とが同じに設定しても良い。外側ブッシュ20が、内側ブッシュ21よりも車両前後方向後方に配置されているので、上記作用効果は発揮出来る。
【0034】
(2)また、上記実施形態では、上面視において、2つのコネクトブッシュ20、21の中心P5、P6が共に前側ロアリンク4のリンク軸線L1上にあるように設定しているがこれに限定されない。例えば、内側ブッシュ21の中心P6を上記リンク軸線L1よりも車両前後方向前方に配置し、外側ブッシュ20の中心P5を上記リンク軸線L1よりも車両前後方向前方に配置しても良い。この場合には、上記実施形態よりも、前側ロアリンク4の車両前後方向後方への揺動の際における、上記張出部7における外側ブッシュ20側の車幅方向内側への引き込みを大きく出来る。
【0035】
(3)上記実施形態では、アッパリンク8を1本の棒状リンクから構成する場合を例示しているが、2本以上あっても良いし、Aアームなど他の形状であっても良い。
また、上記実施形態では、後側ロアリンク5のリンク軸線L2を車幅方向に配置し、前側ロアリンク4のリンク軸線L1を車両前後方向後方に傾けることで、2つのロアリンク4、5のリンク軸線L1、L2の交点P5を、アクスル2よりも車幅方向外方となるように設定しているが、これに限定されない。例えば前側ロアリンク4のリンク軸線L1を略車幅方向に配置すると共に、後側ロアリンク5のリンク軸線L2を、車体側取付け点P3よりも車輪側取付け点P4が車両前後方向前側にくるように、前側に傾斜させることで、2つのロアリンク4、5のリンク軸線L1、L2の交点P5を、アクスル2よりも車幅方向外方となるように設定しても良い。この場合には、内側ブッシュ21の中心を上記リンク軸線L1よりも車両前後方向前方に配置し、後側ブッシュの中心を上記リンク軸線L1よりも車両前後方向前方に配置する。
【0036】
また上記実施形態では、コネクトブッシュ20、21の軸が、略車両前後方向に向くように配置しているが、これに限定しない。コネクトブッシュ20、21の軸を、例えば車幅方向やリンク軸線L1、L2に沿って配置したりしても良い。
また、第2ロアリンクである前側ロアリンク4と張出部7を連結する2つのコネクトブッシュ20、21は、必ずしも上面視でリンク軸線L1と重なる位置に配置される必要はない。
【0037】
また、2本のロアリンク4、5の連結するコネクトブッシュは、2箇所に限定されず3箇所以上あっても良い。
また、取付け点P1とP3の車両前後方向のスパンと取付け点P2とP4のスパンが等しくても、つまり2本のロアリンク4、5が平行に配置されていても良い。
(4)また、上記実施形態では、後輪用サスペンション装置を例に説明しているが、前輪用サスペンション装置であっても良い。また、2本のリンクとしてロアリンク4,5を例示しているが、2本のアッパリンクであっても良い。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記第1実施形態と同様な部品については同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様であるが、図7に示すように、前側ロアリンク4側が第1ロアリンクを構成し、後側ロアリンク5が第2ロアリンクを構成する場合の例である。
【0039】
すなわち、後側ロアリンク5は、車幅方向若しくは略車幅方向に延びるリンク軸線L2に沿って直線状に延びる棒状の部材であって、その両端取付け部にそれぞれ、上記構成の弾性体ブッシュ10、12が設けられている。
また、前側ロアリンク4は、リンク軸線L1に沿って延びるリンク本体部4aと、そのリンク本体部4aと一体になっていると共に当該リンク本体部4aから上記後側ロアリンク5に向けて車両前後方向後方に張り出した張出部4bとから構成されている。上記リンク軸線L1は、第1実施形態と同様に、車体側よりも車輪側が車両前後方向後方に位置するように傾いている。
【0040】
上記張出部4bにおける、後側ロアリンク5と車両前後方向で対向する先端部は、車幅方向にオフセットさせて配置された2個のコネクトブッシュ20、21を介して後側ロアリンク5に連結している。ただし、後側ロアリンク5のリンク軸線L2は、上述のように車幅方向若しくは略車幅方向に延びているが、車体側のコネクトブッシュ21である内側ブッシュ21は、上記リンク軸線L2よりも車両前後方向前側に配置され、車輪側のコネクトブッシュ20である外側ブッシュ20は、上記リンク軸線L2よりも車両前後方向後側に配置されて、2つのコネクトブッシュ20、21を結ぶ線は、車輪側が車両前後方向後方となるように傾いている。なお、2つのコネクトブッシュ20、21は、上面視においてブッシュ軸を略車両前後方向に向けて配置されて、外筒が後側ロアリンク5に固定されると共に内筒が取付けボルトを介して張出部4bに固定されている。
【0041】
この場合にも、前側ロアリンク4のリンク本体部4aの車体側及び車輪側の両取付け点P1、P2の取付けブッシュ11、9間の中央G1を通り且つ車輪の回転軸線Lと直交する基準線Hを仮想する。そして、上面視において、上記外側ブッシュ20から上記基準線Hまでの最短距離と、内側ブッシュ21から上記基準線Hまでの最短距離とを等しく設定する。即ち、上面視において、外側ブッシュ20の中心点P5と内側ブッシュ21の中心点P6との中心P7が、上記基準線Hと交わるように設定する。
また、内側ブッシュ21の上下方向剛性が、外側ブッシュ20の上下方向剛性よりも高く設定する。
その他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
ここで、リンク本体部4aが第1ロアリンクを、後側ロアリンク5が第2ロアリンクを構成する。
【0042】
(作用効果)
(1)制動などによって、車輪1の接地面に対し車両前後方向後方向への入力があると、2本のロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4はともに車両前後方向後方にほぼ同量だけ揺動変位するが、その2本におけるロアリンク4、5の車輪側取付け点P2、P4の車両横方向変位の差によってトーイン方向のトー変化がついて、制動時の安定性が向上する。
【0043】
またこのように、後側ロアリンク5の車輪側取付け点P4が車両前後方向後方に揺動変位すると、内側ブッシュ21よりも外側ブッシュ20が相対的に車両前後方向後方に配置されていることで、つまり内側ブッシュ21の中心P6と外側ブッシュ20の中心P5とを通る直線が、外側ブッシュ20側が車両前後方向後方に傾いているため、車輪側取付け点P4の車両前後方向後方への揺動変位によって、上面視で、張出部7における当該内側ブッシュ21側を車両幅補方向内側に引き込む作用が出る。
【0044】
また、制動操作などによって車輪1の接地面に対し車両前後方向の制動力が入力されると、その入力によるワインドアップ方向のモーメントによって、アクスル2に連結する前側ロアリンク4のリンク本体部4aには下方に向かう力が作用すると共に、後側ロアリンク5には上方に向かう力が作用することで、両ロアリンク4、5を連結するコネクトブッシュ20、21にも上下方向の力が入力される。そして、前側ロアリンク4に着目すると、当該前側ロアリンク4の重心は、リンク本体部4aと張出部4bの先端部側(コネクトブッシュの取付け部)との間に位置するため、上記ワインドアップ方向の入力によって、リンク本体部4aに対し下方への力が作用すると、張出部7の先端部側(2つのコネクトブッシュ20、21)には上方への力が作用する。
【0045】
このとき、2つのコネクトブッシュ20、21の基準線Hに対する車幅方向の位置及び上下方向剛性を調整することで、上面視において、上記2つの弾性中心G1、G2を通過する軸が、上下方向への揺動に対する前側ロアリンク4の弾性主軸Rとなる。この弾性主軸Rは、車輪1の回転軸線Lと直交する基準線Hに対し、車両前後方向後側が車幅方向内側となるように車幅方向に傾いているので、ワインドアップ方向のモーメントによって、前側ロアリンク4において、リンク本体部4aが下方に、且つ張出部4bの後側ロアリンク側が上方に向かう力が作用する際に、上記弾性主軸R若しくはその近傍周りに当該前側ロアリンク5が上下に回動変位しようとし、また上述のように内側ブッシュ21側が車幅方向内側に引き込まれる結果、内側ブッシュ21は、上方に変位しつつ車幅方向内側に引き込まれるように変位する。このような変位の挙動によって、前側ロアリンク4には、上面視において、図8中、矢印M2で示す回転方向のモーメントが作用し、そのモーメントによって前側ロアリンク4の車輪側取付け点P2に、車体側取付け点P1を中心として車両前後方向後方側への力が作用する。このように、ワインドアップ方向のモーメントによって、上面視で、上記前側ロアリンク4の車輪側取付け点P2の車両前後方向後方への揺動量が増加することで、トーイン方向へのステアを増加させる作用が発揮して、制動時の車両安定性を向上させることが出来る。
(2)その他の作用効果は、第1実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0046】
1 車輪
2 アクスル(車輪支持部材)
3 サスペンションメンバ(車体側部材)
4 前側ロアリンク
4a リンク本体部
4b 張出部
5 後側ロアリンク
6 リンク本体部
7 張出部
8 アッパリンク
9〜12 取付けブッシュ
20 外側ブッシュ(コネクトブッシュ)
20c 弾性体
20d スグリ
21 上記内側ブッシュ(コネクトブッシュ)
21 弾性ブッシュ
21c 弾性体
21e 中間板
H 基準線
L 回転軸線
R 弾性主軸
W/C ホイールセンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転自在に支持する車輪支持部材と車体側部材とを連結する2本のリンクである第1リンクと第2リンクとが車両前後方向に並んで配置されるサスペンション装置であって、
上記第1リンクから第2リンクに向けて張り出す張出部と、その張出部と第2リンクとを揺動可能に連結する弾性体を備え、
上記弾性体は、互いに車幅方向に離して配置された個別のブッシュで構成され、
上記第1リンクは、車輪に車両前後方向の力が入力されたときに、車両前後方向に延在する軸であって、車両上面視において車両前方側が車両後方側に対して車体側部材により近くなるように傾く回転軸のまわりに回転することを特徴とするサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−17105(P2012−17105A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232878(P2011−232878)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2007−98527(P2007−98527)の分割
【原出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】