説明

サブマイクロメートル流体層を生成する方法

【課題】基材S1、S2、S3間の流体Fの転移及び流体層FS3の形成が行われることによりサブマイクロメートル流体層を生成する方法。
【解決手段】流体Fを放出する第一基材S1の表面エネルギーγS1が − 第一流体貯留物FD1の第一基材S1上への生成のために − 第一基材S1上の流体Fの表面エネルギーγF1よりも大きく、流体Fを受理する第二基材S2の表面エネルギーγS2が − 第一流体貯留物FD1に比べて減少された第二流体貯留物FD2の第二基材S2上への生成のために − 第二基材S2上の流体Fの表面エネルギーγF2よりも小さく、かつ流体Fを受理する第三基材S3の表面エネルギーγS3が − 流体層FS3を形成する本質的に均質な第三流体貯留物FD3の第三基材S3上への生成のために − 第三基材S3上の流体Fの表面エネルギーγF3よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の導入部分の特徴を有する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術水準からは、印刷装置(Druckwerken)、インキ着け装置(Farbwerken)及びインキ着けロール(Farbwerkswalzen)を有する印刷機械が知られており、その際に後者を用いて印刷インキが搬送され、かつ配量される。2本のロール間でのインキが裂ける(Farbspaltung)作用により、連続するロール上のインキ層の厚さは、漸次低下されることができる。このようにして、しかしながら、マイクロメートル範囲内のインキ層厚のみが達成されるに過ぎない。書籍、逐次刊行物、ポスター等のような印刷製品の製造のためには、そのような厚さで十分である。しかしながら、いわゆる"プリンテッド・エレクトロニクス(gedruckten Elektronik)"の環境(Umfeld)において、1μm未満の加工された流体の層厚も製造できることがますます要求されている。
【0003】
例えば印刷インキのような流体でのロール表面の湿潤性にとって決定的であるのは、前記ロール表面及び前記流体の各表面エネルギーである:前記ロール表面の高い表面エネルギー及び前記流体の低い表面エネルギーは、良好な湿潤をもたらす。前記流体を後続のロール上に転移させるためには、そのうえ、後続のロールの表面エネルギーも、決定的である。このロールが、前に配置されたロールよりも高い表面エネルギーを有する場合には、低い表面エネルギーを有する前記流体は良好に転移される。
【0004】
独国特許出願公開(DE-A1)第199 48 311号明細書には、印刷品質を改善する方法が記載されており、その際に印刷タンクから印刷すべき材料への経路でインキと接している表面の表面エネルギーは少なくとも幾つかの転移位置で、表面から次の表面へのインキの移行がインキ輸送経路に沿って促進されるように調節されている。連続したインキ送りロールのインキ輸送の方向での表面エネルギーはそれに応じて、常により大きいべきであり、かつ決してより小さいべきではない。例えば、運転中に互いに接している部材のそれぞれのコーティングが考慮されていてよい。
【0005】
独国特許出願公開(DE-A1)第10 2007 053 489号明細書には、インキ着け装置用の洗浄装置を備えた印刷機械が記載されている。低い表面エネルギーを有する2本の疎化された(phobierten)ロールの間に、高い表面エネルギーを有するロールを配置し、かつ後者の上に洗浄ナイフを設置することが提案されている。前記の3本のロールのうちの真ん中のものは、それに応じて、その上にインキが掻き取り(Abrakeln)の目的で蓄積されるように形成されている。
【0006】
独国特許出願公開(DE-T2)第696 16 560号明細書には、液体を配量及び施与するために、ロールの外面上の多孔質PTFEフィルムが記載されている。前記フィルムは、僅かな表面エネルギー及び故に良好な脱濡れ特性(Entnetzungseigenschaft)を有し、すなわちこのフィルムは液体を容易に放出する。
【0007】
上記で評価された刊行物には、しかしながら、どのようにしてそれぞれ記載された技術を用いてマイクロメートルの厚さの層ではなく、サブマイクロメートル流体層が生成されることができたかという教示が開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開(DE-A1)第199 48 311号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開(DE-A1)第10 2007 053 489号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開(DE-T2)第696 16 560号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この背景から、本発明の課題は、技術水準に比べて改善された、サブマイクロメートル流体層を生成することを可能にする方法を生み出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。本発明の有利なさらなる態様(Weiterbildungen)は、付属する従属請求項から並びに明細書から及び付属する図面から明らかになる。
【0011】
基材間の流体の転移及び流体層の形成が行われることによる、本発明によるサブマイクロメートル流体層を生成する方法は、
・前記流体を放出する第一基材の表面エネルギーが − 第一流体貯留物(Fluiddepots)を第一基材上に生成させるために − 第一基材上の前記流体の表面エネルギーよりも大きく、
・前記流体を受理する第二基材の表面エネルギーが − 第一流体貯留物に比べて減少された第二流体貯留物を第二基材上に生成させるために − 第二基材上の前記流体の表面エネルギーよりも小さく、かつ
・前記流体を受理する第三基材の表面エネルギーが − 前記流体層を形成する本質的に均質な第三流体貯留物を第三基材上に生成させるために − 第三基材上の前記流体の表面エネルギーよりも大きい
ことにより特徴付けられる。
【0012】
本発明による方法を実施する際に、一見厚い(例えば>1μm)流体層FS1は、より薄いがしかし不均質な流体層FS2へ移送され、かつこれはそしてまた、最終的に極めて薄く(例えば<1μm)かつ均質な流体層FS3中へ移送される。所望の、極めて薄くかつ均質な流体層FS3への経路は、本発明によればかつ予期しないことに、確かに薄くはあるが、しかし不均質な流体層FS2を経て送る。言い換えれば:前記層の均質性は一時的に失われ、その後1μm未満の層厚が生成される。
【0013】
達成可能なプロセス安定性に基づいて本発明による方法の有利でかつ故に好ましいさらなる態様は、
・前記基材上の前記流体の表面エネルギーが、本質的に同じであり、かつ
・前記流体層の厚さの制御が本質的に、前記基材の表面エネルギーの相対的な調節を介して行われ、ここで:
・前記流体を受理する第二基材の表面エネルギーが − 流体バリヤーの形成のために − 前記流体を放出する第一基材の表面エネルギーよりも小さく、かつ
・前記流体を受理する第三基材の表面エネルギーが、前記流体を放出する第二基材の表面エネルギーよりも大きい
ことにより特徴付けられうる。
【0014】
本発明による方法の他の選択的でかつ故に同様に好ましいさらなる態様は、
・前記基材の表面エネルギーが、本質的に同じであり、かつ
・前記流体層の厚さの制御が本質的に、前記基材上の前記流体の表面エネルギーの相対的な調節を介して行われ、ここで:
・第二基材上の前記流体の表面エネルギーが − 流体バリヤーの形成のために − 第一基材上の前記流体の表面エネルギーよりも大きく、かつ
・第三基材上の前記流体の表面エネルギーが、第二基材上の前記流体の表面エネルギーよりも小さい
ことにより特徴付けられうる。
【0015】
プロセス過程の単純性及びそのために考慮される成分の数に関して、本発明による方法の有利でかつ故に好ましいさらなる態様は、前記流体Fが専ら、第二基材を経て第一基材から第三基材に搬送されることにより特徴付けられうる。
【0016】
一見直感に反するが、しかし極めて薄い層を達成するのに、本発明による方法のまさに有利でかつ故に好ましいさらなる態様は、第二基材上の第二流体貯留物が、閉じておらず(nicht geschlossene)かつ不均質な第二流体層を形成することにより特徴付けられうる。
【0017】
本発明による方法の有利でかつ故に好ましいさらなる態様は、次の厚さ範囲の1つからの厚さを有する第三流体層が生成されることにより特徴付けられうる:約10nm〜約1μm、約10nm〜約500nm、及び約10nm〜約100nm。
【0018】
最も薄いサブマイクロメートル層を達成するために本発明による方法の有利でかつ故に好ましいさらなる態様は、流体が、第二基材から、少なくとも1つの別の流体バリヤーを有する基材の少なくとも1つの別のペアを経て、第三基材上へ転移されることにより特徴付けられうる。
【0019】
本発明による方法の有利でかつ故に好ましいさらなる態様は、第三流体層が、第三基材から、本質的に完全にかつ耐久的に、被印刷物上へ転移されることにより特徴付けられうる。
【0020】
本発明による方法の有利でかつ故に好ましいさらなる態様は、前記基材の表面エネルギーの相対的な調節が、次の方法の少なくとも1つの使用下に行われることにより特徴付けられうる:
・少なくとも2つの基材について異なる材料の使用、
・少なくとも2つの基材について異なる材料混合物の使用、
・少なくとも2つの基材について異なるナノ粒子の使用、
・少なくとも2つの基材について異なる吸着質の使用、
・少なくとも2つの基材の温度の変動、
・少なくとも2つの基材上の電位の変動、
・少なくとも2つの基材の電磁放射線での処理、
・少なくとも2つの基材の粒子線での処理。
【0021】
本発明による方法の他の選択的でかつ故に好ましいさらなる態様は、前記基材上の前記流体の表面エネルギーの相対的な調節が、次の方法の少なくとも1つの使用下に行われることができることにより特徴付けられうる:
・前記流体の溶剤含量の変動、
・前記流体の温度の変動、
・前記流体のpH値の変動、
・前記流体への、その表面エネルギーを変更する少なくとも1つの反応性の化学物質の添加、及び
・前記流体への、その表面エネルギーを変更する少なくとも1つの非反応性の化学物質の添加。
【0022】
本発明それ自体並びに本発明の構造的及び/又は機能的に有利なさらなる態様は、付属する図面に関して少なくとも1つの好ましい実施例に基づいて以下により詳細に記載される。図面中で、互いに相応する要素には、それぞれ同一の符号が与えられている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による方法の好ましい実施例の流れ図。
【0024】
図1は、基材S1、S2及びS3間の流体Fの転移及び流体層FS3の形成が行われることによる、本発明によりサブマイクロメートル流体層を生成もしくは配量する方法の好ましい一実施例を示す。本発明によるサブマイクロメートル流体層の生成にとって本質的であるのは、前記基材及び/又は前記流体のそれぞれ関与される表面エネルギーの意図的な制御である。それにより、支配的な凝集力及び付着力が意図的に調節されることができ、こうして転移される流体の量が制御されることができる。同様に本質的であるのは、i)転移される流体量の減少及びii)転移される流体量の均一化という2つの処理工程の少なくとも局所的な分離である。
【0025】
本発明による方法は好ましくは、印刷上は、すなわち印刷プロセスの範囲内及び/又は(オフセット)印刷機械中で、流体の極めて薄い、すなわちサブマイクロメートルの薄さの層を製造するのに使用される。その場合に、"サブマイクロメートル"という概念は、約10nm〜約1μm、好ましくは約10nm〜約500nm及び特に好ましくは約10nm〜約100nmの範囲を含む。そのような極めて薄い層は、例えばプリンテッド・エレクトロニクスの製造の際に必要とされる。
【0026】
まず最初に、前記流体は、より詳細に記載される:前記流体は、常用の印刷インキ又は常用の印刷ワニス(Drucklack)であってよい。しかしながら、好ましくは、本発明によれば、いわゆる機能性流体が使用される。このことは、前記流体が、前記最終基材上のサブマイクロメートル流体層として機能を提供することを意味する。これは、例えば電気伝導率であり、すなわち前記流体層は、構造化されて生成されることができ、かつ例えば導体路又は電気回路を形成することができる。
【0027】
目下、前記基材は、より詳細に記載される:本発明によれば、少なくとも3つの基材が使用される。好ましくは、3つの全ての基材が、円筒形表面、例えば回転するロール又はシリンダーのジャケットとしてのそれらの形で形成されている。各表面用の材料として、好ましくは交互に、硬質の、例えば金属材料及び軟質の、例えばゴム状材料が使用される。サブマイクロメートル流体層が生成される後者の基材により、この流体層は、輸送される被印刷物、例えば紙、厚紙、(プラスチック)フィルム又は(金属)薄板上へ転移される。
【0028】
しかしながらまた、サブマイクロメートル流体層が生成される後者の基材が、既にそのような被印刷物であることが考慮されていてよい。前記基材が、ロール表面である場合には、これらは、サブマイクロメートルの薄さの層の形成のために極めて僅かな粗さ値を有しなければならない。そのうえ、これらは耐摩耗性であるべきであり、かつ高い表面品質並びに良好な耐薬品性及び耐熱性を有するべきである。
【0029】
以下に、本発明にとって本質的な3つの処理工程がより詳細に記載される:第一処理工程A(第一貯留物生成、図1A)において、第一基材S1上に第一流体貯留物FD1が生成される。第一基材S1は好ましくは、印刷ロールの円筒形ジャケット面として形成されている。第一流体貯留物FD1は好ましくは、前記流体の施与により、例えば前に配置されたロール又は噴霧コーティングユニットにより、生成される。選択的に、第一貯留物生成は、第一基材S1の表面の細孔から前記流体を流出させることによって、例えばロールに内部から流体を供給することによって、行われることもできる。
【0030】
第一流体貯留物FD1は好ましくは、本質的に閉じており(geschlossene)、かつ本質的に均質な流体層FS1、すなわち本質的に一定の厚さD1を有する流体層FS1を形成する。この流体層FS1の厚さD1は、生成すべきサブマイクロメートルスケールの流体層FS3の所望のかつ同様に本質的に一定の厚さD3よりも大きい(例えば>1μm)。故に、本発明によれば、第一流体貯留物FD1の流体層を少なくとも1つのさらなる処理工程において減少させることが考慮されている。
【0031】
基材S1及び/又は基材S1上の流体Fの各表面エネルギーγの調節は好ましくは、各プロセスユニットP1もしくはP1′の使用下に行われる。P1は、例えば温度調節装置、分子被覆(Molekuelbelegung)装置又は電位発生装置又はプラズマ装置、UV装置、レーザー装置又は電子線装置であってよい。P1′は、例えば溶剤を添加又は除去するための装置、反応性又は非反応性の化学物質を添加するための装置、温度調節装置又はpH値を変更するための装置であってよい。
【0032】
第二処理工程B(第二貯留物生成、図1B)において、第二基材S2上に第二流体貯留物FD2が生成される。第二基材S2も同様に好ましくは、印刷ロールの円筒形ジャケット面として形成されている。そのうえ、基材S2は基材S1と、流体Fが部分的に基材S1から基材S2上に転移されるように協働(Wirkverbindung)する。このことは、流体Fの全量ではなくて、定義された割合のみ、例えば約50%未満又は約10%未満のみが転移されることを意味する。
【0033】
第二流体貯留物FD2は、流体層FS1に比べて減少される流体層FS2、例えば減少される厚さD2<D1を有する流体層を形成する。サブマイクロメートルスケールの極めて薄い層厚が達成されるべきであるので、第二流体貯留物FD2の流体層は、閉じておらず、かつ故に不規則に隙間を有することが起こりうる。そのうえ、第二流体層が不均質であり、かつ故に可変の層厚を有することが起こりうる(図1B中で確認可能であるように、流体層FS2の厚さD2は、不均質性に基づいて局所的に変わりうるので、D2は、平均値と理解されるべきである)。故に、さらに、本発明によれば、第二流体貯留物FD2の流体層を、少なくとも1つのさらなる処理工程において再び均一化する、すなわち隙間を閉じ、かつ不均質性を取り除くことが考慮されている。
【0034】
基材S2及び/又は基材S2上の流体Fの各表面エネルギーγの調節は、好ましくは各プロセスユニットP2もしくはP2′の使用下に行われ、これらは上記で既に処理工程Aに関して記載されたプロセスユニットに相応する。
【0035】
第三処理工程C(均質化、図1C)において、第三基材S3上に、流体層FS3を形成する本質的に均質な第三流体貯留物FD3が生成される。また、第三基材S3は、好ましくは印刷ロールの円筒形ジャケット面として形成されている。そのうえ、基材S3も基材S2と、流体Fが部分的に基材S2から基材S3に転移されるように協働する。このことはそしてまた、流体Fの全量が転移されるのではなくて、定義された割合のみ、例えば同様に約50%未満又は約10%未満のみが転移されることを意味する。
【0036】
第三流体貯留物FD3は好ましくは同様に、減少される流体層FS3を形成する:この場合に、流体層FS3の厚さD3は、流体層FS2の厚さD2に比べて減少されている(D3<D2)。同時に、流体層FS3は、流体層FS2とは異なり、再び閉じており、かつ均質である。
【0037】
本発明による三工程法は、それゆえ、厚い流体層FS1から中間段階を経て、閉じており、均質でかつ極めて薄い流体層FS3に送る。前記中間段階は、確かに流体層FS1よりも薄いが、しかしながら閉じておらず、かつ不均質でありうる流体層FS2を形成する。これらの性質が、前記背景から、閉じており、均質でかつ極めて薄い流体層FS3を生み出すことが望まれていないにも拘わらず、この中間接続は、意外なことに有利であることが判明した。なぜなら:いわば補助層として機能する流体層FS2を生み出すことにより、単純な手段を用いて及びそれにも拘わらず、必要な精度及び再現性と共に、所望の層厚低下が有利にもたらされることができる。
【0038】
基材S3及び/又は基材S3上の流体Fの各表面エネルギーγの調節は好ましくはそしてまた、各プロセスユニットP3もしくはP3′の使用下に行われ、これらは上記で既に処理工程Aに関して記載されたプロセスユニットに相応する。
【0039】
本発明により生成される第三流体層FS3は好ましくは、次の厚さ範囲の1つからの厚さD3を有する:約10nm〜約1μm、約10nm〜約500nm、及び約10nm〜約100nm。
【0040】
どのようにして前記の層厚減少となるかは、以下により詳細に説明される。その場合に、第二基材S2上の第二流体層FS2もしくは第二流体貯留物FD2が、バリヤーとして非閉鎖性及び不均質性のような本来望ましくない性質に基づいてまさに、前記流体の搬送するために作用することを理解することが重要である。このバリヤー機能は、そのうえ、本発明によれば、意図的に制御されることができる。このようにして、有利には、単位時間あたり搬送される流体Fの量を調節すること、及び第一流体層FS1の一定の厚さD1の場合でさえ、第三流体層FS3の厚さD3を変えることが可能である。
【0041】
このためには、本発明によれば、3つの基材S1、S2及びS3の表面エネルギー及び3つの基材S1、S2及びS3上の流体Fの各表面エネルギーは、互いに特定の関係を有しているかもしくは相応して調節される。
【0042】
この箇所では、流体Fが前記搬送の間に本質的に不変のままであることがさらに述べられる。このことは、特にその機能的性質、例えば電気伝導率が変更されないことを意味する。しかしながら、流体Fの表面エネルギーは、搬送経路に沿って変更されることができるので、前に配置された基材上の流体Fの表面エネルギーが、後に配置された基材上のその流体の表面エネルギーよりも、大きくても又は小さくてもよい。
【0043】
目下、前記表面エネルギー間の本発明に本質的な関係については:i)流体Fを放出する第一基材S1の表面エネルギーγS1は、第一基材S1上の流体Fの表面エネルギーγF1よりも大きく、ii)流体Fを受理する第二基材S2の表面エネルギーγS2は、第二基材S2上の流体Fの表面エネルギーγF2よりも小さく、かつiii)流体Fを受理する第三基材S3の表面エネルギーγS3は、第三基材S3上の流体Fの表面エネルギーγF3よりも大きい。
【0044】
特徴i)は、第一基材S1上の第一流体貯留物FD1の生成を可能にする、なぜなら、流体Fはこの場合に第一基材S1の表面を本質的に完全に湿潤させるからである。あるいは言い換えれば:第一基材S1は、流体Fについて良好な湿潤特性を示す。
【0045】
特徴ii)は、それにより、第二基材S2上の第一流体貯留物FD1に比べて減少された第二流体貯留物FD2の生成を可能にする。流体量の減少はその際に、流体Fが、第二基材S2の表面を限定されてのみ湿潤させるという事実に起因する。また、小滴の形成に類似した流体蓄積、すなわちいわば撥水(Abperlen)となりうる。いずれにせよ、流体Fの僅かな割合のみが、2つの基材S1とS2との間で転移される。このことは、さらに上記で本明細書において"バリヤー"と言われた理由である。前記流体は、基材S1から基材S3へ到達するために、基材S2を経る搬送経路を利用しなければならない。基材S2は、しかしながら、基材S1及びS3に比べて流体Fについてより劣悪な湿潤特性を示す。
【0046】
好ましいさらなる態様によれば、流体Fは、専ら基材S2のバリヤーを経て、基材S1から基材S3の方へ搬送される、すなわち並列の搬送経路ではない。従来のロールインキ着け装置中で、たいてい多数のロールが考慮されているので、前記印刷インキが、前記ロールインキ着け装置による多数の並列パスを利用するのに対し、本発明によれば、流体Fが専ら、第二基材S2を経て、第一基材S1から第三基材S3に搬送されることが好ましい。これは次のことを意味する:流体輸送用の並列パスはなく、かつ全ての流体Dが、少なくとも1つの流体バリヤーを通過しなければならない。しかしながら、選択的に、また、各流体バリヤーを備えた並列の流体輸送パスを考慮に入れることも可能であろう。
【0047】
特徴iii)は、最終的に、第三基材S3上の流体層FS3を形成する本質的に均質な第三流体貯留物FD3の生成を可能にする。というのも、基材S3に対する流体Fの湿潤挙動は、目下、再び特徴i)の場合に類似しているからである。このことは次のことを意味する:流体Fは、第三基材S3の表面を本質的に完全に湿潤させ、かつ故に流体層FS3の厚さD3の減少となる。
【0048】
表面エネルギー関係の前記の調節は、目下、2つの選択的な方法で行われることができる。次のいずれか:I)流体Fの表面エネルギーは、本質的に一定に維持される、すなわち表面エネルギーγF1、γF2及びγF3は、本質的に同じであり、かつ基材S1、S2及びS3の表面エネルギーγS1、γS2及びγS3は、異なって調節されている。あるいはしかしまさに逆に:II)基材表面エネルギーγS1、γS2及びγS3は、本質的に同じであり、かつ流体表面エネルギーγF1、γF2及びγF3は、異なって調節されている。第三の選択肢も同様に考えられる:流体表面エネルギーγF1、γF2及びγF3並びに基材表面エネルギーγS1、γS2及びγS3は、それぞれ互いに異なって調節されている。しかしながら、前記基材の表面エネルギーγS1、γS2及びγS3が、異なる値に調節され、その際に基材表面エネルギーγS1及びγS3は同じであってもよい変法が好ましい。
【0049】
変法I)(一定の流体表面エネルギー)は、それに応じて次のように表現される:基材S1、S2及びS3上の流体Fの表面エネルギーγF1、γF2、γF3は、本質的に同じであり、かつ流体層FS3の厚さD3の制御は本質的に、基材S1、S2及びS3の表面エネルギーγS1、γS2及びγS3の相対的な調節を介して行われ、ここで流体Fを受理する第二基材S2の表面エネルギーγS2が、流体Fを放出する第一基材S1の表面エネルギーγS1よりも小さく、かつここで流体Fを受理する第三基材S3の表面エネルギーγS3が、流体Fを放出する第二基材S2の表面エネルギーγS2よりも大きい。
【0050】
このようにして、第一工程において、極めて少量の流体Fが転移される、なぜなら、第二基材S2は、流体Fを、限定されてのみ受理する傾向を有するからである。その後、第二工程において、転移された極めて少量の流体Fは、第三基材S3の表面上に均一化される、なぜなら、第三基材S3は、減少された量の流体Fを、本質的に限定されずに受理し、かつ故に本質的に均一に第三基材S3の表面を経て分配する傾向を有するからである。
【0051】
基材S1、S2及びS3の表面エネルギーγS1、γS2及びγS3の相対的な調節は、その際に好ましくは前記流体転写の実施前に及び好ましくは次の方法の少なくとも1つの使用下に行われる:
I.1)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3について異なる材料の使用、その際に前記材料は、異なる表面エネルギーを有する、
I.2)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3について異なる材料混合物の使用、
I.3)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3について異なるナノ粒子の使用、その際に(一方の基材については)好ましくは低い表面エネルギーを有する出発物質が使用され、その中へ(他方の基材については)少なくとも表面近くに、高い表面エネルギーを有する添加材料の例えばナノ粒子が、挿入されるか、又はその逆である、
I.4)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3について異なる吸着質、好ましくは異なる被覆密度(Belegungsdichte)の表面のナノスコピックな分子被覆としての両親媒性分子の使用(好ましくは異なる溶剤もしくは溶剤濃度、異なる作用期間又は引き続き照射による被覆密度の変化)、
I.5)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3の温度の変動、
I.6)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3上の電位の変動、
I.7)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3の電磁放射線で、好ましくは紫外線又はレーザー光線での処理、
I.8)少なくとも2つの基材S1、S2及びS3の粒子線で、好ましくはプラズマ又は電子線での処理。
【0052】
変法Iは、以下により詳細に記載される変法IIよりも好ましい、なぜなら、これはより高いプロセス安全性を与えるからである。特に、流体転写の前の前記基材の表面エネルギーの調節は、前記流体転写の間の前記基材上の前記流体の表面エネルギーの調節よりもプロセス安全にされることができる。
【0053】
変法II)(一定の基材表面エネルギー)は、それに応じて次のように表現される:基材S1、S2及びS3の表面エネルギーγS1、γS2、γS3は、本質的に同じであり、かつ流体層FS3の厚さD3の制御は本質的に、基材S1、S2及びS3上の流体Fの表面エネルギーγF1、γF2、γF3の相対的な調節を介して行われ、ここで第二基材S2上の流体Fの表面エネルギーγF2が、第一基材S1上の流体Fの表面エネルギーγF1よりも大きく、かつここで第三基材S3上の流体Fの表面エネルギーγF3が、第二基材S2上の流体Fの表面エネルギーγF2よりも小さい。
【0054】
このようにして、第一工程において同様に極めて少量の流体Fが転移される、なぜなら、第二基材S2上の流体Fは、基材S2の表面を、限定されてのみ湿潤させる傾向を有するからである。その後、第二工程において、転移された極めて少量の第三基材S3の表面上の流体Fは均一化される、なぜなら、第三基材S3上の減少された量の流体Fは、基材S3の表面を本質的に限定されずに湿潤し、かつ故に本質的に均一に第三基材S3の表面全体に分配する傾向を有するからである。
【0055】
基材S1、S2及びS3上の流体Fの表面エネルギーγF1、γF2及びγF3の相対的な調節は、その際に好ましくは前記流体転写の実施の間に及び好ましくは次の方法の少なくとも1つの使用下に行われる:
II.1)流体Fの溶剤含量の変動、その際に溶剤は、好ましくはノズル又は追加のロールにより、流体Fに添加される及び/又は加熱により、例えばマイクロ波放射を用いて、除去される、
II.2)流体Fの温度の変動、その際に好ましくは温度調節されたガス流、電磁放射線又は蒸発ユニットが使用される、
II.3)流体FのpH値の変動、その際に好ましくは酸−塩基滴定が行われるか又は触媒が使用される、
II.4)流体Fへの、表面エネルギーを変更する少なくとも1つの反応性の化学物質の添加、その際に"反応性の"は、前記物質が、流体Fの少なくとも1つの成分と化学反応し、かつその結果、流体Fの表面エネルギーが変更されることを意味する、かつ
II.5)流体Fへの、表面エネルギーを変更する少なくとも1つの非反応性の化学物質の添加、その際に"非反応性の"は、例えば界面活性剤のような両親媒性分子が添加されることを意味する。
【0056】
流体層FS3の厚さD3のさらなる減少を達成するために、中間工程を繰り返し行うが好ましくは考慮されていることができる:流体Fは、第二基材S2から、少なくとも1つの別の流体バリヤーを有する基材S4及びS5の少なくとも1つの別のペアを経て、第三基材S3上へ転移される。言い換えれば:プロセス工程の本発明によるシリーズは、いっそうより薄い層FS3を生成する繰り返し方法として形成されていることができる。
【符号の説明】
【0057】
F 流体
FD1 第一流体貯留物
FD2 第二流体貯留物
FD3 第三流体貯留物
FS1 第一流体層
FS2 第二流体層
FS3 第三流体層
D1 第一流体層の厚さ
D2 第二流体層の厚さ
D3 第三流体層の厚さ
S1 第一基材
S2 第二基材
S3 第三基材
S4,S5 別のペアの基材
P1 第一基材のための第一プロセスユニット
P2 第二基材のための第二プロセスユニット
P3 第三基材のための第三プロセスユニット
P1′ 第一流体のための第一プロセスユニット
P2′ 第二流体のための第二プロセスユニット
P3′ 第三流体のための第三プロセスユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(S1、S2、S3)間の流体(F)の転移及び流体層(FS3)の形成が行われることによる、サブマイクロメートル流体層を生成する方法であって、
・前記流体(F)を放出する第一基材(S1)の表面エネルギー(γS1)が − 第一流体貯留物(FD1)を第一基材(S1)上に生成させるために − 第一基材(S1)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF1)よりも大きく、
・前記流体(F)を受理する第二基材(S2)の表面エネルギー(γS2)が − 第一流体貯留物(FD1)に比べて減少された第二流体貯留物(FD2)を第二基材(S2)上に生成させるために − 第二基材(S2)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF2)よりも小さく、かつ
・前記流体(F)を受理する第三基材(S3)の表面エネルギー(γS3)が − 前記流体層(FS3)を形成する本質的に均質な第三流体貯留物(FD3)を第三基材(S3)上に生成させるために − 第三基材(S3)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF3)よりも大きい
ことを特徴とする、サブマイクロメートル流体層を生成する方法。
【請求項2】
・前記基材(S1、S2、S3)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF1、γF2、γF3)が、本質的に同じであり、かつ
・前記流体層(FS3)の厚さ(D3)の制御が本質的に、前記基材(S1、S2、S3)の表面エネルギー(γS1、γS2、γS3)の相対的な調節を介して行われ、ここで:
・前記流体(F)を受理する第二基材(S2)の表面エネルギー(γS2)が − 流体バリヤーの形成のために − 前記流体(F)を放出する第一基材(S1)の表面エネルギー(γS1)よりも小さく、かつ
・前記流体(F)を受理する第三基材(S3)の表面エネルギー(γS3)が、前記流体(F)を放出する第二基材(S2)の表面エネルギー(γS2)よりも大きい、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
・前記基材(S1、S2、S3)の表面エネルギー(γS1、γS2、γS3)が、本質的に同じであり、かつ
・前記流体層(FS3)の厚さ(D3)の制御が本質的に、前記基材(S1、S2、S3)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF1、γF2、γF3)の相対的な調節を介して行われ、ここで:
・第二基材(S2)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF2)が − 流体バリヤーの形成のために − 第一基材(S1)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF1)よりも大きく、かつ
・第三基材(S3)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF3)が、第二基材(S2)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF2)よりも小さい、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記流体Fが専ら、第二基材(S2)を経て、第一基材(S1)から第三基材(S3)に搬送される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
第二基材(S2)上の第二流体貯留物(FD2)が、閉じておらずかつ不均質な第二流体層(FS2)を形成する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
次の厚さ範囲:
・約10nm〜約1μm、
・約10nm〜約500nm、及び
・約10nm〜約100nm
の1つからの厚さ(D3)を有する第三流体層(FS3)が生成される、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
流体(F)が、第二基材(S2)から、少なくとも1つの別の流体バリヤーを有する少なくとも1つの別のペアの基材(S4、S5)を経て、第三基材(S3)上へ転移される、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
第三流体層(FS3)が、第三基材(S3)から本質的に完全にかつ耐久的に、被印刷物上へ転移される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記基材(S1、S2、S3)の表面エネルギー(γS1、γS2、γS3)の相対的な調節が、次の方法:
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)について異なる材料の使用、
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)について異なる材料混合物の使用、
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)について異なるナノ粒子の使用、
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)について異なる吸着質の使用、
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)の温度の変動、
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)上の電位の変動、
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)の電磁放射線での処理、
・少なくとも2つの基材(S1、S2、S3)の粒子線での処理
の少なくとも1つの使用下に行われる、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記基材(S1、S2、S3)上の前記流体(F)の表面エネルギー(γF1、γF2、γF3)の相対的な調節が、次の方法:
・前記流体(F)の溶剤含量の変動、
・前記流体(F)の温度の変動、
・前記流体(F)のpH値の変動、
・前記流体(F)への、その表面エネルギーを変更する少なくとも1つの反応性の化学物質の添加、及び
・前記流体(F)への、その表面エネルギーを変更する少なくとも1つの非反応性の化学物質の添加
の少なくとも1つの使用下に行われる、請求項3記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−206767(P2011−206767A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70126(P2011−70126)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(390009232)ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト (347)
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten−Anlage 52−60, Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】