説明

シグナルロータ

【課題】シグナルロータを用いた回転角度の検出精度を向上する。
【解決手段】クランク角度検出器11は、クランク軸10に固定されたシグナルロータ12と、電磁誘導方式のピックアップコイル13とから構成されている。シグナルロータ12の外周縁には複数の歯部14が設けられている。隣り合う歯部14の間にはガイド凹部18がシグナルロータ12の半径方向に深くなるように設けられている。ガイド凹部18には歯底体22がシグナルロータ12の半径方向へスライド可能に収容されている。ガイド凹部18の底壁面21と歯底体22との間には引っ張りばね23が介在されている。引っ張りばね23は、歯底体22を底壁面21に向けて引っ張っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の歯部を有するシグナルロータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示のように、内燃機関では、クランク軸に取り付けられた磁性体製のNEセンサプレート(シグナルロータ)と(NEセンサ)マグネットピックアップコイルとを組み合わせてクランク角度を検出するクランク角度センサが用いられる場合がある。
【0003】
特許文献1に開示の回転数検出装置では、シグナルロータの外周が楕円形状にしてあり、楕円形状の外周に複数の歯部が設けられている。シグナルロータの外周を楕円形状にした構成では、内燃機関の1回転内の加速するタイミング周辺でシグナルロータの歯部とマグネットピックアップコイルとの距離が遠くなり、内燃機関の1回転内の減速するタイミング周辺でシグナルロータの歯部とマグネットピックアップコイルとの距離が近くなる。つまり、シグナルロータの外周を楕円形状にした構成は、エンジン1回転内の加減速によるマグネットピックアップコイルからの出力電圧の変動を抑制する。
【特許文献1】特開2006-90208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン回転数が高くなるほど、マグネットピックアップコイルからの出力電圧が大きくなる。そのため、出力電圧が基準値以上となったタイミングを基にしてシグナルロータの歯部の検出タイミング情報を得たとしても、この検出タイミングがエンジン回転数によって異なってしまう。つまり、或るクランク角度の検出タイミングが或るエンジン回転数では本来の検出タイミングに一致(検出されたクランク角度が本来のクランク角度に一致)したとしても、前記クランク角度の検出タイミングが別のエンジン回転数では本来の検出タイミングから外れてしまう(検出されたクランク角度が本来のクランク角度に一致しない)という不都合が生じる。この不都合は、特許文献1に開示の回転数検出装置によっては解消できない。
【0005】
本発明は、シグナルロータを用いた回転角度の検出精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の歯部を有するシグナルロータを対象とし、請求項1の発明は、前記シグナルロータの回転変動に伴って前記シグナルロータの半径方向へ移動可能に隣り合う前記歯部の間に設けられた歯底体と、前記歯底体が前記シグナルロータの中心側から外周側へ遠ざかるほど大きくなる引き戻し力を前記歯底体に付与する戻し手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
シグナルロータの回転数が高くなるほど、歯底体がシグナルロータの回転中心から遠ざかる。歯底体の位置が変わらないとすると、シグナルロータの回転数が高くなるほど、出力電圧が大きくなるが、歯部の歯先と歯底体の先端との距離が小さくなるほど、出力電圧が小さくなる。従って、シグナルロータの回転数変動に起因する出力電圧の変動が抑制される。
【0008】
好適な例では、隣り合う前記歯部の間にはガイド凹部が半径方向に深くなるように設けられており、前記歯底体は、前記半径方向へスライド可能に前記ガイド凹部に嵌合されている。
【0009】
歯底体を半径方向へスライドさせる構成は、歯底体を支持しつつシグナルロータの回転変動に伴って半径方向へ移動可能とする上で、簡便な構成である。
好適な例では、前記戻し手段は、ばね手段である。
【0010】
ばね手段は、戻し手段として簡便な手段である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、シグナルロータを用いた回転角度の検出精度を向上できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1(a)は、内燃機関のクランク軸10の回転角度(クランク角度)を検出するクランク角度検出器11を示す。クランク角度検出器11は、クランク軸10に固定されたシグナルロータ12と、電磁誘導方式のピックアップコイル13とから構成されている。シグナルロータ12は、クランク軸10と一体的に回転する。シグナルロータ12の外周縁には複数の歯部14が配列されている。ピックアップコイル13は、シグナルロータ12の回転に伴って、電圧信号を出力する。ピックアップコイル13から出力された電圧信号は、波形整形部15へ送られる。波形整形部15は、ピックアップコイル13から送られてきた電圧信号を矩形形状の波形に整形して制御コンピュータCへ出力する。
【0013】
図1(b)のグラフにおける波形E1は、ピックアップコイル13から送られてきた電圧信号を示し、直線Dは、基準電圧値を示す。波形E1の電圧値が基準電圧値になったタイミングとその後に零電圧になったタイミングとの間の範囲の波形E1の部分が矩形形状の波形S1に整形され、波形E1の電圧値が零電圧になったタイミングとその後に基準電圧値に達する直前の範囲の波形E1の部分が零に整形される。制御コンピュータCは、矩形形状の波形に基づいて、回転角度(クランク角度)を把握する。
【0014】
図2に示すように、シグナルロータ12の両側の端面には円板形状のカバー16,17が接合されている。
図1(a)及び図3に示すように、隣り合う歯部14の間にはガイド凹部18がシグナルロータ12の半径方向に深くなるように設けられている。ガイド凹部18は、対向する一対の側壁面19,20と、底壁面21とにより形成されている。側壁面19,20は、底壁面21に連なる幅狭面191,201と、幅広面192,202と、幅狭面191,201と幅広面192,202との間の段差193,203とからなる。対向する幅狭面191,201は、互いに平行であり、対向する幅広面192,202は、互いに平行である。幅広面192,202間の幅広凹部182は、幅狭面191,201間の幅狭凹部181よりも幅広である。円板形状のカバー16,17は、幅狭面191,201間の幅狭凹部181の全体と、幅広面192,202間の幅広凹部182の一部とをカバーしている。
【0015】
幅広面192,202間の幅広凹部182には磁性体の直方体形状の歯底体22がシグナルロータ12の半径方向へスライド可能に収容されている。歯底体22の側面222は、側壁面19の幅広面192に摺接し、歯底体22の側面223は、側壁面20の幅広面202に摺接する。歯底体22の厚みは、歯部14の厚みt〔図2に図示〕と同じにしてある。歯底体22と底壁面21との間には引っ張りばね23が介在されている。引っ張りばね23は、歯底体22を底壁面21に向けて引っ張っている。引っ張りばね23は、歯底体22がシグナルロータ12の中心側(回転中心101側)から外周側へ遠ざかるほど大きくなる引き戻し力を歯底体22に付与する戻し手段としてのばね手段である。
【0016】
図4は、シグナルロータ12が回転していないときの状態を示す。この状態では、歯底体22が引っ張りばね23のばね力によって段差193,203に当接している。図3は、シグナルロータ12が回転しているときの状態を示す。この状態では、歯底体22が遠心力によって回転中心101から遠ざかる方向に付勢されており、歯底体22は、引っ張りばね23のばね力に抗して段差193,203から離れた位置にある。つまり、シグナルロータ12が回転すると、シグナルロータ12の半径方向における歯底体22の位置がシグナルロータ12の回転数に応じて変化する。シグナルロータ12の回転数が高くなるほど、歯底体22に作用する遠心力が大きくなり、歯底体22がシグナルロータ12の回転中心101から遠ざかる。隣り合う歯部14の間に設けられた歯底体22は、シグナルロータ12の回転数変動に伴ってシグナルロータ12の半径方向へ移動可能である。
【0017】
シグナルロータ12の回転数が高くなるほど、歯底体22は段差193,203から遠くへ離れ、歯部14の歯先141と歯底体22の先端221との距離が短くなる。つまり、シグナルロータ12の回転数が高くなるほど、歯底体22とピックアップコイル13との距離が短くなる。
【0018】
第1の実施形態では以下のような効果が得られる。
(1)歯底体22の位置が変わらないとすると、シグナルロータ12の回転数が高くなるほど、ピックアップコイル13から出力される出力電圧が大きくなる。図1(b)における波形E2は、波形E1が得られたときの歯底体22の位置を変えない状態でシグナルロータ12の回転数が波形E1の場合よりも高くなった場合の一例を示す。波形S2は、波形E2に対応して整形された矩形波形を示す。シグナルロータ12の回転数が高くなるほど、出力電圧の振幅が大きくなる。
【0019】
しかし、歯底体22は、シグナルロータ12の回転数変動によってシグナルロータ12の半径方向へ移動し、シグナルロータ12の回転数が高くなるほど、歯部14の歯先141と歯底体22の先端221との距離が小さくなる。ピックアップコイル13から出力される出力電圧は、歯部14の歯先141と歯底体22の先端221との距離が小さくなるほど、小さくなる。従って、シグナルロータ12の回転数変動に起因する出力電圧の変動が抑制される。その結果、シグナルロータ12を用いた回転角度の検出精度が向上する。
【0020】
(2)歯底体22は、隣り合う歯部14の間にシグナルロータ12の半径方向に深くなるように設けられたガイド凹部18にスライド可能に嵌合されている。歯底体22をシグナルロータ12の半径方向へスライド可能に嵌合した構成は、歯底体22を支持しつつシグナルロータ12の回転数変動に伴ってシグナルロータ12の半径方向へ移動可能とする上で、簡便な構成である。
【0021】
(3)歯底体22の位置が変わらないとすると、シグナルロータ12の回転数が高くなるほど、ピックアップコイル13から出力される出力電圧が大きくなり、出力電圧が制御コンピュータCにおける耐電圧限界を超えるおそれがある。本実施形態では、引っ張りばね23のばね定数を適宜設定することによって、ピックアップコイル13から出力される出力電圧の最大電圧を制御コンピュータCにおける耐電圧限界よりも小さくすることができる。
【0022】
(4)歯底体22は、遠心力と引っ張りばね23のばね力とがバランスする位置に配置され、シグナルロータ12が回転しなくなると(遠心力が零になると)、歯底体22は、引っ張りばね23のばね力によって段差193,203に当接する位置に引き戻される。引っ張りばね23は、遠心力に対抗して歯底体22を回転中心101側へ戻そうとする戻し手段として簡便な手段である。
【0023】
次に、図5の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
歯底体22は、互いに平行な側壁面19A,20A間のガイド凹部18Aにスライド可能に収容されている。歯底体22の端面にはガイドフック24が止着されており、シグナルロータ12の端面には一対のガイドフック25が止着されている。各ガイドフック24,25には押さえ紐26が掛け渡されており、一対のガイドフック25の間の押さえ紐26は、引っ張りばね27によって回転中心101に向けて引き寄せられている。引っ張りばね27のばね力は、押さえ紐26を介してガイドフック24に作用し、歯底体22が回転中心101に向けて付勢される。押さえ紐26及び引っ張りばね27は、歯底体22がシグナルロータ12の中心側(回転中心101側)から外周側へ遠ざかるほど大きくなる引き戻し力を歯底体22に付与する戻し手段を構成する。
【0024】
鎖線で示す歯底体22の位置は、シグナルロータ12が回転していないときの位置であり、実線で示す歯底体22の位置は、シグナルロータ12が回転しているときの位置を示す。シグナルロータ12が回転していないときには、歯底体22がガイド凹部18の底壁面183に接する。シグナルロータ12が回転しているときには、歯底体22がガイド凹部18の底壁面183から離れる。
【0025】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られる。又、第2の実施形態では、引っ張りばね27が1つで済むため、構成が第1の実施形態に比べて簡素になる。
次に、図6の第3の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
【0026】
ガイド凹部18Bの側壁面19B,20Bにはガイド溝194,204が形成されており、歯底体22の側面には突部224,225が形成されている。突部224は、ガイド溝194に入り込んでおり、突部225は、ガイド溝204に入り込んでいる。ガイド溝194,204には圧縮ばね28が入り込んでおり、圧縮ばね28は、突部224,225を回転中心101に向けて付勢している。圧縮ばね28は、歯底体22がシグナルロータ12の中心側(回転中心101側)から外周側へ遠ざかるほど大きくなる押し戻し力を歯底体22に付与する戻し手段としてのばね手段である。
【0027】
歯底体22の位置は、シグナルロータ12が回転しているときの位置を示し、歯底体22は、ガイド凹部18の底壁面183から離れている。シグナルロータ12が回転していないときには、歯底体22がガイド凹部18Bの底壁面183に接する。
【0028】
第3の実施形態では、第1の実施形態における(1)〜(3)項と同様の効果が得られる上、以下の効果が得られる。
(5)歯底体22は、遠心力と圧縮ばね28のばね力とがバランスする位置に配置され、シグナルロータ12が回転しなくなると(遠心力が零になると)、歯底体22は、圧縮ばね28のばね力によって底壁面183に当接する位置に押し戻される。圧縮ばね28は、遠心力に対抗して歯底体22を回転中心101側へ戻そうとする戻し手段として簡便な手段である。
【0029】
(6)第1の実施形態におけるカバー16,17はないが、歯底体22は、クランク軸10の軸方向へガイド凹部18Bから外れない。第4の実施形態では、第1の実施形態におけるカバー16,17が不要になる。
【0030】
本発明では、以下のような実施形態も可能である。
○特許文献1に開示の欠歯部を備えたシグナルロータに本発明を適用してもよい。
前記した実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0031】
〔1〕前記ばね手段は、前記歯底体を前記ガイド凹部の底(底壁面)に向けて引き寄せる引っ張りばねである請求項3に記載のシグナルロータ。
〔2〕前記ばね手段は、前記歯底体を前記ガイド凹部の底(底壁面)に向けて押す圧縮ばねである請求項3に記載のシグナルロータ。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態を示し、(a)は、シグナルロータを示す一部破断図。(b)は、グラフ。
【図2】シグナルロータの側面図。
【図3】部分拡大断面図。
【図4】部分拡大断面図。
【図5】第2の実施形態を示す部分拡大断面図。
【図6】第3の実施形態を示す部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0033】
101…回転中心。12…シグナルロータ。14…歯部。18,18A,18B…ガイド凹部。22…歯底体。23…戻し手段であるばね手段としての引っ張りばね。26…戻し手段を構成する押さえ紐。27…戻し手段を構成するばね手段としての引っ張りばね。28…戻し手段であるばね手段としての圧縮ばね。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯部を有するシグナルロータにおいて、
前記シグナルロータの回転変動に伴って前記シグナルロータの半径方向へ移動可能に隣り合う前記歯部の間に設けられた歯底体と、
前記歯底体が前記シグナルロータの中心側から外周側へ遠ざかるほど大きくなる戻し力を前記歯底体に付与する戻し手段とを備えているシグナルロータ。
【請求項2】
隣り合う前記歯部の間にはガイド凹部が前記半径方向に深くなるように設けられており、前記歯底体は、半径方向へスライド可能に前記ガイド凹部に嵌合されている請求項1に記載のシグナルロータ。
【請求項3】
前記戻し手段は、ばね手段である請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載のシグナルロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−133738(P2009−133738A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310465(P2007−310465)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】