説明

システムの最適制御方法

【課題】予見不可能な時変目標値に追従する有限評価区間の非線形最適制御問題の制御則を導くことが課題である.
【解決手段】Receding Horizon制御を用いた非線形最適制御問題の近似解法を開発し,非線形システムの実時間制御に適用できる一般的手法を導いた.
具体例としてRR車の旋回限界域におけるDYCの目標横すべり角追従制御に適用した結果、一般的な比例制御に比べ追従性(応答性と収束性とも)が大幅に向上できることを確認した.また旋回限界域においてもニュートラルステア特性を実現できることを明らかにした.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として機械力学系システムの実時間最適制御方法に関する.線形、非線形を問わず広範囲のシステムに適用できる.
【背景技術】
【0002】
システムの状態量を目標値に追従させる最適制御は,システムが線形の場合については土谷らの提案による手法があるものの(非特許文献1),非線形システムで有限評価区間の時変目標値に追従させる最適制御則を解析的に求める困難である.
例えば、近年、車両の運動を制駆動力でアクティブに制御するDYC(Direct Yaw Moment Control)が普及している.しかし今までのDYCの研究や実用化されたシステムでは、タイヤの限界を検知してタイヤの作動状況を限界域の内側に入れ込む制御が広く行われている(例えば、非特許文献2,3参照).車両の運動性能を高めるという目的からは,図2のタイヤの全作動域で安定性とコントロール性を維持させる制御法の研究は意味のあることと考えられるが,制御則の導出が困難であることから、非特許文献4を除き今までに研究例は見られない.
【0003】
非特許文献4では、この問題に対する解法の一般理論を提示し、続いて後置エンジン後輪駆動車(RR車)を題材にとり、これにDYCを搭載し制御を工夫することでダイナミックスを考慮した状態でも全駆動域ニュートラルステアを実現できることを述べている.この場合の目標値は時変かつ将来の値は予見不可能であり,さらに横すべり角が大きくなるとタイヤの非線形性が極めて強くなり,また一般の運転では評価区間は有限である.このような目標値追従を最適制御し,かつ制御則の演算負荷が小さくて実時間制御が可能なことを述べている.本発明は特許法30条の例外規定を適用し、非特許文献4の内容の一部を特許申請するものである。
【非特許文献1】土谷武士,江上正,ディジタル予見制御,(1992),26−27,産業図書.
【非特許文献2】Anton T.van Zanten,Rainer Erhardt,Georg Pfaff:VDC,The Vehicle Dynamics Control System of Bosch,SAE paper 950759(1995)
【非特許文献3】山本真規,鯉淵健,深田善樹,稲垣匠二:限界付近での車両安定性向上のためのアクティブ制動力制御,自動車技術会 学術講演会前刷集953(1995−5)
【非特許文献4】福島直人:非線形最適制御問題の近似解法と大横すべり角追従制御への適用,日本機械学会論文集(C編)Vol.72,No.713(2006),84−91.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
予見不可能な時変目標値に追従する有限評価区間の非線形最適制御問題の制御則を導くことが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
Receding Horizon制御(例えば、非特許文献5参照)をベースとした近似解法により準最適制御則を導く手法を提案する.まず一般論を述べ,次に車両の運動制御装置としてDYCをRR車に搭載した状態を想定,旋回駆動時のニュートラルステア特性を維持する制御に適用する.この結果,制御が極めて難しい状況である旋回限界域における車両の横すべり角制御を可能にし,ほぼ狙い通りの性能を実現できることをシミュレーションにより確認する.
【0006】
最小化すべき評価関数を時間軸を移動する有限評価区間Tで定義した,Receding Horizon制御による最適制御則を導く.仮想時間τ(0≦τ≦T)を導入して,目標値追従方式の非線形最適制御問題を記述する.こうすると状態変数と制御入力のτ=0における初期値は実時間軸上の状態変数x(t),制御入力u(t)になる.
非線形システムのτに関する状態方程式を式(1)とし、最小化すべき評価関数を式(2)とする.

ここでx(τ,t)∈R,u(τ,t)∈Rはτ軸上で定義された状態変数と制御入力である.f

値で予見はできないものとする.式(2)を最小化する制御則を求めることが制御問題となる.
【0007】
次に最適制御則の導出法を述べる。評価区間Tを十分小さくとれば,式(1)は次のように線形化される.

ここで,ヤコビアンf(t),f(t)とf(t)は次式で定義される.


【数式6】
(t)=f(x(t),u(t))−f(t)x(t)−f(t)u(t)
同様に,評価区間Tを十分小さくとれば,この区間内では式(2)は次のように近似できる.以下,近似の場合は右肩に*印をつけて識別する.

ここで.区間0≦τ≦Tにおけるx(t),x(T,t),u(t),u(T,t)について考える.
まず,Receding Horizon制御であるからx(t)はτ=0における状態量の初期値として与えられる.一般にgが2次形式で与えられれば,最適性の原理(例えば、非特許文献6参照)より明らかに,u(T,t)=0である.
従って,図1のイメージ図に示すように,白丸が未知,黒丸が既知という関係になり,Jを最小化する問題は白丸で示したx(T,t)とu(t)を求める2点境界値問題になる.ここで図1においてu(τ,t)の変化を直線で近似すると,

と記述できる.この近似もTが十分小さければ許容される.このような近似により2点境界値問題を初期値問題に転換できる.式(8)を式(3)に代入してこれをτについて解いてx(τ,t)を求め,これよりx(T,t)をu(t)の関数として求めることができる.従って式(7)のJ(t)がu(t)の関数として定まる.J(t)を最小化する条件は次式から求まる.

ここで,式(7)のx(T,t),u(t)をx(T,t),u(t)でおきかえたものをあらためてJ(t)としている.これより,準最適制御則uopt(t)が得られる.ただし,制御装置は計測された状態量からヤコビアンf(t),f(t)とf(t)を算出する手段を有するものとする.本手法のような有限時間評価関数の最適化では,閉ループ系が有限時間発散系でないかぎり制御則は意味を持つ.従って得られる制御則は漸近安定の保証はないが,制御目的に合致した適切な評価関数を設定すれば,考えられる可能性の中のベストな制御則になっているということは保証される.
以上が一般論であり,次章への繋がりを考慮してgの変数に目標値が含まれることを前提に述べてきたが,目標値を含まない形であってもここまでの議論は適用できる.
【0008】
次に、上記一般論をDYC制御への適用しシミュレーションで確認する手法を説明する。まずこのためのシミュレーションモデルについて最初に説明する.
DYCの性能を評価するためには,車輪の運動を考慮して前後力を表現する必要があり,この目的のためにはブラシモデル(例えば、非特許文献7参照)が適している.今回の車両モデルのリアタイヤの計算例を図2に示す.
図2の特性は,横すべり角βをパラメータとして横力は2価関数の形になっているが,横力,前後力はβとスリップ比γと荷重をパラメータとしているため,βとγと荷重が定まると一意的に定まる.いずれにしても,旋回限界域におけるタイヤの状態は図2の円周付近にあり車両の運動制御の視点からみると極めて制御が難しい状況であることがわかる.このため,走行安全性を狙ったDYCの研究や実用化されたシステムではβとγを限界域の内側に入れ込む制御が広く行われている(前述の非特許文献2,3参照).車両の運動性能を高めるという目的からは,図2のタイヤの全作動域で安定性とコントロール性を維持させる制御法の研究は意味のあることと考えられるが,今までに研究例は見られない.
車両モデルは図3に示すような車体3自由度,各輪1自由度,計7自由度モデルとした.

各輪の回転1自由度モデルは線形で特に新しさはないため,ここでは記述を省略する.各輪のタイヤ発生力Fxi,Fyiは各輪のβ,γと輪荷重からブラシモデルを用いて計算される.各輪荷重は車両の前後,横加速度から計算される.
DYCによる性能向上ポテンシャルが高いRR車の諸元を用いて具体的なDYC制御法を検討する.表1に使用したRR(後置きエンジン後輪駆動)スポーツカーの諸元を示す.
DYCモデルは,図4のようなモータで直接左右輪に互いに逆相のトルクを発生させる左右駆動力配分方式のDYCを想定する.各センサからの信号がコントローラに送られ,この出力信号でデフに組み込まれた油圧モータが駆動される.
モータトルクは左右駆動軸に互いに逆相で伝達され,エンジンによる駆動トルクに加算される.このモータトルクが,図4(b)に示すように左右タイヤに互いに逆方向の制駆動力を発生させヨーモーメントを生じさせている.モータへのトルク指令値および出カトルクをTとすると,これによる左右輪の駆動力はそれぞれ−T/r,T/rになる.これによる車両に加わる制御ヨーモーメントは,M=Ttr/rとなる.ただしrはタイヤ動半径である.
【表1】
【0009】
続いて、制御則導出のための車両モデルの簡略化方法について述べる。図2,3に示したタイヤ・車両モデルは複雑で非線形であるが,Receding Horizon制御の評価区間Tが小さければ,この区間の中では前後車体速度Vは他の二つの状態変数に比べ変動率が小さいので定数とみなすことができる.このため,モデルを線形化できて近似解法により準最適制御則を求めることができる.

ここで,F=Fy1+Fy2,F=Fy3+Fy4,Mは各輪の制駆動力によるヨーモーメントである.
これを図示すると図5のように簡略化されたモデルになる.
さらに評価区間T内では.スリップ比γと各輪荷重もほぼ一定,横すべり角βは変数であるが変動幅は小さいとみなすことができるため,タイヤ横力特性を図6のように線形化することができる.スリップ比γと輪荷重が定まると一つの特性曲線が定まる.横すべり角βの変動幅は小さいと作動点は図中のA点近傍で変動するため,タイヤの横力特性は次のようにβに関して線形化表示できる.

化するが評価区間T内では定数とみなすことができる.
続いて、ヤコビアンf(t),f(t)およびfの算出法を述べる。線形近似したモデルのパラメータは実時間では刻々変化するが,評価区間0≦τ≦Tの間では,定数とみなしてf(t),f(t)およびfを求めることができる.
計測される車両状態量と前後・横加速度から,まずF,F,C,Cを推定する.ヨ

速度から計算される.横速度Vは計測もしくは他の計測データから推定されるものとする.以上のデータが制御演算装置に入力される.制御演算装置は前後輪ともブラシモデルを2ヶ有し,その1つには各輪荷重,各輪横すべり角,各輪スリップ比のデータを

=C+Cとして求める.F=Fy1+Fy2,F=Fy3+Fy4として,F,Fは式(22),(23)から逆算する.
式(20)のMは各輪の制駆動力によるヨーモーメントでありこの場合は制御入力になる.よって,
【数式24】
=u(t)

ここで,

非特許文献(8)では,エンジンからの駆動力を2Fとすると,図7のような制御により,図8のように前後の横すべり角がほぼ同じ値になってニュートラルステアを維持した状態で静的にバランスすることを示した.比較参考のためFR車の結果も表示している.
しかしながら,これを動的に実現するための制御法の検討は未着手であったため,本論文にて提案する手法を適用して評価を行う.
【0010】
次に、DYC制御問題の定式化と準最適制御則の導出法を述べる。タイヤの限界横力付近で定常旋回中(舵角固定,車速80Km/h,旋回半径60m)に1.0secの立ち上がり時間で4速フルスロットル相当の駆動力(推進軸トルク400Nm,駆動力2.3KN/1輪)を加えて加速し,その後の1.0secの時間でスロットルをもとに戻した後,一定駆動力を保持する.
状態量毎に目標値を与える.車両の横すべり角の目標値については,図8に示す横すべり角と駆動力の関係を実現するように設定する.このように大きな目標横すべり角に追従制御することはかなり難しい部類の問題であり、単純な比例制御では実現困難と予想される.
の目標値を次式で与えた.

[rad/N]とした.Fはドライバが与える駆動力であるから,この問題の目標値はドライバから刻々与えられることになり予見はできない.
また,車両がニュートラルを維持し,外側に膨れたり(アンダステア)内側に回り込んだり(オーバステア)しないようにする目的から,初期のヨーレートを維持するように目標ヨーレートを設定した.

ここで,車速80Km/h,旋回半径60mの初期条件より,K=0.37 rad/secとした.
式(2)の被積分関数gを次式で与える.今回のような制御対象の自由度に対して独立した制御の数が少ない場合は,次式のようにgにuを入れなくても評価関数は凸性を持つ.

式(7)のReceding Horizon制御形式の評価関数は次式になる.

制御問題は,時刻tにおける状態x(t)を初期値として,式(29)の評価関数を最小にする準最適制御則uopt(t)を導けということになる.
opt(t)を求めるため,2.2節の手順に従いまずx(T,t)を求める.式(3)の一般解は次式で与えられる.

制御では計測されたx(t)がこの値になる.
式(8)を式(30)のu(τ′,t)のに代入しx(T,t)を求める.

式(31)を式(29)に代入し,最適条件式(9)を適用しその解をuopt(t)とすれば,

ここで,

T=0.4secとした.
今回のように評価関数がuを陽に含まないケースでも,最適性の原理からu(T,t)=0が成立するのかという疑問が残るため,この点を明らかにする.仮に本論文において,式(29)の評価関数にTRu/2を加えて2次形式とした場合は,式(32)の分母はS+S+RとなるだけでありR→0の極限値を考えることにより,R=0の場合においても最適性の原理からu(T,t)=0の成立が確認できる.
以上で準最適制御則が定まった.次章に述べるシミュレーションにより,制御効果を評価する.比較のため,次式で表される比例制御則u(t)についてもシミュレーションを行った.

ここで,K,Kは式(32)における対応するゲインを考慮し,かつ制御入力の大きさが同程度になるように,K=29.0,K=−154.0とした.
今回は,目標値を式(26),(27)のように旋回状態に限定して定めたが,本手法の制御則導出のプロセスから明らかなように制御則は式(32)のままで目標値を任意設定できる.従ってより広い走行条件における目標性能に合わせて目標値を設定すれば適用域を拡大することができる.
【非特許文献5】大塚敏之,非線形最適フィードバック制御のための実時間最適化手法,計測と制御,36−11(1997),776−781.
【非特許文献6】高橋安人,システムと制御(下),(1978),456,岩波書店.
【非特許文献7】安部正人,自動車の運動と制御,30−36,山海堂.
【非特許文献8】福島直人,車両の超旋回限界域におけるDYC制御法に関する研究,(第2報,後置エンジン後輪駆動車への適用),日本機械学会論文集(C偏),Vol.71,No.705(2005),171−178.
【発明の効果】
【0011】
前述の走行条件によるシミュレーションを行う.0.5<t<1.5secの間で駆動力を増加させ,1.5<t<2.5secの間で戻している.MATLAB/SIMULINKを使用し10−3secの固定ステップで4sec間のシミュレーションを行った.
シミュレーション結果を図9〜17に示す.
図9は車両軌跡を示す.制御なしでは4速フルスロットル相当の駆動力を加えたことによりアンダステアが顕著になり軌跡が外に膨れる.これに対し比例制御u(t)ではアンダステアを低減する効果はあるがやはり外に膨れている.準最適制御uopt(t)ではほぼ旋回半径60mを維持しニュートラルステアが保たれていることがわかる.
ステア特性の変化を見るのに次のような指数αを導入した.

ここでβは各輪の横すべり角である.αが正の値なら前輪の横すべり角が大きくアンダステア,αが負なら後輪の横すべり角が大きくオーバステアになる.
図10は各条件でαの変化の様子を調べたものである.制御なしは駆動力が増した0.5<t<2.5secの間でアンダが増しその後の復元性も悪い.準最適制御はαの値が最も小さく抑えられておりニュートラルステアに近い状態が維持されている.比例制御も最初のうちはαの値が小さく抑えられているが制御の遅れがあるため図12に示すようにヨーレートにオーバシュートが生じこれが急激なアンダステアとなって現れる.
図11は次式で定義されるタイヤ発生力指数の比較を示す.

は旋回におけるタイヤの有効活用度合いを表し,この値が大きいほど装着したタイヤのポテンシャルを引き出していると見ることができる.この評価をみても準最適制御が最も優れていることがわかる.
図12は,目標ヨーレートに対する追従性を示す.制御なしは目標横すべり角に追従しないためヨーレート変化は小さい.逆に目標横すべり角に追従するように制御するとどうしてもヨーレート変化が生じるが,準最適制御は比例制御に比べヨーレートの変動幅が小さいことがわかる.
図13は横すべり角についての追従性を比較したものである.目標値はドライバが意図した駆動力に応じて図の細い実線のように変化する.当然のことながら,制御なしは全く追従しない準最適制御は比例制御に比べ遅れが少なくオーバーシュートもなく収束が早いことがわかる.
図14は.準最適制御則と比例制御則の指令値をDYCのモータトルクに換算して示している.これより比例制御に比べ準最適制御は遅れが改善されていることが分かる.指令値の大きさも0.5kNm以下であり過大すぎず現実的なレベルに収まっている.
以上により,準最適制御が比例制御に比べて優れていることが明らかになった.式(32),(33)の比較から推測できるように,第一の要因は比例制御では定数であった制御ゲインが,準最適制御では図15に示すように車両の状況に応じて変化することによる.制御ゲインが低下する0.5<t<3.5secの間は横すべり角が増大して車両の復元性が低下しており,安定性を確保する必要性からゲインが低下しているものと考えられる.第二の要因は,準最適制御では目標値と比較する量をV(t),V(t)としており,式(32)の補足式から明らかなようにこれらは制御が無い場合のTsec先の状態量であることである.図16に示すように、状態量x(t),x(t)と比較すれば,この予測的制御により遅れが補償されていることがわかる.
一般に旋回中は後内輪荷重が減るため,DYCによって後内輪に過大な制御力を加えると空転が生じこれが性能面での拘束になっているが,RR車で大横すべり角制御を行えば後内輪のこの問題は生じない.これを確認したのが図17に示す後輪のスリップ比の結果である.旋回駆動時の後内輪のスリップ比γは最大0.3になるもののほとんどの時間帯で0.1以下に収まっていることがわかる.ここでスリップ比γとは各輪が取り付けられている部位での車体前後速度に対する各輪のスリップ速度の比である.
以上により,本手法による車両の大横すべり角制御が可能であることが確認できた.
【発明を実施するための形態】
【0012】
性能向上ポテンシャルが高いRR車にDYCを搭載した状況を図4に示す.操舵角センサ1、ヨーレートセンサ4、車体の前後横加速度を検出するGセンサ5および各車輪速センサ6からの信号と、エンジンコントローラ2からのスロットル角信号3がDYCコントローラ7に入る.デファレンシャルケースの中には油圧ユニット8が配置されている.油圧ユニットは、油圧モータ9、ポンプ10、制御バルブ11から成り、油圧モータで発生したトルクは差動ギア12を介して左右輪に互いに逆相のトルクとして伝達される.当然のことながら、これらのトルクとエンジンからの駆動トルクは合算され加算された最終トルクがタイヤ駆動力になっている.
左右駆動軸に互いに逆相で伝達された油圧モータトルクが,図4(b)に示すように左右タイヤに互いに逆方向の制駆動力を発生させヨーモーメントを生じさせている.モータへのトルク指令値および出力トルクをTとすると,これによる左右輪の駆動力はそれぞれ−T/r,T/rになる.これによる車両に加わる制御ヨーモーメントは,M=Ttr/rとなる.ただしrはタイヤ動半径である.
【産業上の利用可能性】
【0013】
本制御手法は、非線形なシステムを実時間で制御する場合に優れた効果を発揮するため、車両の運動制御だけでなく、ロボットの制御など広く産業界で利用される可能性が高い.
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本制御手法の概念図
【図2】ブラシモデルを用いたタイヤ特性図
【図3】車両モデル図
【図4】DYCシステムの構成図
【図5】簡易車両モデル図
【図6】タイヤ特性の線形化説明図
【図7】非特許文献8の制御信号説明図
【図8】非特許文献8の横すべり角特性図
【図9】シミュレーション結果(車両軌跡比較)
【図10】シミュレーション結果(ステア特性変化比較)
【図11】シミュレーション結果(タイヤ活用度比較)
【図12】シミュレーション結果(ヨーレート比較)
【図13】シミュレーション結果(横すべり角比較)
【図14】シミュレーション結果(制御信号比較)
【図15】シミュレーション結果(制御ゲイン)
【図16】シミュレーション結果(状態量と予測量比較)
【図17】シミュレーション結果(後輪スリップ比)
【符号の説明】
【0015】
1.操舵角センサ
2.エンジンコントローラ
3.スロットル角信号
4.ヨーレートセンサ
5.Gセンサ
6.車輪速センサ
7.DYCコントローラ
8.油圧ユニット
9.油圧モータ
10.ポンプ
11.制御バルブ
12.差動ギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップで求めた制御則を一部に含むことを特徴とするシステムの最適制御方法.
非線形制御システムと最小化すべき評価関数を、現在の時間をt、仮想時間をτとしたReceding Horizon制御問題として記述し、非線形システムの状態方程式を式(101),最小化すべき評価関数を式(102)とする.

ここでx(τ,t)∈R,u(τ,t)∈Rは仮想時間τ軸上で定義された状態変数と制御入力

られる目標値、Tを評価区間とする.
式(101)を次のように線形化する.

ここで,ヤコビアンf(t),f(t)とf(t)は次式で定義される.

[数式106]f(t)=f(x(t),u(t))−f(t)x(t)−f(t)u(t)
同様に,式(102)を次のように近似する.以下,近似の場合は右肩に*印をつけて識別する.

x(t)はτ=0における状態量の初期値として与えられる.ここでu(τ,t)の変化を次の直線で近似する。

式(108)を式(103)に代入してこれをτについて解いてx(τ,t)を求め,これよりx(T,t)をu(t)の関数として求めることで、式(107)のJ(t)をu(t)の関数として求める.J(t)を最小化する準最適制御則を次式から求める.

ここで,式(107)のx(T,t),u(t)をx(T,t),u(t)でおきかえたものをあらためてJ(t)としている.式(109)の偏微分の結果から準最適制御則uopt(t)を代数演算により求める.ここで,制御装置は計測された状態量からヤコビアンf(t),f(t)とf(t)を算出する手段を有する.
【請求項2】
請求項1において、全体の一部を横成する最適制御則は以下ステップで求めた式(115)であることを特徴とする車両の制御方法.
非線形制御システムを、左右輪の駆動力制御装置付きの車両とし、車両の状態方程式を次のように線形化する。

ここで,

はヨーレート、xは横すべり速度である.Mは車両質量、Iはヨー慣性モーメント、

は各々前後輪タイヤの各作動点における横すべり角の微小変化に対する横力の変化の比率、δは前輪舵角、F,Fは各々前後輪タイヤの各作動点における特性を線形近似した時の横すべり角ゼロにおける横力の値であり、式(103)との対応は次式となる.

評価関数を、式(111)とする.

式(107)のReceding Horizon制御形式の評価関数は次式になる.

式(103)の一般解は次式で与えられる.

制御では計測されたx(t)がこの値になる.
式(108)を式(113)のu(τ′,t)のに代入しx(T,t)を求める.

式(114)を式(112)に代入し,最適条件式(109)を適用すればその解uopt(t)が次のように求まる.

である.

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−334843(P2007−334843A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187190(P2006−187190)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年1月25日 社団法人 日本機械学会発行の「日本機械学会論文集 第72巻、第713号」に発表
【出願人】(504088968)
【Fターム(参考)】