説明

シミュレーション装置

【課題】シミュレーション演算部から出力される模擬信号の状態にかかわらず、エンジン制御装置の動作を確実にモニタできるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】エンジンを模擬してエンジンの状態を表すエンジン状態信号をエンジン制御装置7に出力するシミュレーション演算部(モデル演算部)2と、エンジン制御装置から入力されるエンジン制御信号を計測して当該エンジン制御信号に基づく計測データを出力する信号計測部3とを備えてなるシミュレーション装置であって、信号計測部3は、シミュレーション演算部2が模擬しているエンジンの回転状態が正回転状態である場合には、計測したエンジン制御信号に基づく計測データを出力し、シミュレーション演算部2が模擬しているエンジンの回転状態が停止状態と逆回転状態の少なくとも一方である場合には、予め設定された擬似計測データを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象を模擬して制御装置に模擬信号を出力するモデル演算部と、前記模擬信号に応答して前記制御装置から入力される制御信号を検出して当該制御信号の計測データを出力する信号計測部とを備えてなるシミュレーション装置に関し、詳しくは、エンジンを模擬してエンジンの状態を表すエンジン状態信号をエンジン制御装置に出力するシミュレーション演算部と、前記エンジン制御装置から入力されるエンジン制御信号を計測して当該エンジン制御信号に基づく計測データを出力する信号計測部とを備えてなるシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において製品等の開発に要する期間やコストを削減するとともに製品等の安全性を事前検証し、或いは実際のプラントに対する運転の模擬訓練を行なうことを目的として、実際の装置やプラントにおけるメカニズムや電気的信号等の果たす役割を数式化したモデルをコンピュータに演算させて、その結果に基づいて製品等の特性を確認し、起こり得る問題を事前に解決、或いは訓練するシミュレーション装置が利用されている。
【0003】
このようなシミュレーション装置として、特許文献1には、仮想的に車両用エンジン制御装置を実車両に装着した環境を作り出し、動作確認および性能評価を行うための装置であって、予め設定されるプログラムに従って、仮想的な車両に相当する車両モデルとして動作し、クランク角度およびエンジンの各行程にそれぞれ対応する模擬信号を生成し、模擬信号を車両用エンジン制御装置に与えて動作の確認および性能評価を行うモデル用コンピュータ装置と、モデル用コンピュータ装置と協調して動作し、モデル用コンピュータ装置の車両モデルに必要な信号を発生する信号発生装置とを備えたシミュレーション装置が提案されている。
【0004】
当該シミュレーション装置では、エンジンを模擬するモデル演算部からエンジン制御装置に擬似クランクパルス信号が出力され、これに対応してエンジン制御装置から出力される燃料噴射パルスや点火パルス等の制御信号が信号計測部で計測され、当該制御信号に対応する計測データがメモリに記憶された後にモニタに出力されるように構成されており、オペレータがモニタに表示された計測データを目視してエンジン制御装置が正常動作しているか否かを判断するように構成されている。
【特許文献1】特開平11−326135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載されたシミュレーション装置の信号計測部では、模擬信号に応答してエンジン制御装置から出力された制御信号が計測された時点で当該制御信号に対する計測データがメモリ上で更新処理されるように構成されていたため、例えば、エンジン制御装置から出力された制御信号が計測されなかったときや、モデル演算部からエンジン停止に近い状態の模擬信号が出力され、エンジン制御装置から制御信号が出力されなかったときに、更新されなかったメモリの値、つまり、過去の計測データがそのまま出力されるという問題があった。
【0006】
具体的には、モデル演算部から信号計測部に入力される信号がクランクパルスを模擬した信号だけであったので、低回転状態になればそれだけパルスの入力間隔が長くなるため低回転状態と停止状態の識別が困難となり、現在のクランク角が計測タイミングとして予め設定された範囲にあれば、クランクパルス信号が入力されない停止状態やクランク角が減少方向に変化していく逆回転状態であったとしても、それらが識別されることなくメモリに記憶された過去の計測データがそのまま出力されていた。
【0007】
その結果、エンジン制御装置が正常に作動しているのか否か、適正な判断を行なうことが困難になるという問題があった。このような問題はエンジンシミュレータに限らず、任意のシミュレータでも発生していた。
【0008】
本発明の目的は、上述した従来の問題点に鑑み、モデル演算部から出力される模擬信号の状態にかかわらず、制御装置の動作を確実にモニタできるシミュレーション装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明によるシミュレーション装置の特徴構成は、エンジンを模擬してエンジンの状態を表すエンジン状態信号をエンジン制御装置に出力するシミュレーション演算部と、前記エンジン制御装置から入力されるエンジン制御信号を計測して当該エンジン制御信号に基づく計測データを出力する信号計測部とを備えてなるシミュレーション装置であって、前記信号計測部は、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が正回転状態である場合には、計測したエンジン制御信号に基づく計測データを出力し、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が停止状態と逆回転状態の少なくとも一方である場合には、予め設定された擬似計測データを出力する点にある。
【0010】
上述の構成によれば、シミュレーション演算部から出力される正回転状態の模擬信号に対して、信号計測部でエンジン制御装置からの信号が検出されたときには当該制御信号の計測データが出力され、エンジン制御装置からの信号が検出されなかったときには予め設定された擬似計測データが出力されるようになるので、エンジン制御装置からの正規の制御信号であるのか否かが極めて容易に判断できるようになる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明した通り、本発明によれば、シミュレーション演算部から出力される模擬信号の状態にかかわらず、エンジン制御装置の動作を確実にモニタできるシミュレーション装置を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明によるシミュレーション装置について説明する。図1及び図2に示すように、シミュレーション装置1は車両に搭載されるエンジン制御装置7を評価するための装置で、エンジン動作を模擬してエンジン制御装置(以下、「制御装置」と記す。)7に模擬信号を出力するシミュレーション演算部としてのモデル演算部2と、模擬信号に応答して制御装置7から入力される制御信号を計測して当該制御信号の計測データを出力する信号計測部3と、オペレータの操作に基づいてモデル演算部2及び信号計測部3の動作を制御するとともに、信号計測部3から入力される計測データに基づいて当該制御信号をモニタ表示する操作装置6を備えて構成されている。
【0013】
モデル演算部2及び信号計測部3はラック5に組み込まれた複数枚の信号処理ボードで構成されるとともに、操作装置6はパーソナルコンピュータ6a等で構成され、それらが所定周期で交信可能なようにLAN(Ethernet、ゼロックス社の登録商標)4bで接続されている。
【0014】
操作装置6は、所定のオペレーティングシステム(以下、「OS」と略記する。)の下で動作する操作及び表示用のシミュレーションプログラムがインストールされ、OSに組み込まれたGUI(Graphical User Interface)を介してオペレータが操作入力し、またはシミュレーション結果が表示されるモニタやキーボード及びマウス等の入出力機器6bが接続されている。
【0015】
当該シミュレーションプログラムが実行されることにより、シミュレーション装置1と制御装置7との間で遣り取りされる入出力信号の定義情報、モデル演算部2におけるモデル演算条件、信号計測部3における信号計測条件等のシミュレーションの環境条件を設定する環境設定部60と、信号計測部3から出力された計測データを受信してモニタに表示する計測信号表示処理部61と、モデル演算部2及び信号計測部3の動作を制御するモデル制御部62が構成される。
【0016】
上述の信号処理ボードは、メインCPUが搭載されたマザーボード5aと、マザーボード5aとPCIバスで接続された複数枚の入出力変換ボード5bと、入出力変換ボード5bと制御装置7との間で遣り取りされる入出力信号線を中継する複数枚の信号中継ボード5cを備え、信号中継ボード5cを介して制御装置7とハーネス4aで接続されている。
【0017】
マザーボード5aに搭載されたメモリにはOS及びOSに基づいて動作するシミュレーションプログラムが格納され、OSの下で当該シミュレーションプログラムが実行されることにより動作するマザーボード5a、入出力変換ボード5b、及び信号中継ボード5cにより上述のモデル演算部2及び信号計測部3が構成される。
【0018】
マザーボード5aでは、シミュレーションプログラムの一部であるエンジン動作を模擬するモデルプログラムが実行され、エンジン制御装置(以下、「制御装置」と記す。)7に出力される各種の模擬信号の「出力の有無」や「大きさ」、「周期」等の論理的な特性データが生成され、PCIバスを介して入出力変換ボード5bに出力される。つまりモデルプログラムは、入力データに基づいて所定の演算を実行して、所定の出力データを生成出力するプログラムであり、例えばエンジン回転数が入力されると、当該回転数をクランクパルス信号に変換して回転数に対応するパルス周波数データを出力し、スロットル操作データが入力されると対応するスロットル開度データを出力する等のプログラムである。
【0019】
入出力変換ボード5bにはプログラマブルな論理回路であるFPGAが搭載され、FPGAのレジスタに入力された模擬信号の特性データに基づいて物理的な模擬信号が生成される。例えば、エンジンから出力されるクランクパルス信号を模擬して模擬クランクパルス信号を出力する場合には、操作装置6から入力される回転数データに基づいてマザーボード5aで模擬クランクパルスの「出力の有無」や「大きさ」、「周期」等の論理的な特性データが生成され、入出力変換ボード5bでは、パルス生成回路等によりそれに対応したパルス信号が生成されて信号中継ボード5cに出力される。
【0020】
信号中継ボード5cには制御装置7との間の入出力信号の中継状態、つまり、信号経路や電圧レベルやインピーダンス等の信号形態を個別に切り替えるインタフェース切替部が設けられ、入出力変換ボード5bから入力される模擬クランクパルスが設定された信号経路を通り、制御装置7に対する電圧レベルやインピーダンス等が整合されて出力される。従って、インタフェース切替部には信号経路を切替設定するスイッチ回路、信号レベルを切り替えるレベル切替回路、信号をプルアップし或いはプルダウンする切替回路等が設けられている。
【0021】
また、制御装置7から出力される制御信号は、信号中継ボード5cにより電圧レベルやインピーダンス等が整合され、設定された信号経路で入出力変換ボード5bに出力され、入出力変換ボード5bに備えたクロック回路、カウンタ回路、パルス検出回路等でなる信号検出回路により当該制御信号が計測されて計測データ、つまり「出力の有無」や「大きさ」、「周期」「パルス幅」等の論理的な特性データが生成される。
【0022】
入出力変換ボード5bで生成された特性データはFPGA上のメモリにバッファリングされ、PCIバスを介してマザーボード5aに出力される。マザーボード5aでは入出力変換ボード5bから入力された当該計測データがメモリに格納され、所定周期でLANを介して操作装置6に出力される。
【0023】
操作装置6では、マザーボード5aから入力された当該計測データがメモリに格納され、格納された当該計測データの履歴に基づいてモニタに当該制御信号がトレンドグラフとして表示され、オペレータが当該制御信号を目視確認できるように構成されている。
【0024】
つまり、上述した入出力信号の定義情報とは信号中継ボード5cにおける経路情報及び信号形態の定義情報や操作装置6とモデル演算部2及び信号計測部3との間で遣り取りされるデータの定義情報等をいい、モデル演算条件とは上述したエンジン回転数データ等のモデル演算に対する入出力条件をいい、信号計測条件とは制御装置7から入力される制御信号の計測対象、サンプリングタイミング、生成される計測データの定義情報等をいう。
【0025】
このような環境設定情報がオペレータの操作入力に基づいて環境設定部6aからマザーボード5aを介して各ボード5b、5cに送信され、シミュレーション環境が整えられた後に、モデル制御部6cによりシミュレーションが実行制御され、その際に計測されたデータが計測信号表示処理部6bにより表示処理されるのである。
【0026】
以下、上述したシミュレーション装置1の動作の一例として、モデル演算部2から模擬信号であるクランクパルス信号を制御装置7に出力し、制御装置7から出力されるべき点火信号及び噴射信号を信号計測部で計測し、操作装置6に表示する動作を、図3,図7に示すフローチャート及び図4から図6に基づいて説明する。
【0027】
図3に示すように、シミュレーション装置1に電源が投入されると、OSが起動して初期設定が行なわれ、アプリケーションであるシミュレーションプログラムが起動される(SA1,SB1,SC1)。環境設定部60により操作装置6の表示部に環境設定画面が表示され(SA2)、オペレータにより上述した環境設定が行なわれる。
【0028】
設定が完了すると(SA3)、設定された環境情報が操作装置6からLAN4bを介してモデル演算部2及び信号計測部3に送信され(SA4)、モデル演算部2では入出力信号の定義情報、モデル演算条件に基づいて環境が設定され、信号計測部3では入出力信号の定義情報、信号計測条件に基づいて環境が設定される(SB2,SC2)。
【0029】
ここでは、モデル演算条件としてエンジンの回転数、エンジンの停止判定時間、制御装置7から入力される点火信号及び噴射信号に応答して出力するフェール信号のタイミング及びパルス幅等が設定され、信号計測条件(図4では、「計測用パラメータ」と記している。)として制御装置7から出力される点火信号及び噴射信号の計測タイミングであるクランク角度範囲、各信号が欠落したとき及びエンジン停止時の擬似計測データ(図4では、「指示値」と記載している。)等が設定される。
【0030】
オペレータからシミュレーションの起動操作がなされると(SA5)、モデル制御部62により操作装置6からモデル演算部2及び信号計測部3にシミュレーションの開始指令が送信される(SA6)。モデル演算部2ではエンジンのモデル演算が起動され(SB3)、入力された回転数に基づいて模擬クランクパルスが制御装置7に出力される(SB4)(図4参照)。
【0031】
図5に示すように、オペレータの設定によりエンジン回転数が30000rpmから−30000rpmまでの範囲で設定でき、設定したエンジン回転数に応じたクランクパルスが0.0°CA(CAはクランク角を表す)から719.9°CAまで0.1°CA刻みのパルスが出力される。正回転の時には0.0°CAから719.9°CAまで、逆回転の時には位相が反転した719.9°CAから0.0°CAまでのパルスが出力される。
【0032】
信号計測部3では制御装置7から出力される制御信号、ここでは点火信号及び噴射信号が計測され(SC3)、計測データが生成され、モデル演算部2及び操作装置6に出力される(SC4)。点火信号及び噴射信号が計測されなかったときには擬似計測データが生成されて出力される(SC4)。
【0033】
点火信号の計測について以下に詳述する。尚、噴射信号についても同様の処理が行なわれるのでここでは詳述しない。
【0034】
図5及び図6に示すように、信号計測部3は、モデル演算部2から入力される模擬クランクパルスをカウンタ回路で計測してクランク角をモニタしながら、環境情報で設定されたクランク角度範囲(計測タイミング)で点火信号及び噴射信号が検出されるか否かを監視し、正回転の模擬クランクパルスが出力される定常状態において、点火信号及び噴射信号が検出されると当該信号のオンエッジ及びオフエッジに対応するクランク角と、オンエッジからオフエッジまでのパルス幅に対応するクランク角でなる特性データを計測データとして生成する。
【0035】
図6は、四気筒四サイクルのエンジンに対して、気筒#1から気筒#4に対して夫々点火信号が出力される様子を模擬的に示すもので、模擬クランクパルスは実際とは異なり簡略化して記載されている。
【0036】
図7に示すように、信号計測部3は、モデル演算部2からエンジン回転状態を示す信号、例えば、エンジン回転数信号や、直接エンジンの正回転・停止・逆回転を示す信号やエンジンの回転状態として、正常な状態か異常な状態(逆回転状態)かを示す信号等を入力して(SD1)、制御装置7からの点火信号を計測する(SD2)。エンジン回転状態を示す信号に基づいて正回転していると判断するときに(SD3)、設定された計測タイミングで点火信号を検出すると(SD4)、点火信号のオンエッジ、オフエッジ、パルス幅を計測して、夫々に対応するクランク角を計測データとして生成してFPGA上のメモリに区画された計測データ格納領域に更新記憶して、マザーボード5aに計測データを出力する(SD5)。
【0037】
図には示していないが、ステップSD4で、設定された計測タイミングで点火信号を検出できなかったときには、オンエッジ及びオフエッジに対応して設定されたクランク角720°CA(実際には有り得ない値である)、及び、パルス幅として0°CAを生成して、FPGA上のメモリに区画された計測データ格納領域に更新記憶する。
【0038】
エンジン回転状態を示す信号に基づいてエンジンが停止している状態であると判断されるときには(SD6)、停止判定時間の経過を待ち(SD7)、経過した後に点火信号を検出すると(SD8)、点火信号のオンエッジ、オフエッジ、パルス幅を計測して、夫々に対応するクランク角(ここでは停止時の直前のクランク角)を計測データとして生成してFPGA上のメモリに区画された計測データ格納領域に更新記憶して、マザーボード5aに計測データを出力する(SD9)。点火信号が検出されないときには(SD8)、予め設定された擬似計測データ、ここでは、オンエッジ及びオフエッジに対応して設定されたクランク角720°CA(実際には有り得ない値である)、及び、パルス幅として0°CAを生成してFPGA上のメモリに区画された計測データ格納領域に更新記憶して、マザーボード5aに計測データを出力する(SD10)。尚、停止判定時間を設けるのは判定精度を向上させるためであり、停止判定時間を設けずに直ちに判定するものであってもよい。
【0039】
停止判定時間の経過を待つ間に(SD7)、制御装置7からの点火パルスを検出すると(SD11)、異常点火信号であると判断して、そのときのオンエッジ及びオフエッジに対応するクランク角と、オンエッジからオフエッジまでのパルス幅に対応するクランク角を生成して、FPGA上のメモリに区画された異常計測データ格納領域に記憶してマザーボード5aに計測データを出力する(SD12)。この場合は、オンエッジ及びオフエッジに対応してクランク角0°CA、及び、パルス幅として0°CAを生成する。
【0040】
異常計測データ格納領域にデータが記憶されると、擬似計測データに替えて異常計測データを出力する。つまり、図4に示すように、信号計測部3は、エンジン回転状態を示す信号に基づいてエンジンが停止状態にあると判断するときに制御装置7から制御信号が入力されると、擬似計測データに替えて当該制御信号に対する計測データを出力する計測データ出力切替部3aを備えているのである。
【0041】
エンジン回転状態を示す信号に基づいてエンジンが逆回転していると判断される場合(SD6)、ステップSD8と同様に、点火信号が検出されないときには(SD13)、予め設定された擬似計測データ、ここでは、オンエッジ及びオフエッジに対応して設定されたクランク角720°CA(実際には有り得ない値である)、及び、パルス幅として0°CAを生成してFPGA上のメモリに区画された計測データ格納領域に更新記憶して、マザーボード5aに計測データを出力する(SD15)。
【0042】
ステップSD13で点火信号が検出されると、異常点火信号であると判断して、そのときのオンエッジ及びオフエッジに対応するクランク角と、オンエッジからオフエッジまでのパルス幅に対応するクランク角を生成して、FPGA上のメモリに区画された異常計測データ格納領域に記憶してマザーボード5aに計測データを出力する(SD12)。この場合は、オンエッジ及びオフエッジに対応してクランク角0°CA、及び、パルス幅として0°CAを生成する。
【0043】
このように、信号計測部3はモデル演算部2から制御装置7に出力される模擬クランクパルス信号以外の正回転・停止・逆回転を識別可能なエンジン回転状態を示す信号に基づいて、エンジンの回転状態を瞬時に正確に識別でき、正回転状態において、環境情報で設定されたクランク角度範囲で点火信号及び噴射信号が計測されなかったときには、前回の計測データがそのまま出力されるのではなく、擬似計測データに切り替えられて出力されるので、オペレータは点火信号及び噴射信号が正常に出力されているか否かが容易に判別できるようになる。
【0044】
また、停止状態や逆回転状態において、制御装置7から点火信号及び噴射信号が出力されないときにも(制御装置7が正常に作動しているときには出力されない)、前回の計測データがそのまま出力されるのではなく、擬似計測データに切り替えられて出力され、さらに、制御装置7から点火信号及び噴射信号が出力されると、計測データ出力切替部により擬似計測データに替えて異常計測データが出力されるので、オペレータは点火信号及び噴射信号が異常に出力されているか否かが容易に判別できるようになる。
【0045】
ここに、擬似計測データは、本来制御装置7から出力されたデータであるか否かが識別可能なデータであれば、適宜設定することができる。つまり、信号計測部から出力される擬似計測データは、オペレータの判断を容易にするべく、計測したエンジン制御信号に基づく計測データが取り得ない値が採用される。
【0046】
既に説明したように、モデル演算部2への計測データの出力は、入出力変換ボード5bで生成されFPGA上のメモリにバッファリングされた計測データがPCIバスを介してマザーボード5aのメモリに格納されることにより実現され、操作装置6への計測データの出力は、マザーボード5aからLAN4bを介して送信されることにより実現される。
【0047】
図3に戻り、モデル演算部2は、点火信号または噴射信号の計測データが入力されると、制御装置7による異常検出のために対応する模擬フェール信号を生成して(SB5)、制御装置7に出力する(SB6)
【0048】
操作装置6では、点火信号または噴射信号の計測データが入力されると(SA7)、計測信号表示処理部61により、過去の計測データとともにトレンドグラフとして表示部に表示される(SA8)。
【0049】
このようにして、オペレータにより終了操作されるまで、操作装置6ではステップSA7からSA8が繰り返され、モデル演算部2ではステップSB3からSB6が繰り返され、信号計測部3ではステップSC3からSC4が繰り返される。
【0050】
終了操作がなされると(SA9)、モデル制御部62によりモデル演算部2及び信号計測部3に終了指令が送信され(SA10)、当該終了指令を受信したモデル演算部2及び信号計測部3は処理を終了する(SB7,SC5)。
【0051】
以下に、別実施形態について説明する。上述した実施形態では、信号計測部3がモデル演算部2から出力される模擬クランクパルスを入力してクランク角を把握するものを説明したが、モデル演算部2から入力されるエンジン回転状態を示す信号は模擬クランクパルスに限るものではなく、他の信号またはデータであってもよい。例えば、回転数情報及びクランク角情報が直接入力されるものであってもよく、クランク角情報は一周期の最初のタイミングがモデル演算部2から入力され、それをトリガーとして信号計測部3が内部でクランク角をカウントするものであってもよい。
【0052】
上述した実施形態では、模擬クランクパルスが連続したパルスである例を示したが、欠け歯を有する模擬クランクパルスであってもよい。また、何れの場合であっても制御装置7が気筒判別のために他の模擬信号、例えば、バルブ駆動軸のカム信号等の模擬信号を必要とする場合には、必要な他の模擬信号がモデル演算部2により適宜生成されるものである。
【0053】
上述した実施形態では、模擬信号としてクランクパルスを例示し、クランクパルスに応答して制御装置から出力される点火信号及び噴射信号を計測するものを説明したが、本発明による模擬信号及び計測信号はこのような信号に限定されるものではなく、何らかの模擬信号に応答して制御装置から出力される制御信号を計測するものに広く適用できるものであることはいうまでもない。
【0054】
つまり、エンジンを模擬してエンジンの状態を表すエンジン状態信号をエンジン制御装置に出力するシミュレーション演算部と、前記エンジン制御装置から入力されるエンジン制御信号を計測して当該エンジン制御信号に基づく計測データを出力する信号計測部とを備えてなるシミュレーション装置であって、前記信号計測部は、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が正回転状態である場合には、計測したエンジン制御信号に基づく計測データを出力し、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が停止状態と逆回転状態の少なくとも一方である場合には、予め設定された擬似計測データを出力するように構成されることが好ましい。
【0055】
また、前記信号計測部は、前記模擬信号が停止状態または逆回転状態にあるときに前記制御装置から制御信号が入力されると、前記擬似計測データに替えて当該制御信号に対する計測データを出力する計測データ出力切替部を備えていることが望ましい。
【0056】
上述した実施形態では、モデル演算部及び信号計測部が、マザーボード5aと、入出力変換ボード5bと、信号中継ボード5cの複数の信号処理ボードで構成されるものを説明したが、モデル演算部及び信号計測部の具体的な構成はこのようなものに限るものではなく、本発明の機能が実現される限りにおいて適宜構成することができ、例えば、一枚の信号処理ボード上に構成されるものであってもよい。
【0057】
上述した実施形態は、本発明を実現する一実施例を説明するものであり、各部の具体的な構成は、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、構築するシステムに応じて適宜変更設計することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】シミュレーション装置のハードウェア構成図
【図2】シミュレーション装置の機能ブロック構成図
【図3】シミュレーション動作を示すフローチャート
【図4】信号計測部の機能ブロック構成図
【図5】モデル演算部で生成される模擬信号及び信号計測で更新される計測データの更新タイミングを示す説明図
【図6】信号計測部で計測される点火信号のタイミングチャート
【図7】信号計測部による計測動作を示すフローチャート
【符号の説明】
【0059】
1:シミュレーション装置
2:モデル演算部
3:信号計測部
4a:ハーネス
4b:LAN
5:入出力装置(表示部であるモニタとマウスとキーボード)
4a:LAN
4b:ハーネス
5:ラック
5a:マザーボード
5b:入出力変換ボード
5c:信号中継ボード
6:操作装置
60:環境設定部
61:計測信号表示処理部
62:モデル制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを模擬してエンジンの状態を表すエンジン状態信号をエンジン制御装置に出力するシミュレーション演算部と、前記エンジン制御装置から入力されるエンジン制御信号を計測して当該エンジン制御信号に基づく計測データを出力する信号計測部とを備えてなるシミュレーション装置であって、
前記信号計測部は、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が正回転状態である場合には、計測したエンジン制御信号に基づく計測データを出力し、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が停止状態と逆回転状態の少なくとも一方である場合には、予め設定された擬似計測データを出力するシミュレーション装置。
【請求項2】
前記信号計測部は、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が停止状態と逆回転状態の少なくとも一方であるときに、前記エンジン制御装置からエンジン制御信号が入力された場合には、計測したエンジン制御信号に基づく計測データを出力する請求項1記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記信号計測部が出力する擬似計測データは、計測したエンジン制御信号に基づく計測データが取り得ない値である請求項1又は2記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記信号計測部は、前記シミュレーション演算部が模擬しているエンジンの回転状態が停止状態となってから所定時間が経過した場合に、予め設定された擬似計測データを出力する請求項1から3の何れかに記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
制御対象を模擬して制御対象の状態を表す状態信号を制御対象の制御装置に出力するシミュレーション演算部と、前記制御装置から入力される制御信号を計測して当該制御信号に基づく計測データを出力する信号計測部とを備えてなるシミュレーション装置であって、
前記信号計測部は、前記シミュレーション演算部が模擬している制御対象の状態が正常状態である場合には、計測した制御信号に基づく計測データを出力し、前記シミュレーション演算部が模擬している制御対象の状態が異常状態である場合には、予め設定された擬似計測データを出力するシミュレーション装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−170240(P2008−170240A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2893(P2007−2893)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】