説明

シミュレータ及び車両用ブレーキ制御装置

【課題】コンパクトに構成するとともに、部品コストを安くすることができるシミュレータを提供することを課題とする。
【解決手段】シミュレータであって、分岐路Eに連通する開口部が形成されている弁ハウジング41と、弁ハウジング41内に装着される弁座部材42と、弁ハウジング41内に固着される固定コア43と、弁座部材42と固定コア43との間に装着される可動コア45と、可動コア45と弁座部材42との間に設けられた弁体62と、固定コア43を囲繞する電磁コイル44と、弁座部材42内に形成されているシリンダ42aと、シリンダ42a内に装着されたピストン52とから構成され、電磁コイル44が励磁され、可動コア45が固定コア43に吸引されることで、弁座部材42の開口部42bが開かれ、ブレーキ液貯溜室51に液が流入してピストン52を押圧するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレータ及び車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操作子の操作力に応じた液圧を可動子に作用させる液圧路において、例えば、車両のブレーキ系統では、車輪ブレーキに作用させるブレーキ液圧を電気的に制御しているものがある。このような車両用ブレーキ制御装置では、ブレーキ操作子の操作反力をブレーキ操作子に擬似的に付与するシミュレータが設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のシミュレータは、マスタシリンダに通じる液圧路に設けられており、ブレーキ操作子の操作力に応じたブレーキ液圧を液圧路に作用させるストロークシミュレータを有している。このストロークシミュレータよりもマスタシリンダ側には電磁弁が設けられており、電磁弁が開弁しているときには、液圧路からストロークシミュレータにブレーキ液が流入し、ブレーキ操作子の操作力に応じたブレーキ液圧がストロークシミュレータからブレーキ操作子に作用するように構成されている。
【0004】
また、従来のシミュレータでは、電磁弁に並列してチェック弁が設けられている。このチェック弁はストロークシミュレータ側から液圧路側へのブレーキ液の流入のみを許容するものであり、ストロークシミュレータ内のブレーキ液圧が、液圧路のブレーキ液圧よりも高圧になった場合には、ストロークシミュレータ内のブレーキ液がチェック弁を通じて液圧路に流入するように構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−123767号公報(段落0017〜0019、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した従来のシミュレータでは、電磁弁、ストロークシミュレータ及びチェック弁が別々の部品として構成されているため(特許文献1の段落0052及び図5参照)、シミュレータを設置するためのスペースが広くなってしまうとともに、シミュレータの部品コストが高くなってしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、コンパクトに構成することができるとともに、部品コストを安くすることができるシミュレータ及び車両用ブレーキ制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、操作子の操作反力を、操作子に擬似的に付与するシミュレータであって、液圧路に連通する開口部が形成されている筒状の弁ハウジングと、この弁ハウジングの基端側の内部に装着される弁座部材と、弁ハウジングの先端側の内部に固着される固定コアと、弁ハウジングの内部であって、弁座部材と固定コアとの間に摺動自在に装着され、弁座部材側に付勢されている可動コアと、この可動コアと弁座部材との間に設けられ、弁座部材に形成された開口部を封止している弁体と、弁ハウジングの外部で固定コアを囲繞する位置に設けられた電磁コイルと、弁座部材の内部に形成されているシリンダと、このシリンダの内部に摺動自在に装着され、シリンダの内部に液貯溜室を画成し、液貯溜室側に付勢されているピストンと、から構成され、電磁コイルが励磁され、可動コアが固定コアに吸引されて移動することで、弁体によって封止されていた弁座部材の開口部が開かれ、液貯溜室に液が流入してピストンを押圧することにより、操作子の操作力に応じた操作反力が操作子に作用するように構成されていることを特徴としている。
【0009】
この構成では、弁ハウジング、弁座部材、固定コア、可動コア、弁体及び電磁コイルによって電磁弁が構成され、弁座部材の内部に形成されたシリンダ及びピストンによってストロークシミュレータが構成されている。このように、電磁弁及びストロークシミュレータが単体の部品によって構成されており、シミュレータの部品点数を減らすことができるため、シミュレータをコンパクトに構成することができるとともに、シミュレータの部品コストを安くすることができる。
【0010】
前記したシミュレータにおいて、可動コアは、弁体を移動自在に保持しているガイド部材を備えており、弁体を弁座部材側に付勢することにより、シリンダ側から液圧路側への液の流入のみを許容するチェック弁が形成されているように構成することができる。
【0011】
この構成では、可動コアに設けられたガイド部材に弁体を保持させることによってチェック弁が構成されている。すなわち、電磁弁、ストロークシミュレータ及びチェック弁が単体の部品に組み込まれていることになるため、シミュレータにチェック弁を設けた場合であっても、シミュレータをコンパクトに構成することができるとともに、シミュレータの部品コストを安くすることができる。
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の他の構成としては、マスタシリンダに通じる液圧路を有するブレーキ系統と、ブレーキ操作子の操作反力を、ブレーキ操作子に擬似的に付与するシミュレータと、このシミュレータで計測された液圧路のブレーキ液圧に基づいて、車輪ブレーキに作用するブレーキ液圧を制御する制御部と、を備えている車両用ブレーキ制御装置であって、シミュレータは、液圧路に設けられた電磁弁と、ブレーキ操作子の操作力に応じた操作反力をブレーキ操作子に作用させるストロークシミュレータと、から構成され、電磁弁は、液圧路に連通する開口部が形成されている筒状の弁ハウジングと、弁ハウジングの基端側の内部に装着される弁座部材と、弁ハウジングの先端側の内部に固着される固定コアと、弁ハウジングの内部であって、弁座部材と固定コアとの間に摺動自在に装着され、弁座部材側に付勢されている可動コアと、可動コアと弁座部材との間に設けられ、弁座部材に形成された開口部を封止している弁体と、弁ハウジングの外部で固定コアを囲繞する位置に設けられた電磁コイルと、を備え、電磁コイルが励磁されることにより、可動コアが固定コアに吸引されて移動するように構成され、ストロークシミュレータは、弁座部材の内部に形成されているシリンダと、シリンダの内部に摺動自在に装着され、シリンダの内部にブレーキ液貯溜室を画成し、ブレーキ液貯溜室側に付勢されているピストンと、から構成され、可動コアが固定コアに吸引されて移動することにより、弁体によって封止されていた弁座部材の開口部が開かれて、ブレーキ液貯溜室にブレーキ液が流入するように構成されていることを特徴としている。
【0013】
この構成では、電磁弁の弁座部材の内部に形成されたシリンダ及びピストンによってストロークシミュレータが構成されており、既存の電磁弁の構成にストロークシミュレータが組み込まれている。このように、電磁弁とストロークシミュレータが単体の部品によって構成されており、シミュレータの部品点数を減らすことができるため、シミュレータをコンパクトに構成することができるとともに、シミュレータの部品コストを安くすることができる。
【0014】
前記した車両用ブレーキ制御装置において、可動コアは、弁体を移動自在に保持しているガイド部材を備えており、弁体を弁座部材側に付勢することにより、ストロークシミュレータ側から液圧路側へのブレーキ液の流入のみを許容するチェック弁が形成されているように構成することができる。
【0015】
この構成では、電磁弁の可動コアに設けられたガイド部材に弁体を保持させることによってチェック弁が構成されており、既存の電磁弁の構成にチェック弁が組み込まれている。すなわち、電磁弁にはストロークシミュレータ及びチェック弁が組み込まれていることになるため、シミュレータにチェック弁を設けた場合であっても、シミュレータをコンパクトに構成することができるとともに、シミュレータの部品コストを安くすることができる。
【0016】
前記した車両用ブレーキ制御装置において、弁ハウジングの基端面は、シミュレータが取り付けられる基体に設けられた有底の装着穴の底面に対峙しており、弁座部材の開口部からブレーキ液貯溜室に流入したブレーキ液のブレーキ液圧によって、弁ハウジングの基端側に移動したピストンが、装着穴の底面に当接するように構成することができる。
【0017】
弁ハウジングの基端側に移動したピストンを、弁ハウジングの基端面のみで支持するように構成した場合には、ピストンからの押圧力に耐えられるように、弁ハウジングの基端面の剛性を高めておく必要がある。
これに対して、前記した構成では、弁ハウジングの基端側に移動したピストンが、基体に設けられた装着穴の底面に支持されるように構成されており、ピストンからの押圧力を基体で受けることになるため、弁ハウジングの剛性を高めておく必要がなくなり、電磁弁を軽量化することができる。
【0018】
なお、ピストンが弁ハウジングの基端側に移動したときに、ピストンを弁座部材及び弁ハウジングの基端部から突出させて、基体の装着穴の底面に当接させることにより、ピストンを基体で支持することができる。又は、弁ハウジングの基端部を閉塞し、この基端部を装着穴の底面に重ねて配置させ、ピストンが弁ハウジングの基端側に移動したときに、ピストンを弁ハウジング内の底面に当接させることにより、弁ハウジングの基端面を介して、ピストンを基体で支持することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシミュレータ及び車両用ブレーキ制御装置によれば、シミュレータの部品点数を減らすことができるため、シミュレータをコンパクトに構成することができるとともに、シミュレータの部品コストを安くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)などバーハンドルタイプの車両のブレーキ系統に対して、本発明のシミュレータ、及びそのシミュレータを用いた車両用ブレーキ制御装置を適用した場合を例として説明する。
図1は、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置の液圧回路図である。
【0021】
[車両用ブレーキ制御装置の全体構成]
本実施形態の車両用ブレーキ制御装置は、図1に示すように、マスタシリンダM1,M2から車輪ブレーキB1,B2に至る液圧路A,Bを有するブレーキ系統K1,K2と、ブレーキ操作子L1,L2の操作反力を、ブレーキ操作子L1,L2に擬似的に付与するシミュレータ30,30と、車輪ブレーキB1,B2に接続されているモジュレータ部10と、車輪ブレーキB1,B2に作用するブレーキ液圧を制御する制御部20と、を備えて構成されている。
【0022】
[ブレーキ系統の構成]
ブレーキ系統K1は、図1に示すように、前輪を制動するためのものであり、ブレーキ操作子L1のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダM1から前輪の車輪ブレーキB1のホイールシリンダに至る液圧路A,Bを具備している。
同様に、ブレーキ系統K2は、後輪を制動するためのものであり、ブレーキ操作子L2のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダM2から後輪の車輪ブレーキB2のホイールシリンダに至る液圧路A,Bを具備している。
【0023】
なお、本実施形態では、ブレーキ系統K1に対応するブレーキ操作子L1がブレーキレバーであり、ブレーキ系統K2に対応するブレーキ操作子L2がブレーキペダルである場合を例示しているが、ブレーキ操作子の形態を限定する趣旨ではない。
【0024】
マスタシリンダM1,M2は、ブレーキ液を貯蔵するタンク室が接続された図示しないシリンダを有しており、シリンダ内にはブレーキ操作子L1,L2の操作によりシリンダの軸方向へ摺動してブレーキ液を流出する図示しないロッドピストンが組み付けられている。
【0025】
このように、車両用ブレーキ制御装置は、二つのブレーキ系統K1,K2を備えて構成されているが、各ブレーキ系統K1,K2の構成は同一であるため、以下の説明では主として前輪のブレーキ系統K1について説明し、適宜に後輪のブレーキ系統K2について説明する。
【0026】
前輪のブレーキ系統K1には、シミュレータ30の電磁弁40、ストロークシミュレータ50、チェック弁60,32、分離弁31、貯溜室33、第一の圧力センサ8などや、モジュレータ部10のレギュレータR、制御弁手段V、吸入弁4、リザーバ5、ポンプ6、第二の圧力センサ9などが設けられている。
【0027】
なお、以下の説明では、マスタシリンダM1からモジュレータ部10のレギュレータRに至る液圧路(流路)を「出力液圧路A」と称し、レギュレータRから車輪ブレーキB1に至る流路を「車輪液圧路B」と称する。
また、レギュレータRを迂回する流路であって出力液圧路Aと車輪液圧路Bとを連通する流路を「吸入路C1、吐出路C2」と称し、さらに、車輪液圧路Bからリザーバ5に至る流路を「開放路D」と称する。
また、「上流側」とは、マスタシリンダM1(M2)側のことを意味し、「下流側」とは、車輪ブレーキB1(B2)側のことを意味する。
【0028】
[制御部の構成]
図1に示す制御部20は、図示せぬ車輪速度センサから出力された車輪速度や、シミュレータ30で計測された出力液圧路Aのブレーキ液圧に基づいて、シミュレータ30及びモジュレータ部10の各種部品を制御することにより、車輪ブレーキB1,B2に作用するブレーキ液圧を制御するものである。
この制御部20は、図示は省略するが、CPU(中央演算処理装置)、RAM、ROM及び入出力回路を備えており、前記した物理量、ROMに記憶された制御プログラムや各種の閾値(基準値)等に基づいて演算処理を行うことによって、車輪ブレーキB1,B2の独立したアンチロックブレーキ制御や二つの車輪ブレーキB1,B2を連動させる連動ブレーキ制御を実行することができる。
【0029】
[モジュレータ部の構成]
モジュレータ部10は、図1に示すように、レギュレータRと、制御弁手段Vと、吸入弁4と、リザーバ5と、ポンプ6と、第二の圧力センサ9とを備えて構成されている。
【0030】
(レギュレータの構成)
レギュレータRは、出力液圧路Aから車輪液圧路Bへのブレーキ液の流入を許容する状態及び遮断する状態を切り換える機能と、出力液圧路Aから車輪液圧路Bへのブレーキ液の流入が遮断されているときに、レギュレータRの下流側のブレーキ液圧を設定値以下に調節する機能と、上流側のブレーキ液圧が下流側のブレーキ液圧よりも大きくなったときに、上流側から下流側(すなわち、出力液圧路Aから車輪液圧路B)へのブレーキ液の流入を許容する機能とを有しており、本実施形態では、カット弁1、チェック弁1a及びリリーフ弁1bを備えて構成されている。
【0031】
カット弁1は、マスタシリンダM1と車輪ブレーキB1とを連通する液圧路(出力液圧路A、車輪液圧路B)を開閉するものであって、出力液圧路Aと車輪液圧路Bとの間に介設された常開型の電磁弁からなり、開弁状態ではブレーキ液の通流を許容し、閉弁状態では遮断する。
カット弁1を構成する常開型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御部20と電気的に接続されており、制御部20からの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると閉弁し、電磁コイルを消磁すると開弁する。なお、本実施形態のカット弁1は、開弁圧を制御可能なリニア型の電磁弁からなる。
【0032】
チェック弁1aは、その上流側から下流側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、カット弁1と並列に設けられている。
【0033】
リリーフ弁1bは、車輪液圧路Bのブレーキ液圧から出力液圧路Aのブレーキ液圧を差し引いたときの値が開弁圧以上になったときに開弁するものであるが、本実施形態では、カット弁1となる常閉型の電磁弁に機能として付加されている。なお、リリーフ弁1bの開弁圧(カット弁1の開弁圧)は、電磁弁を駆動させるための電磁コイルに与える電流値の大きさを制御することで増減させることができる。
【0034】
(制御弁手段の構成)
制御弁手段Vは、車輪液圧路Bを開放しつつ開放路Dを遮断する状態、車輪液圧路Bを遮断しつつ開放路Dを開放する状態、及び車輪液圧路Bと開放路Dを遮断する状態を切り換える機能を有しており、入口弁2、チェック弁2aおよび出口弁3を備えて構成されている。
【0035】
入口弁2は、車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁であり、開弁状態ではブレーキ液の通流を許容し、閉弁状態では遮断する。
入口弁2を構成する常開型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御部20と電気的に接続されており、制御部20からの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると閉弁し、電磁コイルを消磁すると開弁する。
【0036】
チェック弁2aは、その下流側から上流側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、各入口弁2と並列に設けられている。
【0037】
出口弁3は、開放路Dに設けられた常閉型の電磁弁からなり、閉弁状態では車輪ブレーキB1側からリザーバ5側へのブレーキ液の流入を遮断し、開弁状態では許容する。
出口弁3を構成する常閉型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御部20と電気的に接続されており、制御部20からの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると開弁し、電磁コイルを消磁すると閉弁する。
【0038】
(吸入弁の構成)
吸入弁4は、ポンプ6の吸入側の吸入路C1を開閉するものであり、本実施形態では、常閉型の電磁弁からなる。つまり、吸入弁4は、吸入路C1を開放する状態及び遮断する状態を切り換えるものであり、開弁状態ではマスタシリンダM1とポンプ6の吸入口とが連通した状態になる。
吸入弁4を構成する常閉型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御部20と電気的に接続されており、制御部20からの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると開弁し、電磁コイルを消磁すると閉弁する。
【0039】
(リザーバの構成)
リザーバ5は、開放路Dの終点に設けられており、出口弁3が開放されることによって逃がされたブレーキ液を一時的に貯溜する機能を有している。
また、リザーバ5とポンプ6の吸入口とを連通する流路には、リザーバ5側からポンプ6側へのブレーキ液の流入のみを許容するチェック弁5aが設けられている。
【0040】
(ポンプの構成)
ポンプ6は、吸入路C1と吐出路C2との間に介設されており、モータ7の回転力によって駆動し、上流側(マスタシリンダM1側)にあるブレーキ液を吸入路C1から吸入して、下流側(車輪ブレーキB1側)の吐出路C2に吐出する。
ポンプ6は、通常時のブレーキ制御や連動ブレーキ制御の際に駆動され、後記するように、上流側にあるブレーキ液を吸入して下流側に吐出することで、車輪ブレーキB1にブレーキ液圧を付与する。
また、ポンプ6は、アンチロックブレーキ制御の際にも駆動され、リザーバ5に一時的に貯溜されたブレーキ液を車輪液圧路B側に吐出することで、減圧された出力液圧路Aや車輪液圧路Bの圧力状態を回復させる。
なお、ポンプ6には、その吸入口側から吐出口側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁が内包されているので、吐出口側のブレーキ液圧が吸入口側のブレーキ液圧より高くなっても、ブレーキ液が逆流することはない。
また、ポンプ6の吐出側には、図示せぬダンパやオリフィスが設けられており、その協働作用によってポンプ6から吐出されたブレーキ液の脈動を減衰させている。
【0041】
(モータの構成)
モータ7は、前輪のブレーキ系統K1にあるポンプ6及び後輪のブレーキ系統K2にあるポンプ6の共通の動力源であり、制御部20からの指令に基づいて作動する。
【0042】
(第二の圧力センサの構成)
第二の圧力センサ9は、車輪液圧路Bにおけるブレーキ液圧の大きさを計測するものである。
第二の圧力センサ9で計測されるブレーキ液圧は、車輪ブレーキB1(より詳細には、ホイールシリンダ)におけるブレーキ液圧と相関する物理量であるが、実質的には、車輪ブレーキB1におけるブレーキ液圧とみなすことができる。
なお、以下の説明においては、第二の圧力センサ9で計測されたブレーキ液圧を「ホイール圧」と称することとする。ホイール圧は、制御部20に随時取り込まれ、連動ブレーキ制御などに用いられる。
【0043】
[シミュレータの構成]
図2は、本実施形態のシミュレータにおける電磁弁を示した図で、閉弁状態の側断面図である。図3は、本実施形態のシミュレータにおける電磁弁を示した図で、開弁状態の側断面図である。図4は、本実施形態のシミュレータにおける電磁弁を示した図で、チェック弁が開弁状態の側断面図である。
なお、以下の説明において、先端側とは図2から図4の上側に対応し、基端側とは図2から図4の下側に対応している。この先端側及び基端側とは、電磁弁を解り易く説明するために便宜上設定したものであり、電磁弁の構成を限定するものではない。
【0044】
シミュレータ30は、図1に示すように、分岐路Eと、電磁弁40と、ストロークシミュレータ50と、第一のチェック弁60と、分離弁31と、第二のチェック弁32と、貯溜室33と、第一の圧力センサ8とを備えて構成されている。
なお、分岐路Eは、出力液圧路Aから電磁弁40に至る液圧路(流路)である。
【0045】
(電磁弁の構成)
電磁弁40は、図1に示すように、出力液圧路Aから分岐した分岐路Eに接続された常閉型の電磁弁であり、制御部20と電気的に接続された電磁コイル44(図2参照)を有しており、制御部20からの指令に基づいて電磁コイル44を励磁すると閉弁し、電磁コイル44が消磁すると開弁するように構成されている。また、電磁弁40には、ストロークシミュレータ50及び第一のチェック弁60が組み込まれている。
【0046】
この電磁弁40は、図2に示すように、分岐路Eに連通する開口部41aが形成されている筒状の弁ハウジング41と、弁ハウジング41の基端側の内部に装着されている弁座部材42と、弁ハウジング41の先端側の内部に固着されている固定コア43と、弁ハウジング41の先端側の外周面にボビン44aを介して配設された電磁コイル44とを備えている。また、弁ハウジング41の内部であって、弁座部材42と固定コア43との間には可動コア45が摺動自在に装着されている。また、電磁コイル44は、弁ハウジング41の外部で固定コア43及び可動コア45を囲繞する位置に設けられている。さらに、電磁コイル44の外側には、電磁コイル44全体を囲繞するヨーク44bが設けられている。
【0047】
弁ハウジング41は、有底円筒状の部材であり、シミュレータ30が取り付けられる基体70に設けられた有底の装着穴71の内部に装着されている。
この弁ハウジング41の外周面には、スペーサ46a及びC字状の抜け止め部材46bが外嵌されており、弁ハウジング41は、スペーサ46a及び抜け止め部材46bによって、装着穴71の内部に保持されている。
また、弁ハウジング41の基端面41bは、基体70の装着穴71の底面71aに所定間隔を離して対峙しており、この基端面41bの中心部には、開口部41cが形成されている。
【0048】
また、弁ハウジング41の基端側の側周壁部には開口部41aが形成されている。この開口部41aは、周方向に沿って複数箇所に形成されている。
また、弁ハウジング41の外周面において、開口部41aが形成されている部位には、円筒状のフィルタ枠体47が外嵌されている。
このフィルタ枠体47の側周壁部には、開口部47aが複数箇所に形成されており、開口部47aにはフィルタ膜47bが張られている。
そして、分岐路Eからのブレーキ液は、フィルタ枠体47の開口部47aを通過し、フィルタ膜47bによって濾過された後に、弁ハウジング41の開口部41aを通過して、弁ハウジング41の内部に流入することになる。
なお、弁ハウジング41の外周面において、フィルタ枠体47の上下に対応する位置には、リング状のパッキン48,48が外嵌されており、このパッキン48,48が弁ハウジング41の外周面と装着穴71の内周面との間に密着することにより、弁ハウジング41の外周面と装着穴71の内周面との間を液密にシールしている。
【0049】
弁座部材42は、円筒状の部材であり、弁ハウジング41の基端側の内部に装着されている。この弁座部材42の基端側は、弁ハウジング41の内部に嵌合されている。また、弁座部材42の先端側の外周面と、弁ハウジング41の内周面との間には隙間Sが形成されており、この隙間Sに通じるように、弁ハウジング41の開口部41aが配置されている。
弁座部材42の内部には、円形断面の空洞部であるシリンダ42aが形成されている。このシリンダ42aの基端側は開口されており、弁ハウジング41の基端面41bの開口部41cに連通している。
弁座部材42の先端部の中央部には、隙間Sとシリンダ42aとを連通する開口部42bが形成されている。この弁座部材42の開口部42bは、円形断面形状の貫通穴であり、上下の開口縁部にはテーパ面が形成されている。
【0050】
固定コア43は、円柱状の部材であり、弁ハウジング41の先端側の内部に固着されている。また、弁ハウジング41の先端側の外周面において、固定コア43及び可動コア45を囲繞する位置には、ボビン44aを介して電磁コイル44が配設されている。この電磁コイル44は制御部20と電気的に接続されており、制御部20からの指令に基づいて、電磁コイル44を励磁すると固定コア43に磁力が生じる。
【0051】
可動コア45は、円柱状の部材であり、弁ハウジング41の内部において、弁座部材42と固定コア43との間に装着されており、弁座部材42側及び固定コア43側に向けて摺動自在となっている。
この可動コア45の基端面の中央部には、環状の凸部45cが形成されている。また、可動コア45の先端面の中央部には、凹部45aが形成されており、この凹部45aにはコイルスプリング45bが挿入されている。
コイルスプリング45bの先端側は、可動コア45の先端面から突出して固定コア43に当接しており、このコイルスプリング45bの付勢力によって、可動コア45は弁座部材42側に付勢されている。
【0052】
また、可動コア45と弁座部材42との間には弁体62が設けられており、可動コア45が弁座部材42側に付勢されることにより、弁体62は弁座部材42の先端部に形成された開口部42bを封止している。また、電磁コイル44を励磁したときには、可動コア45が固定コア43に吸引されて固定コア43側に移動することにより、弁体62が弁座部材42の開口部42bから離間して、開口部42bが開かれた状態となる(図3参照)。
【0053】
(ストロークシミュレータの構成)
ストロークシミュレータ50は、図2に示すように、弁座部材42の内部に形成されているシリンダ42aと、このシリンダ42aの内部に装着されるピストン52とから構成されている。
【0054】
ピストン52は、円柱状の部材であり、シリンダ42aの内部に摺動自在に装着されている。このピストン52は、シリンダ42aの内部にブレーキ液貯溜室51(図3参照)を画成するものである。
また、ピストン52の外周面には、凹溝52bが全周に亘って形成されている。この凹溝52bにはリング状のシール部材52cが装着されており、このシール部材52cがシリンダ42aの内周面に密着することにより、ピストン52の外周面とシリンダ42aの内周面との間を液密にシールしている。
さらに、シリンダ42aにおいて、ピストン52よりも基端側の空間は、装着穴71の底部の内部空間に連通しており、密閉空間となっている。
【0055】
ピストン52と弁ハウジング41の底面41dとの間には、コイルスプリング53が介設されており、このコイルスプリング53の付勢力によって、ピストン52はブレーキ液貯溜室51側(図3参照)に付勢されている。
また、ピストン52の基端面の中央部には、装着穴71の底面71aに向けて突出した当接部52aが形成されており、この当接部52aはコイルスプリング53の中央部に挿入されている。
そして、図3に示すように、ピストン52が弁座部材42の基端側に移動したときには、弁座部材42の基端側の開口部及び弁ハウジング41の基端面41bの開口部41cから当接部52aの基端部が突出し、装着穴71の底面71aに当接することにより、弁座部材42は基端側42dへの移動が制限されている。
【0056】
(第一のチェック弁の構成)
第一のチェック弁60は、図2に示すように、可動コア45の基端面に固着されることにより、可動コア45と弁座部材42との間に設けられているガイド部材61と、このガイド部材61に保持されている弁体62とによって形成されている。
【0057】
ガイド部材61は、可動コア45の基端面に形成された凸部45cに外嵌された円筒状の部材であり、その基端側の開口縁は内側に向けて折り曲げられて爪部が形成されている。このガイド部材61の基端部(爪部)は、弁座部材42の開口部42bの外周側において、弁座部材42の基端面に当接することにより、可動コア45の弁座部材42側への移動を規制している。
また、ガイド部材61の側周壁部には開口部61aが形成されている。
【0058】
弁体62は、弁座部材42の開口部42bを開閉する部材であり、ガイド部材61の基端側に形成された爪部によって、ガイド部材61の内部に保持されており、ガイド部材61の内部で可動コア45側及び弁座部材42側に移動自在となっている。
この弁体62は、円盤状の部材の基端面に半球状の封止部62aが突出し、先端面には円柱状の突出部62bが突出した形状となっている。
【0059】
また、弁体62と可動コア45との間には、コイルスプリング62cが介設されている。このコイルスプリング62cの基端部は、可動コア45の先端面に形成された凸部45cに挿入されており、コイルスプリング62cの付勢力によって、弁体62が弁座部材42側に付勢されている。このように弁体62が弁座部材42側に付勢されることにより、ガイド部材61の基端部に形成された爪部の内方側から弁体62の封止部62aが突出している。
そして、ガイド部材61が弁座部材42の基端面に当接したときには、弁体62の封止部62aが弁座部材42の開口部42bの開口縁部に圧着され、弁体62によって弁座部材42の開口部42bが封止されている。
このような第一のチェック弁60では、ストロークシミュレータ50のシリンダ42a内のブレーキ液圧から出力液圧路A(分岐路E)のブレーキ液圧を差し引いたときの値が開弁圧以上になったときに開弁するように構成されている。
【0060】
(分離弁の構成)
分離弁31は、図1に示すように、シミュレータ30よりも下流側において出力液圧路Aを開閉するものであって、常開型の電磁弁からなり、開弁状態ではブレーキ液の通流を許容し、閉弁状態では遮断する。
なお、分離弁31を構成する常開型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御部20と電気的に接続されており、制御部20からの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると閉弁し、電磁コイルを消磁すると開弁するように構成されている。
【0061】
(第二のチェック弁の構成)
第二のチェック弁32は、図1に示すように、上流側から下流側へのブレーキ液の流入のみを許容するものであり、分離弁31と並列に設けられている。つまり、第二のチェック弁32は、分離弁31を迂回する流路に設けられており、分離弁31の上流側のブレーキ液圧から下流側のブレーキ液圧を差し引いたときの値が開弁圧以上になったときに開弁するように構成されている。
なお、第二のチェック弁32の開弁圧は、ポンプ6でブレーキ液を吸入する際に、第二のチェック弁32よりも下流側の出力液圧路Aに発生する圧力変動によって開弁しない程度の大きさに設定する。
【0062】
(貯溜室の構成)
貯溜室33は、図1に示すように、ポンプ6で吸入されるブレーキ液を貯溜しておくものであり、分離弁31よりも下流側において出力液圧路Aに接続されている。貯溜室の構成に特に制限はないが、本実施形態では、ブレーキ液の出入口を有し底面側が大気開放されているシリンダ、このシリンダ内を摺動するピストン、このピストンをシリンダの底面側に付勢する付勢部材などを備えて構成されている。
この貯溜室33は、ポンプ6を駆動させたときに、付勢部材の付勢力に抗してピストンが出入口側に摺動移動することで、貯溜されていたブレーキ液を出力液圧路Aに供給し、出力液圧路Aを通じてブレーキ液が還流されてきたときには、付勢部材でピストンをシリンダの底面側に摺動移動させることにより、ブレーキ液を貯溜する空間を形成する。
【0063】
(第一の圧力センサの構成)
第一の圧力センサ8は、図1に示すように、分離弁31よりも上流側の出力液圧路Aにおいてブレーキ液圧の大きさを計測するものである。
第一の圧力センサ8で計測されるブレーキ液圧は、マスタシリンダM1におけるブレーキ液圧と相関する物理量であるが、実質的には、マスタシリンダM1におけるブレーキ液圧とみなすことができる。
なお、以下の説明においては、第一の圧力センサ8で計測されたブレーキ液圧を「マスタ圧」と称することとする。マスタ圧は、制御部20に随時取り込まれ、連動ブレーキ制御などに用いられる。
本実施形態では、第一の圧力センサ8が分離弁31よりも上流側の出力液圧路Aに設けられているため、分離弁31を閉弁させたときでもマスタ圧を取得することができる。
【0064】
[車両用ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御]
次に、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御について説明する。なお、以下の説明においては図1を適宜に参照するものとする。
【0065】
(通常時のブレーキ制御)
車両用ブレーキ制御装置では、図示しないエンジンを作動させると、制御部20によってシミュレータ30の分離弁31が閉弁され、シミュレータ30とモジュレータ部10との間で液路(出力液圧路A)が遮断されて分離された状態となる。
【0066】
また、制御部20では、シミュレータ30の電磁弁40の電磁コイル44(図2参照)を励磁する。これにより、図3に示すように、電磁弁40の可動コア45が固定コア43に吸引されて固定コア43側に移動する。
このとき、可動コア45に固着されているガイド部材61も固定コア43側に移動し、このガイド部材61に保持されている弁体62が固定コア43側に引き寄せられる。このようにして、第一のチェック弁60の弁体62が弁座部材42の開口部42bから離間するため、弁座部材42の開口部42bが開かれた状態となる。
【0067】
この状態でブレーキ操作子L1に操作力が付与されると、マスタシリンダM1からブレーキ液が流出し、その流出量に応じたブレーキ液が出力液圧路A及び分岐路Eを通じて、弁ハウジング41の開口部41aから弁ハウジング41内の隙間Sに流入する。さらに、ブレーキ液は弁座部材42の開口部42bからシリンダ42aのブレーキ液貯溜室51に流入し、ピストン52を基端側に移動させる。
【0068】
ピストン52は、コイルスプリング53の付勢力とブレーキ液貯溜室51内のブレーキ液圧とが釣り合う位置まで、ブレーキ液貯溜室51が拡張する方向に変位する。
このとき、シリンダ42aにおいて、ピストン52よりも基端側の空間は、装着穴71の底部の内部空間に連通しており、密閉空間となっているため、ピストン52に対してエアダンパの役割りを果たすことになり、ピストン52に作用しているブレーキ液圧の一部を吸収することになる。
そして、ブレーキ液貯溜室51の拡張量に応じた量のブレーキ液が出力液圧路Aからブレーキ液貯溜室へ流入することにより、ブレーキ操作子L1には、その流出量に応じた操作ストロークが発生するため、ブレーキ操作子L1の操作感覚が確保される。
【0069】
一方、モジュレータ部10では、出力液圧路Aが遮断された状態にされることにより、車輪ブレーキB1にマスタシリンダM1からのブレーキ液圧が直接作用しない状態となっている。したがって、ブレーキ操作子L1の操作力に起因して発生したブレーキ液圧は、そのままシミュレータ30に伝わり、第一の圧力センサ8によってブレーキ液圧が計測される。
【0070】
シミュレータ30の第一の圧力センサ8によってブレーキ液圧が計測されると、制御部20によってモジュレータ部10のモータ7が駆動されてポンプ6が作動する。また、制御部20によって、レギュレータRのカット弁1が閉弁されるとともに、吸入弁4が開弁された状態となる。
そして、ポンプ6の作動に伴って、ポンプ6の吸入側は負圧状態となるので、シミュレータ30の貯溜室33及びリザーバ5に貯溜されていたブレーキ液は、ポンプ6に吸引されて吸い出される。
【0071】
ポンプ6によって吸い出されたブレーキ液は、吐出路C2から車輪液圧路Bに流れ、車輪液圧路Bに設けられた制御弁手段Vの入口弁2を通過して、車輪ブレーキB1に対して作用する。このとき、第二の圧力センサ9によって、車輪液圧路Bのブレーキ液圧が計測され、その計測値が制御部20に随時取り込まれる。
制御部20では、車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧が所定の液圧(例えば、第一の圧力センサ8と同等の液圧)となったか否かが判定され、所定のブレーキ液圧に至るまでポンプ6が作動制御される。
また、制御部20では、車輪ブレーキB1にかかるブレーキ液圧が所定の液圧となったことを判定した場合にはポンプ6を停止する。
【0072】
ここで、図3に示すように、ストロークシミュレータ50のブレーキ液貯溜室51のブレーキ液圧によって、ピストン52が基端側まで移動し、ピストン52の当接部52aが基体70の装着穴71の底面71aに当接した後に、ブレーキ操作子L1に更に操作力が付与された場合には、分離弁31の上流側のブレーキ液圧が下流側のブレーキ液圧よりも高圧となる。
このように、分離弁31の上流側のブレーキ液圧から下流側のブレーキ液圧を差し引いた値が第二のチェック弁32の開弁圧以上になると、第二のチェック弁32を通ってブレーキ液が下流側に流入するので、分離弁31よりも下流側のブレーキ液圧(車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧)はブレーキ操作子L1のストローク量に応じて昇圧することになる。
【0073】
その後、ブレーキ操作子L1が戻されると、制御部20によって、シミュレータ30の電磁弁40の電磁コイル44(図2参照)が消磁され、図4に示すように、コイルスプリング45bの付勢力によって、可動コア45は弁座部材42側に移動し、第一のチェック弁60のガイド部材61が弁座部材42の先端面に当接した状態となる。
【0074】
また、ブレーキ操作子L1が戻されることにより、出力液圧路A(分岐路E)のブレーキ液圧は減圧される。そのため、第一のチェック弁60では、ストロークシミュレータ50のシリンダ42a内のブレーキ液圧から出力液圧路A(分岐路E)のブレーキ液圧を差し引いたときの値が開弁圧以上になり、弁体62がコイルスプリング62cの付勢力に反して、可動コア45側に押し込まれて、第一のチェック弁60が開弁した状態となる。
これにより、シリンダ42a内のブレーキ液は、ピストン52によって、開口部42bから弁ハウジング41内の隙間Sに押し出され、弁ハウジング41の開口部41aを通じて分岐路E(出力液圧路A)にブレーキ液が流入する。このようにして、出力液圧路A(分岐路E)の減圧量に応じたブレーキ液が、ストロークシミュレータ50から出力液圧路A(分岐路E)に流入することになる。
【0075】
また、ブレーキ操作子L1が戻されると、モジュレータ部10では、レギュレータRのカット弁1が開弁されるとともに、吸入弁4が閉弁される。これにより、貯溜室33と車輪ブレーキB1に至る流路(出力液圧路A及び車輪液圧路B)が連通した状態となり、車輪液圧路Bから貯溜室33にブレーキ液が還流される。
そして、貯溜室33にブレーキ液が再び貯溜され、次にポンプ6が作動したときにポンプ6に供給されるブレーキ液として備えられる。
【0076】
(アンチロックブレーキ制御)
アンチロックブレーキ制御は、車輪がロック状態に陥りそうになったときに実行されるものであり、ロック状態に陥りそうな車輪の車輪ブレーキB1,B2に対応する制御弁手段Vを制御して、車輪ブレーキB1,B2に作用するブレーキ液圧を減圧、増圧或いは一定に保持する状態を適宜に選択することによって実現される。
減圧、増圧及び保持のいずれを選択するかは、図示せぬ車輪速度センサから得られた車輪速度に基づいて、制御部20によって判断される。なお、制御部20では、アンチロックブレーキ制御中は、モジュレータ部10のレギュレータRのカット弁1を閉弁させ、吸入弁4を開弁させる。
【0077】
なお、アンチロックブレーキ制御中は、ブレーキ操作子L1に操作力が付与された状態が保たれており、シミュレータ30では、前記した通常時のブレーキ制御と同様にして、ブレーキ操作子L1の操作反力をブレーキ操作子L1に擬似的に付与している。したがって、以下の説明では、アンチロックブレーキ制御中のモジュレータ部10の動作について説明し、シミュレータ30の動作については省略する。
【0078】
車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧を減圧する場合には、制御部20によって入口弁2が励磁されて閉弁するとともに、出口弁3が励磁されて開弁される。これにより、車輪ブレーキB1に通じる車輪液圧路Bのブレーキ液が開放路Dを通ってリザーバ5に流入し、その結果として、車輪ブレーキB1に作用していたブレーキ液圧が減圧される。
【0079】
車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧を一定に保持する場合は、制御部20によって入口弁2を励磁して閉弁するとともに、出口弁3を消磁して閉弁する。これにより、車輪ブレーキB1、入口弁2及び出口弁3で閉じられた液路内にブレーキ液が閉じ込められることになり、その結果として、車輪ブレーキB1に作用しているブレーキ液圧が一定に保持される。
【0080】
車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧を増圧する場合は、制御部20によって入口弁2を消磁して開弁するとともに、出口弁3を消磁して閉弁し、さらに、ポンプ6を作動させる。これにより、ポンプ6の作動によってリザーバ5から吐出路C1に流出したブレーキ液が入口弁2を通じて車輪液圧路Bに作用し、その結果として、車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧が増圧される。
【0081】
(連動ブレーキ制御)
連動ブレーキ制御には、後輪のブレーキ系統K2に対応するブレーキ操作子L2の操作に連動して、前輪のブレーキ系統K1に対応する車輪ブレーキB1にブレーキ液圧を付与する制御(以下、「リア連動ブレーキ制御」ということがある)と、前輪のブレーキ系統K1に対応するブレーキ操作子L1の操作に連動して後輪のブレーキ系統K2に対応する車輪ブレーキB2にブレーキ液圧を付与する制御(以下、「フロント連動ブレーキ制御」ということがある。)とが含まれている。
なお、以下の説明において、「リア連動ブレーキ制御」と「フロント連動ブレーキ制御」とを区別しない場合には、「連動ブレーキ制御」と称することとする。
また、リア連動ブレーキ制御とフロント連動ブレーキ制御は、制御対象となるブレーキ系統が異なるだけで、基本的な動作は同一であるので、以下の説明では、リア連動ブレーキ制御について説明し、フロント連動ブレーキ制御の説明は省略する。
【0082】
なお、連動ブレーキ制御中は、ブレーキ操作子L1に操作力が付与された状態が保たれており、シミュレータ30では、前記した通常時のブレーキ制御と同様にして、ブレーキ操作子L1の操作反力をブレーキ操作子L1に擬似的に付与している。したがって、以下の説明では、連動ブレーキ制御中のモジュレータ部10の動作について説明し、シミュレータ30の動作については省略する。
【0083】
連動ブレーキ制御は、第一の圧力センサ8で取得されたマスタ圧や、第二の圧力センサ9で取得されたホイール圧などの物理量を制御部20に取り込むことで実行される。
制御部20では、後輪のブレーキ系統K2に対応するブレーキ操作子L2の操作に連動して前輪のブレーキ系統K1に対応する車輪ブレーキB1にブレーキ液圧を付与する必要があるか否か、すなわち、連動ブレーキ制御を実行する必要があるか否かを判定する。
【0084】
制御部20では、リア連動ブレーキ制御の実行が必要であると判定した場合には、リア連動ブレーキ制御を開始し、連動ブレーキ制御の対象となっているブレーキ系統K1のレギュレータRのカット弁1を閉弁させ、吸入弁4を開弁させるとともに、ポンプ6(モータ7)を駆動させる。
【0085】
リア連動ブレーキ制御が実行された場合には、ブレーキ系統K1のポンプ6によって、貯溜室33及びリザーバ5に貯溜されているブレーキ液が車輪液圧路Bに供給され、その結果として、車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧が増圧される。
なお、車輪液圧路Bのブレーキ液圧が所定の圧力よりも大きくなると、車輪液圧路Bのブレーキ液がレギュレータRを通って出力液圧路Aに逃がされ、車輪液圧路Bのブレーキ液圧が所定の圧力に保たれることになる。
【0086】
また、制御部20では、リア連動ブレーキ制御の終了条件が成立したと判定した場合には、連動ブレーキ制御の対象となっているブレーキ系統K1に対して、レギュレータRのカット弁1を開弁させ、吸入弁4を閉弁させるとともに、ポンプ6を停止させて連動ブレーキ制御を終了させる。
【0087】
リア連動ブレーキ制御を終了すると、車輪液圧路Bのブレーキ液がカット弁1及び出力液圧路Aを通って貯溜室33に還流するので、車輪ブレーキB1に作用するブレーキ液圧が速やかに減圧されることになる。
そして、貯溜室33にブレーキ液が再び貯溜され、次にポンプ6が作動したときにポンプ6に供給されるブレーキ液として備えられる。
【0088】
(エンジンが作動していない状態)
図示しないエンジンが作動していない状態では、分離弁31をはじめとして全ての電磁弁が消磁された状態となる。つまり、分離弁31、レギュレータRのカット弁1、及び制御弁手段Vの入口弁2が開弁状態となり、電磁弁40、吸入弁4、制御弁手段Vの出口弁3が閉弁となる。したがって、ブレーキ操作子L1の操作力に起因して発生したブレーキ液圧は、そのまま車輪ブレーキB1に作用するようになり、ブレーキ操作子L1の操作力による車輪ブレーキB1の制動が可能となる。
【0089】
[車両用ブレーキ制御装置の作用効果]
本実施形態の車両用ブレーキ制御装置では、図3に示すように、電磁弁40の弁座部材42の内部に形成されたシリンダ42a及びピストン52によってストロークシミュレータ50が構成されている。さらに、電磁弁40の可動コア45に設けられたガイド部材61に保持された弁体62によって第一のチェック弁60が形成されている。
すなわち、電磁弁40には、ストロークシミュレータ50及び第一のチェック弁60が組み込まれており、電磁弁40、ストロークシミュレータ50及び第一のチェック弁60が単体の部品によって構成されている。そのため、シミュレータ30の部品点数を減らすことができ、シミュレータ30をコンパクトに構成することができるとともに、シミュレータ30の部品コストを安くすることができる。
【0090】
また、弁ハウジング41の基端側に移動したピストン52が、基体70の装着穴71の底面71aに支持されるように構成されており、ピストン52からの押圧力を基体70で受けることになるため、ピストン52からの押圧力に耐えられるように、弁ハウジング41の剛性を高めておく必要がなくなり、電磁弁40を軽量化することができる。
【0091】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、本実施形態では、図2に示すように、第一のチェック弁60の弁体62は、円盤状の部材の基端面に半球状の封止部62aが突出し、先端面には円柱状の突出部62bが突出している形状となっているが、円球状の弁体を用いることもできる。この構成では、弁体の加工が容易であるため、部品コストを安くすることができる。
【0092】
また、本実施形態のシミュレータ30(図1参照)では、分離弁31の上流側のブレーキ液圧が下流側のブレーキ液圧よりも高圧となった場合には、第二のチェック弁32を通ってブレーキ液が下流側に流入するように構成されている。この構成では、ストロークシミュレータ50のシリンダ42a(図3参照)の容量を小さくすることができる。しかし、ブレーキ操作子L1の操作に起因してマスタシリンダM1からストロークシミュレータ50に流入するブレーキ液を全てシリンダ42a内に貯溜させることができるように、シリンダ42aの容量を十分に確保することができるのであれば、ブレーキ液を分離弁31の上流側から下流側に逃がす必要がなくなるため、第二のチェック弁32を設けなくてもよい。
【0093】
また、本実施形態では、図3に示すように、ピストン52が弁ハウジング41の基端側に移動したときに、弁座部材42及び弁ハウジング41の基端部から突出して、基体70の装着穴71の底面71aに当接するように構成されているが、弁ハウジング41の基端部を閉塞し、この基端部を装着穴71の底面71aに重ねて配置することにより、ピストン52が弁ハウジング41の基端側に移動したときに、ピストン52が弁ハウジング41内の底面に当接し、弁ハウジング41の基端面を介して、ピストン52が基体70に支持されるように構成することもできる。
【0094】
なお、本実施形態では、バーハンドルタイプの車両に用いられたシミュレータ及び車両用ブレーキ制御装置を例として説明したが、本発明のシミュレータは、車両のブレーキ系統に限定されるものではなく、各種の液圧路に適用可能となっている。さらに、本発明の車両用ブレーキ制御装置は、バーハンドルタイプの車両に限定されるものではなく、例えば、四輪自動車にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本実施形態の車両用ブレーキ制御装置の液圧回路図である。
【図2】本実施形態のシミュレータの電磁弁を示した図で、閉弁状態の側断面図である。
【図3】本実施形態のシミュレータの電磁弁を示した図で、開弁状態の側断面図である。
【図4】本実施形態のシミュレータの電磁弁を示した図で、チェック弁が開弁状態の側断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 カット弁
2 入口弁
3 出口弁
4 吸入弁
5 リザーバ
6 ポンプ
7 モータ
8 第一の圧力センサ
9 第二の圧力センサ
10 モジュレータ部
20 制御部
30 シミュレータ
31 分離弁
33 貯溜室
40 電磁弁
41 弁ハウジング
41a 開口部
42 弁座部材
42a シリンダ
43 固定コア
44 電磁コイル
45 可動コア
50 ストロークシミュレータ
51 ブレーキ液貯溜室
52 ピストン
52a 当接部
60 チェック弁
61 ガイド部材
62 弁体
70 基体
71 装着穴
71a 底面
B1 前輪の車輪ブレーキ
B2 後輪の車輪ブレーキ
K1 前輪のブレーキ系統
K2 後輪のブレーキ系統
L1 前輪のブレーキ操作子
L2 後輪のブレーキ操作子
M1 前輪のマスタシリンダ
M2 後輪のマスタシリンダ
R レギュレータ部
V 制御弁手段
A 出力液圧路(液圧路)
B 車輪液圧路(液圧路)
E 分岐路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作子の操作反力を、前記操作子に擬似的に付与するシミュレータであって、
液圧路に連通する開口部が形成されている筒状の弁ハウジングと、
前記弁ハウジングの基端側の内部に装着される弁座部材と、
前記弁ハウジングの先端側の内部に固着される固定コアと、
前記弁ハウジングの内部であって、前記弁座部材と前記固定コアとの間に摺動自在に装着され、前記弁座部材側に付勢されている可動コアと、
前記可動コアと前記弁座部材との間に設けられ、前記弁座部材に形成された開口部を封止している弁体と、
前記弁ハウジングの外部で前記固定コアを囲繞する位置に設けられた電磁コイルと、
前記弁座部材の内部に形成されているシリンダと、
前記シリンダの内部に摺動自在に装着され、前記シリンダの内部に液貯溜室を画成し、前記液貯溜室側に付勢されているピストンと、から構成され、
前記電磁コイルが励磁され、前記可動コアが前記固定コアに吸引されて移動することで、前記弁体によって封止されていた前記弁座部材の開口部が開かれ、前記液貯溜室に液が流入して前記ピストンを押圧することにより、前記操作子の操作力に応じた操作反力が前記操作子に作用するように構成されていることを特徴とするシミュレータ。
【請求項2】
前記可動コアは、前記弁体を移動自在に保持しているガイド部材を備えており、
前記弁体を前記弁座部材側に付勢することにより、前記シリンダ側から前記液圧路側への液の流入のみを許容するチェック弁が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項3】
マスタシリンダに通じる液圧路を有するブレーキ系統と、
ブレーキ操作子の操作反力を、前記ブレーキ操作子に擬似的に付与するシミュレータと、
前記シミュレータで計測された前記液圧路のブレーキ液圧に基づいて、車輪ブレーキに作用するブレーキ液圧を制御する制御部と、を備えている車両用ブレーキ制御装置であって、
前記シミュレータは、
前記液圧路に設けられた電磁弁と、
前記ブレーキ操作子の操作力に応じた操作反力を前記ブレーキ操作子に作用させるストロークシミュレータと、から構成され、
前記電磁弁は、
前記液圧路に連通する開口部が形成されている筒状の弁ハウジングと、
前記弁ハウジングの基端側の内部に装着される弁座部材と、
前記弁ハウジングの先端側の内部に固着される固定コアと、
前記弁ハウジングの内部であって、前記弁座部材と前記固定コアとの間に摺動自在に装着され、前記弁座部材側に付勢されている可動コアと、
前記可動コアと前記弁座部材との間に設けられ、前記弁座部材に形成された開口部を封止している弁体と、
前記弁ハウジングの外部で前記固定コアを囲繞する位置に設けられた電磁コイルと、を備え、
前記電磁コイルが励磁されることにより、前記可動コアが前記固定コアに吸引されて移動するように構成され、
前記ストロークシミュレータは、
前記弁座部材の内部に形成されているシリンダと、
前記シリンダの内部に摺動自在に装着され、前記シリンダの内部にブレーキ液貯溜室を画成し、前記ブレーキ液貯溜室側に付勢されているピストンと、から構成され、
前記可動コアが前記固定コアに吸引されて移動することにより、前記弁体によって封止されていた前記弁座部材の開口部が開かれて、前記ブレーキ液貯溜室にブレーキ液が流入するように構成されていることを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記可動コアは、前記弁体を移動自在に保持しているガイド部材を備えており、
前記弁体を前記弁座部材側に付勢することにより、前記ストロークシミュレータ側から前記液圧路側へのブレーキ液の流入のみを許容するチェック弁が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記弁ハウジングの基端面は、前記シミュレータが取り付けられる基体に設けられた有底の装着穴の底面に対峙しており、
前記弁座部材の開口部から前記ブレーキ液貯溜室に流入したブレーキ液のブレーキ液圧によって、前記弁ハウジングの基端側に移動した前記ピストンが、前記装着穴の底面に当接するように構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−213589(P2008−213589A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51684(P2007−51684)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】