説明

シュラウドのコンタクト面の形成方法、シュラウドを有するタービン動翼、及びガスタービン

【課題】タービン動翼本体の先端に設けられているシュラウドの表面のうち、隣接するシュラウド相互のコンタクト面の耐磨耗性及び耐酸化性を高める。
【解決手段】シュラウドの母材の表面にコーティング材を溶射して皮膜を形成し、皮膜に対して拡散熱処理を施し、拡散熱処理が施された皮膜の表面を研磨して、コンタクト面を形成する。コーティング材は、32.5wt%のMoと、15.5wt%のCrと、3.4wt%以下のSiとを含有し、1.5wt%以下のCoと、1.5wt%以下のFeと、0.08wt%以下のCとを含有することを許容し、残部がNi及び不可避的不純物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン動翼本体の先端に設けられているシュラウドの表面のうち、タービンロータの回転方向で隣接するシュラウド相互のコンタクト面の形成方法、このシュラウドを有するタービン動翼、このタービン動翼を有するガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
タービン動翼は、その回転軸を中心として放射方向に延びる動翼本体と、この動翼本体の先端に設けられているシュラウドと、を有している。このタービン動翼では、シュラウドとして、ケーシングとの間及び隣接する他のシュラウドとの間からの高温ガスの漏れを抑えると共に、動翼本体のねじれを抑えるためにZ型シュラウドが採用されているものがある。このZ型シュラウドには、タービンロータの回転方向で隣接する他のZ型シュラウドと接触する面であるコンタクト面が形成されている。
【0003】
このシュラウドのコンタクト面は、隣接する他のシュラウドのコンタクト面と接触することになるため耐磨耗性が要求されると共に、高温ガスに晒されるため耐酸化性も要求される。
【0004】
そこで、以下の特許文献1に記載の技術では、シュラウドの母材表面に、Coを主成分とするコーティング材を溶射して、母材表面に皮膜を形成し、この皮膜の表面をコンタクト面とすることで、このコンタクト面の耐磨耗性及び耐酸化性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−248280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術は、前述したように、耐磨耗性及び耐酸化性の高いコンタクト面を提供できる優れた技術である。しかしながら、近年、ガスタービンの熱効率を高めるために、作動ガス(燃焼ガス)の温度が高まり、コンタクト面のさらなる耐酸化性が求められてきている。
【0007】
そこで、本発明は、耐磨耗性と共に高い耐酸化性を有するシュラウドのコンタクト面の形成方法、このシュラウドを有するタービン動翼、このタービン動翼を有するガスタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前目的を達成するための発明に係るシュラウドのコンタクト面の形成方法は、
タービン動翼本体の先端に設けられているシュラウドの表面のうち、タービンロータの回転方向で隣接するシュラウド相互のコンタクト面の形成方法において、
32.5wt%のMoと、15.5wt%のCrと、3.4wt%以下のSiとを含有し、1.5wt%以下のCoと、1.5wt%以下のFeと、0.08wt%以下のCとを含有することを許容し、残部がNi及び不可避的不純物であるコーティング材を、前記シュラウドの母材の表面上で前記コンタクト面が形成される皮膜形成面に溶射して皮膜を形成する皮膜形成工程と、前記皮膜に対して拡散熱処理を施す熱処理工程と、前記拡散熱処理が施された前記皮膜の表面を研磨して、前記コンタクト面を形成する研磨工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
当該形成方法では、シュラウドのコンタクト面の耐磨耗性及び耐酸化性を高めることができる。
【0010】
ここで、前記コンタクト面の形成方法において、前記熱処理工程では、850℃以上の温度で前記拡散熱処理を行うことが好ましい。さらに、前記熱処理工程では、前記拡散熱処理を2.5時間以上行うことが好ましい。
【0011】
当該形成方法では、皮膜強度をより高めることができる。
【0012】
また、前記コンタクト面の形成方法において、前記研磨工程では、前記皮膜の表面粗さが5μmRa以下になるまで、該皮膜の表面を研磨することが好ましい。
【0013】
当該形成方法では、耐磨耗性をより高めることができる。
【0014】
また、前記コンタクト面の形成方法において、前記皮膜形成工程では、高速フレーム溶射法又は減圧プラズマ溶射法で前記コーティング材を前記皮膜形成面に溶射してもよい。
【0015】
当該形成方法では、皮膜中の酸化物の量を少なくすることができる。
【0016】
また、前記コンタクト面の形成方法において、前記シュラウドの母材は、Ni基合金で形成されていることが好ましい。
【0017】
当該形成方法では、母材と皮膜との密着度を高めることができる。
【0018】
前目的を達成するための発明に係るタービン動翼は、
タービン動翼本体の先端に設けられているシュラウドに、タービンロータの回転方向で隣接する他のシュラウドと接触するコンタクト面が形成されているタービン動翼において、前記シュラウドの母材の表面上で前記コンタクト面が形成される皮膜形成面に、32.5wt%のMoと、15.5wt%のCrと、3.4wt%以下のSiとを含有し、1.5wt%以下のCoと、1.5wt%以下のFeと、0.08wt%以下のCとを含有することを許容し、残部がNi及び不可避的不純物であるコーティング材による皮膜が形成され、前記皮膜の表面は、前記コンタクト面を成し、表面粗さが5μmRa以下であることを特徴とする。
【0019】
当該タービン動翼では、シュラウドのコンタクト面の耐磨耗性及び耐酸化性を高めることができる。
【0020】
ここで、前記タービン動翼において、前記シュラウドの母材は、Ni基合金で形成されていることが好ましい。
【0021】
当該タービン動翼では、母材と皮膜との密着度を高めることができる。
【0022】
また、前記目的を達成するための発明に係るガスタービンは、
前記タービン動翼を有するタービンロータと、前記タービンロータを回転可能に支持するケーシングと、を備えていることを特徴とする。
【0023】
当該ガスタービンは、前記タービン動翼を有しているので、タービン動翼の構成要素であるシュラウドのコンタクト面の耐磨耗性及び耐酸化性を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、シュラウドのコンタクト面の耐磨耗性及び耐酸化性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る一実施形態におけるシュラウドのコンタクト面の形成方法を示すフローチャートである。
【図2】各種サンプルの時間経過に伴う酸化減耗量を示すグラフである。
【図3】拡散熱処理条件の異なる各種サンプルの割れひずみを示す説明図である。
【図4】図3に示すデータを得るために行った曲げ試験を説明するための説明図である。
【図5】表面粗さの異なる各種サンプルの耐磨耗性を示す説明図である。
【図6】本発明に係る一実施形態におけるシュラウドの断面図である。
【図7】本発明に係る一実施形態における動翼の斜視図である。
【図8】本発明に係る一実施形態におけるガスタービンの要部切欠側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
本実施形態のガスタービンは、図8に示すように、圧縮空気を生成する圧縮機1と、燃料を圧縮空気に混合して燃焼させ燃焼ガスを生成する燃焼器3と、燃焼ガスによって回転駆動されるタービン5とを備えている。
【0028】
圧縮機1は、その空気取込口2から外部の空気を取り込み、この空気を圧縮することによって圧縮空気を生成する。燃焼器3は、圧縮機1からの圧縮空気に燃料を混合して燃焼させる。燃料の燃焼により生成された高温且つ高圧の燃焼ガスは、タービン5を駆動させる。
【0029】
タービン5は、ケーシング6と、ケーシング6内で回転可能に配置されているタービンロータ10と、ケーシング6に固定されている複数の静翼20と、を備えている。なお、以下では、タービンロータ10の回転中心となる軸を回転軸RAとし、この回転軸RAが延びている方向を軸方向とし、ロータ10の半径方向を単に径方向とする。ロータ10は、複数のロータディスクが軸方向に並んで相互に接続されたロータ本体11と、このロータ本体11に固定されている複数の動翼12と、を有している。複数の動翼12は、回転軸RAを基準にした周方向に等間隔でロータ本体11に固定されている。
【0030】
動翼12は、図7に示すように、ケーシング6内の燃焼ガス流路内に配される動翼本体13と、この動翼本体13の基端に設けられたプラットホーム14と、このプラットホーム14から動翼本体13と反対側へ突出した翼根15と、動翼本体13の先端に設けられたシュラウド16と、を有している。
【0031】
シュラウド16は、Z型シュラウドと呼ばれ、径方向から見た形状がZ型を成している。このシュラウド16は、ケーシング6との間及び隣接する他のシュラウド16との間からの高温ガスの漏れを抑えると共に、動翼本体13のねじれを抑えるためにZ型を成している。シュラウド16のZ型の傾斜部分の面は、回転軸RAを基準にした周方向、言い換えると、タービンロータの回転方向で隣接する他のシュラウド16のZ型の傾斜部分の面(コンタクト面)と接触する面であるコンタクト面19が形成されている。
【0032】
動翼本体13及びシュラウド16は、いずれも母材の表面に皮膜が形成されたものである。動翼本体13の母材やシュラウド16の母材は、いずれも、IN738LCやMGA1400等のニッケル基合金で形成されている。なお、IN738LCの組成成分は、Ni−16Cr−8.5Co−1.7Mo−2.6W−1.7Ta−0.9Nb−3.4Al−3.4Ti(wt%)で、MGA1400の組成成分は、Ni−13.2Cr−10Co−1.7Mo−4.6W−4.8Ta−4.0Al−2.4Ti(wt%)である。
【0033】
次に、シュラウド16のコンタクト面19の形成方法について、図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0034】
まず、シュラウド16の母材を目的の形状に形成する(S1)。
【0035】
次に、図6に示すように、シュラウド16の母材17の表面上で、コンタクト面19が形成される皮膜形成面19aにコーティング材を溶射して皮膜18を形成する(S2)。
【0036】
本実施形態で用いるコーティング材は、32.5wt%のMoと、15.5wt%のCrと、3.4wt%以下のSiとを含有し、1.5wt%以下のCoと、1.5wt%以下のFeと、0.08wt%以下のCとを含有することを許容し、残部がNi及び不可避的不純物である。すなわち、このコーティング材は、Niを主成分とするコーティング材である。
【0037】
溶射では、上記コーティング材を粉末化し、これを溶射粉末として利用する。溶射粉末は、例えば、ガスアトマイズ法で生成する。このガスアトマイズ法では、上記コーティング成分を炉内で加熱溶融した後、溶融物を噴霧ノズルから噴霧すると共に、その周囲から溶融物に不活性ガス(例えば、ヘリウム)を高速で吹き付けて、溶融物を微細化する。微細化した溶融物は、その落下過程で凝固し、粉末となる。その後、この粉末をサイクロン等で分級して、目的の粒径範囲内の粉末を溶射粉末として回収する。
【0038】
溶射法には、電気式溶射として、大気圧プラズマ溶射(APS:Atmospheric pressure Plasma Spraying)法、減圧プラズマ溶射(LPC:Low pressure Plasma Spraying)法等があり、ガス式溶射として、フレーム溶射法、高速フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxy-Fuel、HVAF:High Velocity Air Fuel)法等がある。上記母材17の皮膜形成面19aに上記コーティング材を溶射する際には、以上で例示したいずれの溶射法でも可能であるが、コーティング材の酸化を抑える観点から、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法が好ましい。
【0039】
減圧プラズマ溶射法は、チャンバー内を減圧した後、チャンバー内に不活性ガスを封入してから、このチャンバー内でプラズマ溶射を行う方法である。
【0040】
高速フレーム溶射法は、溶射ガンの燃焼室内の圧力を高めて、爆発燃焼炎に匹敵する高速火炎を発生させ、この高速火炎の中心に溶射粉末を供給して、これを溶融又は半溶融状態にして、溶射対象に対して超音速で連続噴射する方法である。
【0041】
溶射の際には、母材17の皮膜形成面19aを除く面に対するマスキング、母材17の皮膜形成面19aに対する脱脂洗浄やブラスト等の前処理行う。その後、溶射ガン等に上記コーティング材から成る溶射粉末を供給して、皮膜形成面19aに溶射粉末を溶射する。
【0042】
この溶射により、皮膜形成面19a上にコーティング材で形成された皮膜18が形成される。
【0043】
次に、母材17上に形成した皮膜18に対して拡散熱処理を施す(S3)。
【0044】
ここでは、850℃以上の温度環境下に2.5時間以上、皮膜18が形成された母材17をおくことで、母材17及び皮膜18に対して一括して拡散熱処理を施す。
【0045】
また、ここでは、熱処理として、溶体化熱処理又は時効熱処理を施す。溶体化熱処理は、1120℃程度の温度環境下で2.5時間以上行うことが好ましい。また、時効熱処理は、850℃程度の温度環境下で10時間以上行うことが好ましい。いずれの熱処理の場合でも、熱処理対象物を所定時間加熱した後、窒素等の不活性ガス雰囲気内で冷却する。
【0046】
次に、皮膜18の表面を研磨し、コンタクト面19を形成する(S4)。
【0047】
研磨には、例えば、ダイヤモンド研磨シートやダイヤモンド研磨パッド等を用いる。
【0048】
研磨前の皮膜18の表面粗さは、例えば10μmRaである。この研磨では、この皮膜18の表面粗さが5μmRa以下になるまで研磨する。この研磨された面がコンタクト面19となる。このコンタクト面19が形成された皮膜18の厚さは、約0.2mmである。
【0049】
「実施例」
本実施例では、シュラウド16の母材17として、前述のIN738LCを用いる。また、コーティング材として、32.5wt%のMoと、15.5wt%のCrと、3.4wt%以下のSiとを含有し、1.5wt%以下のCoと、1.5wt%以下のFeと、0.08wt%以下のCとを含有することを許容し、残部がNi及び不可避的不純物であるトリバロイ(英国、Deloro Stellite Groupの登録商標)合金材を用いる。なお、以下では、説明の便宜上、このトリバロイ合金材をT700とする。
【0050】
溶射は、高速フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxy-Fuel)法で行う。この溶射条件は、以下の通りである。
燃焼圧力 :0.7MPa
ケロシン流量 :20L/h
酸素流量 :54m/h
溶射距離 :500mm
ガン移動速度 :500mm/sec
ガン移動ピッチ:6mm
使用溶射装置 :Praxair社製JP5000
【0051】
HVOF法は、大気中で行われるので、低コストであること、大型部品に適用可能であること等において有利な方法である。さらに、HVOFにより形成した皮膜18は、気孔が少ないこと、溶射温度が低いこと等により酸化され難いため、皮膜18の粒界に酸化物が少ない。
【0052】
なお、ここでの溶射法はHVOF法であるが、前述のHVAF(High Velocity Air Fuel)法やLPC(Low pressure Plasma Spraying)法を採用してもよい。
【0053】
HVAFは、基本的にHVOFと同じ溶射法である。但し、その名が示す通り、燃焼剤としてHVOFでは酸素が用いられるのに対して、HVAFでは空気が用いられる点で、両者は異なっている。このため、HVOFでのフレーム温度が例えば2700℃程度あるのに対して、HVAFでのフレーム温度が例えば2000℃程度で、HVOFでのフレーム温度よりも低い。以上の相違点があるため、HVAFにより形成した皮膜は、HVOFにより形成した皮膜よりも酸化物の量を少なくすることができる。
【0054】
また、LPC法で溶射を行う場合の溶射条件は、以下の表1に示す通りである。
【0055】
【表1】

【0056】
なお、このLPC法による溶射条件は、スルザーメテコ社の減圧溶射システムを用いるときの条件である。また、表1中、「Clearing」は、逆極性アーク放電により溶射対象物の表面の付着物を飛ばす処理を示している。
【0057】
このLPCは、溶射環境下に酸素がほとんど存在しないため、このLPCで形成した皮膜は、酸化物がほとんど含まれない。このため、このLPCで形成した皮膜は、以上の溶射法で形成した皮膜よりも、緻密になり、母材との密着性が高くなる。
【0058】
この実施例において、拡散熱処理の条件は、850℃程度の温度環境下で10時間である。なお、拡散熱処理の条件は、前述したように、1120℃程度の温度環境下で2.5時間以上であってもよい。
【0059】
研磨は、ダイヤモンド研磨シートを用いて、この皮膜18の表面粗さが5μmRa以下になるまで行う。
【0060】
次に、上記実施例の各種特性について説明する。
【0061】
まず、上記実施例の皮膜酸化特性について、図2を用いて説明する。
【0062】
ここでは、上記実施例と同様、IN738LC製の母材に、コーティング材としてのT700を高速フレーム溶射(HVOF)したサンプル1の皮膜酸化特性について調べた。さらに、サンプル1の比較対象として、IN738LC製の母材に、コーティング材として、以下に組成成分を示す比較合金材T800を高速フレーム溶射(HVOF)したサンプルC1の皮膜酸化特性についても調べた。なお、これらのサンプル1,C1には、溶射後の熱処理及び研磨処理を施していない。
【0063】
コーティング材としての比較合金材T800は、28.5wt%のMoと、17.5wt%のCrと、3.4wt%のSiとを含有し、0.08wt%以下のCを含有することを許容し、残部がCo及び不可避的不純物のトリバロイ(英国、Deloro Stellite Groupの登録商標)合金材である。すなわち、T800は、背景技術の欄で説明した特許文献1でのコーティング材と同様、Coを主成分とするコーティング材である。
【0064】
ここでは、高温環境下にサンプルを置いたときのサンプルの皮膜の酸化減耗量を調べることで、サンプルの皮膜酸化特性を得た。なお、皮膜の酸化減耗量とは、皮膜中で、皮膜形成物が酸化してスケール化し、脆くなった部分の量である。
【0065】
図2に示すように、1000℃の環境下において、T700をコーティング材としたサンプル1の皮膜の酸化減耗量は、T800をコーティング材としたサンプルC1の皮膜の酸化減耗量の1/2以下である。
【0066】
また、900℃や800℃の環境下において、T700をコーティング材としたサンプル1の皮膜の酸化減耗量も、T800をコーティング材としたサンプルC1の皮膜の酸化減耗量の約1/2である。
【0067】
以上のように、T700をコーティング材としてサンプル1の皮膜の酸化速度は、T800をコーティング材としたサンプルC1の皮膜18の酸化速度の約1/2である。よって、上記実施例を含め、上記実施形態で示したコーティング材を用いることにより、シュラウド16のコンタクト面19の耐酸化性を高めることができる。
【0068】
次に、上記実施例の拡散熱処理に伴う皮膜強度の変化について、図3を用いて説明する。
【0069】
ここでは、上記実施例と同様、IN738LC製の母材に、コーティング材としてのT700を高速フレーム溶射(HVOF)し、これに拡散熱処理を施していないサンプル2、これに10時間にわたって850℃で拡散熱処理を施したサンプル3、これに24時間にわたって850℃で拡散熱処理を施したサンプル4、これに2.5時間にわたって1120℃で拡散熱処理を施したサンプル5の皮膜強度について調べた。さらに、サンプル2〜5の比較対象として、IN738LC製の母材に、コーティング材としてのT800を高速フレーム溶射(HVOF)し、これに拡散熱処理を施していないサンプルC2、これに24時間にわたって850℃で拡散熱処理を施したサンプルC4、これに2.5時間にわたって1120℃で拡散熱処理したサンプルC5の皮膜強度についても調べた。なお、これらのサンプルには、拡散熱処理後の研磨処理を施していない。
【0070】
ここでは、サンプルの曲げ試験を行い、サンプルの皮膜に割れが発生したときのひずみである割れひずみを調べることで、サンプルの被覆強度を得た。曲げ試験では、図4に示すように、水平方向に延び且つ互いに平行で70mmの間隔で配置された2本の支持ピン31上に、サンプルSを置き、このサンプルSの上側から2本の支持ピン31の中間地点をポンチ32で押し、そのときの皮膜18をひずみを測定した。この際、サンプルSの皮膜18上の複数の地点にひずみゲージ33を設けて、ひずみを測定する。
【0071】
図3に示すように、コーティング材としてT700を用い且つ拡散熱処理を施したサンプル3〜5は、コーティング材としてT700を用い且つ拡散熱処理を施していないサンプル2よりも、割れひずみが大きく、皮膜強度が高い。同様に、コーティング材としてT800を用い且つ拡散熱処理を施したサンプルC4,C5は、コーティング材としてT800を用い且つ拡散熱処理を施していないサンプルC2よりも、割れひずみが大きく、皮膜強度が高い。また、1120℃で拡散熱処理を施したサンプル5,C5は、850℃で拡散熱処理を施したサンプル3,4,C4より処理時間が短くても、皮膜強度が高い。
【0072】
よって、皮膜18に対して、拡散熱処理を施すことで皮膜強度を高めることができる。しかも、拡散熱処理の温度を高くした方が短い処理時間でも高い皮膜強度を得ることができる。
【0073】
また、コーティング材としてT700を用いたサンプル2〜5は、コーティング材としてT800を用いたC2,C4,C5よりも割れひずみが大きく、皮膜強度が高い。これは、母材をNi基合金で形成している関係で、同じくNiを主成分とするT700を用いたサンプル2〜5(T700)の方が、Coを主成分とするT800を用いたC2,C4,C5よりも、母材と皮膜との密着性が高まっているためであると考えられる。
【0074】
次に、上記実施例の研磨に伴う耐磨耗性の変化について説明する。
【0075】
ここでは、上記実施例と同様、IN738LC製の母材に、コーティング材としてのT700を高速フレーム溶射(HVOF)して皮膜を形成し、これに850℃で10時間の拡散熱処理を施し、この皮膜を研磨していないサンプル10、この皮膜の表面粗さが8μmRaになるまで研磨したサンプル11、この皮膜の表面粗さが5μmRaになるまで研磨したサンプル12、この皮膜の表面粗さが3μmRaになるまで研磨したサンプル13、この皮膜の表面粗さが1μmRaになるまで研磨したサンプル14の耐磨耗性を調べた。さらに、サンプル10〜14の比較対象として、IN738LC製の母材17に、コーティング材としてのT800を高速フレーム溶射(HVOF)して皮膜を形成し、これに850℃で10時間の拡散熱処理を施し、この皮膜を研磨していないサンプルC10、この皮膜の表面粗さが8μmRaになるまで研磨したサンプルC11、この皮膜の表面粗さが5μmRaになるまで研磨したサンプルC12、この皮膜の表面粗さが3μmRaになるまで研磨したサンプルC13、この皮膜の表面粗さが1μmRaになるまで研磨したサンプルC14の耐磨耗性も調べた。
【0076】
ここでは、高温フレッチング磨耗試験を行い、そのときの磨耗量を調べることで、サンプルの耐磨耗性を得た。この高温フレッチング磨耗試験では、同一の2つのサンプルのコンタクト面相互を接触させ、所定の面圧を維持した状態で、一方のサンプルに対して他方のサンプルを微小な相対往復すべり運動、つまりフレッチング運動させて、そのときの磨耗量を調べる。なお、具体的な試験条件は、以下の通りである。
【0077】
温度:900℃
面圧:4kgf/mm
周波数:20Hz
相対往復移動量:0.4mm
時間:200時間(累積摺動距離:約3.3km)
【0078】
図5に示すように、皮膜の表面粗さRaが小さくなるほど磨耗量が小さく、耐磨耗性が高まる。なお、この試験では、T800で形成された皮膜の表面粗さが5μmRaになるまで研磨したサンプルC12を基準とし、このサンプルC12の磨耗量よりも20%以上磨耗量が少なく耐磨耗性がよいものに対して「◎」を付し、このサンプルC12の磨耗量と同等の磨耗量のものに対して「○」を付し、このサンプルC12の磨耗量よりも20%以上磨耗量が多く耐磨耗性が悪いものに対して「×」を付している。
【0079】
また、T700で形成された皮膜の表面粗さが5μmRa以下であるサンプル12,13,14は、いずれも、基準のサンプル12と同等以上の耐磨耗性を示す。よって、皮膜18の表面であるコンタクト面19は、その表面粗さが5μmRa以下にすることで耐磨耗性を高めることができる。
【符号の説明】
【0080】
10:タービンロータ、12:動翼、13:動翼本体、16:シュラウド、17:母材、18:皮膜、19:コンタクト面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン動翼本体の先端に設けられているシュラウドの表面のうち、タービンロータの回転方向で隣接するシュラウド相互のコンタクト面の形成方法において、
32.5wt%のMoと、15.5wt%のCrと、3.4wt%以下のSiとを含有し、1.5wt%以下のCoと、1.5wt%以下のFeと、0.08wt%以下のCとを含有することを許容し、残部がNi及び不可避的不純物であるコーティング材を、前記シュラウドの母材の表面上で前記コンタクト面が形成される皮膜形成面に溶射して皮膜を形成する皮膜形成工程と、
前記皮膜に対して拡散熱処理を施す熱処理工程と、
前記拡散熱処理が施された前記皮膜の表面を研磨して、前記コンタクト面を形成する研磨工程と、
を有することを特徴とするコンタクト面の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンタクト面の形成方法において、
前記熱処理工程では、850℃以上の温度で前記拡散熱処理を行う、
ことを特徴とするコンタクト面の形成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンタクト面の形成方法において、
前記熱処理工程では、前記拡散熱処理を2.5時間以上行う、
ことを特徴とするコンタクト面の形成方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のコンタクト面の形成方法において、
前記研磨工程では、前記皮膜の表面粗さが5μmRa以下になるまで、該皮膜の表面を研磨する
ことを特徴とするコンタクト面の形成方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のコンタクト面の形成方法において、
前記皮膜形成工程では、高速フレーム溶射法又は減圧プラズマ溶射法で前記コーティング材を前記皮膜形成面に溶射する、
ことを特徴とするコンタクト面の形成方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のコンタクト面の形成方法において、
前記シュラウドの母材は、Ni基合金で形成されている、
ことを特徴とするコンタクト面の形成方法。
【請求項7】
タービン動翼本体の先端に設けられているシュラウドに、タービンロータの回転方向で隣接する他のシュラウドと接触するコンタクト面が形成されているタービン動翼において、
前記シュラウドの母材の表面上で前記コンタクト面が形成される皮膜形成面に、32.5wt%のMoと、15.5wt%のCrと、3.4wt%以下のSiとを含有し、1.5wt%以下のCoと、1.5wt%以下のFeと、0.08wt%以下のCとを含有することを許容し、残部がNi及び不可避的不純物であるコーティング材による皮膜が形成され、
前記皮膜の表面は、前記コンタクト面を成し、表面粗さが5μmRa以下である、
ことを特徴とするタービン動翼。
【請求項8】
請求項7に記載のタービン動翼において、
前記シュラウドの母材は、Ni基合金で形成されている、
ことを特徴とするタービン動翼。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のタービン動翼を有するタービンロータと、
前記タービンロータを回転可能に支持するケーシングと、
を備えていることを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−1923(P2013−1923A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132212(P2011−132212)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】