ショックアブソーバ装置
【課題】乗り心地を向上させるショックアブソーバ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】シリンダ10内を上下方向に移動するピストン11を有するショックアブソーバ装置1において、弾性体であり、ピストン11の周方向に沿って設けられ、シリンダ10の内面で摺動するシール部材15,16と、シール部材15,16より剛性が大きく、シール部材15,16の周方向に沿って配置され、シール部材15,16との接触程度が可変である弾性摩擦変更部材17とを備えることを特徴とする。
【解決手段】シリンダ10内を上下方向に移動するピストン11を有するショックアブソーバ装置1において、弾性体であり、ピストン11の周方向に沿って設けられ、シリンダ10の内面で摺動するシール部材15,16と、シール部材15,16より剛性が大きく、シール部材15,16の周方向に沿って配置され、シール部材15,16との接触程度が可変である弾性摩擦変更部材17とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ内を上下方向に移動するピストンを有するショックアブソーバ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ショックアブソーバ装置には、操縦安定性や乗心地を向上させるために、ショックアブソーバの減衰力を制御するものがある。特許文献1には、摩擦力を変化させることによって使用中の衝撃の変化に対応して減衰力を変更できる緩衝装置について開示されている。この緩衝装置は、相対運動自在に配置して一方の部材(ピストン棒)に接触するとともに径方向に伸縮自在な摩擦力付与環と当該摩擦力付与環を伸縮させるために圧力を加える圧力手段とを備え、加圧手段から摩擦力付与環に加える圧力を変化させることによって摩擦力付与環を径方向に伸縮させて他方の部材との摩擦抵抗を増減させる。
【特許文献1】実開平4−14831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の緩衝装置では、加圧による負荷荷重の変更によって摩擦力を変更しているので、発生する摩擦力の絶対的な大きさが変わる。この摩擦力はクーロン摩擦であり、ピストンの変位の変化に対して摩擦力が急に立ち上がる。そのため、ピストンが動き始めたときに(ピストンの速度がゼロ付近のときに)、摩擦力が急激に変化するので、乗心地が悪化し、乗員に違和感を与える。
【0004】
そこで、本発明は、乗り心地を向上させるショックアブソーバ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るショックアブソーバ装置は、シリンダ内を上下方向に移動するピストンを有するショックアブソーバ装置において、弾性体であり、ピストンの周方向に沿って設けられ、シリンダの内面で摺動するシール部材と、シール部材より剛性が大きく、シール部材の周方向に沿って配置され、シール部材との接触程度が可変である弾性摩擦変更部材とを備えることを特徴とする。
【0006】
このショックアブソーバ装置は、ピストンの周方向に沿ってシール部材が設けられており、シリンダ内でピストンが上下移動する際にシール部材がシリンダ内面に対して摺動する。さらに、ショックアブソーバ装置は、シール部材の周方向に沿ってシール部材より剛性が大きい弾性摩擦変更部材が配置され、弾性摩擦変更部材がシール部材に対して接触する程度が変化する。弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度が大きい場合、ピストンが移動するときに、シール部材が変形し難くなるので、シール部材のせん断剛性が高くなり、弾性摩擦が大きくなる。したがって、ピストンが動き始めたときに、シール部材による摩擦力が、迅速に、所定の大きさになるまで変化する。これによって、ショックアブソーバによる減衰力を迅速に作用させることができるので、操舵時(内外輪にストローク差がある場合)や路面からの入力が大きい場合(4輪間でストローク差がある場合)に、操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができる。一方、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度が小さい場合、ピストンが移動するときに、シール部材が変形し易くなるので、シール部材のせん断剛性が低くなり、弾性摩擦が小さくなる。したがって、ピストンが動き始めたときに、シール部材による摩擦力が、緩やかに、所定の大きさになるまで変化する。これによって、摩擦力が急に大きくならないので、直進時などの車両安定性のよい場合に、乗心地を向上させることができる。このように、ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦特性を変化させることができるので、走行状況に応じて操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができるとともに乗心地を安定させることができ、車両安定性と乗心地との両立を図ることができる。
【0007】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材の内側に配置され、外周端面の一部が弾性摩擦変更部材の外周端面の一部と接触し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している回転部材と、回転部材を回転させるアクチュエータとを備え、弾性摩擦変更部材は、回転部材の外側に沿って複数個配置され、シール部材に摺動し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している部材であり、アクチュエータが回転部材を回転させることによって、弾性摩擦変更部材と回転部材との接触位置が変わり、弾性摩擦変更部材の最外端の位置がピストンの径方向に沿って変わり、弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度が変化する構成としてもよい。
【0008】
このショックアブソーバ装置は、回転部材の外側に沿って複数個の弾性摩擦変更部材が互いの外周端面の一部が接触した状態で配置され、各弾性摩擦変更部材がシール部材に対して摺動するように配置されている。回転部材は、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化しており、回転中心から外周端まで長い部分もあれば、その部分より短い部分もある。弾性摩擦変更部材も、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化しており、回転中心から外周端まで長い部分もあれば、その部分より短い部分もある。したがって、回転部材に対して各弾性摩擦変更部材の接触する位置を変えることによって、弾性摩擦変更部材の最外端の位置が外側に広がったりあるいは内側に狭まったりする。そこで、ショックアブソーバ装置では、アクチュエータによって回転部材を回転させ、回転部材の回転に伴って各弾性摩擦変更部材も回転させて回転部材に対する各弾性摩擦変更部材の接触位置を変える。これによって、弾性摩擦変更部材の最外端の位置がピストンの半径方向に沿って変わり、弾性摩擦変更部材のシール部材に対する位置が変わる。弾性摩擦変更部材の最外端の位置が外側に広がった場合、シール部材との接触程度が大きくなり、弾性摩擦が大きくなる。一方、弾性摩擦変更部材の最外端の位置が内側に狭まった場合、シール部材との接触程度が小さくなり、弾性摩擦が小さくなる。このように、ショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材をシール部材に対してピストンの径方向に沿って移動させることによって、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度(ひいては、弾性摩擦特性)を高精度に変化させることができる。
【0009】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材をピストンの軸方向に沿って移動させるアクチュエータを備え、アクチュエータが弾性摩擦変更部材を移動させることによって、弾性摩擦変更部材がシール部材に接触/非接触し、弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度が変化する構成としてもよい。
【0010】
このショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材がピストンの軸方向に沿って移動自在であり、弾性摩擦変更部材がシール部材に対して接触した状態あるいは離間した状態になることが可能である。弾性摩擦変更部材がシール部材に接触している場合、シール部材との接触程度が大きくなり、弾性摩擦が大きくなる。一方、弾性摩擦変更部材がシール部材に接触していない場合、シール部材との接触程度が小さくなり、弾性摩擦が小さくなる。そこで、ショックアブソーバ装置では、アクチュエータによって弾性摩擦部材を移動させ、弾性摩擦変更部材をシール部材に対して接触状態又は非接触状態として回転部材に対する各弾性摩擦変更部材の接触位置を変える。このように、ショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材をピストンの軸方向に沿って移動させるだけの簡単な構成によって、弾性摩擦特性を変更することができる。
【0011】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材の外周端部は、上面及び下面がテーパ形状であり、上面と下面とでテーパの傾斜角度が異なる構成としてもよい。
【0012】
このショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材の外周端部の上面と下面にそれぞれテーパ形状が形成されており、そのテーパの傾斜角度が異なっている。そのため、ショックアブソーバ装置では、ピストンが上下方向に移動することによるショックアブソーバの伸縮方向によって、弾性摩擦変更部材の上面側と下面側とでシール部材との接触程度が変えることができる。このように、ショックアブソーバ装置では、簡単な構成によって接触程度を変えることができ、弾性摩擦特性を変えることができる。
【0013】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、シール部材は、少なくとも2個備えられ、弾性摩擦変更部材は、上下からシール部材に挟まれる構成としてもよい。
【0014】
このショックアブソーバ装置は、複数個のシール部材を備えており、弾性摩擦変更部材が上下からシール部材によって挟まれた状態で配置されている。このように、弾性摩擦変更部材がシール部材に挟まれているので、弾性摩擦変更部材と上下のシール部材との接触程度によって弾性摩擦特性をより効果的に変化させることができる。なお、弾性摩擦変更部材がピストンの軸方向に沿って移動させることによってシール部材との接触状態を変える構成の場合、弾性摩擦変更部材が一方側のシール部材に接触している場合には他方側のシール部材と非接触状態となる。
【0015】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、ピストンの移動に応じて弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度を変化させる構成としてもよい。
【0016】
このショックアブソーバ装置では、ピストンが上下方向に移動することによるショックアブソーバの伸縮方向に応じて、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度を変化させる。この接触程度を変化させる手法としては、例えば、弾性摩擦変更部材をピストンの軸方向に沿って移動させたり、あるいは、弾性摩擦変更部材の外周端部に上面と下面との異なる角度でテーパ形状を形成する。
【0017】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、ピストンが縮み方向に移動した場合より伸び方向に移動した場合に弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度を大きくすると好適である。
【0018】
このショックアブソーバ装置は、ピストンの上方向に移動することによってショックアブソーバが伸び方向に移動した場合、縮み方向に移動した場合より弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度を大きくする。つまり、ショックアブソーバが伸び側の場合、弾性摩擦変更部材の上面とシール部材との接触程度を大きくすることによって、せん断剛性を高くし、弾性摩擦を大きくして、操縦安定性や姿勢安定性を向上させるとともに車両の重心が高くなるのを抑制する。一方、ショックアブソーバが縮み側の場合、弾性摩擦変更部材の下面とシール部材との接触程度を小さくすることによって、せん断剛性を低くし、弾性摩擦を小さくして、乗心地を向上させる。
【0019】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度を前輪側と後輪側とで異なる大きさにする構成としてもよい。
【0020】
このショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度を前輪側と後輪側とで異なる大きさにする。例えば、制動時、前輪では、ショックアブソーバの縮み方向に移動した場合には弾性摩擦変更部材の下面とシール部材との接触程度を大きくすることによって、せん断剛性を高くし、弾性摩擦を大きくて、ショックアブソーバを縮み難くする。また、後輪では、ショックアブソーバの伸び方向に移動した場合には弾性摩擦変更部材の上面とシール部材との接触程度を大きくすることによって、せん断剛性を高くし、弾性摩擦を大きくして、ショックアブソーバを伸び難くする。これによって、制動時のノーズダイブを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、弾性摩擦特性を変化させることによって、乗り心地を向上させることができ、乗心地と車両の安定性との両立を図ることができる、
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係るショックアブソーバ装置の実施の形態を説明する。
【0023】
本実施の形態では、本発明を、自動車の四輪にそれぞれ設けられているショックアブソーバ装置に適用する。本実施の形態に係るショックアブソーバ装置は、油圧式であり、減衰力制御のないノーマルのショックアブソーバである。本実施の形態に係るショックアブソーバ装置は、ピストン内に上下に配置されるオイルシールに挟まれたストッパ部材を備えており、ストッパ部材とオイルシールとの接触程度を変化させることによってオイルシールの弾性摩擦特性を変更する。本実施の形態には、3つの形態があり、第1の実施の形態がストッパ部材をピストンの径方向に沿って移動させることによって接触程度を変化させる形態であり、第2の実施の形態が第1の実施の形態の構成に対してストッパ部材の外周端部の上面と下面をテーパ形状とする形態であり、第3の実施の形態がストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させることによって接触程度を変化させる形態である。
【0024】
図1〜図5を参照して、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバの主要部の正断面図である。図2は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。図3は、第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す平面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。図4は、第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。図5は、本実施の形態に係るショックアブソーバ装置の制御部の構成図である。
【0025】
ショックアブソーバ装置1は、サスペンションにかかるショックを吸収し、サスペンションにおける不要な上下動を吸収する装置である。特に、ショックアブソーバ装置1は、乗心地と車両の安定性との両立を図るために、ストッパ部材をピストンの径方向に沿って移動させることによって接触程度を変化させ、オイルシールの弾性摩擦特性を変更する。ショックアブソーバ装置1は、ショックアブソーバ2と制御部3からなる。
【0026】
ショックアブソーバ2は、下端部は車輪側に結合され、上端部が車体側に結合されている。ショックアブソーバ2は、円筒状のシリンダ10内にその内面に摺動するピストン11が収納されており、ピストン11によってシリンダ10内に上側油室10aと下側油室10bを形成している。ピストン11の内部にはオリフィス(図示せず)が設けられており、オリフィスによって上側油室10aと下側油室10bとを連通している。ピストン11には、ピストンロッド12が取り付けられている。ピストンロッド12は、シリンダ10の上蓋部10cから上下動自在に突出しており、その上端部が車体側に固定されている。
【0027】
ピストン11は、上端部に上側保持部材13が配置され、下端部に下側保持部材14が配置されている。各保持部材13,14は、シリンダ10の内面に沿った円形状である。上側保持部材13の下面にはオイルシール15(特許請求の範囲に記載するシール部材に相当)が取り付けられ、下側保持部材14の上面にはオイルシール16(特許請求の範囲に記載するシール部材に相当)が取り付けられている。オイルシール15,16は、ピストン11の軸方向に弾性を有する弾性体で形成されている。オイルシール15,16は、円環状であり、外周端面がシリンダ10の内面に摺接する。
【0028】
上下のオイルシール15,16との間には、周方向に沿って等間隔で8個のストッパ部材17,・・・(特許請求の範囲に記載する弾性摩擦変更部材に相当)が配置され、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16とは接している。ストッパ部材17は、オイルシール15,16より剛性が大きく、オイルシール15,16が変形したときのストッパとして機能する。ストッパ部材17は、ピストン11の半径より十分に小さい直径を有する円盤形状であり、その円盤の中心から偏心した位置に回転軸17aを有している。8個のストッパ部材17,・・・の各回転軸17a,・・・は、図3に示すように、オイルシール15,16の少し内側の同一の円周上に配置されている。
【0029】
ストッパ部材17は、偏心しているので、回転軸17a周りに回転することによってその最外端の位置がピストン11の径方向に沿って変わる。8個のストッパ部材17,・・・は、どのように回転した場合でも、その最外端の位置が全て同じ位置になるように配置されている。したがって、8個のストッパ部材17,・・・は、回転に応じて、8個全体で外側に広がったり、あるいは、8個全体で内側に狭まる。最も外側に広がった場合にはその最外端の位置がオイルシール15,16の最外端になるように設定され、最も内側に狭まった場合でもその最外端の位置がオイルシール15,16に挟まる位置になるように設定されている。したがって、ストッパ部材17,・・・が回転することによって、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触している程度が変化する。
【0030】
円周方向に沿って配置される8個のストッパ部材17の内側には、回転部材18(特許請求の範囲に記載する回転部材に相当)が配置されている。回転部材18は、リンク19の回転に応じて回転することによってストッパ部材17,・・・を回転させる部材である。回転部材18及びストッパ部材17,・・・は、回転部材18の回転に伴ってストッパ部材17が回転するように、その接触部分が摩擦係数の大きな部材によって形成されている。回転部材18は、外周端面がストッパ部材17,・・・の最内端の位置での外周端面と接する外周形状を有している。ストッパ部材17は回転によって最内端の位置が変化するので、回転部材18は、その変化に応じてストッパ部材17,・・・と接するように、外周形状が曲線状の凹凸形状を有している。8個のストッパ部材17,・・・が外側に広がっている場合には回転部材18の凸部分にストッパ部材17,・・・が接し、内側に狭まっている場合には回転部材18の凹部分にストッパ部材17,・・・が接する。
【0031】
回転部材18は、その中心位置が回転中心となっており、その中心部にリンク19が嵌る孔が形成されている。リンク19は、回転部材18の孔に嵌め込まれ、回転部材18に固定されている。リンク19は、ピストンロッド12内に回転自在に収納されている。
【0032】
制御部3は、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触度合いを制御するために、リンク19を回転駆動して回転部材18を回転させることによってストッパ部材17,・・・を回転させる。そのために、制御部3は、操舵角センサ20、右前輪ストロークセンサ21RF、左前輪ストロークセンサ21LF、右後輪ストロークセンサ21RR、左後輪ストロークセンサ21LR、車速センサ22、右前輪アクチュエータ23RF、左前輪アクチュエータ23LF、右後輪アクチュエータ23RR、左後輪アクチュエータ23LR及びECU[Electronic Control Unit]24を備えている。
【0033】
操舵角センサ20は、ステアリングホイールから入力される操舵角を検出するセンサであり、その検出値を操舵角信号としてECU24に送信する。各ストロークセンサ21は、各輪のショックアブソーバ2のストローク量を検出するセンサであり、その検出値を各ストローク信号としてECU24に送信する。車速センサ22は、車速を検出するセンサであり、その検出値を車速信号としてECU24に送信する。
【0034】
各アクチュエータ23は、モータや各種ギアを備えており、リンク19を回転させる。各アクチュエータ23では、ECU24から供給される各駆動電流に応じてモータが回転駆動し、そのモータの回転駆動力を各種ギアを介してリンク19に伝達する。
【0035】
ECU24は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random AccessMemory]及びモータ駆動回路などからなる。ECU24では、各センサ20,21RF,21LF,21RR,21LR,22から各検出信号を取り入れ、各検出信号に基づいて走行条件を判別する。ECU24では、各輪のショックアブソーバ2毎に、走行条件に応じてオイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度を設定し(つまり、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置を設定し)、その設定した接触程度に応じてストッパ部材17,・・・の回転量を求め、さらに、回転部材18(ひいては、リンク19)の回転量を求める。そして、ECU24では、各輪のリンク19がその設定した各回転量分回転するように、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23RF,23LF,23RR,23LRに駆動電流をそれぞれ供給する。なお、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度を設定する際、四輪全て同じ値が設定される場合、四輪全て異なる値が設定される場合、前輪と後輪とで異なる値が設定される場合、または、左輪と右輪とで異なる値が設定される場合がある。したがって、各輪のアクチュエータ23RF,23LF,23RR,23LRに供給される駆動電流は、同じ場合もあれば、異なる場合もある。
【0036】
走行条件としては、例えば、操舵角に基づいて直進中かあるいは操舵中、4輪のストローク量に基づいて路面の入力が大きいか否かである。直進中の場合、安定した走行が可能なので、乗心地を向上させるために、ECU24では、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として小さな値を設定する。操舵中の場合、ショックアブソーバ2の減衰力を迅速に作用させて操縦安定性を向上させるために、ECU24では、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として大きな値を設定する。路面からの入力が大きい場合、ショックアブソーバ2の減衰力を迅速に作用させて車両の姿勢変化を抑制するために、ECU24では、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として大きな値を設定する。特に、操舵中の場合、車速や操舵角の大きさなどに応じて、接触程度を段階的に大きな値に設定してもよい。
【0037】
図1〜図5を参照して、ショックアブソーバ装置1の動作について説明する。ここでは、直進している場合と操舵している場合の動作について説明する。
【0038】
操舵角センサ20では、一定時間毎に、ステアリングホイールから入力された操舵角を検出し、その操舵角信号をECU24に送信している。各輪のストロークセンサ21では、一定時間毎に、ショックアブソーバ2のストローク量を検出し、そのストローク信号をECU24に送信している。車速センサ22では、一定時間毎に、車両の速度を検出し、その車速信号をECU24に送信している。ECU24では、操舵角、各輪のストローク量や車速に基づいて走行条件を判定する。
【0039】
直進している場合について説明する。ECU24では、走行条件として直進と判定した場合、全ての車輪に対して、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として小さな値を設定する。そして、ECU24では、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置を内側に移動させるためのストッパ部材17,・・・の回転量を設定し、その回転量分ストッパ部材17を回転させるための回転部材18(ひいては、リンク19)の回転量を設定する。さらに、ECU24では、その回転量分リンク19を回転させるために、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23に駆動電流をそれぞれ供給する。
【0040】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク19を回転させる。リンク19の回転に応じて回転部材18が回転し、回転部材18の回転に応じてストッパ部材17,・・・が回転する。この回転によって、図3(a)に示すようにストッパ部材17,・・・が回転部材18の凹部と接触するようになり、図4(a)に示すようにストッパ部材17,・・・がピストンの半径方向に沿って内側に位置するようになる。その結果、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触する部分が少なくなり、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置とオイルシール15,16の最外端の位置との距離が長くなる。
【0041】
このとき、ピストン11が上下方向に移動すると(図4の例では、ショックアブソーバ2が伸び側)、オイルシール15,16がシリンダ10の内面に摺動する。この際、ストッパ部材17,・・・が内側に位置しているので、図4(a)に示すようにオイルシール15,16の外側部分は変形し易くなっている。そのため、オイルシール15,16は、せん断剛性が低下し、弾性摩擦力が小さくなる。その結果、ピストン11が動き始めたとき(ピストン11の速度が0付近)には、オイルシール15,16のシリンダ10との摩擦力がピストン11の変位に対して除々に増加していく。したがって、所定の大きさになるまで摩擦力が除々に作用するため、乗員に違和感を与えることなく、乗心地が向上する。
【0042】
操舵している場合について説明する。ECU24では、走行条件として操舵と判定した場合、全ての車輪に対して、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として大きな値を設定する。そして、ECU24では、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置を外側に移動させるためのストッパ部材17,・・・の回転量を設定し、その回転量分ストッパ部材17を回転させるための回転部材18(ひいては、リンク19)の回転量を設定する。さらに、ECU24では、その回転量分リンク19を回転させるために、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23に駆動電流をそれぞれ供給する。
【0043】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク19を回転させる。リンク19の回転に応じて回転部材18が回転し、回転部材18の回転に応じてストッパ部材17,・・・が回転する。この回転によって、図3(b)に示すようにストッパ部材17,・・・が回転部材18の凸部と接触するようになり、図4(b)に示すようにストッパ部材17,・・・がピストンの半径方向に沿って外側に位置するようになる。その結果、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触する部分が多くなり、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置とオイルシール15,16の最外端の位置との距離が短くなる。
【0044】
このとき、ピストン11が上下方向に移動すると、オイルシール15,16がシリンダ10の内面に摺動する。この際、ストッパ部材17,・・・が外側に位置しているので、図4(b)に示すようにオイルシール15,16の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15,16は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン11が動き始めたときには、オイルシール15,16のシリンダ10との摩擦力がピストン11の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ2の減衰力も迅速に作用し、操縦安定性が向上する。
【0045】
図6には、ピストン11の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化を示している。ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を小さくした場合の摩擦力の変化を破線で示しており、小さな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配(変化率)が小さく、ピストン11の変位に対して摩擦力が緩やかに変化する。ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を大きくした場合の摩擦力の変化を太線で示しており、大きな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配が大きく、ピストン11の変位に対して摩擦力が急速に変化する。ちなみに、従来のショックアブソーバにおける摩擦力の変化を一点鎖線で示しており、ピストン11の変位に対して摩擦力が急激に立ち上がる。
【0046】
このショックアブソーバ装置1によれば、ストッパ部材17,・・・をピストン11の径方向に移動させることによって、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を変化させることができる。これによって、オイルシール15,16の弾性摩擦特性を変更することができるので、その弾性摩擦特性によりピストン11の変位に対してオイルシール15,16の摩擦力の変化勾配を変化させることができる。特に、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を小さくすることによって、摩擦力の変化勾配を小さくでき、乗心地を向上させることができる。また、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を大きくすることによって、摩擦力の変化勾配を大きくしでき、操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができる。その結果、ショックアブソーバ装置1では、走行状況に応じて乗心地と車両の安定性との両立を図ることができる。
【0047】
さらに、ショックアブソーバ装置1によれば、ストッパ部材17,・・・をオイルシール15,16に沿って移動させるので、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度(ひいては、弾性摩擦特性)を高精度に変化させることができる。
【0048】
図7及び図8を参照して、第2の実施の形態に係るショックアブソーバ装置31について説明する。図7は、第2の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。図8は、第2の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。なお、ショックアブソーバ装置31では、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
ショックアブソーバ装置31は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と比較すると、ショックアブソーバ32のピストン41内に設けられるストッパ部材47(特許請求の範囲に記載する弾性摩擦変更部材に相当)が異なる。ストッパ部材47は、外周端部の形状が第1の実施の形態に係るストッパ部材17と異なる。ストッパ部材47の外周端部には、その全周にわたって、上面と下面にテーパ部47b,47cが形成されている。テーパ部47bとテーパ部47cとは傾斜角度が異なっており、テーパ部47bの傾斜角度の方がテーパ部47cの傾斜角度より小さい。したがって、ストッパ部材47は、オイルシール15,16が変形していない場合、上面の方が下面よりオイルシール15,16との接触程度が大きくかつテーパ部47bの面の方がテーパ部47cの面よりオイルシール15,16に接近している。
【0050】
図7及び図8を参照して、ショックアブソーバ装置31の動作について説明する。ここで、ショックアブソーバ32が伸び側の場合と縮み側の場合について説明する。
【0051】
ショックアブソーバ32が伸び側の場合について説明する。ピストン41が上方向に移動すると、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が下方向に変形する。この際、ストッパ部材47の上面のテーパ部47bの傾斜角度が小さいので、図8(a)に示すように、上側のオイルシール15は、変形後、テーパ部47bの面に接触するまであまり時間を要さない。したがって、ピストン41が上方向に移動し始めてから迅速にオイルシール15とストッパ部材47の上面との接触程度が大きくなり、オイルシール15の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン41が上方向に動き始めたときには、オイルシール15のシリンダ10との摩擦力がピストン41の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ32の減衰力も直ちに作用し、操縦安定性や姿勢安定性が向上する。
【0052】
ショックアブソーバ32が縮み側の場合について説明する。ピストン41が下方向に移動すると、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が上方向に変形する。この際、ストッパ部材47の下面のテーパ部47cの傾斜角度が大きいので、図8(b)に示すように、下側のオイルシール16は、変形後、テーパ部47bの面に接触するまである程度時間を要する。したがって、ピストン41が下方向に移動し始めてから直ぐにはオイルシール16とストッパ部材47の下面との接触程度が大きくならず、オイルシール16の外側部分は変形し易くなっている。そのため、オイルシール16は、せん断剛性が低下し、弾性摩擦力が小さくなる。その結果、ピストン41が下方向に動き始めたときには、オイルシール16のシリンダ10との摩擦力がピストン41の変位に対して除々に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が除々に作用するため、乗員に違和感を与えることなく、乗心地が向上する。
【0053】
図9には、ピストン41の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化を示している。ショックアブソーバ32が伸び側の場合の摩擦力の変化を矢印を有する太線で示しており、大きな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配が大きく、ピストン41の変位に対して摩擦力が急速に変化する。ショックアブソーバ32が縮み側の場合の摩擦力の変化を矢印を有する破線で示しており、小さな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配が小さく、ピストン41の変位に対して摩擦力が緩やかに変化する。
【0054】
このショックアブソーバ装置31によれば、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と同様の効果を有する上に、ストッパ部材47の上面と下面に傾斜角度が異なるテーパ部47b,47cを形成するという簡単な構成により、ショックアブソーバ32の伸び側と縮み側とで弾性摩擦特性を変化させることができ、ショックアブソーバ32の伸び側と縮み側とでその弾性摩擦特性によりピストン41の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化勾配を変化させることができる。これによって、ショックアブソーバ32が伸び側の場合には車両を安定させることができ、ショックアブソーバ32が縮み側の場合には乗心地を安定させることができる。
【0055】
図5、図10及び図11を参照して、第3の実施の形態に係るショックアブソーバ装置51について説明する。図10は、第3の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。図11は、第3の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。なお、ショックアブソーバ装置51では、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0056】
ショックアブソーバ装置51は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と比較すると、ピストンにおけるオイルシールの弾性摩擦特性を変更させる手法が異なる。ショックアブソーバ装置51では、ストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させることによって、オイルシールの弾性摩擦特性を変更する。ショックアブソーバ装置51は、ショックアブソーバ52と制御部53からなる。
【0057】
ショックアブソーバ52は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ2と比較すると、ストッパ部材67を移動させるための機構が異なる。上下のオイルシール15,16との間には、ストッパ部材67(特許請求の範囲に記載する弾性摩擦変更部材に相当)が配置されている。オイルシール15,16の間隔はストッパ部材67の厚みより広く設定され、ストッパ部材67はオイルシール15,16間を上下方向に移動できる。ストッパ部材67は、オイルシール15,16より剛性が大きく、オイルシール15,16が変形したときのストッパとして機能する。ストッパ部材67は、円環状であり、最外端の径がオイルシール15,16の最外端の径より少し小さい径を有し、最内端の径がオイルシール15,16の最内端の径より小さい径を有する。ストッパ部材67は、その外周側の形状が断面視して半球状であり、その内周側の形状が面状である。
【0058】
ストッパ部材67の内側には、上下移動部材68が取り付けられている。上下移動部材68は、リンク69の回転を上下方向の移動に変換し、ストッパ部材67を上下方向に移動させる部材である。上下移動部材68は、外周端面がストッパ部材67の内周面に嵌まる外周形状を有している。
【0059】
上下移動部材68には、その中心部にリンク69が嵌る孔が形成されており、その孔を形成する内面に雌ねじ部68aが設けられている。リンク69は、上下移動部材68の孔に嵌め込まれ、上下移動部材68の雌ねじ部68aと螺合する。そのために、リンク69の外面には、上下移動部材68が上下方向に移動可能な範囲に雄ねじ部69aが設けられている。リンク69は、ピストンロッド12内に回転自在に収納されている。リンク69は上下方向の位置が固定なので、リンク69が一方の方向に回転すると上下移動部材68が上方向に移動し、リンク69が他方の方向に回転すると上下移動部材68が下方向に移動する。
【0060】
制御部53は、ストッパ部材67,・・・とオイルシール15,16との接触度合いを制御するために、リンク69を回転駆動して上下移動部材68を上下方向に移動させることによってストッパ部材67を上下移動させる。そのために、制御部53は、第1の実施の形態に係る制御部3と同様のセンサとアクチュエータ及びECU74を備えている。
【0061】
ECU74は、CPU、ROM、RAM及びモータ駆動回路などからなる。ECU74では、各センサ20,21RF,21LF,21RR,21LR,22から各検出信号を取り入れ、各検出信号に基づいて走行条件を判別する。ECU74では、各輪のショックアブソーバ52に毎に、走行条件に応じてストッパ部材67(ひいては、上下移動部材68)の上下方向の移動量を設定し、その設定した移動量に応じてリンク69の回転量を求める。そして、ECU74では、各輪のリンク69がその設定した各回転量分回転するように、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23RF,23LF,23RR,23LRに駆動電流をそれぞれ供給する。なお、ストッパ部材67の上下方向の移動量を設定する際、四輪全て同じ値が設定される場合、四輪全て異なる値が設定される場合、前輪と後輪とで異なる値が設定される場合、あるいは、左輪と右輪とで異なる値が設定される場合がある。上下方向の移動量としては、ストッパ部材67が上側のオイルシール15又は下側のオイルシール16に接触するまでの移動量でもよいし、あるいは、ストッパ部材67がオイルシール15,16間を段階的に移動するための移動量でもよい。
【0062】
走行条件としては、例えば、車速に基づいて通常走行中かあるいは制動中かである。通常走行中の場合、ECU74では、全輪に対して、ストッパ部材67を上側のオイルシール15と接触させるための移動量を設定する。制動中の場合、ECU74では、前輪に対して、ストッパ部材67を下側のオイルシール16と接触させるための移動量を設定し、後輪に対して、ストッパ部材67を上側のオイルシール15と接触させるための移動量を設定する。
【0063】
図5、図10及び図11を参照して、ショックアブソーバ装置51の動作について説明する。ここでは、通常走行中の場合と制動中の場合の動作について説明する。
【0064】
通常走行中の場合について説明する。ECU74では、走行条件として通常走行と判定した場合、全ての車輪に対して、ストッパ部材67が上側のオイルシール15と接触するための移動量を設定する。そして、ECU74では、その移動量分ストッパ部材67を上方向に移動させるためのリンク69の回転量を設定する。さらに、ECU74では、その回転量分リンク69を回転させるために、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23に駆動電流をそれぞれ供給する。なお、ストッパ部材67がオイルシール15に既に接触している場合には移動量が0であり、各アクチュエータ23に駆動電流が供給されない。
【0065】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク69を回転させる。リンク69の回転に応じて上下移動部材68が上方向に移動し、上下移動部材68の移動に応じてストッパ部材67が上方向に移動する。この移動によって、図11に示すように、ストッパ部材67がオイルシール15と接触した状態になる。
【0066】
この場合、ピストン61が上方向に移動すると(ショックアブソーバ52が伸び側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が下方向に変形する。この際、図11(a)に示すように、ストッパ部材67とオイルシール15とが接触しているので、オイルシール15の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン61が上方向に動き始めたときには、オイルシール15のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ52の減衰力も迅速に作用し、操縦安定性や姿勢安定性が向上する。
【0067】
一方、ピストン61が下方向に移動すると(ショックアブソーバ52が縮み側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が上方向に変形する。この際、図11(b)に示すように、ストッパ部材67とオイルシール16とは離間しているので、オイルシール16の外側部分は変形し易くなっており、オイルシール16がストッパ部材67に接触するまである程度時間を要し、その接触程度も非常に小さい。そのため、オイルシール16は、せん断剛性が低下し、弾性摩擦力が小さくなる。その結果、ピストン61が下方向に動き始めたときには、オイルシール16のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して除々に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が除々に作用するため、乗員に違和感を与えることなく、乗心地が向上する。
【0068】
このようにストッパ部材67をオイルシール15に接触させることによっても、ショックアブソーバ52の伸縮に対して、第2の実施の形態で説明した図9に示すようなピストン41の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化と同様の結果が得られる。
【0069】
制動中の場合について説明する。ECU74では、走行条件として制動と判定した場合、前輪に対してストッパ部材67が下側のオイルシール16と接触するための移動量を設定し、後輪に対してストッパ部材67が上側のオイルシール15と接触するための移動量を設定する。そして、ECU74では、前輪に対してその移動量分ストッパ部材67を下方向に移動させるためのリンク69の回転量を設定し、後輪に対してその移動量分ストッパ部材67を上方向に移動させるためのリンク69の回転量を設定する。さらに、ECU74では、その回転量分リンク69を回転させるために、モータ駆動回路から前輪のアクチュエータ23RF,23LFと後輪のアクチュエータ23RR,23LRに駆動電流をそれぞれ供給する。なお、前輪においてストッパ部材67がオイルシール16に既に接触している場合には移動量が0であり、また、後輪においてストッパ部材67がオイルシール15に既に接触している場合には移動量が0であり、各アクチュエータ23に駆動電流が供給されない。
【0070】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク69を回転させる。前輪では、リンク69の回転に応じて上下移動部材68が下方向に移動し、上下移動部材68の移動に応じてストッパ部材67が下方向に移動する。この移動によって、ストッパ部材67がオイルシール16と接触した状態になる。一方、後輪では、リンク69の回転に応じて上下移動部材68が上方向に移動し、上下移動部材68の移動に応じてストッパ部材67が上方向に移動する。この移動によって、ストッパ部材67がオイルシール15と接触した状態になる。
【0071】
この場合、前輪側では、ピストン61が下方向に移動すると(ショックアブソーバ52が縮み側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が上方向に変形する。この際、ストッパ部材67と下側のオイルシール16とが接触しているので、オイルシール16の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール16は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン61が下方向に動き始めたときには、オイルシール16のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ52の減衰力も迅速に作用し、ショックアブソーバ52が縮み難くなる。
【0072】
一方、後輪側では、ピストン61が上方向に移動すると(ショックアブソーバ52が伸び側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が下方向に変形する。この際、ストッパ部材67と上側のオイルシール15とが接触しているので、オイルシール15の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン61が上方向に動き始めたときには、オイルシール15のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ52の減衰力も迅速に作用し、ショックアブソーバ52が伸び難くなる。
【0073】
このショックアブソーバ装置51によれば、ストッパ部材67をピストン11の軸方向に移動させることによって、ストッパ部材67とオイルシール15,16との接触程度を変化させることができる。これによって、オイルシール15,16の弾性摩擦特性を変更することができるので、その弾性摩擦特性によりピストン61の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化勾配を変化させることができる。特に、ストッパ部材67とオイルシール15とを接触状態とした場合、ショックアブソーバ52が縮み側のときには摩擦力の変化勾配を小さくでき、乗心地を向上させることができ、ショックアブソーバ52が伸び側のときには摩擦力の変化勾配を大きくでき、操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができる。その結果、ショックアブソーバ装置51では、走行状況に応じて乗心地と車両の安定性との両立を図ることができる。
【0074】
また、ショックアブソーバ装置51では、制動中の場合に前輪側をストッパ部材67とオイルシール16とを接触状態としかつ後輪側をストッパ部材67とオイルシール15とを接触状態とすることによって、前輪側のショックアブソーバ52を縮み難くするとともに後輪側のショックアブソーバ52を伸び難くし、制動中のノーズダイブを抑制することができる。
【0075】
さらに、ショックアブソーバ装置51によれば、ストッパ部材67をピストン61の軸方向に沿って移動させるだけの簡単な構成により、弾性摩擦特性を変更することができる。
【0076】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0077】
例えば、本実施の形態ではノーマルのショックアブソーバに適用したが、減衰力を変更することができる制御式のショックアブソーバにも適用可能である。
【0078】
また、本実施の形態では油圧式のショックアブソーバに適用したが、油圧式以外のショックアブソーバにも適用可能である。
【0079】
また、本実施の形態ではオイルシールを上下に2つ備え、2つのオイルシールでストッパ部材を挟みこむ構成としたが、オイルシールを1つだけ備え、ストッパ部材に対して上方かあるいは下方にオイルシールが配置される構成としてもよい。
【0080】
また、本実施の形態ではピストン内にオイルシールや弾性摩擦を変更するための各部材を設ける構成としたが、ピストンとは別体でオイルシールや弾性摩擦を変更するための各部材を設ける構成としてもよい。
【0081】
また、本実施の形態ではセンサの検出値に基づいて所定の走行条件を設定し、その走行条件に応じてストッパ部材を制御する一例を示したが、走行条件やその走行条件に応じたストッパ部材に対する制御について特に限定するものでなく、様々な制御を行ってよい。
【0082】
また、第1、第2の実施の形態ではストッパ部材の最外端の位置をピストンの径方向に沿って変化させるために偏心した回転軸のストッパ部材を凹凸形状を有する回転部材で回転させる機構としたが、ストッパ部材の最外端の位置をピストンの径方向に沿って変化させることができる機構であれば特にその機構を限定しない。
【0083】
また、第2の実施の形態ではストッパ部材の最外端の位置が変化し、さらに、ストッパ部材の外周端部の上面と下面とをテーパ形状とする構成としたが、ストッパ部材の最外端の位置が固定でストッパ部材の外周端部の上面と下面とをテーパ形状とする構成としてもよい。この場合でも、上面と下面とでテーパの角度が異なっているので、ショックアブソーバの伸縮に応じてストッパ部材とオイルシールとの接触程度(テーパ部の上面側と下面側での接触する速さ)が変わるので、弾性摩擦特性を変更することができる。
【0084】
また、第3の実施の形態ではストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させるためにリンクの回転を上下移動部材で上下方向の移動に変換し、リンクを回転させることによってストッパ部材を上下移動させる機構としたが、ストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させることができる機構であれば特にその機構を限定しない。
【0085】
また、第3の実施の形態ではストッパ部材の先端部を球状としたが、第2の実施の形態のようにストッパ部材の先端部の上面と下面とを異なる角度のテーパ形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】第1の実施の形態に係るショックアブソーバの主要部の正断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す平面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。
【図4】第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。
【図5】本実施の形態に係るショックアブソーバ装置の制御部の構成図である。
【図6】第1の実施の形態に係るピストンの変位に対するオイルシールの摩擦特性を示す図である。
【図7】第2の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。
【図8】第2の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。
【図9】第2、第3の実施の形態に係るピストンの変位に対するオイルシールの摩擦特性を示す図である。
【図10】第3の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。
【図11】第3の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。
【符号の説明】
【0087】
1,31,51…ショックアブソーバ装置、2,32,52…ショックアブソーバ、3,53…制御部、10…シリンダ、10a…上側油室、10b…下側油室、10c…上蓋部、11,41,61…ピストン、12…ピストンロッド、13…上側保持部材、14…下側保持部材、15,16…オイルシール、17,47,67…ストッパ部材、17a…回転軸、47b,47c…テーパ部、18…回転部材、19,69…リンク、69a…雄ねじ部、20…操舵角センサ、21…ストロークセンサ、21RF…右前輪ストロークセンサ、21LF…左前輪ストロークセンサ、21RR…右後輪ストロークセンサ、21LR…左後輪ストロークセンサ、22…車速センサ、23…アクチュエータ、23RF…右前輪アクチュエータ、23LF…左前輪アクチュエータ、23RR…右後輪アクチュエータ、23LR…左後輪アクチュエータ、24,74…ECU、68…上下移動部材、68a…雌ねじ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ内を上下方向に移動するピストンを有するショックアブソーバ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ショックアブソーバ装置には、操縦安定性や乗心地を向上させるために、ショックアブソーバの減衰力を制御するものがある。特許文献1には、摩擦力を変化させることによって使用中の衝撃の変化に対応して減衰力を変更できる緩衝装置について開示されている。この緩衝装置は、相対運動自在に配置して一方の部材(ピストン棒)に接触するとともに径方向に伸縮自在な摩擦力付与環と当該摩擦力付与環を伸縮させるために圧力を加える圧力手段とを備え、加圧手段から摩擦力付与環に加える圧力を変化させることによって摩擦力付与環を径方向に伸縮させて他方の部材との摩擦抵抗を増減させる。
【特許文献1】実開平4−14831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の緩衝装置では、加圧による負荷荷重の変更によって摩擦力を変更しているので、発生する摩擦力の絶対的な大きさが変わる。この摩擦力はクーロン摩擦であり、ピストンの変位の変化に対して摩擦力が急に立ち上がる。そのため、ピストンが動き始めたときに(ピストンの速度がゼロ付近のときに)、摩擦力が急激に変化するので、乗心地が悪化し、乗員に違和感を与える。
【0004】
そこで、本発明は、乗り心地を向上させるショックアブソーバ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るショックアブソーバ装置は、シリンダ内を上下方向に移動するピストンを有するショックアブソーバ装置において、弾性体であり、ピストンの周方向に沿って設けられ、シリンダの内面で摺動するシール部材と、シール部材より剛性が大きく、シール部材の周方向に沿って配置され、シール部材との接触程度が可変である弾性摩擦変更部材とを備えることを特徴とする。
【0006】
このショックアブソーバ装置は、ピストンの周方向に沿ってシール部材が設けられており、シリンダ内でピストンが上下移動する際にシール部材がシリンダ内面に対して摺動する。さらに、ショックアブソーバ装置は、シール部材の周方向に沿ってシール部材より剛性が大きい弾性摩擦変更部材が配置され、弾性摩擦変更部材がシール部材に対して接触する程度が変化する。弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度が大きい場合、ピストンが移動するときに、シール部材が変形し難くなるので、シール部材のせん断剛性が高くなり、弾性摩擦が大きくなる。したがって、ピストンが動き始めたときに、シール部材による摩擦力が、迅速に、所定の大きさになるまで変化する。これによって、ショックアブソーバによる減衰力を迅速に作用させることができるので、操舵時(内外輪にストローク差がある場合)や路面からの入力が大きい場合(4輪間でストローク差がある場合)に、操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができる。一方、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度が小さい場合、ピストンが移動するときに、シール部材が変形し易くなるので、シール部材のせん断剛性が低くなり、弾性摩擦が小さくなる。したがって、ピストンが動き始めたときに、シール部材による摩擦力が、緩やかに、所定の大きさになるまで変化する。これによって、摩擦力が急に大きくならないので、直進時などの車両安定性のよい場合に、乗心地を向上させることができる。このように、ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦特性を変化させることができるので、走行状況に応じて操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができるとともに乗心地を安定させることができ、車両安定性と乗心地との両立を図ることができる。
【0007】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材の内側に配置され、外周端面の一部が弾性摩擦変更部材の外周端面の一部と接触し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している回転部材と、回転部材を回転させるアクチュエータとを備え、弾性摩擦変更部材は、回転部材の外側に沿って複数個配置され、シール部材に摺動し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している部材であり、アクチュエータが回転部材を回転させることによって、弾性摩擦変更部材と回転部材との接触位置が変わり、弾性摩擦変更部材の最外端の位置がピストンの径方向に沿って変わり、弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度が変化する構成としてもよい。
【0008】
このショックアブソーバ装置は、回転部材の外側に沿って複数個の弾性摩擦変更部材が互いの外周端面の一部が接触した状態で配置され、各弾性摩擦変更部材がシール部材に対して摺動するように配置されている。回転部材は、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化しており、回転中心から外周端まで長い部分もあれば、その部分より短い部分もある。弾性摩擦変更部材も、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化しており、回転中心から外周端まで長い部分もあれば、その部分より短い部分もある。したがって、回転部材に対して各弾性摩擦変更部材の接触する位置を変えることによって、弾性摩擦変更部材の最外端の位置が外側に広がったりあるいは内側に狭まったりする。そこで、ショックアブソーバ装置では、アクチュエータによって回転部材を回転させ、回転部材の回転に伴って各弾性摩擦変更部材も回転させて回転部材に対する各弾性摩擦変更部材の接触位置を変える。これによって、弾性摩擦変更部材の最外端の位置がピストンの半径方向に沿って変わり、弾性摩擦変更部材のシール部材に対する位置が変わる。弾性摩擦変更部材の最外端の位置が外側に広がった場合、シール部材との接触程度が大きくなり、弾性摩擦が大きくなる。一方、弾性摩擦変更部材の最外端の位置が内側に狭まった場合、シール部材との接触程度が小さくなり、弾性摩擦が小さくなる。このように、ショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材をシール部材に対してピストンの径方向に沿って移動させることによって、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度(ひいては、弾性摩擦特性)を高精度に変化させることができる。
【0009】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材をピストンの軸方向に沿って移動させるアクチュエータを備え、アクチュエータが弾性摩擦変更部材を移動させることによって、弾性摩擦変更部材がシール部材に接触/非接触し、弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度が変化する構成としてもよい。
【0010】
このショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材がピストンの軸方向に沿って移動自在であり、弾性摩擦変更部材がシール部材に対して接触した状態あるいは離間した状態になることが可能である。弾性摩擦変更部材がシール部材に接触している場合、シール部材との接触程度が大きくなり、弾性摩擦が大きくなる。一方、弾性摩擦変更部材がシール部材に接触していない場合、シール部材との接触程度が小さくなり、弾性摩擦が小さくなる。そこで、ショックアブソーバ装置では、アクチュエータによって弾性摩擦部材を移動させ、弾性摩擦変更部材をシール部材に対して接触状態又は非接触状態として回転部材に対する各弾性摩擦変更部材の接触位置を変える。このように、ショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材をピストンの軸方向に沿って移動させるだけの簡単な構成によって、弾性摩擦特性を変更することができる。
【0011】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材の外周端部は、上面及び下面がテーパ形状であり、上面と下面とでテーパの傾斜角度が異なる構成としてもよい。
【0012】
このショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材の外周端部の上面と下面にそれぞれテーパ形状が形成されており、そのテーパの傾斜角度が異なっている。そのため、ショックアブソーバ装置では、ピストンが上下方向に移動することによるショックアブソーバの伸縮方向によって、弾性摩擦変更部材の上面側と下面側とでシール部材との接触程度が変えることができる。このように、ショックアブソーバ装置では、簡単な構成によって接触程度を変えることができ、弾性摩擦特性を変えることができる。
【0013】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、シール部材は、少なくとも2個備えられ、弾性摩擦変更部材は、上下からシール部材に挟まれる構成としてもよい。
【0014】
このショックアブソーバ装置は、複数個のシール部材を備えており、弾性摩擦変更部材が上下からシール部材によって挟まれた状態で配置されている。このように、弾性摩擦変更部材がシール部材に挟まれているので、弾性摩擦変更部材と上下のシール部材との接触程度によって弾性摩擦特性をより効果的に変化させることができる。なお、弾性摩擦変更部材がピストンの軸方向に沿って移動させることによってシール部材との接触状態を変える構成の場合、弾性摩擦変更部材が一方側のシール部材に接触している場合には他方側のシール部材と非接触状態となる。
【0015】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、ピストンの移動に応じて弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度を変化させる構成としてもよい。
【0016】
このショックアブソーバ装置では、ピストンが上下方向に移動することによるショックアブソーバの伸縮方向に応じて、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度を変化させる。この接触程度を変化させる手法としては、例えば、弾性摩擦変更部材をピストンの軸方向に沿って移動させたり、あるいは、弾性摩擦変更部材の外周端部に上面と下面との異なる角度でテーパ形状を形成する。
【0017】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、ピストンが縮み方向に移動した場合より伸び方向に移動した場合に弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度を大きくすると好適である。
【0018】
このショックアブソーバ装置は、ピストンの上方向に移動することによってショックアブソーバが伸び方向に移動した場合、縮み方向に移動した場合より弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度を大きくする。つまり、ショックアブソーバが伸び側の場合、弾性摩擦変更部材の上面とシール部材との接触程度を大きくすることによって、せん断剛性を高くし、弾性摩擦を大きくして、操縦安定性や姿勢安定性を向上させるとともに車両の重心が高くなるのを抑制する。一方、ショックアブソーバが縮み側の場合、弾性摩擦変更部材の下面とシール部材との接触程度を小さくすることによって、せん断剛性を低くし、弾性摩擦を小さくして、乗心地を向上させる。
【0019】
本発明の上記ショックアブソーバ装置では、弾性摩擦変更部材のシール部材との接触程度を前輪側と後輪側とで異なる大きさにする構成としてもよい。
【0020】
このショックアブソーバ装置は、弾性摩擦変更部材とシール部材との接触程度を前輪側と後輪側とで異なる大きさにする。例えば、制動時、前輪では、ショックアブソーバの縮み方向に移動した場合には弾性摩擦変更部材の下面とシール部材との接触程度を大きくすることによって、せん断剛性を高くし、弾性摩擦を大きくて、ショックアブソーバを縮み難くする。また、後輪では、ショックアブソーバの伸び方向に移動した場合には弾性摩擦変更部材の上面とシール部材との接触程度を大きくすることによって、せん断剛性を高くし、弾性摩擦を大きくして、ショックアブソーバを伸び難くする。これによって、制動時のノーズダイブを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、弾性摩擦特性を変化させることによって、乗り心地を向上させることができ、乗心地と車両の安定性との両立を図ることができる、
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係るショックアブソーバ装置の実施の形態を説明する。
【0023】
本実施の形態では、本発明を、自動車の四輪にそれぞれ設けられているショックアブソーバ装置に適用する。本実施の形態に係るショックアブソーバ装置は、油圧式であり、減衰力制御のないノーマルのショックアブソーバである。本実施の形態に係るショックアブソーバ装置は、ピストン内に上下に配置されるオイルシールに挟まれたストッパ部材を備えており、ストッパ部材とオイルシールとの接触程度を変化させることによってオイルシールの弾性摩擦特性を変更する。本実施の形態には、3つの形態があり、第1の実施の形態がストッパ部材をピストンの径方向に沿って移動させることによって接触程度を変化させる形態であり、第2の実施の形態が第1の実施の形態の構成に対してストッパ部材の外周端部の上面と下面をテーパ形状とする形態であり、第3の実施の形態がストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させることによって接触程度を変化させる形態である。
【0024】
図1〜図5を参照して、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバの主要部の正断面図である。図2は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。図3は、第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す平面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。図4は、第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。図5は、本実施の形態に係るショックアブソーバ装置の制御部の構成図である。
【0025】
ショックアブソーバ装置1は、サスペンションにかかるショックを吸収し、サスペンションにおける不要な上下動を吸収する装置である。特に、ショックアブソーバ装置1は、乗心地と車両の安定性との両立を図るために、ストッパ部材をピストンの径方向に沿って移動させることによって接触程度を変化させ、オイルシールの弾性摩擦特性を変更する。ショックアブソーバ装置1は、ショックアブソーバ2と制御部3からなる。
【0026】
ショックアブソーバ2は、下端部は車輪側に結合され、上端部が車体側に結合されている。ショックアブソーバ2は、円筒状のシリンダ10内にその内面に摺動するピストン11が収納されており、ピストン11によってシリンダ10内に上側油室10aと下側油室10bを形成している。ピストン11の内部にはオリフィス(図示せず)が設けられており、オリフィスによって上側油室10aと下側油室10bとを連通している。ピストン11には、ピストンロッド12が取り付けられている。ピストンロッド12は、シリンダ10の上蓋部10cから上下動自在に突出しており、その上端部が車体側に固定されている。
【0027】
ピストン11は、上端部に上側保持部材13が配置され、下端部に下側保持部材14が配置されている。各保持部材13,14は、シリンダ10の内面に沿った円形状である。上側保持部材13の下面にはオイルシール15(特許請求の範囲に記載するシール部材に相当)が取り付けられ、下側保持部材14の上面にはオイルシール16(特許請求の範囲に記載するシール部材に相当)が取り付けられている。オイルシール15,16は、ピストン11の軸方向に弾性を有する弾性体で形成されている。オイルシール15,16は、円環状であり、外周端面がシリンダ10の内面に摺接する。
【0028】
上下のオイルシール15,16との間には、周方向に沿って等間隔で8個のストッパ部材17,・・・(特許請求の範囲に記載する弾性摩擦変更部材に相当)が配置され、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16とは接している。ストッパ部材17は、オイルシール15,16より剛性が大きく、オイルシール15,16が変形したときのストッパとして機能する。ストッパ部材17は、ピストン11の半径より十分に小さい直径を有する円盤形状であり、その円盤の中心から偏心した位置に回転軸17aを有している。8個のストッパ部材17,・・・の各回転軸17a,・・・は、図3に示すように、オイルシール15,16の少し内側の同一の円周上に配置されている。
【0029】
ストッパ部材17は、偏心しているので、回転軸17a周りに回転することによってその最外端の位置がピストン11の径方向に沿って変わる。8個のストッパ部材17,・・・は、どのように回転した場合でも、その最外端の位置が全て同じ位置になるように配置されている。したがって、8個のストッパ部材17,・・・は、回転に応じて、8個全体で外側に広がったり、あるいは、8個全体で内側に狭まる。最も外側に広がった場合にはその最外端の位置がオイルシール15,16の最外端になるように設定され、最も内側に狭まった場合でもその最外端の位置がオイルシール15,16に挟まる位置になるように設定されている。したがって、ストッパ部材17,・・・が回転することによって、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触している程度が変化する。
【0030】
円周方向に沿って配置される8個のストッパ部材17の内側には、回転部材18(特許請求の範囲に記載する回転部材に相当)が配置されている。回転部材18は、リンク19の回転に応じて回転することによってストッパ部材17,・・・を回転させる部材である。回転部材18及びストッパ部材17,・・・は、回転部材18の回転に伴ってストッパ部材17が回転するように、その接触部分が摩擦係数の大きな部材によって形成されている。回転部材18は、外周端面がストッパ部材17,・・・の最内端の位置での外周端面と接する外周形状を有している。ストッパ部材17は回転によって最内端の位置が変化するので、回転部材18は、その変化に応じてストッパ部材17,・・・と接するように、外周形状が曲線状の凹凸形状を有している。8個のストッパ部材17,・・・が外側に広がっている場合には回転部材18の凸部分にストッパ部材17,・・・が接し、内側に狭まっている場合には回転部材18の凹部分にストッパ部材17,・・・が接する。
【0031】
回転部材18は、その中心位置が回転中心となっており、その中心部にリンク19が嵌る孔が形成されている。リンク19は、回転部材18の孔に嵌め込まれ、回転部材18に固定されている。リンク19は、ピストンロッド12内に回転自在に収納されている。
【0032】
制御部3は、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触度合いを制御するために、リンク19を回転駆動して回転部材18を回転させることによってストッパ部材17,・・・を回転させる。そのために、制御部3は、操舵角センサ20、右前輪ストロークセンサ21RF、左前輪ストロークセンサ21LF、右後輪ストロークセンサ21RR、左後輪ストロークセンサ21LR、車速センサ22、右前輪アクチュエータ23RF、左前輪アクチュエータ23LF、右後輪アクチュエータ23RR、左後輪アクチュエータ23LR及びECU[Electronic Control Unit]24を備えている。
【0033】
操舵角センサ20は、ステアリングホイールから入力される操舵角を検出するセンサであり、その検出値を操舵角信号としてECU24に送信する。各ストロークセンサ21は、各輪のショックアブソーバ2のストローク量を検出するセンサであり、その検出値を各ストローク信号としてECU24に送信する。車速センサ22は、車速を検出するセンサであり、その検出値を車速信号としてECU24に送信する。
【0034】
各アクチュエータ23は、モータや各種ギアを備えており、リンク19を回転させる。各アクチュエータ23では、ECU24から供給される各駆動電流に応じてモータが回転駆動し、そのモータの回転駆動力を各種ギアを介してリンク19に伝達する。
【0035】
ECU24は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random AccessMemory]及びモータ駆動回路などからなる。ECU24では、各センサ20,21RF,21LF,21RR,21LR,22から各検出信号を取り入れ、各検出信号に基づいて走行条件を判別する。ECU24では、各輪のショックアブソーバ2毎に、走行条件に応じてオイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度を設定し(つまり、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置を設定し)、その設定した接触程度に応じてストッパ部材17,・・・の回転量を求め、さらに、回転部材18(ひいては、リンク19)の回転量を求める。そして、ECU24では、各輪のリンク19がその設定した各回転量分回転するように、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23RF,23LF,23RR,23LRに駆動電流をそれぞれ供給する。なお、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度を設定する際、四輪全て同じ値が設定される場合、四輪全て異なる値が設定される場合、前輪と後輪とで異なる値が設定される場合、または、左輪と右輪とで異なる値が設定される場合がある。したがって、各輪のアクチュエータ23RF,23LF,23RR,23LRに供給される駆動電流は、同じ場合もあれば、異なる場合もある。
【0036】
走行条件としては、例えば、操舵角に基づいて直進中かあるいは操舵中、4輪のストローク量に基づいて路面の入力が大きいか否かである。直進中の場合、安定した走行が可能なので、乗心地を向上させるために、ECU24では、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として小さな値を設定する。操舵中の場合、ショックアブソーバ2の減衰力を迅速に作用させて操縦安定性を向上させるために、ECU24では、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として大きな値を設定する。路面からの入力が大きい場合、ショックアブソーバ2の減衰力を迅速に作用させて車両の姿勢変化を抑制するために、ECU24では、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として大きな値を設定する。特に、操舵中の場合、車速や操舵角の大きさなどに応じて、接触程度を段階的に大きな値に設定してもよい。
【0037】
図1〜図5を参照して、ショックアブソーバ装置1の動作について説明する。ここでは、直進している場合と操舵している場合の動作について説明する。
【0038】
操舵角センサ20では、一定時間毎に、ステアリングホイールから入力された操舵角を検出し、その操舵角信号をECU24に送信している。各輪のストロークセンサ21では、一定時間毎に、ショックアブソーバ2のストローク量を検出し、そのストローク信号をECU24に送信している。車速センサ22では、一定時間毎に、車両の速度を検出し、その車速信号をECU24に送信している。ECU24では、操舵角、各輪のストローク量や車速に基づいて走行条件を判定する。
【0039】
直進している場合について説明する。ECU24では、走行条件として直進と判定した場合、全ての車輪に対して、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として小さな値を設定する。そして、ECU24では、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置を内側に移動させるためのストッパ部材17,・・・の回転量を設定し、その回転量分ストッパ部材17を回転させるための回転部材18(ひいては、リンク19)の回転量を設定する。さらに、ECU24では、その回転量分リンク19を回転させるために、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23に駆動電流をそれぞれ供給する。
【0040】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク19を回転させる。リンク19の回転に応じて回転部材18が回転し、回転部材18の回転に応じてストッパ部材17,・・・が回転する。この回転によって、図3(a)に示すようにストッパ部材17,・・・が回転部材18の凹部と接触するようになり、図4(a)に示すようにストッパ部材17,・・・がピストンの半径方向に沿って内側に位置するようになる。その結果、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触する部分が少なくなり、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置とオイルシール15,16の最外端の位置との距離が長くなる。
【0041】
このとき、ピストン11が上下方向に移動すると(図4の例では、ショックアブソーバ2が伸び側)、オイルシール15,16がシリンダ10の内面に摺動する。この際、ストッパ部材17,・・・が内側に位置しているので、図4(a)に示すようにオイルシール15,16の外側部分は変形し易くなっている。そのため、オイルシール15,16は、せん断剛性が低下し、弾性摩擦力が小さくなる。その結果、ピストン11が動き始めたとき(ピストン11の速度が0付近)には、オイルシール15,16のシリンダ10との摩擦力がピストン11の変位に対して除々に増加していく。したがって、所定の大きさになるまで摩擦力が除々に作用するため、乗員に違和感を与えることなく、乗心地が向上する。
【0042】
操舵している場合について説明する。ECU24では、走行条件として操舵と判定した場合、全ての車輪に対して、オイルシール15,16とストッパ部材17,・・・との接触程度として大きな値を設定する。そして、ECU24では、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置を外側に移動させるためのストッパ部材17,・・・の回転量を設定し、その回転量分ストッパ部材17を回転させるための回転部材18(ひいては、リンク19)の回転量を設定する。さらに、ECU24では、その回転量分リンク19を回転させるために、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23に駆動電流をそれぞれ供給する。
【0043】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク19を回転させる。リンク19の回転に応じて回転部材18が回転し、回転部材18の回転に応じてストッパ部材17,・・・が回転する。この回転によって、図3(b)に示すようにストッパ部材17,・・・が回転部材18の凸部と接触するようになり、図4(b)に示すようにストッパ部材17,・・・がピストンの半径方向に沿って外側に位置するようになる。その結果、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触する部分が多くなり、ストッパ部材17,・・・の最外端の位置とオイルシール15,16の最外端の位置との距離が短くなる。
【0044】
このとき、ピストン11が上下方向に移動すると、オイルシール15,16がシリンダ10の内面に摺動する。この際、ストッパ部材17,・・・が外側に位置しているので、図4(b)に示すようにオイルシール15,16の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15,16は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン11が動き始めたときには、オイルシール15,16のシリンダ10との摩擦力がピストン11の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ2の減衰力も迅速に作用し、操縦安定性が向上する。
【0045】
図6には、ピストン11の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化を示している。ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を小さくした場合の摩擦力の変化を破線で示しており、小さな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配(変化率)が小さく、ピストン11の変位に対して摩擦力が緩やかに変化する。ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を大きくした場合の摩擦力の変化を太線で示しており、大きな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配が大きく、ピストン11の変位に対して摩擦力が急速に変化する。ちなみに、従来のショックアブソーバにおける摩擦力の変化を一点鎖線で示しており、ピストン11の変位に対して摩擦力が急激に立ち上がる。
【0046】
このショックアブソーバ装置1によれば、ストッパ部材17,・・・をピストン11の径方向に移動させることによって、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を変化させることができる。これによって、オイルシール15,16の弾性摩擦特性を変更することができるので、その弾性摩擦特性によりピストン11の変位に対してオイルシール15,16の摩擦力の変化勾配を変化させることができる。特に、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を小さくすることによって、摩擦力の変化勾配を小さくでき、乗心地を向上させることができる。また、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度を大きくすることによって、摩擦力の変化勾配を大きくしでき、操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができる。その結果、ショックアブソーバ装置1では、走行状況に応じて乗心地と車両の安定性との両立を図ることができる。
【0047】
さらに、ショックアブソーバ装置1によれば、ストッパ部材17,・・・をオイルシール15,16に沿って移動させるので、ストッパ部材17,・・・とオイルシール15,16との接触程度(ひいては、弾性摩擦特性)を高精度に変化させることができる。
【0048】
図7及び図8を参照して、第2の実施の形態に係るショックアブソーバ装置31について説明する。図7は、第2の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。図8は、第2の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。なお、ショックアブソーバ装置31では、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
ショックアブソーバ装置31は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と比較すると、ショックアブソーバ32のピストン41内に設けられるストッパ部材47(特許請求の範囲に記載する弾性摩擦変更部材に相当)が異なる。ストッパ部材47は、外周端部の形状が第1の実施の形態に係るストッパ部材17と異なる。ストッパ部材47の外周端部には、その全周にわたって、上面と下面にテーパ部47b,47cが形成されている。テーパ部47bとテーパ部47cとは傾斜角度が異なっており、テーパ部47bの傾斜角度の方がテーパ部47cの傾斜角度より小さい。したがって、ストッパ部材47は、オイルシール15,16が変形していない場合、上面の方が下面よりオイルシール15,16との接触程度が大きくかつテーパ部47bの面の方がテーパ部47cの面よりオイルシール15,16に接近している。
【0050】
図7及び図8を参照して、ショックアブソーバ装置31の動作について説明する。ここで、ショックアブソーバ32が伸び側の場合と縮み側の場合について説明する。
【0051】
ショックアブソーバ32が伸び側の場合について説明する。ピストン41が上方向に移動すると、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が下方向に変形する。この際、ストッパ部材47の上面のテーパ部47bの傾斜角度が小さいので、図8(a)に示すように、上側のオイルシール15は、変形後、テーパ部47bの面に接触するまであまり時間を要さない。したがって、ピストン41が上方向に移動し始めてから迅速にオイルシール15とストッパ部材47の上面との接触程度が大きくなり、オイルシール15の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン41が上方向に動き始めたときには、オイルシール15のシリンダ10との摩擦力がピストン41の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ32の減衰力も直ちに作用し、操縦安定性や姿勢安定性が向上する。
【0052】
ショックアブソーバ32が縮み側の場合について説明する。ピストン41が下方向に移動すると、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が上方向に変形する。この際、ストッパ部材47の下面のテーパ部47cの傾斜角度が大きいので、図8(b)に示すように、下側のオイルシール16は、変形後、テーパ部47bの面に接触するまである程度時間を要する。したがって、ピストン41が下方向に移動し始めてから直ぐにはオイルシール16とストッパ部材47の下面との接触程度が大きくならず、オイルシール16の外側部分は変形し易くなっている。そのため、オイルシール16は、せん断剛性が低下し、弾性摩擦力が小さくなる。その結果、ピストン41が下方向に動き始めたときには、オイルシール16のシリンダ10との摩擦力がピストン41の変位に対して除々に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が除々に作用するため、乗員に違和感を与えることなく、乗心地が向上する。
【0053】
図9には、ピストン41の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化を示している。ショックアブソーバ32が伸び側の場合の摩擦力の変化を矢印を有する太線で示しており、大きな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配が大きく、ピストン41の変位に対して摩擦力が急速に変化する。ショックアブソーバ32が縮み側の場合の摩擦力の変化を矢印を有する破線で示しており、小さな弾性摩擦力の作用により、摩擦力が変化する際の勾配が小さく、ピストン41の変位に対して摩擦力が緩やかに変化する。
【0054】
このショックアブソーバ装置31によれば、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と同様の効果を有する上に、ストッパ部材47の上面と下面に傾斜角度が異なるテーパ部47b,47cを形成するという簡単な構成により、ショックアブソーバ32の伸び側と縮み側とで弾性摩擦特性を変化させることができ、ショックアブソーバ32の伸び側と縮み側とでその弾性摩擦特性によりピストン41の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化勾配を変化させることができる。これによって、ショックアブソーバ32が伸び側の場合には車両を安定させることができ、ショックアブソーバ32が縮み側の場合には乗心地を安定させることができる。
【0055】
図5、図10及び図11を参照して、第3の実施の形態に係るショックアブソーバ装置51について説明する。図10は、第3の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。図11は、第3の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。なお、ショックアブソーバ装置51では、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0056】
ショックアブソーバ装置51は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ装置1と比較すると、ピストンにおけるオイルシールの弾性摩擦特性を変更させる手法が異なる。ショックアブソーバ装置51では、ストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させることによって、オイルシールの弾性摩擦特性を変更する。ショックアブソーバ装置51は、ショックアブソーバ52と制御部53からなる。
【0057】
ショックアブソーバ52は、第1の実施の形態に係るショックアブソーバ2と比較すると、ストッパ部材67を移動させるための機構が異なる。上下のオイルシール15,16との間には、ストッパ部材67(特許請求の範囲に記載する弾性摩擦変更部材に相当)が配置されている。オイルシール15,16の間隔はストッパ部材67の厚みより広く設定され、ストッパ部材67はオイルシール15,16間を上下方向に移動できる。ストッパ部材67は、オイルシール15,16より剛性が大きく、オイルシール15,16が変形したときのストッパとして機能する。ストッパ部材67は、円環状であり、最外端の径がオイルシール15,16の最外端の径より少し小さい径を有し、最内端の径がオイルシール15,16の最内端の径より小さい径を有する。ストッパ部材67は、その外周側の形状が断面視して半球状であり、その内周側の形状が面状である。
【0058】
ストッパ部材67の内側には、上下移動部材68が取り付けられている。上下移動部材68は、リンク69の回転を上下方向の移動に変換し、ストッパ部材67を上下方向に移動させる部材である。上下移動部材68は、外周端面がストッパ部材67の内周面に嵌まる外周形状を有している。
【0059】
上下移動部材68には、その中心部にリンク69が嵌る孔が形成されており、その孔を形成する内面に雌ねじ部68aが設けられている。リンク69は、上下移動部材68の孔に嵌め込まれ、上下移動部材68の雌ねじ部68aと螺合する。そのために、リンク69の外面には、上下移動部材68が上下方向に移動可能な範囲に雄ねじ部69aが設けられている。リンク69は、ピストンロッド12内に回転自在に収納されている。リンク69は上下方向の位置が固定なので、リンク69が一方の方向に回転すると上下移動部材68が上方向に移動し、リンク69が他方の方向に回転すると上下移動部材68が下方向に移動する。
【0060】
制御部53は、ストッパ部材67,・・・とオイルシール15,16との接触度合いを制御するために、リンク69を回転駆動して上下移動部材68を上下方向に移動させることによってストッパ部材67を上下移動させる。そのために、制御部53は、第1の実施の形態に係る制御部3と同様のセンサとアクチュエータ及びECU74を備えている。
【0061】
ECU74は、CPU、ROM、RAM及びモータ駆動回路などからなる。ECU74では、各センサ20,21RF,21LF,21RR,21LR,22から各検出信号を取り入れ、各検出信号に基づいて走行条件を判別する。ECU74では、各輪のショックアブソーバ52に毎に、走行条件に応じてストッパ部材67(ひいては、上下移動部材68)の上下方向の移動量を設定し、その設定した移動量に応じてリンク69の回転量を求める。そして、ECU74では、各輪のリンク69がその設定した各回転量分回転するように、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23RF,23LF,23RR,23LRに駆動電流をそれぞれ供給する。なお、ストッパ部材67の上下方向の移動量を設定する際、四輪全て同じ値が設定される場合、四輪全て異なる値が設定される場合、前輪と後輪とで異なる値が設定される場合、あるいは、左輪と右輪とで異なる値が設定される場合がある。上下方向の移動量としては、ストッパ部材67が上側のオイルシール15又は下側のオイルシール16に接触するまでの移動量でもよいし、あるいは、ストッパ部材67がオイルシール15,16間を段階的に移動するための移動量でもよい。
【0062】
走行条件としては、例えば、車速に基づいて通常走行中かあるいは制動中かである。通常走行中の場合、ECU74では、全輪に対して、ストッパ部材67を上側のオイルシール15と接触させるための移動量を設定する。制動中の場合、ECU74では、前輪に対して、ストッパ部材67を下側のオイルシール16と接触させるための移動量を設定し、後輪に対して、ストッパ部材67を上側のオイルシール15と接触させるための移動量を設定する。
【0063】
図5、図10及び図11を参照して、ショックアブソーバ装置51の動作について説明する。ここでは、通常走行中の場合と制動中の場合の動作について説明する。
【0064】
通常走行中の場合について説明する。ECU74では、走行条件として通常走行と判定した場合、全ての車輪に対して、ストッパ部材67が上側のオイルシール15と接触するための移動量を設定する。そして、ECU74では、その移動量分ストッパ部材67を上方向に移動させるためのリンク69の回転量を設定する。さらに、ECU74では、その回転量分リンク69を回転させるために、モータ駆動回路から各輪のアクチュエータ23に駆動電流をそれぞれ供給する。なお、ストッパ部材67がオイルシール15に既に接触している場合には移動量が0であり、各アクチュエータ23に駆動電流が供給されない。
【0065】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク69を回転させる。リンク69の回転に応じて上下移動部材68が上方向に移動し、上下移動部材68の移動に応じてストッパ部材67が上方向に移動する。この移動によって、図11に示すように、ストッパ部材67がオイルシール15と接触した状態になる。
【0066】
この場合、ピストン61が上方向に移動すると(ショックアブソーバ52が伸び側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が下方向に変形する。この際、図11(a)に示すように、ストッパ部材67とオイルシール15とが接触しているので、オイルシール15の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン61が上方向に動き始めたときには、オイルシール15のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ52の減衰力も迅速に作用し、操縦安定性や姿勢安定性が向上する。
【0067】
一方、ピストン61が下方向に移動すると(ショックアブソーバ52が縮み側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が上方向に変形する。この際、図11(b)に示すように、ストッパ部材67とオイルシール16とは離間しているので、オイルシール16の外側部分は変形し易くなっており、オイルシール16がストッパ部材67に接触するまである程度時間を要し、その接触程度も非常に小さい。そのため、オイルシール16は、せん断剛性が低下し、弾性摩擦力が小さくなる。その結果、ピストン61が下方向に動き始めたときには、オイルシール16のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して除々に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が除々に作用するため、乗員に違和感を与えることなく、乗心地が向上する。
【0068】
このようにストッパ部材67をオイルシール15に接触させることによっても、ショックアブソーバ52の伸縮に対して、第2の実施の形態で説明した図9に示すようなピストン41の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化と同様の結果が得られる。
【0069】
制動中の場合について説明する。ECU74では、走行条件として制動と判定した場合、前輪に対してストッパ部材67が下側のオイルシール16と接触するための移動量を設定し、後輪に対してストッパ部材67が上側のオイルシール15と接触するための移動量を設定する。そして、ECU74では、前輪に対してその移動量分ストッパ部材67を下方向に移動させるためのリンク69の回転量を設定し、後輪に対してその移動量分ストッパ部材67を上方向に移動させるためのリンク69の回転量を設定する。さらに、ECU74では、その回転量分リンク69を回転させるために、モータ駆動回路から前輪のアクチュエータ23RF,23LFと後輪のアクチュエータ23RR,23LRに駆動電流をそれぞれ供給する。なお、前輪においてストッパ部材67がオイルシール16に既に接触している場合には移動量が0であり、また、後輪においてストッパ部材67がオイルシール15に既に接触している場合には移動量が0であり、各アクチュエータ23に駆動電流が供給されない。
【0070】
各輪のアクチュエータ23では、供給された駆動電流に応じてモータが回転駆動し、リンク69を回転させる。前輪では、リンク69の回転に応じて上下移動部材68が下方向に移動し、上下移動部材68の移動に応じてストッパ部材67が下方向に移動する。この移動によって、ストッパ部材67がオイルシール16と接触した状態になる。一方、後輪では、リンク69の回転に応じて上下移動部材68が上方向に移動し、上下移動部材68の移動に応じてストッパ部材67が上方向に移動する。この移動によって、ストッパ部材67がオイルシール15と接触した状態になる。
【0071】
この場合、前輪側では、ピストン61が下方向に移動すると(ショックアブソーバ52が縮み側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が上方向に変形する。この際、ストッパ部材67と下側のオイルシール16とが接触しているので、オイルシール16の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール16は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン61が下方向に動き始めたときには、オイルシール16のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ52の減衰力も迅速に作用し、ショックアブソーバ52が縮み難くなる。
【0072】
一方、後輪側では、ピストン61が上方向に移動すると(ショックアブソーバ52が伸び側になると)、オイルシール15,16は、シリンダ10の内面と接触している側が下方向に変形する。この際、ストッパ部材67と上側のオイルシール15とが接触しているので、オイルシール15の外側部分は変形し難くなっている。そのため、オイルシール15は、せん断剛性が高くなり、弾性摩擦力が大きくなる。その結果、ピストン61が上方向に動き始めたときには、オイルシール15のシリンダ10との摩擦力がピストン61の変位に対して迅速に増加していく。したがって、所定の大きさの摩擦力が直ぐに作用するため、ショックアブソーバ52の減衰力も迅速に作用し、ショックアブソーバ52が伸び難くなる。
【0073】
このショックアブソーバ装置51によれば、ストッパ部材67をピストン11の軸方向に移動させることによって、ストッパ部材67とオイルシール15,16との接触程度を変化させることができる。これによって、オイルシール15,16の弾性摩擦特性を変更することができるので、その弾性摩擦特性によりピストン61の変位に対するオイルシール15,16の摩擦力の変化勾配を変化させることができる。特に、ストッパ部材67とオイルシール15とを接触状態とした場合、ショックアブソーバ52が縮み側のときには摩擦力の変化勾配を小さくでき、乗心地を向上させることができ、ショックアブソーバ52が伸び側のときには摩擦力の変化勾配を大きくでき、操縦安定性や姿勢安定性を向上させることができる。その結果、ショックアブソーバ装置51では、走行状況に応じて乗心地と車両の安定性との両立を図ることができる。
【0074】
また、ショックアブソーバ装置51では、制動中の場合に前輪側をストッパ部材67とオイルシール16とを接触状態としかつ後輪側をストッパ部材67とオイルシール15とを接触状態とすることによって、前輪側のショックアブソーバ52を縮み難くするとともに後輪側のショックアブソーバ52を伸び難くし、制動中のノーズダイブを抑制することができる。
【0075】
さらに、ショックアブソーバ装置51によれば、ストッパ部材67をピストン61の軸方向に沿って移動させるだけの簡単な構成により、弾性摩擦特性を変更することができる。
【0076】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0077】
例えば、本実施の形態ではノーマルのショックアブソーバに適用したが、減衰力を変更することができる制御式のショックアブソーバにも適用可能である。
【0078】
また、本実施の形態では油圧式のショックアブソーバに適用したが、油圧式以外のショックアブソーバにも適用可能である。
【0079】
また、本実施の形態ではオイルシールを上下に2つ備え、2つのオイルシールでストッパ部材を挟みこむ構成としたが、オイルシールを1つだけ備え、ストッパ部材に対して上方かあるいは下方にオイルシールが配置される構成としてもよい。
【0080】
また、本実施の形態ではピストン内にオイルシールや弾性摩擦を変更するための各部材を設ける構成としたが、ピストンとは別体でオイルシールや弾性摩擦を変更するための各部材を設ける構成としてもよい。
【0081】
また、本実施の形態ではセンサの検出値に基づいて所定の走行条件を設定し、その走行条件に応じてストッパ部材を制御する一例を示したが、走行条件やその走行条件に応じたストッパ部材に対する制御について特に限定するものでなく、様々な制御を行ってよい。
【0082】
また、第1、第2の実施の形態ではストッパ部材の最外端の位置をピストンの径方向に沿って変化させるために偏心した回転軸のストッパ部材を凹凸形状を有する回転部材で回転させる機構としたが、ストッパ部材の最外端の位置をピストンの径方向に沿って変化させることができる機構であれば特にその機構を限定しない。
【0083】
また、第2の実施の形態ではストッパ部材の最外端の位置が変化し、さらに、ストッパ部材の外周端部の上面と下面とをテーパ形状とする構成としたが、ストッパ部材の最外端の位置が固定でストッパ部材の外周端部の上面と下面とをテーパ形状とする構成としてもよい。この場合でも、上面と下面とでテーパの角度が異なっているので、ショックアブソーバの伸縮に応じてストッパ部材とオイルシールとの接触程度(テーパ部の上面側と下面側での接触する速さ)が変わるので、弾性摩擦特性を変更することができる。
【0084】
また、第3の実施の形態ではストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させるためにリンクの回転を上下移動部材で上下方向の移動に変換し、リンクを回転させることによってストッパ部材を上下移動させる機構としたが、ストッパ部材をピストンの軸方向に沿って移動させることができる機構であれば特にその機構を限定しない。
【0085】
また、第3の実施の形態ではストッパ部材の先端部を球状としたが、第2の実施の形態のようにストッパ部材の先端部の上面と下面とを異なる角度のテーパ形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】第1の実施の形態に係るショックアブソーバの主要部の正断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す平面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。
【図4】第1の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がストッパ部材が内側に狭まり、接触程度が小さくなった場合であり、(b)がストッパ部材が外側に広がり、接触程度が大きくなった場合である。
【図5】本実施の形態に係るショックアブソーバ装置の制御部の構成図である。
【図6】第1の実施の形態に係るピストンの変位に対するオイルシールの摩擦特性を示す図である。
【図7】第2の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。
【図8】第2の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。
【図9】第2、第3の実施の形態に係るピストンの変位に対するオイルシールの摩擦特性を示す図である。
【図10】第3の実施の形態に係るショックアブソーバのピストン部分の正断面図である。
【図11】第3の実施の形態に係るストッパ部材とオイルシールとの接触程度を示す正断面図であり、(a)がショックアブソーバの伸び側のときにストッパ部材の上面との接触が速い場合であり、(b)がショックアブソーバの縮み側のときにストッパ部材の下面との接触が遅い場合である。
【符号の説明】
【0087】
1,31,51…ショックアブソーバ装置、2,32,52…ショックアブソーバ、3,53…制御部、10…シリンダ、10a…上側油室、10b…下側油室、10c…上蓋部、11,41,61…ピストン、12…ピストンロッド、13…上側保持部材、14…下側保持部材、15,16…オイルシール、17,47,67…ストッパ部材、17a…回転軸、47b,47c…テーパ部、18…回転部材、19,69…リンク、69a…雄ねじ部、20…操舵角センサ、21…ストロークセンサ、21RF…右前輪ストロークセンサ、21LF…左前輪ストロークセンサ、21RR…右後輪ストロークセンサ、21LR…左後輪ストロークセンサ、22…車速センサ、23…アクチュエータ、23RF…右前輪アクチュエータ、23LF…左前輪アクチュエータ、23RR…右後輪アクチュエータ、23LR…左後輪アクチュエータ、24,74…ECU、68…上下移動部材、68a…雌ねじ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を上下方向に移動するピストンを有するショックアブソーバ装置において、
弾性体であり、前記ピストンの周方向に沿って設けられ、前記シリンダの内面で摺動するシール部材と、
前記シール部材より剛性が大きく、前記シール部材の周方向に沿って配置され、前記シール部材との接触程度が可変である弾性摩擦変更部材と
を備えることを特徴とするショックアブソーバ装置。
【請求項2】
前記弾性摩擦変更部材の内側に配置され、外周端面の一部が前記弾性摩擦変更部材の外周端面の一部と接触し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している回転部材と、
前記回転部材を回転させるアクチュエータと
を備え、
前記弾性摩擦変更部材は、前記回転部材の外側に沿って複数個配置され、前記シール部材に摺動し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している部材であり、
前記アクチュエータが前記回転部材を回転させることによって、前記弾性摩擦変更部材と前記回転部材との接触位置が変わり、前記弾性摩擦変更部材の最外端の位置が前記ピストンの径方向に沿って変わり、前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度が変化することを特徴とする請求項1に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項3】
前記弾性摩擦変更部材を前記ピストンの軸方向に沿って移動させるアクチュエータを備え、
前記アクチュエータが前記弾性摩擦変更部材を移動させることによって、前記弾性摩擦変更部材が前記シール部材に接触/非接触し、前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度が変化することを特徴とする請求項1に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項4】
前記弾性摩擦変更部材の外周端部は、上面及び下面がテーパ形状であり、上面と下面とでテーパの傾斜角度が異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項5】
前記シール部材は、少なくとも2個備えられ、
前記弾性摩擦変更部材は、上下から前記シール部材に挟まれることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項6】
前記ピストンの移動に応じて前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度を変化させることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項7】
前記ピストンが縮み方向に移動した場合より伸び方向に移動した場合に前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度を大きくすることを特徴とする請求項6に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項8】
前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度を前輪側と後輪側とで異なる大きさにすることを特徴とする請求項6に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項1】
シリンダ内を上下方向に移動するピストンを有するショックアブソーバ装置において、
弾性体であり、前記ピストンの周方向に沿って設けられ、前記シリンダの内面で摺動するシール部材と、
前記シール部材より剛性が大きく、前記シール部材の周方向に沿って配置され、前記シール部材との接触程度が可変である弾性摩擦変更部材と
を備えることを特徴とするショックアブソーバ装置。
【請求項2】
前記弾性摩擦変更部材の内側に配置され、外周端面の一部が前記弾性摩擦変更部材の外周端面の一部と接触し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している回転部材と、
前記回転部材を回転させるアクチュエータと
を備え、
前記弾性摩擦変更部材は、前記回転部材の外側に沿って複数個配置され、前記シール部材に摺動し、回転中心から外周端までの長さが周方向に沿って変化している部材であり、
前記アクチュエータが前記回転部材を回転させることによって、前記弾性摩擦変更部材と前記回転部材との接触位置が変わり、前記弾性摩擦変更部材の最外端の位置が前記ピストンの径方向に沿って変わり、前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度が変化することを特徴とする請求項1に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項3】
前記弾性摩擦変更部材を前記ピストンの軸方向に沿って移動させるアクチュエータを備え、
前記アクチュエータが前記弾性摩擦変更部材を移動させることによって、前記弾性摩擦変更部材が前記シール部材に接触/非接触し、前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度が変化することを特徴とする請求項1に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項4】
前記弾性摩擦変更部材の外周端部は、上面及び下面がテーパ形状であり、上面と下面とでテーパの傾斜角度が異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項5】
前記シール部材は、少なくとも2個備えられ、
前記弾性摩擦変更部材は、上下から前記シール部材に挟まれることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項6】
前記ピストンの移動に応じて前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度を変化させることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項7】
前記ピストンが縮み方向に移動した場合より伸び方向に移動した場合に前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度を大きくすることを特徴とする請求項6に記載するショックアブソーバ装置。
【請求項8】
前記弾性摩擦変更部材の前記シール部材との接触程度を前輪側と後輪側とで異なる大きさにすることを特徴とする請求項6に記載するショックアブソーバ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−127180(P2007−127180A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319663(P2005−319663)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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