説明

シリコンウェハの不純物の除去方法及び分析方法

【課題】シリコンウェハの表面及び内部のほぼ全ての不純物を、非破壊で、簡単に、穏和な条件下で、短時間に抽出除去する方法を提供する。また、抽出された不純物を定量分析する方法を提供する。
【解決手段】シリコンウェハを、希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬し、この抽出液を加熱してシリコンウェハの不純物を抽出液中に抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェハの不純物の除去方法、及びそれを用いる分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハの製造工程において、シリコンウェハは様々な不純物にさらされる。不純物によって汚染されるとシリコンウェハの品質が損なわれるため、シリコンウェハの各製造プロセスにおいて、シリコンウェハの不純物による汚染を避けるためにクリーンな環境を確保している。特に加工時にシリコンウェハを汚染する金属不純物の種類は様々であり、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、鉄(Fe)若しくはそれらのイオンが挙げられる。これら金属(若しくは金属イオン)の中にはシリコンウェハ上に付着するだけでなく、シリコンウェハ内部、つまりバルク内に拡散して汚染するものもある。特に銅(Cu)(若しくはそのイオン)はシリコン内で正に帯電しており、また拡散速度が早いためにシリコンウェハ内部へ拡散しやすいという問題がある。
【0003】
従って、かかる不純物をシリコンウエハ上のみならずシリコンウエハ内部からも除去する方法が求められている。またかかる汚染を除去した後のシリコンウエハ上及び/又はシリコンウエハ内部の不純物の量を定量的に測定して確認する方法が求められている。
【0004】
特開平09−064133号公報には、シリコンウェハ内部に拡散したCuを500℃で、大気中で15分間加熱して表面側に移行させ、表面側に移行したCuをそのままTXRFで分析する方法が記載されている。この方法はシリコンウェハ内部に拡散したCuを非破壊で分析できるが、Cuを表面に移行させるために500℃の熱処理が必要となる。また、AASを使用する場合には、シリコンウェハ表面側に移行したCuをシリコンウェハ表面と一緒にケミカルエッチングする必要である。シリコンウェハ全体のCu汚染量の分析をTXRFで行う場合には、裏面と表面の両面を2回分析する必要がある。また、加熱にホットプレートを使用しているため、シリコンウェハ1枚ずつの処理しかできず、一度に大量のシリコンウェハを処理できない。更に、シリコンウェハを大気中で処理するため、外気雰囲気からの汚染の可能性がある。
【0005】
特開2003−338530号公報には、半導体ウェハ表面を負に帯電させる脱ガス成分を有するケース内で、半導体ウェハを80℃で24時間加熱して、半導体ウェハ内部の銅を表面に析出させ、TXRFで分析する方法が開示されている。この方法では、確かに一度に大量のシリコンウェハを処理できるが、TXRFでの分析では、ウェハ全体の銅汚染量の測定のために表面と裏面の両面を2回分析する必要がある。更に、加熱時間は24時間と長時間を必要とする。
【特許文献1】特開平09−064133号公報
【特許文献2】特開2003−338530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シリコンウェハの表面及び内部の(ほぼ)全ての不純物を、シリコンウエハを破壊することなく(非破壊)、簡単に、穏和な条件下で、短時間で除去可能とする方法を提供する。さらに、かかる除去方法により除去された不純物を容易かつ迅速に正確に定量分析する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記の課題を解決するために鋭意研究し、適当な範囲の温度に維持した希薄酸水溶液にシリコンウェハを浸漬することで、短時間でシリコンウェハ内部の不純物が表面へ拡散し、その結果シリコンウェハ表面のみならずシリコンウェハ内部の全ての不純物が完全に抽出されることを見出し本発明を完成した。さらに、不純物がすべて抽出された希薄酸水溶液を高感度分析することにより、容易にシリコンウェハ表面のみならずシリコンウェハ内部の全ての不純物量を定量することができる。従って、本発明には、本発明にかかる不純物除去方法を用いることによる、シリコンウェハ表面のみならずシリコンウェハ内部の全ての不純物量を定量する分析方法にかかる発明を含むものである。
【0008】
すなわち、本発明は、シリコンウェハを、希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬し、この抽出液を加熱してシリコンウェハの不純物を抽出液中に抽出することを特徴とする、シリコンウェハの不純物の除去方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、前記抽出液を100〜300℃に加熱することを特徴とする、シリコンウェハの不純物の除去方法に関する。
【0010】
また本発明は、前記加熱をマイクロウェーブによって行うことを特徴とする、シリコンウェハの不純物の除去方法に関する。
【0011】
また本発明は、前記抽出液が硝酸水溶液であることを特徴とする、シリコンウェハの不純物の除去方法に関する。
【0012】
本発明のシリコンウェハの不純物の除去方法は、前記不純物が金属若しくは金属イオンであることを特徴とし、特に金属として銅(Cu)又はニッケル(Ni)であることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明にかかるシリコンウェハの不純物の分析方法は本発明にかかるシリコンウェハの不純物の除去方法を用いることを特徴とする。すなわち、シリコンウェハを、希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬し、この抽出液を加熱してシリコンウェハの不純物を抽出液中に抽出し、抽出液中の不純物濃度を分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明は、シリコンウェハと希薄酸水溶液とを密閉容器内で加熱することにより、シリコンウェハ内部の不純物まで、非破壊で、簡単に、短時間でほぼ完全に除去することができる。引き続いて、抽出液を分析することで、容易にシリコンウェハ内部の不純物濃度を非破壊で、簡単に定量分析することができる。抽出液は、希薄酸水溶液を使用しており、中和処理などの前処理が必要なく、直接ICPMSやAASなどの高感度分析装置で測定可能である。そのため簡便に、かつ短時間にシリコンウェハの評価ができる。さらに、前処理作業におけるコンタミネーションを防ぐことができるため、測定精度も向上する。
【0015】
マイクロウェーブを使用する場合には、マイクロウェーブ加熱は熱伝導によらないため、熱伝導の悪い物質でも内部まで短時間に加熱することができ、加熱時間の大幅な節約が可能である。さらに、マイクロウェーブの出力をコントロールすることにより、一定の時間、精度よく温度を保持できる。また、密閉容器を用いることで、希薄酸水溶液の高温加熱も可能であり、シリコンウェハに損傷を与えることなく、表面及び内部の不純物を抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の除去方法、及びそれを使用する分析方法を図1に示したフロー図に基づいて詳細に説明する。
【0017】
(除去方法)
本発明の除去方法は、シリコンウェハを、希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬する第1の工程(浸漬)と、この抽出液を加熱してシリコンウェハの不純物を抽出液中に抽出する第2の工程(加熱・抽出)とからなることを特徴とする。
【0018】
第1の工程
本発明の方法において不純物を除去されるシリコンウェハは、半導体デバイス製造において通常使用されているシリコンウェハであれば特に制限なく使用可能である。このようなシリコンウェハには市販品や、チョクラルスキー法(CZ法)、浮遊帯域融解法(FZ法)などの通常の半導体製造方法によって製造されたものが挙げられる。またシリコンウェハの材質についても特に限定はなく、シリコンの他半導体デバイス製造において通常使用される半導体材料を含む。このような半導体材料は、シリコン(Si)の他に、ゲルマニウム(Ge)、ガリウムヒ素(GaAs)などが挙げられる。また、シリコンウェハの形状に関しても特に限定はなく、板状、薄板状、インゴット、ブロック、劈開された小片、を含む。本発明は特に、現在半導体製造で使用される通常のシリコンウェハ(直径100〜300mm、厚さ500〜800μm)に好適に使用可能である。
【0019】
本発明において使用可能な希薄酸水溶液からなる抽出液とは、酸の希薄水溶液を意味する。酸としては無機酸が好ましく使用可能であり、硝酸、フッ酸、硫酸、塩酸、ギ酸、過酸化水素、可塩素酸、リン酸又はこれらの混合溶液が挙げられる。特に好ましくは、硝酸、フッ酸、又はこれらの混合酸である。また、酸の濃度は特に制限されず、除去される不純物の種類、及び除去されるべき程度により適宜選択することは容易である。不純物が金属(及び金属イオン)の場合には、一般に0.001〜50重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.05〜20重量%である。
【0020】
本発明において使用可能な希薄酸水溶液の純度についても特に制限はなく、除去される不純物の除去の程度に応じて使用すべき希薄酸水溶液の純度を適宜選択することが可能である。除去される不純物の量が非常に少ない場合には、高純度の酸を使用することが好ましい。具体的には、市販されている高純度酸として多摩化学工業(株)製 TAMAPURE−AAシリーズや、関東化学(株)製ウルトラピュアシリーズなどが挙げられる。かかる酸を希釈して水溶液を調製するための水についても特に制限はなく、通常公知の純水若しくは超純水が使用可能である。
【0021】
また、本発明の方法において使用される希薄酸水溶液からなる抽出液は、シリコンウェハの洗浄において通常使用される他の成分、例えば有機溶剤、界面活性剤、キレート剤、緩衝剤を含有していてもよい。
【0022】
希薄酸水溶液からなる抽出液は除去される不純物の有無又はその濃度をあらかじめ適当な測定方法を用いて測定しておくことが好ましい。
【0023】
本発明の方法により除去される不純物とは、シリコンウェハ表面に付着する不純物並びにシリコンウェハの内部に存在するあらゆる不純物を意味する。本発明の除去方法を用いれば、これらシリコンウェハ表面及び内部の不純物を同時に完全に抽出除去することができる。
【0024】
ここでシリコンウェハ表面とは、シリコンウェハの酸化膜の表面と、酸化膜内との両方を意味する。シリコンウェハ上には通常数nmの酸化膜が存在することが知られている。シリコンウェハの内部(バルク)とは、前記酸化膜よりも内側を意味し、酸化膜は含まない。
【0025】
シリコンウェハ表面の不純物とは、例えばシリコンウエハ製造や半導体製造工程で発生して付着したパーティクル(研磨剤、ウエハー破片など)や金属若しくは金属イオン(ナトリウム(Na)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)など)、種々の有機物(ジオクチルフタレート、リン酸トリブチル、シロキサン、アセトン、トルエンなど)、またはイオン種(アンモニウムイオン、塩化物イオン、硝酸イオンなど)が挙げられる。
【0026】
シリコンウェハの内部の不純物としては、種々の半導体製造工程で発生しシリコン内部へ拡散した金属又は金属イオンによる汚染物が挙げられる。このような金属汚染物は通常はイオンの形でシリコンウェハ内部に存在する。このような不純物の例は、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)などが挙げられる。
【0027】
本発明による方法で抽出除去できるシリコンウェハ内部の不純物の濃度は1×10 atoms/cm〜1×1015atoms/cmである。実際の半導体ウェハ製造プロセスでのシリコンウェハ内部の不純物の濃度は、通常では5×1013atoms/cm未満であり、この濃度の不純物は本発明による方法でほぼ完全に除去できる。
【0028】
また、不純物の種類に合わせて、希薄酸水溶液からなる抽出液を選択することができる。例えば、不純物がCuの場合には、0.05〜20重量%の硝酸溶液を用いるのが好ましく、0.1重量%の硝酸溶液を用いるのが特に好ましい。不純物がNiの場合には、0.05〜20重量%の硝酸と0.05〜10重量%のフッ酸との混合溶液を用いるのが好ましく、0.1%重量%の硝酸と0.7重量%フッ酸との混合溶液を用いるのが特に好ましい。
【0029】
またシリコンウエハを希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬する方法についても特に制限はなく、シリコンウエハの形状等に基づいて、全体を浸漬することも、また一部分を浸漬することも可能である。希薄酸水溶液からなる抽出液中での置き方もまた特に制限はなく、縦、横、斜め等に適宜選択することができる。また同時に浸漬して処理するシリコンウエハの個数、枚数についても特に制限はなく複数枚のシリコンウエハを同時に処理することが可能である。
【0030】
第2の工程
本発明の除去方法はさらに前記抽出液を加熱し適当な温度範囲に維持することを特徴とする。かかる条件下で特にシリコンウェハ内部の不純物が表面に拡散し抽出液中に抽出することが可能となる。
【0031】
ここで抽出とは、シリコンウェハの表面上に存在する不純物並びにシリコンウェハの表面上へ拡散した不純物を、シリコンウェハ表面から希薄酸水溶液に抽出した後に、シリコンウェハ表面へはもはや再付着しないことを意味する。
【0032】
抽出液の加熱温度としてはシリコンウェハ内部の不純物が表面へ拡散する温度であればよく、特に制限はない。しかしながら加熱温度があまり低いとシリコンウェハ内部の不純物が表面へ移行するのに時間がかかるため好ましくない。従って加熱温度は100℃よりも高い温度が好ましい。一方、加熱温度をあまり高くすると、シリコンウエハの品質が温度により劣化したり、または処理圧力が高くなり処理操作が困難となる、処理装置の耐久性、安全性等の観点から300℃以下が好ましい。
【0033】
前記加熱温度に維持する時間は特に制限はなく、シリコンウェハ内部の不純物のほぼ全てが表面へ拡散するための十分な時間であればよい。この加熱時間は加熱温度に依存し、除去する不純物の種類とその除去の程度に応じて適宜選択することができる。不純物が金属イオンである場合、通常1分〜24時間であれば好ましく、特に10分〜5時間であることが好ましい。金属イオンとして銅イオン、ニッケルイオンにより汚染されている場合、約200℃の温度で少なくとも48分維持することが好ましい。
【0034】
本発明で使用可能な加熱の方法には特に制限はなく、通常公知の加熱処理装置を使うことができる。例えばマイクロウェーブ照射、ホットプレート、加熱炉などであり、これらを単独で、若しくは組み合わせて使用することができる。特に本発明においては、加熱効率、溶液の温度均一性、温度制御、時間制御、容器耐熱性から、マイクロウェーブ照射(若しくはそれと他の加熱方法との組み合わせ)が好ましい。マイクロウェーブ加熱を用いる場合、処理時間が短縮でき、また加熱温度、時間の制御が容易となる。具体的に本発明では市販のマイクロウェーブ発生装置(例えばマイルストーン社製、型ETHOS 900)が使用可能であるが、出力及び周波数は短時間に抽出液を所定の温度に加熱できるものが好ましい。マイクロウェーブ発生装置の出力は200W〜1600Wの範囲の物が好ましく、周波数は2GHz〜3GHzの範囲のものが好ましい。
【0035】
本発明の方法において使用可能な処理装置は、好ましくは耐圧性の密閉容器である。さらに加熱にマイクロウェーブを使用する場合には、密閉容器はマイクロウェーブを透過させる材質、例えばフッ素樹脂(PTFE、PFA、TFMなど)、石英、ガラス、ポリプロピレン、メチルペンテンであることが好ましい。かかる密閉容器としては、耐圧性、耐熱性、耐薬品性を考慮してフッ素樹脂製であるものが好ましい。またこの場合耐高圧性を持たせるためには、マイクロウェーブを透過させる材質の補強シールドでフッ素樹脂容器を包むことができる。この補強シールドは強化プラスチック(PEEKなど)からなる物を使用することができる。
【0036】
密閉容器内の抽出液の温度と密閉容器内の圧力を制御するための方法には特に制限はないが、それぞれのモニター装置を密閉容器内に設けることが好ましい。またかかるモニタからの温度及び圧力のデータは加熱装置の制御システムに送られ、加熱温度を制御する事が好ましい。
【0037】
また処理するシリコンウェハのサイズや枚数に応じて密閉容器の大きさを適宜選択することができる。またウェハ数枚を一度に処理するために大型の密閉容器を使用することもできる。かかる複数枚のシリコンウエハを同時に処理する目的で好ましく使用可能な大型密閉容器の一例を図2に示す。この大型密閉容器は、容器蓋3と、容器4とから構成されていて、その容器内部には、複数枚(ここでは4枚)のシリコンウェハ2を収容するウェハサポート8を収納できる。また、容器4内には抽出液1が満たされていて、この抽出液1に前記のシリコンウェハ2を搭載したウェハサポート8が浸漬されている。更に、容器蓋3には、温度センサー7が取り付けられていて、この温度センサー7は内部温度を測定するために、抽出液1内へ達している。この大型密閉容器の耐圧性を高めるために、容器蓋3と、容器4とを取り囲むように、補強シールド蓋5と、補強シールド6が配置されていて、内部温度の上昇と共に内部圧力が高る場合でも十分な耐圧性が保証される。このような大型密閉容器を用いれば、一度に複数枚のシリコンウェハを処理でき、スループットを向上できる。
【0038】
なお本発明によるシリコンウェハの不純物の除去方法は、通常の半導体デバイス製造において通常行われている洗浄工程(例えばRCA洗浄)に代えて、又はその洗浄の前又は後に行うこともできる。
【0039】
(分析方法)
本発明の分析方法は、上で説明した本発明にかかる除去方法により抽出液中に抽出された不純物を分析することを特徴とする。以下説明する。
【0040】
本発明の分析方法は抽出液中の不純物濃度を分析するものであって、シリコンウェハを、希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬し、この抽出液を加熱してシリコンウェハの表面及び/又はシリコンウエハ内部の不純物を抽出液中に抽出し、該抽出液中の不純物濃度を分析することからなる。より詳しくは、本発明による除去方法に用いる希薄酸水溶液からなる抽出液に含まれていた不純物の量と、本発明による除去方法を用いた後の希薄酸水溶液からなる抽出液に含まれていた不純物の量とを比較することで、シリコンウェハの表面及び/又はシリコンウエハ内部の不純物を定量的に分析することが可能となる。この目的のため、抽出液中に含まれる不純物の濃度をあらかじめ測定しておく必要がある。
【0041】
本発明の分析方法においては、抽出液(希酸水溶液)中の不純物を分析することができる従来公知の高感度分析装置を好ましく用いることができる。ここで高感度分析装置として検出限界が数ppm〜サブpptレベルであれば好ましい。具体的には分析不純物が金属(または金属イオン)の場合には、誘導結合プラズマ質量分析(ICPMS)、原子吸光分析(AAS)などの高感度分析装置を好ましく使用できる。
【0042】
より高感度の測定のために、原子吸光分析装置(AAS)を使用する場合には、原子吸光分析装置の高温の黒鉛炉へ分析する抽出液を導入して金属不純物を原子化させ、発生した原子蒸気相の吸光度を測定して、微量の金属不純物の定量を行う。pptレベルまでの測定が可能である。誘導結合プラズマ質量分析(ICPMS)を使用する場合には、抽出液を誘導結合プラズマに送り、高温加熱して蒸発イオン化させ、次いで四重極質量分析装置、または二重収束質量分析装置で測定元素を質量別に検出する。この場合には多元素を同時に分析することができ、サブpptレベルまでの測定が可能である。この場合、Ni、Cuは1×10atoms/cm 程度まで高感度に検出することが可能である。
【0043】
また分析する不純物が有機物である場合には、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)、昇温脱離分析(TDS)などの高感度分析装置を使用するのが好ましい。ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を使用する場合には、抽出液をGCに導入し、GCカラム内で分離する。その後に分離されたそれぞれの成分についてMS測定が行われる。pptレベルまでの測定が可能である。イオン種を分析する場合は、抽出液に対象物を含まない溶媒を用いるのが好ましく、純水でも良い。抽出液分析はイオンクロマトグラフ、キャピラリー電気泳動分析装置などを用いるのが好ましい。イオンクロマトグラフを使用する場合は、抽出液を、イオン交換樹脂を充填した分離カラムで分離後、サプレッサにより導電率を下げて、導電検出器で測定する。10ppbレベルの陽イオン、陰イオンの分析が可能である。
【0044】
本発明の分析方法は、非破壊的にかつ容易に迅速に行うことが可能である。種々の半導体製造プロセスの各工程で種々の処理及び加工が行われるため、シリコンウェハは多様な汚染にさらされる。この各工程の中で、どのような種類の不純物により、どの程度の汚染が生じるかを検査するために、半導体製造プロセスの各工程の後で、シリコンウェハを試料として抜き取り、本発明によるシリコンウェハの不純物の分析方法を行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例中で使用した試料は、以下の故意汚染により作成した。
【0047】
不純物金属イオン(Ni又はCu)を10ppb含む48%NaOH溶液に、シリコンウェハ(試料)を浸漬させ、85℃で75分間でエッチングすることでシリコン内部へ不純物を含浸させた。作成した試料を0.5gビーカーにとり、硝酸15mLとフッ酸5mLを混合した液(多摩化学工業(株)製の高純度硝酸AA−10および、高純度フッ酸 AA−10を使用した。)の中へ入れ全量を溶解した。その後200℃にセットしたホットプレートで加熱して、溶液を蒸発乾固した。残留物を0.1重量%の硝酸で溶解し、ICPMS(Agilent社製、型7500cs)にて定量した。その結果、Cuについては4×1012atoms/cm、Niについては、1×1013atoms/cmであった。
【0048】
(実施例1)
試料は、上記のようにCuで故意汚染したシリコンウェハ(故意汚染量4×1012atoms/cm)を使用した。このシリコンウェハを1cm角に劈開した。1サンプルあたり約3g使用した。温度センサを有する密閉容器(直径3.5cm、高さ9cm)はフッ素樹脂(TFM)製を使用した。この容器に、前記の劈開したシリコンウェハと、0.1重量%の硝酸水溶液からなる抽出液(多摩化学工業(株)製の高純度硝酸AA−10を超純水で希釈して調製した。)4mLを入れ、耐圧補強シールドを取り付けて、マイクロウェーブ発生装置のチャンバーへ設置した。マイクロウェーブをチャンバー内の発生口から照射し密閉容器を透過させて内部の抽出液を加熱した。加熱と共に密閉容器内の圧力が上昇した。内部温度が200℃になった時点でマイクロウェーブの出力を落とし、以後内部温度が一定になるように出力をコントロールした。50分間加熱した後、90分かけて室温まで冷却した。抽出液をそのままICPMS(Agilent社製、型7500cs)にて分析した。
【0049】
結果を図3に示した。15分の加熱時間で37%の抽出が達成され、22分の加熱時間で60%の抽出が達成され、37分の加熱時間で80%の抽出が達成され、48分の加熱時間で100%のCuを抽出できたことが分かる。
【0050】
(比較例1)
実施例1に記載した処理を繰り返すが、内部温度を100℃に設定し、この内部温度を維持した。50分間加熱した後、抽出液をICPMSにて分析した。Cuの抽出率は10%未満であった。
【0051】
(実施例2)
実施例1に記載した処理を繰り返すが、上記のようにNiで故意汚染したシリコンウェハ(故意汚染量1×1013atoms/cm)を使用した。抽出液は、0.1重量%の硝酸と0〜1.4重量%のフッ酸の水溶液(多摩化学工業(株)製の高純度硝酸AA−10および、高純度フッ酸AA−10を超純水で希釈して調製した。)を使用した。内部温度は200℃に制御した。50分間加熱した後、抽出液をICPMS(Agilent社製、型7500cs)にて分析した。結果を図4に示した。
【0052】
フッ酸量の増加と共に抽出されるNi量は増加する。フッ酸濃度が0重量%では50%のNiが抽出された。0.4重量%のフッ酸濃度では70%のNiが抽出された。更に、0.5重量%のフッ酸濃度では95%のNiが抽出された。フッ酸0.7重量%以上にて、100%のNiを抽出できた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明による除去方法及び分析方法をフローチャートで示す。
【0054】
【図2】図2は、複数枚のウェハを一度に処理できる大型密閉容器を示す。
【0055】
【図3】図3は、Cu回収率の時間依存性を示す。
【0056】
【図4】図4は、Ni回収率のHF濃度依存性を示す。
【符号の説明】
【0057】
1 抽出液
2 シリコンウェハ
3 容器蓋
4 容器
5 補強シールド蓋
6 補強シールド
7 温度センサー
8 ウェハサポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェハを、希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬し、この抽出液を100℃以上に加熱してシリコンウェハの不純物を抽出液中に抽出する、シリコンウェハの不純物の除去方法。
【請求項2】
前記加熱をマイクロウェーブ照射によって行うことを特徴とする、請求項1記載の除去方法。
【請求項3】
抽出液が希硝酸水溶液であることを特徴とする、請求項1から2のいずれか1項記載の除去方法。
【請求項4】
不純物が銅(Cu)又はニッケル(Ni)であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載の除去方法。
【請求項5】
シリコンウェハを、希薄酸水溶液からなる抽出液に浸漬し、この抽出液を100℃以上で加熱してシリコンウェハの不純物を抽出液中に抽出し、抽出液中の不純物を測定することを特徴とする、シリコンウェハの不純物の分析方法。
【請求項6】
前記加熱をマイクロウェーブ照射によって行うことを特徴とする、請求5記載の分析方法。
【請求項7】
抽出液が希硝酸水溶液であることを特徴とする、請求項5から6のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項8】
不純物が銅(Cu)又はニッケル(Ni)であることを特徴とする、請求項5から7に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−32859(P2006−32859A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213533(P2004−213533)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000111096)シルトロニック・ジャパン株式会社 (23)
【Fターム(参考)】