説明

シリコンウェーハの熱処理方法

【課題】ウェーハ製造後のデバイス作製工程においてスリップが発生することのないシリコンウェーハを提供するための熱処理方法を提供する。
【解決手段】デバイス作製工程において、シリコンウェーハが受ける熱応力に起因してシリコンウェーハにスリップが発生する限界である臨界せん断応力と、シリコンウェーハの製造段階で施す熱処理を経た該ウェーハにおける酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関を、デバイス作製工程の温度条件毎に予め求めること、シリコンウェーハを供する実際のデバイス作製工程の温度条件に対応する相関に基づいて、実際のデバイス作製工程においてシリコンウェーハが受けるせん断応力を超える臨界せん断応力に対応するC/Lを求めること、該C/L以上となる条件の下に熱処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハを製造する際の熱処理に関し、特にウェーハ製造後のデバイス作製工程においてスリップが発生することのないシリコンウェーハを提供するための熱処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、CZ法により作成したポリッシュドウェーハに不可避に含まれる酸素は、デバイス作製工程においてその一部が析出してゲッタリングサイトが形成されるのが通例である。
【0003】
ここで、シリコンウェーハに熱処理が施されると、ウェーハ中に含まれる酸素がシリコンと反応して酸素析出物が発生する。この酸素析出が過剰に進行すると、シリコンウェーハの機械的強度が低下し、デバイス作製工程において低い負荷応力の下でもスリップが発生し、ウェーハに反りが発生することが知られている(例えば、非特許文献1および2参照)。さらに、非特許文献3には、酸素析出物のサイズが大きくなると、ウェーハに熱応力を印加した際のスリップの発生が増加する旨が記載されている。
こうしたデバイス作製工程におけるスリップの発生によりシリコンデバイスの歩留まり
が低下するため、デバイス作製工程においてスリップが発生することのないウェーハを提
供することが肝要である。
【0004】
このスリップの抑制に関して、特許文献1には、酸素析出物のサイズを小さくすることにより、酸素析出物から発生するスリップの発生応力が増加し、酸素析出によるシリコンウェーハの強度低下が抑制されることが記載されている。
また、特許文献2には、ウェーハ中に小さなサイズを有する酸素析出物を高密度に形成し、大きなサイズを有する酸素析出物の密度を低く抑えることが、スリップ発生の抑制に有効である旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/003812号パンフレット
【特許文献2】特開第2008−103673号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.Leroy and C.Plougonven,Journal of the Electrochemical Society,1980,Vol.127,p.961
【非特許文献2】Hirofumi Shimizu,Tetsuo Watanabe and Yoshiharu Kakui,Japanese Journal of Applied Physics,1985,Vol.24,p.815
【非特許文献3】Koji Sueoka,Masanori Akatsuka,Hisashi Katahama and Naoshi Adachi,Japanese Journal of Applied Physics,1997,Vol.36,p.7095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、シリコンのデバイス作製工程では、高速昇降温プロセスが多用されており、シリコンウェーハは従来よりも過酷な熱応力に晒されるため、シリコンウェーハ内にスリップが発生し易い環境になっている。
【0008】
しかしながら、特許文献1および2は、酸素析出のサイズや密度とスリップ発生との関係について記載しているものの、かような過酷な環境下においてスリップを回避するには特許文献1および2の方法では不十分である。そのため、従来は、例えばデバイス作製工程にシリコンウェーハサンプルを投入し、酸素析出物が過剰に発生してウェーハに反りが発生した場合には、シリコンウェーハに含まれる酸素濃度を低減することにより、シリコンウェーハ中にスリップが発生しない条件を見つける、等のトライアンドエラー法により対処する以外に方途がなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ウェーハ製造後のデバイス作製工程においてスリップが発生することのないシリコンウェーハを提供するための熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決するための方途について鋭意究明した結果、デバイス作製工程においてスリップが発生する臨界せん断応力は、ウェーハ製造段階で施す熱処理を経た該ウェーハにおける酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lに密接に関係していることが判明した。そこで、デバイス作製工程に応じて、上記のシリコンウェーハにスリップが発生する臨界せん断応力と残存酸素濃度Cおよび酸素析出物のサイズLとの関係を予め求めておき、デバイス作製工程の温度条件およびシリコンウェーハが受ける熱応力から、ウェーハの製造段階で施される熱処理を適切に制御することが、デバイス作製工程においてスリップを発生させないことに有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の熱処理方法は、デバイス作製工程において、シリコンウェーハが受けるせん断応力に起因してシリコンウェーハにスリップが発生する限界である臨界せん断応力と、シリコンウェーハの製造段階で施す熱処理を経た該ウェーハにおける酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関を、前記デバイス作製工程の温度条件毎に予め求めること、シリコンウェーハを供する実際のデバイス作製工程の温度条件に対応する前記相関に基づいて、前記実際のデバイス作製工程において前記シリコンウェーハが受ける熱応力を超える臨界せん断応力に対応するC/Lを求めること、該C/L以上となる条件の下に前記熱処理を施すことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の熱処理方法において、前記臨界せん断応力τcriは、E=0.9eV、kをボルツマン定数、Tを前記実際のデバイス作製工程の温度として、下記の式(A)および(B)にて与えられることを特徴とするものである。

前記熱処理が酸化性雰囲気中で行われる場合、
【数1】


それ以外の場合、
【数2】

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリコンウェーハ製造段階で施す熱処理において、酸素析出物のサイズやシリコンウェーハ中の残存酸素濃度が適切に制御されるため、デバイス作製工程においてシリコンウェーハに対して高速昇降温プロセスが施された場合にも、スリップの発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】板状の酸素析出物のサイズおよびシリコンウェーハ中の残存酸素濃度に対する臨界せん断応力の関係を示す図である。
【図2】八面体形状の酸素析出物のサイズおよびシリコンウェーハ中の残存酸素濃度に対する臨界せん断応力の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで、本発明の実施形態について説明する。
シリコンウェーハを熱処理する際に生じる酸素析出物の形状には、板状と八面体形状の2種類がある。板状の酸素析出物は、酸化性雰囲気中でシリコンウェーハに熱処理を施す場合に生じる。一方、八面体形状の酸素析出物は、アニールウェーハのようにアルゴンや水素などの非酸化性雰囲気中で高温熱処理を施す場合に発生する。
【0016】
デバイス作製工程においてシリコンウェーハ中にスリップが発生しない方途を究明するために、まず、ウェーハ製造時における酸素析出物を発生させる熱処理条件と、デバイス作製工程におけるスリップが発生する臨界せん断応力との関係について調べた。
【0017】
まず、板状の酸素析出物について調べた。そのために、初期酸素濃度が13.5×1017,12.4×1017および15.2×1017atoms/cmと異なる、3つのシリコンウェーハを用意した。これらのウェーハのそれぞれに対して3段階の熱処理を施し、ウェーハ中に酸素析出物を発生させた。即ち、まず650〜700℃にて熱処理を施すことにより、ウェーハ中に発生する酸素析出物の密度を調整した。この熱処理時間の増加と共に酸素析出物の密度も増加する。次いで、900℃、およびそれに続く1000℃にて熱処理を施すことにより、発生した酸素析出物のサイズを調整した。900℃および1000℃双方の熱処理時間の増加とともに酸素析出物のサイズも増大する。
【0018】
次に、熱処理が施された各シリコンウェーハに対して、1000℃、1100℃および1200℃において熱応力を与え、酸素析出物を起点としてウェーハ内部からスリップが発生する臨界せん断応力を求めた。具体的な処理は以下の通りである。
【0019】
直径200mmのシリコンウェーハをRTA(Rapid Thermal Annealing)装置により加熱して熱応力を与えた。通常のRTAの加熱条件ではウェーハ面内に温度差を生じさせないように加熱分布を調整するが、本実験においては意図して加熱バランスを変えて熱応力を発生させた。次いで、シリコンウェーハの半径方向の温度分布T(r’)を熱電対により測定した。半径方向および円周方向への応力は、それぞれ以下の式(1)および(2)で与えられる。
【0020】
【数3】

【0021】
【数4】


ただし、rはシリコンウェーハの半径方向の位置、Rはシリコンウェーハの半径、αは熱膨張率、Eはヤング率である。
【0022】
シリコンウェーハのような単結晶体においては、スリップ(すべり)が生じる面および方向が特定されるため、すべり面を考慮した解析が必要となる。シリコンにおけるスリップは{111}面において<110>方向に発生する。等価なものを除外すると、4つの{111}面について3つの<110>方向のすべりが存在することになり、12種のせん断応力を求める必要がある。
【0023】
上記の円筒座標系で求めた応力を直交座標系に変換することにより、各すべり面における各すべり方向へのせん断応力が以下の式(3)のように求められる。ただし、すべり面を(ijk)、すべり方向を[lmn]とする。
【0024】
【数5】

【0025】
こうして得られる12種のせん断応力のうち、最大となるせん断応力をシリコンウェーハに負荷される熱応力とした。そして種々の酸素析出状態(即ち、サイズおよび密度)のシリコンウェーハに1000℃、1100℃および1200℃において熱応力を与え、酸素析出物を起点としてウェーハ内部からスリップが発生する領域をライトエッチング法により評価した。そして、スリップの発生領域と非発生領域との境界における熱応力を調べて臨界せん断応力を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0026】
ここで、表1に示された結果のうち、初期酸素濃度および熱処理後にウェーハに残存する残存酸素濃度はフーリエ変換型赤外分光計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy,FT−IR)により測定した。また、酸素析出物の密度はライトエッチング法により、サイズは透過電子顕微鏡法によりそれぞれ求めた。
【0027】
【表1】

【0028】
発明者らは、表1に示される結果を鋭意解析した結果、臨界せん断応力は、ウェーハに残存する酸素濃度および発生した酸素析出物のサイズと密接に関係していることを見出した。即ち、図1に示すように、デバイス作製工程において発生するスリップの臨界せん断応力は、酸素析出物のサイズに対する残存酸素濃度の比と強い相関を有していることを見出し、以下の関係式を導出した。
【0029】
【数6】


ここで、τcriは臨界せん断応力(MPa)、Cは残存酸素濃度(atoms/cm)、Lは酸素析出物のサイズ(nm)、E=0.9eV、kはボルツマン定数、およびTはデバイス作製工程の温度(K)である。
【0030】
こうして、ウェーハ製造段階の熱処理により発生した酸素析出物のサイズL、ウェーハ中の残存酸素濃度Cおよびデバイス作製工程の温度Tが決定されれば、デバイス作製工程においてスリップが発生する臨界せん断応力τcriを高精度に予測することができる。
【0031】
同様にして、八面体形状を有する酸素析出物に対しても、上記と同様の測定を行った。即ち、まず、12.5×1017および15.1×1017atoms/cmの初期酸素濃度を有するシリコンウェーハを用意した。これらのウェーハに対してアルゴン雰囲気中において1100℃にて熱処理を施すことにより、ウェーハ中に八面体形状を有する酸素析出物を発生させた。その際、酸素析出物のサイズは熱処理時間により調整し、また酸素析出物の密度はウェーハ中の窒素濃度(1×1014または2×1014atoms/cm)により調整した。
【0032】
ここで、初期酸素濃度および残存酸素濃度はFT−IRにより測定し、また、酸素析出物の密度はライトエッチング法により、サイズは透過型電子顕微鏡法によりそれぞれ求めた。
【0033】
次に、板状の酸素析出物の場合と同様に、熱処理が施された各シリコンウェーハに対して、1000℃、1100℃および1200℃において熱応力を与え、酸素析出物を起点としてウェーハ内部からスリップが発生する臨界せん断応力を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
酸素析出物が板状の場合と同様に、表2に示される八面体形状の酸素析出物に対する結果についても、臨界せん断応力は、熱処理後にウェーハに残存する酸素濃度および発生した酸素析出物のサイズと密接に関係していることが分かった。即ち、図2に示すように、デバイス作製工程において発生するスリップの臨界せん断応力は、ウェーハ製造段階の熱処理により発生した酸素析出物のサイズに対するシリコンウェーハ中の残存酸素濃度の比と強い相関を有していることを見出し、以下の関係式を導出した。
【0036】
【数7】


ここで、τcriは臨界せん断応力(MPa)、Cは残存酸素濃度(atoms/cm)、Lは酸素析出物のサイズ(nm)、E=0.9eV、kはボルツマン定数、およびTはデバイス作製工程の温度(K)である。
【0037】
こうして、板状の酸素析出物の場合と同様に、ウェーハ製造段階の熱処理により発生した酸素析出物のサイズL、シリコンウェーハ中の残存酸素濃度Cおよびデバイス作製工程の温度Tが決定されれば、デバイス作製工程においてスリップが発生する臨界せん断応力τcriを高精度に予測することができる。
【0038】
以上のように、酸素析出物の形状が板状および八面体形状の双方に対して、デバイス作製工程においてスリップが発生する臨界せん断応力τcriを高精度に予測することができることが分かった。従って、デバイス作製工程においてシリコンウェーハに対して如何なるせん断応力が課されるか、およびデバイス作製工程の温度が予め分かっていれば、式(4)または(5)から、デバイス作製工程においてスリップが発生することのないように、製造されるシリコンウェーハが満足すべき臨界せん断応力、および対応するC/Lの下限も求まる。
【0039】
具体的には、まず、デバイス作製工程で使用されるシリコンウェーハがアニールウェーハであるか否かを特定し、スリップ発生の際の臨界せん断応力を予測する式(4)または(5)を決定する。次いで、デバイス作製工程の温度Tおよびシリコンウェーハに与えられる熱応力τを求める。熱応力の値は、式(1)〜(3)を用いて、シリコンウェーハ面における温度分布から求めることができる。
【0040】
こうして、デバイス作製工程におけるシリコンウェーハに与えられる熱応力および温度が得られたため、式(4)または(5)を用いて、シリコンウェーハが満足すべき臨界せん断応力τcriと対応するC/Lの下限値を求めることができる。そこで、ウェーハ製造プロセスの熱処理の際に発生する酸素析出物のサイズLと残存酸素濃度Cが、求められたC/Lの下限値以上となるように、ウェーハ製造段階の熱処理の温度および時間を適切に制御する。その際、熱処理の温度および時間は一意に決定されず、シリコンウェーハが満足すべき臨界せん断応力τcriに対応するC/Lの下限値以上となるように適切に制御しさえすればよい。
【0041】
こうして、シリコンウェーハ製造中の熱処理において酸素析出物のサイズやウェーハ中の残存酸素濃度が適切に制御されるため、デバイス作製工程においてシリコンウェーハに対して高速昇降温プロセスが施された場合にも、スリップが発生することのないウェーハを提供することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例について説明する。
(発明例1−1〜7−1)
まず、デバイス作製工程の温度条件を1000℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を10MPa、酸素析出物の形状が板状であると設定した。次に、上記した式(4)で与えられた臨界せん断応力τcriと酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関から、臨界せん断応力が10MPaとなるC/Lを求め、求めたC/L以上となる条件、即ち表1におけるA3(発明例1−1),A7(発明例2−1),A11(発明例3−1),A17(発明例4−1),A21(発明例5−1),A25(発明例6−1)およびA29(発明例7−1)の条件の下に熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1000℃でのRTA加熱により10MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、発明例1−1〜7−1の全てについて、スリップは発生しなかった。得られた結果を表3に示す。
【0043】
(比較例1−1〜25−1)
発明例1−1〜7−1と同様に、デバイス作製工程の温度条件を1000℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を10MPa、酸素析出物の形状が板状であると設定した。ただし、臨界せん断応力が10MPaとなるC/L未満となる条件で熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1000℃でのRTA加熱により10MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、全ての熱処理条件においてスリップが発生した。得られた結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
(発明例1−2〜7−2)
まず、デバイス作製工程の温度条件を1100℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を7MPa、酸素析出物の形状が板状であると設定した。次に、上記した式(4)で与えられた臨界せん断応力τcriと酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関から、臨界せん断応力が7MPaとなるC/Lを求め、求めたC/L以上となる条件、即ち表1におけるA3(発明例1−2),A7(発明例2−2),A11(発明例3−2),A17(発明例4−2),A21(発明例5−2),A25(発明例6−2)およびA29(発明例7−2)の条件の下に熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1100℃でのRTA加熱により7MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、発明例1−2〜7−2の全てについて、スリップは発生しなかった。得られた結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
(比較例1−2〜25−2)
発明例1−2〜7−2と同様に、デバイス作製工程の温度条件を1100℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を7MPa、酸素析出物の形状が板状であると設定した。ただし、臨界せん断応力が7MPaとなるC/L未満となる条件で熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1100℃でのRTA加熱により7MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、全ての熱処理条件においてスリップが発生した。得られた結果を表4に示す。
【0048】
(発明例1−3〜7−3)
まず、デバイス作製工程の温度条件を1200℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を4MPa、酸素析出物の形状が板状であると設定した。次に、上記した式(4)で与えられた臨界せん断応力τcriと酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関から、臨界せん断応力が4MPaとなるC/Lを求め、求めたC/L以上となる条件、即ち表1におけるA3(発明例1−3),A7(発明例2−3),A11(発明例3−3),A17(発明例4−3),A21(発明例5−3),A25(発明例6−3)およびA29(発明例7−3)の条件の下に熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1200℃でのRTA加熱により4MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、発明例1−3〜7−3の全てについて、スリップは発生しなかった。得られた結果を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
(比較例1−3〜25−3)
発明例1−3〜7−3と同様に、デバイス作製工程の温度条件を1200℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を4MPa、酸素析出物の形状が板状であると設定した。ただし、臨界せん断応力が4MPaとなるC/L未満となる条件で熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1200℃でのRTA加熱により4MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、全ての熱処理条件においてスリップが発生した。得られた結果を表5に示す。
【0051】
(発明例8−1〜11−1)
まず、デバイス作製工程の温度条件を1000℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を1.2MPa、酸素析出物の形状が八面体形状であると設定した。次に、上記した式(5)で与えられた臨界せん断応力τcriと酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関から、臨界せん断応力が1.2MPaとなるC/Lを求め、求めたC/L以上となる条件、即ち表2におけるB1(発明例8−1),B4(発明例9−1),B7(発明例10−1)およびB9(発明例11−1)の条件の下に熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1000℃でのRTA加熱により1.2MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、発明例8−1〜11−1の全てについて、スリップは発生しなかった。得られた結果を表6に示す。
【0052】
【表6】

【0053】
(比較例26−1〜31−1)
発明例8−1〜11−1と同様に、デバイス作製工程の温度条件を1000℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を1.2MPa、酸素析出物の形状が八面体形状であると設定した。ただし、臨界せん断応力が1.2MPaとなるC/L未満となる条件で熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1000℃でのRTA加熱により1.2MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、全ての熱処理条件においてスリップが発生した。得られた結果を表6に示す。
【0054】
(発明例8−2〜11−2)
まず、デバイス作製工程の温度条件を1100℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を1.0MPa、酸素析出物の形状が八面体形状であると設定した。次に、上記した式(5)で与えられた臨界せん断応力τcriと酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関から、臨界せん断応力が1.0MPaとなるC/Lを求め、求めたC/L以上となる条件、即ち表2におけるB1(発明例8−2),B4(発明例9−2),B7(発明例10−2)およびB9(発明例11−2)の条件の下に熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1100℃でのRTA加熱により1.0MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、発明例8−2〜11−2の全てについて、スリップは発生しなかった。得られた結果を表7に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
(比較例26−2〜31−2)
発明例8−2〜11−2と同様に、デバイス作製工程の温度条件を1100℃、シリコンウェーハが受ける熱応力を1.0MPa、酸素析出物の形状が八面体形状であると設定した。ただし、臨界せん断応力が1.0MPaとなるC/L未満となる条件で熱処理を行った。続いて、得られたシリコンウェーハに対して1100℃でのRTA加熱により1.0MPaのせん断応力を与え、シリコンウェーハにおけるスリップ発生の有無を調べた。その結果、全ての熱処理条件においてスリップが発生した。得られた結果を表7に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイス作製工程において、シリコンウェーハが受けるせん断応力に起因してシリコンウェーハにスリップが発生する限界である臨界せん断応力と、シリコンウェーハの製造段階で施す熱処理を経た該ウェーハにおける酸素析出物のサイズLに対する残存酸素濃度Cの比C/Lとの相関を、前記デバイス作製工程の温度条件毎に予め求めること、
シリコンウェーハを供する実際のデバイス作製工程の温度条件に対応する前記相関に基づいて、前記実際のデバイス作製工程において前記シリコンウェーハが受ける熱応力を超える臨界せん断応力に対応するC/Lを求めること、
該C/L以上となる条件の下に前記熱処理を施すこと、
を特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
前記臨界せん断応力τcriは、E=0.9eV、kをボルツマン定数、Tを前記実際のデバイス作製工程の温度として、下記の式(A)および(B)にて与えられることを特徴とする、請求項1に記載の熱処理方法。

前記熱処理が酸化性雰囲気中で行われる場合、
【数1】


それ以外の場合、
【数2】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−238664(P2011−238664A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106617(P2010−106617)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】