説明

シリコン単結晶の製造方法

【課題】育成中に有転位化が発生したシリコン単結晶から、ロス無く効率的に単結晶部を得ることができるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ルツボ内の原料融液に種結晶を融着後、該種結晶を上方に引き上げてシリコン単結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶の直胴部を育成中に有転位化が発生した場合、前記シリコン単結晶の直胴部の有転位化が発生した位置から引き上げ軸下方に、前記直胴部の直径の0.5倍以上で、かつ、前記直胴部の直径以下の長さの結晶をさらに引き上げて、該引き上げたシリコン単結晶を原料融液から切り離すシリコン単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法にてシリコン単結晶を製造する方法に関し、特に、シリコン単結晶の直胴部の育成過程で有転位化が発生したときのシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法でシリコン単結晶を製造する場合、結晶中に異物が混入したり、引き上げ操作パラメーターの制御不良などに起因して、有転位化を生じることがある。
一般的に、育成中のシリコン単結晶に有転位化が生じた場合、有転位化した以降の結晶部位は多結晶化することが知られており、また、有転位化した部位から上方の有転位化していない結晶部位に向けてスリップ転位が伸展し(以後、スリップバックと言う場合がある)、その伸展長さは概ね引き上げるシリコン単結晶の直径長さまで伸展することが知られている。
【0003】
そこで、シリコン単結晶の製造工程の比較的早い段階で単結晶に有転位化が生じた場合には、育成した単結晶を再溶融し、再度単結晶の育成が行われる。
特許文献1には、有転位化した結晶を原料融液から切り離す方法や、有転位化した結晶を原料融液から切り離し炉内から取り出した後に、残った原料融液から単結晶を引き上げる方法や、有転位化した結晶を再溶融した後の単結晶引き上げ方法について開示されている。
特許文献2には、有転位化した結晶を高効率に再溶融する方法が開示されている。
【0004】
また有転位化が発生しても、それまでに育成した健全な結晶部位(直胴部)を生かすと共に、切電の際に多量の融液の凝固膨張による石英ルツボ・黒鉛ルツボ・ヒータなどの損傷を防止するため、有転位化後も結晶の育成を継続し、石英ルツボ内の残存融液が極力少量となるようにシリコン単結晶を育成することが行われている。
【0005】
ところが有転位化したシリコン単結晶は、装置内での引き上げ時、装置からの取り出し時、又は切断加工時に、スリップバック部や有転位化が発生した以降の多結晶部に亀裂が発生しやすく、特にスリップバック部に亀裂が発生しやすい。これは、これらの部位は正常な単結晶部に比べて強度が低く、結晶中の残留応力が大きくなっていることによるものと考えられる。亀裂の発生したシリコン結晶は、亀裂の伸展により破断、破壊する場合がある。
【0006】
これを解決するために特許文献3には、有転位化が生じたとき直ちにテイル部の形成を行い、そのテイル部の長さを短くすることについて開示されている。
【0007】
ところで、新品種のシリコン単結晶の製造では、開発の初期段階においては生産効率が悪いことがある。例えば、既に製造条件が確立されている直径200mmのシリコン単結晶であっても特殊な元素をドープする場合や、直径450mm以上のシリコン単結晶の製造などがこれに当たる。この場合、少しでも単結晶部(以後、製品部と言う場合がある)を得るために、有転位化が発生しても再溶融するのを避けたい場合がある。
【0008】
しかし、特許文献3の方法では、健全に育成された単結晶部を十分に生かすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−269312号公報
【特許文献2】特開2009−132552号公報
【特許文献3】特開2009−256156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、育成中に有転位化が発生したシリコン単結晶から、ロス無く効率的に単結晶部を得ることができるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、ルツボ内の原料融液に種結晶を融着後、該種結晶を上方に引き上げてシリコン単結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶の直胴部を育成中に有転位化が発生した場合、前記シリコン単結晶の直胴部の有転位化が発生した位置から引き上げ軸下方に、前記直胴部の直径の0.5倍以上で、かつ、前記直胴部の直径以下の長さの結晶をさらに引き上げて、該引き上げたシリコン単結晶を原料融液から切り離すことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0012】
このように、シリコン単結晶の直胴部を育成中に有転位化が発生した場合、シリコン単結晶の直胴部の有転位化が発生した位置から引き上げ軸下方に、直胴部の直径の0.5倍以上で、かつ、直胴部の直径以下の長さの結晶をさらに引き上げて、該引き上げたシリコン単結晶を原料融液から切り離すことで、切り離し時の熱応力によるスリップバックの単結晶部への伸展を抑制し、かつ単結晶部の亀裂等の発生を防止できる。このため、本発明であれば、引き上げ中に有転位化が発生した場合でも、高品質の単結晶の製品部をロス無く得ることができる。
【0013】
このとき、前記シリコン単結晶の直胴部を前記直胴部の直径の0.7倍+10cm以上の長さに育成した後に有転位化が発生した場合、前記シリコン単結晶の直胴部の有転位化が発生した位置から引き上げ軸下方に、前記直胴部の直径の0.5倍以上で、かつ、前記直胴部の直径以下の長さの結晶をさらに引き上げることが好ましい。
このように、シリコン単結晶の直胴部を直胴部の直径の0.7倍+10cm以上の長さに育成した後に有転位化が発生した場合に本発明の範囲でさらに結晶を引き上げることで、シリコン単結晶の製品部を確実に確保することができる。
【0014】
このとき、前記シリコン単結晶の直胴部を、直径200mm以上とすることが好ましい。
このような、直径200mm以上の特に引上げが困難な大口径のシリコン単結晶に本発明の製造方法が好適である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、シリコン単結晶引き上げ中に有転位化が発生しても、既に引き上げているシリコン単結晶の製品部をロス無く得ることができるため、例えば引き上げ困難な大口径シリコン単結晶等の生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のシリコン単結晶の製造方法に用いることができる単結晶引上げ装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明のシリコン単結晶の製造方法に用いることができる単結晶引上げ装置の一例を示す概略図である。
【0018】
図1に示す単結晶引上げ装置11は、チョクラルスキー法により、ルツボ13内の原料融液(湯)15にシードチャック17に保持された種結晶19を浸漬、融着させて、その後引上げワイヤー18により種結晶19を引き上げて、シリコン単結晶16を育成する装置である。
【0019】
この単結晶引上げ装置11は、メインチャンバー12内に原料融液15を収容するルツボ13が設けられ、原料融液15を加熱するヒータ21と、ルツボ13を回転昇降動させるルツボ保持軸10及びその回転機構(不図示)を具備している。
ルツボ13は、その内側の原料融液15を収容する側には石英ルツボ13aが設けられ、その外側にはこれを保護する黒鉛ルツボ13bが設けられている。また、ルツボ13の外周には、ヒータ電極20で支持されたヒータ21が、ヒータ21の外側周囲にはヒータ21からの熱がメインチャンバー12内壁に直接輻射されるのを防止するためのヒータ断熱材22が配置されている。ルツボ13の下方には、例えばCIP材(等方性黒鉛)で成形断熱材を挟むように構成した3層構造の断熱板14を配置することもできる。また、チャンバー12が水冷式であってもよく、さらに、チャンバー12の外側に磁場印加装置(不図示)を配置して、原料融液15に磁場を印加するMCZ法の装置であってもよい。
【0020】
このような単結晶引上げ装置11を用いてシリコン単結晶16を製造する際、ルツボ13内にドープ剤及び原料を収容してヒータ21により加熱溶融した後、上方より静かにワイヤー18を下降し、ワイヤー18下端のシードチャック17に吊された種結晶19を融液面に着液(融着)させる。次いで、種結晶19を回転させながら上方に静かに引上げて、徐々に直径を細くするネッキングを行った後、引上げ速度と温度等を調整して絞り部分を拡径し、シリコン単結晶16の直胴部の育成に移行する。
【0021】
本発明では、シリコン単結晶16の直胴部を育成中に有転位化が発生した場合、シリコン単結晶16の直胴部の有転位化が発生した位置から引き上げ軸下方に、直胴部の直径の0.5倍以上で、かつ、直胴部の直径以下の長さの結晶をさらに引き上げて、該引き上げたシリコン単結晶16を原料融液15から切り離す。
【0022】
有転位化した際に直ちに結晶を融液から切り離すと、概ねシリコン単結晶の直径長さ分のスリップバックが発生している。これは、融液から切り離した際の熱応力によるものであることを本発明者の検討により見出した。
【0023】
転位は{111}面上に導入される。最も商用に供されている(100)のシリコン単結晶を例にとると、(100)面と(111)面のなす角は54.74度であるので、結晶中心から有転位化が生じれば、直胴の半径をrとして引上軸方向へのスリップバック長さは、r・tan54.74度=1.414rとなり、直胴直径をDとすればD=2rであるので、スリップバック長さは0.707Dとなる。即ち、有転位化により転位が伸展するのは直胴長さ方向に直径の0.7倍であり、スリップバック長さが概ね直径分になるのは、結晶を融液から切り離す際の熱応力によって概ね直径の0.3倍の長さの単結晶部が余計に有転位化してスリップバックが伸展しているということを見出した。
【0024】
上記知見より鋭意検討した結果、有転位化した後に直径の0.5倍の長さを余分に引いてから結晶を融液から切り離せば、転位導入位置のバラツキやスリップバック長さのバラツキに関係なく、有転位化発生時に生じたスリップバック長さ以上にスリップバックが伸展することはなく、健全に育成された単結晶部(製品部)を無駄にすることなく救済することができることを見出した。
また、追加して引き上げる結晶の長さが直胴部の直径以下の長さであれば、有転位化以後の結晶の体積が過剰に大きくならないので、歩留まりの低下を最小限に止めることができるし、取り出し時等における亀裂の発生も防止することができる。
【0025】
また、シリコン単結晶の直胴部を、直胴部の直径の0.7倍+10cm以上の長さに育成した後に有転位化が発生した場合に、上記本発明の範囲でさらに結晶を引き上げることが好ましい。
上記したように、有転位化した際のスリップバックが直胴部の直径の0.7倍程度生じるため、シリコン単結晶の直胴部を直胴部の直径の0.7倍+10cm以上の長さに育成していれば、本発明であれば、単結晶の製品部を10cm以上得ることができる。このため、特別な処理等を施さなくともウェーハに加工できる程度の長さの単結晶部を得ることができ、生産性の向上に大きく寄与する。
【0026】
なお、有転位化発生の確認方法としては、結晶に有転位化が発生した場合には結晶の晶癖線が乱れるので、メインチャンバー12の上方に設けた窓から目視によるか、CCDカメラ等の光学系装置を通じて確認することができる。
【0027】
また、本発明において、有転位化後にさらに引き上げる際の結晶の形状としては、特に限定されず、直胴でも逆円錐台状や逆円錐状の丸めでも本発明の効果を奏することができるが、丸めの方が切り離し時の熱応力が少なくなるので、熱応力によるスリップバック長さがより短くなって好ましい。さらに、逆円錐状に丸めきってから切り離せば、熱応力によるスリップバックはほとんど発生しないので、より好ましい。
【0028】
このような、本発明の製造方法は、直胴部の直径200mm以上のシリコン単結晶、特に新製品等の開発品の育成に好適であり、また、直胴部の直径450mm以上のシリコン単結晶に有効である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1−5、比較例1−4)
図1に示す単結晶引上げ装置を用いて、直胴部の直径D=457mmのシリコン単結晶を引き上げた。その際、有転位化後すぐにシリコン融液から切り離したものと(比較例1、4)、有転位化後も引き上げを継続し、結晶をシリコン融液から切り離すタイミングを種々変えたもの(実施例1−5、比較例2、3)を製造し、ウェーハ加工した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すように、追加引上げしなかった比較例1、4では、スリップバックが極端に長くなり、無転位の単結晶部を比較例1では得ることができず、比較例4では単結晶を70cm育成したにもかかわらず、無転位の単結晶部を18cmしか得ることはできなかった。また、追加引上げ長さが0.4Dの比較例2では、切り離す際にスリップバックが伸展して8cmの単結晶しか得ることができず、単結晶の長さが短すぎてウェーハ加工できなかった。また、追加引上げ長さが1.1Dの比較例3では、有転位化位置から下方の結晶が長くなりすぎて、加工時に単結晶部に亀裂が入った。
一方、実施例1−5の追加引上げ長さが0.5〜1.0Dの場合には、亀裂も発生せずウェーハ加工ができた。また、実施例3、4の有転位化した直胴位置が41cmの場合(直胴部の直径45.7cmの0.7倍+10cm未満の位置で有転位化)には、得られた単結晶部の長さがわずかに短かかったため、ウェーハ加工の際に特別加工を行う必要があったが、ウェーハを得ることができた。
【0032】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0033】
10…ルツボ保持軸、 11…単結晶引上げ装置、 12…メインチャンバー、
13…ルツボ、 13a…石英ルツボ、 13b…黒鉛ルツボ、
14…断熱板、 15…原料融液、 16…シリコン単結晶、
17…シードチャック、 18…ワイヤー、 19…種結晶、
20…ヒータ電極、 21…ヒータ、 22…ヒータ断熱材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内の原料融液に種結晶を融着後、該種結晶を上方に引き上げてシリコン単結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶の直胴部を育成中に有転位化が発生した場合、前記シリコン単結晶の直胴部の有転位化が発生した位置から引き上げ軸下方に、前記直胴部の直径の0.5倍以上で、かつ、前記直胴部の直径以下の長さの結晶をさらに引き上げて、該引き上げたシリコン単結晶を原料融液から切り離すことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン単結晶の直胴部を前記直胴部の直径の0.7倍+10cm以上の長さに育成した後に有転位化が発生した場合、前記シリコン単結晶の直胴部の有転位化が発生した位置から引き上げ軸下方に、前記直胴部の直径の0.5倍以上で、かつ、前記直胴部の直径以下の長さの結晶をさらに引き上げることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶の直胴部を、直径200mm以上とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−225408(P2011−225408A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99084(P2010−99084)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】