説明

シリコン結晶成長用ルツボ、シリコン結晶成長用ルツボ製造方法、及びシリコン結晶成長方法

【課題】シリコン結晶のドーパントによる抵抗調整精度を向上し、結晶歩留向上と原材料費コストダウンとを実現することができるシリコン結晶成長用ルツボとその製造方法、及びシリコン結晶成長方法を提供する。
【解決手段】シリコン結晶成長用ルツボCは、貯留するシリコン融液との接触面にシリコン含浸SiC層C1、溌液層C2、石英ガラス層C3、カーボン層C4から構成され、シリコン含浸SiC層C1の製造方法は、原料SiC粉末を、シリコン融液を貯留する空間を有する形状に成形するSiC粉末成形工程と、成形されたSiC粉末成形体を焼成し多孔質SiC層を形成する焼成工程と、多孔質SiC層に溶融したシリコンを含浸させ、シリコン含浸SiC層を形成するシリコン含浸工程とを有する。前記シリコン含浸工程は、シリコン結晶引き上げ前のシリコン原料を加熱溶融する時に行っても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン結晶成長用ルツボとその製造方法、及びシリコン結晶成長方法に係り、高純度で、ドーパント濃度の制御を格段に向上することができ、かつ、原料を追加する追いチャージや、リチャージ引き上げなど、長時間の引き上げに対応可能で、高品質なシリコン結晶の引き上げを安価に実現可能な引き上げ方法に用いて好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や太陽電池の製造に用いられるシリコン単結晶ウェーハは、主に直径の大口径化に有効なCZ法により製造されている。
【0003】
ここで、チョクラルスキー法(Czochralski Method、CZ法)によるシリコン単結晶の製造においては、石英ルツボ内に充填した多結晶シリコンを溶解し、その融液からシリコン単結晶を製造するので、石英ルツボの内表面は高温のシリコン融液に曝される。その結果、石英ルツボの内表面に含まれるボロン(B)やリン(P)など所謂ドーパント元素の混入が結晶の抵抗率に影響を与えたり、石英の精製時に精製しきれなかった重金属が溶融シリコンに溶け込み、結晶ライフタイムを低下させるなどの問題があった。また、石英ルツボに接する溶融シリコンに石英(SiO)から酸素が供給される。溶融シリコンに供給された酸素の一部は溶融シリコンの表面からSiOの形で不活性雰囲気ガスによって排気系に運ばれる。そのSiOが排気配管に積層すると、結晶成長終了後の炉の開放時に、SiOが空気中の酸素と反応し、SiOとなる際に燃焼したり、粉塵爆発を起こす可能性がある。また、SiOが排気ポンプ内部に付着し、排気ポンプの能力低下を引き起こしたり、排気ポンプの故障を生じさせたりする不具合が生じる。また、このSiOをフィルタで収集する場合、フィルタが目詰まりを起こし、炉内圧力を変動させる結果、SiOの排気速度を減じたり、炉内温度に影響を与える不具合があった。また、溶融シリコン中の酸素は、成長中のシリコン結晶内部に取り込まれ、欠陥核又は析出物となって電子デバイスの不具合が生じることがある。従って、特に酸素析出物を嫌うディスクリートデバイスには、FZ(Float Zone)結晶やEPIウェーハが使用されるが、CZで酸素が低減できれば、ディスクリートデバイスの大口径化や、安価なCZ結晶で代替できることとなり、好都合である。
【0004】
また、同一の石英ルツボにシリコン原料多結晶を追いチャージし、長尺結晶を引き上げたり、リチャージすることにより複数本のシリコン単結晶棒を連続的に製造するマルチプリング法等では石英ルツボの寿命の点から得られるシリコン単結晶棒の本数に限りがあった。また、前記時間制限のため、引上げ途中で欠陥が生じた場合でも、再溶融を断念し、再度の結晶化をさせることができない場合があり、歩留の低下に繋がった。
【0005】
また、例えば特許文献1に開示されているように、シリコン単結晶中のグローンイン欠陥(結晶欠陥)低減のために、シリコン単結晶製造中の育成速度を従来の1.0mm/minから0.8mm/min以下に低下させることによりシリコン単結晶の品質を向上させる方法が開示されている。しかし、シリコン単結晶の成長速度を低下させることにより製造時間が延び、従って、石英ルツボ内表面の劣化が進行してしまう。そのために有転位トラブルが起こり易く、結晶の歩留りが悪くなり、製造コストが高くなると言う問題が発生してきた。また、特許文献2に開示されているように、シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引上げる方法で、シリコン単結晶の成長軸方向の酸素濃度が最も低くなるように制御する方法が記載されている。このような結晶成長方法では、前記特許文献1に記載されているように、磁場強度が磁場中心で3000ガウスの電磁石とその電源を必要とし、設備費用が嵩むとともに設備場所の面積が必要であり、また、強磁場下での作業は困難が多く、鉄工具を周辺で扱うことができないという不具合があった。
【0006】
また、例えば特許文献3に開示されているように、結晶中の酸素濃度を制御することがウェーハの品質には必須であり、このため、石英ガラスルツボから供給されシリコン融液に固溶する酸素濃度を制御するためにシリコン融液に磁場を印加して引き上げをおこなうMCZ法( Magnetic field applied Czochralski Method)などがおこなわれてきた。これは、前述の例と同じく、設備コストの増加や、磁場発生のための電力が必要となり、設備設置面積が増加するといった不具合があった。
【0007】
MCZ法による石英ルツボ内表面の劣化抑制については、例えば、特許文献4に開示されているように、水平磁場を印加して石英ルツボ内のシリコン融液の対流を抑制することにより、融液が石英ルツボを溶解侵食し難くなり、ルツボの寿命が伸びることが示唆されている。さらに、カスプ型MCZ法については、例えば、特許文献5等に開示されているように、シリコンメルトと結晶成長界面の磁場強度を弱くすることが記載されている。
【0008】
これらのシリコン単結晶の引き上げにおいて、従来、シリコン融液を入れる石英ガラスルツボが用いられる。このシリカガラスルツボの内面部分は、シリコン融液が接触するので不純物の混入が厳密に制御される必要がある。また、石英ガラスルツボは、引き上げ初期におけるシリコン融液の液面振動を防止すること、および、シリコン融液と接触していたルツボ内表面に形成されるブラウンリングと称される部分などでクリストバライトというシリカの微小結晶が形成・剥離して、シリコン単結晶が多結晶化することを防止するために、実質的に気泡を含有しない石英ガラス層、つまり、目視して透明な内側ガラス層によって形成されており、外面部分は外部加熱をモールド内側に均一に伝達するため、多数の気泡を含む気泡含有層によって形成されている。
【0009】
上記シリカガラスルツボの製造方法として、従来、回転モールド法が知られている。この方法は回転モールドの内表面に堆積した石英粉をモールド空間側から加熱してガラス化することによってルツボを製造する方法であり、該加熱溶融の際にモールド側から石英粉堆積層内の空気を吸引して減圧し、ガラス層内の気泡を除去する真空引きを行うことによって、ルツボ内表面部分に実質的に気泡を含有しない透明ガラス層を形成している(特許文献6,7)。また、シリカガラスルツボの製造方法として、溶射法が知られている。この方法はモールド内表面に溶融石英を吹き付けてシリカガラスルツボを製造する方法である(特許文献8,9)。
【0010】
さらに、従来の炉内の残留ガス(空気、水分)に起因するあるいは石英ルツボから発生するか供給されるSiOは、炉内のカーボン部材と反応し、
SiO+C=SiC+CO または/共に、2SiO+C=SiC+CO
としてCOガスとなる。このCOガスによってシリコン融液及び融液を介してシリコン結晶中に炭素が導入された場合、シリコン結晶中に導入された不純物炭素又はSiCは、欠陥核となり、結晶引き上げ時、あるいは、インゴット・ウェーハにおける各処理、特に熱処理時、または、デバイス工程時における処理によって、結晶欠陥の生成、電子デバイスの中で漏れ電流の発生や、酸素析出を促進し、パターン異常を生じるといった不具合を生じる可能性がある。
【0011】
ここで、炉内における二酸化珪素(SiO)は石英ルツボとして存在し、炉内における炭素(C)はヒータ、断熱材、サセプタ等のカーボン部材である固体として存在し、珪素(Si)はシリコン融液または固体のシリコンとして存在する。これらが、雰囲気ガスとしての一酸化珪素(SiO)あるいは、雰囲気ガスとしての一酸化炭素(CO)として存在することで、炉内における連鎖反応により酸素・炭素汚染を引き起こす可能性がある。このような、酸素・炭素による汚染によって、結晶品質に影響が出る可能性が指摘されていた。
【0012】
さらに、特許文献10に課題として記載されるように、石英ガラスルツボを用いたシリコン結晶引き上げにおいて、 引き上げ炉の開放時に炉内部品に空気中の水分が吸着し、その影響でカーボン部品の消耗が激しくなり、炉の経時変化の影響や、結晶中へのカーボンの混入、溶融シリコンとカーボンが反応し、SiCが生成され、これが成長中の結晶に取込まれて有転移化するなどの問題となっていた。
【0013】
シリコン単結晶の引き上げに使用されている現在のシリカガラスルツボは、回転モールド法および溶射法の何れの製造方法でも、内面が透明ガラス層、外面が気泡含有層の二層構造のルツボである。この構造のルツボは、シリコン単結晶引き上げの際に、外面の気泡含有層によって外部加熱の熱が分散されるので、シリコン融液の局部加熱を避けることができ、シリコン融液に温度ムラが生じ難い。また、内面の透明ガラス層が実質的に無気泡であるため、気泡の剥離を生じることがなく、シリコン単結晶引き上げ時の有転位化率を低減することができる利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平6−56588号公報
【特許文献2】特開2004―196569公報
【特許文献3】特開平11−139893号公報
【特許文献4】特開平8−333191号公報
【特許文献5】特開平3−505442号公報
【特許文献6】特開平02−055285号公報
【特許文献7】特開平10−017391号公報
【特許文献8】特開平01−148718号公報
【特許文献9】特開平01−148782号公報
【特許文献10】特開2009−167073公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、シリコン結晶引き上げにおいて、これらの従来技術のように石英ガラスルツボにシリコン融液を貯留した場合、引き上げたシリコン結晶にルツボ起因の酸素が含有されることを回避できず、また、固溶した初期酸素濃度[Oi]は1×1016atoms/cm3未満の濃度とすることはできないため、これを解決し低酸素のシリコン結晶を供給可能としたいという要求があった。
【0016】
また、石英ガラスルツボとシリコン融液が接しており、このルツボ表面の状態(不純物濃度あるいはクリストバライト形成状態など)にシリコン単結晶の特性が依存するため、ルツボ表面状態を極めて高精度に維持する必要があり、また、この石英ガラスルツボは引き上げ終了後に冷却すると、固化したシリコン残部が附着し、シリコンと石英ガラスとの体積収縮率の違いから再利用することはできず、使い捨てであるため、極めて高コストになっている。
【0017】
さらに、引き上げ中にシリコン融点付近まで加熱されると石英ガラスは軟化し、ルツボ側壁が倒れる、あるいは、座屈するといった変形を起こす可能性があり、この場合シリコン結晶の引き上げは不可能となるため、原料、ルツボ等を全て廃棄せざるを得ない。これを防止するために、ルツボに気泡を含有させるといった手段が採用されるが、シリコン融液の温度ムラが発生する、気泡含有層によって熱伝達が妨げられるのでルツボにチャージしたシリコン材料を加熱して融液にするための昇温時間が長くかかる、熱伝達が低いため、ルツボ全体での各領域、例えばルツボ上部と底部との間で温度差が生じ易く、シリコン融液とルツボ界面全体での温度ムラ(差〉が大きくなる傾向があるといった問題点がある。
【0018】
この温度ムラ(差)によって、例えば、シリカガラス界面の一部に高温部ができると、その部分でSiOガスが発生し易くなり、そのSiOガスの上昇および気液界面での破裂によって、引き上げ単結晶に有転位化を発生させる要因となる。
また、このルツボ起因の酸素から発生するSiOまたはシリカのヒュームが引き上げ炉内部に附着してシリコン融液に落下した場合、これが原因で単結晶化が阻害される可能性があり、SiOまたはシリカの発生を低減したいという要求があった。
【0019】
本発明は、このような従来の石英ガラスルツボに起因するシリコン結晶引き上げで発生する問題を解決するものであり、シリコン結晶のドーパントによる抵抗調整精度を向上し、結晶歩留向上と原材料費コストダウンとを実現することができるシリコン結晶成長用ルツボとその製造方法、及びシリコン結晶成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボは、貯留するシリコン融液との接触面にシリコン含浸SiC層、又はシリコンを含浸する前段階の多孔質SiC層を有する。
【0021】
前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層の外側に、前記シリコン融液と溌液状態である溌液層を有してもよく、前記溌液層が、シリコンナイトライド(Si)の粉末からなるものであってもよい。
【0022】
また、前記溌液層の外側に、前記溌液層を前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層の外側形状に沿って支持する支持層を有してもよい。支持層は、例えば、カーボンからなるものとし、この場合、前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層を支持するサセプタを兼用することが可能である。
【0023】
更に、前記溌液層と前記支持層との間に保持層を有してもよく、前記保持層は石英ガラス、或いは鋳造容器形成材からなるものであってもよい。なお、鋳造容器形成材としては、例えば、酸化珪素(SiO)を主成分とし酸化アルミニウムを含有する粘土状の材料が挙げられる。これを乾燥し、焼成し用いてもよい。
【0024】
本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボ製造方法は、原料SiC粉末を、シリコン融液を貯留する空間を有する形状に成形するSiC粉末成形工程と、成形されたSiC粉末成形体を焼成し多孔質SiC層を形成する焼成工程とを有する。
前記多孔質SiC層に溶融したシリコンを含浸させ、シリコン含浸SiC層を形成するシリコン含浸工程を有してもよい。
【0025】
また、本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボ製造方法は、前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層の外表面にシリコン融液と溌液状態である溌液層を形成する溌液層形成工程を有してもよい。或いは、椀状の石英ガラス層内面に溌液層を形成する溌液層形成工程と、前記溌液層内側位置に、前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層を載置する内側層載置工程とを有してもよい。
【0026】
更に、本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボ製造方法は、前記溌液層形成工程の後に、炉内温度を200℃以上とし、炉内圧を10−4Torr以下とする第二の焼成工程を有してもよい。
【0027】
本発明に係る第一のシリコン結晶成長方法は、シリコン融液の貯留に、シリコン含浸SiC層を有するシリコン結晶成長用ルツボを用いてシリコン結晶の引き上げを行う。
【0028】
本発明に係る第二のシリコン結晶成長方法は、シリコン融液の貯留に、多孔質SiC層を有するシリコン結晶成長用ルツボを用い、前記シリコン結晶成長用ルツボ内に充填されたシリコン原料を加熱溶融し、前記多孔質SiC層に溶融したシリコンを含浸させ、シリコン含浸SiC層を形成するシリコン含浸工程を有する。
【0029】
本発明に係るシリコン結晶成長方法では、前記シリコン原料を加熱溶融する時に、炉内温度を200℃以上とし、炉内圧を10−4Torr以下とし、シリコン結晶成長用ルツボの溌液層の焼成を行なってもよい。
【0030】
また、本発明に係るシリコン結晶成長方法では、多結晶シリコン原料溶解工程、前記シリコン含浸工程、種結晶を前記シリコン含浸SiC層内部に貯留された前記シリコン融液に付ける着液工程、及び、前記シリコン含浸SiC層内部に貯留された前記シリコン融液から所定の径寸法で引き上げる結晶成長工程の各工程において、炉内雰囲気となる不活性ガスに対し0.01から3%のモノシラン及び/又はシランガスを含有するシランガスを供給してもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボとシリコン結晶成長方法によれば、シリコン結晶を引き上げる際には、シリコン含浸SiC層が、引き上げ原料であるシリコン融液を貯留した状態となる。この際、溶融シリコンは、シリコン含浸SiC層内を移動するが、ルツボ内表面であるSiC層が石英ガラスルツボの内表面ように溶損することはない。また、石英ガラス表面層に微量に混入している重金属などの不純物はシリコン融液内にすべて移動するかまたは溶け出すが、これに対し、SiC層に含まれる不純物は、SiC粒子に吸着されており、また、SiCがシリコンに溶け出すことはないから、同レベルの汚染が存在したとしても、シリコン含浸SiC層によって、石英ガラスルツボでは実現し得ない程度の低汚染状態を実現することが可能となる。すなわち、ルツボからの汚染がなく、ドーパントによる抵抗調整精度を向上させ、結晶歩留向上と原材料費コストダウンとが可能なシリコン結晶引き上げを実現することができる。
【0032】
また、シリコン融液が石英層と非接触であるため、低酸素濃度[Oi]結晶が得られ、得られた成長結晶はFZ法では不可能だった大口径(φ200mmからφ450mm)でかつCZ法では不可能だった高品質結晶となり、耐圧性の高いデバイスに使用できるものとなる。そして、当然のことながらΦ200mm以下のFZ結晶の代わりに安価なCZ結晶で置き換えることができる。なお、本発明のシリコン結晶成長用ルツボは、一方向凝固結晶成長においても応用できる。
【0033】
更に、本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボとシリコン結晶成長方法によれば、SiOの発生を防止でき、引き上げ炉内でのSiO付着が発生せずSiO付着物がシリコン融液中へ落下することがないため、多結晶化を防止でき結晶歩留の向上を計ることが可能となる。同時に、引き上げ炉の掃除、排気管系の掃除、フィルタの掃除、真空ポンプの保守などのメンテナンス作業における時間の短縮や、回数低減など作業の軽減を図ることが可能となる。更に引き上げ炉に設けられ引き上げ雰囲気を制御するための真空ポンプ手前のSiO除去用フィルタを設ける必要がないため、引き上げ炉内の圧力変動がない状態での引き上げを可能とし、炉内熱伝動を一定にし、結晶品質を安定させることができる。
また、SiO発生の低減を実現したことに伴って、
SiO+C→CO↑
といった反応によりSiOに起因するカーボンの消耗を防止することができるので、カーボン部品の消耗を低減し、炉内カーボン部品を長寿命化ができ、炉内部品代のコストダウンができるとともに、ヒータ抵抗の変動を防止可能とし、引上条件(プログラム制御)を安定させ、結晶の再現性を高くし直径精度の向上をはかり、外周研削ロスの低減を実現できる。
【0034】
シリコン含浸SiC層の外側に溌液層を有する場合、超溌液性を有する溌液層により、シリコン融液がいわばSiC以外とは接触しない状態を維持しつつ、シリコン融液を保持(貯留)することができる。これにより、溌液層の外側の保持層、例えば石英ガラス層へのシリコンの付着を防止し、保持層形成物質とシリコンとの膨張率の差異による破損を防止し、繰り返し使用することが可能となる。すなわち、従来の石英ルツボで発生していたようなルツボの変形が発生しないため、ルツボ再利用が容易となり、リチャージ、繰り返し使用といった従来できなかった引き上げ条件を選択することが可能となる。これにより、ルツボ使用コストを低減し、引き上げ前工程である原料溶融工程において石英ガラスルツボへの悪影響を低減するために一定以上の高さにできなかった原料溶解温度をより高温に設定することが可能となり、溶解時間を短縮して引き上げ炉の稼働率を向上し固定費コストダウンを図ることが可能となる。
【0035】
更に、ルツボが変形しないことから、長時間引上が可能となり、大量チャージによる長尺結晶の成長を容易とし、メルトバック回数の制限が無くなり、歩留を向上して原材料費コストダウンが可能となる。
【0036】
更にまた、本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボとその製造方法、及びシリコン結晶成長方法では、気泡を含有する石英を使用する必要がなく、石英のバブルが結晶成長界面に影響しないので、シリコン単結晶の崩れが生じず単結晶収率が向上し、メルトバック作業の低減可能となり、引き上げ炉の稼働率を向上し、消費電力を低減し、炉内に供給していたArガスの供給量を低減することが可能となり、人件費低減も可能となる。また、気泡を含有する石英を使用する必要がないことから、ルツボにおける熱伝導を向上して、熱効率を向上し、結晶成長制御をより一層容易におこなうことも可能となる。
【0037】
更にまた、本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボとその製造方法、及びシリコン結晶成長方法では、外部輻射による部分的な高温域が無く、しかもルツボ界面の温度が従来の石英ガラスルツボよりも低温均一であり、従って、シリコン単結晶引き上げ時にSiOガス発生に由来する成長結晶への酸素の導入を生じないことで、より高品質なシリコンインゴットを引き上げることができる。
【0038】
本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボは、シリコン含浸SiC層に浸透するシリコン融液を保持するための保持層を設けることが好ましいが、この保持層の材質に制限はなく、例えば、公知の石英ガラスとしてもよく、或いは、鋳造容器形成材としてもよい。鋳造容器形成材は、所望の形状の保持層を容易に安価で形成できる利点があるが、不純物を多く含むため、従来、単結晶引き上げ用のルツボには利用できなかった。しかしながら、本発明では、保持層に含まれる不純物はシリコン融液に溶け出すことはないため、その使用が可能となる。
【0039】
本発明に係るシリコン結晶成長方法では、前記シリコン原料を加熱溶融する前に、炉内温度を200℃以上とし、炉内圧を10−4Torr以下にすることにより、雰囲気内の水分や活性ガスが除去され、より一層確実に溌液状態を確保することが可能となる。また、炉内雰囲気となる不活性ガスに対し0.01から3%のモノシラン及び/又はシラン系ガスを含有するガスを供給することにより、雰囲気内の水分や活性ガスが更に確実に除去され、溌液状態を確保することが可能となる。
【0040】
一方、本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボをシリコン含浸SiC層とせず、シリコンを含浸する前段階の多孔質SiC層とすることができる。その場合、シリコン結晶引き上げ時に、その内部にシリコン原料を充填し、原料溶融とともに、多孔質SiC層に溶融シリコンを含浸させて、シリコン含浸SiC層を形成することができる。すなわち、シリコンを含浸させる工程は、一連の結晶引き上げ作業に含まることになる。
【0041】
本発明に係るシリコン結晶成長用ルツボ製造方法において、溌液層は、例えば、シリコンナイトライドを、椀状としたシリコン含浸SiC層又は多孔質SiC層の外表面にアルコールをバインダーとして噴きつけ、或いは、椀状とした石英ガラス体の内表面に塗布し、焼成することで形成することができる。そして、この溌液層の焼成工程(第二の焼成工程)においては、炉内温度を200℃以上とし、炉内圧を10−4Torr(1.33×10−2Pa)以下にすることで、雰囲気内の水分や活性ガスが除去され、より一層確実に溌液状態を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシリコン結晶成長方法に用いるルツボの側断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るシリコン結晶成長方法に用いるルツボの側壁部分の拡大断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るシリコン結晶成長方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態に係るシリコン結晶成長方法に用いるルツボの製造工程において形成される多孔質SiC層の側断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るシリコン結晶成長方法によるシリコン結晶引き上げを示す概略側断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るシリコン結晶成長方法に用いるルツボの側壁部分の拡大断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るシリコン結晶成長方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明の他の実施形態に係るシリコン結晶成長用ルツボの側壁部分の拡大断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るシリコン結晶成長用ルツボの側壁部分の拡大断面図である。
【図10】本発明のシリコン結晶成長方法によって行う結晶引き上げに好適な引き上げ炉を示す模式図である。
【図11】同引き上げ炉における保温筒の予備加熱機能の模式図である。
【図12】同引き上げ炉におけるガス供給路を示す模式図である。
【図13】同引き上げ炉による単結晶成長プロセス前工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
C シリコン結晶成長用ルツボ
C0 多孔質SiC層
C1 シリコン含浸SiC層
C2 溌液層
C3 石英ガラス層、鋳造容器形成材
C4 カーボン層
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。
本実施形態のシリコン結晶成長方法は、図5に示すように、シリコン結晶成長用ルツボC内のシリコン融液Yからシリコン単結晶インゴットIを引き上げる。
本発明のシリコン結晶成長用ルツボCを用いて加熱手段Hによって溶融したシリコン融液Yから、CZ(チョクラルスキー)法によってシリコン単結晶を引き上げる際には、シリコン結晶成長用ルツボCにおいて酸素の固溶がなく、従って、シリコン単結晶引き上げ時にSiOガスが発生せず、安定した温度条件で、かつ、湯面振動を生じさせることなく、しかも変形のおそれがないため長時間の引き上げをおこなうことが可能となる。この際、引き上げ炉内の雰囲気ガスGとしては、炉内の酸素原子の絶対量が極めて少ないため、モノシラン、ジシラン等のシランガスを流して、炉内雰囲気となる不活性ガスに対し0.01から3%のモノシランやシランガスを含有するシランガスを供給する。また、供給するシランガスは、図10の予熱装置4で加熱する。
【0045】
本実施形態のシリコン結晶成長用ルツボCは、図1、図2に示すように、引き上げ時にシリコン融液を貯留する上方に開口した椀状凹部を有する有底円筒状のものとされ、その全面に置いて内側から厚さ方向外側に向けて、シリコン含浸SiC層C1、溌液層C2、石英ガラス層C3、カーボン層C4を有する4層構造のものとされる。
【0046】
本実施形態のシリコン含浸SiC層C1は、図4に示す嵩密度1.60〜2.89g/cmの多孔質SiC層C0に、シリコンが含浸されたものとされ、嵩密度2.77〜3.13g/cm、厚さ寸法5〜15mm程度、とされている。
【0047】
本実施形態における溌液層C2は、シリコン融液と超溌液状態である平均粒径0.1〜2μm程度のSiの粉末からなり、上記シリコン含浸SiC層C1の外側全面に、厚さ0.1〜5mm程度の厚み寸法として設けられている。
この溌液層C2は、水平面上に載置したSiの粉末にシリコン融液を載置(滴下)した際に、接触角が150°以上とされる溌液条件となるように粒度・粉末形状などが調整されたものとされている。
【0048】
本実施形態の石英ガラス層C3において、その厚み寸法は5〜20mm程度とされるが、これはハンドリングに差し支えない強度を有する物であれば充分であり、この範囲に限定されるものではない。またこの石英ガラス層C3は、気泡を含有する必要はない。ただし、気泡を含有する石英ガラスを採用することは可能である。例えば、直径100μm以下の気泡が体積気泡含有率で0.05%以下となるシリカガラス(透明ガラス)を採用することは可能である。また、直径100μm以下の気泡を体積気泡含有率で0.1%以上含むシリカガラスを採用することも可能である。気泡含有シリカガラスの気泡量は従来の石英ガラスルツボの外面層と同様でよく、特に制限されない。また、気泡含有しないシリカガラスは肉眼で気泡が観察されないシリカガラス(透明無気泡ガラス)を採用することも可能である。
【0049】
本実施形態におけるカーボン層C4は、石英ガラス層C3の外側からこれらシリコン含浸SiC層C1、溌液層C2、石英ガラス層C3を支持することが可能であれば形状など特に限定されず、シリコン結晶引き上げ炉におけるサセプタと一体とすることができる。
また、カーボン層C4は、カーボン繊維を形成した保持体でもよい。
【0050】
本実施形態のシリコン結晶成長用ルツボは、図3に示すように、SiC粉末成形工程S01と、焼成工程S02と、シリコン含浸工程S03と、溌液層形成工程S04と、内側層載置工程S05とを有する製造方法で作ることができる。なお、これら製造工程に続く工程、すなわち、原料充填工程S06と、原料溶融工程S07と、着液工程S08と、結晶成長工程S09は、本実施形態のシリコン結晶成長方法における工程となる。
【0051】
図3に示すSiC粉末成形工程S01では、SiC粉末原料に、分散剤、結合剤、水などを添加して、鋳込成形法やCIP(Cold Isostatic Pless)などのプレス成形法でSiC粉末成形体が成形されるが、成形方法は特に限定されない。また、SiC粉末原料に焼成後10重量%以下のカーボンとなるカーボン源(例えばカーボンブラックやフェノール樹脂)を加えても良い。加えたカーボンはシリコン含浸時にシリコン融液と反応しSiC化するため、含浸後にはカーボンとしては残らない。カーボンを加える目的はSiC粒子の結合を高めるためであるが、シリコン含浸時にシリコン融液と発熱膨張反応を起こすため、クラックや破損に至る残留歪の原因ともなるため、多く加えることは好ましくない。
【0052】
焼成工程S02では、成形されたSiC粉末成形体を焼成し図4に示す多孔質SiC層C0とする。焼成条件は真空中または非酸化雰囲気中で焼成温度1500℃以上2300℃以下で行われ、嵩密度1.60〜2.89g/cmの多孔質体を得る。焼成温度が高いほどSiC粒子の再結晶化が進み、SiC粒子の結合を高める効果があるが、破損に至る残留歪の原因とも成り得るため好ましくない。この焼成工程S02を省き、SiC粉末成形工程S01からシリコン含浸工程S03に進めることも可能であるが、焼成工程S02を行うことは、SiC粒子の結合を高め、不純物量を減少させる効果がある。
【0053】
シリコン含浸工程S03では、多孔質SiC層C0に、真空中または非酸化雰囲気中、1450℃以上2200℃以下の温度で溶融したシリコンを含浸させ、嵩密度2.77〜3.13g/cmのシリコン含浸SiC層C1を形成する。1450℃以下ではシリコンの溶融が不十分のため含浸できず、また2200℃以上では溶融したシリコンの蒸発が増大するため好ましくない。
【0054】
石英ガラス層準備工程S40では、上述した石英ガラス層C3を準備し、また、図3に示す溌液条件設定工程S41として上記の溌液条件を設定するとともにこの溌液条件に合致したSiの粉末を図3に示すSiの粉末準備工程S42として準備する。
【0055】
溌液層形成工程S04では、石英ガラス層C3内側に0.1〜5mm程度の厚さにSiの粉末を載置して溌液層C2を形成可能とする。ここに、図3に示す内側層載置工程S05として、シリコン含浸SiC層C1を載置するとともに、このシリコン含浸SiC層C1、溌液層C2、石英ガラス層C3からなる内ルツボをカーボン層C4とされるサセプタに載置して、シリコン結晶引き上げに供されるシリコン結晶成長用ルツボCとする。
【0056】
原料充填工程S06では、ルツボC内にシリコン原料および所定濃度に設定されるドーパントなどを充填する。次いで、原料溶融工程S07では、シリコン融点以上の温度で加熱して、シリコン原料を加熱溶融する。
【0057】
着液工程S08では、種結晶をシリコン含浸SiC層C1内部に貯留されたシリコン融液Yに接触させ、続いて、結晶成長工程S09において、シリコン含浸SiC層C1内部に貯留されたシリコン融液Yから所定の径寸法でネック部、ショルダー部(拡径部)、直胴部、縮径部の順にシリコンインゴットを引き上げる。
【0058】
本実施形態のように、原料SiC粉末を前記シリコン含浸SiC層C1に即した形状に成形するSiC粉末成形工程S01と、成形されたSiC粉末成形体を焼成し多孔質SiC層C0とする焼成工程S02と、焼成された多孔質SiC層C0に溶融したシリコンを含浸しシリコン含浸SiC層C1とするシリコン含浸工程S03と、椀状の石英ガラス層C3内面に溌液層C2を形成する溌液層形成工程S04と、前記溌液層C2内側位置に、前記シリコン含浸SiC層C1を載置する内側層載置工程S05とにより、図2に示すような、シリコン含浸SiC層C1が内表面全体に設けられ、前記シリコン含浸SiC層C1の外側にSiの粉末からなりシリコン融液と超溌液状態である溌液層C2を有し、前記溌液層C2の外側に該溌液層C2を前記シリコン含浸SiC層C1外側形状に沿って支持する支持手段としての石英ガラス層C3を有するシリコン結晶成長用ルツボCを作ることができる。そして、このシリコン結晶成長用ルツボを使用し、原料充填工程S06と、原料溶融工程S07と、着液工程S08と、結晶成長工程S09を経て、低酸素でかつ所望の状態のシリコンインゴットを引き上げることができる。
【0059】
また、図2に示すシリコン結晶成長用ルツボC5を用いたシリコン結晶成長方法において、ルツボC5をカーボンからなるサセプタに載置し、Grown−in欠陥を無くすことが可能となる引き上げ速度で育成した結晶特性の良好なシリコン結晶を得ることができる。そして、このシリコン結晶からは、結晶径方向全域においてCOP欠陥、転位クラスタおよびOSF領域が排除されることとなり、格子間酸素濃度が4.5×1017atoms/cm以下で、ウェーハ面内における抵抗率のばらつきが5%以下であるウェーハを製造することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態によれば、極めて低酸素のシリコンインゴットを製造できるため、熱処理を受けても酸素ドナーが発生せず基板の抵抗率が変化しないウェーハを製造することができ、これ以外にも、ドーパント濃度等を従来の石英ガラスルツボとは比較にならない自由度で制御することが可能となる。従って、高抵抗率シリコン結晶成長が可能となる。
【0061】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態において、上述した第1実施形態の構成に対応する構成には同一の符号を付けてその説明を省略する。
【0062】
本実施形態のルツボCにおいては、シリコン含有SiC層C1に代えて、多孔質SiC層C0が最内層とされている。
【0063】
図6に示すように、多孔質SiC層C0が最内層とされたルツボを用いた本実施形態のシリコン結晶成長方法としては、図7に示すように、ルツボCの製造工程としてのシリコン含浸工程S03が、原料溶融工程S07と同時におこなわれる。これにより、シリコン結晶引き上げ時に、ルツボC内部にシリコン原料を充填し、充填した原料を加熱溶融するとともに、同時に、多孔質SiC層C0にこの溶融シリコンを含浸させてシリコン含浸工程S03とし、シリコン含浸SiC層C1を形成した状態で引き上げ工程をおこなうことができる。
【0064】
上記第1実施形態のシリコン結晶成長用ルツボCは、石英ガラス層C3を有することなく、支持手段として、カーボン層C4を溌液層C2の外側に位置させ、シリコン含浸SiC層C1、溌液層C2、及びカーボン層C4からなる構成としてもよい。同様に、第2実施形態のシリコン結晶成長用ルツボCも、多孔質SiC層C0、溌液層C2、及びカーボン層C4からなる構成としてもよい。これらの場合、カーボン層C4内面にSiの粉末を載置して、溌液層C2を形成することになる。図8及び図9に、石英ガラス層を有さない場合の構成を示す。
【0065】
次に、本発明のシリコン結晶成長方法によって行う結晶引き上げに好適な引き上げ炉の実施形態について説明する。
【0066】
本実施形態の引き上げ炉Sにおいて、図10に示すように、真空チャンバ1は水冷ジャケット構造となっており、炉内の加熱時の熱を遮蔽しているが、冷却水が冷却水結合配管2によって水冷ジャケット内に取り回され、冷却が行なわれている。雰囲気ガスとして、アルゴンガスやヘリュームガスなどの不活性ガスが使用されている。前記不活性ガスは、ガスフローメータ3を経由し、炉内に供給される。従来、不活性ガスは略常温で供給されていたが、本実施形態においては、昇温熱交換器4を経由し、ガスバルブ5で供給ガスの制御を経て炉内に供給される。
【0067】
主制御装置は単結晶引上げの全工程を管理しており、引上げ準備工程つまりチャンバ内壁が空気に暴露されている状況下では、冷却水に代わって、温水バルブ7を経由し、昇温熱交換器9で暖められた温水が水冷ジャケット内に供給される。温度計6で、当該温水の温度が監視されており、室温に比較し5℃以上の温度になるように温水を加熱している。炉が閉じられ、完全に空気や水分が置換された後、原料多結晶を溶解する工程に入ると、冷水バルブ8を開き、冷却水槽14からポンプ21によって冷却水が揚水され、チャンバに通水される。また、一般的に複数の炉の冷却用循環水を使用する場合、炉の稼動時に温水化した炉からの冷却排水の温度の高いものを再利用しても良い。
【0068】
炉からの真空排気は、真空排気弁10を経由し、真空ポンプ11によって行われる。真空排気時は、炉内残留ガス(空気や水分)を完全に排気するため、メイン真空ポンプで10のマイナス4乗Torr程度に減圧した後、拡散ポンプ、クライオポンプなどの高真空に排気できる真空ポンプを用いて炉の到達限界真空度に真空引きし、その後不活性ガスを供給して溶解時の圧力たとえば15Torr(2.0kPa)程度の減圧状態として溶解工程に移る。減圧状態を保ちながら結晶成長を行なう時は、真空排気弁10を圧力調整弁として使用し、必要な減圧状態となるように圧力調整を行なう。バルブ12は、置換ガス源13から置換ガス供給を制御する制御弁である。例えば、不活性ガスで置換を行なう前に、乾燥窒素ガスでガス置換を行い、炉内の水分や残留酸素との置換を行なうことができる。炉の冷却を行なう冷却水経路は、冷却水槽14から冷水バルブ8を経由し、温度計6で計測された冷却水が真空チャンバ1に供給され、冷却水結合配管2で上部のチャンバからメインチャンバそして下部チャンバへと供給され、再び冷却水槽14へと戻される。冷却水槽14の水温が上昇するとチラーなどの熱交換器によって冷却され、一定範囲の温度が保たれる。
【0069】
炉が大気開放されている炉の掃除や原料チャージの工程においては、冷水バルブ8を閉じ、温水バルブ7を開き、ポンプ22から昇温熱交換器9を経由して室温より高い温度の温水をチャンバへと流し、チャンバ内壁に結露が生じないようにする。
【0070】
図11は、本実施形態における保温筒の予備過熱機能の摸式図であり、保温リング15は、ヒータからの熱を遮蔽し、炉内を高温に保つ働きで使用されている。本実施形態では、炉内部品予備加熱電源16からの電力で、予備加熱ヒータ18を加熱し、吸着水分の置換を促進する。絶縁材17は、保温リング15が導電性の炭素ファイバである場合、電気を通じさせないためのもので、セラミックスなどの公知の絶縁材である。
【0071】
図12は、引き上げ炉Sにおけるガス供給経路図である。
不活性ガスとして、ヘリュームガスやアルゴンガスが用いられるが、ここではアルゴンガス使用の例を示す。アルゴンガスは、通常液体アルゴンを気化させながら使用するが、真空チャンバ1に供給するアルゴンガスは、アルゴンガスバルブ19から供給される。供給されたアルゴンガスの露点は、マイナス80℃レベルのものであり、水分は含まれないが、炉内部品は、炉の解放時に、大気中に放置されたことによって、ある程度の水分を吸着している、そこで、供給されたアルゴンガスを先ず昇温熱交換器4に通して加熱し、ガスバルブ5から真空チャンバ1に供給する。このままの状態であっても、従来法に比較すれば、吸着水分量の置換量は大きく改善されているが、さらにモノシランガスバルブ20介してモノシランガス(SiH)を0.01%から3%程度加え、炉内部品の予備加熱装置18で加熱し、100℃以上に過熱すれば、急激に水分を排気することができる。
【0072】
図13は、引き上げ炉Sによる単結晶成長プロセス前工程を示すフローチャートである。
炉の自動制御ユニットは、工程毎に環境温度を計測し、真空チャンバ1に水冷ジャケット内部に流す冷却水温度を環境温度以下にしないよう制御を行なう。つまり、冷却水温度が室温より低い場合、真空チャンバ1の内壁に結露が生じる可能性がでる。そこで、炉壁の自動制御ユニットは、室温より高めに冷却水の昇温制御を実施する(S1)。
【0073】
次に、炉を大気開放し、次の結晶成長に備え原材料を仕込む(図3に示す原料充填工程S06他)。結晶成長が完了している場合、先ず成長結晶を取り出す。その後、炉内掃除・原料チャージ作業に続く。ここで、結晶成長時に生成した粉体や堆積物を炉内から除去する。これらの作業時、及び原材料の組込み作業時、チャンバ内壁面は、大気中に暴露されることになり、チャンバ壁への水分吸着が生じる。このチャンバ壁への吸着水分は、炉の組立て(S2)を行なった後、真空引きを行なう時点(S3)で、所定の真空度まで素早く到達させる上で弊害となる。そこで、炉の大気開放時に、チャンバ炉壁面の昇温を行い、水分吸着の低減を図る必要がある。
【0074】
次に炉を組立て、炉を密閉し(S2)、真空粗引きを開始する(S3)。
更に前記チャンバ炉壁面の吸着水分を素早く取除くため、更に冷却水温を高める。また、炉内を減圧状態にした後、置換ガスを流し、また真空引きを行なう動作の繰り返しを行い、置換率を高める。
更に、高温の置換ガスを炉内に供給し、炉内部品表面の吸着水分をガス置換し、排気する。さらに、拡散ポンプ、クライオポンプなどの高真空に排気できる真空ポンプを用いて炉の到達限界真空度に真空引きし、目標設定真空度に素早く到達するように真空引きを行なう(S4)。
【0075】
ガス置換が進んだ段階で炉内部品予備加熱工程に入る(S5)。この工程では、例えば、炉内で多孔質の炉内保温材である保温筒の予備過熱を行なう。100℃から200℃程度に昇温し、また、不活性ガスの供給或いは昇温した不活性ガスの供給により、水分や、残留ガスの置換を行なう。
【0076】
残留ガスの置換が完了した時点で、不活性ガスの供給を停止、真空引きにより、到達真空度を確認する。到達真空度が0.013Pa(1×10−4Torr)以下になった場合、真空漏れが無いものとし、更に高真空を得るため、クライオポンプを作動させ、短時間に高真空状態にする(S6)。
【0077】
ここで、順調に真空工程が進んだ場合は、炉内部品の予備加熱を停止する(S7)。予備加熱装置は、多孔質の炉内保温材の昇温による吸着物の蒸発の促進を目的とするものであり、単結晶成長プロセスでは基本的に停止とされるが、場合によって、炉内の温度分布改善に流用することも可能である。
【0078】
一方、順調に真空工程が進まなかった場合は、真空シール保守作業を行なう(S9)。真空の保持状態が悪い所謂真空炉に漏れがある場合には、真空シール材料の交換や、Oリング溝、フランジ部の掃除、フランジの合わせ部分の締付けなど保守作業を行う。極微量の漏れがある場合において、不活性ガスに添加したモノシランガス(SiH)が空気や水分と反応し、炉外に排出されるため、結晶の歩留向上に効果がある。
【0079】
炉内部品の予備加熱の終了によって、単結晶成長プロセス前工程は終了することになる。そして、単結晶成長プロセス(S8)。に移行することになる。単結晶成長プロセスは、図3及び図7に示す原料溶融工程S07、着液工程S08、結晶成長工程S09を含むものであり、先ず、多結晶原料の溶解、種結晶の成長に続き、目的の結晶成長工程へと進む。そして、この単結晶成長プロセスが完了すると冷却工程を経て、炉の解体、結晶取出しを行い、最初の状態から単結晶成長プロセス前工程を繰り返す作業となる。
【0080】
この実施形態のように、常圧、減圧または真空雰囲気で結晶成長を行なう引き上げ炉で、短時間に真空度を上げるための真空排気装置と、炉内到達真空度維持できる真空シール材を有し、真空排気しながら炉内部品や原料結晶の水分吸着を低減する予備過熱装置を具備するものであれば、初期真空到達度を0.013Pa(1×10−4Torr)以上として、結晶引き上げ工程に移行することができる。従来のシリコン結晶成長は、10〜30Torr程度の減圧雰囲気で行われていたが、SiOガスの発生の抑止が可能となることから、減圧条件範囲が常圧近傍まで広げることができる。そして、真空レベルの向上と、短時間に高真空度に到達できること、また、吸着物質として水分を確実に除去することで、単結晶成長時の有転移化や、多結晶化を防止し、結晶歩留の向上を図ることができる。なお、真空漏れを低減するために、フランジの精度を向上させることはもちろん、真空シール材料にも、例えば、回転軸のシールには、磁性流体シールを使用することも有効であり、真空漏れの低減を図ることにより、水分吸着の低減を果たすことができる。
【0081】
この引き上げ炉Sは、炉の開放時にチャンバ内壁に結露や吸着を生じさせないために、炉の内壁を室温以上に保つ機構を具備するものとしてもよい。すなわち、通常、冷却水は室温より低くなることが多く、炉を構成するチャンバ内壁に結露が生じることがある。しかしチャンバが室温以上であれば、吸着は低減できる。
【0082】
また、炉チャンバの水冷ジャケット内部に温水を供給することで、炉の内壁を室温以上に保つことが可能である。具体的には温度制御系により、炉の解体中や準備工程で炉の内面が大気に曝されている場合において、チャンバの内壁に結露が生じないために温水を供給する。
【0083】
更に、炉を閉じ、真空引きを行なう時、水冷ジャケット内部の温度を更に上昇させ、真空引きを行なう手段を採用することもできる。真空引きと同時に、炉壁を大気への暴露中よりも昇温し、吸着水分の除去を行なう。
【0084】
更にまた、加熱した不活性置換ガスを炉内に流し、吸着水分を除去することで、ガスの通路の吸着水分を除去することができる。
【0085】
更にまた、炉内部品を予備加熱装置によって加熱し、吸着水分を取り除くことで、保温筒の予備過熱を行なうこととしてもよい。
【0086】
更にまた、不活性供給ガスの加熱制御と、水冷ジャケット内の温水温度制御と、炉内補助加熱装置と、主加熱源のヒータをそれぞれ真空度レベルに応じて制御することで、主加熱ヒータも含め、昇温し、吸着水分の除去を行なうこととしてもよい。
【0087】
更にまた、引き上げ炉に供給する不活性ガス供給時に、不活性ガスに0.01%から3%のモノシランガスやシラン系ガスを混合して炉内に供給することとしてもよい。微量のモノシランガスやシラン系ガスを用いた場合、下記の化学反応(式1)又は(式2)により、炉内部品やシリコン原料への吸着水分を他の物質に転換し、単結晶成長炉内雰囲気より水分を効果的に除去することができる。
SiH+2HO=SiO+4H (式1)
SiClH+2HO=SiO+HCl+3H (式2)
【0088】
また、単結晶引上げの開始前に炉内に残留する空気や、水分、炭化水素化合物を除去し、シリコンの溶解工程に至る以前にシリコンとの反応し易いこれらの物質を除去することで、単結晶の成長を妨げるシリコンの炭化物、酸化物などの異物の生成が無くなり、これによって結晶成長の歩留を改善できる効果が期待できる。更に、従来、炉内のカーボン部品は、水分がある場合、ハイドロカーボン化し形状劣化し、或いは、残留酸素によって炭酸ガス化し、寿命が短くなる不具合が有ったが、残留ガスや残留水分の除去により、長寿命化が実現できる効果が期待できる。更にまた、成長中の結晶中に取込まれる炭素量を低減できるため、その後のウエーハプロセスの熱処理時に生じる炭素起因の酸素析出を低減する効果が期待できる。更にまた、炉内部品が劣化しないため、従来プロセス条件の経時的変化を抑止することができ、品質の安定化を実現できる効果が期待できる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
【0090】
〔実施例1〕
SiC粉末原料に分散剤、結合剤、水を加えて撹拌し、鋳込用スラリーを作成した。このスラリーを内径φ630mmのルツボ形状の石膏型に流し込み、排泥鋳込成形法でシリコン含浸SiC層C1に即した形状に成形し、これを真空中、1800℃で焼成した。得られた焼成体(多孔質SiC層)の嵩密度は2.60g/cmであった。焼成体に真空中、1700℃で溶融したシリコンを含浸させ、シリコン含浸SiC層とした。得られたシリコン含浸SiC層の嵩密度は3.04g/cmであった。また、加圧分解法(ICP−AES)で不純物含有量を測定したところ、Fe:3 Al:10 Ca:5 Cu:<1 Ni:<1 Cr:<1 Na:<1 K:<1(単位:ppm)であった。続いて3mmのSiの粉末層を厚さ10mmの石英ガラスルツボ内に設け、その内部にシリコン含浸SiC層を設置し、シリコン結晶成長用ルツボを得た。
【0091】
このルツボを、シリコン結晶引き上げ容器として使用したところ、φ220mmで1×1017atms/cm以下のシリコンインゴットを引き上げることができた。これにより本発明は、従来はCZ法では実現できなかった低酸素濃度のシリコンの引き上げを可能とするものであることがわかる。
【0092】
更に、シリコン融液が溌液状態とされており、石英ガラスには直接付着せず、従来のような固化時の石英ガラスの破損の生じないこともあわせて確認された。更にまた、ルツボ内の残液が多い場合は、融液を吸い上げて除去できること、そして、少ない場合は、そのまま固化させるか、炭素繊維フェルトで拭き取ることで除去できることもあわせて確認された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、太陽電池基板や、半導体デバイス基板となるシリコンウェーハ用のシリコン単結晶引き上げあるいはシリコン多結晶の引き上げに用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留するシリコン融液との接触面にシリコン含浸SiC層を有することを特徴とするシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項2】
貯留するシリコン融液との接触面に多孔質SiC層を有することを特徴とするシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項3】
前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層の外側に、前記シリコン融液と溌液状態である溌液層を有する請求項1又は2に記載のシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項4】
前記溌液層が、シリコンナイトライド(Si)の粉末からなる請求項3に記載のシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項5】
前記溌液層の外側に、前記溌液層を前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層の外側形状に沿って支持する支持層を有する請求項3又は4に記載のシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項6】
前記溌液層と前記支持層との間に保持層を有する請求項5に記載のシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項7】
前記保持層は石英ガラスからなる請求項6に記載のシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項8】
前記保持層は鋳造容器形成材からなる請求項6に記載のシリコン結晶成長用ルツボ。
【請求項9】
原料SiC粉末を、シリコン融液を貯留する空間を有する形状に成形するSiC粉末成形工程と、
成形されたSiC粉末成形体を焼成し多孔質SiC層を形成する焼成工程と、
を有することを特徴とするシリコン結晶成長用ルツボ製造方法。
【請求項10】
前記多孔質SiC層に溶融したシリコンを含浸させ、シリコン含浸SiC層を形成するシリコン含浸工程を有する請求項9に記載のシリコン結晶成長用ルツボ製造方法。
【請求項11】
前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層の外表面にシリコン融液と溌液状態である溌液層を形成する溌液層形成工程を有する請求項9又は10に記載のシリコン結晶成長用ルツボ製造方法。
【請求項12】
椀状の石英ガラス層内面に溌液層を形成する溌液層形成工程と、
前記溌液層内側位置に、前記シリコン含浸SiC層又は前記多孔質SiC層を載置する内側層載置工程と、
を有する請求項9又は10に記載のシリコン結晶成長用ルツボ製造方法。
【請求項13】
前記溌液層形成工程の後に、炉内温度を200℃以上とし、炉内圧を10−4Torr以下とする第二の焼成工程を有する、請求項11又は12に記載のシリコン結晶成長用ルツボ製造方法。
【請求項14】
シリコン融液の貯留に、シリコン含浸SiC層を有するシリコン結晶成長用ルツボを用いてシリコン結晶の引き上げを行うことを特徴とするシリコン結晶成長方法。
【請求項15】
シリコン融液の貯留に、多孔質SiC層を有するシリコン結晶成長用ルツボを用い、
前記シリコン結晶成長用ルツボ内に充填されたシリコン原料を加熱溶融し、前記多孔質SiC層に溶融したシリコンを含浸させ、シリコン含浸SiC層を形成するシリコン含浸工程を有することを特徴とするシリコン結晶成長方法。
【請求項16】
前記シリコン原料を加熱溶融する時に、炉内温度を200℃以上とし、炉内圧を10−4Torr以下とし、前記シリコン結晶成長用ルツボの溌液層の焼成を行なう、請求項14又は15に記載のシリコン結晶成長方法。
【請求項17】
前記シリコン含浸工程、種結晶を前記シリコン含浸SiC層内部に貯留された前記シリコン融液に付ける着液工程、及び、前記シリコン含浸SiC層内部に貯留された前記シリコン融液から所定の径寸法で引き上げる結晶成長工程の各工程において、炉内雰囲気となる不活性ガスに対し0.01から3%のモノシラン及び/又はシランガスを含有するシランガスを供給する請求項14から16のいずれかに記載のシリコン結晶成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−184250(P2011−184250A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52419(P2010−52419)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(508040371)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【出願人】(391063732)大平洋ランダム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】